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1997年10月15日号 232

ACE阻害剤による血管浮腫

シリーズ副作用を考える(3)

   ACE阻害剤によって生じる血管浮腫は、顔面、頸部に好発し、気道狭窄を引き起こした場合には、急激に呼吸困難に陥り、死亡例も報告されています。

 初期症状に気づいた場合には、直ちに主治医に連絡し、指示を確認するように指導する必要があります。主治医と連絡が取れない場合などでは、救急車等を利用して挿管、気管支切開などの処置が必要です。

{参考文献}重大な副作用回避のための服薬指導集 日本病院薬剤師会編

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 ACE阻害剤による血管浮腫は、大部分の症例で顔面(眼瞼、頬)、口唇、舌、咽頭領域に生じることが報告されています。一部の症例では、四肢、躯幹、陰部などにも浮腫状腫脹を呈することがあります。

 最も早いもので服用1時間後、多くの症例で1〜21日に発現することが報告されています。ただし、一部の症例で服用開始数年後に血管浮腫が発現したことが報告されていますので、好発時期以降であっても本症の発現に留意する必要があります。

 ACE阻害剤はアンギオテンシンTからUへの変換を阻害すると同時に、ブラジキニンの不活化に関与するキニナーゼUを阻害することが知られています。この結果、血管作用性のキニンが皮下組織中に局所的に蓄積することが血管浮腫の発現に関与しているとの指摘があります。

 また局所性のキニン蓄積だけでなく、ACEにより不活化されるサブスタンスPの関与や血管拡張性のプロスタグランジンなどの関与も考えられています。

 一方、ACE阻害剤の服用開始後、数週間から数ヶ月経った後に現れる浮腫は薬剤誘発性の自己免疫病変に基づいているとの仮説もあります。

[患者さんに伝えるべき症状]

「くちびる、舌、口内、まぶた、顔、首などがはれる、話しづらい、呼吸が苦しくなる」などの症状に気づかれた場合は、服薬を中止して主治医と連絡をとり、とにかくすぐに病院に受診して下さい。

[治療法]

 ACE阻害剤を中止すれば、浮腫はほとんどの場合24〜72時間以内に消退することが報告されています。浮腫が咽頭領域に生じた場合には、呼吸困難により致死的経過をたどります。

1、初期症状に気づいた時点で、直ちに服用を中止することが大切。
2、浮腫が咽頭、喉頭領域に生じた場合には、挿管、気管切開術などにより気道を確保するための救急処置が必要。
3、アドレナリン、副腎皮質ステロイド剤、抗ヒスタミン剤の投与が奏効したことが報告されています。


当院採用のACE阻害剤

アデカット錠
インヒベース錠
セタプリル錠
タナトリル錠
レニベース錠
ロンゲス錠

上記薬品すべての添付文書には、重大な副作用として血管浮腫が記載されています。


発現頻度をどう考える?

 副作用シリーズも第3回になりました。連載を始めるために、勉強し直して様々なことに気づきました。正直言って筆者(薬剤師)も、副作用については通り一遍のことしか知らなかったんだなあと改めて反省しています。

 今回問題にしたいのは、副作用の発現頻度についてです。左のページで取り上げましたACE阻害剤による血管浮腫の発現頻度は下記の通りです。

カプトプリル;未採用 0.1%
エナラプリル;レニベース 0.2〜0.4%
ヘナゼプリル;未採用 0.2〜0.5%
リシノプリル;ロンゲス 0.1〜0.5%

 そしてこれらの数値は、すべて海外のもので日本国内では、発現頻度に関する報告はありません。

 なあんだそれなら、日本ではこの副作用は1例も起こっていないんだ。それならわざわざ書くこともないなあと一旦思ったのですが、もう一度考えなおしてみました。

 海外で報告されていて、日本では報告されていないという場合次のようなケースが考えられます

1、日本人と外国人とでは体質が違う。
2、日本でも同様の副作用が発現しているのだが
医師・薬剤師が薬の副作用とは気がつかな
かった。
3、日本ではまだ発現していないが、それはたま
たまのことであって、これから絶対にこの副
作用が発生しないとは言えない。むしろ発現
する可能性の方が高い。

