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HRT:ホルモン補充療法
hormone replacement therapy

同義語〜ERT:estorogen replacement therapy

2000年8月15日号 297

 
 HRTは卵巣機能の低下または欠落に伴うホルモンの不足または欠乏を補充し、精神・身体機能の改善・維持を目的にリスクと利益を考慮して、治療を受ける女性の同意を得て行われる治療です。

 更年期症状に対するHRTの治療効果は顕著で、骨粗鬆症、冠動脈疾患、アルツハイマー病などでも予防・治療効果が報告されています。

 女性では原則としてエストローゲンとプロゲストーゲンを併用します。エストロゲン製剤として結合型エストロゲン(プレマリン錠:0.625mg/日)をベースとし連日服用、これに重ねて約4週おきに酢酸メドロオキシプロゲステロン(ヒスロン:5mg/日)を12日間服用(逐次、周期的併用){注:当院はヒスロンH200mgのみ採用}

 酢酸メドロオキシプロゲステロン服用終了後に消退性出血が3〜4日間見られます。また閉経後数年を経過した女性にはプレマリン0.625mgと酢酸メドロオキシプロゲステロン2.5mgを同時に連続服用(同時連続)

 この治療法では、治療開始数ヶ月間に少量の出血を見ることがありますが、ほとんどの場合治療を継続するうちに子宮内膜が萎縮し、出血が無くなります。またエストリオール製剤は子宮内膜に対する作用が弱く、連続服用しても内膜は肥厚せず、連続使用(1日2mg)することは可能です。

 エストラダームTTSでは、経皮的に吸収されたエストラジオールは直接血流に入り、少量で治療効果を発揮することが出来ます。

<導入とフォローアップ>

 HRTが適切に行われ、その効果が十分に発揮されるには、治療前の評価と治療中のフォローアップが重要です。HRT中に生じる問題の1つは、散発する性器出血で、そのために生じる癌に対する危惧感です。治療に際しては予想される出血のパターンとその背景を十分に理解してもらっておくことが、治療を継続するために不可欠です。

<HRTの適応>

*対症的適応

・更年期障害
  血管運動神経症状(のぼせ、ほてり、冷え症、発汗異常)
  自律神経症状(動悸、めまい)
  精神神経症状(うつ状態、いらいら感、不眠、頭痛)
  運動器系症状(肩こり、腰痛、関節痛)
  知覚障害(手足のしびれ、蟻走感)

・泌尿・生殖器症状〜萎縮性膣炎、性交障害、尿失禁
・骨粗鬆症、高脂血症、老人性痴呆

*予防的適応

・骨粗鬆症の危険因子を有する女性
・閉経後骨量減少
・閉経前の両側卵巣摘出
・早発閉経
・長期のGnRhアナログ療法

<HRTの禁忌>

・エストロゲン依存性悪性腫瘍
  (子宮癌、乳癌)、またはその疑い
・重症肝機能障害
・血栓性疾患

*原則禁忌

・エストロゲン依存性良性腫瘍(子宮筋腫、良性乳腺疾患、下垂体腫瘍)
・高血圧、糖尿病、不正性器出血

<HRTの適応に際して注意を必要とする疾患>

・胆石、片頭痛、ヘビースモーカー、肥満

<HRTの管理に必要な検査>

1.問診:症状の検査(更年期指数など)、出血の状態(閉経の有無など)
2.一般検査所見:体重、血圧など
3.婦人科的診察所見:内診、子宮頸部・内膜細胞診
4.乳房検査:触診、マンモグラフィー
5.肝機能:GOT、GPT、LDH
6.脂質:血清総コレステロール、HDL、トリグリセライド
7.骨量の測定:腰椎X線・MD法、DXA法など
8.骨代謝マーカーの測定:血清カルシウム・アルカルフォスファターゼ

  5.6.は6ヶ月ごと、3.4.7.8.は1年ごとに検査

 <<HRTと乳癌の関係>>

 分析にあたっての種々の条件の相違によると考えられますが、未だに一定した結論は得られていません。

 HRTの期間と発症率には関係があり、約10年間以上HRTを継続した女性で相対危険率が上昇する危険性が示唆されており注意を要します。

{参考文献}治療 2000.7

関連項目 SERM  

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2000年8月15日号 297  アーチーの夢(コクラン共同化計画)はこちらです。

