無駄口薬理学薬学用語辞典やさしい薬理学毒舌薬理学

 

 

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ACEIの特殊な作用

出典:JJSHP 1997.1

 種々の臓器保護作用、虚血性心疾患やCHF(うっ血性心不全)患者の病態改善 

1)心肥大退縮作用

 高血圧の長期間の持続により心肥大が生じます。これにはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の関与が知られています。

2)心筋梗塞後の心室リモデリング抑制

 心筋梗塞3日後程度から、数ヶ月にかけて心室リモデリングという現象が生じます。これは早期には梗塞に陥った部分の心筋細胞の脱落、瘢痕化などに伴う心筋の菲薄化と過伸展であり、慢性期には非梗塞部の遠心性肥大を呈し、両者の結果として、左室は拡大します。

 この現象は、心筋梗塞によって低下した心機能の代償作用と考えることもできますが、過度になると左室機能に悪影響を与え、心不全の増悪、ひいては予後の悪化をもたらすことがあり、注意が必要です。

3)腎保護、蛋白尿減少作用

 ACEIは、糖尿病性腎症による尿蛋白減少作用、腎保護作用を有することが知られています。 しかし、ACEIは腎糸球体の輸出細動脈を拡張し、糸球体濾過圧を低下することから、血清クレアチニン値2〜3mg/dl以上の腎不全では逆に腎機能の増悪が認められることから注意が必要です。

4)血管内皮機能改善作用

 ACEIは冠動脈疾患(IHD)での血管内皮機能を改善する効果があります。虚血による心事故発生の頻度を減少させるという利益があります。

5)運動耐容能に対する効果

 ACEIはCHF患者の運動耐容能にも改善効果を持っています。運動中の心室に対する負荷を軽減する作用があります。 


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ACE阻害剤がインスリン感受性を高める機序

1.アンジオテンシン・の産生低下により交感神経活性が低下
2.局所ブラジキニン濃度が増大し、インスリン類似作用を呈する
3.末梢血管拡張作用により、糖代謝の主な標的器官である骨格筋とインスリンが接触する面積が増大する。
の3つの可能性があげられているが、詳細な機序については不明

 


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 アポトーシスとネクローシス


  近年、細胞死はネクローシスとアポトーシスの2つに分類されています。

 ネクローシスは栄養不足、毒物、外傷などの外的環境要因による受動的細胞死で、アポトーシスは個体の増殖制御機構でプログラムされた能動的細胞死です。

 癌細胞は、正常細胞のアポトーシス制御機構に異常が生じることによって異常増殖を起こしたものと考えられています。

 アポトーシスは、ネクローシスよりも短期間に完結し、しかも炎症を伴わない細胞死です。したがって、アポトーシス誘導物質は、より有効な抗癌剤として期待されています。

 アドリアマイシンやビンブラスチンに代表される多くの抗癌剤の作用機構は、アポトーシス誘導によるものであることが明らかにされています。

   出典:ファルマシア 2000.4


エントーシス 〜細胞の共食いによる新たな細胞死
entos:ギリシャ語で「内側に」の意味


 アポトーシスとは異なる細胞死も生体で重要な役割を果たしていることが分かってきました。

 非接着状態で上皮細胞を培養すると「エントーシス」という現象が誘起され、アポトーシスとは異なるリソソームを介した細胞死が誘導されることが、近年報告されています。

 細胞が隣接する細胞に「取り込まれる」のではなく、「侵入する」ことが見出され、この新たな現象が「エントーシス」と名付けられました。

 エントーシスを起こした細胞を引き続き時間を追って観察したところ、侵入した細胞は外側の細胞のリソソームに移行して最終的に細胞死に至り、一部の細胞は再び細胞外に出る、あるいは細胞内で分裂することが明らかにされています。

 なお、エントーシスに伴う細胞死ではリソソーム酵素が重要な役割を果たしていますが、その機能が阻害されると、caspase依存的なアポトーシスが誘導されることが確認されています。

 細胞の内部に細胞が存在する様子は古くから様々な癌組織で観察されていて、エントーシスがその分子機構の1つであると考えられています。

 エントーシスがガン抑制機構であるならば、それを利用した癌治療への発展が可能になるかもしれませんが、一方で癌でのエントーシスの意義については、癌細胞が栄養源を補給する、あるいは抗癌剤や免疫系から回避する機構である可能性、また、細胞融合による多核化を引き起こすことで癌化を促進する機構である化膿性等も考えられます。

