みんな社会が悪いんや


やさしい薬理学トピックス 無駄口薬理学

 [花粉症、アトピーを考えるシリーズ]
 

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  追加記事

DEP:diesel exhaust particulate〜ディーゼル排出微粒子

SPM:suspended partisulate matter〜浮遊粒子状物質

アトピーの一因は遺伝子 アトピーと漢方薬 アレルギーマーチ
アトピーと感染の関係 アトピーが子供に多い訳  
アレルギー性疾患の成立機序 アレルギー疾患になぜかかるか ウコン(鬱金)によるアトピーの治療
エブリシング・アトピー症候群 セラミダーゼとアトピー性皮膚炎
   
花粉症アレルゲン 花粉症治療薬剤の選択法 海洋洋深層水によるアトピー性皮膚炎の治療
寄生虫がアレルギーを増強する?! 食物アレルギーの基本対応 食物アレルギーの血液検査の問題点
 
  


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 ストレス 

 みんな社会が悪いんや2    1993年7月1日号 No.132

花粉症が増えつづけている理由は、いくつかありますが、ストレス刺激がその要因の一つとしてクローズアップされています。ストレス刺激が多くなると、この刺激は大脳皮質、辺縁系を経て視床下部の交感神経中枢を刺激し、全身の交感神経緊張を引き起こします。
この交感神経緊張が視床下部での恒常維持機能(ホメオスタシス)を障害し、自律神経系、内分泌系、免疫系の機能異状を引き起こすのです。特に免疫系の障害が花粉症を始め多くのアレルギー性疾患との関連が深いと思われます。

交感神経緊張による免疫機能異状には2つが考えられます。
1つは免疫機能が反応不良となる場合で、外部からの抗原に対して抗体を作って
欲しいのに作れなくなって感染症などを引き起こす場合です。
もう1つは逆に反応過剰で、外部からの抗原に対して抗体など作って欲しくないのに抗体を作り、抗原抗体反応を引き起こして症状を現すアレルギー性疾患の場合です。スギ花粉症はまさにこのケースです。

この場合神経ブロック療法が有効との報告があります。
これは星状神経節の近くに1%カルボカイン5mlを注射し、神経をブロックすると交感神経の緊張が取れ、末梢血管が拡張し、血管抵抗が小さくなるので、血流が増します。内頚、外頚、脊骨動物の血流量も増すことから、その支配領域の鼻、喉、眼の血流も増し花粉症の治癒を促進させます。

星状神経節は脊椎の7番目の横突起前方に位置し、両側を縦に走っている交感神経節で、星の形に見えることからこの名前がつけられています。この神経節から交感神経節後線維が、頭、頚部、顔面、肩、上肢、前胸背部、気管支、肺、心臓に通っていて、いわゆる交感神経の中継点です。

この星状神経節ブロックを何回繰り返しても副作用は全く無いといわれています。要するにストレス刺激を少しでも取り除くことが、花粉症から逃れる方法です。
ハイヒールなどの窮屈な靴を履く、きつい下着を身に着けることなども、強く交感神経を刺激してストレスとなります。

{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 Vol.29 No.5


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 寄生虫


みんな社会が悪いんや3   1993年11月1日号 No.140

このシリーズも3回目となりました。今回紹介するのは、アレルギーと寄生虫の関係です。

アレルギーが問題になっているのは、第1回目のジーゼルエンジンと同じで工業先進国でのことです。アレルギーは「文明病」であるとも言われています。工業国では寄生虫は撲滅されています。

アレルギーと寄生虫感染とともに共通に関わっているのが免疫グロブリンのIgEです。国際的な喘息罹患率と寄生虫感染に関する報告によりますと、寄生虫感染率が高い国ほど喘息の罹患率は低いという傾向があります。

アレルギーはT〜W型に分類されていて、T型にIgEの関与します。寄生虫のいない工業国では花粉症患者が増加していますが、開発途上国では花粉症の報告はありません。

寄生虫感染によって抗原蛋白特異IgE抗体が産生されるだけでなく、抗原非特異的IgEも作られ血中総IgE濃度が上昇することが知られています。

アレルゲン特異IgEに比較して非特異IgEが圧倒的に多く存在すればアレルギーが抑えられることを示唆する報告もあります。すなはち、高IgE血症ではアレルギーは起こり難くなるのです。

IgEは大量の鼻水などの分泌物を出させます。それによって寄生虫を体外に押し出そすためのものだったようです。


{参考文献} 治療 Vol.75,No.9 1993

「みんな社会が悪いんや」という題について

車の排気ガスの無いところで、ストレスの無い生活を送り、農薬などのかかっていない野菜を食べていれば寄生虫に感染し、アトピーや花粉症にはなりません。

関連記事 Hygiene hypothesis(衛生仮説)とアレルギー

1998年に寄生虫感染が逆にアレルギー疾患を増悪させるという記事がありましたので、そちらも参考にしてください。


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アレルギーは反乱か?