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大豆イソフラボン

フィトエストロゲン:植物にはエストロゲン様活性を持った成分が多く知られており、こららは植物エストロゲン(フィトエストロゲン)と呼ばれています。大豆イソフラボン(ゲニステインなど)は、その代表です。

 古くから、アジア地域に住む女性は、閉経後の女性ホルモンの欠乏による発症する疾患の罹患率が、欧米人に比べて低いといわれています。中でも大腿骨頸部の骨折率が欧米女性の1/2〜1/3というのは注目に値します。この理由の1つとして、大豆食品の摂取量の違いが挙げられています。

 大豆にはゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインなどのイソフラボンが含まれていて、これらは弱いエストロゲン様作用を示すことから植物性エストロゲンと呼ばれています。

 現在、生殖器官に作用せず、骨あるいはコレステロール代謝に選択的に作用するエストロゲン受容体修飾因子(
SERM)が開発され、米国では既に臨床応用されています。

 大豆由来のイソフラボンが自然界に存在するSERMであることが示唆されています。

イソフラボンには骨量減少抑制作用だけでなく抗コレステロール作用、抗酸化作用、抗癌作用もあります。FDAは1日に25gの大豆蛋白を摂取することにより、心疾患が予防できると発表しています。

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 大豆イソフラボンには、前立腺癌や乳癌、胃癌など多くの癌の発生予防に有効である可能性が指摘されています。しかし、乳癌に対しては2方向の作用を示し、乳癌の発生に対しては抑制的に作用しますが、乳癌が発生した後は乳癌細胞の増殖に促進的に作用する点に注意が必要です。


 大豆蛋白を含む食品

 納豆、豆腐、油揚げ、きな粉、煮豆、枝豆、豆乳

    出典:治療 2001.6 薬局 2004.5


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ホルモン補充療法(HRT)の安全性

2002年11月15日号 349

 平成14年7月、米国国立心肺血管研究所は、結合型エストロゲンと酢酸メドロキシプロゲステロンの配合剤による臨床試験(以下,WHI PERT臨床試験)を中止しました。中止の理由は、HRT群とプラセボ群における浸潤性乳癌の発生頻度の差が、試験計画時に中止基準として設定したリスクの範囲を上回ったことによるものです。

 また、その報告では、結合型エストロゲン/酢酸メドロキシプロゲステロン配合経口剤の長期服用(平均5.2年間)により、米国での一般閉経後女性では、冠動脈疾患等の危険性も増加するとの知見が示されています。

 ホルモン併用療法に伴う乳癌のリスクの上昇については、WHI PERT臨床試験計画時からすでに報告されていたことから、WHI PERT臨床試験においても、乳癌のリスクがある一定レベルを超えたら中止することをあらかじめ計画に盛り込んでおり今般の試験中止は,その規定に従ったものです。

 WHI PERT臨床試験の対象者では、次の点において冠動脈疾患や乳癌のリスクファクターが高い可能性があります。

(1) 対象者の
BMI(Body Mass Index)の平均は28.5で、また対象者の約3分の2は,BMIが25以上で、肥満傾向でした。 (2) 対象者の約半分は喫煙経験者でした。 (3) 対象者の約3分の1は高血圧症でした。

 WHI PERT臨床試験は、閉経期の各種疾患予防のために結合型エストロゲン/酢酸メドロキシプロゲステロンを服用した場合の健康への影響を検討したもので、その結果は、更年期障害、骨粗鬆症等、低エストロゲンに起因する各種疾患の治療に用いられる場合には必ずしも当てはまるものではなく、そうした適応についての有用性を否定したものではありません。

 WHI PERT臨床試験で用いられた卵胞ホルモン剤は、結合型エストロゲンの経口剤で、卵胞ホルモンの種類と量、あるいは服用量が異なる他の製剤(たとえば、エストラジオール貼付剤等)の長期使用の場合には、本試験結果が必ずしも当てはまるものではなく、今後の研究の余地があります。また更年期障害などの短期的な服用の場合でも、必ずしもあてはまるものではありません。


