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高脂血症治療薬と横紋筋融解症

1992年2月1日号 No.101

医薬品副作用情報NO.112

   アモトリールに代表されるフィブラート系薬剤の使用中に筋肉痛、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)の上昇等があらわれることは既に知られていました。最近、血中および尿中のミオグロビンが容易に測定できるようになったことから、高脂血症治療薬を服用中の患者に、横紋筋融解症と診断される症例が増えてきています。

 横紋筋融解症は骨格筋の融解、壊死により筋細胞成分が血液中に流出した病態です。自覚症状は四肢の脱力、腫脹、しびれ、痛み、赤褐色尿などで、検査所見としては、血中・尿中ミオグロビンのほか、CPK、GOT、GPT、LDH、アルドラーゼの上昇等の筋逸脱酵素群の急激な上昇が認められます。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’ 生体内コレステロール合成阻害薬(HMG-CoA還元酵素阻害剤)のメバロチン錠単独では、横紋筋融解症の報告はまだ国内ではありませんが(1992年)、筋肉痛、CPK上昇の報告はあり、外国ではすでに同系等の薬剤での横紋筋融解症が報告されています。

 高脂血症治療薬による横紋筋融解症の発症例の多くは、全身倦怠感、筋肉痛とともにCPK、血中・尿中ミオグロビンの急激な上昇等が認められています。これらの薬剤の与薬に際しては筋肉痛の発現やCPKの変動に注意する必要があります。

 報告例の多くが腎機能障害を有する患者であること及び、横紋筋融解症に伴って急激に腎機能の悪化が認められることから腎機能障害を有する患者に対しては、その与薬の可否を十分に検討し、与薬を行う場合には減量や与薬間隔をあけるなど十分な注意が必要です。特にフィブラート系薬剤(ベザトールSR錠、アモトリール、リポクリン錠等)では、与薬前に患者の腎機能を検査して慎重な対策が要求されています。

 フィブラート系薬剤とメバロチン錠との併用は横紋筋融解症が発現しやすいとの報告があります。


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骨粗鬆症にスタチン系薬剤!!

2000年9月1日号 298

 骨粗鬆症は、骨形成に対して骨吸収が相対的に優位となった病態で、骨密度の低下、骨の被薄化を特徴としています。高齢化社会を迎え、世界的な規模で骨粗鬆症患者の数が増加しています。

 このような状況の中、高脂血症治療薬HMG-CoA還元酵素阻害剤(以下スタチン系薬剤)が骨形成を促進することが見いだされ注目されています。

 本年6月に、米国のシカゴで開催された世界骨粗鬆症会議が開かれ、その中で、世界11カ国の医師と閉経後女性を対象とした世界骨粗鬆症基金(IOF)による初めてのアンケート調査の結果報告が発表されました。

 世界的に見て骨粗鬆症は、閉経後女性の2人に1人が、罹患するとされていますが、この調査では、85%の女性が「自分が骨粗鬆症のリスクを持つとは考えていなかった」と回答していて、また、「骨粗鬆症と診断された」とする回答も20%にとどまっています。「骨粗鬆症に対する女性自身の理解や危険意識が低い」という指摘がなされています。

 また調査では、骨粗鬆症の治療についても、医師の側では80%以上の閉経後女性が予防あるいは治療薬の処方を受けていると推測していますが、女性の側では「骨粗鬆症の予防、あるいは治療のための服薬を行っていない」とする回答が、63%となっており、医師の側と患者の側とのずれが目立っています。

 この調査から、実際に薬が処方されているのは、すでに骨折を起こした患者に対してがほとんどと思われ、「骨折を予防するための処方が適切な時期に施されていない」などの結果が発表されました。

 医師は適切と判断されれば骨密度測定を行うなど、十分な健康診断の実施を積極的に推進すること、骨粗鬆症の長期的な病状の推移や適切な治療に関する患者と医師との対話の重要性を認識することなどが求められています。

 骨粗鬆症の治療については、ビタミンD3誘導体、カルシトニン、ビスホスホネートや選択的エストロゲン受容体修飾剤や、また
ホルモン補充療法(HRT)といった新しい治療法の開発が積極的に進められてきていますが、これらの薬物治療による効果は、吸収の抑制や骨代謝回転の促進、あるいはカルシウムの腸管からの吸収促進といった機序で作用すると考えられていて、いずれも骨形成を促進させることが主たる機序とは考えられていません。

 これに対して、骨形成を促進する薬剤としては、従来からの薬剤も含めてわずかにビタミンKがある程度で、いまだ決定的な薬剤の開発に至っていないのが現状です。このような状況の中スタチン系薬剤が骨形成を促進することが見いだされ注目されています。

 スタチンによるこの効果は、骨細胞中にある骨形態蛋白質-2(BMP-2:bonemorphogenetic protein-2)と呼ばれる遺伝子の発現を増加させることによって生じるとされています。(ロバスタチン、シンバスタチン、メバスタチン、フルバスタチン等にではこの効果が確認されています。)

 また、安全性の面からも、スタチン系薬剤については長年のわたり使用されてきていることから、その毒性プロファイルも許容出来るものであるとして、その臨床応用への期待されています。

 コレステロールを下げる目的で長期にわたってスタチン類を服用している高齢女性の骨密度は、対照群に比べて優位に高く、骨折の危険性も低いことを示すデータが、海外で報告されています。

 スタチン系薬剤の2年間のレギュラー使用は、50%以上の骨折リスクの減少に関与しているとされており、今後、無作為臨床試験によって確認されれば、スタチン系薬剤は骨粗鬆症の治療薬として位置づけられる可能性があります。

