メインページへ  HS病院薬剤部発行

薬剤ニュース 

           1994年5月1日号 NO.151

  Metabolic Syndromeとは 

    −インスリン抵抗性を基盤とする一連の病態群−

         (2003年追記 メタボリック症候群:Metabolic Syndorome)

 メタボリック症候群は、インスリン抵抗性により血液中のインスリン値が低下しにくいため慢性的に血液中のインスリン値が高い病態です。
 高インスリン血症が持続すると、高血圧、高トリグリセライド血症、低HDLコレステロール血症、内臓脂肪の蓄積などが起こりやすくなります。
 このような動脈硬化の危険因子が重積する病態は、これまで「死の四重奏」、Syndrome X、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群などの呼称がありましたが、最近、米国のNCEP−ATP3:ナショナル コレステロール エデュケーション プログラム アダルト トレートメント パネル 3)では、メタボリック症候群の名で記載されています。

<メタボリック症候群の診断基準>
1.空腹時トリグリセライド ≧150mg/dL
2.HDL−コレステロール 男性<40mg/dL、女性<50mg/dL
3.腹囲 男性>102cm 女性>88cm 
(注:これは2001年の米国での数値です。)
4.血圧≧130/85mmHg        
(日本人では、男性85cm以上、女性90cm以上)
5.空腹時血糖≧110mg/dL

 2型糖尿病やメタボリック症候群は、遺伝的素因、加齢などの要因に加え、肥満、食生活・身体活動等をはじめとした生活習慣との関連が深いと考えられていいます。いずれも初期には自覚症状がないために、定期的に検診を受けて、早期に発見し、早期に生活習慣を改善することが大切です。

             
出典:大阪府薬雑誌 2003.2  

 

   疾患を代謝面の異常からとらえ、その病因を明らかにしようとする研究の中から、近年、新しい症候群が提唱されています。インスリン抵抗性を基盤に発症しているとおもわれる一群の病態        

@インスリン抵抗性、A耐糖能障害、B高インスリン血症、CVLDLトリグリセリドの増加、DHDLコレステロ-ルの低下、E高血圧、(その他F微小血管性狭心症、G高尿酸血症、Hプラスミノ-ゲン活性化因子阻害物質1の高値)

  以上をSyndrome xと命名し、この病態に属する重合が虚血性心疾患の発症に重要な役割を果たしているとされています。

      {参考文献} 薬局 4 1994

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 高脂血症、糖尿病、肥満、高血圧症などは冠動脈危険因子とされ、虚血性心疾患患者の多くに、これら病態が複合して存在することは疫学的に明らかにされています。一方、比較的最近の研究において、 高インスリン血症とインスリン抵抗性は本態性高血圧症、肥満、NIDDM(インスリン非依存性糖尿病)の多くに認 められ、これらの病態を有する症例の冠動脈疾患発 症は高率であり、インスリン血症が、冠動脈疾患の発症に深く関係することが明らかにされています。

 本態性高血圧症の患者が、インスリン抵抗性を有することは実証されており、インスリン抵抗性は本態性高血圧症の成因である可能性が示唆されています。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’
 優れた降圧剤が開発され、血圧が良好にコントロ−ルされるようになり、脳卒中の発症は著しく減少したのにもかかわらず、虚血性心疾患、ことに心筋梗塞の発症は、現在にいたっても、十分に抑制されていません。

 サイアザイド系利尿剤は、心筋梗塞を誘発せしめている可能性があると指摘され、一方β遮断剤の一部は心筋梗塞の再発を明らかに抑制することが証明され、従来、サイアザイド系降圧利尿剤が占めてきた第一選択剤の位置はβ遮断剤に取って代わられつつあります。

 サイアザイド系利尿剤による、心筋梗塞の発症促進は、古くから知られている本剤の糖・脂質・尿酸代謝異常誘発作用の可能性が推定されています。

 ことに耐糖能障害の発現は、細胞内カリウムの低下によるインスリン抵抗性の発現あるいはインスリン分泌低下によるとされ、大きなデメリットになっています。

 β遮断剤にもサイアザイド系と同様の代謝異常を誘発する作用を有することは知られていましたが、疫学的に心筋梗塞再発抑制効果が明らかにされていたため、β遮断剤のこの点に対する論議はあまりなされていません。しかしSyndrome xの概念が提唱されるにいたり、降圧剤のインスリン抵抗性におよぼす作用は注目され、この観点からみたβ遮断剤の価値が再評価されています。

 高血圧症患者がすでに有するインスリン抵抗性を軽減することができることが、明らかにされている降圧剤は、ACE阻害剤とα1遮断剤だけです。

 現在、本態性高血圧症患者の薬物療法において強く望まれている効果は虚血性心疾患、ことに心筋梗塞発症の抑制です。虚血性心疾患の成因に対する新しい考え、Syndrome xの概念が提唱されたことは、高血圧治療に対する考えの見直しの契機となり、非薬物療法では、ナトリウムの制限よりも、インスリン抵抗性を軽減せしめる肥満の軽減、運動の奨励がまた薬物療法では、インスリン抵抗性を改善せしめるACE阻害剤とα1 遮断剤、あるいはインスリン抵抗性に影響を与えないCa拮抗剤が好ましい降圧剤と考えられるにいたっています。

