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1997年11月1日号 No.233

インスリン抵抗性改善剤とは

   
     NIDDMの特徴は、インスリン分泌不全に加えて、インスリン作用不全、即ちインスリン抵抗性がみられることです。最近、このインスリン抵抗性を改善、あるいは解除する薬品が発売されました。

 この薬は、従来の
スルフォニール尿素剤(SU剤)のような膵臓のインスリン分泌細胞であるB細胞を刺激してインスリン分泌を促進する働きはみられません。

 既知のSU剤が適切でない症例などに効果的と考えられ期待されています。

 この薬剤のもつインスリン抵抗性の改善作用のメカニズムについては現在でも未だ完全に明らかではありません。

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 インスリン作用の最初のステップはインスリン標的臓器である肝臓、筋肉や脂肪細胞の表面に存在するインスリン受容体のαサブユニットに結合することです。結合したというシグナルはインスリン受容体のβサブユニットのチロシンキナーゼという酵素の働きを促進させ、細胞内に伝達され種々のインスリン作用が発揮されます。

 NIDDMでは、このチロシンキナーゼの活性が低下していることが明らかとなっており、これがNIDDMでのインスリン抵抗性の成因の一部とも考えられます。

 また他のメカニズムとしてブドウ糖を細胞内に取り込む際に重要な働きをする糖輸送体の数を細胞膜表面に増やし、血糖を下げる効果を発揮します、また脂肪細胞からはTNFαが分泌され、これがインスリン作用の伝達に対して抑制的に働きます。

 これに対してインスリン抵抗改善剤は拮抗的に働き、インスリン作用の改善に導くという報告もあります。これらインスリン作用のシグナル伝達の改善や、糖輸送の増加に働きますが、その詳細な機序に関してはまだこれからの課題です。

 インスリン抵抗解除剤は、血中に存在するインスリンの作用を増強する薬剤であり、インスリンの存在しない状態では効果がありません。NIDDMでも血中インスリン値の著しく低下している患者は無効であり、ある程度インスリン分泌の保たれているインスリン抵抗性のみられる患者がこの薬剤の対象になるものと考えられます。

 米国では食事療法、運動療法、ビグアナイド剤及びインスリン抵抗解除剤を糖尿病まで到らない患者に与薬し、糖尿病発症がどの程度阻止されるか大きなスケールで臨床治験が行われています。

 血管での合併症も含め、糖尿病の一次予防にもつながるこのような臨床研究は注目を浴びており、この薬剤の薬効メカニズムの解明と共にこれから注目すべき課題です。

<臨床治験結果のまとめ>

 インスリン抵抗性改善薬はその血糖降下作用はスルフォニール尿素剤に比べると劣るが、薬剤自体は低血糖を起こすことはなく、副作用も少なく安全。肥満気味のインスリン抵抗性の比較的進んだものにより有効。服用中に体重が増加する傾向も認められませんでした。(長期使用で肥満亢進の報告あり。)

{参考文献}JJSHP,VOL.32 NO.1 1996

<使用上のポイント>

 軽症で割合いインスリン分泌のあるいくらか肥満傾向のあるNIDDM
経過中にインスリン分泌が低下していくならば、経口血糖降下剤を加えます。
インスリン注射を行っている患者に与薬すると、インスリン必要量の減少効果がみられると思われます。


鬱(うつ)副作用を考える(4)

 薬剤による鬱は、かつてはレセルピンが有名でしたが、最近では、レセルピンはあまり用いられなくなりました。今では下記の薬剤が副作用として「鬱」を起こす代表となっています。

 ステロイド:肝のトリプトファンピロラーゼの活性を賦活してセロトニン経路からキヌレニン経路に代謝を変化させることにより、脳のセロトニンの低下を引き起こすためとする説や、ノルエピネフリンの放出や取り込みの率やカテコールアミンの代謝を調節するという説があります。また、ACTHがcAMPを介して副腎皮質ホルモンの放出を促進することと、うつ状態の患者ではcAMPの分泌が減少しているということから、うつ状態への関与を指摘する説もあります。

・インターフェロン:脳質近傍の毛細血管は、インターフェロンの透過性が高いため移行しやすいのではないかと推測されていますが、詳細は不明です。

 脳組織でのアラキドン酸の代謝物の活性を阻害し脳に血管性あるいは細胞性の浮腫を生じる可能性が指摘されています。また、ドパミンなどの神経伝達物質の活性に影響を与え、精神神経系に障害を及ぼす可能性も考えられています。

