メインページへ

MMPとは

2000年6月15日号  293

 細胞外基質を分解する主役としてのMMP(matrix metalloproteinase:マトリックス分解酵素)は、体細胞の組織の制御因子として重要であるとの認識が高まっています。

 興味あるところでは癌細胞の多くがMMPを強く発現しており、その活性が癌の増殖、浸潤、転移能など、いわゆる「癌の悪性度」と関係していることが確認されています。そのため、MMP阻害剤は、リウマチや癌治療薬としても注目されています。

 MMP:マトリックス分解酵素は、細胞外マトリックスを分解する酵素の総称で、生理学的及び病理的な組織破壊に重要な役割を果たしています

 MMPの其質は細胞を固定、接着させる細胞外マトリックスであり、具体的には各種タイプのコラーゲン、プロテオグリカン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、などを含みます。

 正常状態でのマトリックスの合成と分解は、各種サイトカイン、増殖因子、細胞マトリックスの相互作用によってバランスが保たれています。しかし病的状態ではリウマチなどのように無秩序な軟骨の破壊を来たし、また、MMPは歯周病や角膜炎などの原因物質としても考えられています。

 おたまじゃくしのしっぽからコラーゲナーゼが発見されて以来、さまざまな細胞外基質に対する分解活性を指標にMMPの精製が進められ、基質特異性の相違によって分類されてきました。

 細胞の増殖、分化、死、形態変化、運動などの機能も、組織では増殖因子やサイトカインなどの可溶性因子とそれらの受容体によってのみ制御されるのではなく、細胞外基質への接着によって生じるシグナルとのクロストークの結果であることが明らかになりつつあります。

 また一方で、細胞外基質はこれらの可溶性因子の貯蔵庫としての役割も持っており、細胞外基質の分解によってこれらの因子が放出されると、周辺の細胞機能が抑制されます。

 細胞移動は胎生期での器官形成、出生後の発育、創傷治癒過程など組織の構築、改築の必要な場で中心的な役割を担っています。この時期には、移動にとって最適な細胞外基質の発現とともに、細胞外基質分解活性を持つMMPの発現が欠かせません。

 その発現は、よく制御されており、細胞移動の終息とともに認められなくなります。一方で、癌浸潤での細胞移動は終息制御の無い細胞移動と言い換えることができますが、MMPはここでも不可欠な役割を果たしています。癌の転移では、細胞浸潤は間質内移動、脈管内侵入、脈管外遊出と複数のステップに関与しているので、転移制御の上では重要なターゲットと考えられています。

 分泌型MMPによってコラーゲンの骨組みが疎開した組織ではグリコサミノグリカンが水加(hydration)によって膨潤し、癌細胞の移動に有利な疎で適度な粘性を持った間質をつくり出します。また、MMPによって生じる細胞外基質成分の分解産物が足場のみならず、遊走惹起刺激、あるいは方向性をも供給することも知られています。

 細胞浸潤機構を多角的に追求することによって、MMPインヒビターと遊走刺激
リガンドあるいはMMP発現刺激リガンドの拮抗阻害剤の使用といった集約的癌治療の組み立てが可能になることが期待されています。

 {参考文献}現代医療 2000.4、医薬品ジャーナル 1999.1等

関連項目:インテグリン阻害剤(抗インテグリン療法)MMPの臨床応用

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

細胞外基質
ECM:extracellular matrix

 多細胞生物では、細胞同士の直接の接着および、細胞間基質を介して間接的に細胞が接着することにより、組織の骨組みが形成されます。

 細胞外基質は、細胞から分泌される各組織に特徴的なコラーゲン、プロテオグリカン、糖蛋白などの高分子成分から構成され、それぞれの分子間の相互作用、細胞表面の接着分子と結合することにより、組織のマトリックス構造を形成します。


**トピックス**

蛋白競合による薬物相互作用は嘘だった(2)

   Hospha 1999 No.4 (エーザイ) JJSHP 2000.5にも同内容の記事掲載

 
前回の終わりで、「血液中で蛋白と結合している薬の量など、問題にするのがおかしい」と結びましたが、蛋白結合した薬は、組織への移行性が悪くなるはずなので、やはり問題となるのではないかと思われた人もおられるでしょう。

