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費用効果分析とは

Cost-effective Analyses

ファーマコエコノミクス:薬剤経済学

2000年6月1日号 292

     医師は患者個人の問題だけでなく社会(地域)全体の医療にも責任を問われるようになってきています。

 欧米では、医療技術の進歩により医療費は増大し、いかに効率的に医療資源を利用するかが求められるようになってきています。この際に用いられるのが、費用効果分析です。

 費用効果分析とは、医師と患者の個人レベルの分析法ではなく、集団に対してどのような治療法が良いかを選択する方法です。

 費用効果は、ある治療法により別の治療法へ切替えることによる効果1単位あたりの費用で現されます。

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 具体的には、効果に対する費用の比率として測定され、増分または限界費用効果比は、ある治療法より別の治療法へ切替えることによる効果1単位あたりの費用推定であり、

 増分費用効果比=費用の差/効果の差

 費用の差(ある医療行為の費用−代替案の費用)
 効果の差(ある医療行為の効果−代替案の効果)
                      として表されます。

 費用効果分析を検討する場合はすべての効果を数値で表現する必要があります。

 病気の転帰には、死亡、疾患(一群の症状、身体兆候、検査異常)、不快、能力障害、不満足があげられていますが、費用効果分析では生活の質で調整された余命(QALY:Quality-adjusted Life Year)が比較的頻繁に使用されます。

 QALYは健康上の利益を数値化するために使用される方法であり、余命と疾患による苦痛を組み合わせた効用尺度です。

 不完全な健康状態で過ごす余命年数を完全な健康状態での余命年数に置き換えた場合にどのくらいになるかで測定され、全く健康な状態での余命1年は1.0QALYであり、0.4の価値しかないと評価される健康状態での余命1年は0.4QALYです。

 費用には直接費用・共通費用・誘発費用により構成される生産費用と間接費用があります。

 高脂血症で冠動脈疾患発症予防の費用効果分析では、直接費用としては薬剤費の他に血清脂質測定のための設備費・人件費・材料費があり、冠動脈造影などの検査が必要になればその費用が、冠動脈バイパス術が施行されればその手術費用を含む諸費用が算出されます。病院に入院すれば入院に伴う共通費用が発生します。

 これらの費用を全ての症例で算定することは多くの場合困難であり、多くの場合、保険データベースからの情報やサンプル調査での結果が使用されています。

 間接費用は、入院などによる生産性の低下や賃金の損失により生じる費用です。

 一般に費用効果分析は医師と患者の治療の現場に役立つ個人レベルの分析法ではなく、集団に対してどのような治療法が良いかを選択する方法です。しかし、臨床医は、費用効果分析の結果が治療法の制限やガイドラインでの勧告に影響していることを理解し診療しなければなりません。また新しい治療法の効果と費用との関係も従来法と比較して考える必要があります。

 費用効果分析の成績は新しい治療法の過剰な使用を制限するように働く効果があります。しかし、患者への治療選択では、常に経済的立場よりも医療倫理の立場から治療法の選択を考えなければなりません。

{参考文献}治療 2000.5

<<実例>>

 米国でのスタチン系薬剤の費用効果比は、一時予防では2万〜4万ドル/QALY、二次予防では1万2千ドル/QALYと算定されています。

 米と患者背景が異なる日本では、スタチン系薬剤は心筋梗塞再発予防または冠動脈疾患ハイリスク患者(高コレステロール値以外のリスク因子を3個以上有するなど)への使用が費用効果的であると思われます。


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医薬品適正使用と薬剤疫学

2004年10月1日号 No.392

 医療費の高騰が大きな社会問題と認識されており、医療費の適正化が求められてきています。

 今後、薬物療法の経済的エビデンスの蓄積を図り、臨床的側面だけでなく経済的側面からも適正と考えられる薬物療法を実践していくことが求められています。

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 近年、薬剤疫学の研究領域には、医薬品の使用実態や、経済性に関する研究などが含まれてきています。特に経済性については、治験で計測した費用データは、市販後の状況を必ずしも反映していないことから、薬剤疫学的な手法により評価を行うことが必要とされます。

 医薬品の適正使用とは、「まず、的確な診断に基づき患者の状態にかなった最適の薬剤、剤型と適切な用法・用量が決定され、これに基づき調剤されること、次いで、患者に薬剤についての説明が十分理解され、正確に使用された後、その効果や副作用が評価され、処方にフィードバックされるという一連のサイクル」をいいます。

