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サイトカイン

 

 サイトカインとは、細胞という意味の「サイト」と、作動因子という意味の「カイン」の造語

 1969年、感作リンパ球を抗原で刺激したときに放出される物質をリンフォカインと呼んだのが、この方面の研究の始まりです。

 その後の研究によりサイトカインには
インターロイキン、増血因子、増殖因子などいろいろなものが含まれるようになりました。

 当初サイトカインの機能は免疫系の調節、炎症反応の惹起、抗腫瘍作用などが中心でしたが、最近では細胞増殖、分化、抑制といった生体の恒常性維持に重要な役割を果たす物質であることが明らかになりました。

 遺伝子ターゲッティング技術の導入により、サイトカインのヒト疾患の病態形式での役割が明らかとされ、その結果、サイトカインを標的とした治療法が考えられています。

{参考文献}医薬ジャーナル 2000.2等

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 サイトカインとは、細胞が産生する蛋白で、それに対するレセプターを持つ細胞に働き、細胞の増殖・分化・機能発現を行うものです。サイトカインの多くはその作用機序で命名されていますが、異なったものが作用が同じなために同じ名前で呼ばれたり、同一のものが複数の作用を持つため、異なった名前で呼ばれていまし。その混乱を避けるために、遺伝子が同定された物質として同一性が確立された場合にインターロイキン(IL)と命名し、さらに番号が付けられています。

 サイトカインの中で、白血球遊走作用があるものでお互いに類似したアミノ酸配列を持つものは、ケモカインと呼ばれます。それにはCXCケモカインとCCケモカインがあり、前者は好中球の、後者はリンパ球、好酸球の遊走に関わります。
IL-8は前者である。

主なサイトカイン

IL:
インターロイキン
CSF:コロニー刺激因子
SCF:幹細胞因子
TNF:腫瘍壊死因子
IFN:インターフェロン
TGF:変換成長因子
BMP:骨形成誘導蛋白
EGF:上皮成長因子
KGF:角質細胞増殖因子
FGF:線維芽細胞増殖因子
IGF:インスリン様成長因子
PDGF:血小板由来増殖因子
HGF:肝細胞増殖因子
VEGF:血管内皮細胞増殖因子
PF-4:血小板第4因子
GRO:
ケモカイン受容体CXCR2のリガンド
IP-10:ケモカイン受容体CXCR3のリガンド
MIP:マクロファージ炎症蛋白
MCP:単球遊走蛋白
RANTES:正常T細胞に発現する遺伝子産物(ランテス)

 サイトカインの生物学的活性を考える上で、その細胞間情報伝達及びその機能の多様性を理解しておかなければならなりません。

 サイトカインの情報は、細胞によって産生、分泌されたものが、それに対するレセプターを発現する細胞と結合子伝達されます。

 その機構には、
パラクライン、オートクライン、ジャクスタ・クラインの3つがあります。
しかし、サイトカインは、ホルモンと異なり、主として産生局所で極めて微量で作用する因子です。
そのようなサイトカインレセプターの結合によって発揮される機能は極めて多様で、サイトカイン産生細胞、レセプター発現細胞、その結合による機能発現には、複雑なネットワークが存在し、互いに機能を相補したり、制御することによって生体の恒常性を維持しています。

 サイトカインの中には、1つのサイトカインが他のものの産生を誘導するもの、それとは逆に抑制するものがあります。

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 ある種の細胞は一定の条件下で、生物活性を有する蛋白質性物質を細胞外に分泌します。このうち産生細胞がリンパ球(T細胞,B細胞,大顆粒リンパ球)である場合に産生される物質をリンホカインlymphokineといいます。

 しかし,多くの場合,マクロファージをはじめリンパ球以外の細胞からも同様の物質が産生、分泌されることが多く、それらを総称してサイトカインcytokineと呼びます。

 インターロイキンとはリンホカイン・サイトカインの一群で,リンパ球自身が産生し,リンパ球にはたらきかける液性因子humoral factorつまりリンパ球間の情報のやりとりを担う物質に与えられた呼称です。

