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慢性疲労症候群
CFS:chronic fatigue syndrome

    1992年3月1日号 NO.103

   欧米で80年代初頭から発症が見られ、最近日本でも話題になっています。
重い疲れが理由無くたまり、微熱や頭痛・集中力の低下などを主症状とし、仕事もできなくなるという一種独特の病気

 CFSの原因としてウイルス特にEBウイルスが疑われていますが、最近の研究では、HHV-6,サイトメガロウイルスなどのヘルペスの再活性化が、疑われています。そしてその再活性化の引き金としてレトロウイルスの存在も示唆されています。

 {参考文献}MODERN MEDICINE 1991.12

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’   追記〜朝日新聞 2001.11.18

 慢性疲労症候群(CSF)の中には、ヒトヘルペスウイルス6(HHV6)の感染が関与するものがあることが、大阪大の研究で分かりました。

 HHV6は、突発性発疹の原因として知られており、ほとんどの人は子供のころに気づかないまま感染し、このウイルスを体内に持っています。このウイルスが出す蛋白質が発見され、免疫系の過剰反応でこの蛋白質の抗体を大量に生産し、これに伴って出る炎症反応が中枢神経系のバランスを崩して、激しい疲労感やうつ症状を起こしていると見られています。

 HHV6には抗ウイルス剤が効く。根治的治療につながる。可能性があります。

<CSFの問題点>

1,病院が不明。2,病態発現の機序が明らかでない。3,患者の発生状態がつかめていない。
4,日本での診断基準が設定されていない。5,客観的な診断根拠となる検査方法がない。
5,疾患に関する知識の普及が、一般社会のみならず医療機関でも不足している。(単なる怠け者と思われがちである。)

<治療>

 欧米でもまだ確立した治療法はありませんが、まず病態を知ることが重要です。
 転地やストレス・マネジメントなど、薬物治療としては、少量の抗うつ剤が良いとされています。

 その他の治療薬としては、ACE阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、カルシウム拮抗剤、免疫調節剤、アヘン拮抗剤、向精神薬(抗不安剤、抗うつ剤、抗躁剤)、中枢賦活剤、ビタミン、ミネラルなど幅広い薬剤が試みられています。

<臨床症状と頻度>

100% 疲労感
60〜95% 微熱
20〜95% 筋肉痛
15〜90% 睡眠障害
50〜80% 注意力低下
70〜80% 抑うつ
35〜85% 頭痛
50〜75% 咽頭痛
50〜70% 不安
40〜70% 筋力低下
50〜60% 運動後疲労、月経前増悪、こわばり、目がかすむ、夜間頻尿、悪心
30〜50% 目眩
40〜50% しびれ感、関節痛
30〜50% 頻脈
30〜40% 目の乾燥、口内乾燥、下痢、食欲不振、咳嗽、盗汗、リンパ節腫脹・疼痛、皮疹

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2002年追記

 慢性疲労症候群(CFS)患者が訴える身体的不定愁訴は多彩で、心理社会的ストレス要因で大きく修飾されることから、仮にウイルス感染なり、内分泌異常なり何らかの原因が存在するにしても、心身医学的な視点からの治療が必須です。

 CSFの特異的療法がない現在、多面的な治療を施しながらいかに患者の自然治癒を促すかという治療が主になります。現実には、精神神経症状に対する抗うつ剤、抗不安剤、睡眠剤などがよく用いられていて、また東洋医学的な視点から補中益気湯や十全大補湯などの補気剤を中心とした漢方療法も行われています。

 HHV6(ヒトヘルペス6型)、パルボウイルス、Q熱リケッチアなどの感染症が背景にある場合は、抗ウイルス薬やテトラサイクリン系の抗生物質を用いることもあります。

 ストレス緩和のための生活改善、リクラセーション、認知行動療法などの心身医学的治療法を平行して行うと有効なケースが多く見られています。

その他:ビタミンC大量、ビタミンB1なども用いられていますが、効果は不明

出典:医薬ジャーナル 2002.11


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疲労の分子神経メカニズム
 

  〜〜〜〜誤った疲労仮説〜乳酸原因物質仮説〜〜〜〜

2007年2月15日号 No.446

 これまで血中に放出された脳内に移行した乳酸が筋肉疲労を脳に知らせるシグナルで、かつ脳の疲労の原因物質であるかのように極めて単純に考えられていました。確かに筋肉運動に伴い血液中の乳酸値は上昇しますが、これは一過性の上昇で運動後1時間以内に元のレベルまで低下します。この乳酸の一過性増加・減少の経時的変化を追跡すると、乳酸が一元的に疲労原因物質でないことが分かります。

 つまり、乳酸のレベルは運動負荷のバイオマーカーにはなりますが、その結果の疲労状態を表すバイオマーカーにすらなりません。

 運動時の筋肉の代謝変化は、ATPの低下、乳酸の増加とそれに伴うアシドーシスです。乳酸は筋肉の疲労回復を遅らせると考えられてきたので、乳酸を筋肉中より速やかに血液中に放出し、肝臓に運んで糖新生系によりグルコースに戻すという臓器相関が考えられていました。