 当該薬物療法が、比較対照と比べて臨床的に優れている場合や等しい場合、費用面での優位性を示すことに意義があります。しかし、高価でも臨床高価が優れる薬物療法も存在します。このような場合、費用の面では高価な投資であったとしても、その追加支出に見合うだけの便益や健康結果が得られるならば、経済的に優れているとも言えます。逆に言えば、安価であることが示されたとしても、「安かろう、悪かろう」では経済性に優れているとは言い切れないのです。

 効果に関する指標は、様々なものが考えられますが、健康結果の指標として金銭的価値を用いるか、あるいは非金銭的価値(物理的単位)を用いるかによって2つの方法に大別されます。

1)費用/便益分析
  cost-benefit analysis

 健康結果を全て金銭価値に置き換えて費用との関係を評価する方法

 この方法では、投資した費用よりも大きな経済的便益が得られるならば、その医療行為は経済的であると言えます。すなわち、便益/費用比の値が1以上、またはその純便益(便益−費用)の値がプラスの場合は、その医療行為は経済的に見て実施する意義があるものと結論づけられます。

2)費用/効果分析
  cost-effectiveness analysis

 同一の尺度を用いて複数の医療行為の効果を定量評価し、費用との比較を行う方法

 例えば、新旧の降圧剤の比較をする場合、「血圧の正常化率」をその効果の指標として用いた場合、新薬の方が効き目に優れ、血圧の正常化率が極めて高いなら、新薬利用に際して発生する費用が、より高価であったもよいと考えられます。もちろん、効き目が2倍であるからといって費用が2倍でもいいと単純に言い切ることはできませんし、何の効果を尺度とするかによって、分析結果は当然変わってくるので、分析に際しての効果の尺度を選択する際や、分析結果を解釈する際には注意を要します。

 {参考文献}医薬ジャーナル 2004.9

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医学・薬学用語解説(N)

NAB:Nocturnal Gastric Acid Breakthroughは
こちらです。


<用語辞典>

デルファイ法
Delphi method

 専門医の意見を集約して治療スケジュールを構築する場合は、偏りを減らす為になるべく複数の専門医に対して意見を求めることが望ましいが、このような場合にしばしば用いられる方法です。

 先ず複数の専門医に対してある調査を行い、回答が集まったら、集計結果(通常どの回答が誰のものかは明らかにしない)を提示しながら再度同じ調査を行います。各回答者は他の回答者の回答結果の分布と自分の意見を比較した上で再度回答します。こうしたプロセスを通常3回繰り返し集約された回答を調査結果として用います。

 この方法による調査を行う場合に最も重要なことは、調査に参加してもらう専門医に対して調査の方法(繰り返し調査であることや他の回答者の意見を参考に自分の回答の修正をしてもらうこと)を事前に十分説明しておくことです。

              出典:薬局 2002.9  薬剤経済学 費用の情報源

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  日本語では、「直感的未来予測法」と意味がなんとなく理解できる訳が付けられています。  予測したテーマについて多くの専門家がそれぞれに独自に意見を出し合い(アンケートによる質問など)、お互いの意見を出し合うという作業を繰り返し行うことで、意見を集約し、未知の問題に対して一定の範囲に収束していきます。

 この意見集約や合意の手段としてはface to face の会合による意見交換の方法が一般的に用いられ、 確実さの度合の高い見通しを得ていく方法です。  この方法は「匿名回答」「反復とコントロールされたフィードバック」「統計的なグループ回答」という特徴を持っていますが、一方で、「専門家の定義や選出方法」「アンケートの質問の適正さ」「意見の一致の強要や誘導」「集約手法の信頼性や妥当性」「未来予測の限界」など、この方法の問題点も指摘されています。 デルファイ法を実施する際は、手法の限界を十分に理解した上で、適切に実施することが必要になります。 この方法はよく使用されている「ブレーンストーミング」による問題点の把握や要因分析法とよく似ています。

 この方法は、将来起こりうる事象に関する予測を行う定性的な調査方法としてよく用いられます。元々はアメリカ軍から調査依頼を受けた研究機関会社ランドコーポレーションが開発したものです。  現在はアメリカ国内だけでなく、ヨーロッパにも研究所があり、他の政府機関や民間企業からの依頼も受けています。

  {参考文献} RAD-AR NEWS Series No.84     October.2008  


ペリプラスム
ペリプラスミックスペース
細胞周辺腔

細胞で、細胞膜より外側に生じた空間のこと。

グラム陽性菌で生じた空間もペリプラスムと呼ばれることもあますが、一般にはグラム陰性菌で、内膜と外膜の間に生じた空間を意味しています。


**トピックス**   2000年6月1日号 292

蛋白競合による薬物相互作用は嘘だった!!

