やさしい薬理学

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【無駄口薬理学】【HLA】 【レセプター】【毒舌薬理学】

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やさしい薬理学

【やさしい薬理学交感神経編はこちら】

 

#目次

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善玉コレステロールと悪玉コレステロール

胃潰瘍とプロスタグランジン

膜安定化作用〜不整脈

不応期の延長〜不整脈

疑「冠?拡張剤」〜狭心症

BBB(脳−血液関門)

風が吹けば桶屋がもうかる: アラキドン酸カスケード

カルシウム拮抗剤って何?〜血圧、狭心症、不整脈

丸山ワクチンは今〜BRM

10

βラクタム環〜抗生物質

11

たんぱく合成阻害〜抗生物質の作用機序

12

アミノグリコシド系抗生物質の副作用

13

"a,d,m,e" 私の作文技法〜くすりの体内で動き

14

ステロイドの副作用

15

利尿剤〜Naは水なり〜

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善玉コレステロールと悪玉コレステロール

1992年2月1日号(No.101)に掲載

「鉄5gと綿5gとどちらが重い?」
うっかり鉄の方が重いと答えてしまいそうになりますが、どちらも5gなら重さは同じですね。鉄の方が重いと言ってしまいそうになるのは、比重が大きいからです。鉄5gといのは丁度、パチンコの玉と大きさです。これが綿5gとなるとその10倍以上の大きさに成ります。

私たちが食事から取った脂肪分は、血液の中ではリポ蛋白として移動しています。このリポ蛋白には、様々な比重(density)のものがあります。つまり重さは同程度でも大きさの異なるリポ蛋白が血管の中を流れているのです。

比重の小さいものをLDL〜低比重リポ蛋白:Low density lipoprotein
比重の大きいものをHDL〜高比重リポ蛋白:How density lipoprotein
と呼んでいます。

これら大きさの異なるリポ蛋白が血管の中を流れる場合、どちらが流れやすいでしょうか? もちろん小さなリポ蛋白の方です。大きな方は、狭い血管が通りにくいに決まっています。そればかりでなく、血管自体が凸凹(でこぼこ)してきます。これが動脈硬化です。

血管の内側が凸凹してくると血液は凝集反応(血が固まること)を開始します。血管収縮、フィブリンの形成、さらには血小板が付着して血栓が出来る可能性があります。血栓は、血液の流れを止め、心筋梗塞や脳梗塞を起こします。

血清脂肪のうち、低比重リポ蛋白(LDL)が悪玉コレステロールと呼ばれているのは、実は。重さの割に体積が大きいからなのです。これに反し体積の小さい高比重リポ蛋白(HDL)は善玉コレステロールと呼ばれています。1998年追記

最近の研究では、LDLそのものが悪いわけではなく、LDLが酸化したもの(酸化LDL)が要因であることが分かって来ました。すなわち、LDLを酸化するのは活性酸素だといわれています。今赤ワインに含まれるポリフェノールがこの活性酸素を抑えるということで大人気になっています。

関連項目:プラーク(高脂血症での形成機序) レセプター8:「LDLレセプター」、インテグリン阻害剤

 

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胃潰瘍

1992年2月15日号(No.102)

「胃袋は食べたものを何でも溶かしてしまうのに、どうして自分の胃袋は溶かさないのだろう?」こんな疑問を持たれた事はないでしょうか。
「人間の胃袋は消化されないように出来ているから」ですって!!?
例えば人食い人種が人間の胃袋を食べたとしたら、食べられた胃袋は消化されてしまいますよ!!

答えは簡単! 生きている人間は、自分で自分の胃袋を消化してしまわないように、胃の中でバリヤー(防御膜)をはっているからです。このバリヤーは、胃粘膜であり、そしてプロスタグランジンであることが分かったのは最近のことです。(執筆当時)

胃潰瘍(消化性潰瘍)は、「自分で自分の胃を溶かしてしまう病気」と言うことが出来ます。胃潰瘍の患者さんはストレスなどによって、胃酸が出過ぎるか、胃の中のバリアー機構が弱ってきていると考えられます。それで自分で自分の胃を消化してしまうのです。(1998年注:この当時はHP:ヘリコバクタピロリノ知識は持ち合わせていなかったのです。今では、胃潰瘍はHPによる日和見感染ではないかと筆者は思っています。)

所で話は変わりますが、アスピリンを代表とする消炎鎮痛剤(NSAIDs)の作用点は炎症性物質であるプロスタグランジンの生合成の抑制です。
ですから、これらの消炎鎮痛剤を服用すると、胃でのプロスタグランジンの働きも抑えられて、胃潰瘍になる可能性があります。(内服のみならず、坐薬や注射剤でも同じですよ。)

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膜安定化作用

1989年4月15日号(No.41)に掲載したものです。
(やさしい薬理学シリーズの記念すべき第1作です。)


不整脈の治療剤の添付文書などを読むと、その薬理作用として「膜安定化作用による」などと書かれていますが、これはいったいどういうことかご存知ですか?

