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抗悪性腫用剤の取扱い

1991年5月15日号 No.87

 

 

 抗悪性腫用剤は細胞毒であり、それを取り扱う医療の現場での、それらに体する継続的かつ低濃度の接触による危険性を示唆した報告が1979年に海外でなされて以来、海外ではその汚染の実態に関する研究、それにも増して安全対策に関する研究報告、勧告ならびに規制が多く発表されています。

 わが国では昭和62年の日本薬学会の病院薬局協議会で「抗悪性腫用剤の院内取り扱い指針の作成」なる議案が採択され、平成2年8月日本薬学会第110年会の場で最終の「指針」が発表されました。

 

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*混合作業〜専用作業着、手袋、マスク、帽子、できれば眼鏡を着用する。

 通常、溶解液の入ったバイアルから薬液を吸引する場合は、適当量の空気を注入し、バイアル内を一時的に陽圧にすると薬液の吸引がスムーズになる。しかし、この方法は、ゴム栓部ピンホール等により内容物が噴出する恐れがあるため、抗悪性腫陽剤の場合には危険である。

 したがって、抗悪性腫陽剤の場合には常にバイアルを陰圧にしておくことが必要である。また、抗悪性腫陽剤のアンプルの開封は、ガーゼでカット部を覆って行うと、カットによる薬液の飛散防止になる。

*汚染時の処置

・手指、皮膚などに抗悪性腫陽剤が付着した場合は、直ちに石鹸と流水で十分洗い流す。

・目に入った場合は、直ちに流水で十分に洗い流し必要に応じて眼科を受診する。

・床などにこぼした場合には、手袋を着用し、ペーパータオルなどで拭き取り、所定のゴミ袋に入れる。 床は更にアルコール綿で拭く。

<取り扱いに注意を要するもの>=当院採用分のみ記載

エンドキサン、マブリン酸、アルケラン錠、5Fu、ロイケリン、コスメゲン、メソトレキセート
ランダ、アドリアマイシン、ブレオ、マイトマイシン、UFT、ダウノマイシン、ナツラン、
ヤマフール、トヨマイシン、ネオカルチノスタチン、ロイナーゼ、ペプレオ、ラステット
フェルデシン、オンコビン、エクザール、パラプラチン

<やや注意を要するもの>

キロサイド、エスキノン、ダカルバジン、サイメリン、エストラサイト、プロベラ、ノルバデックス

<普通の薬と同じ扱いで良いもの>

グルカロン、レンチナン、ソニフィラン


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薬物の発癌性

1990年2月1日号 NO.59

 ヒトの癌の発生原因を考えると化学物質が主たるものであることが統計的に強く示唆されています。
薬物といえども化学物質である以上、発癌性がないとは言い切れません。

 急性毒性が低いため無害と考えられている医薬品も、長期服用によって重篤な副作用が現れ、一部に発癌性を示すようになってきたものもあります。

 国際癌研究機構(IARC)では、次のように、ヒトへの発癌性の評価(クラス分類)をしています。


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クラス分類
              :ヒト        :動物
? :発癌性あり      :十分な陽性所見あり :特に考慮しない
?A:癌原性がありそう   :不十分な陽性所見のみ:十分な陽性所見 あり
?B:癌原性の可能性    :不十分な陽性所見のみ:十分な陽性所見 なし
? :判定不能       :判定不能       :判定不能
? :おそらく癌原性ではない:陰性所見      :陰性所見のみ

<発癌性のある薬物>

?群 :エンドキサン、ストロジェン類、ホンバン
?A群:ランダ、アドリアシン、テストステロン
?B群:ブレオ、マイトマイシンC、ダウノマイシン、プロゲステロン類、フラジール、ヒダントール
?群 :オンコビン、フィルデシン、ロイケリン、5−FU系薬剤、メソトレキセート、ステロイド類
   :ヒドララジン類、ジアゼパム、アモトリール、イソニアジド、フローセン、エトレン、
   :クロミッド、レセルピン、リファンピシン

{参考文献}薬局 1990.1


2004年4月15日号 No.381

Common disease


 Common diseaseを明確に定義することは難しいのですが、臨床的に数が多く、その成因に遺伝素因と環境因子が複雑に関わり合っているものと言うことができます。

 広い意味では、感染症も含まれます。感染症は寄生者(ウイルス、細菌など)の宿主体内への侵入が原因となって起こりますが、発症や経過には遺伝素因が関与することがかなり多く見られます。

 特にウイルス性疾患の場合、細胞に侵入するために用いるレセプターが必要で、レセプターとなる蛋白の遺伝子多型や免疫応答も関与して、主要組織適合抗原(MHC、ヒトの場合HLA)の間の連鎖が認められています。