・経口避妊薬:セロトニンの合成に必要なピリドキシン(B6)の利用の減少によるという説がありますが、経口避妊薬とうつ状態の因果関係自体が明らかでないとの指摘もあります。

<好発時期>

レセルピン:半月から2年で発症。このうち多くは2〜8ヶ月(平均5ヶ月)
ステロイド:30〜60日
インターフェロン:1週間21%、2週間以内39%、3ヶ月以内93%(他の副作用であるインフルエンザ様症状の解熱時によく起こるとの指摘もあります。)

<治療法>可能ならば原因薬剤を減量・中止するか、他の薬剤に変更します。

レセルピン:中止して三環系抗うつ薬を用います。レボドパが有効という報告もあります
ステロイド:抗精神病薬による治療を行います。 三環系抗うつ薬をによる治療で増悪し
た例もあります。
インターフェロン:中止して抗精神病薬や抗うつ薬を用います。

{参考文献}重大な副作用回避のための服薬指導情報 (日本薬剤師会編)


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2000年11月15日号 303

PPARγとチアゾリジン誘導体

PPAR:Peroxisome proliferator-activated receptor

 1990年、フランスで高脂血症治療薬であるフィブレート系薬剤などのいわゆるペルオキシソーム増殖薬により活性化する蛋白が同定され、マウス肝臓のcDNAライブラリーからクローニングしPPARと名付けられました。

 その後、PPARのサブタイプとしてα、σ、γの3種類の遺伝子が同定されています。

 PPARsαは主に肝臓、心筋に発現が認められています。
PPARαはそのリガンドであるフィブレート系薬剤が臨床の場で抗高脂血症薬として用いられており、肝臓でのβ酸化を中心として、生体内で深く脂質代謝に関わっています。

 PPARσは組織普遍的に発現していますが、脳内での発現がやや多くなっています。σ型は他のサブタイプと比較し、その生理学的機能が現在では明らかではありません。

 PPARγは、脂肪細胞分化にきわめて重要なマスターレギュレーター(調整役)であること、インスリン抵抗性改善薬として開発されたチアゾリジン誘導体がPPARγの
リガンドとしてその効果を発現しているという2つの発見から、この受容体が脂質代謝、ひいては糖質代謝にまでかかわる、生物学的に非常に重要な受容体であることが認識され、その後の精力的な研究の引き金となっています。

 近年、わが国では、食生活の欧米化、慢性的な運動不足により、肥満、高脂血症、糖尿病は増加の一途をたどっています。日常診療上、食事、運動療法による体重減少によりこれらの病態が改善することはよく知られています。

 PPARは肥満、脂肪細胞と脂質代謝、糖代謝の関わりを分子生物学的に解明する鍵となりうるため、これからの病態解明や、治療戦略に重要な役割を担うものと考えられます。

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メタボリック症候群での内臓脂肪の役割

2005年9月15日号 No.414


 メタボリック症候群は、高血圧、高脂血症、糖尿病を同時に持つ症候群として捉えられています。
 
 メタボリック症候群の診断基準に腹囲の長さが取り上げられています。男性85cm、女性90cm以上という診断基準は、この値が内臓脂肪の蓄積を意味しています。

 内臓と皮下の脂肪組織の疾患発生に及ぼす影響を調べたところ、成人検診の肥満者で皮下に脂肪が蓄積するタイプで合併症を持たない比率は36%だったのに対し、内臓に蓄積するタイプでは8%に過ぎませんでした。つまり内臓肥満の人の92%が何らかの合併症を持っていることになります。

 また、治療によって内臓脂肪が減少するとそれに伴って、中性脂肪の量も減少します。このことにより、内臓脂肪の量が血中中性脂肪を調節する1つの因子であることが伺えます。

 メタボリック症候群にみられるインスリン抵抗性は脂肪細胞の機能によって説明されています。
脂肪細胞からは多くのホルモンやサイトカインといわれる生理活性物質が分泌されています。