 しかし現在では、乳酸が神経細胞周辺のグリア細胞により作られて神経細胞に供給されていることが分かってきました。神経細胞は、急な活動などでエネルギーを緊急に必要とする時に、てっとりばやく乳酸を使っています。このことから考えると、血液中の乳酸が多少増えたからといって神経活動の妨げになることはありません。

 さらに、筋肉についても決して乳酸やアシドーシスは問題にならず、あるいは逆に筋肉活動に保護的に作用することが近年明らかにされてきています。

 筋肉のエネルギー疲弊情報を脳に伝播している機構については深部知覚系を上行する神経機構を考えるか、他の液性調節、例えば免疫系サイトカイン、トリプトファンのようなアミノ酸や遊離脂肪酸のような因子を考えるべきとされています。

<トリプトファン・セロトニン仮説>

 マラソン等の激しい運動後の疲労感について、血中アミノ酸の組成変化(トリプトファンの相対的増加)による脳中のセロトニン生合成の増加をその原因として捉える説がありました。

 しかしこの説も現在では疑問が投げかけられています。

 マラソンのスペシャルドリンク中の分岐鎖アミノ酸(BACC)は、増加する遊離型トリプトファンが脳へ移行するのを防ぐ効果があり、これはセロトニンだけでなく、毒性のあるキノリン酸等の脳での増加に歯止めをかけます。これは逆に、分岐鎖アミノ酸摂取が行き過ぎればセロトニンを低下させすぎて疲労状態に陥らせる両刃の剣でもあるので注意が必要です。


<セロトニン低下と疲労>

 前帯状回の前部のセグメントは疲労感に関係する部位であることが示唆されています。この部分の機能低下、セロトニン系の低下が疲労の重要なバイオマーカーであるといって差しつかえありません。

 感染性の疲労、精神ストレスによる疲労、運動性の疲労に共通して働くメカニズムがあり、まったく全てが同じでないにせよ、どこかで疲労を感じる精神回路のようなものがあって、そこに様々な修飾が及んでいると思われます。この神経回路は、まさに目標が達成された満足感や昼夜などによる睡眠・日内リズムの中枢とも密接な交流があります。

 現時点で重要な研究課題は、疲労回復・予防戦略です。疲労回復ドリンク剤は3,500億円を超える市場であるといわれています。この方面の研究では、我々の体の中に元々ある疲労回復、疲労リセット機構というものを考える必要があります。

 疲労回復・予防は、疲労因子を軽減、消失することだけでなく身に備わっている疲労リセット因子を早く巧みに活用させてやる工夫であるかもしれません。

{参考文献}ファルマシア 2007.1

大阪市立大学大学院医学研究科システム神経化学教授 渡辺 恭良


<薬の裏知識>2007.2.15

アモキシシリンは虫歯のもと?

 乳幼児の中耳炎や内耳感染症に対して一般的に処方されるサワシリン(アモキシシリン)は、フッ化物沈着症を発症させ、歯のエナメル質に損傷を与える可能性があるとの報告がありました。
 米国アイオワ大学のHong博士らは、生後32ヶ月以下の乳幼児の歯の健康状態を研究したところ、1歳までに被験児の3/4がアモキシシリンを使用しており、32ヶ月までに91%が使用していました。

 また、全般的には24%が両上顎中切歯にフッ化物沈着症を発症し、生後3〜6ヶ月にアモキシシリンを使用した場合、その発症リスクは2倍になったとのことです。

 同博士らは、「乳幼児期のアモキシシリンの使用は、歯の発達に、これまでの文献にないリスクとなるうる」とし、「この発見は乳幼児にアモキシシリンを禁止すべきとしているのではなく、特に乳幼児期では、抗菌薬の賢明な使用の必要性を強調している」と付け加えています。

 この問題については、さらに研究が必要で「現段階では、医学会と歯学会が協力して、フッ化物と抗菌薬の慎重かつ思慮深い適切な使用が重要である」とコメントしています。

 なお、この記述は、現在の市販中のアモキシシリンの添付文書には記載されていません。

{参考文献}メディカル・トリビューン(日付 不明)


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蚊アレルギー

  2004年5月15日号 No.383

EBウイルス:Epstein-Barrウイルスについての最近の知見

 日本を含めたオリエンタルルーツの国では、特異な
EBウイルス関連疾患が見られます。その全貌は未だに明らかにはされていませんが、近年、主として4つの観点(下記)からの知見が合流して驚くべき事実が解明されました。

1.蚊アレルギー

 蚊に刺されることにより強い局所症状と全身症状を特徴としますが、同時に末期なると悪性組織球症(血球貪食症候群)で死亡することが知られていました。

 この疾患にはNK(ナチュラルキラー)細胞増多症が随伴することが見出され、その後の展開に糸口をもたらしました。

2.慢性活動性EBウイルス感染症

 この疾患の患者には、蚊アレルギーの既往が多いことが分かってきました。また、かなりの数の症例でNK細胞増多症を伴っており、そのNK細胞にEBウイルスが感染していることが明らかにされました。これによって、蚊アレルギー、慢性活動性EBウイルス感染症、NK細胞増多症が結びつきました。