 α1遮断剤は起立性低血圧、薬物耐性を誘発しやすいのに対し、ACE阻害剤は、慢性うっ血性心不全患者の予後を改善せしめることが証明されていることもあって、降圧剤として第一選択剤とすることが、好ましいとする考えも提示されています。

関連記事:

インスリン抵抗性 / インスリン抵抗性改善剤

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

メインページへ

Comorbidityという考え方

動脈硬化性疾患と併存疾患

2004年12月1日号 No.396

 Comorbidityは併存疾患と訳されますが、対象となる疾患(指標疾患:この場合は冠動脈疾患など)とともに存在し、予後や機能に影響を与え得る疾患のことです。

 合併症との使い分けは必ずしも一定の見解はありませんが、ここでは合併症は指標疾患から二次的に生じた病態(例えば狭心症により起こった心不全など)と定義し、併存疾患は指標疾患と独立して併存しているものという点で異なると考えられます。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 粥状動脈硬化疾患での高コレステロール血症の関与は疑いのないものとなっていますが、従来より粥状動脈硬化性疾患との関わりが指摘されてきた高血圧、肥満、耐糖能異常などが近年あらためて認識されてきています。

 これらは当初疾患との関わりが深い因子としてリスクファクターと称され、その発症メカニズムとの関係は長く未解明でしたが、1980年代後半から高血圧症、高脂血症、糖尿病などがそれぞれ程度は軽くとも、個人に集積したマルチプルリスクファクター症候群が動脈硬化性疾患の基盤として非常に重大な意義を持つことが分かってきました。

 これまでに「シンドロームX」、「死の四重奏」といった概念がある一方、日本では「内臓脂肪症候群」という疾患概念が提唱されています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・シンドロームX : インスリン抵抗性、高インスリン血症、高血圧、耐糖能異常、高VLDL-TG血症、低HDL-C血症

・死の四重奏 : 上半身肥満、耐糖能異常、高TG血症、高血圧

・内臓肥満症候群 : 内臓脂肪蓄積、耐糖能異常、高脂血症、高血圧

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 Comorbidityの中には、糖尿病、耐糖能異常、高血圧、低HDL血症が含まれていますが、これらはいずれもメタボリックシンドロームの主徴です。言い換えると、性差、加齢などは別として冠動脈疾患の予防を図る方略には血清LDL値の管理が必須ですが、その管理基準にはメタボリックシンドロームの病態が大きく影響しています。

 2002年の高脂血症診療ガイドラインは動脈硬化性疾患診療ガイドラインと改訂されて発表されました。高脂血症の診療を中心としつつ、他のリスクを考慮して動脈硬化を予防することを骨子としたガイドラインです。特にハイリスク群については十分な配慮が必要で、管理も厳しくすることが要求されています。

 Comorbidityの質と量により血清LDLコレステロール値の管理目標がより厳しくなり、冠動脈疾患の既往者ではさらに厳しい管理基準が設けられています。コレステロールを中心に置きつつも、併存疾患を考慮するこのガイドライン策定の背景には、近年非常に重大な問題となってきつつあるメタボリックシンドロームに代表されるリスク重積に対する厳しい配慮があります。


        {参考文献}治療 2004.11


医学・薬学用語解説(R)  RLS:restless legs syndrome(むずむず脚症候群)はこちらです。


メインページへ

メタボリックドミノ

2004年4月15日号 No.381

 生活習慣病の発症から心血管イベントに至る過程は、メタボリックドミノという新しい概念でとらえることができます。

 生活習慣病の重責は心血管病のリスクを高めますが、生活習慣病が同一患者に同時に発症することはなく、その人の一生の中で時経的に発症します。そこで、危険因子となる疾病がどのような順序で、どの時期に発症してくるかが問題となります。この問題をダイナミックにとらえたのがメタボリックドミノの概念です。

          {参考文献}日本薬剤師会雑誌 2004.4

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 ドミノの起点となるのが生活習慣のゆらぎであり、そのゆらぎがドミノ倒しの駒を倒す引き金となって肥満やインスリン抵抗性が引き起こされ、その結果、高血圧症、高脂血症、食後高血糖などの生活習慣病が発症します。

 これらが発症した時点から動脈硬化症、いわゆるマクロアンギオパチー(大血管障害)が進展し、虚血性心疾患、脳虚血、閉塞性動脈硬化症が発症し、脳卒中や痴呆、心不全、更に下肢壊死切断にいたり、これと並行して糖尿病が徐々に発症してきます。

 糖尿病が発症し、高血糖になるとミクロアンギオパチー(細小血管障害)が進展し、腎症、網膜症、神経障害が合併し腎障害、腎透析、失明や起立性低血圧やED(勃起障害)に至ります。

