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[シリーズMRSAを考える]

1995年4月15日〜1995年9月1日に連載したものです。  
 
MRSA1 スライム
MRSA2 大いなる謎
MRSA3 ホイミスライム
MRSA4 呪文
MRSA5 プラスミド
MRSA6 バンコマイシン耐性菌
MRSA7 ゴキブリは人類にとって脅威か?
MRSA8 日和見感染症
MRSA9 ようこそマッキントシュへ
MRSA10 最終回

<その他 MRSA関連記事> 

MRSAについて(1990年12月15日号)この頃からやっとMRSAについて医療関係者がその存在を認識し始めました。

 *MRSA感染を治療する際に検討すべき綱目   ※市中感染症MRSA CA-MRSA:comminity-acquired MRSA

 *抗生物質耐性のメカニズム

 *緑茶エキスと抗生物質(MRSAに相乗効果)

 *耐性菌(MRSA以外;ESBL,MDRMT,MDRP,VREF)

 *MRSAの消毒法 / MRSAに有効な抗生物質


  


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【MRSAを考える】 その1

「スライム」

この記事は1995年4月15日号に掲載したものです。

  スライムを知らない人は、子供さんに聞いて下さい。多分男の子なら99%知っている筈です。

 これは例のドラゴンクエスト(ドラクエ)に最初に登場するモンスタ−です。モンスタ−と言ってもあまりにも弱くて素手で攻撃するだけで簡単にやっつけられてしまうので、出てくると思わず「カワイイ」とニッコリしてしまいます。

 ですがこのスライムが後半になるとメタルスライムとなって出てきます。メタルスライムはスライムの突然変異種で、守備力が異常に高いのでドラクエの世界では最強とされているロトの剣で攻撃してもへっちゃらなのです。筆者の操作する勇者ヒデマルはレベル25で龍王をやっつけて世界に平和をもたらしましたが、ついにメタルスライムは一度も倒すことが出来ませんでした。

 賢明な読者の方々はすでにお気付きの通り、またしても筆者は強引にMRSAをメタルスライムに結びつけようとしているのです。

 ようやくドラクエTを攻略した筆者は、ようやく6歳になった子供になじられながら、こそこそとドラクエUに取り掛かりました。するとそこでも数多くのモンスタ−に混じってスライムが登場していたのです。そして驚いたことにそこではスライムは様々に進化していたのです。

 ホイミスライム:ダメ−ジを回復する呪文で自分だけでなく、他のモンスタ−の傷をも直してしまう力を持っている。

 バブルスライム:体内に毒を蓄えていて、攻撃とともに毒を注入してくる。

 はぐれスライム:メタルスライムが更に強くなった最強のスライム。各種の呪文を知っている。

 そうなのですMRSAも(とういうよりブドウ球菌は)、毒性の強いもの、抵抗力のなみはずれて強いものなどへと進歩しているのです。

  図略 ここにスライムの図

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  【MRSAを考える】 その2     「大いなる謎」

この記事は、1995年5月1日号に掲載しました。カットはメタルスライム

 今更、書くこともないとは思いますが、MRSAは、ブドウ球菌がペニシリン系薬剤に抵抗力を持つようになったものです。MRSAのMとはメチシリンのことで、これはペニシリンに耐性となったブドウ球菌用に開発された薬品でする。MRSAはそのメチシリンにさえ耐性をもってしまったブドウ球菌 という意味です。

 ペニシリンは細菌同志の縄張り争いにおいて青カビが、他のカビを全滅させてしまうために使用した毒ガスのような兵器です。ここで疑問となるのは、同じ場所にいながら、どうして、他のカビは死んで青カビは死ななかったかということです。

 これは選択毒性といわれるもので、自分とは異なった部分を攻撃することにより、自らは傷つかずに他種の菌をやっつけることができるのです。ペニシリンの場合、細菌の細胞壁を攻撃します。これは、ペニシリンやセフェムに共通なβラクタム環の働きによるものです。ですから、マイコプラズマなど、細胞壁をもたたない菌には、ペニシリンやセフェム は効果はありません。

 ブドウ球菌はPBP(ペニシリン結合タンパク)という細胞壁合成酵素によって細胞壁を作ります。βラクタム剤はその酵素に作用することによりブドウ球菌を殺します。ところがMRSAでは、このPBPとは別にPBP−2を生産し普通のブドウ球菌とは異なった細胞壁を合成します。そのためにペニシリンやセフェムなどのβラクタム剤では死ななくなります。

 これでMRSAがβラクタム剤に抵抗力を持っている理屈は理解できました。しかし何故、MRSAはテトラサイクリン、エリスロマイシン、トブラマイシン、そして最近発売されたニュ−キノロン系抗菌剤にまで抵抗性を持っているのでしょうか?

