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医療従者のためのC型肝炎の予防

1992年6月1日号 No.108  関連項目:ウイルス性肝炎

   医療従事者は医療の現場で採血針や手術用メスの誤刺によりB型肝炎やいわゆる非A非B型肝炎に罹患する危険性につきまとわれています。

 B型肝炎ウイルス(HBV)に汚染された際の対応は既に確立されており、事故後すみやかにHBグロブリン(ヘブスブリン)を注射し、場合によっては更にHBワクチンを追加接種することによって満足すべき発症防止効果が得られています。

 大人がB型肝炎を発症した場合、1〜2%は劇症化するものの慢性化(キャリア化)することはほとんどなく、3ヵ月以内に多くは完治します。しかし、非A非B型の場合、大人で感染しても50%以上の慢性化率であり、その予防対策の必要性が指摘されています。

 わが国では、非A非B型慢性肝障害の95%以上はC型であることが判明しており、また日本人の約1.3%が抗体陽性であることからC型ウイルス(HCV)感染予防対策が急務となっています。   

「参考文献」薬の知識 1991.11 Vol 42

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 HCVキャリアの血中ウイルス量はHBVキャリアに比べると極めて少なく、汚染された注射針の誤刺などで発症する率はB型に比べて低いといえます。

 しかし、医療従事者が職務により発症し、かつ慢性化した報告も何件か有り、汚染された注射針を誤刺した場合には、事故対策が必要となります。

 現在考えられている処置としては、すぐに局所の血液を絞り出し、流水で十分に洗い、体内に入る血液量を成るべく少なくすることが必須です。

 発症予防としてインターフェロンが有効との報告も有ります。ただ、汚染事故の場合、全てのケースにインターフェロンを使用する必要が有るのか、また使用する場合に300万単位で十分なのか、1回で発症が防止されるのか、また万一発症した場合はどうするのかなど多くの解決すべき問題が残されています。更には、汚染事故後の経過観察(肝機能検査)の期間は半年でいいのか?1年間はすべきか?議論の多いところです。


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針刺し事故での感染防止策

2002年8月15日号  No.342   関連記事:医療従者のためのC型肝炎の予防

 血中ウイルスが感染する可能性のある曝露とは、感染性のある血液、組織、その他の体液の経皮的損傷(針刺し、鋭利器材による切り傷など)または粘膜や傷のある皮膚(ひび、擦過創傷、皮膚炎のある露出皮膚)への付着などです。
 
 HCVについてはワクチンなどの有効な感染防止策はないので、現実的に対応が必要なのはHBVとHIVです。

    {参考文献} 薬局 2002.6

* B型肝炎ウイルス(HBV)による職業感染

 HBVの感染の可能性は、血液への接触の程度とHbe抗原の有無が関与します。HBs抗原、Hbe抗原ともに陽性の血液での針刺しで、臨床的に肝炎を発症する率は22〜31%です。

 一方、HBs抗原陽性Hbe抗原陰性の血液では、臨床的肝炎発症率は1〜6%です。

<針刺し事故以外でも注意が必要です!>

 医療従事者がB型肝炎を発症した中で針刺しなどの経験のない場合も多く、この場合はたとえば皮膚のひっかき傷、擦過創傷、火傷、粘膜表面へのHBV陽性血液および凝固血液の付着が考えられます。

 HBVは室温で環境表面に乾燥血液中で1週間生き続けられるため、原因が明らかでない感染がかなりの頻度で発生していると思われます。

<予防策>

 職業感染防止でもB型肝炎用グロブリン(HBIG:ヘブスブリン)は、HBs抗原陽性血曝露1週間以内に用いれば75%程度の感染防止効果を示しています。HBVワクチン(ビームゲン)を併用すれば更に高い感染予防効果が期待できます。

 ワクチンの接種に当たり、特別な副作用は報告されていません。HBIGも安全な製剤で、妊娠中や授乳中の女性に対しても禁忌ではありません。

*HCV

 HCV陽性血液で感染する可能性は1.7%で、感染した事例の多くは中空針による針刺しです。ある程度大量の血液が関与しないと感染は起きません。例えば、皮膚に付着した程度では感染は証明されていません。しかし、血液透析の現場ではHCVが環境からの汚染に関与しているとの報告もあります。

 感染直後にHCV抗体高力価の免疫グロブリンを使用しても予防効果は見られません。またインターフェロンが有効な治療となりうるには感染が成立していることが前提となるため、感染予防としては用いられません。

* HIV

 HIV陽性血による針刺し事故での感染率は0.3%で、粘膜曝露では0.09%と推定されています。創傷のある皮膚への血液付着での感染率は粘膜曝露よりも更に低いことが予想されています。

 HIVの感染には多量の血液が関与する必要があり、血液が肉眼的に確認できる程度の多量の曝露、患者の血管内に留置されていた器材による刺創、深く刺さった針などで感染の頻度が高くなっています。またエイズ末期の患者血液中には大量のウイルスが含まれていて、感染の頻度は増加します。