 その分泌は値中の量を規定するような量で、固体の機能を調節したり、病態を全身に影響を及ぼすような機能を果たしています。

 それらのサイトカインの中でTNFαは脂肪細胞から分泌されていることが分かりました。
内臓脂肪の蓄積に応じてインスリン抵抗性がみられるのと平行して、TNFαも分泌されています。

 TNFαはインスリンの作用を阻害することが確かめられています。このTNFαの作用と拮抗するようなサイトカインとしてアディボネクチンがあります。

 アディボネクチンは脂肪の増加によって減少し脂肪組織の減量によって増加するといわれています。この他にも極めて多くのホルモンやサイトカインの分泌についての報告が出されています。

     {参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2005.9

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アディポサイトカイン

脂肪細胞由来の生理活性物質        関連項目 内蔵肥満

 脂肪組織は従来考えられていたような単なるエネルギー備蓄組織ではなく、様々な脂肪由来生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌する臓器であることが分かってきました。そして、アディポサイトカインの分泌異常が肥満症の種々の病態発症に直接関与しています。

 アディポネクチンの分泌低下は、内臓脂肪過剰蓄積とインスリン抵抗性、動脈硬化発症をリンクする重要な因子でその分子メカニズムの解明は、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化などの多様な病態を一元的に捉えた治療法の開発につながることが期待されています。

   出典:医薬ジャーナル 2002.6 等

 インスリン抵抗性に関してはレプチン、アディポネクチンは抵抗性改善に、TNFα、レジスチンは抵抗性悪化に働きます。

LPL:リポ蛋白分解酵素
CETP:コレステロールエステル転送蛋白
TNF:腫瘍壊死因子
FFA:遊離脂肪酸
IL:インターロイキン
PAI:プラスミノーゲン活性化抑制因子
HB−EGB:ヘパリン結合性上皮細胞成長因子

 アディポネクチンは脂肪細胞に特異的に発現し、血中に分泌されているディフェンスコラーゲンファミリーに属する蛋白です。脂肪細胞より分泌されるにもかかわらず、肥満でその血中濃度は低下し、特に内臓細胞面積と負に相関することが報告されています。

 また、インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体により、血中濃度は増加します。抗動脈硬化作用、インスリン感受性亢進などが報告されています。

 レジスチンは、2001年に同定されたもので、脂肪細胞より分泌され、チアゾリジン誘導体によりその発現が負に制御される分子です。


医薬トピックス(14)  酒は心血管疾患には百薬の長? はこちらです。
 

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PPARγ

脂肪細胞の核内受容体

インスリン抵抗性

出典:朝日新聞 1999.11.9

 インスリンが効かない状態をつくり、糖尿病を起こしている蛋白質の遺伝子が最近見つかりました。

 この遺伝子は、筋肉への糖の取り込みを妨害する大型脂肪細胞をつくる「スイッチ」役を果たしています。この物質の働きを抑えてやれば、肥満と糖尿病の療法を防ぐ薬がつくれるのではないかと期待されています。

 インスリンの働きを悪くするのが大型の脂肪細胞です。脂肪細胞の数は成人になるまでに決まり、その後はほとんど増えません。過食が続くと1個1個の細胞が大きくなり、筋肉が糖を取り込むのを妨害する物質を出すようになります。これがインスリン抵抗性とよばれる症状です。

 最近、このインスリン抵抗性を改善することで知られていた物質「PPARγ」の役割が明らかになって来ました。

 第1の役割は、脂肪細胞になる前段階の未熟な細胞を脂肪細胞に分化させる「スイッチ」です。小さな脂肪細胞は血中の糖を吸収する「善玉」ということも分かっりました。

 ところが第2の役割が見つかり、PPARγは小型の脂肪細胞を大型化するスイッチ役としても働いていました。つまり、インスリン抵抗性を招く「悪玉」を増やしもします。この2つの役割はマウスなどの実験で確認されています。

 遺伝子操作でPPARγを働かなくしたマウスは、体に糖を取り込む脂肪細胞が全くできないため生後まもなく死にます。逆に普通のマウスに脂肪の多い食事を与えても、やがてインスリン抵抗性をおこして、糖尿病になります。

 ではPPARγが半分だけ働くとどうなるか。そんなマウスをつくり、脂肪の多い餌を与えたが、異常は起きませんでした。脂肪を吸収する小さな脂肪細胞はできたが、インスリン抵抗性を起こす物質を出す大型細胞にはなりませんでした。