{参考文献}  ファルマシア  2000.7  医薬ジャーナル 2000.8
 


インフルエンザにスタチンが有効

ワクチンや抗ウイルス薬より安価

インフルエンザにスタチンが有効、但しこれは高価でインフルエンザ特効薬タミフルが使用できない発展途上国での話題です。

 スタチン剤はワクチンや抗ウイルス薬より安価なため、タミフルの入手が困難な国でインフルエンザでの使用が検討されています。

 米国感染症学会(IDSA)インフルエンザ大流行対策委員会 委員 Fedson博士の研究によりますと、インフルエンザと急性冠動脈疾患には関連があり、インフルエンザウイルスはヒトの血清で有害な炎症作用を引き起こすことが示されています。スタチンには心保護作用、抗炎症作用、有益な免疫調節作用があることから、インフルエンザ患者に有用である可能性があります。

 スタチンはさらに、インフルエンザ関連急性事象に対しても、心血管機能を著しく向上させるとされています。

 同博士は、敗血症と急性肺障害など致死的な感染症を発症した患者に対して、スタチンが好ましい影響を与える可能性があることを示すエビデンス得られたとしています。これらの疾患の感染性と炎症性の特徴の一部には、インフルエンザウイルスと共通するものがあり、今後の研究の必要性を強調しています。

 スタチンはワクチンほど有効なものとはならないものの、スタチン系薬剤は安価で入手できるため、特に発展途上国などワクチンや抗ウイルス剤が高価で入手しにくい国での使用が考えられます。

     出典:メディカル トリビューン 2006.8.17


<<用語辞典>>

pleiotropic effct

多面性効果

 HMG−CoA還元酵素阻害剤は、血清トリグリセライド低下作用により動脈硬化巣の進展予防効果だけでなく。血管構成細胞に直接作用して血管反応性の改善作用や抗炎症作用等の様々な作用を示すことが報告されています。


臨床骨折


 この言葉は、FDAが発行した骨粗鬆症のガイドラインの中に登場していたclinical fractureの直訳から派生したようです。

 昨今、欧米で行われた骨粗鬆症の臨床試験で非外傷性脊椎骨折と臨床骨折が試験のエンドポイントとして扱われたことによります。この概念から臨床骨折を定義すると「骨粗鬆症患者に見られる骨折の中で非外傷性に発生した脊椎骨折を除く、前腕骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折、大腿骨頸部骨折など四肢骨に発生した骨折と、明らかな外傷性の脊椎骨折」ということになります。

 したがって、脊椎堆体の臨床骨折は骨粗鬆症患者に外傷性に発生した脊椎骨折の総称で、通常見られる脆弱性骨折の対語ということになりますが、そもそも非外傷性と外傷性の定義が曖昧であるために、非外傷性脊椎骨折と外傷性脊椎骨折の境界も不明瞭です。

 現在、日本で行われている抗骨粗鬆症薬を用いたOF studyでは、外傷性脊椎骨折という言葉を理解しやすくするために、「若年女性と同等の骨量を有するものであっても発生するような強い外力による骨折」を外傷性脊椎骨折と定義しています。簡潔で理解しやすいのですが、若年女性の骨量を有するものがどの程度の外傷を受ければ骨折するのかがイメージしにくいのでこれでも判然としないのは事実です。

   出典:オステオアゴラ 2003冬季号 メディカルレビュー社



MedDRA

グローバリゼーション(4)

 MedDRA:Medical Dictionary for Regulatory Activitiesとは、国際的な医薬品用語集のことです。 (メデュラと読んでいるようです。)

 日米欧間の医薬品情報のやりとりで用いられる医薬品用語を定めた初の国際統一用語集で、医薬品規制に使用される副作用、効能、病態等の医学用語の標準化を目的として作成されたものです。

 医薬品の臨床試験や承認申請のための資料、さらには市販後の副作用調査および報告など、医薬品に関わる用語は、これまで、様々な用語集を組み合わせて使用されてきたため、データ検索や解析を複雑化し、各段階で得られたデータを相互に参照することを困難にしていました。

 また地域によって異なる用語集を使用すれば、相互のデータベースへの変換が必要となり、そのために時間的遅れや、データの損失またはゆがみを生ずる可能性もあり、国際間の情報交換が阻害される結果となります。

 たとえば、「肝機能障害」といっても具体的にどういう病態を現すのか国によってまちまちだったのです。また、分類する際に「肝不全」とどちらが階層的(次回で説明予定)に上位に来るのかなども議論となります。

 これらの問題を解決するため、
ICH(日米欧三極医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議)では医薬品規制に関わる薬事関連用語集の調和が検討され、約3年間の作業を経て、1997年7月にMedDRAが開発されました。

 しかし、この“MedDRA”という名前に決めるのにも色々あったみたいです。かつては、MEDDRA:Medical Dictionary for Drug Regulatory Affairsと呼ばれていたこともありますが、最終的にMedDRAということで落ち着きました。このように言葉を決めるというのは案外難しいものなのです。

 もちろん日本語版もあり、ICHによるメディカルターミノロジー活動の成果として「日本語版MedDRA(MedDRA/J)」が使用可能となっており、既に「医薬品副作用・感染症症例報告書」への記入はMedDRA/Jが推奨されています。今後、罹(り)病名が統一されると、電子カルテ、
DRGへと応用され、診療スタイルが様変わりする引き金になるとおもわれています。が、このMedDRAが、現在は有料、それもかなりの高額なのだそうです。このIT革命が叫ばれる中で無料化すべきだ思うのですが、、、、、

    
次回もMedDRAについて触れます。


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