 狭い意味でのCommon diseaseは、遺伝素因と明らかな外因(感染症、物理的・化学的要因)以外の様々な環境因子との、複雑な相互作用によって起こる疾患をいいます。

 糖尿病、高血圧、肥満、高脂血症、動脈硬化、痛風、老人性痴呆、リウマチ、アレルギーなど数多くの疾患がCommon diseaseに含まれます。

 似たような用語として欧米では、Complex diseaseと言う言葉が時として用いられています。これは遺伝素因が複雑で、しかも環境要因が様々な形で関わり合って起こる疾患の総称で、どちらかと言えば病因的な概念です。Common diseaseとほぼ同じ疾患群を指していると考えられます。わが国では、成人病という言葉が、Common diseaseと重なり合うところがあります。

 癌も又この範疇に属する疾患です。癌の遺伝素因は複雑で、乳癌でのBRCA1(下記)、BRCA2変異のように高い確率で癌を起こす異常から、遺伝素因が関与しているかどうか不明のものまであります。また、発癌だけでなく、癌の進展や転移と遺伝素因の関係を示唆する報告もあります。

 糖尿病のMODY2やレプチンなど遺伝性因子の関与が明らかにされている程度で、Common diseaseの遺伝素因解析は現在では容易な研究ではありませんが、ヒトゲノム・プロジェクトが進んでいるので将来飛躍的に発展するものと期待されています。

              {参考文献}   現代医療 1999.7
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BRCA1

 癌は、癌に関係する遺伝子の異常が複数積み重なって起こります。ところが、家系に多発する遺伝性の癌の場合は、生まれたときにすでに遺伝子異常が1つ起きています。つまり、体内で第1段階の異常が起きているために、ほかの人より癌になりやすいと考えられています。こうした遺伝性の癌は癌全体の5〜10%を占めます。

 遺伝性乳癌の場合は「BRCA1」という遺伝子で、すでにアメリカでは、この遺伝子の有無によって乳癌のリスクを調べる遺伝子診断も行われています。

 しかしBRCA1を持っている人でも乳癌になる人は8割程度です。


乳癌抗体医薬品

Her2ヒト化(モノクローナル)抗体

ハーセプチン

 本薬はHER2に特異的に結合した後,NK細胞,単球を作用細胞とした抗体依存性細胞障害作用(ADCC)により抗腫瘍効果を発揮します。

 人の中で癌が増殖するメカニズムとして、癌細胞が増殖を促すシグナルを出し、それを自身で受けて自己増殖するということが明らかにされています。

 乳癌では、Her2と呼ばれる受容体が過剰発現している例が見られ、このような症例では治療後再発し、予後不良(生存期間が短い)となっています。

 乳癌細胞自身が出す増殖因子がHer2受容体に結合して、Her2からのリン酸化シグナルが癌細胞内に伝わり、細胞分裂を促進します。

 Her2ヒト化抗体(ハーセプチン)は、Her2に結合して増殖シグナル伝達をを阻害するだけでなく、ADCC(抗体依存性細胞傷害)、CDC(補体依存性細胞傷害)活性により、Her2発現癌細胞に結合して抗体が癌細胞を殺す活性を持ちます。これにより効率的に癌細胞を除去することが出来ます。

 最近、ハーセプチンが癌の周囲に出来る血管新生も阻害することが明らかにされています。

 Her2はタキソールと同程度の乳癌抑制効果を示し、両剤の併用により癌が退縮消失し、劇的な効果が現れたとの報告があります。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.10

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Infusion reaction
注入反応、点滴反応

 ハーセプチンの副作用のうち、使用開始後24時間以内に多く現れる症状
一般の点滴静注に伴う過敏症、ショック等とは異なるハーセプチン特有の症状が見られることから、一般的症状と区別するため、日本語に訳さず英文表記となっています。

主症状:発熱、悪寒(さむけ)
その他の症状:嘔気、嘔吐、疼痛、頭痛、咳、めまい、発疹、無力症 等
重篤な場合:アナフィラキシー様症状、肺障害、低血圧、頻脈、顔面浮腫、眩暈、耳鳴
     :呼吸困難、喘息、喘鳴、血管浮腫、咽頭浮腫、気管支痙攣、呼吸不全、
     :肺炎(間質性肺炎、アレルギー性肺炎等を含む)、非心原性肺浮腫、胸水
     :低酸素症、急性呼吸促迫症候群等