 これらの薬剤は、細菌のタンパク質やDNA等に作用する薬で、PBPがあろうとなかろうと全く関係なく作用を発揮する筈なのです!

 スライムはメタルスライムへと進化し、ロトの剣だけでなく、あらゆる呪文をも受け付けなくなってしまった。そして更にホイミスライムへと進化していく。はたしてホイミスライムとは、、、、


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 【MRSAを考える3】

     「mecA」

この記事は1995年5月15日号に掲載しました。カットはホイミスライム

 まず始めに断っておきますが、前号で提起しました「なぜMRSAはβラクタム剤以外の抗菌剤に対しても耐性を持っているのか?」という大きな謎に対して明確に答えられる人はまだいません。ただ、ヒントとしてmecA遺伝子があります。

 MRSAと普通のブドウ球菌は、99、99%同じ菌です。違いは、mecA遺伝子を持っているかいないかだけです。言い換えると普通のブドウ球菌の特定の位置にmecAが挿入されたものがMRSAなのです。この遺伝子によってβラクタム剤耐性の本質であるPBP-2が産生されています。

 細胞壁を合成する細菌はすべて固有のPBPのセットを持っており、それらの協調した精密な働きは細菌の順調な増殖を確保するために必須です。各菌種のもつPBPの種類は菌種ごとに一定に保たれています。そのためブドウ球菌属のある菌のPBPの数、分子量を測定すれば、逆にその菌種名を言いあてることさえ可能なくらいです。ですからブドウ球

 菌は本来、PBP-2'を絶対に作らないはずです。

 これを分かりやすく言いますとこのmecA遺伝子はブドウ球菌属以外の未知の菌種から外来性に黄色ブドウ球菌の染色体上に組み込まれたものなのです。すなわちMRSAがすべての抗菌剤に耐性を持つということは、「属の壁」を越えてmecA遺伝子が伝達されたということに他ならないのです。

 ドラクエUではモンスタ−たちは複数で登場します。アットランダムの組合せになっているらしく、どんなモンスタ−がどんな組合せで出てくるのかは分かりません。攻撃力の強いモンスタ−がホイミスライムを3〜4匹を引き連れて出てきた時は大変です。ホイミスライム自身の攻撃力は大したことはないのですが、ホイミの呪文、すなわち回復の呪文を唱えて自分だけでなく、他のモンスタ−の生命値までをも回復してしまうのです。

 現在の化学療法の直面している問題がここにあることを賢明な読者はお気づきのこととおもいます。

「化学療法の対象となっているのは、もはや個々の菌種ではなく細菌界総体なのです。」



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 【MRSAを考える4】 

     「呪文」    

  1995年6月1日号  カットは破壊の剣

 最近パソコンの勉強をするようになって、少し分かるようになってきました。現在、多くのパソコンはMS−DOSという言語で動いています(注)。例えばCOPYというコマンドを打ち込みますと、ファイルがコピ−されますし、TYPEでファイルが画面表示されます。(マッキントッシュでは違うらしい。)

 このように、コマンドを覚えれば覚える程、パソコンを自由に操れるようになるのです。そう言えば例のドラクエでも、レベルが上がる程、いろんな呪文を覚えて、モンスタ−との戦いを有利にしていくのです。AUTOEXEC.BATとかCONFIG.SYSとか訳の分からない文字はまさに魔法使いの呪文そのものです。

 ドラクエも一応コンピュ−タ−なのですから、登場人物が呪文を使えても、なんの不思議もありません。ところが、どうやら細菌たちも呪文を使っているらしいのです。生物の細胞の内に入っている遺伝子は、コンピュ−タ−のプログラムと同じものだということが分かってきたからです。

 パソコンでは、誤ってDELとかFORMATとかの命令を打ち込んでしまったら大変で、パソコンの内に入っている情報やプログラムが消えてしまいます。MRSAの場合、誰かがそれをやったのです。