1、のケースも考えられないこともないのですがやはり日本でも同様の副作用が起こり得ると考えた方が無難でしょう。そして発現頻度が低いからといって、甘くみていると、大変なことになるのもこれまでに述べてきたところです。ACE阻害剤による血管浮腫では死亡例もあるそうなので、注意が必要です。
またACE阻害剤のように使用頻度が高い薬でもこのような重篤な副作用があることを常に留意しておく必要があります。


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降圧作用のある健康食品

2001年3月1日号 No.309

 「血圧が高め方の食品」と表示が許可されている主な特定健康保健用食品が、厚生大臣の許可を得て発売されています。

 その成分はラクトトリペプチド、かつお節オリゴペプタイド、いわしペプタイドなどのオリゴペプタイドでその降圧作用は、ACEの阻害であると考えられています。

{参考文献}薬局 2001.2

「血圧が高めの方の食品」と表示が許可されている主な特定健康保健用食品

*カルピス酸乳「アミールS」カロリーオフ
  :ラクトペプチド(乳製品乳酸菌飲料):カルピス

*ペプチドスープ

  :かつお節オリゴペプチド(粉末スープ):日本サプリメント

*ペプチドおみそ汁
  :かつお節オリゴペプチド(粉末みそ汁):ヤマキ

*ラビスサポート:常磐薬品工業
*ヱスビーマリン:仙味エキス

  :サーディンペプチド(清涼飲料水)

*杜仲120:杜仲葉配糖体(清涼飲料水):日立造船

<摂取上の注意>

 本品は高血圧症の予防薬および治療薬ではありません。長期摂取することにより、まれに咳が出ることがありますので、このような時は使用を止めるか医師にご相談下さい。高血圧症治療中の方、妊婦中の方、腎不全の方は、医師とご相談下さい。

(杜仲120には咳、妊婦への記述無し)
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 これらの食品は、強い降圧作用が無く、食品であることから、薬に対して抵抗感がある人や、食事に気を付けなければならない患者さんにとって、気軽に飲める商品です。これらの食品が、その摂取の仕方によって、高血圧治療の一端を担うものとして有効に利用されていくことが期待されています。

「高血圧の予防薬、治療薬ではない」といっても、その入手が容易だけに注意が必要です。

 薬局やドラッグストア、スーパーなどの店頭だけでなく、インターネットを通じて国内外から通信販売で簡単に入手することが出来ます。それは個人の判断で、自由に摂取することが出来ることを意味しています。

 ACE阻害薬は、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には禁忌となっています。

<臨床での注意点>

1)副作用(咳等)がでるのか
2)その副作用は、ACE阻害剤の副作用と類似しているのか
3)副作用頻度
4)ACE阻害剤と同時に服用した場合、ACE阻害剤の作用は増強されるのか、減弱されるのか
5)他の系統の降圧剤と併用したときの安全性、危険性

 以上の点については、十分な検討報告がなされていません。

<特定保健用食品>

 特定保健用食品とは、栄養改善法第12条第1項に基づいた特定用途食品で、厚生大臣の許可を受けて、保健の用途、効果が許可された食品のことです。

 この制度は日本独自のもので、平成3年9月から開始され、表示許可を受けた食品数は、平成12年196商品です。

 そのうち、「血圧が高めの方の食品」と表示が許可されている商品は12商品です。

関連項目:代替医療ダイエトリー・サプリメント

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DASH食

DASH:Dietary Approaches to Stop Hypertension
血圧の食事療法

DASHテストで検討された高血圧の食事療法として最適な食事のこと。

DASHでは血圧の上昇を抑える非薬物療法的方法で大切な物が食事であるとの観点から、これまでの食事成分単独を調べていたのとは異なり、食べ物の組み合わせで血圧の上昇を抑える効果を調査する研究が行われました。

その結果、果物と野菜を多くし、飽和脂肪酸と全脂肪含有量を減らし、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マグネシウム、良質な蛋白質を含む食事がDASH食として推奨されています。

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栄養機能食品

出典:日本薬剤師会雑誌 2001.3

本年(2001年)4月から新たに認められる保健機能食品のうち栄養機能食品は、ビタミンやミネラルを一定量含む食品で、含有量等の基準を満たしていれば、個別に厚生労働大臣の許可を得なくても医薬品と誤認されないよう「栄養機能食品」と表示し、次の要件を満たす場合、一定の表示を認めようとするものです。

