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輸液関連用語集

   
アニオンギャップ
  アミノ酸(輸液での必要量)
  アルカリ化剤
  安全係数
   
カロリー(輸液での必要量)
経口補液療法:ORT
  血液濾過 / 血液透析濾過
高K血症
  高カロリー輸液によるアシドーシス
  高カロリー輸液の適用と合併症
  膠質浸透圧
サードスペース
  酢酸イオン、乳酸イオンの働き
  酸−塩基平衡
自由水(freewater)
  浸透圧と尿量の関係
スターリングの仮説(2)
生食
   
体液の溶質平衡
  体蛋白異化抑制効果
  脱水時の輸液量
  脱水症と口渇の関係
  脱水症の判断
中カロリー輸液
低K(カリウム)血症
  電解質補正液 
糖質
微量元素とその欠乏症
乳酸アシドーシスの輸液療法
末梢静脈栄養法:PPN
輸液の安全範囲
  輸液フィルター

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微量元素とその欠乏症

1989年7月1日号  No.46

 微量元素は、かつてのビタミンと同様で、その欠乏症の発見から、更には薬理効果が求め
られ、新しい薬としても場が待たれています。

 現在、欠乏症で最も問題となっているものに高カロリー輸液に伴うものがあり、亜鉛、鉛
セレンなどほとんどの元素の欠乏症が報告されています。

高カロリー輸液で欠乏症がみられる理由は、

1,輸液製剤は直接静脈にはいることから、精度の割合が高く、大部分の微量元素は除去
されている。
2,輸液材料中には、微量元素をキレートし尿中に排泄させるアミノ酸(糖アミン複合体
やヒスチジンなど)が含まれている。
3,栄養改善により、元々不足していたところにさらに需要が高まること。
などがあげられています。

・亜鉛欠乏症:最も頻度が高く、長期の輸液では必発とされ、開始後0.5〜2ヶ月で出
現する。症状は、皮膚異常と腸炎症状が主。その他、成長の遅れ、味・臭覚の減退、うつ
状態など。

・クロム欠乏症:糖尿病が出現(ある種のクロム化合物は糖異常を是正する役割があるこ
とが知られている。

・銅欠乏症:長期の高カロリー輸液で血清銅やセルロプラスミンの低下がみられる。
      貧血、白血球減少、骨の異常の出現など。

・セレン欠乏症:心筋の異常による心不全や不整脈、心肥大など。

これらの欠乏症の治療や予防には、輸液剤に微量元素を添加する必要があります。

関連記事:こちらのほうもご覧下さい。↓

 セレン欠乏症微量元素欠乏症(Co,Cr,Se,Mn,Mo,シリコン)、味覚異常と薬剤

{参考文献} ファルマシア 1989.6

1999年追記:この当時まだ日本では市販品がありませんでした。現在はミネラリン注などがあります。


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銅欠乏症と貧血

2007年8月1日号 No.457

 高齢者では、原因不明の血球減少や鉄不応性の貧血を経験することがあります。加齢によるものであると安易に判断して放置するのではなく、栄養障害に起因する病態を鑑別する必要があります。

 長期にわたって経静脈・経腸栄養管理を行うと、微量元素欠乏症を来たすことがあります。微量元素に関連した貧血は鉄・銅・亜鉛などの欠乏による場合と鉛・カドミウム・ヒ素などの過剰による場合があります。

 銅欠乏症は栄養管理における貧血の原因の1つであり、しばしば見逃される可能性があります。

 銅欠乏症の主な症状は貧血および白血球減少です。乳幼児で骨病変を認めることがあります。
 貧血は低色素性正球性で、特に大球性や小球性貧血の報告もあります。網状赤血球の減少、血清鉄の低下を認めますが、鉄不応性です。白血球減少は好中球の減少が主体です。まれに血小板減少を伴うことがあります。骨髄では巨赤芽球様変化、赤芽球または骨髄球の空砲変性、成熟障害、環状鉄芽球などを認めます。乳幼児での骨病変はクル病に類似した病変を呈します。

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 <銅欠乏症の臨床症状>

・貧血・好中級減少・骨病変・くる病様変化あるいは壊血病様変化・血管障害・中枢神経障害および筋緊張低下・頭髪異常・その他(低体温、皮膚色素減少、易感染傾向、肝膵腫など)

<経腸栄養管理下における銅欠乏症>

 わが国では多種類の経腸栄養剤があり、医薬品に分類されるものと食品に分類されるものがあります。その銅含有量は、0.19〜200μg/100kcalで、製品により銅の含量が大きく異なります。

