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1997年8月1日号  227

漢方製剤の適正使用

厚生省副作用情報解説

 

 漢方製剤の副作用は、使い方(いわゆる証)の誤りで生じるものと、そのものの薬理学的作用に基づくものに分けられます。したがって、漢方製剤の副作用を減じるためには「証」を理解し、「証」に従った処方をすることが大切です。今回は特に小柴胡湯の証についての記述を紹介します。  証の定義は、「患者が現時点で呈している病状を陰陽・虚実、気血水、五臓など漢方医学のカテゴリーで総合的にとらえた診断であり、治療の指示」です。ここで「現時点で」という理由は、漢方医学では疾病は流動的なものと理解しており時々刻々変化するものと認識しているからです。つまり「証」は固定したものではありません。

 証を特徴づけるもう一つの事柄は、患者の呈する個々の症状を個別に理解するのではなく、陰陽や虚実というような概括的なカテゴリーを当てはめることです。

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 闘病反応の様式が総じて熱性で発揚性のものを陽の病態といいます。この病態では発熱や自覚的な熱感があり、顔面紅潮や口渇があります。これに対して、生体反応が寒性で沈降性のものを陰の病態といいます。悪寒がみられ、また、耐寒能が低下し、顔面の蒼白、四肢末梢の冷えなどを呈するものです。

 流動・転変する病態を陰陽のカテゴリーで認識するものとして、六病位(右ページ参照)の概念があります。太陽病期は急性感染症の初発の時期にあらわれるもので、橈骨動脈が浮き上がり、頻脈を呈し、悪寒と発熱、頭痛などを示します。

 これら一群の症候をまとめて、太陽病期と認識します。太陽病期においては、橈骨動脈の緊張度が虚実判定の有力な情報となります。

 陽の病態の第2ステージを少陽病期といい、急性感染症では症状発現後の5〜6日を経過したものがこのステージに移行するものが多くみられます。
 
 午前中は平熱で夕方になると微熱が出、食欲不振、口の苦みなどを呈する。また、多くの慢性疾患は、このステージにとどまる。この際、微熱傾向、食欲不振、白〜黄色の舌苔を呈し、冷えや耐寒能の低下は伴わない。このステージでの虚実の判定は腹壁トーヌスと橈骨動脈の緊張度によってなされます。

 胸脇苦満は左右の肋骨弓舌部に筋肉防御が出現し、この部を圧迫すると不快感を自覚する症候です。この胸脇苦満を呈し、少陽病期のステージにある場合には柴胡を主剤とする一群の漢方薬の証といえます。

 すなわち胸脇苦満が中程度にみられ、腹壁のトーヌス、橈骨動脈の緊張も中程度であれば「小柴胡湯の証」です。

漢方製剤の一般的注意

  本剤の使用にあたって は、患者の証(体質、症 状)を考慮すること。
  なお、経過を十分に観 察し、症状・所見の改善 が認められない場合には継続使用を避けること。


漢方と新薬の併用

大建中湯とα-グルコシダーゼ阻害剤(ベイスン錠等)の相互作用

出典:大阪府薬雑誌 2000.12

 大建中湯には、コウイ(膠飴)、つまり麦芽糖や還元麦芽糖が多量(煎剤では40g、エキス剤では10g)に配合されています。

 麦芽糖つまりマルトースはα-グルコシダーゼであるマルターゼによって消化される糖です。その阻害剤を服用している状況では益々下部消化管に糖を供給し、症状を悪化させることもあり得ます。

 この考えに対し臨床的には変化が無いという報告も出ていますが注意する必要があります。

 α-グルコシダーゼ阻害剤は、アミラーゼやマルターゼといった等の消化に関与している酵素を阻害するため、結果的に糖の消化と吸収を抑え、多少食べ過ぎても血糖の上昇を抑えます。ところが、消化吸収ができなかった糖は下部消化管へそのまま移行していくため、腸内細菌によって発酵され放屁の増加であるとか腹部膨満、偽イレウス症状まで起こすことがあります。