 このように、生活習慣病の発症を時経列でとらえるとともに、時間的な流れの過程でそれぞれの疾患が相乗的に影響し合いながら病態が進展し、一気に心血管イベントが起こってくるという考え方がメタボリックドミノです。

 メタボリックドミノの概念では、従来からいわれてきた危険因子の“重責”に加え、危険因子の“流れ”と、その流れの中で危険因子が“連鎖”反応を起こすことを重要視します。

 メタボリックドミノでは、その最上流に位置する肥満から最下流の心血管イベント、血管合併症の発症に至るまで、その全ての段階で、レニン-アンジオテンシン系が連続的に関与しているエビデンスが次々に明らかにされています。

 組織レニン−アンジオテンシン系の活性化は、
インスリン抵抗性、更に生活習慣病の発症と相互作用を示し、その病態において中心的な役割を演じています。

 従来より、
メタボリックシンドローム共通の病態基盤として、“インスリン抵抗性”が注目されていました。レニン-アンジオテンシン系を含め血圧調節に関与する液性因子の異常がその原因になっている可能性が近年示されるようになっています。

 一般的にメタボリックドミノの下流になるに従い、レニン-アンジオテンシン系の関与は大きくなると考えられます。メタボリックドミノではドミノの駒が連鎖的に複雑に倒れていく下流になればなるほど、これを阻止することは困難となります。つまりToo late and too much(遅すぎると手に負えない)ということになります。

 糖尿病合併高血圧症患者の降圧目標値は、糖尿病を合併していない患者に比べ厳しいものとなっています。

 日本高血圧学会の2000年版のガイドラインでは糖尿病は高リスク群として扱っていますが、その高圧目標は130/85mmHg未満であるのに対し、米国糖尿病学会の指針では、130/80mmHgと更に低値を目標としています。倒れている駒が少ないできるだけ早期にRA(レニン-アンジオテンシン)系抑制による治療を開始することが、メタボリックドミノで重要であると考えられます。


医学・薬学用語解説(C)   Common diseaseはこちらです。


メインページへ

メタボリック症候群と高尿酸血症

2005年11月1日号 No.417    関連項目
メタボリック症候群での内臓脂肪の役割もご覧下さい。

            {参考文献} 医薬品ジャーナル 2005・10

   この記事は、大阪府立成人病センター臨床検査科・部長 中島 弘先生の文章を参考にしたものです。


 メタボリック症候群には、高尿酸血症の合併が多く、これからは通風発作の前段階としてでなく栄養学的に注目すべき代謝障害として、高尿酸血症を生活習慣改善の対象にする必要があります。なぜなら、血清尿酸値は内臓脂肪蓄積量を反映する良いバイオマーカーと考えられるからです。

 疫学的な研究の多くで、尿酸値は動脈硬化性疾患の独立したリスクファクターと算定されますが、尿酸自体が動脈硬化を生じるのではありません。生活習慣改善によって尿酸値が低下するように患者指導し、他の危険因子も同時に軽減させるようにすべきです。薬剤による尿酸降下療法だけでは、決してメタボリック症候群は改善せず、またリスクファクターも低減されません。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 尿酸は、食餌性・内因性のプリン体から肝臓で生合成されます。従来より、肥満、高脂血症。高血圧症、インスリン抵抗性により高尿酸血症が合併しやすことが知られています。

 特例は、空腹時から尿糖が陽性となる顕性の糖尿病です。尿糖とともに尿酸が尿中に過剰排出されるために、血清尿酸値が本来の値より低下し、尿中尿酸排泄は亢進します。

 尿路結石のリスクが上昇しますので、高尿酸血症と同様に尿アルカリ化の候補として念頭に置く必要があります。

 内臓脂肪蓄積があると、内因性尿酸生合成が亢進します。生活習慣病の増加に伴って、同時に複数の生活習慣病を保有する例も増加していますが単なる複数合併の場合と、内臓脂肪蓄積をキープレイヤーとするメタボリック症候群の場合で、心血管イベントというアウトカムにも差異があると考えられます。

 このような観点から高尿酸血症を見ていく時、血清尿酸値が内臓脂肪蓄積を表現する良いマーカーとなっているのです。

 内臓脂肪蓄積は、メタボリック症候群でのインスリン抵抗性の原因となリ、これらが高尿酸血症の成因ともなります。

*内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性と高尿酸血症

1)日本人では、高度な皮下脂肪型肥満では尿酸排泄が低下していますが、内臓脂肪型肥満では、むしろ尿中尿酸排泄量が高値を示し生産過剰を示します。
2)日本人健常者では各種肥満指標を検討すると内臓脂肪面積は血清尿酸値、尿酸クリアランス、尿中尿酸・クレアチニン比のいずれとも相関します。
3)内臓脂肪蓄積があると、遊離脂肪酸(FFA)が多量に門脈中へ放出され、中性脂肪合成が亢進します。これに伴って、リボース5リン酸代謝の亢進から尿酸合成が促進されます。
4)高尿酸血症は肥満に伴って生じることが多く肥満のマーカーのひとつと言えますが、各種疫学的な検討からは、心血管疾患の独立した優位なリスクファクターでもあります。5)経口ブドウ糖負荷試験で、高インスリン血症の程度と血清尿酸値が相関し、インスリン抵抗性の指標となります。
6)非糖尿病患者へのグルコースクランプ検査でも、グルコース注入率で表現されるインスリン抵抗性の程度が、血清尿酸値と有意の相関性を示します。
 