1.国の栄養目標及び健康政策に合致したものであること。
2.栄養成分の補給・補完あるいは特定の保健の用途の資するものであることを明らかにするものであること。
3.表示の化学的根拠が妥当なものであり、かつ、事実を述べたものであること。
4.消費者への適切な情報提供の観点から、理解しやすく正しい文章及び用語を用いた明瞭なものであること。
5.過剰摂取や禁忌による健康被害を防止する観点から、適切な摂取方法等を含めた注意喚起表示を義務づけること。
6.食品衛生法、栄養改善法、薬事法等の法令に適合するものであること。
7.医薬品と誤認されないよう、保健機能食品(特定健康用食品)である旨明示するとともに、疾病の診断、治療または予防に関わる表示をしてはならないこと。

 具体的には、栄養機能食品は、食品衛生法に規定された一定の表示をするほか、次に掲げる事項を必ず表示しなければならないことになっています。

1.保健機能食品(栄養機能食品)である旨
2.栄養成分の表示(機能表示する成分を含む)
3.栄養機能表示
4.1日当たりの摂取目安量
5.摂取方法
6.1日当たりの栄養所要量に対する充足率
7.摂取する上での注意事項
8.本品は、特定保健洋食品と異なり、厚生労働省による個別審査を受けたものではない旨



* ビタミンD
 栄養機能表示:ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です。
 注意喚起表示:本品は多量に摂取しても疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。
       :本品の多量摂取により、悪心、嘔吐の症状が現れる場合がありますので、1日の摂取
       :目安量を必ず守って下さい。

* カルシウム
 栄養機能表示:カルシウムは骨や歯の形成に必要な栄養素です。
 注意喚起表示:本品は多量に摂取しても疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。
       :本品の多量摂取により、頭痛、めまい、嘔吐、筋肉痛の症状が現れる場合がありますので、1日の摂       :取目安量を必ず守って下さい。


霜焼けは冷やせば治るか?

ステロイドを考えるシリーズ(1)

 このシリーズは、新潟大学医学部医動物学の安保徹教授が「治療」に1999年から2000年にかけて連載されておられたものを再構成したものです。


 NSAIDsもステロイドも消炎剤と呼ばれ、その消炎メカニズムを正しく理解しないままに臨床で広く使われています。特に、ステロイドホルモンは冷え(生体反応の抑制)による組織反応の消失というメカニズムで消炎を行っていて、治癒での消炎とは全く別の世界なのです。

 生体反応の抑制による抗炎症作用であれば、霜焼けの手足をもう一度、冷水につけているようなもので発赤や痒みがとれても治癒と言えません。ステロイドによる抗炎症作用も同様の意味を持っていると考えられます。

 臨床医も免疫学者も漠然と「自己免疫疾患(膠原病を含む)は免疫亢進作用によって引き起こされている」と理解しているようです。

 ところが、ここ数年の研究で「自己免疫疾患は免疫抑制の極限状態のために引き起こされている」と考えざるを得ない結果が出つつあります。

 霜焼けや潰瘍を治癒させるためには、血流障害からの回復が必要で、治癒過程で発赤、発熱、痒み、痛みが伴います。霜焼けや皮膚(粘膜も含む)の潰瘍形成の原因は寒冷や圧迫であっても、交感神経緊張持続による血流障害と顆粒球増多によるものです。

 膠原病や自己免疫疾患は全身性や局所性の炎症で、発赤、発疹、発熱、痒み、痛みが伴います。これらの組織反応や症状形成にはプロスタグランジン、アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンなどの多くの因子が関与していますが、副交感神経反射による「血流障害からの回復反応」と理解する必要があります。

 膠原病や自己免疫疾患の場合は、ウイルス感染や激しいストレスによって血流障害、顆粒球増多、組織破壊が起こったためであると思われます。したがって、血流障害からの回復のために出る症状は患者にとって不快で不安なものかもしれませんが、健常組織に回復するためには通過しなければならない症状とも言えます。

 もし霜焼けがいかに赤く腫れて痒くても、もう一度その部分を冷却することは症状が治まったとしても治癒を意味しません。症状自体を治療の目標に掲げると、病気の真の治癒にはむしろ逆効果となっているのは良く知られているように対症療法の落とし穴です。

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