 食品に分類される経腸栄養剤は食品衛生法により限られた食品から調製する必要があり、微量元素の添加が制限されているため、十分な量の銅を含有しないものがあります。このため患者は原因不明の貧血や白血球減少症として放置される可能性があります。

 銅の含有量の少ない経腸栄養剤を開始して3ヶ月経過するとほぼ全例で血清銅値は正常値以下となり、血清銅値が基準以下であっても貧血や白血球減少症を認めない潜在的銅欠乏症に陥ります。銅の摂取量が少ない場合には、血清銅を維持するために肝臓から銅を放出していると考えられます。

 潜在的銅欠乏症の状態が長く続くと体内の貯蔵銅が枯渇し、最終的に貧血や白血球減少症などの異常が発症すると考えられています。

<TPN管理下における銅欠乏症>

 TPN管理下でも銅欠乏症は発症します。TPN施行患者で微量元素製剤を用いない場合には、早期から潜在的銅欠乏症にさらされていると考えられています。

 TPN施行から1ヶ月経過すると潜在的銅欠乏症に陥り、腹膜透析中のTPN管理症例では2週間で銅欠乏症を呈します。消化吸収障害を有する疾患・病態ではTPN導入時にすでに銅欠乏状態にあること考慮し微量元素製剤を早期から積極的に使用することが推奨されています。(ミネラリン注では1管に銅(Cu):5μmolが入っています。)

 今日では総合ビタミン剤配合のTPNキット製剤が数種類販売され使用されており、処方設計の必要がなく、操作も簡便で使用しやすいのですが、亜鉛以外の微量元素が添加されていないので安易に長期間使用すると、微量元素欠乏に陥る可能性があります。  TPN管理下で鉄に不反応性の貧血や白血球の減少、とくに好中球の減少が出現したときには、まず微量元素が使用されているかどうかを確認し、銅欠乏症を疑ったならば、血清銅値や血清セルロプラスミン値を測定します。

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 日本人摂取基準(2005年版)の推奨量(従来の栄養所要量)は、男性0.8mg/日、女性0.7mg/日です。

<医学トピックス> 銅欠乏症の予防

 栄養学的な原因による銅欠乏症の原因は、銅含有量の少ない経腸栄養剤の長期使用や微量元素製剤の添加されていない高カロリー輸液(TPN)の長期使用が最も一般的であると考えられています。長期に経腸栄養管理を行う必要がある場合には、微量元素の含有量を確認して経腸栄養剤を選択する必要があります。

 経腸栄養管理では銅を十分量を含有した経腸栄養剤の使用により銅欠乏症は予防可能です。しかし、栄養剤の一日量が少ないためによる銅摂取不足、消化管からの銅吸収障害、漏出も原因になり得ます。高齢者では食事量が少ないことに起因する場合もあります。  使用する栄養剤や総エネルギー量からの使用する銅の量を確認します。腸切除後や難治性下痢など銅欠乏をきたしやすい病態ではさらに注意を要します。一方、亜鉛の過剰摂取により銅の吸収率が低下し、銅欠乏症が起こりうることも考慮します。

 微量元素強化補助食品の使用、ココアを追加する場合には、銅の過剰にならないよう注意します。脱脂したピュアココア100g中には銅3.8mgを含有します。経腸栄養からの銅摂取量が1日0.18mgの場合、ココアを1日5g(銅として0.19mg)補充すると血清銅値を保つことができます。


{参考文献}薬局 2007.5


脱水時の輸液量

出典:薬事 1999.6


・体重から判断する場合

 脱水の程度を判断するのに平常時の体重から現在の体重を引けば簡単に算出できます。

 平常時の体重(60kg)に人が58kgになったとすれば2kg=2Lの脱水と計算できます。

 短期間に起きた体重減少は水分量の変化を示しており、臨床上最も信頼できます。しかし、患者が自己申告した平常時体重は違っていることが多いので注意する必要があります。

・Ht(ヘマトクリット)値から計算する場合

 ヘマトクリット値は循環血漿中の赤血球の割合を示す値ですから、正常時との変化量を比較することで水分変化を予測できます。

 正常時体重を60kgと仮定すると体総水分量は体重の60%、循環血漿は5%、細胞外液量は20%。

 体重×0.2×(1−Ht値:脱水前/Ht値:脱水後)=脱水量(L)

 計数0.2は細胞外液量への換算量を示しています。計算式の意味からすれば出血を伴う場合には全く使用できないことに注意。

 1例では、体重減少から求めた脱水量は約2Lであるのに対し、Ht値から求めた予測量は1.25Lでした。老人に対する負荷量として、この差は大きく、計算値をそのまま用いることは危険です。(安全係数を乗じた量を補充量とします。)

