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癌化学療法でのBiochemical Modulation

1992年7月15日号 No.111

   癌化学療法の進歩発展は腫瘍選択性の大きい新しい抗癌剤の開発とその有効利用法の開発に支えられています。

 最近、抗癌剤同士または他剤との併用でbiochemical modulationの考え方に基づいた新しい治療法の研究開発が進められています。

BCM療法

 抗癌剤(effctor)にある薬剤(modulator)を併用し、抗癌剤の薬理的動態を変化させ、抗癌剤の効果を特異的に増強したり、抗癌剤の毒性を特異的に軽減したりすること。


          {参考文献} JJSHP 1992.6等

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 biochemical modulationを字義どおり訳せば、生化学的(効果)修飾となります。ある抗癌剤を 、使用する前・同時・後に別の薬剤(抗癌剤、その他)を併用することによって、抗癌剤の薬理動態が変化し、その抗腫瘍作用の増強や副作用の軽減につながる減少を指しており、最近になって種々の他剤と抗癌剤の併用療法でもこの言葉が使えわれています。

<実例>

1)大量メソトレキセート(MTX)とロイコボリン

 MTXによる細胞毒性は、ロイコボリンがMTXの濃度以上に細胞内に取り込まれることにより救援されることが分かっています。これはMTX大量処理により。腫瘍細胞内に入ったMTXが殺細胞効果を現すように、ロイコボリンの与薬時間をやや遅れさすのがポイントとなっています。MTXがかなり高濃度でも与薬48時間以内なら毒性はロイコボリンで軽減できます。

2)MTXと5-Fu

 MTX処理のより葉酸の活性化に変化が生じ、結果的にDNAがより強く阻害されること、また5-Fuの腫瘍RNAへの取り込み量が増加し、RNA機能が阻害されることが報告されています。

3)その他

 5-Fuとロイコボリンでは大量のロイコボリンを与薬することにより、腫瘍細胞内の還元型葉酸濃度が高まり5-Fuの抗腫瘍生が大きくなります。

 抗癌剤とセファランチン、ペルサンチンなどとの併用療法もこのbiochemical modulationの範囲に入るもので、また最近の報告では、シスプラチンと5-Fuの併用も検討されています。


<併用療法の現状>

主抗癌剤     :効果修飾剤

MTX        :ロイコボリン、L-アスパラギナーゼ、チミジン

5-Fu       :MTX、ロイコボリン、アロプリノール、ピリミジン

テガフール    :ウラシル

キロサイド    :MTX、チミジン

マイトマイシンC     :タチオン、ブレオ
(MMC)

アドリアシン   :セファランチン、Ca拮抗剤

シスプラチン   :チオ硫酸Na

2000年追記 BCM:biochemical modulation

抗癌剤(effector)の薬理動態を他の薬剤(modulator)によって変化させる方法

1,抗癌剤の活性化を促進または不活化をすることにより抗腫瘍効果を増強したり、
2,正常細胞への毒性を軽減しつつ腫瘍細胞に対し抗腫瘍効果を高める方法などがある。


後者の例として古くから大量MTX・ロイコボリン救援療法があるが、BCMの概念が脚光をあびるようになったのは、前者のMTX・5−Fu交代療法が報告されてからである。

MTXを先行投与、一定時間後に5−Fuを投与すると投与順序依存的に相乗効果が得られる時間差療法である。

近年では5−Fuのmodulatorとしてロイコボリン、CDPP・5−Fuなどが併用され、CDDP・5−Fu療法として臨床的に評価されている。

1999年19月発売のレボホリナートはBCMに基づくl−LV・5−Fu療法に用いられる。


 昭和63年7月1日号(No.25)に掲載

「癌免疫療法としてのBRM」

 BRMとは、Biological Response Modifierの略で、以前は非特異的能動免疫療法と呼ばれていました。

 これは、特別に特異的抗原(癌)による免疫という操作を加えずに宿主の免疫能をあげることによって、癌細胞を殺す治療法のことです。(生体応答調節薬と呼ぶ場合もあります。)