 これらの点を含め、今後の更なる研究が待たれます。

   出典:ファルマシア 2009.7


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PDEI
フォスフォディエステラーゼ阻害剤

 PDE阻害剤は心筋および血管平滑筋に存在するPDEVを選択的に阻害し、細胞内cAMPを増加させ、心筋では収縮力増強、末梢血管では拡張作用を発揮します。

 これにより、心拍出量の増大、血管拡張による前負荷・後負荷の減少をもたらし、肺動脈楔入圧を低下させます。血管拡張により、血圧を上昇させず、心拍数への影響も少ないため、心筋酸素消費量を増大させないと期待されます。

 強心作用と血管拡張作用を併せ持つInodilatorのため、後負荷の減少による効果も含めた心拍出量の増大および、前負荷の減少による肺動脈楔入圧の低下を認め、血行動態の改善をもたらします。

 高用量では心拍数の増加や過度の降圧を来しやすく催不整脈も大きくなるため要注意です。実際の臨床の場ではPDEIは単独で用いられることは少なく、β1刺激剤では十分な効果が得られない重症心不全例に対し、追加療法として用いられることが多い。血行動態の改善には有効ですが、催不整脈の副作用も発現しやすくなります。この場合、開始時の負荷静注は避けた方が賢明です。

 副作用で特徴的なものとして、血小板減少がみられます。いずれの副作用も投与が長時間に及ぶほど頻度が増加します。



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アシドーシス

出典:JJSHP 1997.12

 人の酸塩基平衡調節は緩衝系・肺・腎の総合的作用によって行われ、肺は呼気によるCO2ガスの増減で、腎は酸性あるいは塩基性尿を産生することで体液の恒常性を保っています。

 CO2は呼吸によって排出される唯一の酸で、その変化はPCO2として表されます。呼吸の変化に基づくpHの変化を呼吸性アシドーシス・アルカローシスと呼びます。一方、乳酸、ケト酸などのCO2以外の酸はHCO3の変化として現れ、これを代謝性アシドーシス・アルカローシスといいます。

 血液のpHが変化すると、肺や腎の働きにより正常値に近づけようとする二次的変化が生じます。これを代償というが、呼吸性の酸塩基平衡調節障害に対しては腎性代償、代謝性酸塩基平衡調節障害に対しては代謝性代償が働きます。

 <IVH療法中に発現するアシドーシスの原因>

 代表的なものは乳酸性アシドーシスで、糖代謝が円滑に進まないために多量の乳酸が生じ、アシドーシスになります。ピルビン酸は解糖系からアミノ酸、乳酸、脂質、TCAサイクルへの分岐点に位置する物質ですが、この代謝に必要なVB1が補給されないとピルビン酸はアセチルCoAへの経路を経ないで乳酸が産生し、その蓄積によりアシドーシスとなります。

 <IVH療法中に発現するアシドーシスの臨床症状>

 ・非特異的症状:全身倦怠、食欲低下、活力低下など
 ・循環器症状:頻脈、血圧低下など
 ・神経症状:意識レベル低下、運動失調、眼球運動障害→ウエルニッケ脳症
 ・消化器症状:悪心、嘔吐、腹痛など 


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セレン(Se)欠乏症

2006年8月15日号 No.435


 微量元素が生体にとって不可欠であることは、ようやく広く知られるようになり、鉄、亜鉛、銅、ヨウ素などの欠乏症ついては、高カロリー輸液や経腸栄養剤の長期使用の場合では注意されるようになって来ました。

 セレンも生体に必要な微量元素ですが、前述の鉄や銅ほどに注意を払われいないのが現状のようです。
 セレンはグルタチオンペリオキシダーゼに含まれており、欠乏症として心筋症、筋異常、心筋梗塞、癌が知られています。

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<生活習慣病関連疾患と微量元素>

  癌   :セレン、亜鉛
  動脈硬化:クロム、銅
  心筋梗塞:セレン
  糖尿病 :クロム
  認知症 :セレン、クロム、亜鉛
  高血圧 :セレン、銅、亜鉛
  免疫不全:亜鉛、銅、セレン、鉄
  味覚低下:亜鉛
  行動異常:亜鉛、銅、リチウム
  齲歯  :フッ素