{参考文献}Hospha 1999 No.5 (エーザイ資料)

 相互作用として良く知られている蛋白競合の理論が実は間違っていたそうなのです。

 私の知っている蛋白競合による薬物相互のメカニズムはこうです。体内に入った薬は血液に運ばれて移動しますが、その際に血液中にある蛋白質と結合することがあります。蛋白質と結合した薬はもとの薬とは構造が異なってしまうため、目的とする薬効を発揮しません。

 薬物がその薬効を発揮するには、薬物が作用部位に到達することが必要ですが、蛋白と結合して巨大な塊となっている結合型の薬物は作用部位に到達できません。したがって、薬理効果は遊離型薬物が作用部位(受容体など)へ到達することにより引き起こされると想定できます。

 例えばAという薬を10mg飲んだとして、50%が蛋白と結合したとします。これが普通の状態なのですが、そこに新たにBという薬をAと同時に飲んだとします。Bという薬も血液中の蛋白質と結合します。Bが結合した分の蛋白質は元Aが結合していた蛋白質なのですから、その分量だけAは蛋白質と結合しないことになります。つまり蛋白質と結合しない遊離型のAの量が増えます。ということは、Aの効き目が増大することになります。 さて、この理屈のどこが間違っているのでしょうか?

 遊離型の薬物が効果を発揮することは、実際に確認されています。Bを飲むことによって、今まで蛋白と結合していたAが追い出され、そのため遊離型のAが増えることも試験管内では確かめられています。ですから血液内に関しては、左の理論はあっているのです。

 しかし、一般的な薬物での血漿蛋白結合部位での結合・追い出しの生じる場である血液は体重の約7%を占めるに過ぎません。そして、遊離型薬物は血管内のみに分布するわけではなく、組織中の遊離型薬物濃度と平衡状態を保ちつつ組織にも分布しています。

 例えば、ある薬物が組織内に血漿中と同一濃度で分布すると仮定すると、成人の薬物の
分布容積は体重から考えて約50〜60Lはあると推測されます。事実、薬物の分布容積が血液容積である5L前後と小さい薬物はまず存在せず、多くの薬物は分布容積は20L以上です。言い替えれば、ほとんどの薬物は血液中のみならず組織にも分布しています。

 脂溶性の高い薬物では、
分布容積が数百Lに及ぶ例も珍しくありません(ジゴキシンの分布容積は250L)。このように考えると血液中に存在する薬物量が体内総量と比べていかに小さいかが分かります。血液中で蛋白と結合している薬の量など、問題にするのがおかしいのです。(次号に続く)



セント・ジョーンズ・ワート
st.john‘s wort:セイヨウオトギリソウ

 ドイツでは抗うつ剤として使われていますが、英国や米国では医薬品として認められていません。日本でも医薬品として承認されていませんが、通販等で入手可能です。

 アロマテラピィの辞典によると使用部位は花を含む地上部で有効成分は配糖体、フラボノイド、タンニンで作用は緩和・精神安定・消炎・鎮痛となっています。

 作用機序は最近日本で承認されたSSRIと同様に脳の作動性神経を活性化すると言われてます。

 マルカム・スチュワートの「世界の薬用植物」によると「ギリシア人がこれにヒペリコンという名をつけて以来、もっぱら想像上の不思議な性質を連想させてきた。このことはその匂いが強く、悪霊を追い払うほどであることを暗示するものであり、そのことが空気を浄化するものとして信じられていた。葉を押しつぶすと、油線から香料に似た芳香性の香りを発する。また黄色い花を押しつぶすと、赤い蛍光色素を放出するために赤色に変わる~赤い色はもちろん血を意味し~これは確かにこの薬草をめぐる民間伝承ができ上がってくるための重要な要因であった。この薬草が聖ジョンの日(6月24日)に満開になるのでセント・ジョンの草として知られるようになった、・・・ということで西洋の民間療法ではほぼ万能薬に近い状態(傷薬から抗抑鬱薬まで)いろいろな状態で使われていました。しかし、ここ数年はUSAを中心として「SSRIの代用薬?」「天然成分のSSRI」をうたい文句として使われていたようです。で、話がアメリカンになるとハーブティーに入れてチマチマ飲んでいたのが、ドヒャット乾燥のハーブのカプセル入りなんて具合の物が市場に出回っていたようです。日本の健康食品でも何種類かは含まれているそうな
・・・