 ところが、実は蛋白競合があったとしても、血漿中濃度に変化は無いのです。それは、血漿中の薬物は遊離型と蛋白結合型の2形態が平衡状態となっているからですこの平衡状態は生体内では、動的で常に状況に対応します。

 生体内では血漿蛋白結合部位から置換・追い出しを受け、血漿中で増加した遊離型薬物は速やかに組織の遊離型薬物濃度と平衡します。この時、組織中の薬物
分布容積は血液容量よりもはるかに大きいため、いったん組織へ移行した薬物が戻ってきます。ですから血漿中濃度は変化しないのです。

 また、薬物の再分布に要する時間は極めて短いため、蛋白結合置換による遊離型薬物濃度の変化もごく短時間しか持続しません。さらに、たとえ遊離型薬物濃度が相互作用前と比べて多少増加したとしても、遊離型薬物濃度に対する生体側の処理能力(クリアランス)が不変であるならば、遊離型薬物濃度は与薬量と遊離型薬物に対するクリアランスのみで規定されるため、定常状態に至れば、相互作用前の遊離型薬物濃度に戻ります。

 理論と実際に起こる現象が全く異なるという事象は、実はよくあることです。そして、薬学でよく問題となることに、イン ビトロ(ビトロとはガラスのこと。つまり試験管内での実験)とイン ビボ(実際に人体に入った場合の反応)の差があります。

 添付文書に記載されている試験管内での血漿蛋白結合置換実験は、あたかも生体内の血液を組織と切り離して取り出して実験を行うようなものです。試験管内は閉鎖的な空間であるため、追い出しにより増加した遊離型薬物濃度は、生体と異なり再分布過程がありません。そしてまた、相互作用による薬物濃度の変化がどの薬物でも直接的に薬効または毒性の変化と結びつくわけではないことは強調されねばなりません。

 薬物動態上の相互作用が臨床的に意義のある薬物はその薬効または毒性が血液中薬物濃度(体内薬物量)と密接に関係し、更に相互作用による血液中薬物濃度変化が重篤な臨床的問題(腎障害など)に結びつくものに限られるのです。

 当院でも良く用いられるワーファリンとパラミジンの相互作用によるワーファリンの作用増強は、前回でも述べましたように、今まで血漿蛋白結合置換と思われていましたが、実は代謝阻害(CYP 2C9)によるものだったことが分かっています。




水溶性ヨード造影剤テストアンプル廃止について

 水溶性ヨード造影剤のテストアンプルは、諸外国では早くからその有用性を疑問視する研究報告や添付廃止を要請する学会勧告等を背景に添付が廃止されており、現在ではテストアンプル添付を継続している国は日本のみとなっています。

 本邦でも1989年、日本医学放射線学会の「ヨード造影剤予備テストの妥当性について検討する委員会」により、予備テストは科学的信頼性がないことや、テスト量によっても重篤な副作用が発生する事例があるとして、「テストアンプルの廃止」と「使用上の注意改訂」を要望する委員会報告が公表されました。これに対応して、当時の造影剤メーカーは添付文書から予備テストを推奨する分言を削除しました。しかしテストアンプルについては、当時の使用実態を考慮し現在に至っています。

 その後約10年が経過した1998年、同学会に再度「ヨード造影剤予備テストに関する検討委員会」が設立され、予備テストの使用実態が調査されました。その結果、テストアンプルを用いて予備テストを行なっている施設は大きく減少し、調査施設全体の4.7%であることが報告されました。

 最近の使用実態、予備テストに対する信頼性、及び諸外国の状況等を考慮しテストアンプルは廃止することとなりました。

<水溶性ヨード造影剤の重要な基本的注意>

 用量と用法の如何にかかわらず過敏反応を示すことがある。本剤によるショック等の重篤な副作用は、ヨード過敏反応によるものとは限らず、それを確実に予知できる方法はないので、使用に際しては必ず救急処置の準備を行うこと。

 使用にあたっては、開始時より患者の状態を観察しながら、過敏反応の発現に注意し、慎重に行うこと。また、異常が認められた場合には、直ちに中止し、適切な処置を行うこと。


