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高カロリー輸液の適応と合併症

1990年9月15日号 No.72

   高カロリー輸液は、多くのリスクを伴う治療法であり、これを選択するにはその効果に対する十分な見通しが必要となります。

 高カロリー輸液と対比される治療法として経管栄養と末梢静脈輸液があり、高カロリー輸液の選択に際しては、これらの治療法との効果対比することが求まられます。

{参考文献} 医薬ジャーナル 1990.8


<経管栄養>
 下痢・誤飲性肺炎・窒息などの危険を伴い、また、患者が引き抜くなど操作上の難点が
あります。補給エネルギー量の定量性を保つ点でも高カロリー輸液に劣ります。しかし、栄養補給
は、本来の腸管を経由する補給法が最も自然であり、腸管経由が可能なら高カロリー輸液
と同程度の効果も期待できます。

<末梢静脈輸液>
 エネルギー補給量では劣るが、安全性の点では中心静脈輸液よりも遙かに優れています。
効果の面でも電解質代謝の維持効果は確実であり、エネルギー補給も脂肪乳剤の併用に
よって補えます。

*中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition)は、かなり非生理的な濃度・
組成の液でも注入でき末梢静脈注入よりは遙かに制約が少なく、しかも経腸栄養よりも
定量性があるという点で便利な方法です。しかし、中心部の大静脈穿刺、静脈内への異物
留置、量的・質的に非生理的な液体注入などにより、種々の合併症を生じる危険性があり
ます。

 長期の高カロリー輸液は腸粘膜萎縮だけでなく、腸粘膜のバリアー機能の低下によって
腸細菌由来のエンドトキシンが流入し、エンドトキシン血症を起こす可能性もあります。

<TPNの合併症>

・中心静脈穿孔:出血、血胸、気胸
・カテーテル留置:血栓、菌血症
・代謝:電解質異常、高血糖
・長期TPN:脂肪肝、腸粘膜萎縮、エンドトキシン血症

<高カロリー輸液の適応疾患>

1.絶対的適応

短腸症候群(下記)、消化管閉塞、消化瘻孔、広範な腹腔の障害(腹膜炎・外傷)

2.相対的適用

 消化器疾患・手術

消化管出血、憩室炎、消化管潰瘍穿孔、消化器癌、消化管手術の術前・術後
消化管縫合不全、炎症腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病など)

 膵炎、化学療法・放射線療法による経口摂取低下、神経性食欲不振症
 高エネルギー需要状態(熱症、多臓器障害等)、臓器不全(腎不全、肝不全)


 

カロリー量

 一般的に栄養状態を維持する目的の場合は20〜30Kcal/kg/day、低栄養の改善と手術侵襲からの回復を目的とする場合は30〜50Kcal/kg/dayが必要です。(腎不全状態時には40〜60Kcal/kg/day)

 カロリー源としては通常利用率がよく、生理的なブドウ糖が使用されますが、糖尿病患者、あるいは術後侵襲下などの糖利用障害時にはインスリンに依存しないフルクトース、キシリトール、マルトースなどが併用されます。また、肝疾患患者などでは肝グリコーゲン生成が大きいソルビトールが使用されます。

 糖が4Kcal/kg/dayの熱量を持つのに対し、脂肪は9Kcal/kg/dayで脂肪も重要なカロリー源です。脂肪はブドウ糖の量を削減でき、血糖を上昇させることもないので血糖コントロールが容易となり、また必須脂肪酸供給という目的もあります。

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 アミノ酸

アミノ酸は蛋白合成、核酸、その他種々の活性物質、エネルギーとして利用されるため、高カロリー輸液施行中には十分なアミノ酸が必要となります。

一般に、高カロリー輸液時のアミノ酸の量は、1.0〜1.5g/kg/day必要です。また、アミノ酸が蛋白質に合成されるためには、アミノ酸6.25gに対して150〜250Kcalの熱量が必要です。

アミノ酸6.25gは窒素(N)1gに相当し、用いられた非窒素熱量と窒素のg数の比である非蛋白カロリー窒素比(NPC/N比、C/N比、Kcal/N比)は輸液処方設計に重要な指標となります。NPC/N比の適正値は正常人で225、発熱・外傷のない内科患者で165、術後患者で175〜185程度です。