                  関連項目メタボリック症候群での内臓脂肪の役割もご覧下さい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

医薬トピックス(17)

メタボリック症候群による新たな混乱

 メタボリック症候群は生活習慣病の複合症候群で、その原因が内臓脂肪蓄積であるものをひとまとめにした概念といえます。生活習慣病全体の集合はさらに大きく、これも大抵は複合疾患症候群の様相を呈しています。内臓脂肪蓄積はないが、他の生活習慣病が複数集積する症例も存在するわけです。

 それなのに、メタボリックシンドロームの診断基準が出た以上何でもメタボリック症候群を前提に考えようとして、新たな混乱を生じています。

 日本では高度肥満者は少なく、新基準に照らすとメタボリック症候群は多くないという観察もあります。そもそも、糖尿病、高脂血症、高血圧症など、いずれの生活習慣病においてもメタボリックシンドローム型と非メタボリックシンドローム型が存在します。

 内臓脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性も生じます。しかし、インスリン抵抗性があっても内臓脂肪が蓄積するとは限りません。高尿酸血症も同じで、これを画一的に的に扱うべきではありません。

 現在、メタボリック症候群に関連する病態概念や原理の中でわが国から提唱され、検証され、理論化されたものは内臓脂肪論だけです。

 従来から重視されてきたインスリン抵抗性の理論は、日本人のデータから提唱されたものではありません。

 疾病構造の欧米化を見据えて、今から心血管病の対策をしなければならないという危機感から始まったわが国のメタボリック症候群対策は、日本で作られた内臓脂肪肥満の概念が世界で認められるという意義深いものとなりました。

 生活指導という利潤性の低い医療行為が優先される規準は、良好な医師-患者関係を構築し、生活の基本から医療を見なおし、その上で今後さらに安全で良質な医薬品の出現を期待しながら、内臓脂肪対策を加えることは、医療経済の面からも大変有効な医療となるはずです。      

    {参考文献} 医薬ジャーナル 2005・10

          この記事は、大阪府立成人病センター臨床検査科・部長 中島 弘先生の文章を参考にしたものです。


糖尿病の二大要因

1、インスリンの分泌不足(absolute lack)
2、インスリン抵抗性(relative lack)

*α-glucosidse阻害剤〜糖類の消化吸収の阻害による高血糖・高インスリン血症の改善→インスリン抵抗性の改善

  結果としてインスリン分泌を促進しないため高インスリン血症に有用

  インスリンの作用部位である筋・脂肪組織のインスリン感受性の改善によりその作用を効率を上げる新規薬物
シンドロームX

 インスリン抵抗性に基因する高インスリン血症に、耐糖能異常(IGT:impaired glucose tolerance)、脂質代謝異常(高VLDL−トリグリセライド血症、低HDL−コレステロール血症)および高血圧を合併した病態→動脈硬化や冠動脈のリスクファクター

 無批判にインスリン製剤を用いるのではなく、インスリン抵抗性や高インスリン血症、シンロームXをも大きく視野にいれた薬物療法が要求されてきています。


インスリン自己免疫症候群

 インスリン自己免疫症候群の患者にチアマゾールなどのSH基を含む薬剤の服用歴があるあることから、SH基を含む薬剤は本症候群の発現を促進する可能性があるので、低血糖等の発現に注意し、速やかに対処できるように指導する必要があります。ただし甲状腺機能亢進状態が正常域にコントロールされていない患者では、甲状腺機能亢進症の自覚症状として「動悸、振戦」が高頻度に見られることが知られています。

 チアマゾール服用によりインスリン自己免疫症候群が発現した際の「動悸、振戦」との相違について指導する必要があります。ただ単に「動悸、振戦」と指導した場合には、副作用によるものか疾患によるものか患者が混乱をきたすおそれがあるので注意が必要です。

 また意識レベルの低下や意識の喪失にいたった場合は、患者自身では対処できないので、同居者にも低血糖の症状に注意するよう指導します。

 本症候群は、インスリン注射を受けたことがないにもかかわらず、血中に大量のインスリン結合抗体を有し、この自己免疫インスリン抗体に大量の自己インスリンが結合しており、その濃度はその一部が遊離しただけで容易に低血糖を起こすと考えられるほど高く、食前または食後に強い自発性低血糖を、またまれに糖尿病状態を呈すると定義されています。

 低血糖の症状は、比較的軽度のものから昏睡に至るものまであり、軽度では食後の高血糖の後に一過性の低血糖を認め、重症となれば、夜間、早朝空腹時、その他の空腹時に低血糖発作を頻発します。また、インスリン自己抗体の産生によりグルコース負荷試験では糖尿病型を示すことが多い。血中に遊離インスリンが増加することによる低血糖症状であるため、血糖降下剤による低血糖等症状と同じです。