{添付文書改定のお知らせ}

<併用注意>

 セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品〔本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれがあるので、本剤使用時はセイヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意すること。

抗てんかん薬:フェノバール、アレビアチン、ヒダントール
       フェニトイン、テグレトール
強心薬:ジギトキシン、ラニラピッド

気管支拡張薬:ネオフィリン、テオドール

抗不整脈薬:硫酸キニジン、リスモダン、プロノン、キシロカイン

血液凝固防止薬:ワーファリン
免疫抑制薬:サンディミュン
抗HIV薬


 セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品〔本剤の効果の減弱化及び不正性器出血の発現率が増大するおそれがあるので、本剤使用時はセイヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意すること。〕

経口避妊薬 :エリオット21、シンフェーズT28、、オーソM-21、リビアン28

 *米国では、代替医療への関心の高まりとともにハーブの使用が流行し、臨床現場では、ハーブが原因とみられるトラブルが発生し問題となっています。多くの場合、セント・ジョーンズ・ワートが薬物代謝酵素P−450(CYP)を誘導するためと推測されています。


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医療の不確実性と決断分析

 2002年10月15日号 347

   {参考文献}治療 2002.10

 医療現場では、同じ状況(疾患やリスク)であっても、個人によってあるいは置かれている環境によって微妙に結果が異なる現象がしばしば見られます。
 このような現象は「不確実性」と呼ばれ、どの様な分野でも存在する概念ですが、特に医療においては、その後の意思決定、患者の予後に深く影響し、避けては通れない重要な問題です。

 不確実性は、臨床経過との予測が完全(100%)でないことに起因するfirst-order uncertainty:1次手的不確実性とその確立自体が点(注:下記参照)として表現できないことに起因するsecond-order uncertainty:2次手的不確実性があります。

 1万人の患者がいたとすれば、どの患者がどの道筋をたどるかは分かりません。このような不確実性を1次手的不確実性と呼びます。また、確率として表してもなお、確率の中に存在する不確実性が問題になります。

 例えば「健康」から「脳動脈破裂」に移行する可能性は、年間約1%と考えられますが、1万人の患者が入れば、ある年度内に破裂する患者が確実に100人ではなく、ある年度には97人だったり、別な年度には105人だったりします。この不確実性を2次手的不確実性と呼びます。

 予測を出来るだけ正確に行うには、医学的にリスクが同じ(同じアウトカム:結果)を持つと考えられる人々を抽出します。しかし、同じグループの中に分類された人であっても、異なる結果になることがあります。

 本来は、均一であると思われた集団が不均一で、例えば98人が成功し、2人が失敗した場合には、失敗率は2%と表現されます。本来は、この2%の人を他の98%の人とあらかじめ区別できるようになることが一番良いのですが、簡単ではありません。

 均一であると考えられた集団に結果が異なる(不均一である)理由は次の3つが考えられます。

 1)現在明らかにされていない未知のファクターの存在(個体差を含む)
 2)予想外のイベントの存在(医療事故など)
 3)内在する不確実性(ランダム・エラー)

 3)は偶然による影響で、これを人為的に排除することは不可能です。これらをまとめて不確実性と呼びます。

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 臨床では、現時点で入手されるエビデンスは限られていて、常に完全な意思決定を行うことは難しく、そこで登場した概念が決断分析です。

 「複数の選択肢の中で、眼前の患者にとって何が最適か?」というといに対する数理定量的なアプローチを決断分析と言います。

 現状で入手可能なあらゆる知識を総動員して意思決定のプロセスを明示化し意思決定に重要な因子を考慮することが求められています。そうすることで様々な医療職や患者、家族など複数の人々による意思決定を体系化することができます。