口呼吸は万病の元 5

以下は東京大学医学部口腔外科 講師 西原克成先生が「治療」に書かれた文章を再構成したものです。

アレルギーのことを従来の免疫学では「免疫の反乱」と呼んでいます。しかしこれを冷静なサイエンスの眼で見れば、白血球が反乱を起こしたわけではなく、体内に侵入した毒物や細菌・ウイルス、原虫・異種蛋白質などの消化がうまくいかなくて、消化副産物により、皮膚や気道粘膜に障害を生ずるものなのです。

 免疫病のうちでアレルギー性疾患は最も軽いもので、細胞レベルの異種蛋白やバクテリアの消化がうまくいかなかった時に起こり、痒みや湿疹を生ずるのです。

 白血球の消化力は、視床下部・脳下垂体系の自律神経系に支配されますが、すべてはホルモンを介して間接的に支配されます。ことに副腎皮質ホルモンは、30種にもおよび、白血球リンパ球はもとより多種多様の細胞の遺伝子発現、エネルギー代謝(糖の代謝・脂質の代謝、ミネラルの代謝)からリンパ球・循環系・中枢神経系に作用し、ストレスという物理的・精神神経的エネルギー物質の刺激に対する生体防御反応や抗炎症反応にまで細胞の遺伝子発現を通して効果を及ぼします。

最近はやりの花粉症は、大気汚染とある種の植物花粉による汚染が重なった時に発症するやはり「細胞レベルの消化不良」です。大気が生体に触れてこれらの汚染物質が体液に溶けるのが、眼と鼻と耳と鰓(エラ)であったワルダイエル輪のある鼻咽喉口峡咽頭部です。そして過労やストレスによる白血球の消化力の減退が大きく関係します。

 以前述べたように、内分泌の主要部はすべて鰓器の関連器官だったのです。そして内分泌系はエネルギー代謝と細胞呼吸・細胞レベルの消化・同化・異化・排出の鍵を握る器官であり内蔵脳の自律神経系で支配されているのです。

 白血球がバクテリアやウイルスを生きたまま抱えていると白血球の膜の性質が変化します。核酸も微生物の遺伝子が入っているため正常細胞と違っています。このため、自己が非自己と認知して、免疫病がおこるのです。口で呼吸していると、こういう状態に陥る危険性が高くなります。


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P/S比〜まちがっていた栄養指針

 P/S比のSは飽和脂肪酸、Pはリノール酸のことです。

「飽和脂肪酸(S)は血清コレステロールをあげ、高度不飽和脂肪酸、実質的には植物油のリノール酸(P)はそれを下げる」という観察から、P/S比を上げることがかつての脂質栄養指針の基本でした。

 ところがこの栄養指針は間違っていたのです。現在ではP/S比という指標は使わないように勧められています。

 わが国ではとくにP/S比を上げるという間違った指針が広がった結果、リノール酸摂取量が過去半世紀の3倍近くに増え、これが身体の脂肪酸バランスに反映されています。

 アレルギー過剰反応は性はアレルゲンの増加のみではなく、「リノール酸とりすぎによる炎症のメディエーターの過剰産生」によります。実際、食事脂肪酸のn-6/n-3比を下げる治療が、非常に良い効果をあげています。

 オレイン酸からは脂質メディエータはできず、アレルギーなどに対して比較的安全です。ところが現在、入手可能な高オレイン酸油(キャノーラ、オリーブ油、高オレイン酸紅花油、高オレイン酸ヒマワリ油)や植物硬化油、月見草油などは、脳卒中ラットで血管損傷、腎炎促進、寿命短縮などの作用を示し、安全なものではありません。これらよりむしろ、バター、ラードなどの摂取が勧められます。

 このような背景から、日本脂質栄養学会では、「各種の疾患を予防するために、現在のリノール酸摂取量の半減とn-6/n-3比を2に下げること」を勧めています。
 アラキドン酸代謝・作用を抑える薬が有効な疾患(心臓・脳虚血系疾患、アレルギー過敏症、欧米型癌など)に対して、アラキドン酸の前駆体(主にリノール酸)を多く含む食品の摂取を抑えると言う指導が、医療の場で実践されることが望ましいとされています。

{参考文献}日病薬誌 1999.1

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アトピーの食生活

 アトピ−性皮膚炎を初めとするアレルギー性疾患がここ20年で急増してきました。その原因の一つに食生活の変化が大きく関与しているといわれています。昭和40年代から食品添加物が多用されるようになり、また動物性蛋白質(卵、牛乳、豚肉など)を多く摂るようになりました。これらの食生活の変化の変化の一つに脂肪分も大きく関与していると思われます。特に最近問題になっているのはリノール酸の摂り過ぎです。


 現在、脂肪については

  1動物性脂肪(肉、牛乳、卵、砂糖など)
  2植物性脂肪(紅花油、月見草油、コーン油など:リノール酸系列という)
  3魚介類の脂肪(イワシ、サンマ、マグロ、シソ油などαリノレン酸系列)