 1980年頃、誰かが呪文を使ってmec遺伝子をコピ−しました。mec遺伝子には、AとIがあって前回にも述べましたようにmecAがPBP-2'を作りだします。mecIはこのmecAを調節する働きを持っていて、このmecIがいるかぎり、PBP-2'は作り出されません。しかしこのmecIに作用してPBP-2'の産生を抑制するコマンドを消去(DELの呪文)してしまったものがいます。mecIがなくなってしまうと、PBP-2'はとめどもなく作り続けられていくのです。

 DELの呪文を使ったのは、シオマリンを代表とする第3世代のセフェム系抗生物質だったことが証明されています。これらの薬剤が登場したころ、筆者は注射室の担当で、1日数百本もの第三世代抗生物質を払い出していました。これらの薬剤の効果は抜群で、万能の化学療法剤だという認識を誰しもが持っていたように思います。

 ドラクエの中に破壊の剣というアイテムが登場します。非常に強力な剣で大抵のモンスタ−を一撃でやっつけてしまえるのですが、その剣を使用したものは必ず災いを受けてしまいます。第3世代抗生物質がけっして万能の薬でなく呪われたアイテムであることに気付いたのは筆者も最近のことです。



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 【MRSAを考える5】   

1995年6月15日号

「プラスミド」 

(^^;)パソコン通信ではこんなマ-クによくでくわすそうです。しかし筆者は、まだパソコンを持っていないので(追記:当時の話、現在は3台も持っている。)実際には見たことはありません。(笑)←これは、しらける。 

 コンピュ−タの波がひたひたと、我が薬剤部にも押し寄せてきつつあります。大阪府内の市民病院の薬剤部の間でパソコン通信を行ってはどうか、との話があって、遅蒔きながら勉強を始めました。(@〜@)

 パソコン通信では、自分の欲しい情報(ゲ−ム、ソフト、デ−タベ−ス等)がほとんど無料で手に入れることができるのです。今度の震災でも、パソコン通信が大活躍したという話も伝わっています。

 こんな便利なものを利用しない手はないぜ!と思うのは人間だけではないのです。細菌たちも、ずっと前から、パソコン通信にも劣らない情報ネットワ−クを利用しています。(^-^;)

 たとえば表題に掲げた「プラスミド」ですが、これは細菌細胞質に存在して、自立的に増殖している遺伝的に安定な遺伝因子群のことをいいます。

 プラスミドには、菌の雌雄を決定する因子、薬剤耐性を規定するR因子などがあり、形質転換、形質導入や接合によって情報を入手することができるのです。(^_^)

 自然界には現在までに知られている菌種の総数の数百〜千倍もの未知の細菌が存在すると考えられており、それらの細菌たちの持つ遺伝子型質の総体は天文学的なものとなります。その中には人類が開発してきた化学療法剤すべてを修飾、破壊して不活化したり、細胞の外へ排出したりする役割を持った遺伝子がプ−ルされています。(^〜^)

 このような遺伝子が細菌菌種を伝達するプラスミド上に乗って多くの菌種に分布し、更にその一部はトランスポゾン(動く遺伝子)として、各菌の染色体上にも蓄積し、多剤耐性菌を出現させます。(~〜~;

 MRSAの染色体上にもこのようなトランスポゾンの集積がみられ、テトラサイクリン、エリスロマイシン、トブラマイシン、ニュ−キノロン系などに多剤耐性となっているのです。(;_;)

 で、肝腎の市民病院薬剤部パソコンネットワ−クは、市条令のしばりで暗礁に乗り上げたまま、一向に進展しそうにありません。(??)