教科書的にいえば、「心臓の刺激伝導系細胞の活動電位0相を好転させることで、別の表現にすれば「膜反応の低下、すなわち細胞間のインパルスの伝導速度の低下」ということなのですが、これで理解できる人は何人いるのでしょうか?

ところで、この作用を持つ役にはどんなものがあるか考えてみましょう。なんとなく分かってきますよ。プロカイン、リドカイン(キシロカイン)など○○○カインの薬がそれで、局所麻酔剤として使われていますね。ですから膜安定化作用とは局所麻酔作用と関係があると考えられます。

不整脈は、正規の場所以外で発生した刺激に心臓が敏感に反応してしまうことによって起こると考えられます。ですからそこを麻酔してしまうと余計な刺激がきても反応しなくなるのです。

リスモダンなどの抗不整脈剤でもこのような麻酔作用がありますから、水なしで飲むと、食道壁にくっついて溶けると、そこが局所麻酔されて不快感をあたえることになりますので注意が必要です。

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不応期の延長


1989年5月1日号 (No.42)に掲載したものです。

前回に続き、不整脈のお話です。膜安定化作用のほかにも、抗不整脈薬の重要な薬理作用として不応期の延長が挙げられます。不応期とは、心臓の刺激伝導系に関与する用語で、活動電位がこの期間にある時は他から刺激を与えても心臓は反応を示しません。

たとえて言うなら、押しボタン式の信号機を思って見てください。
誰かが、信号機のボタンを押すと、信号機は「しばらくお持ちください」と表示し、しばらくしてから、やっと青になります。その間は、別の人がきてボタンを押しても信号機は全く反応しません。

つまり不応期とは「しばらくお待ちください」の期間の事で、その期間が延長されればされるほど、不応期は長くなり(反応しない時間が長くなる)、その間に異所性刺激(正規の場所以外からの心臓に対する刺激)が来ても、心臓は一々反応せずに済み安定な状態となります。

Ca拮抗剤などでもこの作用があるものがあります。

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疑冠?拡張剤〜狭心症

  1989年5月15日号(No.43)に掲載


 ニトログリセリンに代表される硝酸剤「いわゆる冠拡張剤」は、心臓の冠動脈を拡張することによって、狭心症に奏効すると思われていました。
しかし最近では、冠拡張作用よりも静脈の拡張作用の方が注目されています。

 静脈の拡張による心臓の前負担の減少、心容量の減少による心筋酸素消費量の減少が、「いわゆる冠拡張剤」の主な作用であると考えられるように成ってきました。もっと分かりやすく言うと、静脈が拡張すると、心臓に帰ってくる血液の量が少なくなります。ですから心臓が送り出す血液の量も減り、心臓の仕事が楽になり、心臓が必要とする酸素の量も減るのです。供給される酸素の量が少なくても心臓はその少ない酸素で何とかやっていける状態になるのです。

 狭心症は、心臓に栄養や酸素を運ぶ冠動脈の障害(狭くなったり、詰まったり)が原因となって起こります。狭心症の患者では、生体側のシステムとして冠動脈を最大限にまで拡張するように指令が出ています。それでもなおかつ酸素不足の状態となり、虚血状態が生じてしまったのです。そのような状態では、さらに冠動脈を拡張するなど元々無理なことなのです。

 β遮断剤が狭心症の治療に用いられるのも、心臓の働きを抑え、心臓の酸素消費量を抑えるためです。

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6  BBB         関連記事:BBBでの輸送システムもご覧下さい。 

 1992年9月1日号(No.114)に掲載

BBといえば、ブリジットバルドー(若い人は知らないかな?、バックスバーニーなら知っているかな)、BBCといえば、英国国営放送、ではBBBとは何でしょう?