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脱水症の判断

出典:薬事 1999.6

高張性、等張性、低張性〜脱水の判断により対応が異なるので注意を要します。

血清Na値とクロル値が正常な場合、等張性の脱水症(混合型脱水症)と判断されます。
血清Na値が高ければ高張性
血清Na値が低ければ低張性

 通常、NaとClは同方向に変動しますが、酸塩基平衡に異常があると一致しないことに注意。
体液の喪失があれば、血清Na値は正常が、やや低値を示します。

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脱水症と口渇の関係

出典:薬事 1999.6

 血漿あるいは脳脊髄のNa濃度の上昇により口渇が起こり、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が刺激されます。血漿の正常浸透圧は約285mOsm/Lであり、血中のADHは0.2pg/mL程度となります。この時、尿浸透圧は腎濃縮能の1/2である約600mOsm/kgとなります。正常者ではこの浸透圧で口渇を訴えることはなく、三環系抗うつ剤や抗ヒスタミン剤、あるいは抗コリン剤の服用を確認すべきです。

 脱水症では血漿浸透圧が約294mOsm/L以上になったとき口渇を示し、このレベルは血漿浸透圧の2%程度の上昇を意味しており口渇の閾値と考えられます。このような状況ではADHが5pg/ml以上分泌されており、尿の浸透圧は1,000mOsm/kg(健常成人)となり腎臓での尿濃縮のほぼ限界となります。

 口渇もしくは浸透圧を調節するメカニズムの欠如した患者では、脱水時にADH分泌が反応しているにもかかわらず水分摂取をしないために(血中Na濃度は飲水量に依存するため)、本質的な低Na血症を起こすと考えられます。

 一方、これらのメカニズムが正常な場合、高血糖になっても水分摂取を心がけるためNa濃度が正常に保たれています。


生理食塩水(生食)

0.9%の食塩水
生食は血清Na濃度の10%増し〜生食のNa濃度=140+14/10=154mEq/L
生食1L中のNa量  1000ml×0.9/100=9g
1gのNaclは17mEqのNaを含む
生食の1L中のNa量は9g×17mEq/g=153mEq

 生食は血液(血清)のNa濃度に近づけて作ったもの。この濃度は140mEq/Lですが、血清中には他の電解質も入っているから、その分も加えて浸透圧を合わせるために、その10%だけ高い濃度になっています。(154mEq/L)。これが全ての輸液の濃度の基本となります。生食9gは153mEq/Lとはわずかに異なりますが、その誤差は概算から来る丸めによるもの。

等張食塩水   154mEq/L(mmol/L) 外科的Na補充液〜急性細胞外液喪失、ショックなど
1/2等張食塩水  77           内科的Na補充液〜安全域の高い輸液
1/3       51          Na補充・維持兼用   〃  、維持
1/4       38           水補充・維持兼用   〃  、 〃
1/8       19           新生児用

 生食 500ml  77mEq〜軽度と中等度の食塩制限の中間にあたる数字:1日あたりのNaの維持量としてあげられている数字と同じ。

 


2002年9月15日号 No.345

酸−塩基平衡

        {参考文献} 1999.4 p76

 生体が正常に働くためには、体液分画や細胞成分のpHが一定の範囲内に保たれる必要があります。正常な酸塩基平衡は動脈血中ではpH7.35〜7.45とされており、この値は種々の緩衝系により正常域に保たれています。

 生体ではエネルギー産生、蛋白代謝などにより毎日大量の酸が産生されておりCO2、水素イオン、有機・無機酸として存在します。

 塩基は代謝によってほとんど産生されることはなく、酸−塩基平衡の恒常性は、もっぱら酸の除去によって保たれています。

 ヘモグロビンや蛋白、リン酸緩衝系は初期の段階で不揮発酸(肺で代償されない酸)の緩衝に利用されるが、血漿のpHを正常に保つのは、主に重炭酸−炭酸緩衝系に頼っています。


<重炭酸−炭酸緩衝系>

 重炭酸−炭酸緩衝系ではpHは重炭酸と炭酸の濃度比により決定され、Henderson-Hasselbalch式で表されます。通常この比が一定に保たれることで生体のpHは一定に保たれています。

  pH=pK炭酸+log(HCO3−/H2CO3)
 
 生体内でCO2は1日に15000mM生成し、この大量の酸はヘモグロビンの働きによって血漿pHに影響することなく肺まで運ばれ除去されます。この量は生理的な状態でアルカリ産生による代謝率の増加では飽和できないほど大きい。