※ プラスミド
  plasmid

 細胞質中で宿主の染色体とは別に独自に複製する環状の遺伝子

 抗菌薬に対する耐性を伝達するため問題視されていましたが、最近ではベクター(運び屋)として遺伝子組換による大量生産技術に用いられています。

 


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  【MRSAを考える6】  「バンコマイシン耐性菌」

 

 1995年7月1日号  カットははやぶさの剣

 ドラクエでは、勇者は様々な剣を選ぶことができます。たとえばドラクエ2では、鋼の剣(攻撃力+30)、光の剣(同 +65)、稲妻の剣(同 +80)などといったものがあるのですが、筆者は「はやぶさの剣」を愛用していました。このはやぶさの剣というのは、攻撃力は+5でしかありません。しかし、この剣は2回攻撃できるのです。

 攻撃力というのは、レベルごとに上昇していくので、はやぶさの剣が買えるくらいの時期には、少なくとも100くらいにはなっています。ですから、

稲妻の剣の場合

100 +80 =180

[現在の力 + 剣のパワ-]

はやぶさの剣では

(100+5)×2=210

(現在の力+剣のパワ-)×2回攻撃

  となってこっちの方が有利なのです。しかもレベルアップとともに、ますます攻撃力もアップしていきます。

 現在、我々が持っているMRSAを攻撃する剣はバンコマイシンとハベカシンしかありません。しかしこの2つの剣もそろそろ刃こぼれしてきたようです。というのもバンコマイシンに高度耐性を与える遺伝子vanAが腸球菌内のプラスミドに見つかったからです。

 このプラスミドはグラム陽性菌菌種に広く伝達可能であり、実際黄色ブドウ球菌にも高い頻度で伝達し、このプラスミドを獲得した黄色ブドウ球菌はMIC1,000という驚異的な耐性を持つことになります。

(注)MIC下記参照

 臨床の場で、バンコマイシンやハベカシンを吸入液や軟膏に混ぜて、治療効果があったという報告がなされていますが、これらの効果は一時的なものにすぎず長期に使用することは、MRSAにこれらの薬剤の耐性化を促している行為となります。(現在注射剤や内服剤を外用として使用することは認められていません。)

 今、欧米ではすでにバンコマイシン耐性腸球菌が問題となっているのです。これは動物飼育にバンコマイシンが使用されているためだとされています。

 まだ日本では、動物用にはバンコマイシンは使用されていないようですが、バンコマイシン耐性菌が出現するのはもう時間の問題です。

 MRSA感染症の治療ではホスホマイシンを最初に接触させておいてから他の抗生物質を使用するのが良いとされています。時間差攻撃療法ともいわれています。ホスホマイシンには、細胞膜透過性をよくする作用があるからです。

 はやぶさの剣も第一撃で相手のバリヤ−を砕き、次に相手にダメ−ジをあたえるのです。


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  【MRSAを考える7】

 

1995月15日号  カットはバブルスライム

「ゴキブリは人類にとって脅威か?」

 ゴキブリを見ると大抵のひとは、スリッパなり新聞紙を丸めて、叩き殺そうとします。なぜでしょうか? ゴキブリがどんな悪いことをしたと言うのでしょうか。ゴキブリは体に付いたバイ菌を撒き散らしているからだと言う人がいますが、その細菌とはどれだけ悪性の細菌なのでしょう。

 もしゴキブリがバイ菌を撒き散らしているとしてもその菌以上の雑菌をそのゴキブリを叩き殺した人 自身が持っていることを知っておくべきでしょう。

 一時期、患者さんからMRSAが検出されただけで、病院中がパニックになっていましたが、今やMRSAは、常在菌になりつつあります。以前は、膿や血液から分離されることが多かったのですが、最近は痰や咽頭ぬぐい液など上気道由来のものが多くなり、多くの人の上気道に定住していると考えられています。

  最近のMRSAはβラクタマーゼを産生しなくなってきているそうです。これは、多くの抗菌剤と接触しているうちに、生き残るために、自分自身のもつ種々の性質を変化させつつ今日に至ったためで、その結果毒性も低下していると思われています。

 MRSAが検出された場合、どこで検出されたかが、問題とされます。気道や腸管などでは、常に雑菌が常駐しており、それらの場所でMRSAが検出されたからといって、ただちに感染症であるとはいえません。その判定は結構難しいものがあります。

 MRSAは鎮静化しつつあるとの見方はあるもののまだまだ注意を要する感染症です。また、MRSA感染症に対し、タ−ゲットをMRSAのみに合わせるのは危険です。常に複数菌感染症である概念を持って治療に当たる必要があります。