 サイトカインの単離・精製・構造決定が進み,それまで生物活性の違いから,多くの名称で呼ばれていた因子を統合するためインターロイキンという呼称が順次与えられてきました。現在のところインターロイキンとしてIL‐1からIL‐18までが知られています。しかしこれらのうちIL‐1やIL‐6などは、リンパ球系以外の細胞からも産生され、免疫系細胞以外にも作用することが判明していて、今日ではインターロイキンという呼称はその本来の意味を失いつつあります。

 定義の混乱はそれらの活性の発見の経緯に起因しており、サイトカイン群のうち、主として免疫系細胞への作用を担っている物質群をリンホカイン、あるいはインターロイキンと呼ぶ場合もあります。


IGF
インスリン様増殖因子

 インスリンと類似の活性を持つ蛋白として発見されましたが、強い増殖因子作用があり、各種細胞の分化・増殖に重要な役割を果たします。心肥大誘発物質としても活性が強い。

        関連項目:温泉の効果発現機序〜IGF-1(インスリン様成長因子)を促進もご覧ください。
 

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PDGF
platelet-deriyed growth factor
血小板由来増殖因子

 PDGFはその名の通り、血小板に由来する増殖因子ですが、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞、またマクロファージなどの間葉系細胞で産生されます。トロンビンやPMA(phorbol myristate acetate)、TGF-β、アンジオテンシン2などがPDGFの産生を刺激します。

 PDGFは繊維芽細胞や血管平滑筋細胞の遊走因子として働くばかりでなく、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞で産生された後、オートクリン的あるいはパラクリン的に血管平滑筋細胞の増殖を刺激します。したがって、胎児の発育や創傷の治癒に大きな生理学的意義を持っています。

 PDGFのB鎖は発癌や腫瘍の成長にも関わっています。最近では動脈硬化巣でPDGFが強く発現していることや、血管平滑筋細胞の中膜と4型コラーゲンの合成を促進することも知られています。特に、バルーン障害後の新生内膜での血管平滑筋細胞の遊走や増殖が抗PDGF抗体で抑制されることから、PTCA(経皮的経管冠動脈血管生成術)後などの再狭窄でのPDGFの役割が注目されています。

 またPDGF-B鎖のノックアウトマウスでは腎糸球体形成不全が生じることも明らかにされています。

         出典:循環plus 2002.9




白血球
ハッケッキュウ
white blood cell(WBC),leukocyte

 末梢血の血球の中で核を有する細胞で、多数集めると肉眼的に白色を呈することからこの名つけられました。白血球は起源や形態から、顆粒球、単球およびリンパ球に分けられ、顆粒球は更に好中球、好酸球および好塩基球に分けられます。正常人の白血球数は4,000〜9,000 /μLで,そのうち好中球は45〜65%を占めています。

 顆粒球と単球は骨髄で、リンパ球は主としてリンパ組織で産生され、成熟したものが末梢血に出現してきます。これらの各白血球は、それぞれに特有の機能をもっており、いずれも主として血管外に遊出してその機能を発揮します。例えば好中球は、遊走能、貪食能および殺菌能などにより主として感染防御に役立っています。

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好中球
neutrophil〔e〕
好中性白血球neutrophil leukocyte

 中性色素に染まる特殊顆粒をもつ顆粒球で末梢血中の白血球中、最も数が多い。好中性顆粒はリゾチームの一種。

 好中球の最も大きな役割は細菌などの有害物の貪食・除去。感染などの防御反応として生体に有利に働くだけでなく,組織傷害性に働くこともあります。

リゾチーム
lysozym, lysozyme
ムラミダーゼmuramidase

 リゾ(lyso;溶かす)、チーム(zyme;酵素)

 129個のアミノ酸からなる塩基性蛋白質。細菌細胞壁を構成する糖の連鎖を加水分解することにより細菌の細胞壁を消化して殺菌します。

 ペニシリンの発見者A. Flemming(1933)により見いだされた溶菌酵素。
鼻汁,涙,唾液,血清,組織,食細胞のリソソーム顆粒中などに広く存在します。さらに卵白、植物の分泌物や組織にも含まれ、枯草菌などの細菌によっても産生されます。