BBBとは、血液−脳関門(Blood Brain Barrier)のことです。関門とは関所、つまりそこを通る人々をチェックして出入りを制限します。

このような関所が人間の体の中にも有って、体内の血液中にある物質が、勝手に大切な個所(脳と生殖器)に行かないように見張りをしているのです。このうち血液から脳に移行する物質を見張る関所のことを血液−脳関門と呼んでいます。

BBBが有るために、薬物も脳に移行できる物と出来ない物があります。
BBBを通過できない薬の方が多いのですが、というのもBBBを通過してしまうと眠気やふらつきの精神神経系の副作用が現れる可能性が出てきます。

逆に向精神薬などではBBBを通過しないことには、効果が現れません。
そのため、パーキンソン病の治療薬であるドパミンでは、そのままの形ではBBBを通過できないため、わざわざL−ドーパという物質に変えて与薬します。

抗ヒスタミン薬が眠気を催すのも、向精神薬と同様でBBBを通過してしまうためです。

髄膜炎などで、髄液への移行の良い抗生物質が選択されますが、髄膜炎にかかるとこのBBBが破壊されるため、薬物や抗体の脳内への移行はスムーズになるといわれています。(なお、BBBは、治癒に伴って徐々に回復します。)

関連記事:BBBでの輸送システムもご覧下さい。 

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7 アラキドン酸カスケード〜「風が吹けば桶屋がもうかる」

1992年7月15日号(No.111)に掲載

風が吹くと、目にゴミが入って眼の悪い人が増え、えーとそれからなんでしたっけ、三味線がよく売れるので、材料の皮を取るために猫が減り、そうするとネズミが増えて、増えたネズミは桶をかじるから、桶がよく売れて桶屋がもうかる。
これが「風が吹けば桶屋がもうかる」という仕組みです。

アラキドン酸カスケードも私にとってはこの話と同じ位、難しく不可解なものです。そこで自己流にこの仕組みを解釈することにしました。
カスケードというのは滝のことで、それも箕面の滝のように一直線に落下する滝ではなく、赤目四十八滝のように階段状の滝のことです。
滝が段段と下の川に落ちて行くように、1つの反応が起きるとそれに派生して次々と連鎖的に反応が続いていく現象をさします。

アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼと言う酵素が作用を受けると、プロスタグランジンとトロンボキサン群が生成し、リポオキシゲナーゼの作用を受けるとロイコトリエン群の代謝経路をたどり、、、、(それからえーと、なんでしたっけ)まあ、要するに、こういう煩雑なシステムが我々の体内に組み込まれていて、それにより、我々は熱を出したり、炎症を起こしたりしていると言うわけです。

血液の凝固系も似たようなシステムを取っています。すなわち第3因子が、第7因子の生成を促し、、、途中略、、、最終的に血が固まるのです。

問題はどうしてこんなにややこしいシステムが必要なのかということです。

以前テレビで、核ミサイルの発射システムを紹介していましたが、実はあれも非常に煩雑なのです。大統領の指令が出てから1分以内にすべてのシステムが作動するようになっていますが、その間にいろんな手順があります。

そうなのです。こう言う現象(血が固まるとか、炎症が起こるとか、核戦争が始まるとか、、、)はそう簡単に起こってもらっては困るわけでして、いくつもの条件が整った上で、しかも条件が整いさえすれば、すぐさま実行する必要があるのです。

<付記> 
 アスピリン喘息の機序も ロイコトリエン受容体拮抗薬が喘息の治療薬になっていることからも分かるように、アラキドン酸カスケードで説明することが出来ます。

 NSAIDs(解熱消炎鎮痛剤)は、プロスタグランジンを抑制しますから、川で言うと流れがそこで堰き止められ、ロイコトリエンの方に流れていってしまうからです。

 普通、消炎鎮痛剤を飲んだだけでは喘息にはなりません。なぜ特定の人だけにアスピリン喘息が発症するかは不明ですが、アスピリン喘息の84%が慢性鼻炎で、嗅覚障害が強いために揮発性・刺激性物質に対する防御機能が低下していて、このために化粧品や殺虫剤などでも発作が誘発されることなども知られています。

 関連項目:AIA:解熱鎮痛剤喘息

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「カルシウム拮抗剤って何なのさ?」


1992年3月1日号(No.103)に掲載したものです。

カルシウム拮抗剤は、循環器系の疾患では主役の位置を占めるほど、数多く処方されます。ところでカルシウムに拮抗(さからうとか、競争するとか言う意味です)するというのはどういうことなのでしょう? カルシウムにさからってどうするのしょうか?