メインページへ

MMPの臨床応用

2000年7月1日号 294

 近年、種々の薬剤にMMPの阻害活性が存在することが明らかになり、これらを用いた臨床での治療への応用が検討されています。

 慢性関節リウマチ、癌細胞浸潤・転移などの他にも呼吸器疾患、神経疾患、心血管系疾患、肝疾患、皮膚疾患などでもMMPとの関連が解明されつつあります。

 MMP:matrix metalloproteinase〜マトリックス分解酵素:
前号参照

 MMPsは複数形

<癌治療>

 腫瘍のMMP活性が、腫瘍の増殖・浸潤・転移に影響を与えることは多くの癌種で確認されており、血管新生と転移能の間には緊密な関係が示されています。

 MMP阻害剤は、従来の抗癌剤とは異なり、その作用機序から一度成立した腫瘍を縮小させることは困難であり、腫瘍を“arrest:抑制”、“freeze:凍結”、“halt:休止”させ、結果として延命効果を獲得することが期待されています。

<肺疾患>

 肺の破壊の過程で重要な役割を果たしているのは、プロテアーゼです。特に、その構成成分である細胞外マトリックス(ECM)をその基質とするMMPsは重要な因子であると考えられています。肺気腫は、呼吸気疾患の中で最も古くから、プロテアーゼの関与が知られている疾患であると思われます。

 肺の構築成分を基質とするMMPsとその生体内でのインヒビターであるTIMPs(注1)とのバランスも当然肺気腫の病態に関与するものと考えられ、種々の方法で検討が加えられてきています。

 肺線維症でのMMPsの役割として、初期の炎症細胞から放出されるMMPsによる肺の破壊と、線維芽細胞・上皮細胞などから放出されるMMPsの誤った修復機転への関与が考えられてきました。

<慢性関節リウマチ:RA>

 軟骨破壊は潤滑、関節適合性の低下を生じ、軟骨特有の機能である負荷の分散と低摩擦性に破綻を来す最も大きな問題です。軟骨破壊のメカニズムには今日なお不明な点が残されていますが、最終的にマトリックスの分解を行なうのは蛋白分解酵素で、とりわけ至適pHを中性領域に有し、軟骨マトリックス成分に対する幅広い基質特異性を有するMMPはその中心的役割を担っていると考えられています。

 テトラサイクリン系抗生物質はMMPの阻害活性を有することが知られており、関節炎に対する治療効果が期待される薬剤です。

 最近、血清中MMP-3(注2)濃度は。RAでの保険適応の検査として承認を得られる見込みとなりました。RA診断マーカーとして、あるいは治療効果判定の指標として、有効に用いられるものと期待されています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(注1)TIMPs:tissue inhibitor of metalloproteinase
(注2)MMP-3は軟骨アグリカン分解の主要酵素ですが、コラーゲン分子に対する基質特異性をも有していることが明らかにされています。MMP-3はコラーゲンネットワークの崩壊を招来し得る重要な酵素です。

{参考文献}現代医療 2000.4

 <MMPの関わる疾患>

*関節軟骨破壊:RA、変形性関節炎
*癌細胞浸潤・転移
*口腔疾患:歯周炎
*眼疾患:角膜潰瘍、ブドウ膜炎等、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体
*皮膚疾患:水疱性疾患、慢性潰瘍
*神経疾患:多発性硬化症等
*腎疾患:糸球体腎炎、ループス腎炎
*呼吸器疾患:肺気腫、気管支喘息
*肝臓疾患:慢性肝炎、肝硬変
*心血管系疾患:心不全、血管新生


腎障害時の血漿蛋白結合

**トピックス**

 
前回前々回にこのコーナーで紹介しました「蛋白競合による薬物相互作用は嘘だった」というのは本当なのですが、腎不全時では注意する必要があります。

 酸性薬物は、血液中で主にアルブミンと結合していますが、腎疾患時には酸性薬物の多くで血漿蛋白結合率が低下するということが分かっています。

 酸性薬物の蛋白結合率低下の原因としては、腎疾患に伴う、1.アルブミン濃度の低下、2.蛋白結合阻害物質の蓄積、3.アルブミンの構造変化による結合部位数の減少や親和性の低下などが考えられています。