熱傷、感染症など代謝亢進状態では185〜250が必要となります。また腎不全患者では300〜500、特に熱量消費の激しい急性腎不全では1000〜2000程度必要となります。また、最近では病態別のアミノ酸輸液が開発され広く使用されています。

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アミノ酸 4kcal/g

 アミノ酸は体蛋白として蓄積する必要があり、エネルギーとして燃焼したのでは意味がありません。体重が極端に減少した患者では体重増加を図らなければならず、蛋白を燃焼させないことが必要となってきます。これは蛋白節約効果とよばれ、蛋白量に対して他のエネルギー素材をどれだけ用いれば効率よく体蛋白として利用できるかを示す指標となります。

NPC/N比

 蛋白量は一般に窒素(N)量として表します。
NPC/N比〜全カロリーに対し非蛋白カロリー・窒素比で表示

 高カロリー輸液の基本液は、この理論に基づき、約150前後の数値を示しています。

高カロリー輸液は、全カロリーとして約1kcal/mlが標準的な組成となります。1日に1800kcalが必要なら1800ml、2400kcalが必要なら2400ml使用すればよいわけです。


 出典:大阪府薬雑誌 2002.6 等

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 栄養素のうち、糖と脂肪はエネルギー源(NPC:non-proteinn-calorie)で、アミノ酸は蛋白合成に利用されるのが本来の目的です。そのためには十分なエネルギー摂取のもとに、アミノ酸を補充する必要があります。
 
 NPC/N比、つまり非蛋白カロリー/窒素比とはアミノ酸を効率よく蛋白合成に向かわせるために適正な比のことです。

 アミノ酸は蛋白合成、核酸、その他種々の活性物質、エネルギーとして利用されるため、高カロリー輸液施行中には十分なアミノ酸が必要となります。

 一般に、高カロリー輸液時のアミノ酸の量は、1.0〜1.5g/kg/day必要です。また、アミノ酸が蛋白質に合成されるためには、アミノ酸6.25gに対して150〜250Kcalの熱量が必要です。

 アミノ酸6.25gは窒素(N)1gに相当し、用いられた非窒素熱量と窒素のg数の比である非蛋白カロリー窒素比(NPC/N比、C/N比、Kcal/N比)は輸液処方設計に重要な指標となります。

 NPC/N比の適正値は正常人で225、発熱・外傷のない内科患者で165、術後患者で175〜185程度です。

 熱傷、感染症など代謝亢進状態では185〜250が必要となります。また腎不全患者では300〜500、特に熱量消費の激しい急性腎不全では1000〜2000程度必要となります。また、最近では病態別のアミノ酸輸液が開発され広く使用されています。

 アミノ酸は体蛋白として蓄積する必要があり、エネルギー(アミノ酸は4kcal/g)として燃焼したのでは意味がありません。体重が極端に減少した患者では体重増加を図らなければならず、蛋白を燃焼させないことが必要となってきます。

 これは蛋白節約効果とよばれ、蛋白量に対して他のエネルギー素材をどれだけ用いれば効率よく体蛋白として利用できるかを示す指標となります。

 {参考文献} 大阪府薬雑誌 2002.6 等


2003年追加記事

PPN
peripheral parenteral nutrition
末梢静脈栄養法
中カロリー輸液

 四肢の末梢静脈から栄養を補給する方法。

 ヨーロッパでは、1960年代に脂肪乳剤が開発され、これを用いたPPNが行われるようになりましたが、日本では高張糖液を主としたTPNが導入され、非常に普及しましたが、現在その反省期に入っておりPPNが見直されています。

 末梢静脈からでは、高張液、高浸透圧液を注入すると血管炎などを起こすため、十分な熱量を確保できません。しかし、注入できる限りの高濃度の糖液にアミノ酸液、脂肪乳剤を併用すれば1日1,000kcal程度は可能で、中カロリー輸液とも呼ばれます。