 の三種類に大きく分けられます。リノール酸はコレステロールを低下させる作用があるといわれ、健康食品のように考えられ、紅花油が市場に出回っています。また家庭での料理が炒めものや揚げ物が中心になり、さらにスナック菓子や、ファーストフード(ハンバーガーやフライドチキンなど)が増え、植物油の使用量が急激に食生活の中で増加しており、リノール酸の摂取比はαリノレン酸の6倍以上となっています。

 しかし、最近、リノール酸のとりすぎが問題となる病気がいくつか報告されるようになりました。動物実験ではリノール酸の豊富な食事をすすめるとアレルギー疾患が起こりやすくなるという報告(リノール酸は体のなかで代謝されてロイコトリエンの4系列になります。ロイコトリエンの4系列はアレルギー反応の場で悪さをします。)が出ました。特に皮膚の湿疹が出やすくなります。
 さらに、リノール酸を中心にした食事を与えたネズミとαリノレン酸を中心とした食事を与えたネズミの比較では、記憶力や学習能力に明らかな差が出るという報告もみられます。逆にαリノレン酸の豊富な食事を与えると皮膚がきれいになり、アレルギー疾患も減少しました。αリノレン酸は代謝されてEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)になります。特にDHAは胎児や新生児の脳細胞の発達には欠かせないものであり、老人のボケ予防にも効果があることが解ってきました。

 リノール酸が全て悪いわけではありませんが、αリノレン酸をもっと増やし、出来ればリノール酸とαリノレン酸との比を1:1にする必要があると思われます。

 これらの結果から現在の食生活を変える必要があると思われます。現在、世界的にみて、最も健康によい食事とは日本人が昭和40年代に食べていた、魚介類が多く、食品添加物の無い食事が理想的といわれています。今、米国ではスシバーで魚を食べることが評判になっています。さらに肉料理はテリヤキといって網焼きにし、醤油で食べるのが流行中です。これらは健康上の理由から評価されています。


【αリノレン酸を増やす食生活】

 具体的な食事について説明します。

1. 揚げ物、炒め物を減らし(植物性油はリノール酸を多く含んでいます。やむを得ず油を使用するときはαリノレン酸の多く含んだシソ油を使いましょう)、蒸す、焼く、煮る料理を増やしましょう。

2. 肉料理は網焼きにしましょう(網焼きにしますと油が減ります)。肉は脂身の少ないところを選ぶのが秘訣です。

3. 市販のドレッシングは使わないようにしましょう(ドレッシングには植物油が使われています。必要ならシソ油で作りましょう)。野菜は根菜類を多めにとり、サラダよりも煮て食べると沢山食べられます。

4. マヨネーズも避けましょう。マーガリンはバターに変えましょう(バターも油が多いのであまり奬められませんが、マーガリンはリノール酸を追加して作られていますのでそれよりはよいと思います)。時間があれば家庭で美味しいジャムを作り、それでパンを食べるのも一案でしょう。

5. シソ油を料理に加える工夫をしましょう。(炒めもの、ドレッシングはシソ油で行って下さい。シソ油は魚臭い匂いがしますが、すぐに慣れます)

6. 魚を多く摂りましょう(αリノレン酸系列〔DHA含〕は魚の油分に多く含まれています。イワシ、サバ、マグロ(脂身)、ブリ等にEPAやDHAが多い、食べ方は生か、焼いて。養殖のハマチは色々添加物が使われていますので注意して下さい。干物は油が酸化する可能性があり、過酸化脂質が問題になることがあります。)

7. 海草(昆布、ひじき、海苔、わかめなど)を毎日食べましょう。海草の中にもαリノレン酸が含まれています。世界で最も長寿が多いところは沖縄だといわれています。沖縄の人は世界で最も沢山昆布を食べています。

8. スナック菓子、缶ジュース類、砂糖、ファーストフードは避けましょう。これらのものは糖分が多く、カロリーだけが多いので、体にはあまりよくありません。

9 食品添加物は種類によってアレルギーを引き起こす他、発癌性などの問題もあります。できれば添加物が入ってない方がよいでしょう。

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腸内細菌が食物アレルギーを抑える


 消化管は単に食物を消化吸収する“管”であるばかりでなく、バイエル板、孤立リンパ小節、腸間膜関連リンパ節(GALT)を含む腸管関連リンパ組織、生態のリンパ球の60%に相当する上皮細胞間リンパ球や粘膜固有層内リンパ球などを含む粘膜組織を有する“免疫臓器”でもあります。

 消化管にはGALTに加えて、自然免疫系のTLR(toll-like receptor)、マクロファージ、樹状細胞、γσT細胞、そして獲得免疫系のIgA、IgG、サイトカイン、ケモカインといった免疫系のほぼすべてがそろっており、また末梢毛細血管の約50%、脳を除く生体末梢神経の50%以上とほとんどの脳内ホルモンも存在しています。そしてそれらが複雑巧みに制御されていることから、近年は生体における第2の脳とも呼ばれています。

 消化管には約100〜400種類、数にして10〜100兆個の腸内細菌が存在しますが、その半数近くは培養が困難でいまだに同定されていません。これらの膨大な腸内細菌は共存する腸管免疫系を刺激していると考えられていますが、その免疫応答の詳細についてはよく分かっていません。