 セレンはグルタチオンペルオキシダーゼノ活性中心構成していて、重要な抗酸化因子の1つと考えられています。その生理作用は十分に解明されていないものの、セレンプロテインPと呼ばれる糖蛋白質が活性酸素障害の除去に関与することも示唆されています。

 低セレン地域として知られている中国の一部の地域で発生した心臓疾患(克山病)がセレンの欠乏を主たる原因として起きることが明らかにされています。

 グルタチオンペルオキシダーゼ活性はセレンの栄養状態を評価する指標として、血液(血漿)セレン濃度とGSH−Px活性値が用いられています。

 また、セレン過剰症は脱毛、爪や皮膚、歯の変化、嘔吐、脱力感などの症状が現れます。

<経腸栄養・経静脈栄養管理時のセレン欠乏症>

 セレン含有量の少ない経腸栄養剤(エンシュアリキッド、エレンタールなど)を長期間服用していると、心電図異常、心筋症、爪白色などの症状が現れてきます。

 セレン欠乏症は、鉄、亜鉛同様、未熟児で急激に発育する生後2〜6ヶ月後に起こり易くなりますが、臨床的に問題になりことはありません。

 セレン含有量の低い経腸栄養剤を服用している子供は著明なセレン欠乏症を示します。とくに重症心身障害児などで、摂取カロリーが年齢より少なく設定されている場合は、セレンを始め微量元素の欠乏症を起こしやすいので注意が必要です。

 高カロリー輸液(TPN)時にみられるセレン欠乏症としては、下肢筋肉痛、不整脈、心筋症、爪床の白色変化、大赤血球症、仮性白皮症が報告されています。また重症患者では全身性の炎症反応によりSIRS(systemic inflammatory response syndrome:炎症性サイトカイン優位全身性炎症反応症候群)を引き起こすことが知られていますが、セレンによりSIRSの病態が改善される可能性があり注目されています。

 栄養管理中セレン過剰症の報告はありませんが疲労に対してビタミン剤を服用したところ多量のセレンが混入していて、それによるセレン過剰症が報告されています。

※ セレン1日推奨量(静脈より)

 成人  30〜200μg/日
 小児  2〜7μg/kg/日

{参考文献} 治療 2006.7
 

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<NST関連用語解説>  GFO(腸管免疫とグルタミン)はこちらです。

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セレン欠乏症

出典:JJSHP.1998.1

 TPNの増加に伴う微量元素欠乏症

 Fe,Zn,Cu,I、それ以外として、Se,Mo,Cr

 セレン欠乏症の根本的解決法はセレンを補充することによりますが、日本ではセレンは医薬品ではなく且つ毒物にしてされていることから、使用に際しては慎重な対応が求められます。

 セレンは元素としての性質は、同族のイオウと似ており、イオウ同様、アミノ酸などに含有された化合物として自然界に広く分布します。食物中には、肉類、海産物、ニンニク、穀物などに多く、果物、野菜などには少ない。

 セレンは、食物を介して摂取され、その1日摂取量は50〜200μg程度とされています。その吸収部位は十二指腸であり、尿、便、呼気中に排泄されます。

 セレンの生体内での生理作用は、組織における酸化防止作用です。 グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH−Px)の活性中心にセレノシスティンの型で存在します。

 GSH−Pxは血液中では赤血球、好酸球、血小板および血漿中に、臓器では肝臓、腎臓、心臓、肺などに比較的多く存在しています。

 ヒトを始めとする好気的生物は、酸素の強い化学反応性を有効に利用している反面、生体にとって有害なスパーオキシド、過酸化水素など活性酸素の生成を伴っています。これら活性酸素から作られるヒドロキシラジカル(・OH)などは、不飽和脂肪酸を過酸化し過酸化脂質(ROOH)を生じさせます。

 この様な活性酸素、過酸化脂質生成反応に対する防御機能として生体では、ビタミンEやアスコルビン酸などの抗酸化剤が利用されるほか、スーパーオキシドジムスターゼ(SOD)、カタラーゼ、GSH−Pxなどの抗酸化酵素が存在しています。

 セレン依存性GSH−Pxの重要な役割は、体内で生じた過酸化水素(H2O2)を水素に還元すること(非セレン依存性GSH−PxではROOHは還元するがH2O2は還元しない)と生体膜構成多不飽和脂肪酸(PUFA)の過酸化で生じる過酸化脂質を還元してアルコールに変換することです。さらに最近では、甲状腺ホルモンの代謝がセレンにより影響を受けることが明らかにされています。