 ゴキブリを見てもパニックになる必要はありません。MRSAでも同じです。 ゴキブリは、残飯など生ゴミを食べて繁殖します。

 ゴキブリが嫌いなら、いつもキッチンを清潔にしておけば良いのです。そしてMRSAによる院内感染も手洗いをなどの習慣を守り、病室を清潔にしているだけで防げるのです。

 人類はこれからもず〜とMRSAやゴキブリと密着して生きて行くしかないことを認識すべきです。

MRSAの中にも心臓毒を産生する強毒菌があるという報告もあります。

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MRSA感染を治療する際に検討すべき綱目>

@熱があるか、A白血球数が8000以上か、BCRPは 0.5以上か、C赤沈値は10以上か、などのデ−タのほかに、D痛み、E咳・痰、F下痢など、いわゆる感染症状のサインを多く満たすことが必要です。ただしMRSAの毒素や酵素産生性が低くなったため、それぞれの感染症のサインはあまり強くないこともあります。

<2000年追加記事>

耐性菌の治療手順
Empiric therapy

empiric:経験、検討。経験変調主義者、藪医者の意味もあり。

 感染症と見極めがついたら、下記のような治療の流れを念頭に置きながらempiric therapyを始めます。

◎本当に感染症なのか?

1.熱:37〜38℃、38〜40℃、40℃以上:熱型を見分ける。
2.CRP:0.5〜5,5〜10,10以上:参考にする
3.WBC(白血球):8,000〜10,000、10,000以上:参考にする
4.X−P、CTなど:感染巣と思われるものがある。
5.膿、浸出液:ドレーン、CVカテ、創、穿刺液
6.症状:発赤、腫脹、痛み、咳・痰、膿尿・頻尿、下痢など

*4.5.6があれば感染症、なければ腫瘍熱、薬剤熱、中枢熱、代謝熱を考える。

◎起因菌を想定し、薬剤の見当をつけて選択しますが、その間違いもあることに注意が必要です。

 例えば、βラクタム剤が効かないのは耐性菌だけではありません。

1.結核菌、マイコプラズマ、レジオネラ、リケッチア、クラミジア、ウイルス、真菌など
2.耐性菌

*起炎菌、感受性、複数菌、経口・注射の確認

◎耐性菌の予測される場合

1.院内感染
2.繰り返し感染・持続感染
3.いつも同じ菌が検出される。
4.抗菌剤の長期使用
5.治療3日後、7日後の判定*

*7日後の判定〜このままの治療で良いのか
 だらだら治療になっていないか
 注射から経口へ
 いつ治療を終了するか

◎抗菌剤の濫用によって耐性菌が選択される。

耐性菌の蔓延は、抗菌薬の濫用が原因となっています。

 耐性菌が最初に生まれたときは、その数は僅かでしかありません。しかい、そこに耐性菌に効果のない抗菌薬が使用されると、感受性菌はその抗菌剤によって消滅し、耐性菌だけが生き残り増加します。この過程が繰り返され、更に高度の耐性菌が選択されていきます。

出典:ファイザー資料  関連項目 抗生物質耐性のメカニズム


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 【MRSAを考える8】    「日和見感染と傷寒論」          

  前号で、MRSAはそれほど、恐ろしくないという印象を与えたかも知れませんが、体力の衰えた人にとっては今だにMRSAは、脅威そのものです。いわゆる日和見感染です。

 ドラクエでも、いつも自分のHP(生命値)に気をつけていないと、大変なことになります。かなりレベルアップした勇者でも、ちょっとしたモンスタ−にあっけなくやられてしまうことがあるからです。

 「すべての疾患は感染症である」という説があります。糖尿病(IDDM)もウイルスが膵臓の細胞を破壊したことによって起こり得ることは証明されています。リウマチや膠原病もウイルス原因説を唱える学者がいます。薬害で騒がれたスモン病もウイルス説が消えません。

 胃潰瘍が感染症であることを否定する根拠としてヘリコバクタ・ピロリは成人男性の70%で検出されているにもかかわらず、発病する人は、数%にすぎないことを挙げる人がいます。しかしこれも日和見感染ということを理解していれば容易に反論できます。

 風邪から、水虫、肝炎、虫歯まで多くの病気は日和見感染であると言えるのではないでしょうか?