 そのような状況の中TLRは消化管での腸内細菌と腸管免疫系とを仲介する分子として注目されています。

 一方、無菌状態で生まれた新生児の腸管にいったん形成された腸内細菌叢が自然環境下では変化しにくいことから、ヒトにおいて腸内細菌を認識した後に寛容化するような免疫機構の存在が強く示唆されています。

 一般に免疫寛容とは生体の免疫系が外部からの刺激に対して反応しない状態を指しますが、腸管での腸内細菌に対する慣用とは免疫系が無反応な状態ではなく、細菌からの刺激を生体自身が恒常性の維持にうまく利用している“共生的関係”というようなものです。

 動物実験でTLR4を介した情報伝達が特異的にピーナッツ抗原特異性アレルギー反応に抑制的に関係していることが示されており、ピーナッツ抗原特異性アレルギー反応での腸内細菌とTLR4依存的なシグナルがアレルギー反応の顕在化を阻害することを強く示唆されています。

         出典:ファルマシア 2005.2

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海洋深層水によるアトピー性皮膚炎の治療  

1995年11月1日号  No.187  ・トピックス

 アトピー性皮膚炎の治療としてはステロイド外用剤、ダニをはじめとする原因抗原除去法、抗アレルギー剤、スキンケアーなどの有効な方法があります。しかしこれらをもってしても治療の困難な症例が存在し、各方面で新たな治療法が模索されています。数年前から、国立小児病院などで海水浴が有効であることが報告されており、これにヒントを得て深層水治療が生まれました。
 
 海水は水深200mを境に表層水と深層水に2分され、両者は性質も違っています。表層水は太陽光線が届き、多くの生物が存在し、リン酸塩、硝酸塩などの栄養物質は消費されるために少なくなっています。これに比して深層水は、生物は少なく、栄養物質は豊富で性状は安定しています。
 
 高知県室戸市にある室戸中央病院の臨床研究では、1)深層水を患部に5分間塗布する。2)石鹸を使用して洗い流す。3)軟膏塗布を1日1〜2回行う。1〜2ヵ月ごとに診察し、自作の臨床スコア表に従って、痒み、睡眠障害、紅斑、そうは痕、出血、苔せん化を評価。同時に、末梢血好酸球数、血清IgEを測定
 ステロイドを併用しなかった患者で交感神経判定を行ったところ、有効67.7%、不変25.6%、悪化7.7%:患者総数78名(軽症〜重症 1〜62歳:平均14.4歳ステロイド以外の治療薬は継続、コントロールはなし)

 6ヵ月以上治療を継続した症例では、最初の1〜2ヵ月に大きく改善し、その後もゆるやかに改善していく傾向がみられ、症状がほとんどなくなり、治療を中止した症例が9例となっています。
 末梢血好酸球は、治療前8%以上あった20名のうち、18名(90%)で低下が見られました。血清IgEの変化はなく、また黄色ブドウ球菌の除去効果がありました。
 
 アトピー性皮膚炎が、抗原などの影響で、自然に増悪、軽快を繰り返す疾患であることを考えると、深層水外用は、一定の効果があると判断されます。作用メカニズムなど今後の研究の成果が待たれています。やっぱり、自然の力は偉大ですねえ!

         {参考文献}治療9 1995


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寄生虫がアレルギーを増強する
 
治療 1999.2

アレルギー患者の増加の原因の1つに寄生虫症の減少が上げられている。すなわち、寄生虫感染症では高IgE血症がみられ、それによって肥満細胞上のIgE受容体が占拠されるために、アレルギーが起こらないとするのがその理由である。

寄生虫感染動物による解析からアレルギー発症に及ぼす影響は以下の2つに集約される。
まず第1は寄生虫感染によるIgE産生の非特異的増強である。寄生虫が感染すると寄生虫に対するIgE抗体の産生が起こるが、それに加えて寄生虫抗原と結合性の無いIgEも産生される。しかも後者の非特異IgE量のほうが寄生虫特異IgE抗体量よりはるかに多い。IgE産生の非特異的増強はアレルギー反応の準備段階ともいえる初期相に関するもので、アレルギーの増悪因子となる。

第2は、高IgEによる肥満細胞上IgE受容体の占拠による化学伝達物質の放出の阻害である。感染ラットの高IgE状況下の肥満細胞ではIgE受容体の数の増加も見られる。しかし感染ラットでは寄生虫抗原に無関係なアレルゲンとそれに対するIgE抗体の組み合わせによる受動アレルギー反応は完全に抑制される。高IgEがIgE受容体数の増加を凌駕したことになる。肥満細胞の反応阻害はアレルギー反応の発現相に関するもので、アレルギー抑制因子となる。