 セレンはかつて生物にとって一方的に毒物と考えられていましたが、GSH−Pxの活性中心に存在することが明らかとなり、細胞構成成分の酸化的変性を防ぎ、膜の安定化に関与する重要な因子であり、必須の微量元素として認識されるようになりました。

 欠乏症 セレンの欠乏によって引き起こされる各種の疾患は、GSH−Pxの活性が低下することにより、活性酸素が生体膜を不安定化し、さらに膜を構成する蛋白質が酸化的変性されることに起因します。

 臨床症状としては筋肉痛、歩行困難など筋力低下を呈することが多く、心筋がダメージを受けた場合、心拡大、不整脈など拡張型心筋症様を呈します。

 心肥大、拡張型心筋症を呈した例では、死亡例が報告されており、早期の対応が求められます。

 <TPN期間 1ヶ月〜15年でセレン欠乏症>

 セレン欠乏による心筋症としては、かつて風土病といわれた克山病(Keshan disease)が有名です。中国の克山地方では、土壌中のセレン含量が少ないため、食物よりのセレン摂取量が少ないため起こると考えられ、克山地方では、その対策として空中より亜セレン酸塩を土壌に撒き、食物連鎖を利用しセレン欠乏の予防としています。
 モニタリング 対象となるのは長期TPN及びIVH施行患者はもちろんであるが、クローン病や短腸症などにより、十分な食物摂取が不可能であり、長期にわたり経管または経腸成分栄養療法(ED;elental diet)が施行されている患者も対象とすべきです。

 成分栄養剤は、消化過程を必要としないように、蛋白源はアミノ酸から構成されておりセレンを含有していません。

 筋肉痛、筋力低下、心筋症、爪の変形に注意する。 臨床検査値異常としては、CPKの上昇が見られます。これらの臨床症状だけからではセレン欠乏症と診断することは困難です。

 拡張型心筋症(DCM)様に症状が進行した場合には、セレン補充によっても症状は改善されなかった症例も見られます。 長期TPN、ED施行患者では、症状の有無にかかわらず、セレン欠乏を考慮する必要があります。

 治療 通常、亜セレン酸あるいは亜セレン酸Naを欠乏状態に応じ、50〜200μg程度を静注する方法が用いられています。

 経口的方法も試みられていますが、セレンはアミノ酸などと結合したセレン化合物として吸収されることから、亜セレン酸塩の吸収率等については解明されておらず、今後の検討が必要とされています。

 <調製法>

 亜セレン酸Na(Na2SeO3・5H2O)あるいは、亜セレン酸(Na2SEO3)を1mlあたり50μg程度に注射用水で溶解後、滅菌して製します。

  セレンの日本人の平均値 男性:157.0ng/g 女性:156.0ng/g 最近では血漿または血清で測定することが多くなっています。

抗酸化剤エブセレン

JJSHP 2000.4

 エブセレンは、分子内に含有する水不溶性の化合物で、グルタチオン・ペルオキシゲダーゼ(GSH-Px)様作用、リポキシゲナーゼ阻害作用、ペルオキシナイトライト還元作用など抗酸化活性を持つ薬剤です。

 還元型グルタチオン(GSH)等のチオール化合物の存在下に、触媒的に過酸化水素や過酸化脂質等の活性酸素を還元し、これらの作用は酵素様作用のサイクルを経て持続します。

 エブセレンは脂溶性に富み、細胞内のチオール基との反応性により細胞内に分布して、GSH−Px様作用、細胞内酸化還元調節作用等を発現すると考えられます。

 近年、細胞死の機序には細胞内酸化還元調節(redox-regulation)破綻が深く関与し、GSH−Pxやチオレドキシン・リダクターゼに代表される活性中心にセレンを含有する細胞内酵素の重要性が明確にされつつありますが、エブセレンは分子内セレン活性を中心としてこれら酵素様作用を発現することにより、細胞内の過酸化脂質や過酸化水素などの活性酸素を還元し、細胞を死に向かわせない作用を有すると考えられます。

微量元素欠乏症

 コバルト クロム セレニウム;セレン マンガン モリブデン シリコン

*コバルト

 健康と栄養におけるコバルトの重要性は,知られている限りでは,コバラミン分子(ビタミンB)に存在するものとしての限られたものです。コバルトの欠乏した土壌の地域にある土食症に関連した貧血のまれなケースが,コバルト投与に反応するとして報告されたことがあります。