 現在のインスリン抵抗性を改善する薬は、スイッチ役のPPARγを活性化して第1の役割を強めています。しかし、この実験結果を利用してPPARγの働きを抑える薬をつくれば、肥満も防げ、インスリン抵抗性や糖尿病を防げるかもしれません。

 人でも先天的にPPARγの働きの弱い人がいます。米国の白人の2割がPPARγの遺伝子に変異があると報告されています。これらの人は糖尿病になりにくいことが分かっています。日本人の場合、同遺伝子の変異で糖尿病になりにくい人は、4割弱しかいません。

 PPARγは栄養分を効率よく脂肪に変えて、体にためる役割をしているといえます。これはおそらく飢えに備えた仕組みと思われますが、今の飽食の時代には必要以上に脂肪細胞を大型化させ、生活習慣病を引き起こしていると考えられています。

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<糖毒性(Glucose toxicity)>

 高血糖が長く続くと糖毒性という減少が起こってくることが分かっています。

 糖毒性とは血糖値が高いことそのものがインスリンの分泌を低下させたり、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性を起こすことです。インスリン抵抗性が起これば、血糖値は更に高くなります。

 このように高血糖の悪循環の状態を糖毒性といいます。

 この悪循環を断ち切るために、一時的にインスリンの注射で血糖値を下げる必要があります。また、注射でインスリンを補うことで、弱った膵臓を休ませることができます。

 この場合、膵臓が再び動き始めて血糖値がコントロールできるようになれば、インスリンをやめることができます。

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インスリン抵抗性改善剤:チアゾリジン誘導体(アクトス)、ノスカールは発売中止

 チアゾリジン誘導体の作用機序については、すべて解明されていませんが、現在判明している主な作用機序は、

1、標的組織でのインスリン受容体の増加、インスリン受容体機能の改善(インスリン受容体キナーゼの活性化と自己リン酸化促進)
2、肝臓での過剰糖産生の抑制
3、脂肪細胞に対するTFNα(tumor necrosis factor α)によるインスリン抑制作用(インスリン受容体機能や糖輸送体の移行の抑制)の解除
4、チアゾリジン誘導体自身が脂肪細胞の核内受容体(PPARγ)のリガンドとして結合し、脂肪細胞への分化や脂肪合成を促進させる

 本剤はインスリン分泌作用を示しませんが、肝臓と末梢組織のインスリン感受性増強作用により、NIDDM患者の高血糖を改善させ、さらに脂質代謝(遊離脂肪酸やトリグリセライド)に対しても改善作用を示します。

出典:医薬ジャーナル 1997.10
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チアゾリジン誘導体の作用


1)大型脂肪細胞の小型脂肪細胞化を促進

 チアゾリジン誘導体は、肥満者にみられる骨格筋でのインスリン抵抗性を引き起こす肥大細胞をアポトーシスにより減少させ、前駆脂肪細胞に存在する
PPAR-γを活性化することにより、正常機能を有する新しく分化した小型脂肪細胞に置き換えます。

 すなわちチアゾリジン誘導体は脂肪細胞の量は変えないものの、その質を変え、脂肪細胞由来のインスリン抵抗性惹起因子(TNF-α、FFAなど)の過剰産生を正常化し、肥満とインスリン抵抗性を解離(uncouple)させると考えられる。

2)内臓脂肪蓄積を皮下脂肪型にする

 チアゾリジン誘導体は脂肪細胞分化促進作用を有しますが、ヒトの皮下脂肪細胞と内臓脂肪を比べると、皮下脂肪分化をより効率的に促進するという報告があります。

 このことと関連して、チアゾリジン誘導体の使用前後で、体重とともにCTスキャンを用いて皮下脂肪と内臓脂肪面積を評価した成績では、
BMIの軽度の増加とV/S比の低下(内臓脂肪面積の減少と皮下脂肪面積の増加)を認める報告が多い

 このようにチアゾリジン誘導体は、エネルギー蓄積の流れを内臓脂肪から皮下脂肪に転換することにより、インスリン抵抗性を改善している可能性があります。

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 チアゾリジン誘導体の場合には小型脂肪細胞ではあっても脂肪細胞数が増加することから、食事療法や運動療法を十分に行い、せっかく小さくなった脂肪細胞が再び肥大化し、かえって肥満が増悪することの無いよう注意すべきです。