 代謝因子によるアルカリ化は、腎糸球体濾過物から重炭酸イオンを再吸収し、腎尿細管で新しいイオンを産生する事により行われます。

 NaHCO3はH+とHCO3−に分離し、水素イオンは尿中に分泌され、重炭酸は血中に移る。腎機能が正常であればこの過程は飽和されることはありません。

 酸塩基平衡の崩れはCO2あるいはHCO3−濃度変化として始まります。CO2が最初の原因となる場合を呼吸性と呼び、重炭酸が原因となる場合は代謝性と呼ばれます。また、血漿pHが7.35以下をアシドーシス、7.45以上をアルカローシスと呼びます。


 生体は、循環血中のpH変化が延髄の呼吸中枢で感知されると、ただちに肺の呼吸数を増加させ、CO2を追い出しにかかります。しかし、患者の肺機能により影響され、これらの機構は重炭酸濃度のわずかな変化にしか対応できません。そのため。腎での重炭酸再吸収によりpHを上昇させるように調節されますが、二酸化炭素を代償するのに数時間から数日を要します。

 このようにpHを調節するのは、前述のHenderson Hasselbalch式からCO2とHCO3−の分子間の比であり、それらの絶対量ではありません。

 生体はCO2とHCO3−濃度を正常に保つことよりもpHを正常に保つことを優先します。そのため本来の問題を診断し、それを正す以外、それぞれの値を正常化させるどんな試みも行うべきではありません。(pH7.6以上または7.1以下で、生命の危険がある場合を除く)

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陰イオン

 輸液中に含まれる陰イオンの組成は、血中の陰イオン組成の変化と同様に軽視される傾向が強い。この原因は血液中のクロルイオンの変化が生体反応に敏感でないことや、重炭酸イオンの濃度が容易に測定できないから打と思われます。しかし、これら陰イオンのバランスは生体の酸塩基性平衡に深く関わっており製剤上も大きな問題となっています。


mEq
ミリイクイバレント

電解質の量(mg)/電解質の原子量×原子価=mEq

mEq/L=mg%×10×原子価/原子量

mEq=mM/L×電荷数

mEq=重量/分子量×電荷数


一般にはmEq/L=mg/dl×10×原子荷/原子量として求めます。

生食(0.9%)のmEq/Lは
   900mg/dl×10×23/58.5×1/23=900mg/dl×10×1/58.5
   =153.8mEq/L




高K血症

高カリウム血症とは、血清K濃度が5.0mEq/L異常の状態をいい、K濃度の上昇に伴い静止膜電位が上昇し、10mEq/Lを越えると心停止に至るような危険な状態となります。特徴的な臨床上に乏しいため、偶然はケンされることが多いのですが、書状に伴う場合の3大症状として、神経・筋症状(脱力感、筋麻痺、知覚異常)、消化器症状(悪心、嘔吐、腹痛、下痢)、心症状(心音微弱、心電図変化、不整脈、心房細動、心停止)があります。特に心症状は血清K濃度 8mEq/L以上で好発し、最も重要な臨床症状と言えます。

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 高K血症とか低K血症というのは単に血清K濃度をあらわしているに過ぎず全体のK過剰や欠乏と必ずしも同義語ではありません。また血清K濃度常に体全体のK量を反映しているとも限りません。例えば尿毒症アシドーシスでは高K血症を示すが、全K量が増加していることはありません。

 アシドーシスでは代謝性・呼吸性にかかわらず血清K濃度は上昇の傾向を示しますが、前述のように糖尿病アシドーシスや重症の下痢ではむしろK+の欠乏をきたすことが多いのですが、しかし次の場合には高K血症がみられます。

 挫滅症候群(圧挫症候群)で組織の損傷のあるときは細胞内のK+を遊出させて高K血症が現れますが、この場合はむしろ急性腎不全によることが多い。

 急性呼吸性アシドーシスや重傷な熱傷では高K血症を伴い、アジソン病でも高K血症示すが心電図状の変化はほとんどありません。

 保存血を大量に輸血すると高K血症を起こすことがあり、腎機能不全患者に過剰のKを経口的あるいは非経口的に与薬すると、高K血症が現れることが少なくありません。

 細胞内K濃度の増加は臨床症状を起こさないし、生体のによって有害ではないといわれています。

 細胞外K濃度の増加(高K血症:K5.5mEq/L以上)したときの臨床症状
 〜悪心、嘔吐、四肢の知覚異常、弛緩性麻痺(四肢、躯幹、顔面、呼吸筋)、不整脈、心室細動