<高カロリー輸液と末梢静脈栄養の比較>

              高カロリー輸液           PPN
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目的           高カロリー、長時間        中カロリー短時間
注入経路        中心静脈              末梢静脈
エネルギー       多い(30〜50kcal/kg/day)    少ない(10〜20kcal/kg/day)
ルート管理及び手技  難しい、無菌操作重要      簡単
栄養学的効果      大きい                少ない
末梢静脈炎       ない                 あり
運動性          制限無し              制限あり
主な合併症       カテーテル感染、高血糖     静脈外漏出

PPN(末梢栄養輸液)の浸透圧

いずれのアミノ酸製剤も単糖類のみでカロリーを上げているので、浸透圧は高くなり、血管痛をひきおこしやすくなっています。

一般に末梢からの投与が限度である浸透圧は900mOsm/kg程度

PPN製剤の浸透圧は900mOsm/kg以下に設定されています。
PPN製剤の血管痛や静脈炎発生には滴定酸度あるいはpHの関与が大きいという報告もありますが、浸透圧の上昇に伴い血管痛と静脈炎の発生頻度が高くなるという報告があります。


PPN製剤の浸透圧を下げる方法として、PPN製剤に低張液製剤(3号液)をタンデム方式で連結する方法があります。

 高カロリー輸液(TPN)では、浸透圧による静脈炎は問題になりません。
なお浸透圧は生食、5%ブドウ糖液、3%アミノ酸液が等張で、脂肪の浸透圧は0であることを覚えておくと、栄養輸液のおおよその浸透圧を知ることが出来ます。

                                        出典:治療 2003.2  等

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滴定酸度


 滴定酸度は、輸液製剤に添加されている酸の量を示していて、それは生体の酸-塩基反応に影響を及ぼす酸の量です。

 例えば滴定酸度が10mEq/Lの輸液を1L投与すると10mEq/LのH+が生体に負荷することを意味します。

 輸液製剤のpHと滴定酸度は必ずしも平行しません。滴定酸度はむしろ緩衝性関連があり、滴定酸度が大きい製剤ほど緩衝能が大きくなっています。

 滴定酸度の値は、糖が添加されている製剤、リン酸とカルシウム塩が同時に配合されている製剤、アミノ酸と糖が同時に配合されている製剤ほど大きくなります。

 したがって、TPN製剤の滴定酸度がほかの末梢輸液製剤に比較して大きい値なるわけです。
しかしTPN製剤でもハイカリックRFのような製剤の滴定酸度は4.7と比較的小さいものです。

<滴定酸度と配合変化>

 滴定酸度の大きい輸液に注射剤を配合した場合、配合液のpHは輸液製剤のpHに、一方、滴定酸度の小さい輸液では、配合した注射剤のpHに近づきます。

 例えば、TPN製剤にソルダクトン、ソルメドロールなどの酸性領域で外観変化を生じる注射薬を混注する場合にはTPN製剤のpH(酸性)に依存することから、側管からにする必要があります。しかも外観変化を生じる注射薬は側管からでも濁りを生じる場合がありますので、生食やブドウ糖液などでフラッシュした方が無難です。

 TPN製剤にメイロン注(重曹)を混注したところ、バッグ内と点滴ルートに細かい泡が発生します。これはTPN製剤注に添加されている酸と炭酸水素Naとの反応によるCO2の発生に起因するものです。加えられている酸の量に比例してガスが発生することが明らかにされいます。発生した炭酸ガスは体内に入ることになります。

     出典:薬局 2005.1


<<用語辞典>>

 単腸症候群

 小児では先天性小腸閉鎖症、腸捻転など、成人では上腸間膜動脈血栓症、術後絞扼性イレウスなどにより腸管大量切除術を行い吸収不良の状態を言います。

 残存小腸の長さによりTPN、ENいずれかの選択となります。

残存小腸60cm以下:TPN絶対適応(離脱不可)
   180cm以上:TPN不要
  60〜180cm:術後TPNからENへの移行が課題

合併症:ビタミン・微量元素欠乏症ほか代謝性合併症

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EN:Enteral Nutrition(経腸栄養法)

TPN:total parenteral nutrition(中心静脈栄養法)

HPN : Home Parenteral Nutrition(在宅中心静脈栄養)

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