 チアゾリジン誘導体には血糖に対する効果だけでなく、TGの低下やHDLコレステロールの上昇、あるいはPAI−1の低下や血圧に対する好ましい効果、さらに血管内皮細胞への直接の機能改善も報告され、肥満、インスリン抵抗性改善に基づく
シンドロームXに対して、病態の改善に留まらず長期予後の改善も十分に期待できます。

 また、チアゾリジン誘導体は、膵β細胞に対するインスリン抵抗性の負荷を減らすことから、糖尿病の発症予防や進行予防に用いることが可能となる可能性があります。

{参考文献} 臨床と薬物治療 2000.8、日本病院薬剤師会雑誌 2000.11等


糖尿病の病型分類

遺伝子と糖尿病(1)       {参考文献}臨床と薬物治療 2000.8

*1型:IDDM

 β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る。
 1A型(自己免疫型)、1B(特発性)

*2型:NIDDM

 インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体でそれにインスリンの相対的不足を補うものなど。

*その他の特定の機序、疾患によるもの

・ 他の疾患、条件を伴うもの

 膵外分泌疾患、内分泌疾患、肝疾患、薬剤や化学物質によるもの、感染症、免疫機序によるまれな病態、その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの。

<ブリットル型糖尿病>

不安定型糖尿病ともいう。

広義には頻回の高血糖と低血糖を繰り返すため、日常生活に支障をきたす糖尿病のこと。

狭義には適当な一定のインスリン療法で、一定の食事量、運動量であるにもかかわらず、原因不明の予期不可能な低血糖を含む血糖日内変動をきたす糖尿病のこと。

一般にIDDMにみられ、誘因としては皮下のインスリン吸収の変動、抗インスリンホルモン分泌過剰など様々な因子が関与します。
膵B細胞機能が廃絶し、内因性インスリン分泌が欠如した糖尿病患者にみられます。

 他に誘因として、感染、副腎機能不全、褐色細胞腫、インスリン抗体過剰、精神的動揺による詐病などが考えられています。


・ 遺伝因子として遺伝子の異常が同定されたもの

<インスリン作用の伝達機構に関わる遺伝子>

 インスリン受容体遺伝子(A型インスリン抵抗性症候群、妖精症、Rabson-Mendenhall症候群、その他)

<膵β細胞機能に関わる遺伝子>

 インスリン遺伝子(異常インスリン消炎鎮痛剤、
            異常プロインスリン症)
 HNF−4α遺伝子(MODY1)
 グルコキナーゼ遺伝子(MODY2)
 HNF−1α遺伝子(MODY3)
 IPE−1遺伝子(MODY4)
 ミトコンドリア遺伝子
 アミリン遺伝子
 その他

 ☆ MODYとは

 1991年、糖尿病に罹っている大家族を用いて連鎖解析(注:下記)を行ったところ、責任遺伝子(病気の原因になっている遺伝子)の第20番染色体上のアデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子近傍に存在することを見いだされた遺伝子(詳細は次号で)

(注:連鎖解析)

 純粋に遺伝学的な理論的手法に則り、同一家系内での糖尿病発症と染色体上の遺伝子マーカーとの解析に基づいて、機能の未知な遺伝子を疾患感受性遺伝子として追跡する手法


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糖尿病のほとんどは遺伝?!

2006年5月15日号 No.429

 メタボリック症候群は心血管病易発症状態にあり、上流に内臓脂肪蓄積という共通の発症基盤を持つことから、進展した「糖尿病未病状態」と捉えることが出来ます。

 第8回糖尿病未病シンポジウムでは、2型糖尿病発症例のうち、過食や運動不足による高度な肥満によるものは日本では1割程度で、ほとんどは両親のいずれかから「インスリン分泌遅延パターン」という遺伝子型を引き継いでいることが報告されています。

 2型糖尿病患者での動脈硬化性疾患発症の危険因子として加齢、高脂血症、高血圧などが知られています。しかし、これらの従来の危険因子では発症を3割程度しか予測できず、未知の因子として遺伝素因が注目されています。