高K血症を来す疾患
 腎:急性腎不全、慢性腎不全
 内分泌:副腎皮質不全(アジソン病、原発性低アルドステロン症、下垂体性汎内分泌障害(シーハン病、シモンド病)、高K血症性四肢麻痺、甲状腺中毒症
 代謝:肺換気不全、糖尿病性アシドーシス
 医原性:抗アルドステロン剤、保存血、不適合輸血、サクシン、高張マニトール
 その他:外傷、熱傷、高熱、脱水、Kの過剰摂取、慢性消耗性疾患(胃癌、飢餓)等

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 Kイオンは、細胞外液の浸透圧物質としての影響は小さいのですが、心機能に大きな影響を与えます。したがって、1時間ごとの投与量(mL/hr)で管理する場合(集中治療部など)、1号から2号に変更する際に1日量が変化することからその都度計算しなおす必要があります。一方、1バッグ単位で与薬する患者では、総投与量(mEq/day)による管理が実施しやすい。


浸透圧と尿量の関係

出典:薬事 1999.6

 細胞外液の浸透圧が低い場合、正常な腎臓は希釈尿を大量に排泄します。この反応が現れないときはバゾプレシンの作用により自由水の排泄がうまくできないことを示しています。

 バゾプレシンは血行動態からの生理的刺激の場合や、低Na血症で体液の浸透圧が正常な場合などの不適切な分泌に由来します。一般には、尿最大希釈能(50mOsm/kg)と排泄すべき溶質量により決まります。例えば、600mOsm(普通食からの排泄量)の溶質を排泄するための最大尿量は12L(600mOsm/50mOsm/kg=12kg)となります。

 低蛋白食や高度Na制限時には排泄溶質量が100mOsm以下となっていることがあり、理論上の最大尿量は2L(100mOsm/50mOsm/kg=2kg)となってしまいます。このような状態でNaや細胞外液の喪失があればさらに自由水の排泄は障害され浮腫を助長します。


アルカリ化剤

出典:医薬ジャーナル 2000.7


 近年、アルカリ化剤の使用は、再検討され炭酸水素Na(重曹:メイロン注)では、期待されたほどの細胞内pHの改善は得られず、むしろ細胞内pHを低下させる場合があることが明らかにされています。

 炭酸水素Naの持つ問題点を改善するため、新たなアルカリ化剤が提唱されていますが、まだいずれも炭酸水素Naに変わるまでには至っておらず、今後の研究と開発が望まれています。

<乳酸、酢酸>

 乳酸は、乳酸リンゲルとして古くからなじみの深いアルカリ化剤です。血漿中で最も大きな緩衝作用を持っているのは炭酸−重炭酸緩衝系ですが、リンゲル液に重炭酸イオンを入れるとカルシウムと反応して炭酸塩の沈殿を生じるため、添加できません。このため、生体で代謝されて等モルの炭酸水素Naを生成する乳酸Naが添加されました。

 現在、輸液に含まれる乳酸はL−体とD−体のラセミ体です。L-lactateは肝臓・腎臓で代謝され、ピルビン酸に変換されて、オキザロ酢酸あるいはアセチルCo−Aを経てTCA(トリカルボン酸)回路に入り酸化分解されて、等モルの重炭酸を生じます。D-lactateは代謝経路が不明で、ラセマーゼによって、L-lactateに変換されて代謝されると推定されています。その代謝速度はL-lactateの1/4と言われ、lactateが血中に蓄積する原因の1つになります。

 酢酸(asetate)は、アセチルCo−Aを経由してTCA回路に入り酸化され、等モルの重炭酸を生じます。asetateの場合は、その代謝に糖が必要です。asetateには光学異性体がなく、速やかに骨格筋でも代謝される利点があります。従って、肝機能低下時や肝血流低下時には乳酸よりも酢酸の法が有利ではないかと期待されています。動物(イヌ)の出血性ショックモデルで、酢酸はasetateはショックの場合でも代謝され、血中lactate上昇を起こしにくいことが示されています。

<乳酸アシドーシスの輸液療法>

DCA

 アルカリ化剤でpHの補正をすることは乳酸アシドーシスの治療の本質ではなく、乳酸アシドーシスの原因の治療が第一です。

 乳酸アシドーシスでの炭酸水素Naの使用に関しては、低酸素症に伴う乳酸アシドーシスでは効果は否定的で、むしろ状態を悪化させると報告されており、安易な使用は避けるべきです。

 乳酸のクリアランスをあげるDCA(dichloroasetate)は、今後注目される薬剤です。

 乳酸アシドーシスには、低酸素症が原因の場合と、炭水化物の代謝異常(糖尿病、中毒、肝不全、糖原病)の場合があります、

 酸素が十分に供給されない状況では、必要なATP産生は嫌気的解糖によることになります。解糖経路の進行に必要なNAD+の再生は、酸素が十分に供給されるときはミトコンドリアで行われていますが、酸素の供給が十分でない場合は、上記の反応に依存することになり、乳酸産生が増加します。