「骨や、歯に影響はないのだろうか?」「カルシウムの錠剤と一緒に飲んでも大丈夫なんでしょうか?」などとの疑問がわくのも当然です。
実はこれは、カルシウム拮抗剤という名前が誤解を招いているのです。
英語では、Calcium channel antagonistsと呼んでいます。これを直訳すれば、カルシウム・チャンネル拮抗剤、すなわちカルシウムの拮抗剤ではなく、カルシウムのチャンネルの拮抗剤と呼ぶのが正しいのです。

チャンネルといえば、まず家庭のテレビのチャンネルを連想しますが、そのチャンネルのことです。最近のテレビではタッチパネル方式で触れるだけでチャンネルが切り替わるものがあります。カルシウムも触るだけで、色々な作用を現します。(触媒作用と言います)。英語辞書を引いてみると、チャンネルには「通り道」の意味もあります。

カルシウムが特定の通り道を通過することで、電気的な変化が起こり血管が収縮するなどの変化が起こります。ですからこのカルシウムの通り道をふさぐと、血管などの平滑筋(運動に使うのは骨格筋の方です)は収縮することが出来ず血管は広がった状態なります。

血管が広くなると、血液は流れやすくなり、血圧はさがります。心臓の負担も軽くなります。今まで狭かった道が、拡張工事で道が広くなると交通渋滞が解消することを思えばこの理屈はわかりますね。

ですから、カルシウム拮抗剤(正確にはカルシウム・チャンネル拮抗剤)は、高血圧症、狭心症、不整脈の治療剤として有効なのです。脳の血管をも拡張するものは脳循環改善剤としても使われています。

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丸山ワクチンは今〜BRM

1993年9月15日号掲載      関連項目:BRM

抗癌剤といえば細胞毒そのもので、副作用は当然重篤なものばかりです。
でも副作用の少ない抗癌剤も有るのです。ピバニール、PSK,レンチナン、アンサーなどがそれで、インターフェロンもその仲間に入ります。
これらの薬物のことをBRM:Biological Response Modifier:生物反応修飾剤と呼んでいます。

生物反応というのは分かっても修飾(Modifier)とは何の事でしょう。国語辞典を引いてみると「修飾:つくろい飾ること」と載っています。余計分からなくなってしまいました。

そのそもこれらBRMの大先輩にあたるのがあの幻の抗癌剤“丸山ワクチン”なのです。なぜ幻かというと厚生省が薬とは認めなかったためです。で、丸山ワクチンとは何かと言うと、ご存知ない方は驚かれるかもしれませんが本体は“結核菌”なのです。

以前より結核患者では、癌になる確率が低いことが統計的に分かっていて、それならばということで作られたのが結核菌を無毒化した丸山ワクチンだったのです。

癌の発生や増殖が生体の免疫能と密接に関係していることはよく知られており、患者の免疫能は臨床経過や予後とも関係しています。癌患者では免疫能が低下していて、癌の進行とともにますます衰えていきます。このような患者の免疫能を改善し癌の増殖を抑えようというのがBRMなのです。

先ほどの“修飾”というのは、衰えた免疫能を修復しようということだったのです。ただしこれらのBRMは単独では癌をやっつけることは出来ません。副作用の多い細胞毒の抗癌剤との併用用によってその効果が認められています。

丸山ワクチンが薬として承認されなかったのも、単独では効果が少なかったためです。最近(執筆当時)発売されたアンサー注はこの丸山ワクチンを濃縮したものです。

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10 βラクタム環

1992年5月15日号(No.107)に掲載したものです。

現在、抗生物質の中で最も多く使用されているのは、βラクタム系です。
これらの薬剤は、その構造式の中にβラクタム環を持っています。
βラクタム環自体は四角形です。そしてそのβラクタム環の横に五角形のついたものが、ペニシリン系で、六角形のついたものがセフェム系です。
(その他、αラクタム環〜三角形、γラクタム環〜四角形というのもありますが薬剤としては使用されていません。)

実は、この四角形がペニシリン系やセフェム系の作用点なのです。この四角形が、細菌に取り込まれ、細胞の外側の壁が出来るのをじゃまするのです。このため菌は裸の状態となり少しの刺激ですぐに死んでしまいます。

これらβラクタム系の抗生物質が数多く使用される理由の一つには、他系統の抗生物質に比べて副作用が少ないことが挙げられます。その理由はこれらの抗生物質の作用点が先ほど述べたように細胞壁の合成阻害だからです。細胞壁は細胞にとって重要なバリヤー機構です。そしてこの細胞壁は人間などの高等動物の細胞にはありません。だからβラクタム系の薬物を飲んでも人間の細胞はダメージを受ける場所がなく、細菌だけがダメージを受け死んでしまうというわけです。

