HS病院薬剤部発行     

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薬剤ニ ュ ー ス

  1994年

5月15日号

NO.152

 

                                              

 DNAトポイソメラーゼについて

 多くの生物は主要な遺伝物質であるDNAは、ふつう2本の鎖が、1本のまっすぐな軸のまわりを巻いているように描かれます。しかし現在では、二重螺旋(らせん)の軸はまっすぐではなく、しばしば曲がっていることがわかっています。事実、二重らせんは高次の新しい螺旋(らせん)を形成することができ、そのような場合スーパーコイルを形成しているといわれます。

  このスーパーコイルに関連した酵素としてトポイソメラーゼとジャイレースが知られています。

 トポイソメラーゼ〜DNA複製時に生じたねじれや構造上のゆがみを修正する為にDNAを適宜切断および再結合させる働きを持つ酵素

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 DNA分子中の情報の中身は、対を作っている塩基の配列中に埋め込まれており、分子がねじれたりからみあったり結び目を作ったりしていることとは無関係です。しかし、そうしたDNA分子のトポロジー上での構造は、細胞中でのDNA分子の働きに重要な影響を与えていることが、明らかになってきました。

 DNAトポイソメラーゼと呼ばれる一群の酵素はDNA分子を、トポロジー上、ある構造から他の構造へと変化させ、DNAの複製・転写・組み換えという遺伝現象の核心をなす過程で、重要な役割を果たしています。

 生物が自己複製し子孫を増して行くに当たってはその遺伝子DNAをめぐり多彩なDNA代謝を行なっています。そしてその際に、DNAが2本鎖から成ることから必然的にDNA分子上に”ねじれ”、”ひずみ”あるいは”からまり”など生じてしまいます。そしてそれらが解消されないかぎり、DNA代謝の進行は物理的に不可能となり、停止すること になります。しかし現実には、生物内では決してこのような状況が生じることがなく、DNA代謝は円滑に進行しています。

 このひずみ(位相構造との意味でトポロジーとも称します。)の解消に当たっているのがまさにトポイソメラーゼです。従ってDNAを遺伝子として持つ生物は必ずトポイソメラーゼを持っており、原核生物から真核生物にわたる広い生物種に分布している理由もそこにあります。

 DNAジャイレースは、大腸菌から単離された酵素で、やはり2本鎖DNAをいくつかのトポロジー構造に変換することができます。シプロキサン、フルマーク等のニューキノロン系抗菌剤は、この細菌のDNAジャイレースに作用することで殺菌作用をあらわします。このDNAジャイレースはヒトなどの真核生物では、存在しないため、選択的に細菌が死ぬことになります。

 DNAトポイソメラーゼはT型とU型の2種類があり、T型酵素は超らせんDNAの弛緩に、U型酵素は2本鎖DNAの切断と通過を必要とする連環DNAの単環化や結び目を解消する反応に関与します。

 最近、トポイソメラーゼの阻害剤は抗菌、抗ウイルス、抗カビ剤、抗癌剤として各方面から期待されてきています。

 抗癌剤のアドリアマイシンやラステット等はトポイソメラーゼの阻害剤であることが明らかにされています。

 {参考文献}

別冊サイエンス 遺伝子と遺伝子工学

医薬ジャーナル Vol.30 No.4 1994


<<用語辞典>>

手足口病

 病原は当初,コクサッキーA 16ウイルスでしたが、コクサッキーA 5, A 10およびエンテロウイルス71型によっても同様の病像を呈することが明らかになりました。

*エンテロウイルス71型(EV71)は、手足口病の主要な原因ウイルスの1つです。手足口病は一般的に予後は良好ですが、EV71によるも手足口病流行時には、中枢神経合併症の発生頻度が高いとされています。

*コクサッキーウイルス

Coxsackie virus infection

 コクサッキーウイルスは、ピコルナウイルスに属する小型のRNAウイルスです。

 A群とB群とに分類され、A群ウイルスによって、ヘルパンギナ(下記参照)が起こり、さらにA 16型ウイルスによって手足口病という特有の疾患などが起こります。

 手足口病では、発熱などの全身症状に加えて、手掌、足底、指趾などの四肢末端、および口腔粘膜に小水疱が出現します。

 B群ウイルスは、心筋炎や流行性筋痛症などを起します。

 流行性筋痛症は、発熱などの感染症状に加えて、胸部や上腹部の激しい筋肉痛が起こる疾患です。


 このほかに、A群,B群ウイルスいずれによっても,無菌性髄膜炎、風邪症候群、急性下痢症、発疹症などが起こります。

 一般には,比較的軽症ですが、時に重篤な経過をとる場合もあります。

〔治療〕対症療法のみで、ウイルスの種類も多いので、予防ワクチンも有りません。

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ヘルパンギナ
herpangina
水疱性口峡炎、疱疹性アンギナ、疱疹性口峡炎

 コクサッキーウイルスA群による口峡部に特有の小水疱と発熱を主症状とする夏かぜの一種。

 コクサッキーウイルスA群1〜10 , 17 , 22型など,まれにコクサッキーウイルスB群,エコーウイルスも病原として分離されることがあります。

 初夏から秋に多い。潜伏期は2〜4日、乳幼児に多い。突然の38〜40℃の発熱が1〜3日間続きます。

 全身倦怠感,食欲不振,咽頭痛,嘔吐,四肢痛など。
 食欲があっても咽頭痛のため食べないことがある。
 咽頭所見は、軽度に発赤し、口蓋から口蓋帆にかけて1〜5mmの小水疱、これから生じた小潰瘍、その周辺に発赤を伴ったものが数個認められます。

 4〜6日で全身および局所の症状は消えます。

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ネグレクテッド・ディジーズ
neglected disease

採算が取れずに市場性に欠けるために研究開発の対象から取り残されている疾患

DNDi
drugs for neglected disease initiative

ネグレクテッド・ディジーズの治療薬を開発することを目的として、2003年にジュネーブで発足した独立の非営利団体。

   出典:ファルマシア 2008.1

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