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好酸球
eosinophil

 顆粒球の一種。正常の末梢血で、白血球全体の0〜8%(平均3%)を占めます。アレルギー性疾患、寄生虫症、皮膚疾患、PIE症候群などでの好酸球増加は診断に重要な所見です。好酸球は、好中球と同様な走化能と貪食能を示しますが殺菌能は劣り、その他の機能については不明な点が多い。

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好塩基球
basophil

 白血球の中で、普通染色の塩基性色素により暗紫色に染まる大型の顆粒(好塩基性顆粒)をもつものを好塩基球といいます。正常人で白血球の約0.5%含まれます。顆粒の中にはヒスタミンやヘパリンなどが含まれていて、アレルギー反応の際このヒスタミンの放出によりアナフィラキシーショック、蕁麻疹、気管支喘息などをひき起こすとされています。

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マクロファージ
macrophage
大食細胞,大食球,貪食球

 貪食能(食作用)を有する大型細胞で、全身臓器組織に広く分布します。通常は炎症局所などに遊走してくる球状のfree macrophageをさす場合が多い。

 形態はその機能相により異なりますが、一般的にやや小型円形核と豊富な細胞質を有し、多様な貪食空胞の存在や発達した細胞膜微絨毛などを特徴とします。機能的には細菌などの外来性の異物、生体内の老廃物を貪食、消化します。また抗原物質を取り込んで,抗原情報をリンパ球に伝える抗原提供細胞として働くほか、リンパ球の出すリンホカインインターロイキン)によって活性化し、標的細胞破壊など細胞性免疫の効果細胞(奏効細胞)として働きます。

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リンパ球
lymphocyte
同義語:免疫細胞immunocytes

 直径8〜12μm(大リンパ球と小リンパ球がある)の球形細胞。

 胸腺・骨髄・脾臓・リンパ節・扁桃・Peyer板・虫垂などのリンパ組織に豊富に分布します。末梢血白血球中に占めるリンパ球は約30%前後ですが、リンパ液においてはほとんどリンパ球で占められています。非常に運動性があり、位相差顕微鏡でアメーバ様の動きがみられます。

 リンパ球は生体防御では重要な細胞で、抗体産生・遅延型過敏反応・同種移植片拒絶反応などの、免疫応答を担っています。細胞性免疫に関係するT細胞、液性免疫に関係するB細胞、非特異的キラー活性をもつNK細胞(ナチュラルキラー細胞)に区別されますが、形態上では区別できません。B細胞には細胞表面に免疫グロブリンが、T細胞ではTCR(T cell receptor)が抗原特異的受容体として働きます。


HGF

出典:治療1999.1増刊号

 肝細胞増殖因子:Hepatocyte Growth Factor

 1980年代の後半に肝再生因子として発見され他物質。種々の肝傷害や腎傷害にともなって傷害細胞臓器及び肺などの間葉系細胞で産生され、オートクライン・パラクライン・エンドクリン機構によって障害臓器に供給され、障害臓器の上皮系細胞に働き、再生を促すことが知られています。

 また臓器傷害を軽度に抑える保護作用、さらには上皮細胞-間葉組織間での相互作用を持ち、組織器官の恒常性維持に重要な役割を果たしています。近年、循環器疾患、代謝疾患などでも重要な病態整理学的意義を有することが次々に明らかにされ、多くの注目を集めています。

<糖尿病性血管内皮障害のトリガーとしてのHGF>

 血管内皮機能の異常が起こる疾患に関して、高血圧や心肥大などが考えられますが、非常に大きな内皮機能障害を合併する疾患として糖尿病があります。高血糖になると内皮細胞は死んでいきます。細胞死はマンニトールやL-グルコースなどの浸透圧コントロールでは起こらず、D−グルコースによる高血糖に特異な現象です。

 D-グルコースによる高血糖にHGFを加えておくと、内皮細胞死を防ぐことが出来ます。高血糖による内皮細胞死もアポトーシスによって起こっており、高血糖によるアポトーシスもHGF投与によって抑制される。すなわち、高血糖による内皮細胞死に対するHGFの抑制作用は、単に細胞死を抑制するだけではなく、アポトーシスに対しても拮抗的に働くためである。