 動脈硬化性疾患のような複数の発症経路を持つ多因子疾患の場合、各経路の遺伝子多型の特定の組み合わせが患者の遺伝子素因を反映していて、その遺伝子多型の組み合わせと環境因子といった表現型情報との関連を解析することで疾患発症リスクをより効率的に評価できると考えられます。

 インスリン分泌遅延パターンでは、毎食後の血糖値上昇に対するインスリン分泌が遅延するという特徴がありますが、若い年齢の頃はインスリンの働きはむしろ亢進しているため血糖値は正常ですが、わずかな運動不足や過食によって少しでもインスリンの働きが低下すると、インスリン分泌量が少ないため、食後高血糖を引き起こし、IGT:impaired glucose tolerance、さらに2型糖尿病発症へと進展していきます。

 また、遅延しているがむしろ過剰なインスリン分泌は脂肪肝や肥満を惹起し、高脂血症や高血圧までに至るため、糖尿病の素因に注意し予防することが必要です。

 食後高血糖が注目されていますが、これは肝が糖を取り込めない結果であり、脂肪肝や脂肪筋ではたとえインスリンレベルが高くても糖を取り込めません。

 内臓脂肪蓄積型肥満では糖尿病発症や進展予防に筋肉内脂肪蓄積を食事や運動療法で減らすことが重要となってきます。

 メタボリック症候群もその根源は内臓脂肪ではなく、肝臓にある可能性が示唆されています。

 血糖管理は少なくともHbA1cを6.5%未満に抑えるべきとされていますが、さらに改善させることが動脈硬化の予防に繋がります。

 血糖変動が頚動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)を用いた調査結果から、長期に渡り全ての因子を正常化させることで動脈硬化を退縮出来ることが初めて証明されました。

 糖尿病未病研究からも、2型糖尿病や心血管病の発症リスクが高い人では正しい生活習慣や危険因子の厳格な管理が重要との報告がありました。

   {参考文献}メディカル トリビューン 2006年4月20日号

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<NST関連用語解説> クワシオルコルとマラスムスはこちらです。


古代人の残してくれたありがたい遺伝子が現代病の原因だった。


 縄文人や弥生人といった古代人が、急に現代に現れて生活するとどうなるか想像してみてください。
自動車や飛行機には、当然目を丸くして驚くでしょうが、何よりもまず現代の食物、その量と種類に仰天することは間違いないでしょう。古代といわずとも私たち現代人もつい最近まで、1日3回満足する食事にありつける保証はなかったのではないでしょか。

 第2次世界大戦前までの日本人が食べていたものは、古代人が食べていたものとそう変わらなかったと言われています。会席料理などの原料は主に、野菜や魚、貝類、海草などで、縄文人が食べていたものを上品にしたてなおしただけです。

 ハンバーグ、スパゲッティー、焼肉、グラタン、各種中華料理などは、戦前からありましたが、普通の家庭で毎日のように食べるものではありませんでした。

 縄文人が現代に現れて、ハンバーグや焼肉、フライドチキンなどを毎日食べたらどうなるでしょうか? きっと病気になってしまう筈だと思われるでしょう。しかし、これらの食べ物によって生命の危険にさらされているのは実は我々、現代人なのです。というのは私たちは、古代人が何千年、何万もかかって作り上げた遺伝子を引き継いでいるからです。

 古代人は飢餓、病原菌、戦争、栄養不足などと戦いながら、未来の私たちのために、それらに抵抗できるように遺伝子を作り上げ厳しい環境でも生き残れるようにしてくれていたのです。ですがここ数十年で私たちの環境(主に食べ物)が変わってしまったのです。

 そのため、古代人が残してくれた遺伝子が我々にとって裏目となり、普通の食事(と思っている)をしているだけで病気になってしまうようになっていたのです。

 

飢餓→エネルギー体内貯留増強→インスリン抵抗性亢進(糖尿病、メタボリック症候群
       〜エネルギー消費抑制と過剰カロリー摂取

感染のよる死→抵抗性増強→免疫力亢進→アトピー、花粉症、喘息、自己免疫疾患
      *過剰免疫力と細菌・寄生虫の減少

ケガ、戦いによる出血死→血液凝固(能)亢進→血栓症、硬塞(新規硬塞、脳梗塞) *血管内での過剰血栓形成

食塩欠乏→Naの体内貯留増強→Naの再吸収亢進→高血圧、脳出血〜食塩摂取過剰

カロリー減少→脂肪カロリー摂取増強→脂肪の味覚是正、脂肪腸管吸収率亢進→肥満、高脂血症、動脈硬化
       
*脂肪摂取過剰

気温の低下による凍死→体内保温力増強→体温上昇能亢進、甲状腺機能亢進、皮下脂肪貯留亢進→熱中症、甲状腺疾患、肥満
        *放熱力低下


    出典:クリニカルプラクティス 東京大学名誉教授 和田 攻 (ネクタイをした古代人)