 慢性腎不全の鉄欠乏症の治療の際にFeに加えて塩化コバルトの大量補充(20から30mg/日)が推奨されていますが,コバルトには潜在的に毒性があるため,コバルト欠乏症が疑われるときのみ使われるべきです。

 幼児に過剰補充すると,甲状腺機能低下症やうっ血性心不全を起こすことがあります。

 職業上暴露された後に,また維持透析の間に,そして,加工過程でコバルトに汚洗されたビールを大量に摂取した後に発症した高い致死率を持つ心筋症が報告されています。

* クロム

 クロムは幾つかの酵素系の一部分を構成していることに加えて,グルコース耐性因子(GTF)とよばれる低分子有機複合体に結合しており,インスリンと共に正常のグルコース利用を促進する働きをしています。醸造用酵母菌は,GTFに富んでおり,グルコース耐性を増加し,高齢の患者で血漿中コレステロールやトリグリセリドを低下させ,さらに糖尿病患者のインスリン需要を低下させることが証明されています。

 グルコース耐性は,ふつう,蛋白-カロリー栄養失調症(特にクワシオルコル:kwashiorkor;低タンパク栄養失調症)では,通常障害されており,3価クロムに劇的反応を示した幾つかの症例が報告されています。

 家庭完全腸管外栄養を数年間施行していたら突然,体重減少,末梢神経障害,そしてグルコース不耐性が発症した患者が例がありますが,これはクロム療法でもとに回復しました。

*  セレニウム(上記も参照のこと)

 セレンは,還元型グルタチオンの再酸化に関与し,ビタミンEと密接な代謝的相互関係にあり,不飽和脂肪酸からの誘導体の過酸化物を分解すると考えられているグルタチオン過酸化酵素の一部を構成しています。

 欠乏症は長期の腸管外栄養を受けている患者に起こります。筋痛,圧痛および指の爪床の白色化がセレン治療(100μg/日セレニオ酸)に反応した小児の症例が1例あります。セレン欠乏症に起因する致命的な心筋症の幾つかの症例があります。中国で研究された地域にちなんでKeshan病と呼ばれる小児時代の心筋症は,セレン欠乏症に起因しており,セレン150μg/日をセレノメチオニンとして予防的に投与するよう主張されています。

 セレン毒性(地方性セレニウム症)については,以前より動物では認められており,幾つかのヒト社会でもその存在が疑われています。最も説得力のある例が,中国から報告されて、最も一般的な徴候は,毛髪や爪が消失することです。皮膚の損傷と多発性神経炎がセレン毒性に起因しているか否かは確かではありません。

 “健康ストア”錠剤の服用によるものが報告されている。

*  マンガン

 マンガンは幾つかの酵素系の成分で,かつ,正常の骨構造に不可欠です。マンガンの摂取量は精製されていない殻類,緑色野菜,茶のようなマンガンの豊富な栄養源を摂取しているかどうかに大きく左右されています。

 ヒトの欠乏症の一例が報告されている;誤ってマンガンを抜いてしまった精製食を食べていたボランティアが,体重減少,一過性の皮膚炎,悪心と嘔吐,毛髪の色の変化と発育遅延を起こしたもの。

 マンガン中毒はふつう坑道を堀ったり精錬をしたりする人に限られる;長期間暴露が原因で,パーキンソン病やウィルソン病に似た神経症状を起こします。

* モリブデン

 長期の完全腸管外栄養を受けている患者さんでは,欠乏症は明らかに頻脈,頻呼吸,中心暗点,夜盲症,昏睡へと進行するいらいらの原因となるようです。これらは,300μg/日のモリブデン酸アンモニウムを経口で補充することで回復しました。神経の異常は,モリブデン補酵素の欠乏症の症状に似ています。

*  シリコン

 ヒトにおけるシリコン欠乏症はまだ報告されたことがありませんが,動物では,成長遅滞,骨,軟骨,結合組織の欠損を起こします。硅酸マグネシウムによる制酸剤治療を長年受けているうちに,毒性により硅酸尿路結石が形成されました。 


メタロチオネイン

 メタロチオネインは構成アミノ酸の30%がシステインからなる低分子量の金属結合蛋白質です。
 ヒトメタロチオネインには4つの亜型があり、T、Uは肝臓など各種臓器の細胞に広く存在するのに対し、Vは脳、Wは舌や食道などに特異的に発現しています。