 このような腎障害時での血漿蛋白結合率の減少は、薬物のクリアランスと分布容積を増大させるため、蛋白結合率の高い薬物では注意が必要なのです。

 例えば、フェニトインの蛋白結合率は、腎機能正常時には88%ですが、腎機能低下時には74%に低下することが知られています。したがって、腎疾患時にフェニトインの血漿中濃度(結合型+非結合型)が治療域より低い場合でも、薬理作用を示す血漿中非結合型薬物の割合が増加しているために治療効果は保たれることがあります。

 逆に、血漿中濃度は治療域内にあっても副作用が生じる可能性があるため、血漿中濃度の解釈には注意が必要です。

 一方、塩基性薬物の蛋白結合率は正常時と同じか、まれに結合率が低下します。すなわち、塩基性薬物は血漿中でアルブミンよりはむしろα1酸性糖蛋白(AAG:下記)と結合して、腎不全時にはα1酸性糖蛋白が増加することが多いためです。

 腎排泄過程は、糸球体濾過、尿細管分泌、尿細管再吸収に分類でき、各患者のクレアチニンクリアランス(下記参照)が指標となります。腎障害時では腎クリアランスが主たる排泄経路である薬物の場合に特に重要と考えられます。

{参考文献} 薬局 2000.6

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
AAGとリスモダン(ジソピラミド)

α1-acid glycoprotein:α1-酸性糖蛋白  → AGP

 AAGは
CRPと同様、急性相蛋白質の1種で感染症、悪性腫瘍や腎不全などのさまざまな疾患で上昇します。抗不整脈剤ジソピラミド、リドカイン、ピメノールなどの塩基性薬物はアルブミンでなく、AAG結合しやすい性質を持っています。ジソピラミドの蛋白結合率は5〜65%とされており、このように蛋白結合率の幅が広いのはほとんどがAAGと結合としているからです。AAGの絶対量はアルブミンの1/60しかないため、AAG濃度の低い患者では蛋白結合率が上昇し、ジソピラミドの血中濃度が高いと、結合する相手であるAAG量が相対的に不足するために蛋白結合率は低下します。それによって遊離型分率が上昇するためVd、クリアランスとも上昇し総濃度は低下します。つまりバルプロ酸のように血中濃度が頭打ちになる非線形薬物動態を示します。

 腎不全患者や癌患者では血清AAG濃度の上昇によってジソピラミドの蛋白結合率が90%に上昇することもあります。実際に薬理作用を表すのは蛋白結合していない遊離型薬物であるため、蛋白結合率の上昇は薬物の効果低下を意味します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

α1酸性糖蛋白質
AGP

α1酸性糖蛋白質(AGP)は185個のアミノ酸からなる血清糖蛋白質です。

 AGPはCRPと同様急性相反応物質の1つで、炎症などの急性期で血中濃度が著しく増加します。また塩基性薬物との結合が強いため、これらの薬物の血漿蛋白結合での個体間やや個体内変動を考える上で重要な蛋白質と位置づけられています。

       出典:薬事 2004.2 等

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  Ccr:creatinine clearance

クリアランスとは

 通常は腎臓による血漿クリアランスをさします。浄化値あるいは清掃値とも訳されます。

 尿中に排泄されるある特定の物質(x)について、1分間に何mLの血漿が完全に清掃されたかを示すもので
  Cx=Ux・V/Pxで表されます。

      Uxは物質(x)の尿中濃度、Vは1分間当たりの尿量、 Pxはx血漿中濃度。

 クリアランスの単位はmL/min この値が大きい場合は,血漿が腎臓を通過する間に物質xが比較的能率よく排泄することを意味します。

クレアチニンクリアランス

 血中クレアチニンは短時間にあまり変動せず、糸球体で濾過されるのみで,尿細管で分泌も再吸収もほとんど受けません。

 単位時間に排泄されるクレアチニン量(尿量×尿中濃度)を血中クレアチニン濃度で除せばクレアチニン クリアランスが得られます。

 クレアチニン クリアランスは腎機能が正常または軽度障害時にはそのまま糸球体濾過値(GFR)の大略の指標となりますが、障害進行とともに尿細管分泌の因子が加わりGFRより常に高めに出る傾向を示します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