ケモカイン

出典:JJSHP 2000.12

 ケモカインとは、白血球走化に対する作用(ケモタキシス)を有するサイトカインの総称
 ケモカインは炎症部で大量に産生され、血管内から炎症組織内への白血球の遊走をもたらします。

  走化性〜インターロイキン8など特定の白血球に作用し、その物質の濃度勾配の方向に白血球を遊走させる活性。

 他のサイトカインが、標的臓器の血球に対して分化増殖作用も併せ持つのに対して、ケモカインは標的細胞の分化増殖にはほとんど関与せず、遊走活性化作用のみを有します。

 白血球走化性は免疫生体防御反応に重要な役割を有していることから、ケモカインはアレルギー性炎症、自己免疫性炎症などに深く関わっていることが予想され注目されています。

 現在これまでに、50以上にも及ぶケモカインが同定されています。

 ケモカインの構造は92〜99子(分子量8,000〜10,000)のアミノ酸から構成されていて、それぞれがジスルフィド結合する4つのシステイン残基を保有しています。 (CXC,CC,CX3C、C)

 CXCケモカイン:システイン残基の間に他のアミノ酸が1つ介在〜主に好中球

 CCケモカイン:介在するアミノ酸がない〜単球、リンパ球、好塩基球、好酸球に走化作用を示し、その中で、RANTES、eaotaxin、MCP−4などは好酸球に強い遊走能を持っています。

 また、走化作用以外にも接着分子の発現、血管新生の抑制、脱顆粒、ヒスタミン有利、抗腫瘍活性増強、さらに増血や器官形成への関与なども明らかになりつつあります。

 ケモカイン受容体は、いずれもG蛋白共役型受容体ですが、白血球の種類により発現する受容体の種類が異なっていることが知られています。

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モノカイン
monokine

 単核性食細胞(単球やマクロファージ)が分泌する種々の生物活性をもつ高分子の総称で、通常プロスタグランジンのような低分子を含みません。

 リンパ球より分泌されるリンホカインと対比して用いられます。

 単核性食細胞を、LPS(lipopolysaccharide)、抗原抗体複合物、リステリア生菌、活性化T細胞、リンホカインなどで刺激した際に産生分泌されます。

  インターロイキン1(IL‐1),腫瘍壊死因子(TNF),胸腺分化因子thymocyte differentiating factor(TDF),コロニー刺激因子(CSF)などが含まれます。


ミッドカイン

 ヘパリン結合性の成長因子あるいはサイトカインに属する塩基性蛋白質
ミッドカインの発現は発生中期に強く、生体組織での発現は一般に弱いか検出されません。しかし、組織が傷害を受けるとミッドカインの発現が誘導されます。

 ミッドカインは細胞の増殖、生存、移動などを促進し、組織の修復、そして癌をはじめとする疾病との関連で注目されています。

 大腸癌、胃癌、肝癌、前立腺癌など、多くのヒト癌の80%程度の症例で、ミッドカインの発現が上昇します。ミッドカインは、癌の増殖、浸潤さらに化学療法薬に対する抵抗性に関与しています。

 また、血清中のミッドカイン値は癌患者で上昇し、腫瘍マーカーとしても有望です。さらに、ミッドカイン遺伝子のプロモーター領域は癌組織に有害蛋白質を発現されるために利用されています。

 ミッドカインは炎症部位への白血球移動を促し、リウマチ、虚血時の血管の新生内膜形成、虚血あるいは抗癌剤投与時の腎障害、手術後の癒着に関与します。ミッドカイン遺伝子欠損マウスではこれらの症状か軽減されます。ミッドカインに対するアンチセンスDNAなどには治療あるいは予防効果があります。

 一方、虚血時の心筋細胞死、網膜変性、虚血後の心筋細胞の遅延細胞死はミッドカイン投与により、防止あるいは進行を遅延させることができます。

 ミッドカイン蛋白質を医薬品とする研究も進んでいます。

  出典:メディカル・トリビューン 2007.2.8 愛知学院大心身科学部健康科学科 松村 喬

 

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