<機序>

 日本人の本症候群では、HLAのBw62,Cw4,DR4が多いことが報告されていましたが、さらに、HLA−DR遺伝子の分析により、バセドウ病でチアマゾール治療を受け本症候群を発症した13人全例に、DRB1*0406を認めた報告があります。このDRB1*0406については、日本人健常対照群では8%の頻度であるのに対し、白人健常対照群では0〜0.6%と極めて少ないことが白人に本症候群が少ない理由と考えられています。

 薬剤誘発性ではチアマゾール以外にチオラ、タチオン、ペニシラミンで報告されており、これらの薬剤はいずれもSH基を有し、これがインスリンのS−S結合に影響を及ぼし、インスリンが変性して抗原性を持つのではないかと推察されています。

 また、チアマゾール自体が免疫系に直接・間接的に影響を与えることが報告されており、SH基によるインスリンの修飾のみならず免疫系への作用の可能性も否定できません。さらに同じく抗甲状腺剤であるプロピルチオウラシル服用例でもインスリン抗体を認めた報告があり、薬剤だけでなく生体側の免疫学的要因の関与を示唆した報告もあります。

 またチアマゾール治療中に甲状腺機能が正常になるとインスリン抗体価が減少することが報告されており、甲状腺機能亢進状態での免疫異常が発症に関与している可能性も示唆されています。


インスリン作用

 インスリン作用はホルモン分子としてではなく、システムです。膵β細胞で産生された内因性インスリンにしろ、注射による外因性インスリンにしろ血糖値はインスリンの血中濃度によってではなくインスリン感受性により決まります。

 インスリン作用のシステム論は、食事療法や運動療法の意義、多様化する薬物療法の理解に極めて重要です。

 インスリン作用システムとは膵β細胞でインスリンが生合成され、食事から吸収されたブドウ糖やアミノ酸の刺激を受けて分泌され、標的細胞のインスリンに特異的受容体と結合し、細胞内情報伝達を経てインスリン輸送担体がブドウ糖を取り込み代謝する一連の機構です。このシステムのいずれの部位に生じた場合にでも糖尿病が起こり得ます。

 インスリン作用は食事、身体活動などの影響を受けて常に変化するものです。環境因子、すなわち運動不足、過体重、脂肪の過剰摂取、遅い夕食などの生活習慣は、インスリン抵抗性となってインスリン作用システムへの負荷となります。

 インスリン抵抗因子の過剰によりいったん高血糖となりブドウ糖解毒(glucotoxicity)の影響を受けるとインスリン作用はさらに阻害され、膵β細胞の血糖上昇に対する反応も低下します。

 糖尿病の栄養指導には、インスリン抵抗性を増強する因子(作用障害)と、インスリン欠乏を促進する因子(分泌障害)とに分けて患者に説明する必要があります。両者の相互関係は算術的なものではなく、自動車のエンジンの調子が積み荷や道路状態によって変化するように、生活習慣がもたらす環境因子や疾患や外傷、精神的ストレスなどのより生じる代謝異常の程度により時々刻々と変化するものなのです。

   出典:日本病院薬剤師会雑誌 2000.10

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<インスリン分泌障害と糖尿病の病型・インスリン療法>

 健常人では、インスリンは2つのコンポーネント(基礎インスリン分泌と追加インスリン分泌)が働いています。インスリン分泌障害には以下の2つがあります。

1.追加インスリン分泌障害〜速効型あるいは超速効型インスリン

 2型糖尿病はインスリン分泌障害とインスリン抵抗性を発症機構とします。
追加インスリン分泌が基礎インスリン分泌に比べ早期に障害されるため、速効型あるいは超速効型インスリンによって食後血糖値の上昇を抑制して等の毒性を軽減します。

2.基礎インスリン分泌+追加分泌障害
    〜中間型・持続型インスリン+速効型・超速効型インスリン

 インスリン分泌能が1/3程度になると基礎インスリン分泌も低下するため、中間型、持続型インスリンが必要となります。

 1型糖尿病は膵β細胞破壊を発症機構とします。インスリン依存期(内因性インスリン分泌の完全枯渇状態)では、速効型、超速効型インスリンと、中間型、持続型インスリンを併用し、基礎分泌、追加分泌の補充を必要とします。

 2型糖尿病で肥満を合併している場合、速効型、超速効型インスリンによる肥満とインスリン抵抗性の助長を避け、中間型、持続型インスリンによる基礎分泌の補充を行うことがあります。

 糖尿病のインスリン療法は、薬物療法無効例に対する最終的な治療法でしたが、最近は内因性インスリン分泌が温存されているうちに導入する治療法へと変化しています。

 外因性インスリンによって膵β細胞機能の休息をはかることが、長期的に良好な血糖値のコントロールをもたらすと考えられています。

    出典:医薬ニュース Vol.13 No.2 2004 東邦薬品KK 共創未来グループ 等


速効型インスリン分泌促進薬

出典:臨床と薬物治療 2000.8

 速効型インスリン分泌促進薬は新たに開発された糖尿病治療薬。

 吸収・排泄が早いため、作用発現が極めて速やかで、作用時間が短い。(Tmaxや約27分、T1/2は約40分)