<我が国の状況>

a. WHI PERT臨床試験で使用された結合型エストロゲン/酢酸メドロキシプロゲステロン配合剤は我が国では承認されていません。
b. 一般閉経後女性に何らかの疾患の予防を目的とした効能をもつ卵胞ホルモン製剤は承認されていません。
c. 我が国の実態として、女性の冠動脈疾患の予防のために卵胞ホルモン製剤が使用されることはほとんどないと考えられます。
d. 我が国では、産婦人科以外の整形外科や内科領域での骨粗鬆症治療薬として、婦人科検診を伴う卵胞ホルモン剤は使用しにくい実状があります。

 以上のことから、今回のWHI PERT試験の中止は我が国において緊急な安全対策を講ずる事態ではないと考えられます。しかし、我が国において承認されている卵胞ホルモン剤の中には、更年期障害や骨粗鬆症を適応として使用されている製剤もあることから、更年期障害の有用な治療の選択肢である卵胞ホルモン療法の施行や普及に誤解を与えないよう、現在卵胞ホルモン療法を受けている人あるいはこれから受けようとしている人に対し医療関係者を介した正確な情報提供が必要です。

 結合型エストロゲンについては,我が国では、骨粗鬆症の適応はありませんが、更年期障害への使用に際してWHI PERT臨床試験の結果を考慮する必要があります。また,骨粗鬆症治療薬としての卵胞ホルモンの位置づけについては、さらに今後の研究成果の蓄積が期待されるところです。

{参考文献} 医薬品・医療用具等安全性情報 No.182(厚生労働省医薬局 )


2002年11月15日号 349

医学・薬学用語解説(ソ)

       
速効型インスリン分泌促進薬はこちらです。


<医学辞典>

メノポーズとアンドロポーズ
menopause & andoropause

 女性・男性ホルモンは、視床下部・下垂体・性腺(卵巣/精巣)系により調節されています。

*メノポーズ

 女性ホルモンは、30代後半から40代で徐々に低下し、月経が終わるころ(閉経期)になると、急激に減少します。70歳では、測定感度以下になる例も多数あります。これはメノポーズと呼ばれ、日本人の平均閉経期は50歳前後です。

 更年期障害と呼ばれる“ほてり”や“のぼせ”、動悸など不快な症状の大部分は、この女性ホルモンの急激な低下が原因です。

 エストロゲンの減少は、長期的には、骨粗鬆症の進展、動脈硬化の進展、アルツハイマー病の発症にも関わっています。

 *アンドロポーズ

 テストステロンは、加齢とともに分泌が低下し、70歳男性の血中濃度は20歳男性の70%以下となります。

     出典:治療 2005.9


経口避妊薬
ピル

  出典:臨床と薬物治療 2002.8

 ピルは、ホルモンを服用することにより高い避妊効果(正確に使用すれば99.9%)が得られます。
性ビンはエストロゲンとプロゲストーゲンが含まれたいます。

 服用方法は、21日間ホルモンを服用し、その後7日間休薬することを繰り返します。この方法により、休薬期間中には月経様の出血(消体出血)が生じます。


 日本で現在使用可能なピルは、21日間に服用するホルモンの量が一定の1相性ピルと、21日間に服用するホルモンの量が3段階に変化する3相性のピルがあります。

 3相性ピルは、周期あたりに服用するプロゲストーゲンの量を減らすことと周期の必要な時期にホルモン量を増量させることを目的として開発されたものです。(21日間に服用するホルモンの量が2段階に変化する2相性のピルは日本では発売されていません。)

* 1相性ピル

 1相性ピルは、どの錠剤に含まれるホルモン量も同じなので、錠剤を飲む順番を間違えても問題がありません。

 1相性ピルはプロゲストーゲンの含有量が多いため、3相性ピルより子宮内膜の発育抑制作用が強いと考えられます。臨床的に1相性ピルの方が3相性ピルより消体出血の量が減少する例が多いとの報告があることから、過多月経の女性には適しているのかもしれません。

* 3相性ピル

 周期あたりに服用するプロゲストーゲンの量が少ないため、プロゲストーゲンに起因する副作用が少なくなります。(コレステロール代謝、血圧、体重増加等)