ヒトの寄生虫感染とアレルギー発症の関係については少なからず報告がある。その多くは寄生虫感染がアレルギーを抑制することを示唆している。しかしながらこれらの疫学調査は、開発途上国で行われたもので、その結論を導く上で厳密な比較がされていないものが多い、例えば、寄生虫感染者をスラムの住人とすると、感染していない対象は生活水準の高い人として調査が行われたりする。そうすると細菌やウイルスの感染頻度も両群間に差があることが予想されるが、その実態は調査されていない。各種の感染症は互いに影響しあって免疫応答をしているため、アレルギー発症の調査も寄生虫感染以外の要素ができるだけ均一な集団で行わなければならない。

九州南部の養豚の盛んな地域で約1,300人を対象にアンケートと耳鼻科検診が行われた。この地域はスギの産地としても有名で植林が行われている。ちいなみにヒト蛔虫は完全に駆除されて存在しない。ブタ蛔虫の感染の有無は血清反応によって決められた。ブタ蛔虫はヒトでは成虫にならないので虫卵の排出が無いからである。

ブタ蛔虫に対するIgG抗体陽性を感染者とし、陰性を非感染者とした。住民のブタ蛔虫感染率は25%であった。


これらのことからブタ蛔虫感染者ではスギ花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎の発症率が高くなっていることが判明した。その原因は各々の抗原に対するIgE抗体保有率が感染者で高いことによると考えられる。すなわち、先に述べた感染によるIgE産生の非特異的増強によってスギ花粉やハウスダストに対するIgE抗体が産生され、その結果鼻アレルギーの発症率が高くなったものと思われる。

今回の調査条件のもとでは、寄生虫感染はアレルギーの増悪因子という結論が導かれたのである。
 

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 『エブリシング・アレルギー症候群』

 絶食療法、環境抗原除去療法、免疫抑制剤療法 不飽和脂肪酸療法、、、<以下療法を略>、、 ワクチン、ゲルマニウム、白金パラジウム、レーザー、ニンニク入浴、PUVA、抗アレルギー剤 SOD、海水浴、アルカリイオン水と強酸性水、 イソジンゲル塗布、抗真菌剤、多糖類によるパック風呂、、、、

 以上は、何の治療法でしょうか?  答えはアトピー性皮膚炎ですが、アトピーの場合、これに加えてほとんど無数とも思える民間療法、漢方薬、健康食品、スキンケア商品、さらになんとやら協会、なんとやら友の会推奨のアトピ ーグッズ、など大変に混乱した状態です。

 テレビ、雑誌、はたまたインターネットと様々な情報をあらかじめ仕入れている患者さんを相手に、薬の副作用の説明をした場合、どんな反応が現われるのか予想しながら、服薬指導を行っていかなければなりません。今度からは、心理学の勉強もしなくてはならないのかもしれません。


アトピーと漢方薬

 アトピー性皮膚炎は長期にわたり治療する必要があります。副腎皮質ホルモンの外用剤は効果がありますが、この作用はアトピー性皮膚炎を押え込むだけですので、中止するとまた出現します。また長期に使用しますと皮膚の色素沈着(色黒になる)や、血管が浮きでてきたり、その他色々な副作用がでてきます。漢方薬は皮膚の自然に治そうとする力を助ける作用を目的として使用します。従って、アトピー性皮膚炎の皮膚の程度や種類によって使用される薬は異なります。

 例えば夏に悪化するタイプには消風散、冬に悪化するタイプには十味敗毒湯や温清飲、感染を繰り返し、ジクジクするタイプは十味敗毒湯などを使用します。その他皮膚を潤す作用のある当帰飲子、皮膚のほてりを鎮める白虎加人参湯、体質改善に小柴胡湯なども処方します。
漢方薬は飲み出してすぐ効果のあるものは少なく、2〜4週間投与した時点で変化が表れるのが普通です。西洋薬(痒み止め、抗アレルギー剤など)を併用することで効果が強くなります。なお漢方薬の種類によっては一時悪化(これは瞑眩〔めんげん〕という)し、その後に改善することがみられます。


 代表的なアトピーの治療に使う漢方薬を下に列記します。

【皮疹を見て】

 湿潤性、夏に悪化する    消風散加減
 乾燥性、冬に悪化する    十味敗毒湯加減

【加減】

 発赤・充血・熱感       黄連解毒湯
 水疱・糜燗・浮腫       越婢加朮湯、麻杏甘石湯
 鱗屑・亀裂・乾燥       四物湯
 暗赤色で乾燥・鱗屑      温清飲
 肥厚・苔癬化         通導散
 膿疱・化膿          排膿散及湯

【体質改善的治療】

 気虚             補中益気湯、黄耆建中湯
 お血             通導散加桃仁牡丹皮
 解毒証            一貫堂処方(荊芥連翹湯,柴胡清肝湯)
 臓毒証            防風通聖散


【アトピー治療基本方剤】

 気虚タイプ(虚弱体質)    補中益気湯、黄耆建中湯
 胃家実タイプ(肥満飽食)   防風通聖散
 ストレスタイプ(心因傾向)  柴胡桂枝湯、小柴胡湯、抑肝散
 お血タイプ          桂枝茯苓丸、通導散、温清飲
 血虚陰虚タイプ(老化型)   四物湯、六味地黄丸、当帰飲子