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11 蛋白(たんぱく)合成阻害〜抗生物質の作用機序


1992年月1日号 (No.110)に掲載

「人は何のために生きるのか?」哲学者ならずとも、皆さんもこんな疑問を抱かれたことがあるのではないでしょうか?
まあ、「一晩考えたぐらいでは、凡人には分かるはずも無い」と大抵の方は途中であきらめてしまわれるようです。

生物学上では、とっくにこの答えは出ています。人を含めて動物はたんぱく質を作るために生きているのです。それも自己固有のたんぱく質を作り続けるためにです。逆にいうと、動物は自己固有のたんぱく質を作り続けないと生きていけないのです。

抗生物質とは、生物に抗(あらが)う物質のことで、つまりは自分以外のものを殺してしまう物質です。これはすでにご存知のように、カビが自分の縄張り(生活圏)を広げるために、他の細菌を殺してしまう武器とも言えるものです。ですから多くの抗生物質が蛋白合成阻害作用を持っています。

他の最近が死んで、そして自分自身も死んでしまったら何にもなりませんから、自分は死なないような仕掛をすべての細菌は持っています。その仕掛けは様々で
DNAやRNAといった核酸の合成を阻害するものや、たんぱく合成の場であるリボゾームの機能を阻害するものなどです。その仕掛けをうまく利用して細菌だけ殺せて人間には害の無い様にしたものが、薬としての抗生物質です。

これらたんぱく合成阻害の抗生物質は抗癌剤としても使用されていますが、問題になるのはやはり副作用です。なぜなら癌細胞は元々自分の細胞であったため、正常細胞との差が少ないからです。癌細胞を殺すために、正常な細胞も傷つけてしまうのを覚悟しなくてはなりません。

「人は何のために生きるか」と考えて苦しむ人は、「どのように人生を楽しむか」を考えている人よりも何倍も癌に成り易いそうなので、あまり深く考えないようにしましょう。

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12 アミノグリコシド系抗生物質の副作用

1992年6月15日号(No.109)に掲載

「嗅いで視る、動く車の三つの外、顔きく舌も迷う  副  舌」
 1   2   3 4  5   6  7 8  9 10 11  12

いきなり何のまじないかと思われたでしょうが、これは手抜きの勉強の仕方の一つです。我々理科系の人間はこのように語呂合わせで、いろんな事を丸暗記したものです。

上記は脳神経の覚え方です。脳神経は1〜12まであり、第1神経が嗅神経、以後、視神経、動眼神経、滑車神経、三叉神経、外転神経、顔面神経、内耳神経、舌咽神経、迷走神経、副神経、舌下神経です。(下の数字を参照)

何故わざわざこんなことを書いたかというと、アミノグリコシド系抗生物質の副作用で有名なのが第8脳神経障害だからです。上記の語呂合わせでいうと「きく」に当たります。そう、内耳神経障害で耳が聞こえなくなるのです。

ストマイ、カナマイ、アミカシン、トブラシンそれにおMRSA治療剤であるハベカシンなどでは、このアミノグリコシド系です。これらの薬剤を使用中の患者では、聴力・平衡感覚が障害を受ける可能性があります。

これらアミノグリコシド系抗生物質はグラム陰性菌(緑膿菌を含む)によく作用するので、比較的多く使用されていますが、第8脳神経障害の他にも腎毒性をも持ちますので、その使用は短期間が望ましいとされています。

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13 "a,d,m,e" 〜私の作文技法〜



1993年11月15日号(No.141)に掲載

私は、薬学部卒なので作文は全く素人です。でもこのような短文を書く際にはいつも基本とされる「起・承・転・結」を意識して書いています。ところでこの起承転結は薬動力学(pharmacokinetics)に似ていると思うんです。

起:文章の書き始めです。読者の意表をつくと読む気にさせます。
a:absorption〜薬を飲むとまず体内に吸収されます。

承:書き始めを受けて本題に入っていきます。
d:distribution〜体内に入った薬は体内のあちこちに分布していきます。

転:そろそろ中だるみしてきたので話題に変化をつけます。
m:metabolism〜体内を一回りしてきた薬を外に出しやすいように変化させます。

結:話の締めくくりです。出来たら「おち(落)」を付けましょう。
e:excrtion〜役目を終えた薬は、尿を中心に排泄されます。

このように"a,d,m,e"は、薬の体内での働きを追跡する言葉なのです。
吸収、分布、排泄に関しては特に説明を必要無いでしょう。
肝心なのは、“代謝”です。
代謝とは、例えば、水に溶けにくい薬品を溶けやすくしておしっこにして出すというように、排泄しやすいように形を変えることを言います。その役目を主に引き受けているのが「体内の化学工場」といわれている肝臓です。そして排泄の重要器官である腎臓へと送られます。
ですから肝臓、腎臓が「肝腎」なのです。(←落ちのつもり。)