ピルビン酸+NADH+H
   ↓↑
乳酸+NAD

 乳酸のクリアランスは、肝臓で50〜60%、腎皮質で30%と言われ、乳酸はピルビン酸からアセチルCo−Aあるいはオキザロ酢酸となってTCA回路にはいるか、糖新生に利用されます。いずれにしろ、これらの反応には十分な酸素の供給が必要で、肝臓や腎臓が低灌流、低酸素の状態では乳酸のクリアランスは低下しています。

 乳酸アシドーシスでは、pHの低下に加えて乳酸自身が細胞機能に障害を及ぼしているのではないかという説もあります。このため組織の低灌流に対しての輸液は、乳酸の代謝が抑制される病態下では酢酸リンゲル液の方が代謝の面から有利ではないかと思われます。

 アルカリ化剤でpHの補正をすることは、乳酸アシドーシスの治療の本質ではなく、乳酸アシドーシスの原因(低灌流、低酸素血症、耐糖能異常など)の治療を行うべきです。

 乳酸アシドーシスでの炭酸水素Naの使用は、低酸素症に伴う乳酸アシドーシス(低灌流、低酸素症)では効果は否定的で、むしろ状態を悪化させると報告されています。

 動物実験では、低酸素による乳酸アシドーシスに炭酸水素Naを用いても、pHは全く改善せず、血中の乳酸はむしろ増加したとの報告があります。さらに炭酸水素Naを使用した群では、何も使用しなかった群に比べ、心拍出量も低下しました。一般的に炭酸水素Naの使用は、pHが7.1になるような非常に重篤な状況の場合のみ、勧められているようです。

 乳酸のクリアランスを上げる薬として、DCAがあります。

 ピルビン酸→アセチルCo−Aの反応を触媒する酵素pyruvate dehydrogenase(PHD)はPDHキナーゼで不活化されます。DCAはPDHキナーゼを阻害することでPDHを活性化し、ピルビン酸の消費を増やして乳酸のクリアランスを上げます。

 動物実験では、糖尿病、エンドトキシン、sepsis、肝切除、中毒、肝炎、低酸素症に伴うアシドーシスに対し、DCAは乳酸を減少させ、細胞内pHを改善したと報告されています。

 一方、末期の肝硬変ではPDH活性が低下しており、肝移植を受ける患者にDCAを術前に静注すると、移植の無肝期から再灌流時での乳酸上昇が抑えられたと報告されています。

 ヒトへの用量として、30〜100mg/kgと報告されています。動物実験でも、DCAは乳酸アシドーシスで心拍出量を増やしたとの報告があります。しかしDCAは、乳酸アシドーシスの患者に使用した多施設治験の結果では、統計的には有意に乳酸を減少させ動脈血pHを上昇させるが、患者の循環動態や予後を改善させなかったという報告もあり、生存率を上げるかどうかは今後の検討が待たれます。

 ショック時の蘇生には強心剤だけではなく、やはりある程度の前負荷を保つ輸液が必要であり、晶質液製剤に比較した膠質性製剤の優位性が示されています。

 膠質性剤の中では、ハイドロキシエチルスターチ製剤(HES)が、ショック時の循環動態や、組織血流の指標となる胃粘膜のpHiの改善では、アルブミンより優れているとの報告があります。

 HESは、動物実験ではマクロファージからのIL−6の放出を抑制して炎症反応を抑制する作用もあるとの報告もあります。また、毛細血管を内側からシーリングすることで、アルブミンの血管外へのリークを防いで循環血液量を維持する、血液の粘度を低下させて微小循環を改善するなどの利点も考えられています。

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酢酸イオン、乳酸イオンの働き

出典:薬事 1999.9

 重炭酸イオン(HCO3-)の働きは、生体ではアルカリ化剤として働きます。しかし、糖質を配合したTPN輸液は、高濃度のブドウ糖やアミノ酸を安定化するためにpH4〜5に調整されています。そのためNaHCO3として注射薬に配合しても輸液バッグ中でCO2が発生し力価が保てません。したがって、代謝されてHCO3-を産生する乳酸Naが従来から汎用されてきました。また、最近では体内で速やかに代謝される酢酸イオンを添加した製剤が開発されてきています。ただし、治療上重要な転帰に関して、臨床上酢酸が優位である問い報告は見当たりません。したがって、現段階では乳酸イオンと酢酸イオンは同等のアルカリ化剤として評価できると思われます。