【部位による基本方剤】

 顔面、頭部のタイプ      加味逍遥散、治頭瘡一方
 手足に出る          三物黄ゴン湯、温経湯、当帰四逆加呉茱ユ生姜湯
 外陰部の痒み         竜胆瀉肝湯


アレルギー疾患になぜかかるか

 
     出典:治療、1998.6 新潟大学医学部動物学 安保徹

 アレルギー疾患の発症は、過剰副交感神経優位体質の基盤を持つ人が、精神あるいは身体的ストレスを受けて発症します。

 患者の自律神経レベルをかえない限り、他の治療はすべて小手先の治療になってしまいます。

 リンパが多い副交感神経の体質は、生理的には子供全般に見られる現象で、出生のストレスで出現する顆粒球増多は生後数日で消失し、顆粒球よりもリンパ球の比率が多いパターンになり、この状態が15〜20歳まで続きます。この時期を過ぎると顆粒球がリンパ球の比率よりも高い成人パターンとなって一生を終えます。

 子供に見られるリンパ球優位パターンは、体の副交感神経優位パターンによって生じていますが、これでも普通はアレルギー疾患の誘発には至りません。副交感神経優位はそもそも生体のエネルギー同化作用優位を反映しているので、子供の成長に用するエネルギー消費によって打ち消され、バランスが取れています。

 しかし、このリンパ球優位の子供時代に、何らかの原因によってエネルギー同化作用が過剰になると、体調が副交感神経過剰優位となりリンパ球過剰優位が起こり、アレルギー疾患の誘発が来ます。

 具体的な例を挙げると、1)肥満、2)運動不足、3)過保護、4)排気ガスの吸入、5)有機溶剤の吸入などがあります。

 子供時代はリンパ球優位のため上記の原因が上乗せされると、アトピー性皮膚炎や気管支喘息が引き起こされます。しかし、これらのアレルギー疾患のほとんどが、高学年や成人になると自然治癒に至るのは、白血球の加齢変化によって、リンパ球優位体調が自然消滅するからです。しかし、上記1)〜5)の原因が続くと、成人型白血球パターンへの移行が遅延し、アレルギー疾患も消えずに残ります。また、肥満や運動不足などで成人になってから再びリンパ球人間になると、アレルギー性鼻炎や花粉症が引き起こされます。


ストレストと自律神経

 ストレスは普通交感神経緊張を招き、脈拍増加、血圧上昇、末梢循環不全、静脈血のうっ滞、顆粒球増加などを招きますが、ストレスの強さとストレスを受ける側の体調などによって、この反応が修飾を受けることがあります。

 ストレスが強かったり、ストレスを受ける側が副交感神経優位の人であった時に、ストレスが一過性に副交感神経刺激反射を誘導します。「驚きの反応」

 これは、ある意味ではストレスを和らげる反応と言っても良く、例えば、激しい恐怖で気絶する(低血圧ショック)、光を直接目に入れると縮瞳します。ヒトや生物に純酸素にさらすと呼吸抑制(徐脈)がくる、高い水圧を急に受けると徐脈が出たり、苦い薬で食欲が出たりゆったりした気持ちになる、悲しみに泣き出す、などと同じ現象です。

 本来いずれの刺激もストレスとして交感神経刺激をする因子ばかりですが、これらのストレス刺激が強すぎるゆえに、生体は副交感神経刺激反射を誘導し生き延びる方策を立てているのです。

セラミダーゼとアトピー性皮膚炎

出典:JJSHP 1998.1

 スフィンゴ糖脂質やスフィンゴ脂質の構成成分であるセラミドは、皮膚の水分保持や角層バリアー機能の維持、さらには表皮の増殖分化に重要な役割を果たしていることが多くの研究によって示唆されています。

 アトピー性皮膚炎は皮膚の乾燥などを特徴とし、原因の一つとして角層でのセラミドの減少やセラミドの脂質酸部分の変化などが指摘されています。しかし現在のところ細胞表面でのセラミドの代謝制御機構の詳細は明らかにされていません。

 通常セラミドは、生体にあるセラミダーゼ(アシルスフィンゴシンデアシラーゼ)と呼ばれる酵素によってスフィンゴシン塩基と脂肪酸に加水分解されます。ところがアトピー性皮膚炎患者由来の角層細胞のセラミド代謝を調査した結果、生体中のセラミダーゼ以外に皮膚に常在する緑膿菌がセラミダーゼを分泌してセラミドを分解していることが初めて解明されました。

 これは微生物起源の初めてのセラミダーゼとしてでなく、アトピー性皮膚炎を悪化させる原因としても注目されています。


アトピーの一因は遺伝子

出典:朝日新聞 1999.11.

朝日新聞 1999.11.