 そこで、こうした偽イレウス症状に対応する意味で、術後の消化管の癒着やイレウスに非常に有用であるといわれている大建中湯が使われる場合が考えられます。

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<大黄と抗生物質>

大黄(ダイオウ)の活性物質は大黄に含まれるセンノサイドが腸内細菌によって分解されレインアンスロンとなり、この物質が腸管運動を亢進させ瀉下作用を発揮します。

抗生物質服用中は腸内細菌が減少しているためセンノサイド分解作用が抑制され活性物質の産生が減少しているので大黄による瀉下作用は著しく減弱することになるので注意を要します。しかし逆に急に抗生物質を中止すると、急速に腸内細菌が増加するので腸内に活性物質の産生が急速に増加し下痢を引き起こすケースもあります。

<大黄とアスピリン>

心筋梗塞や脳梗塞症の再発防止のためアスピリン製剤を使用しますが、アスピリンはプロスタグランジンEの産生を抑制し腸運動を亢進させる作用を阻害させますので、大黄の瀉下作用を減弱することになります。

<芍薬と抗コリン剤>

抗コリン剤による腸管運動抑制作用を芍薬が阻止するので抗コリン作用が減弱する可能性があります。

<麻黄>

麻黄の成分エフェドリン類は交感神経興奮作用が強いので動悸、息切れなどの出現が見られる場合がありますので、麻黄含有製剤同士の併用は避けるべきで、また副交感神経の作動薬(コリン作動薬)であるワゴスチグミンなどや交感神経遮断剤を麻黄剤と併用すると期待する効果が出てきません。


<ブシ剤とH2ブロッカー等>

ブシ含有製剤:牛車腎気丸、八味地黄丸等

H2ブロッカーなどを服用すると胃内のpHは上昇しブシ剤や麻黄剤の有効成分であるアルカロイドの吸収を高めるとの報告があります。(昭和薬科大学 田代真一教授)

H2ブロッカーや重曹など胃酸を中和したり低下する働きを持つ胃薬と八味地黄丸や真武湯などブシ剤あるいは麻黄剤を併用するときはブシ剤や麻黄剤の血中濃度上昇などの副作用に注意が必要です。

ブシ剤の副作用として、口唇や舌のしびれ感や異物感、唾液分泌過剰、皮膚の蟻走感などが現れた場合には使用を中止すべきです。

煎剤で多量のブシを使用するときは特に注意が必要です。

出典:薬局 2000.12


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健康食品と医薬品の相互作用

2002年2月1日号 330

 近年、健康食品の関心が高くなっています。海外では、健康食品の効果が大規模臨床試験で検証されつつあるのに対して、日本での臨床研究はほとんど進んでいないのが現状です。
 一般に健康食品は安全であると認識されていますが、食経験のないプロポリスやハーブ系の健康食品では各種の有害事象が報告されています。

      {参考文献}治療 2002.1

<健康食品と医薬品の相互作用>

・フィーバーフュー←→抗血小板剤(血栓予防剤)の作用増強
ニンニク    ←→ 同上  ニンニクには血小板凝集抑制作用がある。
         *少なくとも術前7日間中止
・ショウガ    ←→ 同上    ;出血時間の延長
         ショウガにはトロンボキサン合成酵素抑制作用がある。
・イチョウ    ←→NSAIDs、ワーファリン錠  血小板凝集抑制作用の亢進
         ←→抗痙攣剤の効果減弱
         ←→サイアザイド系薬剤:血圧上昇
        *少なくとも術前36時間前からの中止〜出血リスクの増加
・バレリアン   ←→バルビタール系薬;睡眠を延長
        *麻酔薬の鎮静作用増強、ベンゾジアゼピン系様の禁断症状、長期摂取による麻酔薬必要量の増加
・カバ(kava)   ←→睡眠薬、精神安定薬、向精神薬:錐体外路症状が出る可能性
      *少なくとも術前24時間前から中止  麻酔薬の鎮静作用増強、耽溺、耐性、禁断症状(未研究)
・ビタミンA   ←→テトラサイクリン  薬剤誘起性頭蓋内圧亢進(激しい頭痛)
・ビタミンB6   ←→L-dopaの作用増強
・葉酸      ←→フェニトインの濃度低下
・ビタミンC   ←→エストロゲン、ホンバン
         血中エストロゲン濃度の上昇
・ビタミンD   ←→ジゴキシン毒性増加
・ビタミンK   ←→ワーファリン錠の効果減弱
・クロレラ    ←→ワーファリン錠の作用減弱
・青汁      ←→  同上
                共にビタミンKを含むため
・朝鮮人参    ←→ワーファリン錠、NSAIDs     抗血小板作用増強
         ←→コルチコステロイドの副作用増強
セント・ジョーンズ・ワート
         ←→フェルデン、テトラサイクリン   光線過敏症
         ←→SSRI:頭痛、発汗、立ちくらみ
         ←→CYP3A4、2C6で代謝される医薬品の作用減弱
         ←→ジゴキシンの作用減弱(P糖蛋白を誘導)