 3相性ピルは服用中の子宮内膜の発育を促し、それを維持する製剤設計が成されているため、服用中の不正出血や休薬期間中の消体出血の欠如が1相性ピルより少なくなることが報告されています。


<28錠ピルと21錠ピル>

* 28錠ピル

 28錠ピルは休薬期間中に7錠のプラセボ錠を服用する製剤を指します。

 ピル服用中は下垂体からゴナドトロピン(FSH、LH)分泌が抑制される卵胞は発育しませんが、休薬期間中にはその抑制が解除されるため、卵胞が発育し休薬7日目に10oもしくはそれ以上の卵胞がみられることがあります。このため休薬期間が8日以上空いてしまうと卵胞の発育が進み、排卵が生じることがあります。

 そのため休薬期間の7日間は遵守しなければなりませんが、「服用者の17%が休薬期間を7日間取ることしらない」という報告(英国)や、「27%の女性は休薬期間を正確にとっておらず、そのうち21錠ピルの休薬期間を延長させる間違いが最も多かった」と言う報告(コロンビア)もあります。

 このような現状から、初めてピルを服用する女性は28錠ピルを選択した方が、より正確に休薬期間を取ることができると思われます。

 28錠ピルは、1,7日間プラセボ錠を服用することにより、休薬期間を7日間に固定し、避妊効果の減弱を防ぐことが最大のメリットですが、その他に2,毎日服用するする習慣をつけられること、3,服用方法が「毎日1錠飲み続けるだけ」と簡単なこと、4,消体出血が生じる時期を「何錠目飲んでいるとき」と覚えやすいことなどがその特徴としてあげられます。

* 21錠ピル

 21錠ピルは、ある程度ピルの服用に慣れた女性、過去に中・高用量ピル(21錠ピル)を服用していた女性に適しています。

1、7日間の服用行為からの開放、2、シートが小さくなるなどのの特徴があります。

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* 低用量ピルは、服用開始方法により2種類に分類されています。

・Day1スタート〜月経開始第1日目から服用を開始

・サンデイスタート〜月経が始まった次の日曜日から服用を開始

 Day1スタートが合理的ですが、サンデイスタートは、消体出血が終末に重なりにくい特徴があり、終末に消体出血があることを好まない女性には適しています。ただ、サンデイスタートの場合には、服用開始後の1週間は他の避妊法を併用する必要があります。

<ピルの避妊以外のメリット>〜保険適用外

1.月経トラブルの軽減〜月経困難症を改善。排卵を防ぐため排卵痛がなくなる。
            月経の量が60%以上ヘリ、月経周期が短くなるため、鉄欠乏性貧血が改善
            月経周期が安定し、PMS(月経前緊張症)も改善

2.ニキビ、多毛症、卵巣機能不全(卵巣機能不全に伴う不妊を改善)の改善

3.骨盤内感染症の予防

 ピルにより子宮頸管粘液の粘度が増加し、精子とともに細菌などの病原菌が侵入しにくくなります。

 ピルは性感染症は予防しませんが、骨盤内への感染の蔓延を抑制します。結果として感染による不妊症の予防に役立ちます。

4.卵巣癌・子宮体(内膜)癌の予防

 非使用者に比べてピル使用者は、4年に以下のピル服用で30%、5〜11年で60%、12年で80%卵巣癌のリスクが減少します。この予防効果は子供を産んだことのない女性でより高く、ピル服用をやめた後でも続きます。また、ピルを服用すると子宮体癌のリスクが最低2年の使用で40%、4年以上で60%減少します。

 * 子宮頸癌、乳癌はピルにより発生が増加すると考えられています。

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*ピルの重大な副作用は、血栓症と発癌性(子宮頸癌、乳癌)です。

        出典:医薬ジャーナル 2000.3


ゴナドトロピン分泌異常による排卵障害

<キーワード>

ゲスターゲンテスト、無月経

ホルムストローム療法、カウフマン療法

 正常排卵周期が成立するためには、中枢の視床下部-下垂体系と末梢内分泌臓器の卵巣、そしてそれらをつなぐフィードバック機構が協調して機能することが必要で、それらがどのレベルの障害があっても排卵機構は正常に働かず、排卵障害に陥ることになります。