 喘息や皮膚炎を含むアトピー性疾患は、症状を抑える遺伝子の異常が原因の一つであることが、岐阜大医学部小児科の研究で明かにななりました。

 この遺伝子は、インターロイキン(IL)12受容体β鎖遺伝子と呼ばれ、うまく働かないとアレルギー反応の歯止めがきかなくなるとのことです。

 アトピー性皮膚炎はダニや食品などの刺激によって、体を外敵から守る働きをするリンパ球に働きかけて、抗体を生み出します。この抗体が、かゆみの元になるヒスタミンなどの化学物質を出す引金となり、アレルギー反応を起こします。

 一方、反応が過剰にならないようにリンパ球からIL12やIL18という蛋白質が生み出され、抗体の産生を抑えるインターフェロンγを活性化します。

 アトピー性患者75人の血液細胞でIL12によるインターフェロンγの産生量を調べ、著しく低い患者24人を対照に、IL12に反応してインターフェロンγを活性化するスイッチになるIL12受容体β鎖遺伝子を調べたところ、その4割の10人に遺伝情報が一部欠けていたり、入れ替わったりする異常が見つかりました。

 残りの患者は同じ系統のIL18の受容体遺伝子に異常があると見て調査を続けています。

 細胞増殖を抑制する遺伝子の異常が癌の遺伝子の原因の一つであることから、アトピー性疾患もブレーキ役の抑制系に原因があるのではと目をつけたことから分かりました。


アレルギー性疾患の成立機序

アレルギーとは、ギリシャ語の Allos +  Ergon
               (other:異なった) (action:作用、力)

 「変じた反応能力」あるいは「変作動」という意味

 アレルギー性疾患の多くはT型アレルギーに分類されます。その成立機序は、まず、アレルゲンに暴露されるとIgE抗体が産生され、末梢血の好塩基球および組織の肥満細胞のIgEレセプターに固着します。そして再びアレルゲンに暴露されると固着しているIgE抗体はアレルゲンと反応し、IgE受容体分子の間に架橋が形成されます。その結果細胞膜を構成しているリン脂質の分子運動が亢進し、細胞膜の透過性や流動性が上昇します。

 そしてカルシウムイオンが細胞膜に流入し、細胞の酵素系が作動してヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジン、血小板活性化因子(PAF)等のケミカルメディエーターが遊離されてアレルギー症状を惹起します。しかしながら現在、アレルギー性疾患で、どのケミカルメディエーターがどの程度関与しているか、ケミカルメディエーターが相互に関連しているかどうかなど、必ずしも明確にはなっていません。

  出典:OHPニュース 1996.12


FcεRI
高親和性受容体


 抗原刺激によりB細胞で産生・放出されたIgEは好塩基球および肥満細胞上の高親和性受容体(FcεRI)に結合します。その後のアレルゲンの再暴露でFcεRIと結合したIgEがアレルゲンにより架橋されると、ヒスタミン、プロテアーゼ、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの炎症性メディエーターが脱顆粒により遊離され、これらが、I型アレルギー反応を引き起こし、気道の慢性炎症、気道狭窄、起動過敏性の亢進、気管支痙攣などを起こします。

 オマリズマブは、IgEの上のFcεRI結合部位であるCε3領域を標的とすることでIgEとFcεRIの結合を阻害します。その結果、抗塩基球、肥満細胞などによる脱顆粒およびこれに引き続く各種炎症性メディエーターの遊離が抑制されます。さらに、喀痰中の好酸球比率の低下と抗塩基球上のFcεRIの発現抑制が認められました。

 オマリズマブは、アレルギーカスケードの初期反応を阻止するが、それ自体はIgEを架橋しないためアナフィラキシーを惹起しにくい抗体製剤である。

   オマリズマブ→ゾレア皮下注(適応症〜気管支喘息:既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)


食物アレルギーの基本対応

 食物によるアナフィラキシーは2タイプに区別されます。

1.immeadiate type anaphylaxy

 これは一般的にみられる食物によるアナフィラキシーです。
「そば」が代表的なものです。蕁麻疹,低血圧,ゼーゼー,呼吸困難等の症状が出ます。

2.food dependent excise induced anaphylaxy

 食事をした後すぐに運動することによって,食後2時間してから生じるアナフィラキシーです。食後の運動によって食物の吸収が促進されて生じるアナフィラキシーのことです。

小児科医の話では,幼少時にそば又はメロンにアレルギーを持つ人は大人になってもアレルギーを保持しているとのことです。

タマゴ,牛乳のアレルギーでは3〜4歳までにたいていは消失するそうです。

                   関連項目:食物アレルギーの血液検査の問題点


DEPによるIgE抗体産生増強作用

出典:臨床と薬物治療 2000.6

DEP:diesel exhaust particulate〜ディーゼル排出微粒子
SPM:suspended partisulate matter〜浮遊粒子状物質


 戦後のアレルギー疾患の増加が、トラックなどのディーゼルエンジン搭載車の増加に関連するのではないかという点に着目し、DEPとともにスギ花粉をマウスに腹腔内感作すると、IgE抗体産生が有意に増強され、IgE抗体産生に対して
アジュバントされました。(1986年)鼻腔から投与する方法に変えても、アジュバント作用が証明されています。さらに、DEPを主成分とするSPNにも同様のアジュバント作用があることも証明されています。