 毎食前の服用により、食後の血糖上昇を抑えることができます。(食後に服用すると、吸収が遅れ作用発現が遅れます。)

 SU剤に見られた低血糖のリスクが減り、食生活に対する制限や不安感が軽減されます。

* スターシス錠(ナテグリニド)は、FBG(下記注)の上昇が軽度で、食後高血糖を示す軽症の糖尿病が適応

 スターシス錠がSU剤との併用で効果を示した事実があり、この種の速効型インスリン分泌促進薬が主にSU受容体を介して作用効果を発揮していると想定されるものの、それだけではない作用機序の存在の可能性も示唆されています。

FBG:fasting blood glucose;空腹時血糖
FGS:fasting blood sugar
FPG:fasting plasma glucose;空腹時血漿グルコース濃度


メトホルミン・ルネッサンス

メトホルミン〜メルビン錠

 ビグアナイド系薬剤のメトホルミンは、30年以上前から使用されていますが、近年その有用性が高く評価され見直されています。

メトホルミンの作用

1.肝糖放出率抑制;糖新生率を抑制し、肝糖放出率を低下させます。24時間にわたり血糖値を低下させます。
2.筋・脂肪細胞での糖取り込み率亢進;メトホルミンはインスリンの存在の下で筋、脂肪細胞への糖取り込み率を高めます。さらに組織に取り込まれたブドウ糖の嫌気的解糖を亢進させ、グリコーゲン合成を促すなど細胞内でのブドウ糖利用を増加させることが示されています。
3.消化管よりのブドウ糖吸収抑制;メトホルミンは消化管よりのブドウ糖の吸収を遅延させ、食後血糖値上昇を抑制させます。

 メトホルミンがAMPキナーゼを活性化することが最近明らかになり、それが薬理作用につながっていることが確認されています。また、肝での脂肪酸、VLDL合成抑制をもたらし、脂肪肝の治療薬としても注目を浴びています。

 出典:MEDICAMENT News 2003.4.15 等


スライディングスケール

 インスリンの注射方法の1つで、血糖を頻回に測定しその結果で使用量を変え、より生理的なインスリン分泌パターンに近づけて、血糖をコントロールする方法。

 自己注射患者は血糖の自己測定が行えることが必要条件。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

スライディングスケール法

 現在の血糖値に基づき、これから注射するインスリンの量を調節。主に入院中に行われます。

フィックス法

 現在の血糖値に基づき、至近に注射しているインスリン(責任インスリン)の量を調節
固定打ち、決め打ちとも言われます。糖尿病自体のコントロール目的

 スライディングスケールは漫然と行わず、適切な時期にフィックス法に移行します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

BOT療法

basal supported oral therapy

経口血糖降下剤だけでは血糖コントロールが不十分な患者に経口血糖降下剤を継続したまま、夜1回だけ持効型インスリン製剤を注射する方法

インスリン注射の回数が夜1回なので人前でインスリンを注射する心配をしなくてよいため、患者の受け入れが良い。

     出典:OHPニュース 2008.9

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

CSII
Continuous Subcutaneous Insulin Infusion

 持続皮下注入療法で極めて厳格なコントロールが必要な際、小型の持続注入ポンプを利用して皮下に留置した針からインスリンを持続的に注入する方法。
 速効型インスリンを使用し、基礎分泌として一定量ずつ持続的に追加分泌して毎食前に間歇的に注入します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ソモジー効果

 眠前の中間型インスリンが過量で夜間に無自覚な低血糖を起こすと、カウンターレキュラトリーホルモン(カテコラミンなど)の働きで早朝空腹時の血糖値がむしろ上昇します。これをソモジー効果といいます。

 この状態で眠前のインスリンを増量すると、さらに早朝空腹時の血糖値が上昇することになります。

ソモジー効果が疑われる場合、夜中3時頃に血糖測定を行って、低血糖により早朝空腹時の血糖値が上昇している場合には、眠前の中間型インスリンを減量します。

  近年、基礎インスリンが中間型(N)から持効型に置き換わったことにより、夜中の低血糖が減ってソモジー効果が起こりにくくなりました。

   出典:大阪府薬雑誌 2011.4


メインページへ

GIと食後血糖

GI:Glycemic Index

2004年1月15日号  No.375

グリセミックインデックス(GI)は、食後の血糖値を上げやすい食べ物かどうかの指標です。

 基準となる食品(パンなど)と同量の炭水化物を含む食品を食べた後の2時間後までの血糖上昇を比較して数字に置き換えたもので、この数字が高いほど糖が血液中に入る速度が早くなり、血糖値は早く上昇します。

 食後血糖が空腹時よりも心臓血管死のリスクに大きく関わっていることが分かってきました。

 食後血糖のコントロールに役立つと考えられているものに、同じエネルギーの炭水化物にも血糖が上がりやすいものと上がりにくいものがあるという考えがあります。

 この考えがGIです。GIとは、ブドウ糖もしくは白パンを基準食品として、2時間後までの血糖上昇面積を100%としたとき、同じ炭水化物量に相当する食品摂取時の血糖面積の比率です。