 このうち、ゴナドトロピン分泌異常を示す排卵障害は視床下部・下垂体の障害によるものが多く見受けられます。

<治療法の選択>

 基礎体温上、無排卵であるが無月経は軽症の第1度無月経と、比較的重症の第2度無月経に分類できます。この鑑別にはゲスターゲンを5日間服用してもらい消退出血の有無を調べます。(ゲスターゲンテスト)

  ゲスタ−ゲン:プロゲステロン(黄体ホルモン)およびそれと類似の生物学的作用をもつ物質の総称

 もし出血すれば第1度の無月経と判定されます。第1度無月経は卵胞の中等度以上の発育を伴っていますので、内因性エストロゲンの分泌が一定レベル以上存在し、増殖した子宮内膜をゲスターゲン剤に反応したものと考えられます。

 一方ゲスターゲンテストに反応しない無月経例に対しては、エストローゲン-ゲスターゲンテストを行い、消退出血がみられたら第2度無月経と診断されます。

 第2度無月経では卵胞の発育がほとんどみられず、内因性エストロゲンのレベルも低下しています。そのため内膜が増殖していず、ゲスターゲン剤を使用しても子宮内膜が反応を示しません。

 第1度無月経と無排卵周産期症には、まずクロミフェン療法を選択します。

 クロミフェンで排卵しないものや第2度無月経では間脳下垂体系の機能を検査するために、血中のLH、FSH、プロラクチン(PRL)を測定します。

 血中PRLが正常で、LHとFSHが正常又は低値なら視床下部・下垂体性排卵障害と診断でき、ゴナドトロピン療法の適応となります。

 一方、血中LHとFSHが正常で、PRLが高値なら高プロラクチン血症と診断されます。

 血中のFSHとPRLが正常で、LHが高値の場合はPCOS(多嚢胞性卵巣症候群:polycystic ovary syndrome)が疑われます。

 この場合、プレドニゾロン-クロミフェン療法、FSH療法やGnRHアゴニスト-FSH療法が用いられます。さらに血中PRLが正常でLHとFSHが高値であれば卵巣性無排卵症と診断され、排卵誘発は困難で、カウフマン方式によるホルモン補充療法を行うしかありません。

<治療>

1.挙児希望がない場合

 挙児希望がない場合は、排卵誘発を図る必要はなく、性ステロイドホルモンの補充を行うのが治療の中心になります。第1度無月経、無排卵症、稀発月経などの比較的軽度の月経異常では、ある程度エストロゲンの分泌があるので黄体ホルモン剤のみを用います。

 ホルムストローム療法 〜月経周期の後半期に5〜10日程度、プロゲストーゲン製剤を2〜10mg/日程度内服。これにより、内服終了後7日以内に消退出血が起こります。これを繰り返します。

 一方、第2度無月経ではエストロゲンは低値ですので、エストロゲン剤とプロゲステロン剤を併用します。(カウフマン療法)。

 カウフマン療法〜月経周期の前半期(10日間程度)、エストロゲン製剤のみを内服し、続いて後半期(11日間程度)エストロゲン剤+プロゲストーゲン製剤を併用します。

 これより、内服終了後7日以内に消退出血が起こります。これを繰り返します。

 月経不順に対する性ホルモン剤による治療は、排卵は起こしませんが、女性ホルモンが補給されるので、若年者では性器や乳房の発育を促し、高年者では子宮内膜増殖症の予防や骨量の維持などの効果があります。また、周期的に子宮から出血があるので精神的にも好影響があります。

2.挙児希望がある場合

 挙児希望がある場合では、妊娠を図るために排卵誘発を行います。

 第1度無月経、無排卵周期消などの比較的軽度の月経異常では、まずクロミフェン療法を行います。

 一方、第2度無月経ではゴナドトロピン療法を行うのが一般的です。

 クロミフェン療法〜クロミフェンは月経周期や消退出血の5日目から50〜150mg/日を5日間内服。排卵は通常、服用終了後7日目前後に起こります。比較的軽度の月経異常では、排卵率は60〜70%程度、妊娠率は20〜25%です。クロミフェンを単独で使用しても妊娠しない場合は、ゴナドトロピン療法に切り替えます。