<BRMの分類>

1.微生物〜ピシバニール(溶連菌製剤)、丸山ワクチン

2.真菌・植物〜PSK(クレスチン、さるのこしかけ科かわらたけ)、レンチナン(しいたけ)

3.サイトカイン〜インターフェロン

関連項目:丸山ワクチンは今〜BRM

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出典:治療 2001.8   大阪府立成人病センター研究所 研究所長 瀬谷 司


 スピルリナとBCG菌体成分を用いた抗癌免疫療法


 健常人にスピルリナを服用してもらうとインターフェロンγ(IFNγ)が誘導され易くなります。
IFNγはNK(ナチュラルキラー)、Tリンパ球がIL-12、IL-18というサイトカイン刺激を受けて産生されます。

 IL-12、IL-18は抗原提示細胞が微生物などと出会って最初に産生するサイトカインです。従って、IFNγの由来は抗原提示細胞と言えます。抗原提示細胞はマクロファージ、樹状細胞などを含み、免疫の入り口を守るシステムを構成しています。

 スピルリナはこの根元の免疫機構に作用して強いIFNγ誘導体活性を発揮します。

 一方、BCGの菌体成分が免疫系を活性化して他の異物に対する防御能を高めること(アジュバンと作用)は、古くから知られていました。スピルリナ服用者の白血球を取り出してBCGの成分と混合すると強力なIL-12再生が再現できます。BCGとスピルリナは手分けして違う種類のリンパ球を活性化していることが推定されています。

 従来免疫系とはリンパ球という細胞が蛋白質の一部(ペプチド)を認識して自分と異物を識別する機構と考えられてきました。しかし、スピルリナ、BCGなどの有効成分は蛋白質ではなく、ヒトになくて感染成分に存在する糖、脂質及びそれらの複合体とみなされます。

 最近、これらの微生物成分を特異的に認識するレセプター(Toll-like reseptor)がレパートリーとしてヒト抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞)に備わっていて、成分特異的な抗原提示細胞の活性化を誘導することが明らかになりました。スピルリナもBCGの成分もこのレセプターの仲間を刺激することが示唆されています。

 微生物の助けを借りて免疫系を強め、癌への攻撃態勢を作ることは不可能ではありません。事実、感染症を併発した癌患者で癌の退縮がみられたり、結核患者で癌が少ないことが報告されています。

 アガリスク、マイタケ、サルノコシカケ、BCG、丸山ワクチン、ピシバニール、細菌のDNAなどが癌に有効との知見も提出されています。これらは既存の「リンパ球の免疫系」の理解の範囲では説明できず、非科学的とも思われていましたが、微生物、植物成分の抗癌活性という点から今後の研究が期待されています。


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β-D-グルカン製剤の感受性

2000年9月15日号 299

 β-1,3-D-グルカンは、椎茸、松茸、カワラタケスエヒロタケなど多くのキノコに含まれています。

 キノコ由来の抗悪性種瘍剤としては、レンチナン(椎茸)、PSK:クレスチン(カワラタケ)、ソニフィラン(スエヒロタケ)が承認されています。これらは、生体防御反応(全身の抵抗力)を活性化し、抗腫瘍効果を発現します。これを宿主仲介性と言います。

 β-1,3-D-グルカンは、様々な生体防御活性があることから、癌のみならず種々の疾患に有効である可能性があります。リウマチ、花粉症、喘息、風邪をひかなくなる等、また基礎研究でも癌以外に糖尿病、肝硬変、細菌感染、ウイルス感染等に有効という報告があります。最近、健康食品として注目されている
アガリクス茸、主成分がβ-1,3-D-グルカンであるとされています。

 レンチナンは、1969年の発見以来、多くの基礎研究、臨床研究が行なわれてきました。その中で、興味のある現象の1つに、レンチナンに対する感受性の問題があります。基礎的には、遺伝子背景、リンパ球の種類やマクロファージの種類といった面から研究が進められていますが、一般臨床では、定性的な指標やどの病院でも簡単に測定できる定量的指標で検討されています。