3.種痘様水疱症様皮疹

 種痘様水疱症の重症型とも言えるこの皮疹は、従来様々な名称で報告されていました。
一部は蚊アレルギーも伴っていて、EBウイルスが感染していることも判明し、本症はその再活性化による症状であることが分かりました。さらには、通常の種痘様水疱症もEBウイルスの再活性化であることが判明しました。

4.NK細胞リンパ腫

 このリンパ腫は、鼻腔・咽頭に好発し、EBウイルスと関連する腫瘍であり、日本をはじめとするオリエンタルルーツの人々に発症することが徐々に解明され始めました。

 以上のことを総合して、EBウイルス、蚊アレルギー、種痘様水疱症、NK細胞増多性疾患が様々な繋がりを持っていることが理解されています。
 
蚊アレルギー

    HMB:hypersensitivity to mosquito bites

 蚊に刺されることで皮膚に硬結、水疱が起こり、更には潰瘍化するとともに、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫、血尿、下血などの全身症状が起こります。蚊刺過敏症とも呼ばれています。

 こうした皮膚局所の症状と全身症状は蚊に刺される度に起こり、ステロイドなどで回復しても、再び蚊刺により引き起こされます。このことを繰り返すのが本症の特徴です。

 現在、HMB-EBV-NK病(HEN病→「変病!!」)と呼ばれています。

 HEN病では、死の転帰をとることが強調されてきました。しかし、なかには成長するに従って末梢血NK細胞の数が減少し、蚊アレルギーの程度も軽度もしくは消失する症例もあります。

 蚊アレルギーと種痘様水疱症(種痘様水疱症様皮疹)は、ときに同じ患者で認められます。蚊アレルギーにはNK細胞増多が症状発現時には必須であると考えられますが、種痘様水疱症ではEBウイルスの再活性化が皮疹形成の基礎となります。同じ慢性活動性EBウイルス感染の症状であっても、種痘様水疱症では、EBウイルス感染細胞はT細胞かNK細胞かは関係ありません。

    {参考文献}臨床と薬物治療


医学・薬学用語解説(E)      ES細胞はこちらです。


医学・薬学用語解説(R)2004.12.1 No.396

RLS:restless legs syndrome
むずむず脚症候群

 夜間就寝時、下肢に深在性の「むずむず感」などと表現される異常感覚を生じ、足を動かさずにいられなくなる病態。しばしば睡眠障害を来します。特発性のものと尿毒症などに伴う症候性のものがあり、ドパミン系細胞の機能異常などが推測されていますが、原因は解明されていません。高齢者、透析患者、鉄欠乏性貧血、パーキンソン病で多いと言われています。


<症状>

 睡眠中に下肢の異常運動によって眠られなくなる。 
下肢(ないし上下肢)の異常感覚のために、下肢(ないし上下肢)を動かしたい欲求にかられる。
異常感覚〜むずむずする、虫が這うよう、ズキズキする、痒いなど表現される。


<治療>

 ドパミン作動薬、L−ドパ、ベンゾジアゼピン系薬剤のいずれかが第1選択として用いられます。

 メネシット錠、テグレトール錠なども有効

 バルビタール系睡眠薬はRLSの下肢異常感覚を抑制できずもうろう状態となり、歩行などの体動による症状の緩和を妨げられるため、使用しない方が良いとされています。

 経過中に症状の自然緩解が生じることもありますので、薬物療法により症状が十分にコントロールされている場合には、適宜薬量の減量を考慮します。

  出典:日本内科学会雑誌 2000.10

 *むずむず脚症候群(RLS)の患者は脳内の鉄分量が少ないことを、島根大学医学部のグループが脳脊髄液の分析から確認しました。(2004.9.27 朝日新聞夕刊)

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周期性四肢運動障害(PLMS)


 睡眠中に何かを蹴るときのように足首から先が“ぴくっ”と動く不随意運動を何度も繰り返して眠れなくなる症状で1時間に15回以上繰るかえす場合に「周期性四肢運動障害」と診断されます。

 むずむず足症候群(RLS)と同様にドパミン作動薬により改善効果が見られることから、ドパミンが係わる神経機能低下が原因と考えられます。

 RLSとPL<Sは類似の病態機序を持つと推定されています。


ボツリヌス療法

出典:日本内科学会雑誌 2000.10

 A型ボツリヌス毒素はコリン作動性神経終末に作用して、カルシウム依存性アセチルコリンの放出を抑制し、神経筋伝達を遮断する薬理作用を持ちます。この作用が、斜視の治療に有効とが報告されて以来、眼科疾患、多くの局所性筋緊張異常症に使用されています。

 顔面痙攣にも第1選択と思われますが、保険未適応となっています。(治験中)注:2000年当時

  2002年アラガン社よりボトックス発売  適応症:眼瞼痙攣,片側顔面痙攣

 

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