 気管支喘息の臨床的な特徴の1つは、起動過敏性で、これは健常人にとって刺激とならないような微量・微細な物質や変化、たとえば冷気や種々の噴煙などを刺激としてとらえ、気道狭窄を起こすことを意味しています。

 動物(マウス)実験で、DEPを繰り返し吸入させると、アセチルコリン吸入閾値が低下すなわち気道過敏性の誘導)と、さらに気道の線毛上皮細胞が粘液分泌細胞(クララ細胞)に置き換わることが示されています。

 気管支喘息は最近、「好酸球、肥満細胞の浸潤を伴う慢性の炎症性疾患」と定義されています。気道炎症のメカニズムは単一のものではなく、さまざまな炎症細胞、ケミカルメディエータが関与し、それらの複雑な相互作用で成り立っています。

 気管支喘息の発症には、遺伝的素因、抗原暴露、ウイルス等により感染、運動、気候、ストレスなどとの関連が考えられていて、大気汚染物質の気管支喘息発作での位置付けは危険因子だと考えられてきました。

 しかし、上記のように、まずアジュバントとしての特異的なIgE抗体産生増強作用、また、気道過敏性の発現に悪影響を及ぼしていること、さらにこれら大気汚染物質が気道上皮細胞に作用し、GMーCSF、IL-8、RANTESなどのサイトカイン産生を増強するという実験結果を考えると、気管支喘息の病態での大気汚染の影響はこれらの炎症反応の引金となっているのみならず、直接気道上皮細胞に作用してサイトカイン産生の増強因子として働き、炎症細胞の浸潤を誘導する可能性があることが示唆され、アレルギー性炎症反応の慢性化、遷延化にも関与している可能性があると考えられます。


アトピーはなぜ治らなかったのか

アトピーを100%アレルギーと考えたことから医療の混乱が起こった。

 1933年アメリカでアトピー性皮膚炎は、IgE抗体によって引き起こされるアレルギー反応が原因であると位置付けられました。それ以来、アトピーをI型アレルギーと同義語とする理解が進み、アトピー体質はIgE抗体を作りやすい体質のことを指すようになりました。

 日本では、IgE RAST検査が健康保険の適応となった81年から、かなりの医師がこの検査結果を主たる根拠にアトピー性皮膚炎の診断や治療を行ってきました。その結果、80年代は、特に小児科医の間で“食物アレルギー説”がもてはやされ、食事から、大豆・卵白・牛乳といった食品を完全に取り除く厳格な食事療法が行われるようになりました。

 さらにその後、“ダニ・ハウスダスト原因説”が注目されるようになり、住環境からのダニやハウスダスト除去を治療の中心に据える医師さえ出てきました。

 しかし、厳格な食事制限をしても症状が改善しないばかりか、栄養失調に陥るケースが続出したり、またダニ退治の為に大金をはたいて全部屋をフローリングにしたところで改善されない場合がほとんどです。

 アトピー性皮膚炎の人は、2つの遺伝的要因があり、それらを分けて考えなければいけません。

 1つは、体内に侵入した異物や外部からの機械的刺激に対して過剰に反応し、炎症を引き起こすアレルギー反応の過敏さ、もう1つは、外部からの様々な刺激を跳ね返す皮膚のバリア機能の低下です。

※アトピー性皮膚炎といえばアレルギー的側面ばかりが強調されていましたが、アレルギーだけでは説明がつきません。

 皮膚は異物の侵入を防ぐために、角質細胞が何層にも重なっていて、細胞と細胞の間には。セラミドと呼ばれる脂せいぶんがあります。セラミドは細胞同士を繋ぎとめ、また水分を含んで蒸発を防ぐ役をしています。

 アトピーの人はこのセラミドが少ないということが分かっています。そのため水分が保たれずに乾燥して細胞の端がめくれあがり、隙間が出来てしまいます。その隙間から異物や刺激が入って炎症が起き皮膚症状が悪化します。

 その刺激の原因としてダニや、食物などのアレルゲンも含まれますが、実際には「掻く」ことによる刺激、「汗」のもたらす刺激、「衣服」が擦れる刺激などの刺激の方がはるかに重要です。

*現在では「アトピー性皮膚炎はセラミドの減少により皮膚の乾燥とバリア機能異常が起こり、その基盤の上にアレルゲンや外部からの様々な刺激によって生じる」というコンセンサスが得られています。

 日本皮膚科学会のガイドラインでもスキンケアの重要性が強調されていますが、現実には個々の医師によってその方法はまちまちなようです。

 スキンケアには、「清潔」と「保湿」の2つがあります。

 ステロイド外用剤や、プロトピック軟膏で炎症を抑え、良くなったら、保湿剤で皮膚の水分量やバリア機能を保ちます。こうした治療が標準となったら日本でのアトピーに対する混乱も収束するはずです。


この文章は、伊勢原協同病院小児科部長 木村和弘先生が治療 2006.3にかかれた文章を参考にしています。


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