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現代人が病気にならないためには、「
一無、二少、三多」を守りましょう。

 1)       禁煙 喫煙はタバコ病 

2)       少酒、少食  

3)       多動、多休、多接

多動:歩行、体操多休:質の良い睡眠、疲労の回復、ストレスの解消
多接:多くの人・事・物に接する。精神面の充実、認知症予防

   出典:クリニカルプラクティス 池田 義雄(タニタ体重科学研究所 所長)


スルホニル尿素薬、メグリチニド系薬の病態による使い分け
(グリミクロン錠)、

食後血糖調節薬
PGR:prandial glucose regulator

 スターシス錠は速効性・短時間性のため、食後高血糖型患者の減弱した初期インスリン分泌を補完し、毎食後の血糖上昇とそれによる過剰なインスリン分泌を抑制することができます。

 そのため、スターシス錠は、腸管での糖質分解酵素阻害に食後高血糖を是正するαグルコシダーゼ阻害剤とともに、食後血糖調節薬(PGR:prandial glucose regulator)と呼ばれています。

<スターシス錠の特徴>

1)消化管からの吸収が早い。
2)肝臓で速やかに不活化され血中半減期が短い。
3)SU受容体への結合が弱く、解離が早い。

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 SU剤、スターシス錠(メグリチニド系)は両剤とも、内因性インスリンの分泌能がある程度保たれている2型糖尿病に用いられます。

 2型糖尿病を血糖値から特徴づけると、朝食前高血糖と食後高血糖に分類されます。

 朝食前高血糖型は、膵臓β細胞の量的な不足がより進んでいる状態で、インスリン基礎分泌まで低下しています。食前高血糖型は食後血糖も高く、これに伴い全身のインスリン抵抗性が合併します。つまり肝の糖放出率が上昇し、しかも全身の糖取り込み率が低下することから、夜間の10時間以上に及ぶ絶食をしても、朝食前高血糖になります。

 SU剤は、多くが比較的作用時間が長く(12〜24時間)、1日の基礎的なインスリン分泌を増加させることで、朝食前高血糖と日内の血糖プロファイルを全体的に低下させることが期待されます。反面、作用発現は服薬後2〜3時間と緩やかなので、食後血糖への効果はあまり期待できません。  

 食後血糖の改善は、空腹時と平均血糖の降下により、糖毒性(Glucose toxicity)が緩和され、インスリン抵抗性やインスリン分泌能が改善されることによります。

 食後高血糖型は、膵臓β細胞の機能的、質的な不全状態で、食後の早期追加インスリン分泌が低下していることが特徴で、全ての糖尿病に見られていますが、とりわけ発症早期のいわゆる軽症糖尿病患者では追加分泌不全だけが認められる場合が多く見受けられます。
つまり、食後の血糖値の上昇に膵臓β細胞が素早く反応して、瞬時に分泌されるべき追加インスリンが不足しているのです。

 血漿インスリン値は食後、遅延性に高値となることが多いのですが、これはむしろ食後高血糖に基礎インスリン分泌が刺激された結果と考えられます。(初期低下・遅延過剰分泌パターン)。この状況下では肥満(インスリン抵抗性)が助長されやすく、増大した脂肪での脂肪分解に対するインスリン作用が低下、高遊離脂肪酸(FFA)血症を引き起こし、筋での糖取り込み率の低下、肝での糖新生率の促進が導かれます。

 このような悪循環が形成されると、空腹時血糖と1日内の血糖プロファイルが上昇してきます。

    出典:日本病院薬剤師会雑誌 2003.5

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*グリニド系薬剤〜スターシス錠、グルファスト等


 グルファスト(ミチグリニド)は食後15〜60分と早期のインスリン追加分泌が有意に高まり、結果として食後血糖上昇を抑制します。

 SU剤とは異なり、低血糖をきたしにくく、より自然に近いインスリン分泌を再現することによって食後高血糖を是正する薬剤として軽症糖尿病への新たなる選択肢として期待されています。