 HIV感染の危険性が高い場合には、レトロビル、エピビル、ビラセプトの3剤併用が推奨されています。

  関連記事:医療従者のためのC型肝炎の予防


2002年8月15日号  No.342   医学・薬学用語解説(ク) “グルコサミン”はこちらです。


<<用語辞典>>

フィルター

インラインフィルター:点滴ラインの途中に接続するフィルター

 上部と下部から入れる注射薬が問題となります。
臨床の場では、どうしてもこのファイナルフィルターよりもインラインフィルターを使用せざるを得ない状況です。注射薬による事故を未然に防ぐために、できるだけインラインフィルターを通過させるべきです。

「注入量が5μg/mL以下あるいは24時間の注入総量が5mg以下の場合には、吸着の問題が解決するまではインラインフィルターをすべきではない」というNCCLVP基準があります。

 ファイナルフィルター:患者さんへの直前に接続するフィルター、フィルターの下部から注射薬を入れることはありません。

フィルターには微小異物の除去、配合変化で生じた微小沈殿物の除去及び空気塞栓などがあります。

 静脈栄養にフィルターを使用する場合、多くは感染症の予防を想定し、微生物の混入の阻止でフィルターを用いています。

 米国で、リン酸カルシウムの沈殿物にびまん性微小血管肺塞栓が原因で死亡した報告例が紹介されており、インラインフィルターの必要性が喚起されています。また、微小異物をフィルターで除去することで、静脈炎発症が低下するという報告もあります。

1)フィルターの下部から注入せざるをえない注射薬
〜0.2μmmpフィルターを通過しない薬剤

・ 血液製剤、血漿分画製剤(アルブミン、グロブリン製剤等)、粘度の高い輸液(デキストラン、グリセオール)、油性製剤(ビタミンAおよびD)

・ リポ化製剤(リプル、ロピオン等)〜専用のフィルター発売予定

・ 注入量μg/mL以下あるいは注入総量5mg以下の制癌剤(オンコビン等)〜フィルターへの吸着

2)フィルターの上部から注入すべき注射薬

・凍結乾燥製剤(各種抗生物質、制癌剤)
〜製造過程、あるいは溶解時に溶けきらない微小異物が含まれている。

 タキソール注は、液状ですが不溶性の主薬が析出する可能性から0.2μmのフィルターを通すことが添付文書中で義務づけられています。

 ラステット注を希釈しないで用いるとセルロース系フィルターを溶解することが知られていますので、それ以外のフィルターを使用する必要があります。

 メイロン注は滴定酸度の高い高カロリー輸液の側管から注入すると、酸−塩基反応により炭酸ガスを発生します。その量はわずかですが、小児では問題になる可能性が考えられます。従って、この場合は、エアーベント付きのフィルターを通した方が安全です。

 γh-GCSF製剤は顔料が微量な上、静電気吸着を起こすフィルターへ吸着するので、フィルターの下部から注入すべき薬剤ですが、静電気吸着を起こさないフィルター(ポール輸液フィルターPD1)を使用すれば、吸着は起きないのこのフィルターの上部から注入しても問題ありません。

 塩酸ドパミン製剤はアルカリ性の注射薬(ネオフィリン、メイロンなど)と接触すると黒色に変色します。この変化は、まずフィルターの黒変色によって気づく場合が多いので、フィルターの上部から注入することにより、配合変化にいち早く気づく事ができます。

3)フィルターの上部から注入すべきだが、その前後に生食または5%ブドウ糖でフラッシュを必要とする注射薬

 ソルダクトン、ソルメドロール500mg、ソルコーテフ500mg、アレビアチン注、イソミタールソーダなどでは、酸性領域での結晶が析出するので、滴定酸度の高い高カロリー輸液の側管から注入する場合には、その前後に生食でフラッシュする必要があります。

 ファンギゾン注は、混合ミセルを形成しており、電解質に溶解するとそのミセル形成が維持できなくなり沈殿物として析出してきます。そのため、注入前後のフラッシュは5%ブドウ糖液を必要とします。

4)1.2μmのフィルターを使用すべき注射

 従来、脂肪乳剤はフィルターを通過しないので、使用すべきでないとされてきました。しかし、0.2μmフィルターは通過しませんが、1.0μm以上の脂肪粒子を除去する目的で1.2μmのフィルターを使用すべきです。

 フラッシュに必要な液量とフィルターの使用期限が当面検討を要する大きな課題となって残っています。

出典:萬有(BANYU)資料  Clinical Pharmacist MARCH 2001 No.35

<脂肪乳剤にフィルター付きラインは必要か>

 高カロリー輸液に脂肪乳剤を混注して、さらに多剤を併用した場合、結晶析出を視認することが困難で、さらに微生物が増殖しやすくなっています。

 また、脂肪乳剤を配合した高カロリー輸液によって、脂肪粒子の粗大化が考えられ、脂肪乳剤を含有する輸液には1.2μm径のフィルターを使用すると有用であるとの報告があります。

 イントラリポスは、PNツインを混和せずにイントラリポスを末梢静脈からとすると内規のある病院もあります。ただしCV(central vein)ラインを使用する場合は、必ずフィルターを通過しない部分(フィルターより患者側の側管)より使用することとなっています。

            出典:医薬ジャーナル 2004.2

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