 ゴナドトロピン療法〜本療法は中枢性排卵性障害に対して現在最も強力な排卵誘発法で、優れた臨床効果が報告されています。しかし副作用として多発排卵による多胎妊娠の増加やOHSS(卵巣過剰刺激症候群:ovarian hyperstimulation syndrome)などの発生頻度が高いことが報告されていますので、管理上細心の注意が必要です。

 消退出血あるいは月経周期の4〜6日目からhMG製剤を1日75〜225IU連日皮下または筋注、卵胞が成熟したらhCGを5000〜10000IU使用して排卵を誘起します。一般にhCGを使用しないと排卵は起こりません。

 使用中は卵胞発育モニタリングを適宜実施して卵胞成熟の判定を行って、hCG使用の時期を決定します。

 一般に排卵率60〜80%、妊娠率20〜30%、OHSS発生率20〜30%、多胎率20%、流産率15〜20%と報告されています。

  出典:「薬の知識」 2003 Vol.54 No.12 ライフサイエンス出版 等

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不妊治療にインスリン抵抗性改善薬

 以前からPCOS(多嚢胞性卵巣症候群:polycystic ovary syndrome)では、軽い糖代謝異常を合併していることが多いと指摘されていましたが、インスリン抵抗性に基づく高インスリン血症を呈する場合があります。

 最近の知見によりますと、PCOSの基本的な病態は、インスリン抵抗性亢進と卵巣でのアンドロゲン産生亢進であるとする考え方が有力になりつつあります。

 高アンドロゲン環境下では、卵巣での正常卵胞の発育が抑制され、卵胞閉鎖(卵胞が未熟なまま退化)が起こります。

 インスリンは直接卵巣に作用して、卵巣内のアンドロゲン産生を促進する働きがあるため、過剰にインスリンが存在する状態では高アンドロゲン血症を招き、排卵が起こりにくくなります。

 近年高インスリン血症を呈するPCOS患者に対し、インスリン抵抗性改善薬が試みられています。使用薬剤はメトホルミンの報告が多く、最近ではアクトス錠(ピオグリタゾン)も使用されています。(適応外)

 ノスカール錠(トログリタゾン:販売中止)の添付文書には「多嚢胞性卵巣症候群患者に本剤を使用した場合、排卵を回復させる可能性がある」と記載されていました。但し同系統のチアゾリジン誘導体のアクトス錠には、現在そのような記載はありません。

   出典:日本薬剤師会雑誌 2004.2

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子宮内避妊システム
IUS
パール指数

 子宮内避妊システムとは、いわゆる子宮内避妊用具(IUD)の一種です。一般に避妊法には、経口避妊薬、コンドーム、IUDなどがありますが、このうちIUDは安全性に優れ、またパートナーの協力を必要とせず、子宮内に挿入するだけで避妊効果を発揮できます。

 日本では、避妊リングの他、IUDの軸に銅製のワイヤーを巻きつけた銅徐放型IUDが認可されています。避妊リングは、子宮内にポリエチレン、酢酸ビニールなどでできた小さな器具をいれ、精子・卵子の受精能と精子の運動性を阻害して受精を防ぎ、銅付加IUDでは銅がこの作用を増強すると考えられています。

 しかし、避妊効果を高めるために子宮内膜に接触する面積を増加させる方法がとられてきましたが、それに伴う出血、疼痛などの副作用が問題とされてきました。黄体ホルモン放出型のIUSも2007年に承認されています。

 IUSはIUD同様、子宮内に装着することにより長期間避妊効果を発揮しますが、IUDが医療機器であるの対し、IUSは医薬品です。

 IUSが放出するレボノルゲストレルにより子宮内膜に作用し、かつ子宮頚管粘液の粘性を高めて子宮と卵管での精子の通過を阻止して、妊娠の成立を阻害します。さらに、月経時の出血量が軽減されますので、月経過多の推奨できないIUDとは大きく異なります。

 避妊効果は1回の装着で5年間持続することが確認されており、装着や除去は産婦人科医が行います。

<パール指数>

避妊効果の指標の1つにパール指数があります。正しく挿入すればIUSのパール指数は0.14で、この意味は1年間にこのIUSで避妊して、妊娠してしまう人は100人中0.14人ということです。ちなみに、通常のIUDのパール指数は0.6〜0.8%、経口避妊薬は0.1〜5%、コンドームは一般的な使用法で14〜15%です。