 レンチナンを与薬した患者で
P.S.(全身状態を示す指標:performance status)の改善やQOLの改善が認められる患者は、改善が認められない患者よりも生存期間が有意に長く、また、定量的には、レンチナン与薬後2〜3ヵ月後に、血清アルブミン値の上昇が、下降または変化しなかった患者よりも生存期間が有意に長いとの報告がなされています。

 さらに腫瘍マーカーの一種である免疫抑制酸性蛋白(IAP:immunosuppressive acidic protein)に関しても同様で、レンチナン与薬後に2〜3ヵ月後に血清IAP値の下降(改善)が認められた患者は、改善が認められなかった患者よりも生存期間が長いとのことです。

 一方、よく測定される腫瘍マーカーに、CEAやCA19-9がありますが、これらはレンチナンによって改善されても、改善されなくても生存期間には全く差がないという結果でした。従って、レンチナンの効果発現をモニターする指標としては、IAPやアルブミンが適しており、CEAやCA19-9は不適当です。

 抗癌剤では、一般的なことですが、同じ進行胃癌患者でも効果発現が期待できる患者とあまり期待できない患者が存在します。臨床試験(比較試験)で群間に有意な生存期間の差があっても、効果の期待できる患者にのみ使用し、期待できない患者には使用すべきではないと思われます。

 癌の治療という観点では、群間に差があればある程度効果があったといえるかもしれませんが、癌患者の治療という観点からは治療は患者個々になされるもので、効果が期待できない患者にはたとえ承認された薬でも使用すべきではありません。さらに、もう一つ重要なことは、効果の期待できない患者に対して、どのようにして効果(生存期間の延長)を発現させるかという問題です。

 レンチナンは、基礎研究で、抗癌剤との併用で、相性があることが明らかにされています。現在までの結果では、テガフール、UFTといった5-Fu系の薬剤やシスプラチン(CDDP)、特にLow dose CDDPとの相性がよく、マイトマイシン(MMC)やアドリアマイシン(ADM)との相性はよくないという結果が報告されています。

{参考文献} JJSHP 2000.7

 レンチナンのような宿主仲介性の薬剤では、その効果発現は、与薬される個人個人の生体側に規定されるもので、ある意味でどんな癌種にでも通じることと思われます。癌患者の治療で最も重要なのは、癌種を限定するのではなく、患者個人個人に効果の期待できる治療を施すことです。


MedDRA(2)

グローバリゼーション(5)

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2000.8

 
前回のMedDRA(メデュラ:国際標準医療用語集)の続きです。

 一般に医薬品に対し、数十〜数百種類もしくは数千の有害自称(副作用)が医療現場から報告されます。しかしこれらの中には意味を同じくするものの、違う表現形式の有害事象が多く含まれます。

 そこで、有害事象の総数や頻度を医学的に出来る限り正確に把握するためには報告されてきた有害事象を正確に把握するためには報告されてきた有害事象を選別して同意語もしくは同義語を一まとめにする必要があります。それを行うための有力な道具がMedDRAです。

 MedDRAの最大の特徴は、階層構造にあります。

 大区分のSOC(System Organ Class)から枝分かれして約4万8千の用語で形成される最下層のLLT(Lowest Level Term)までに、HLGT(High Level Term)、PT(Preferred Term)の3層が存在し計5層の構造となっています。このうち中心となるのがPT層で、医学的に独立した意味を有する最小単位がPTと定義されています。

 器官別大分類(SOC)→高位グループ用語(HLGT)→高位用語(HLT)→基本語(PT)→下層語(LLT)

 LLT層の充実は有害事象例のデータベースへの入力を容易にするとともに、データの統一性を確保するためにも重要です。LLTは医療現場で使用されている有害事象用語を出来る限り集めたものであり、この層の充実度が増せば増すほどMedDRAの利用度は高まります。

 今やローカルドラッグ(日本でしか通用しない薬)という言葉は死語になりつつあります。これからの新薬はその市場を世界に求め得ずしてはその存在価値はほとんどありません。このことは同時に、安全性情報の収集をグローバルレベルで行うことが求められています。