 ところで「傷寒卒病論」をご存じでしょうか。これは中国最古の医学書で少なくとも2千年以上の昔から伝えられてきたものです。その内容は現存する「傷寒論」と「金匱要略」(金の箱にいれて納めておくほど大切な本という意味)に引き継がれています。今だに漢方を志す人はこの二書から入ります。

 まず傷寒と言う意味から考えてみましょう。傷はそのまま傷(けが:外傷)と考えてさしつかえありません。次の”寒”も文字通り寒いということで、寒気、つまり風邪の初期のようなものです。これは怪我をしてそのままほおっておくとやがて、その怪我人は寒気を訴え、しだいに衰弱してしまうことをあらわしています。つまり傷口から化膿して感染症を起こしていることに他なりません。

 これも日和見感染症と言えないことはありません。現在では、漢方薬は慢性疾患にこそ効くのであって感染症は最も不得意な分野であると思われていますが、漢方は実は感染症からスタ−トした医学だったのです。

 ドラクエでは、体力を回復するには、宿屋に泊まる、回復の呪文(ホイミ)を使う、そして薬草を飲むという方法があります。この薬草というのは多分漢方薬なのでしょう。


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  【MRSAを考える9】 「ようこそマッキントッシュへ」          

    カット:人間の味方になった最近のスライム

 薬剤部に、パワ−マックがやってきました。マッキントッシュは、初心者でも簡単に使えるとのこと ですが、なかなかどうして思うように動いてくれません。説明書片手に悪戦苦闘の毎日となってしまいました。まてよ、前にもこれと同じような経験をしたことがあったような、、、

 そうでした、今までス−パ−マリオとか、ドラゴンクエストで攻略本を片手に悪戦苦闘していたあの日々がよみがえったのです。やっぱり筆者は、コンピュ−タには向いていないのでしょうか。それでも曲がりなりにも、なんとか少しずつでも使えるようになったのは、テレビゲ−ムをやっていたせいです。

 何事にも経験が大切なのです。(ドラクエでは、モンスタ−をやっつけるとお金といっしょに経験値が貰えます。そしてこの経験値によってレベルアップするのです。)

 ドラクエの世界でも、主人公である勇者は少しずつ成長していきます。そしてまた最も下等のモンスタ−であるスライムも進歩成長していたのでした。

 MRSAも、シオマリン、ヤマテタン、スルペラゾン、ハロスポア、チエナムといった抗生物質に出会う度に一つずつ経験を積み進化していったのです。

 高度耐性化したMRSAのもう一段の進化とは、外来性に(他の菌種から)獲得したPBP-2'を最大限に活用さすために、自分の細胞壁合成系を変化させていったことです。つまり自己改革と考えられています。

 現在のMRSAには、すべてmecI遺伝子の欠失があり、βラクタム剤に耐性であることは当然として、MICが当初16〜46だったものが、100〜4、000にまでなっています。

 スライムが進歩したメタルスライムを倒して得られる経験値は莫大なもので、すぐに1ランクアップできます。MRSAを克服した時得られる医学、薬学、生物学の経験も計り知れない程貴重なものとなるでしょう。(最近のスライムは、主人公の仲間として登場し、人間になることを目指して励んでいるそうです。)


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  【MRSAを考える】   「最終回」               

 1995年9月1日号                         

 もうそろそろこのシリ−ズを終わりたいと思います。脱線ばかりしていましたので、論点がはっきりしなかったと反省しています。最後は、順天堂大学医学部細菌学教室教授 平松啓一氏の文章を引用させていただいて総まとめとさせていただきます。

 『過去半世紀の化学療法の時代とは、地球全体からみれば、かつてミクロの世界で微生物が他菌種との栄養の争奪戦を行う際、産生していた抗生物質を人間がトン単位で工業生産し、地球環境に散布した時代ととらえることができる。

 これは地球の歴史が始まって以来の新しい出来事で細菌の世界に大きなプレッシャ−を与え、その結果として、細菌にある特殊な方向への進化を促進していると思われる。その方向とは、合目的には耐性化の方向であり、この人工的なプレッシャ−の元で生き残り、主流を占めてきた菌は、各菌種の中でも特に耐性化しやすい菌であると考えられる。

 耐性化のメカニズムから考えるとこのように選択された菌は細菌間の情報伝達能力に長けた菌である可能性がある。MRSAは、本来黄色ブドウ球菌の持たない別種のPBPを、その増殖に用いるようになった菌で、MRSAという新しい「菌種」が化学療法のプレッシャ−の中で誕生したと考えることができる。