装着時には性感染のリスクが高まることと、途中で脱落する可能性もあることを知っておく必要があります。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2008.2


2000年8月15日号 297

アーチーの夢(コクラン共同計画)

グローバリゼーション(3)

 この文章は、http://cochrane.umin.ac.jp/WhatsCC-FAQ_J.htmlを元にしたものです。

 1970年代に、アーチー・コクランという人が、『すべての医学的介入について
RCT:randomized controlled trial(無作為化比較試験〜あらゆる先入観、バイアスを排除するために考えられた統計学的手法)が必要で、その情報が要約され、最新化され必要な人に伝えられるべき』と力説しました。このプロジェクトを、Archie Cochrane's dreamとも呼びます。

 コクラン共同計画(The Cochrane Collaboration)は、1992年にイギリスの国民保健サービス(National Health Service: NHS)の一環として始まり、現在世界的に急速に展開している医療テクノロジーアセスメントのプロジェクトです。

 RCTを中心に、世界中のclinical trialのシステマティック・レビュー (systematic review; 収集し、質評価を行い、統計学的に統合する)を行い、その結果を、医療関係者や医療政策決定者、さらには消費者に届け、合理的な意思決定に供することを目的としています。

 最近になって急激にもてはやされている
Evidence-based medicine (EBM)の情報インフラストラクチャーと位置付けられています。

<コクラン共同計画の特徴>

・ 医学情報の爆発的増大に対する意志決定支援システム。Systematic review

・ 対象とする領域は、すべての治療・予防など多岐にわたっており、とてつもなく広く、ヒトゲノム計画にも例えられています。

・ 最新の情報システムを駆使しており、また展開が早く、種々の情報がインターネット、CD-ROMなどにより入手できます。迅速でかつ英語での理解を望まれる方は、カナダのコクランセンターにあるCanadian serverに直接アクセスされることをおすすめします。(http://hiru.mcmaster.ca/cochrane)

・ NHSの一環として始まったが、参加している人は世界中に及び、ボランタリー・スピリットで働いていることが多い。

・ 社会的受容は各国の医療サービス・システムの形態に依存することが多い。

 日本のコクラン共同計画は、下記を参考にして下さい。

 http://www.cph.mri.tmd.ac.jp/JANCOC/HomePage.html


*AST、ALT

AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(GOTのこと)

ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(GPTのこと)

 国際的な名称に会わせるため、GOTとGPTはそれぞれAST、ALTと呼ぶようになりました。

異常値を示す疾患

*AST(GOT)高値で、AST(GOT)>ALT(GPT)の場合
アルコール性肝炎、脂肪肝、劇症肝炎、溶血、心筋梗塞、心筋炎、横紋筋融解症、ウイルソン病、ヘモクロマトージス、筋ジストロフィー、多発性筋炎、皮膚筋炎、甲状腺機能亢進・低下症

*AST(GOT)高値で、AST(GOT)<ALT(GPT)の場合
急性(初期はAST>ALT)・慢性肝炎、自己免疫性肝炎、薬剤性肝炎、原発性硬化性胆肝炎、肝硬変症(PBC)

*AST(GOT)低値〜肝硬変末期、人工透析患者、妊娠、脚気、ビタミンB6欠乏症


GPT(ALT)、GOT(AST)

:高値〜肝疾患(急性肝炎、慢性肝炎の一部、脂肪肝、うっ血肝)ふつう 500単位以上(正常は5〜40U)GPT(ALT)>GOT(AST)(逆もある)


:高値〜GOT(AST)>GPT(GPT=ALTは正常)
  1.肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌)
  2.閉塞性黄疸
  3.心疾患(心筋梗塞、右心不全)
  4.筋肉諸疾患、悪性腫瘍、その他


γ-GTP:高値
  1.肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌、特にアルコール性肝炎では著明  上昇)
  2.胆道系疾患(一般に肝内、肝外を問わずに著明上昇)
  3.膵疾患、心筋梗塞、その他