GFR

糸球体濾過値

Glomerular filration rate

 糸球体が1分間に濾過することのできる濾液(ろえき)の量

 腎機能検査法の一種で,糸球体から単位時間に、どれだけの濾液が濾過されるかを表すもの。

 この目的には、糸球体で完全に濾過されて尿細管では再吸収もされず、排泄もされないような物質を用いて、それのクリアランス値を出せばよいのです。つまり単位時間内に尿中に排泄されたその物質量(尿中濃度×尿量)をその物質の血中濃度で除せば求めらます。

 理論的にもっとよいものはイヌリンですが、これに代わるものとしてチオ硫酸ナトリウム、内因性クレアチニンがよく利用されます。

 イヌリンやクレアチニンは糸球体で濾過された後、尿細管で再吸収もされないためそのクリアランスは糸球体濾過値をあらわします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

関連項目 安田の推定式 Dettli式


出典:JJSHP 1998.6 等

 腎排泄型薬剤の場合には、クレアチニン・クリアランス(Ccr)値を考慮した薬剤の与薬量調整が可能であり、血清クレアチニン値(Scr)に年齢、体重を加味したCcr推測式があります。

 クレアチニンは筋肉内でクレアチンより作られます。血中に流出したクレアチニンは腎糸球体を自由に通過し、尿細管での分泌、再吸収がほとんどないため糸球体濾過値(GRF)を知る有用な指標とされていますが、病態によっては、血清クレアチニン値の変動だけでは正確な腎機能評価の指標になりえない場合もあることを知っておく必要があります。特に、高齢者は筋肉量が減ってくるに従ってクレアチニン産生が低下するため、血清クレアチニン値が正常でもCcr値が成人の半分〜1/3といったケースがあります。

 クレアチニンを持続静注してそのクリアランスを求める外因性クレアチニン クリアランスと、内因性のクレアチニンについての内因性クレアチニンクリアランスがあります。臨床上もっぱら後者が用いられます。血中クレアチニンは短時間にあまり変動せず、糸球体で濾過されるのみで,尿細管で分泌も再吸収もほとんど受けない(GFR物質).単位時間に排泄されるクレアチニン量(尿量×尿中濃度)を血中クレアチニン濃度で除せばクレアチニン クリアランスが得られます。

 短時間(1または2時間)法と24時間法とがあります。正常値は男子86.4〜130.8,女子82.2〜119.8 mL/分と報告されています。クレアチニン クリアランスは腎機能が正常または軽度障害時にはそのまま糸球体濾過値(GFR)の大略の指標としてよいのですが、障害進行とともに尿細管分泌の因子が加わりGFRより常に高めに出る傾向を示します。またクレアチニン代謝異常が予想されるときは速断を避けるべきです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

シスタチンC

 腎機能の評価のため、従来からクレアチニンクリアランスが使用されています。
クレアチニンクリアランスは、蓄尿して求める方法と、CockcriftとGault式を用いる方法があります。

 前者では、正確な蓄尿を必要とすることから、特に外来患者や小児では正確な算出が困難です。後者では、血清クレアチニン濃度は筋量、運動量などに依存して変動するため、筋量の低下した高齢者では評価が困難となっています。また腎障害障害時は尿細管からの分泌が更新し、クレアチニンクリアランスは真の値よりも高くなることがあります。

 シスタチンCは血清蛋白質の1つで、全身の細胞で産生され、生体内での酵素による細胞質や組織の障害を抑制しています。血中のシスタチンCは腎糸球体でろ過され、近位尿細管で再吸収されます。

 血清シスタチンC値は食事や炎症、年齢、性差、筋肉量などの影響を受けないため、小児、老人、妊産婦などでも同じ基準で診断でき、糸球体ろ過量(GRF)のマーカーとして優れています。さらに、シスタチンCは、クレアチニンに比べ腎機能障害の早期でも血中濃度の上昇がみられ、腎機能障害の早期診断にも有用です。

 また最近では、シスタチンCが高血圧患者の心血管リスクの評価にも応用できることが報告されています。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2009.2

メインページへ