 症状のほとんどは初回使用時にのみ発現、しかし8.3%で複数回にわたり症状が認められており、また、2回目移行に初めて発現した症例もあります。

発現率;0.3% そのうち死亡に至った症例は0.04%

   出典:中外製薬資料 


<医学事典>


GISA
gastrointestinal stromal tumor

  出典:治療 1999.4

 胃腸管の線維性腫瘍には平滑筋、神経への分化を示すものといずれにでも無いものがあります。

 胃腸管にみられる非上皮性腫瘍の大半は筋原性です。そのほかに少数の脂肪腫、血管腫、リンパ管腫、神経原腫瘍などが見られます。しかし、近年の免疫組織化学的の汎用とともに、従来のHEレベルでは平滑筋原性とされていた腫瘍に中に、神経原性のものが含まれ、あるいは明瞭な平滑筋や神経性の分化が明らかでないものが見られることが知られるようになってきました。

 その中で1.平滑筋への分化、2.神経性分化、3.双方への分化、4.分化の明らかでないもの、というように分けられています。

4.としてものがGISTとされます。

 HEレベルでの組織像は類似していても、免疫組織化学的染色結果にはバラツキがあります。これは組織が腫瘍化して退形成−未熟化すると、細胞は本来の機能を失い、多分化能を持つようになるためと考えられます。

 生体は1個の細胞から分裂、増生、分化をするということを考え合わせると、癌化(肉腫化)は一種の回帰現象でもあるので、組織本来の特徴の喪失とともに異なった方向への分化の能力も獲得する可能性を考慮する必要があります。

 一方、胃壁を構成する要素には上皮以外に筋、繊維細胞、脂肪組織、脈管、神経、網内系などの多様なものがあり、それぞれに由来する腫瘍が見られます。

 stromal tumorとするなら、これらは全て含まれるべきではないかとの“stromal”の概念への疑問もあります。しかしGISTを線維性組織で、平滑筋、神経性、この両者への分化を示さないものに限定して考えていると理解して用いるのは差し支えない、というように考えれば良いと思われます。

 免疫組織化学的染色の精度が高まるほど、腫瘍(癌)は種々の組織性状を持つようになることは、日常の検査で普通に遭遇する現象です。

 現実には2種以上の組織の性状を示す場合、分化した個々の組織成分が悪性化したのか、悪性化によって他の組織へ分化の狂いを生じたのかの識別は困難です。

 しかし、腫瘍というものの本質を理解していれば、こまかい組織診断に必要以上にこだわることはありません。

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 GISTは、食道、胃、小腸、大腸などの消化管の壁にできる腫瘍の一種で、まれな病気です。そのまま放置すると、ほかの臓器に転移するものもあります。

胃癌や、大腸癌とは発生の仕方が異なっており、治療方法もことなります。
                     (ノバルティス ファーマ「グリベック」資料より)

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ヘマトキシリン・エオジン染色法
hematoxylin‐eosin stain
HE染色


 組織学,病理組織学で組織および病変の全体像の把握のために,最も広く行われている組織切片染色法


分子標的薬(治療薬)

 薬には何らかの標的があります。最近、ヒト細胞のバイオサイエンスの研究の進展に基づいて、細胞の機能を明確にし、疾患に関する遺伝子、遺伝子産物標的として、特性性をもって作用する薬が分子標的薬剤です。

分子標的薬剤の基礎で必要なのは、何らかの薬効が証明されていることが必須です。
また、安全性を保証することも求められます。

分子標的薬に問われるのは特異性です。分子標的が他の正常組織にあるのは、この種の薬の一つの宿命で、副作用を慎重に考える必要があります。

病気指向ではなく、標的指向であることは、標的が存在する様々な疾患に作用することが期待されます。


例  抗癌剤〜ハーセプチン、イレッサ

                   出典:日本薬剤師会雑誌 2002.11

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癌増殖の仕組み    〜従来型抗癌剤と分子標的薬の違い〜

 細胞は"休止状態”から、DNA合成と細胞分裂を繰り返すことできる"細胞周期”に入ることで増殖していきます。

この際、DNA合成は核内で行われ、合成されたDNA鎖のねじれやひずみを取り除く過程にトポイソメラーゼが関与し、分裂時には、微小管が関与します。

 この過程は、サイクリンやサイクリン依存性キナーゼと呼ばれる複数の分子により調節されています。(キナーゼ〜ある特定の蛋白質をリン酸化する酵素)

 細胞の癌化の早期には増殖・分化・死に関与する癌遺伝子や癌抑制遺伝子が変異を起こし、その後、癌細胞の浸潤能・転移能に関わる遺伝子群の変異が蓄積して浸潤し、さらには遠隔臓器にまで転移を起こして、最終的には死に至らしめることになる。

 このような細胞の増殖に関連した遺伝子の産物は、細胞周期を調節しているものや、様々な増殖シグナルの伝達経路で上で機能しているもの多く見られています。

 増殖因子などの細胞外刺激は細胞膜上にある受容体を介して細胞内シグナル伝達系を活性化します。このような経路の中で、ERK-MAPキナーゼ経路は増殖シグナルにおいて、またPI3キナーゼ/AKT経路は、生存シグナルで中心的な役割を果たしています。これらの経路の調節異常による機能亢進は、細胞の異常増殖・運動性の獲得、ならびに不死化につながり、癌化を引き起こします。