<追補>

男性が女性より若干高い。溶血で上昇、幼児は成人の2〜3倍。

イソニアジド、D−ペニシラミン服用で低値となります。ビタミンB6欠乏のため

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ALP

アルカリフォフファターゼ(正常値 100〜340 IU/L)

 ALPはリン酸化合物を分解する酵素で、胆汁の流れが悪くなると血液中に増えてきます。

 黄疸の鑑別に用いられます。


*CRP

 C‐reactive protein

 CRPは急性相反応蛋白で急性炎症では10時間以内に上昇します。感染症などでの炎症病態の重症度の指標の1つとなるため、抗生物質などの用量設定の目安となります。

 細菌感染の病態では、発熱・白血球数・CRPを参照にしながら合併症、腎機能も考慮して抗生物質の与薬量、与薬間隔などの情報提供が必要です。

*高感度CRP(hSCRP)


 CRPは、一般に炎症時、IL-1が組織から出されると肝臓で合成され血中に出現増加します。微量の増減を感知する高感度CRPは動脈硬化進展あるいはその炎症過程の1つの指標になりうるとされています。
CRPと動脈硬化もご覧下さい)

 CRPは貪食作用を助けたり補体の活性化を介して損傷部位の修復に働くと考えられていますが、最近、炎症を促進させているとも言われています。

*CK
 Creatine kinase
 クレアチンキナーゼ

 CKは骨格筋や心筋、脳に多量に存在し、それらの障害時に上昇します。
 CKは心筋梗塞の指標ですが薬剤による副作用による横紋筋融解症などの筋障害の指標ともなります。
心筋障害では発症直後は正常、発症後3〜4時間で高値、23〜36時間で最高値となりますが、心筋梗塞の場合は心電図、AST、ALT、LDH、トロポニンTなどで区別できます。

 薬剤による副作用の発現にはCKの軽度の上昇にも注意が必要です。

*CPK
 Creatine phosphokinase
 クレアチンホスホキナーゼ

 骨格筋、心筋、脳などの各種興奮組織に多く分布し、3種のアイソザイム(下記)の存在が知られています。
CPKは細胞膜の透過性亢進や細胞障害などにより血中に遊出し、血中CPK活性の上昇と特徴のあるアイソザイム像を呈することから、筋・神経疾患、心筋疾患ではこの酵素の測定は意義があります。

*BUN

 BUNは蛋白代謝の最終産物である尿素が排泄されているかどうかを調べる指標です。
 BUNが上昇すると腎臓で尿素の排泄障害起こっていると考えられます。

*尿ウロビリノーゲン

 増加:肝炎
 全く検出されない:閉塞性黄疸 が疑われます。

*血清総蛋白(アルブミン約67%、グロブリン33%)は、からだの栄養状態、肝障害の有無や重症度を反映します。

*A/G比

  A/G比 アルブミンとグロブリンの比 正常値 1.3〜2.0
  アルブミンが減って、グロブリン増えれば肝障害が進んでいることになります。

*血沈

 赤血球沈降速度 (男性1〜10o、女性3〜15o)

 採取した血液に抗凝固剤を混ぜてガラス管に1時間入れておいたときの赤血球が沈む程度

 男女とも20o以上の時はなんらかの感染症があるとみなします。


アイソザイム
isozyme
アイソエンザイム
同位酵素isoenzyme

 多くの酵素では、同一の反応を触媒しながらタンパク質構造やKmなどの反応速度論的性質を異にする2種類以上の酵素分子種が存在します。これらをアイソザイムと呼びます。

 アイソザイムは同一の生体内に存在しますが、互いに遺伝子を異にしています。アイソザイムの生体内分布は、例えば

1.乳酸脱水素酵素(LDH)アイソザイムのように心臓と骨格筋の代謝特性を反映して臓器分布を異にする場合。
2.リンゴ酸脱水素酵素アイソザイムのようにミトコンドリアと細胞質の代謝特性を反映して細胞内分布を異にする場合。
3.FBPアルドラーゼFBP aldolaseやLDHアイソザイムLDH isozymeのように胚型・胎児型組織から成人組織への分化に伴って分布を異にし、癌化により胚型に先祖がえりする場合。
4.ヘキソキナーゼとグルコキナーゼのように基質濃度を反映した臓器分布をする場合。

 などがあります。

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