 同じ医薬品に対し各国で収集された有害事象は今後1つのデータベースで集約かつ解析されなければなりません。MedDRAを通して即座にかつ恒久性をもって統一され、グローバルに収集された情報の解析をより正確かつ効率的に行うことが出来るようになります。これによってもたらされる恩恵は医薬品の安全性の確保を至上課題とする医薬品企業にとっても、患者さんにとっても非常に大きいといえます。

 ところで、前回、非常に高額と述べた利用料は調べたところ、利用団体により最低10万円から最高380万円といことです。


<<最新医学・薬学用語>> 2005年4月15日号 No.404

カレーの医学的効果

ウコン
クルクミン


出典:日本薬剤師会雑誌 2001.4

 ウコンはウコンという植物の根茎を乾燥させたもので、ターメリックともいいカレー粉の黄色い色はこのウコンです。

 ウコンは、ショウガ科の香辛料で、主成分はクルクミンです。これには胆汁の流れを良くし、アラキドン酸代謝を阻害するというアスピリン様の鎮痛作用があります。また、免疫力を高め、抗ウイルス活性があり、ストレスに対して精神を安定させる成分もウコンには入っていますので血圧を安定させます。

 ウコンには、色素成分のクルクミンなど1000種類以上の成分が含まれていて、肝臓病に良く、胃を健やかにする薬用植物とし世界的に伝承されています。

 クルクミンは、体内に入って、腸から吸収される際にテトラヒドロクルミンという強力な抗酸化物質に変換されます。動物実験では、大腸癌、肺癌の抑制効果が確認されています。

 アトピー性皮膚炎でも、ターメリックを混ぜたゴマを塗ると良いとされています。これは、ターメリックの抗酸化作用が、活性酸素による皮膚細胞の損傷を防ぐためと考えられています。

 実際にターメリックに10〜20%含まれるデトキシクルミンという抗酸化物質に、シミやソバカスのもとになるメラニン色素の生成を防ぐ作用があることや、ターメリックを皮膚に塗ると、皮膚癌を抑制できることも確認されています。その他、カレー粉に香りの成分テルペン、食物成分のフェノール、βカロチンも抗癌成分として有効に作用します。

カレーでアルツハイマー痴呆を予防 2005年4月1日号 No.405

 ウコンの成分であるクルクミンでアルツハイマー痴呆を予防できる可能性があります。

 アルツハイマー病(AD)では、脳内のアミロイドβ沈着が引き金になり神経細胞の変性・脱落が生じて痴呆に至ります。その進行過程の1つにはアミロイドβがミクログリアを活性化することにより発生する
フリーラジカルが関与すると考えられています。

 フリーラジカルを補足する抗酸化作用を持つビタミンEは、試験管内ではアミロイドβ誘発の神経細胞死を抑制しますが、アルツハイマー患者では高用量でしか効果を示しません。

 クルクミンは抗酸化作用と抗炎症作用を併せ持つため、アルツハイマー病に有効な薬の候補として検討されるようになってきました。

 インドでの70歳代のアルツハイマー患者が米国と比較して4分の1程度であることも、注目されています。

                     出典:ファルマシア 2002.9


<<用語辞典>>

スキルス(胃癌) 

 進行性胃癌で低分子型または未分化型の癌のこと。一般に悪性度が高く予後が短いと考えられます。

regional lymphnode
所属リンパ節

 ある臓器や身体のある領域からのリンパに直接つながるリンパ節のこと。
一定の臓器には一定のリンパ節が所属していて、根治手術では癌に起こされたリンパ節を全て郭清する必要があります。

neoadjuvant chemothrapy
術前化学療法

 手術と化学療法の併用は、術前、術中、術後と様々な時期が考えられます。術前化学療法は腫瘍サイズを小さくし、手術の効果を増大させ、機能喪失などの後遺症を残さないことが目的で、それに使用する抗癌剤は、奏効率が高く、直接の抗腫瘍効果が大きく、しかも迅速で、副作用が手術に影響を与えず、長引かないことが条件です。

        出典:薬事 2003.3

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