 これらアルカリ化剤は、通常、酢酸Na、酢酸K、乳酸Na、乳酸Kとして添加されています。

 TCNサイクルにより生じた重炭酸イオンは、メイロンなど外部から与薬された重炭酸イオンと同様の働きを示し、水と二酸化炭素に代謝されることでH+を除去します。したがって、呼吸機能(時に喚気障害)に問題がない患者ではアルカリ化剤として使用できます。

 <乳酸Naと乳酸、酢酸Naと酢酸の関係を理解する。>

 乳酸Naおよび酢酸Naの代謝によって生じる重炭酸Naは血中でNaイオンとHCO3-に解離します。HCO3-はプロトンを受け取ることでH2OとCO2に変換されアルカリ化作用を示します。しかし酢酸や乳酸はTCAサイクルによりH20とCO2に変換されるため、ニュートラルな働をします。

 輸液剤は蒸気滅菌後のpH変化を安定化するためにpH調整酸として酢酸などの有機弱酸を添加していますし、また、酢酸塩のアミノ酸を添加している製剤もあり、それら由来の有機酸は、酢酸Na、酢酸Kあるいは乳酸Na由来のAce-あるいは乳酸由来のLac-と区別せず添付文書に記載されています。したがって、添付文書に記載されたアルカリ化剤の中で、実際にアルカリ化剤として働く有効アルカリ化剤の含有量を計算する必要があると思われます。

 添付文書に表示されているpHは解離した水素イオン濃度の実測値であり、輸液に含まれているプロトン濃度を反映しているのではありません。輸液剤に含まれる総プロトン量は、輸液製剤の潜在的な酸負荷量を反映しており(これ以外の要因を含むが)、滴定酸度として測定できます。

 滴定酸度の測定は輸液1LをpH7.4まで滴定するのに必要なアルカリ消費量でありmEq/Lとして表されます。滴定酸度の高さは輸液剤が潜在的に含有するプロトン量を示し、pHはそれらのプロトン内で解離している量を示しているに過ぎなません。したがって、滴定酸度には生体に対してニュートラルである有機酸量も含まれるため、その輸液の絶対的な酸負荷量を示しません。

 滴定酸度の高さがアシドーシスの原因であることを示唆する報告もありますが、滴定酸度は前述のごとく有機酸の影響を受けることから、むしろpH調整目的で投与された無機酸(HCL)の影響が大きいものと考えられます。ただし、滴定酸度の高さが静脈炎の原因や配合変化の原因として最近注目されている。滴定酸度の測定は簡単であることから混注後の製剤について、実際に調べてみるとよいでしょう。

 一方、滴定酸度から既知の有機酸量を減じれば、輸液に含まれる未知のプロトン含有物質を推定できる。この方法で推定される未知の酸は、おそらく塩酸などの無機酸と考えられます。また、塩酸の添加量はクロルイオン濃度から逆算することで予測できます。


体液の溶質平衡

出典:治療 1999.4

 生体は正常な浸透圧環境下でのみ機能を発揮することができるので、各分画の構成要素の比率を保つ前に浸透圧を保つことを優先します。つまりいずれかの分画の電解質濃度が変化すれば浸透圧平衡を再構成するために細胞膜を通して水の移動が最初に起こります。

 例えば血中の尿素が増えれば腎臓は排泄を促進し浸透圧濃度を280〜310mOsmに保つように働きます。また、血漿中のグルコース濃度が上昇すれば(糖の代謝異常など)、循環血漿の浸透圧のみが組織間液、細胞内液より高くなり、その結果、各分画の相対的浸透圧平衡を再構築するために各分画から水が循環血漿に移行します。

 しかし浸透圧平衡が保たれると、循環血漿中の水分過剰を招くので、通常余分な水分は腎臓から排泄されます。その結果、最終的には各分画の水分量は一様に減少することで、新たな相対的浸透圧平衡が保たれます。これを繰り返すことで体総水分量は減少します。糖尿病性高浸透圧性脱水もこの原理に基づいています。


電解質補正液

 1〜4号液は、細胞外液類似液など様々な組成の電解質輸液がありますが、これらも決して万能とはいえません。これらの製剤には、各電解質の濃度を、パーセントで示したものとモル濃度で示したものがありますが、1mL=1mEqであるモル表示の製剤が計算上使いやすいと思われます。また10%塩化Na液のように汎用される補正液は、モル濃度が電解質濃度にすぐ変換できるように、Na+=17.1mEq/10mLであることを覚えておくと便利です。