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14 ステロイドの副作用


1993年5月15日号に掲載

「異性禁止と浮かん顔」〜異性(ボーイフレンドあるいはガールフレンド)とつきあってはいけないと言われて、さえない顔をしているということでしょうか?

ステロイド(副腎皮質ホルモン)の副作用はこのように覚えると便利です。

異−−−→(胃)胃腸障害(消化性潰瘍)
性−−−→(精)精神神経系障害(多幸感、不眠、興奮)
禁−−−→(筋)筋無力症
止−−−→(脂)脂質代謝異常(脂肪沈着)
と−−−→(糖)糖代謝異常(糖尿病)
浮−−−→(浮)浮腫
かん−−→(感)感染症の悪化
顔−−−→(顔)満月様顔貌(ムーンフェイス)

この他、緑内障とか骨多症孔などの副作用も有りますが、上記を覚えていればまあ大丈夫です。

ところでステロイドと言えば、副腎皮質ホルモンとすぐに思ってしまいますが、ステロイド骨格を持った薬物は他にも有ります。男性・女性ホルモンは当然として、利尿剤のアルダクトンA,それにジゴキシン、ジギトキシンなどもステロイド骨格を持っています。これらの副作用を調べてみますと、アルダクトンAやジゴシンでは、時に女性型乳房や月経異常、また電解質異常、精神症状、体重増加、胃腸障害などステロイド剤と共通する副作用が発現することがあります。


クイズ:上記の文章に登場する薬品の構造式〜略

【注】病院でもらわれたステロイド剤は、ちゃんと専門の先生が副作用のことも考えて処方されているので、必要以上に心配することはありません。ステロイド剤は自分勝手に飲んだり飲まなっかったりすることが一番いけないのです。

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15 「利尿剤」〜Naは水なり〜


1994年4月15日号(No.150)に掲載

利尿剤は、比較的よく使われる薬なので、もっと早くにこのシリーズで取り上げるつもりでした。しかし、この利尿剤の薬理と言うのは、難しいので後回しにしていました。そして勉強してみるとこれが大変なのです。

まず利尿の仕組みを知るためには、Naポンプ、H+と逆方向に移動するNaの能動輸送、共輸送、逆向流交換系、単純拡散、促進輸送、単体輸送、チャンネル輸送、浸透圧勾配などを理解しなくてはなりません。正直に白状しますが、筆者はいまだによく分かっていないのです。筆者の知っていることは次のようなことだけです。

薬理学の本には、利尿剤の作用はナトリウム(Na)の再吸収抑制(つまり塩分を体外に出すと言うことでしょう)とされています。これはNaが潮解性を持つことから容易に理解できます。塩(Na)には、水を引き込む力があるのです。ナメクジに塩をかけると溶ける(ように見える)のもこの理屈です。
塩(Na)が出て行けば水(尿)もいっしょに出て行くのです。

あまりにも幼稚な説明になってしまいましたが、どの薬理学の本を見ても「利尿剤の作用は、種々の観点から追求されているが不明な点が多く残されている。」と書かれています。世界的な学者でも十分な説明が出来ないのなら筆者などの頭脳では、分からないはずです。

利尿剤の副作用として知っておかなければならないこととして、K(カリウム)の欠乏があります。すなわち、フルイトランやラシックスなどではKは体外に出て行きますが、この理由もよくわかっていません。おそらく、Na利尿作用によりアルドステロン分泌が高まり、これがKの排泄を増加させるためだとされています。

また、ダイアモックスなどの炭酸脱水酵素抑制剤なども低K血症になります。そしてアルダクトンAなどの抗アルドステロン剤では逆にKが蓄積していくのです。

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これは10年くらい前、私が看護学校で講義していたとき、寝ている学生にも分かりやすくおもしろく講義しようと自分なりに考えて喋っていた時のネタを文章化して、DIニュースに連載していたものです。

当時、8インチ(5インチよりもさらに大きい)フロッピで書いていたものです。変換することは諦めて、改めてこのHPのために打ち直しました。

By 遠嶽 秀丸

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