血圧降下作用のある健康食品←→ACE阻害剤の効果が増強する可能性。ACE阻害剤の血中濃度が変化する可能性。消化管で、ACE阻害剤と競合する可能性。

・血糖が気になる方の特定保険用食品
(難消化性デキストリン、グァバ葉ポリフェノール、小麦アルブミン、Lアラビノース)
   〜糖の吸収を遅延させる作用がある。
       SU剤、インスリン分泌促進剤、インスリンの血糖降下作用が増強

 日本では、国家資格を必要とする代替医療、必要としない代替医療、漢方薬特定栄養食品健康食品による治療法などが混在しています。

 臨床的に効果の証明されている代替医療は少なく、臨床研究、情報公開が極めて乏しいため、日本の医療関係者は、行動医学、栄養学、その他の代替医療に関する十分な情報、知識を持っていないのが現状です。

 現行の医療制度に代替医療を組む込むことで、より良質な医療を提供することが求められるようになってきています。



プラセボはオズの魔法使いなのか(最終回)

 前号まで、プラセボについて色々な角度から考えてきたのですが、まだまだ言いたいことがあります。まとめにはなっていないのですが、書き残したことを、思いつくままに書いてみます。

・何の薬か分かっていた方が薬は良く効くはずだ。
 筆者は、お薬を窓口で患者さんに渡すときに、出来るだけ何の薬か言うようにしています。それは、解熱鎮痛剤などが、処方されている場合、患者さんがどれが痛み止めか分かっていた方が効果があると思うからです。
 薬理作用に暗示効果がプラスされることで、より効果が現れるかもしれません。中には、病院にかかって高い治療費を払ったのだから、病気が治るはずだと信じておられる患者もいらっしゃるかもしれません。

・ニトログリセリン
 かつて狭心症の発作時にニトログリセリンを使用していましたが、ニトログリセリンは揮発しやすく1ヶ月経つと無効になります。それでも、発作には効果があったという報告があり、これはプラセボ効果だったのではないかと言われています。現在では硝酸剤は改良され、揮発性はなくなりました。しかし、硝酸剤は毎日飲み続けると、耐性が出来ることが確認されています。にもかかわらず臨床の現場では、耐性に関する報告はそれほど多くありません。ということは、これもプラセボ効果の可能性があります。

 つまり、狭心症の患者さんは、薬を飲んでいるだけで安心し、それだけで発作予防には効果があると思われます。

・白衣高血圧症
 お医者さんの前に出ると、緊張して血圧が上がる人がおられますが、これは「あがり症」と関係があると思われます。あがり症の人は大事な場面で緊張してしまって普段普通に出来ることができなくなってしまいます。人という字を手のひらに書いて飲み込むと良いといいますが、これは完全にプラセボと同じ発想です。

・水虫にプラセボが有効?
 水虫にもプラセボが有効だという記事も見た記憶があるのですが、これなどはプラセボを用いるために、まず患部を綺麗にする必要があり、毎日患部を綺麗にしていることで治った可能性があります。

 多くの病気では薬物によらない治療法もたくさんあるのですが、薬を飲まないと頼りなく思う患者さんもおられるわけで、生活指導+プラセボ薬で効果が現れる可能性もあります。

・ダンボの羽はプラセボ!

 ダンボは、ネズミのチモシーに、カラスの羽を魔法の羽と信じ、安心して空を飛ぶようになりました。
 人間は、笑うだけでNK細胞を活性化し、免疫力が増強します。患者さんに安心感を与え、生活面で患者自身が努力するきっかけとなるような使い方であれば、プラセボは、それなりの価値があると思います。

 オズによって希望をもらったドロシーは、その後、さらなる努力の結果、ふるさとのカンサスに帰ることが出来ました。

           おしまい。

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