 われわれが臨床において最も多く遭遇する疾患は現在においても感染症である。1941年のペニシリンGの実用化によってもたらされた抗菌化学療法の成功は、人類がもはや感染症によって命を落とすことはないという未来像をほとんどの臨床医に抱かせた。しかしその後、半世紀の間にその未来像は永久に到達し得ないはかない夢物語にすぎなかったことが徐々にではあるが、理解されはじめている。

 なぜそうなったか?薬剤耐性菌の出現によって化学療法が奏功しないケ−スが増えてきたというのがその現実的な答えであるが、そういった現象の奥に潜む生物界の法則を理解することこそが、現在の無力化した化学療法を立て直して、新しい化学療法の時代を発展させる力を内包している。

 また、一方で、現在までに開発された薬剤の有効性を守るためには広範な薬剤の使用は厳しく制限されなければならない。

 化学療法剤は、20世紀の人類が手にした最も貴重な財産である。このような財産を流水や土壌に大量に打ち捨てるようなことがあってはならないのである。』

{参考文献}月刊薬事 Vol.36 11 1994 治療12 1994、ドラクエ公式ガイド


MRSA

1990年12月15日号 No.78

当院でもMRSAの感染患者が発見され大きな問題となってきています。

MRSAは、メチシリン(スタフシリン)に耐性を示す黄色ブドウ球菌のことで、今ではセフェム系をはじめ、すべてのβラクタム系抗生物質に耐性を示すようになってきています。そしてその耐性機構は、βラクタム剤の作用点である細菌の細胞壁のPBP(ペニシリン結合蛋白)にあるとされています。

<MRSA感染の特徴>

1)呼吸器感染症:咽頭や喀痰からの検出率が最も高く、肺炎、肺化膿症、膿胸んどになりやすい。

2)敗血症:感染性心内膜炎を起こしやすい。

3)消化管感染症:消化管切除手術例で白色便を伴った激しい下痢を起こす。

4)創傷、褥瘡感染:難治性である。〜イソジンシュガーゲル(ユーパスタ)が有効


<なぜ問題となるのか?>

*治療薬が無い。バンコマイシインのみ (のちに、ハベカシン、タゴシッド)

*医療従事者が感染源である可能性が大きい。

健常人は、MRSA感染患者に接しても発症する危険性はほとんどありませんが、保菌者になって患者多発の介助者になる可能性があります。

<感染防止対策>

・手指消毒、手洗いの励行〜ヒビスクラブ、流水等

・イソジンガーグル等でのうがい〜保菌者は1日2〜3回

・確実な滅菌と消毒の実施(消毒剤に対してもMRSAが耐性を持つという根拠はありません。MRSA消毒剤から見ればただのブドウ球菌です。)

・室内、環境の消毒の実施〜消毒用アルコール、ハイパールNO,3などが有効

ドアのノブ、電話、流し台、手拭きタオル、加湿器、ワゴン、床、ネブライザー、呼吸器

検体の置き場、トイレなど

・消毒剤は1種類だけを使用せずに定期的に別のものに交換するのが望ましい。


市中感染症MRSA
CA-MRSA:comminity-acquired MRSA

 最近、欧米を中心に病院内で出現するMRSA(院内型MRSA)とは違った新型のMRSAが出現しており、注目されています。

 この新型のMRSAは、市中感染型MRSA(comminity-acquired MRSA:CA-MRSA)と呼ばれています。

 従来の院内型に比べて耐性が弱い一方で増殖が早く、ほとんどが皮膚の接触などによって家庭や職場内で感染が拡大すると考えられています。そして多くの場合、健康な小児や青年期の学生などが感染し、皮膚や軟部組織疾患を起こす程度といわれていました。

 しかし、近年になり深刻な壊死性肺炎や骨髄炎を惹起することも報告されるようになって来ています。

 これは市中感染症MRSA野中で白血球破壊毒素(panton valentine:PVL)を産生するタイプによるものが原因といわれています。

 このタイプのMRSAにより、“せつ”のような皮膚や軟部組織疾患から菌血症を起こし、さらに髄膜炎に発展することがあります。

 現在、グローバル感染症の原因菌として欧米を中心に世界的に蔓延しつつあり、医療現場では不安が広がっています。

     出典:日本病院薬剤師会雑誌 2008.1


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