<主な食品のGI>

 白パン 69     バナナ 62
 黒パン 72     オレンジ 40
 白米 72      ブドウ 64
 玄米 66      リンゴ 39
 スパゲッティー   ブドウ糖 100
    (粗)42  果糖 20
   〃(精)52  ショ糖 59
 トウモロコシ 59  アイスクリーム 36
 コーンフレーク 80 牛乳 34
 にんじん 92    ヨーグルト 36
 ジャガイモ 80   ハチミツ 87
 さつまいも 48   ピーナッツ 13
 いんげんまめ 31  ポテトチップ 51
 そらまめ 29    ソーセージ 28
 大豆 15      トマトジュース 38
 レンズ豆 29    


 但しGIは、炭水化物に限って考えられたもので、脂肪が多い食品などは胃内に長く残ってGIは低くなります。タンニンなどの消化酵素活性や豆の中の酵素阻害物質などでもGIは影響を受けます。また、糖尿病患者では、血糖コントロール状態によりGIは変動しますので、GIの表をそのまま糖尿病患者にあてはめることは出来ません。

 また例えば負荷試験にブドウ糖の代わりに果糖を用いた場合、健常者では血糖に変化は見られませんが、糖尿病患者では血糖が上昇しやすくなっています。

 GIの意味は、食品を食べたときに体内でどの様なことが起こっているかに注目したことと言うことが出来ます。さらに単品でのGIの差は、複数の食品を組み合わせた日常生活の食事ではほとんど見られなくなります。

 日本人の米飯を100としたGIを決めた杉山みち子氏の研究によれば、GIには摂取時間と咀嚼回数が大きく影響しています。これらのことから考えると、出来るだけ精製されていない食物で、繊維を多く含んだものを、時間をかけ良く咀嚼することが、GIを活かした食べ方です。

 <GIに影響する因子>

1.胃からの排出時間

  ・食物繊維 ・脂肪 ・糖尿病性神経障害

2.腸管での消化吸収

  ・食品の形態、・食物繊維、・調理の有無、
  ・消化酵素活性、酵素阻害物質(タンニン等)

3.インスリン分泌能

 ・血糖コントロール状態

   {参考文献}OHPニュース 2003.12

<日本食のGI(杉山らによる)>

1.米飯の加工状態により湿重量は変動しますが、さらにGI値(吸収率)も変動します。
2.水分が多い「おかゆ」や固形に近い「塩むすび」にして重量を変化させても、GI値にあまり変化は ありません。しかし、おかゆにするとGI値は上がるかもしれません。
3.米飯では、通常「漬け物」など塩蔵品が好まれます。塩蔵品を食しても、上昇傾向になりますが、 GI値はあまり変わりません。イクラ、明太子などの高蛋白品では、GI値は減少傾向を示します。
4.みそ汁の具(豆腐や大根など)による差は見られません。ただし、ワカメ汁と豚汁ではGI値は低下 します。
5.肉料理では、豚肉のショウガ焼きでGI値は低下が大きくなっています。
6.魚料理では、アジとホタテのGI値が低くなっています。
7.豆類では、「おから」がGI値を上げています。納豆、きな粉は低下させる傾向にあります。

その他 

・GI値を下げるもの
 里芋(煮ころがし)、酢、牛乳、ヨーグルト、鰹節(おかか)、卵ぞうすい、とろろかけご飯、リゾット(カレーライス、ドリアは低下傾向)、カツ丼、すし飯、マグロの刺身
お汁粉、

・変化なし
食物繊維、お茶漬け、生卵かけご飯、中華丼、せんべい、おもち、

・GI値上昇傾向:親子丼、かぼちゃ


医学・薬学用語解説(る) ループス腎炎:lupus nephritis(LN)はこちらです。


 メインページへ

日本食のグリセミックインデックス

2005年2月15日号 No.400


 グリセミックインデックス(GI)は、食後の血糖値を上げやすい食べ物かどうかの指標です。基準となる食品(パンなど)と同量の炭水化物を含む食品を食べた後の2時間後までの血糖上昇を比較して数字に置き換えたもので、この数字が高いほど等が血液中に入る速度が早くなり、血糖値は早く上昇します。

 米飯は、通常、副食を伴うので副食によって吸収率は変動します。杉山らは、自己血糖測定器を用いて、米飯での血糖値と米飯とおかず(副食)での血糖値を統計的に測定し2003年に報告しました。