 一般に、高濃度の電解質補正液は、単独で使用すると血漿電解質組成を急速に変化させる危険性があり、塩化K液の静注による心臓停止作用は有名です。

 電解質補正液はメイロン(重曹液)やカルシウム製剤を除き、他の輸液に添加して点滴することが原則です。また、Ca、Mg、重炭酸イオンなどの電解質補正液は、pHにより沈殿を形成しやすく配合変化に注意する必要があります。


輸液の安全範囲

 水分の出納については、尿排泄量、不感蒸泄量、代謝水、経口・非経口摂取水分量等によって決定されます。また水中毒を起こさないためには、水分のバランスのみでなく、電解質、特にNaの用量が重要な因子となります。

1)等張性脱水症

 臨床上の脱水症のほとんどが等張性で、電解質の浸透圧は安全限界から見て100〜200mOsm/Lの輸液が適していまする。しかし手術侵襲、外傷、麻酔等により抗利尿ホルモン分泌の亢進、新生児、乳幼児、老人等の尿濃縮力の未熟あるいは低下等を考慮に入れて輸液する必要があります。

 電解質を全く含まないfree waterのみの糖液の過量適用は水中毒を起こしやすく、また自由水free waterを含まない生食のみの過量は体液が高張性になりやすく、浮腫を起こしやすくなります。

 いずれも希釈性アシドーシスを発生せしめることがあります。
5%ブドウ糖液と生食を1:1の割合に混合すると、電解質浸透圧は150mOsm/L、1:2の割合に混合すると100mOsm/Lとなり、安全域は広くなります。

2)高張性脱水症

 電解質の欠乏が無く水分のみの場合は、水分の欠乏が進むにつれて輸液の必要量は増加します。
水分1Lの欠乏で輸液の浸透圧を50mOsm/Lとすると、2〜9Lの許容限界を示し、200mOsm/Lを越える輸液剤は不適当であるとされています。

 純粋の欠乏症であっても、電解質を全く含まない輸液は適当ではありません。例えば5%ブドウ糖液3.5L/日の投与で容易に水中毒を発生せしめるといわれています。ただし急性腎不全で無尿の場合は電解質を含まない輸液を用います。

3)低張性脱水症

 食塩欠乏性脱水症の場合は輸液の食塩濃度が上昇するにつれて、投与量の安全限界は狭くなります。仮にNa欠乏量が400mEqとすると輸液剤の浸透圧210mOsm/Lがもっとも安全域が広くなります。ただしこれは体液の24時間バランスを考慮したものであり、出血、ショック、火傷等細胞外液のみの減少の場合には等張液の急速投与が必要です。

4)Kの補給

 腎障害が著しく障害されない限り、細胞の異化とともにKは細胞外に出て尿中へ排泄されます。
またNaの過剰はKの排泄を助長し、副腎皮質ステロイド、利尿剤等はKの排泄を促進します。

 脱水症のある場合は、一過性に腎機能が低下していることが多いので、Kを含まない開始液で水分・電解質の欠乏を一応是正し、尿量が500ml/日あるいは20ml/時以上になってからKを補給します。

 Kのバランスは異常喪失のない限り40〜50mEq/日の補給で維持できます。輸液のK濃度の補正には、1モルKCL液(1mEq/ml)が便利です。


糖質

*グルコース

 過剰に与薬されたグルコースは脂質及びグリコーゲンに変換され貯蔵されます。

*フルクトース

 細胞内取り込みの際にインスリンを必要としません。
過剰なフルクトースは乳酸アシドーシスの原因となります。ただし通常の与薬速度ではフルクトース由来の乳酸蓄積によるアシドーシスは起こりません。

*キシリトール

 細胞内取り込みに際しフルクトース同様にインスリンを必要とせず耐糖能異常時に汎用されてきました。しかし、細胞内では他の糖類同様にインスリンを必要としますし、その生体利用率もグルコースの1/2程度といわれています。さらに腎排泄率が高く与薬量の20〜30%は利用されないまま排泄されます。したがって、与薬速度が速ければ排泄量も増加し、単独製剤として栄養補給の目的に利用されることはほとんどありません。

*マルトース

 アクチットなどの維持輸液には利用されています。高血糖を起こしにくいことから耐糖能異常の患者に比較的安易に利用されがちです。しかし、マルトースは腎臓の尿細管にあるマルターゼによりグルコースに変換された後利用されるため、過剰与薬時には高血糖を起こし得ます。

 また、高血糖が見られない場合でも、グルコースのように日常検査でもモニターされておらず、過剰量のマルトースによる浸透圧利尿を起こすこともあります。

 腎排泄の閾値が低いことからマルトースが利用されずに尿中に排泄され、十分な栄養を供給できない場合もあります。

出典:薬事 1999.9


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