 分子標的治療薬は細胞増殖にかかわる膜貫通型受容体を介したシグナル伝達系であるERK-MAPキナーゼ経路あるいはPI3キナーゼ/AKT経路を遮断することを目的に、その経路上の分子を標的として、その阻害効果により抗腫瘍作用を現します。

 従来型の抗癌剤の主な作用部位が核内であるのに対して、分子標的治療薬は核外にある細胞外、細胞膜上、あるいは細胞内のシグナル伝達分子を標的にしています。

 分子量の違いにより、低分子薬と高分子薬(抗体薬)に分類されます。抗体薬の中には、シグナル伝達分子以外に細胞表面上の分子を標的として免疫系を介して抗腫瘍効果を示すものもあります。

増殖因子 → 増殖因子受容体 → シグナル伝達分子 → 核(DNA合成、細胞周期) → 細胞増殖など

-------------------分子標的薬--------------------→ ←-----従来型抗癌剤--------→


       出典:薬局 2010.10


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浸潤・転移

 多くの癌は、臨床的に悪性度の低いものから高いものへと段階的な遺伝子変異の蓄積とともに進行していきます。その悪性度の最も高い特徴が浸潤・転移です。
癌細胞がもと居た場所(原発巣)から血流に乗って他の場所(遠隔臓器や組織)に移動する現症です。

 癌のこの性質が悪性として捉えられている理由は、癌による死亡の大多数は浸潤・転移による再発が原因となっているためです。
もし、癌に浸潤・転移という性質がなければ、良性と変わらず、消化器癌、肺癌、乳癌などの固形癌は、外科的な切除により感知させることが可能になります。

<機序>
転移の機序は、次の1〜6の過程から構成されています。
癌細胞の浸潤・転移は、これらすべての過程が連続的に起こった場合に生じます。


1.癌細胞の原発巣での増殖

   癌細胞は、原発巣で様々な増殖因子が細胞膜上にある受容体に結合して細胞内シグナル伝達系を活性化し、増殖が促進されます。

2.原発巣から癌細胞の解離と脈管(血管やリンパ管)への浸潤

 増殖した癌細胞は、細胞同士の結合に関与している接着分子の機能が低下し解離しやすくなります。そして癌細胞の周囲を覆っている細胞外マトリックスを構成する蛋白質群などに対して、蛋白質分解酵素を産生して分解し、生じた隙間から移動をし始め、脈管(血管)内に侵入します

3.脈管内での移動

    脈管(血管)内への侵入後、癌細胞は癌細胞同士あるいは血小板とともに集塊を形成して、免疫系からの攻撃を回避します。

4.転移臓器周辺の血管内皮への接着

 血流などにより遠隔組織へ移動した癌細胞は血管内皮細胞と特異的に接着した後、脈管外へ脱出します。この癌細胞と血管内皮細胞との接着に関しては、臓器特異性が認められています。

5.転移臓器への浸潤・増殖

 原発巣からの解離と同様の機序により癌細胞は血管内皮細胞との接着を介して新たな組織に浸潤し、原発巣での増殖と同様に様々な増殖因子やその受容体を介して増殖し、転移巣を形成します。


*分子標的薬原発巣あるいは転移巣で細胞増殖に関わる膜貫通型受容体受容体を介したシグナル伝達系であるERK-MAPキナーゼ経路(増殖シグナル)を遮断することを目的に、細胞外では増殖因子、細胞膜上では増殖因子受容体、細胞内では細胞膜上の受容体活性シグナルを伝達する分子を標的として、その阻害効果による抗腫瘍作用により治療効果を示します。

 特に分子標的薬の中でもベバシズマブ(アバスチン)は、血管内皮細胞に対して作用を及ぼす新しい機序を持つ薬です。細胞外でVEGFに特異的に結合して、VEGF受容体への結合を阻害することにより、癌細胞への栄養供給経路と浸潤・転移のための侵入路となる血管の新生を抑制することから、癌細胞の浸潤転移を特異的に抑制する作用を持っています。


*従来型の抗癌剤は、原発巣あるいは転移巣でERK-MAPキナーゼ経路あるいはPI3キナーゼ/AKT経路が活性化された後に引き起こされる細胞増殖に関連した核内を中心とした核酸の合成経路やその経路に関連する酵素であるトポイソメラーゼ、あるいはDNAや微小管といった生体高分子に直接作用し、殺細胞作用により治療効果を示します。


    出典:薬局 2010.11


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