 決断分析に必要なステップは、1)プロセスのモデル化、2)確率データの入手、3)患者のQOLの数値化です。また、個人ではなくある一定の集団に対する場合では、4)コストも考慮されることになります。この場合には、
費用分析(費用最小化分析、費用効果分析)と呼ばれています。

(注):確率の表記(点、線、分布)

1.点:%表記〜点で考える場合に不確実性は一切考慮されないことになります。
2.線:波線で表した場合〜死亡率約1〜3%なら確率は1%から3%のどれか
3.分布:2%の確率で、幅は1%から3%なら、多くの場合は2%付近での確率と考えられ、その不確実性は、ある分布に従うという考え方です。

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EBMの理念

・医学、医療は不確実だということから目をそらさない。
・治療を受けるのは人間なのだから、意に沿わない治療は有ってはならない。
・治療をするのも人間である。
・人体のメカニズムよりも、実際に数多くの人間で確かめたときの効き目を重視する。
・現状で最高の医学知識を治療に応用するために、随時、医学情報を集め、検討する。
・理屈よりも結果が大事

PECO

EBMのステップ
            例
P:patient 患者  男性63歳 非小胞性癌 第2期
E:exposure 介入(治療)タキソール+ジェムザール
C:comparison 比較する治療 手術のみ
O:Outcome 結果は? どちらの方が、癌の進行を長く遅らせるか?

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PECO〜問題の定式化

 どんな患者に、どんな治療をして、どんな治療と比べて、どんな効果があるのかを定式化します。

  例を挙げると、2型糖尿病患者(P)に、アクトス錠を用いて(E)、用いなかった場合と比べて(C)、糖尿病合併症や心血管疾患がどれほど減少したか(O)、という具合になります。

 {参考文献}薬事 2008.2
、大阪府薬雑誌 2003.10


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医療紛争回避のためのコミュニケーション

2011年5月15日号 No.544

 トラブルが起こると患者・家族は怒りが増幅します。(自分の怒りに怒りを感じます)。これに医療従事者が対応するのは難しく、重篤な障害が生じた被害者を前にして、本人・家族と対話することも簡単ではありません。

 そのためには、事故が起こる前が肝腎です。事故前に関係が良好で患者・家族がこれまでの医療従事者の姿を振り返って信頼できると考えられた場合は、事故後の真摯な医療側の対応を理解することができます。

 しばしば医師から、「合併症はある一定の確率で起こることを、患者・家族は理解してくれない」と聞きます。事前に説明していたのに、患者、家族から「説明を受けていない、受けていたとしても納得いかない」と言われるからです。

 合併症や重篤な障害・死は、事前に説明されていても患者・家族がすぐに受け入れられるものではありません。

 医師は1年で3千人を診察・治療しているとして、まさに目の前にいる患者が1/3000の確立で生じる合併症に当てはまったone of themに接していることになります、しかし患者・家族にとってはone of oneであり、突然起きた不幸な結果を受け入れなければならないことのなるのです。

 患者・家族にとっては確立ではなく、結果は「1か0か」です。だから、事故が起こるとそれを受け入れない患者は・家族は「事故は医療ミス」として訴えるのです。

<患者・家族へのヒント10>

1.ケア以外で、「患者の為になるなら、何でもしてあげる」という気持ちを少し抑え、ケアに集中する。

2.上記との引き換えで、患者ができることは、患者にそれを自分で行うように促す。家族にも同様

3.上記1.2.から、ある適切な距離をとることは、過度の入れ込みを防止する。過度の介入は失敗した場合、全てを放り出すことになる。

4.当該医療職について、患者、家族から他の 医療職に、いわば告げ口や悪口を言われることがあるが、それをそのまま真に受けない。
 「あなただけに話す」という関係を作らないようにする。

5.1〜5のような対応をすると、患者・家族から怒りをぶつけられることがあるが、これに反応しないこと。「がんばってケアしますから」と、にこやかにケアに徹することが必要。

6.情報交換は密にする。悪かったことだけではなく、うまくいった場面を共有する。

7.その上で、対応を統一する。ある看護職だけがこれをしてくれたという不統一は危険。
  患者・家族が、「以前してくれた」「ある看護師さんがしてくれた」という訴えのないよう統一して対処する。