 αグリコシダーゼ阻害剤との相違は、遅延したインスリン追加分泌を前方にシフトさせるのがグリニド系薬剤で、血糖上昇を後方にシフトさせ、遅延したインスリン追加分泌に一致させるのがαグリコシダーゼ阻害剤とされています。

 血糖上昇とインスリン上昇のタイミングを合わせるということでαグリコシダーゼ阻害剤とグリニド系薬剤との併用についても検討されています。

    出典:大阪府薬雑誌 2005.3


フェニルプロパノールアミンに関する報道について
医療用該当商品名:ダンリッチ

 平成12年11月7日付け新聞(夕刊)に、米国における塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)を含有する医薬品による副作用に関する記事が掲載されました。

 厚生省によると、1995年、PPAを含有する鼻炎用薬を服用した女性が脳出血を起こした事例(転帰:回復)があり、因果関係は不明とされています。わが国では同症例以外は、1996年10月の使用上の注意の改訂以降、PPAによると疑われる脳出血に関する副作用症例の報告はないとのことです。

 11月6日、FDAでは、米国エール大学によるPPAと脳出血に関する研究報告書において、PPA含有製剤を使用している患者では使用していない患者に比べ、脳出血のリスクが高まる傾向が認められたと報告したことを受け、PPAを含有する全ての医薬品の販売を自主的に中止するよう勧告しました。

 この措置は、1)脳出血の発現頻度は非常に低いものの重篤な副作用であり、発現が予測できないこと、2)代替成分があることなどを踏まえ、PPAを医薬品に使用することは適当でないと判断したことによるものです。

 厚生省では、1)米国における効能効果や用法用量と国内の承認内容が異なること、2)既に副作用の項に激しい頭痛が現れた場合には、使用を中止するなど使用上の注意改訂が行われていること、3)1996年の注意勧告以来、国内ではPPAによると疑われる脳出血の副作用がないことなどから、本件措置等に関する検討を継続して行うとともに、現段階では、PPA含有製剤に関する再度の注意勧告を行うことが適当であると判断しました。

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1996年11月1日号

◎厚生省副作用情報 NO.139

*塩酸フェニルプロパノールアミン含有医薬品の適正使用について

 当該薬品:ダンリッチ

<次の人は医師、薬剤師に相談すること。>

 心臓に障害のある人、または高齢者
 緑内障(例えば、目の痛み、目のかすみ等)
 排尿困難な人、甲状腺機能亢進症の人、血圧の高い人

<次の薬と同時に服用しないこと>

 鼻炎用内服薬、塩酸フェニルプロパノールアミンを含有する内服剤(風邪薬、鎮咳去痰剤等)
<服用中、服用後に注意すること>

  本剤の服用により、発疹、発赤、めまい、不眠、激しい頭痛、神経 過敏、動悸等の症状があらわれた場合には服用を中止し、医師、薬剤 師に相談すること。

*理由〜塩酸フェニルプロパノールアミンにより交感神経刺激作用が増 強される。本年2月、FDA(米国食品医薬品庁)は、この件に関し 警告表示を提し、6ヵ月以内に使用上の注意を改訂するように勧告し その6ヵ月が経過したため。

 
☆塩酸フェニルプロパノール アミン含有の市販薬(一般用医薬品)

鼻炎用内服剤

コンタック600SR(住友製薬)
新コルゲンコーワ鼻炎ソフトカプセル(興和)
パブロン鼻炎カプセルL(大正製薬)
ベンザ鼻炎用カプセル(武田薬品工業)
エスタック「ニスキャップ」(エスエス製薬)
ストナリニ(佐藤製薬)
スカイナー鼻炎用S(エーザイ)他

鎮咳去痰用剤

コンタックせき止めSR(住友製薬)
ストナコフキャプレット(佐藤製薬)
ブロン錠12(エスエス製薬)他

感冒用剤
ストナジェルサイナス(佐藤製薬)
ベンザブロック(武田薬品工業)
ベンザブロックSP錠(武田薬品工業)他

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