 メタロチオネインは重金属、酸化ストレスや炎症などに誘導合成され、それらに対する毒性防御などの生体防御因子として作用するだけでなく、生体微量金属の恒常維持や種々の疾病などにも関与しています。

       出典:治療 2006.7


セントトーマス液

第19回日本病院薬剤師会近畿学術大会 2B10−2

和歌山県立医科大学付属病院薬局

 従来、開心術時での心停止及び心筋保護を目的としてヤング氏液及びGIK(グルコース・インスリン・カリウム)液を調整してきた。

 セント・トーマス液は、1種類では心停止液と心筋保護液を兼ね備えている。
  生食 740ml 1モル塩化カリウム 19.2ml 2%塩化カルシウム 8.0ml 0.5モル硫酸マグネシウム 38.4ml 7%炭酸水素ナトリウム 50ml 10%リドカイン 1.4ml 注射用水 291.4ml

  無菌的に操作し、pH7.8、浸透圧324mOsm/kgH2Oになるように生食と炭酸水素ナトリウムの含量を検討し、また調整による配合変化が生じるので、操作手順に工夫が必要。 従来の院内製剤に比べ、心臓再灌流時に、DCショックなしに正常心拍が再開することが多くなったことから、より安全に心臓が保護されているとの評価もえている。  


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漢方製剤の適性使用
陰陽・虚実の認識による証の決定

 証の定義は、「患者が現時点で呈している病状を陰陽・虚実、気血水、五臓など漢方医学のカテゴリーでとらえた診断であり、治療の指示」です。

 ここで「現時点で」という理由は、漢方医学においては疾病は流動的なものと理解しており時々刻々変化するものと認識しているからです。つまり「証」は固定したものではありません。

 証を特徴づけるもう一つの事柄は、患者の呈する個々の症状を個別に理解するのではなく、陰陽や虚実というような概括的なカテゴリーを当てはめることです。

 闘病反応の様式が総じて熱性で発揚性のものを陽の病態といいます。この病態では発熱や自覚的な熱感があり、顔面紅潮や口渇があります。 これに対して、生体反応が寒性で沈降性のものを陰の病態といいます。悪寒がみられ、また、耐寒能が低下し、顔面の蒼白、四肢末梢の冷えなどを呈するものです。 

関連項目:漢方薬の適正使用


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狂犬病   こちらに記事があります。「狂犬病について(犬にかまれました、狂犬病に感染しますか?) 」

 血清療法を併用する場合は、受傷後3日以内にヒト狂犬病グロブリン(HRIG)を20IU/kg用います。

 わが国ではもっぱら組織培養ワクチンを使用していますが、途上国では現在でも動物神経組織由来ワクチンが使用されることが多い。

 狂犬病は一旦発症すれば死の転帰をとりますが、ウイルス曝露後のワクチン接種による能動免疫で発症予防が可能です。現在は脳組織成分を含まない副作用が少ない組織培養ワクチンが先進諸国で開発され、受傷者の曝露後予防接種のみならず、ウイルスを扱う研究者や技術者および浸淫地への旅行者の曝露予防接種が可能になりました。 ウイルス増殖用の培地細胞は国によって異なり、日本ではにわとり胎児細胞、欧米ではヒト2倍体細胞、中国ではハムスター腎細胞が用いられています。

 咬傷部は逆性石けんで徹底的に洗浄・消毒し、縫合しないことを原則とします。やむを得ず縫合する場合は、局所に抗狂犬病免疫グロブリンを与薬し、ドレナージが可能なように緩めて縫合します。 咬傷部の手当てに続いて、抗狂犬病免疫グロブリンおよび狂犬病ワクチンの接種を行い、効果的に能動免疫を獲得できるように、スケジュールに従ってワクチン接種します。

 咬傷、性格変化、上行性麻痺は狂犬病の3主徴とされます。潜伏期は長短不定ですが、多くは1〜3ヶ月で発病します。一般的に狂犬病ウイルス侵入部位が頭部に近いほど、また子供の方が大人より潜伏期が短くなっています。 全身倦怠感、食欲不振などの一般的な症状や受傷部の知覚異常を示す前駆期の後、多くは狂躁型狂犬病の症状を示します。