8.初期の行動化(暴言・暴力)にも過度に反応しない。あらかじめ決められている規則にしたがって対応する、規則を理由にして説明する。

9.繰り返される行動化については、「規則」を理由に「責任」を回避させない。そのためには、「規則の内容を再度確認する」、「規則を部屋に貼付する」

10.その上で、淡々と「適切な距離を置いて」、「ケアに徹する」これにより、差別無く、また、個人的な関係も切って、平等なケアであることを示す。

 {参考文献}治療 2011.4  中京大学法科大学院 稲葉 一人

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2011年5月15日号 No.544

出生時体重と成人後の高血圧:small baby syndromeはこちらです。


2002年10月15日号 347

医学・薬学用語解説(ス)

 ストレスと病気に介在するもの はこちらです。


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医療における統計学

〜〜〜臨床疫学の重要性〜〜〜

2008年3月1日号 No.470

 統計学が必要になる場面としては、現象に変動(ばらつき)を伴う時です。例えば、同じように薬を飲んでいても、副作用の発現は一律ではありません。このため、副作用と薬の因果関係を検証するのは困難です。何か関係があるのではと疑うような時、統計学が役に立ちます。

 例えば、ある人が、ACE阻害薬を飲んで咳が多く出たとします。その原因は、飲んだ薬が原因と考えるかもしれませんが、その他にも、他の原因(ちょっと風邪気味だった)かもしれません。

 他の原因のことを交絡因子と呼びます。原因があまりわからない場合もあり、そういう場合は個人差とか、偶然として片付けられてしまいます。

 それでは、なにが真の原因かというと、多数のデータ(薬剤、体調、年齢、性別、体重など)を詳細に分析しないと分かりません。

 ACE阻害剤を飲んだ人は全て咳という副作用が出るわけではありませんし、ACE阻害剤を飲んでいない人でも咳が出る人はいます。

 また、一般には変動(ばらつき)といっている現象を「バイアス」と「ばらつき」に分けることがあります。

 「ばらつき」というのは偶然による変動のことです。「バイアス」は変動の要因がわかっている時に使います。バイアスには、様々なものが知られています。

 血圧も、早朝に測る人と入浴の後に測る場合、一見データは大きく変動していますが、同じ人でも早朝は血圧は高めで、入浴後は低めです。

 データを見たときには、常にバイアスが混入していないかに注意し、データの取り方にまで気を配る必要があります。

 右欄では統計学の概念を記述しています。一見難解ですが、このような手順を踏まないと薬の副作用を特定できないのです。
1.信頼区間

 臨床データはその研究結果1つだけですが、同じような研究を100回行うと、そのうちの95の研究での推定値が近い値になる(区間に入る)とき95%信頼区間と呼びます。
 厳密にいうと違うのですが、「真の推定値はその区間の中に95%の確立で入っている」と理解しても良いでしょう。

2.p値

 pとは確立のことです。
仮に効果がないとしても、何らかのデータが出てくる確立のことです。(帰無仮説を仮定した時に現在のデータが出てくる確立:下記参照)

 正確に言うと、現在あるデータが出る確率に加えて、それよりも極端な(差が広まる)方向の結果が得られる確立を加えた値がp値です。

 p値が小さければ、帰無仮説は誤りではないかと推論されます。通常はp値が5%未満であれば小さい(すなわち統計学的に有意)と判定します。

3.パワー(検出力)

 パワーとは、研究を開始する前に計算するのが普通です。それは何かというと、対立仮説(右頁参照)が正しいとすれば、どのくらいの確率で結果が有意になるかの値です。簡単に言えば、研究を始める前の成功確率のようなものです。

{参考文献}薬事 2008.2

統計学的知識を活用したEBMの実践

帰無仮説とは〜仮説検定

 仮説の設定は下記のような手順で実施します。

・仮説の設定〜仮説が正しいと仮定した場合にその対象(サンプル)が観察される確率を算出できるように、仮説を統計学的に表現します。

 たとえば、ある薬が効果があることを示したい場合は、「薬に対する反応の平均がプラセボ薬に対する反応の平均と等しい。どちらの反応も正規分布に従うがその標準偏差は両者で等しく、平均を問題とする」という仮説を立てます。

 この仮説は最終的に棄却されるべきものなので、帰無仮説と呼ばれます。また帰無仮説に対立する仮説(対立仮説)を立てることもあります。上記の例での対立仮説は「薬に対する反応の平均がプラセボ薬と異なる」ということになります。

 

     {参考文献}薬事 2008.2
 

 

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