 この研究が優れている点は、主食と副食の区別が難しい欧米生まれのGIを日本食の特性である米飯に着目し、“おかず”の影響を数値化したところにあります。

 下記のように、血糖値を副食などで低下できる結果から、食事制限や医薬品に頼らない新しい食事療法が可能になると思われます。

 特にワカメは血糖値を見事に下げ、その理由はワカメの脂質にあると推定されています。

<日本食のGI(杉山らによる)>

1.米飯の加工状態により湿重量は変動しますが、さらにGI値(吸収率)も変動します。2.水分が多い「おかゆ」や固形に近い「塩むすび」にして重量を変化させても、GI値にあまり変化はありません。しかし、おかゆにするとGI値は上がるかもしれません。
3.米飯では、通常「漬け物」など塩蔵品が好まれます。塩蔵品を食しても、上昇傾向になりますが、GI値はあまり変わりません。イクラ、明太子などの高蛋白品では、GI値は減少傾向を示します。
4.みそ汁の具(豆腐や大根など)による差は見られません。ただし、ワカメ汁と豚汁ではGI値は低下 します。
5.肉料理では、豚肉のショウガ焼きでGI値は低下が大きくなっています。
6.魚料理では、アジとホタテのGI値が低くなっています。
7.豆類では、「おから」がGI値を上げています。納豆、きな粉は低下させる傾向にあります。

その他

・GI値を下げるもの:里芋(煮ころがし)、酢、牛乳、ヨーグルト、鰹節(おかか)、卵ぞうすい、とろろかけご飯、リゾット(カレーライス、ドリアは低下傾向)、カツ丼、すし飯、マグロの刺身、お汁粉、

・変化なし:食物繊維、お茶漬け、生卵かけご飯、中華丼、せんべい、おもち

・GI値上昇傾向:親子丼、かぼちゃ

{参考文献}クリニカルプラクティス 2004.12

 グリセミックインデックス(GI)につきましては、薬剤ニュースの2004年1月15日号 No.375でも取り上げています。


シリーズ医学・薬学用語解説最終回 V&W

  VIP:血管作動性腸管ペプチド:vasoactive intestional peputides

  W:ウエルネス運動 
  
    


カーボカウント法

Carbo-hydrate Counying

食事療法の革新


カーボカウント法というのは、訳すると「炭水化物計算法」という意味です。

 食事の成分の中でも最も強く血糖値を上昇させるのは炭水化物で、脂肪や蛋白質はそれほどではありません。この点に着目し、食事中の炭水化物量を計算することで、血糖値をうまくコントロールし、糖尿病患者に最適な食事療法を行おうという考え方です。

 欧米では、その簡便性や有用性の高さから既に広く普及しています。日本でも最近、超速効型インスリンの作用時間が炭水化物の血糖上昇時間に適合することから、この療法の重要性は高まってきています。

<計算方法>

 カーボ(Carbo)という単位をもちいて食事中の炭水化物を計算します。米国では、ロールパン1個に15gの炭水化物が含まれていることから、1カーボ=15gの炭水化物とと換算されています。

 日本では、既に80Kcalを1単位として計算する糖尿病食事指導が普及しており、炭水化物1gが4kcalですから、1単位全てが炭水化物だとすると20gに相当することになります。

 現在日本の実情に即した新しい単位として1カーボ=10gの炭水化物という考え方が推奨されてきています。


「500ルール」

インスリンの1日総量から、超速攻型インスリン1単位に対応する炭水化物のを計算する方法。

まず1日に打っているインスリン量を、中間型や持続型も含めて全て計算します。これを「1日総インスリン量TDD:total daily dose of infulin)」と呼び、それから500÷TDDを求めて算出された数値が、1単位の超速効型インスリンに対応する炭水化物のグラム数となります。

例えば、朝昼夕の食前に6単位、6単位、10単位超速効型インスリンをうち、眠前にランタスを10単位打っている人なら、TTDは6+6+10+10=32で、500÷32=15.6となり、超速効型インスリン1単位で、約1.5カーボ食べられることになります。逆に言えば、1カーボの食事には超速効型インスリン0.6単位、約して0.5単位必要ということになります。つまりインスリン/カーボ比は0.5となります。この500ルールは簡便ですが、不正確である可能性もあるので、他の方法でも確認する必要があります。

「1800、1500ルール」

1単位の超速効型・速効型インスリンが血糖値をどれだけ下げるかを導き出す計算法。

超速効型や速効型インスリンは、食事のための追加注射以外に、高い血糖値を下げるためにも追加されることがありますので、1単位の超速効型・速効型インスリンが血糖値を下げる効果を表す「インスリン降下値」を正確に知っておく必要があります。

1800、1500ルールはたくさんの患者のデータの経験から導き出された計算方法で、超速効型インスリンの場合は1単位の注射で3時間半後に1800÷TDDの分だけ血糖値が下がることが、まら速効型インスリンの場合は1単位の注射で5時間後に1500÷TDDの分だけ血糖値が下がることが分かったことから確立されたものです。

たとえば、1日60単位のTDDを必要とする患者では、1800÷60=30となるので、超速効型インスリンでは1単位で3〜4時間後には血糖値が30mg/dL下がることが分かります。同様に、速効型インスリンでは、1500÷60=25mg/dL下がることが分かるというわけです。

ただ、これらも単なるルールであって、いつもそれがぴったり当てはまるわけではありません。ひとつの目安にすぎません。



   出典:医薬ジャーナル 2008.9

メインページへ