 すなわち幻覚、知覚過敏、痙攣発作、興奮など また水を飲む最に苦痛を伴う咽頭部痙攣を繰り返すうちに、水を見たり想像するだけで全身痙攣となる恐水発作(hydrophobio)を起こすことがあります。まれに、狂躁状態を示さず、初めから神経麻痺を来す麻痺型狂犬病が見られます。いずれの場合も最後は筋、神経の麻痺により死亡します。

出典:治療 1997.7

 日本では昭和32年に狂犬病は根絶してしまっています。しかし、東南アジアで狂犬病が急増しています。
近年、ペットブームでイヌの輸入が増加しているため、日本でも注意が必要です。


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抗生物質の使い方

<腎障害時>

 腎障害の患者では、排泄器官である腎が障害されるために体内に蓄積がおこり、副作用が起こすことがあります。また、副作用を恐れるあまり、使用量が少なく有効性の得られないことがあります。

一般的には
1.血中半減期の2〜3倍の間隔で使用量を用いる。
2.初回常用量を用い、その後1/2量を血中半減期ごとに追加する。〜ペニシリン、セフェム
3.使用間隔は、腎機能正常者と同じで、患者の腎機能に応じて、1回の使用量を調整する。〜アミノG系

 1、常用量使用が可能な抗菌剤 マクロライド系、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン
 2、軽度の使用量調節が必要な抗菌剤 βラクタム剤、ニューキノロン、リンコマイシン、ニュウマクロライド
 3、厳重な使用量調節が必要な抗菌剤 アミノG系、グリコペプチド系(バンコマイシンなど)
 4、使用を避ける方がよい抗菌剤 テトラサイクリン系(DOXY,MINOを除く)、セファロリジン、クロラムフェニコール、ポリペプチド系

<肝障害時>

 1、比較的安全 アミノG系、アンピシリン、セファレキシン、セフォキシチン、セフロキシム、ペニシリンG,オフロキサシン

 2、必要時に使用量の調整を必要とする薬剤 アザクタム、シプロフロキサシン、セフォタキシム、ピペラシリン、セフトリアキソン、バンコマイシン、セフタジジム、フルコナゾール、エリスロマイシン(エステル型を除く)

 3、使用は避けるか、避けた方がよいと思われる薬剤 イソニアジド、セフォペラゾン、RFP、セフピラミド、ピロジナミド、ラタモキセフ、エリスロマイシンエストレート、ロキシスロマイシン、クロラムフェニコール、 イトラコナゾール、クリンダマイシン、アムホテリシンB、テトラサイクリン系、ミコナゾール、ST合剤

妊婦に使用できない抗菌薬

 禁忌

テトラサイクリン系 、ST合剤:催奇形性

ニューキノロン:DNA合成阻害(催奇形性)

メトロニダゾール:発癌性?

 注意 アミノG系

臓器移行性(髄液)

 極めて良好
Cefmetazole(CMZ) Ceftazidime(CAZ) Fosfomycin(FOM) Piperacillin(PIPC) Ticarcillin(TIPC),Ticarcillin/Clavulanate(TIPC,TIPC/CVA) Flucytosine(5-FC) Sulfadoxine/Pyrimethamine(SP)

  良好
Aspoxicillin(ASPC) Aztreonam(AZT) Cefalotin(CET) Cefamandole(CMD) Cefbuperazone(CBPZ) Cefepime(CFPM) Cefmenoxime(CMX) Cefminox(CMNX) Cefodizime(CDZM) Cefoperazone(CPZ) Cefotaxime(CTX) Cefotiam(CTM) Cefozopran(CZOP) Cefpirome(CPR) Ceftibuten(CETB) Ceftriaxone(CTRX) Cefuroxime(CXM) Chloramphenicol(CP) Doxycycline(DOXY) Fleroxacin(FLRX) Flomoxef(FMOX) Meropenem(MEPM) Nalidixic Acid(NA) Panipenem/betamipron(PAPM/BP) Rifampicin(RFP) Sulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC) Sulfamethoxazole/Trimethoprim(ST) Vancomycin(VCM) Fluconazole(FCZ) Vidarabine(Ara-A) Zidovudine(AZT)

  良くない
Amoxicillin(AMPC) Ampicillin(ABPC) Cefazolin(CEZ) Cefotetan(CTT) Cefoxitin(CFX) Cefpiramide(CPM) Cefsulodin(CFS) Ceftizoxime(CZX) Gentamicin(GM) Imipenem/Cilastatin(IPM/CS) Latamoxef(LMOX) Minocycline(MINO) Sparfloxacin(SPFX) Streptomycin(SM) Sulbactam/Cefoperazone(SBT/CPZ) Sulbenicillin(SBPC) Amphotericin B(AMPH) Aciclovir(ACV) Interferon alfa(IFN-alfa)  


関連項目:髄膜炎と抗生物質


p10


三方活栓のフタの消毒

 血液が三方活栓に停滞する場合も多く、微生物にとって好適な環境を提供します。従って採血後には採血口を希釈したポピドンヨード(10倍希釈)液で洗浄し、夜間帯で採血の無い時期でも定期的に行う必要があります。

 大気圧較正用の穴空きキャップは感染予防の面から好ましくありません。さらに血栓形成を予防する目的で、回路内を持続的にヘパリン加生理食塩水で灌流しますが、この際にも糖液の使用は感染予防の面から避けるべきです。

 感染症 通巻127号 P181

 丸石によると「エタノールが一番良い。」


p11

静注の速度

 静注速度が生体に何らかの影響を及ぼす場合、血中濃度または与薬量のいずれか、または両者に起因すると考えられます。前者では、血中濃度が治療効果と中毒症状を左右するため、静注速度は薬物動態理論から考えるのが妥当です。一方後者は、循環系の負荷、すなわち腎機能や心機能等を考慮して決定されるべきです。

 静注は、注射針穿刺時の疼痛、発赤、硬結、血管外への漏出、末梢神経障害、薬物アレルギー、静脈炎、静脈血栓、急激な血中濃度の上昇による副作用、点滴時にはある一定時間拘束されるなどの欠点もあります。しかし効果が確実、即効性である利点を考えれば、静注時の与薬速度を考えてることにより、副作用を極力少なくし、高い臨床効果を得ることが出来ます。

 静注速度について具体的に記載されている添付文書は、僅か40%程度で、それ以外は「緩徐に」「極めてゆっくり」などの抽象的表現や、記載なしがそれぞれ40%、20%と報告され、いまだに記載内容は十分とは言えません。

 一般的には、緩徐〜3分以上かけて、極めて緩徐に〜5分以上かけて静注することと解釈されています。また「緩徐に」は3〜5分または点滴では1ml/minとも言われています。

 最近の添付文書には、具体的にその与薬速度を指示しているものが増えているものの、ただ静注とか、点滴静注するとかの表示のみで、速度について一切表記されていない不十分な添付文書も多く、これらの不備について、早急な改善を医薬品メーカーに申し入れています。

  薬物動態理論

 薬剤を血管内に直接注入すると、薬剤は直ちに循環系に入り体内を循環し、生体内の各組織へと分布します。組織へ移行した後、薬理効果を現し、平衡状態が形成されると同時に、薬剤の肝臓での代謝や腎臓からの排泄といった全身からの排泄が開始され、やがて徐々に薬剤の血中濃度や組織内濃度は減少し、薬効は消失していきます。

 このような人体で起こる一連の変化を客観的に評価する場合は、できるだけ簡略化した、より実際的な薬物動態の理論が必要となる。その理論としてコンパートメント理論があります。

出典:医薬ジャーナル 1997.6



p12

適正使用の定義

1)医師が個々の患者に適切な薬剤を処方する。
2)その処方に基づき薬剤師が調剤する。
3)薬剤師が患者に薬剤を渡すと共に、必要な情報提供、服薬指導を行う。
4)患者が情報を正しく理解して薬剤を服用する。
5)薬剤の効果および副作用の情報が収集される。
6)その情報が次の処方の決定時に反映される。

 というサイクルが、適切に機能することがもとめられています。

 最も重要とされるのが、患者に対する情報提供であり、患者がそれを理解、納得して医薬品を服用することです。

  適正使用に必要な薬品情報 処方の公開

 薬剤投与の意義:薬剤投与の目的の伝達〜効能・効果
 服用方法・使用法:特殊な製剤の使用法の伝達〜DDS製剤、MDI、点眼剤、徐放性製剤など

 使用上の注意

  食物、食事との関係〜生物学的利用度・利用速度の変動
  服薬の時期:薬効の確保、副作用の回避
  副作用:重篤な副作用〜初初症状あるいは初期随伴症状の伝達

  その他の副作用〜高頻度の副作用、二次的に日常生活に影響を及ぼす副作用、尿、便の着色など
  相互作用、管理:貯法など

 

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