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インターフェロン

1990年7月15日号 No.68

   インターフェロンが、最初に発見されてから、既に40年近くなります。この間、インターフェロンの性状、産生機構、ウイルス増殖抑制機構が明らかにされる一方、生体での免疫系への関与、細胞増殖抑制作用など、インターフェロンの多面的生物活性も解明され、生体の非特異的防御機構の一翼を担うのみならず特異的防御機構へ大きく関与する重要な因子として理解されるようになってきました。

     {参考文献}薬局 1990.6

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インターフェロン(IFN)の性状

1.正常の動物、あるいは培養細胞はIFNを産生していない。

ウイルス、あるいは他の微生物(細菌、リケッチア、クラミジアなど)、微生物の体成分または代謝産物、RNAなど合成化合物、植物成分など多様な物質による誘発によって、細胞の持つ遺伝情報に基づいて産生され、細胞外に放出される糖蛋白

2.IFNは直接ウイルスを不活化しない。

細胞に働いて、その細胞を抗ウイルス状態にして、ウイルスの増殖を抑制する。  

抗ウイルス状態になった細胞は、ウイルスのその細胞への吸着侵入の段階を阻害せず、それ以後のウイルス増殖を抑制する。

3.IFNは、それを産生した細胞と同一種の動物、ないしは培養細胞で効果的に作用を現し(種特異性)、ウイルスに対しては特異性を示さず、広い抗ウイルススペクトルを持つ。

すなわち、ヒトにはヒト-インターフェロンを用いなければ効果が弱い。

4.IFNの多面的生物活性: 生体の免疫系調節因子として作用、細胞増殖抑制作用など

*IFNの抗腫瘍作用の機構は未だ明らかではありません。腫瘍細胞の蛋白質やDNA合成を抑制する作用の他に、IFNの免疫系調節因子としての作用が関係していると考えられます。

IFNの種類            分子種の数 安定性(酸) (熱)

    I型  α型〜白血球由来  15種以上 pH2大   56℃ 大   

       β型〜線維芽細胞由来 1種      大      小  

    U型 γ型〜免疫IFN   1種      小      小

            

 マイトジェン(注)や抗原などの刺激によってTリンパ球から分泌される。

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(注)マイトジェン

 休止期(G0期)にあるリンパ球を抗原非特異的に(多クローン性)に刺激して芽球化させ,分裂増殖を促す物質の総称.

 Con A(コンカナバリンA*concanavalin A), PHA(phytohemagglutinin), PWM(pokeweed mitogen)などの植物レクチンのほか,LPS(lipopolysaccharide), PPD(purified protein derivative 〔of tuberculin〕),dextran sulfateなど多くの物質がマイトジェン活性を示す.

 Con AやPHAはTリンパ球を,LPS, PPD, dextran sulfateはBリンパ球(マウス)を,PWNはT, B両リンパ球(ヒト)を刺激する.


<<医学用語辞典>>

MS
multipele sclerosis

多発性硬化症

出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.8


 MSは若年成人を侵し、中枢神経系の骨髄が傷害される炎症性脱髄疾患です。
脳、脊髄、視神経に脱髄斑が多巣性に出現するために、中枢神経白質の障害に基づく神経症候が再発と寛解を繰り返すという空間的時間的多発性を特徴とします。

 欧米白人では10万人に対して40〜100人ほどであるのに対して、日本人ではその約1/10と低く、アジア人種では視神経・脊髄が選択的に障害される視神経脊髄MSが多いと言われています。

 MSの発症は20〜30歳代に多く、1:2で女性に多く見られます。臨床経過による分類では再発寛解型は80〜90%を占め、感覚障害、視神経炎、Lhermitte徴候(頸部を前屈した際の電撃痛)、運動麻痺、小脳失調、直腸膀胱障害等の症状で再発し、臨床的に再発を繰り返します。その後に明らかな再発なしに次第に増悪進行する二次性慢性進行型へと移行する例もあります。(欧米白人のMSでは再発寛解型と異なり発症時より慢性進行性の臨床経過を示す一次性慢性進行型MSが10〜20%に見られます。)

MSの病因

 明らかではないものの、遺伝的素因と環境因子を背景にして、ウイルス等の感染を契機に中枢神経髄鞘抗原を標的とした自己反応性T細胞が活性化され、中枢神経内へ侵入し脱髄炎を起こす自己免疫機序が想定されています。また遺伝的素因の1つとしてはHLA(DRB1 1501、アジア型ではDRB1 0501)が関与しているものと考えられています。

* MSのインターフェロン療法

 インターフェロン(IFN)βにより動物実験で実験的自己免疫性脳髄膜炎誘発抑制、T細胞の活性化の抑制、T細胞サプレッサー活性増強作用が報告されています。欧米ではMSの治療薬としてβ製剤(β1aとβ1b)が一般に使用され始めています。

 IFNは細胞がウイルスに感染したときに産生される抗ウイルス活性を持つ糖蛋白質の一種で、α、β、γ型の3種に分類されます。

 α、β型は構造的に一部の相同性があり。1型IFNともよばれ2型IFNであるγとは化学構造的に全く異なります。

 IFNβは抗ウイルス活性の他に細胞増殖抑制作用、抗腫瘍効果、NK細胞活性化、免疫調節作用を持つサイトカインです。

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2006年2月1日号  No.422

弟妹との接触がMS発症を低減

 兄弟姉妹がいると乳幼児期により多くの感染症にかかる可能性があり、兄弟姉妹との接触が無ければいくつかの免疫障害に関連します。

 これは、衛生仮説と呼ばれている説で「乳幼児時期感染はアレルギー性障害と自己免疫障害のリスクを低減し、免疫系の発達に影響を与える。」というものです。

 乳幼児は一般的ウイルスの感染源になりうることから、弟妹の存在は重要なのです。
活動性ウイルス感染への再暴露は免疫増強を引き起こし、IgG抗体陽性の場合はその抗体価が上昇することが知られています。さらに抗原刺激はB細胞系の親和性成熟を誘導し、T細胞表現型とT細胞受容体の多様性に影響を及ぼします。

 のちのMS発症を予防するために、ウイルスを誘導する引き金になるものに対して、高度に発達した免疫応答の獲得が必要であるとするなら、こうしたことが有利に作用する可能性があります。

 乳幼児期感染率の経年的な低下に伴い、近年MSの発症率が明らかに上昇していることも含め、MSの発症の特徴から、乳幼児期の感染症罹患がMS発症の予防的役割を果たしていると言えます。

※ 年齢差が6歳を上回ると低減効果は無い。

 6歳までに経験する乳幼児接触年数はMSに強く逆相関し、兄姉数、全兄弟姉妹数、母乳非摂取歴などは相関しませんでした。

    出典:Medical Tribune  2005.6.23


2002年5月1日号 336

インターフェロン療法の落とし穴

   {参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2001.8

      ルイ・パスツール医学研究センター理事長 岸田網太郎

 生物にとってIFNは自分自身で作り出すものであって、他から「薬品」として与えられるものではありませんでした。しかし人類は、前世紀初頭の大発見である化学療法や抗生物質に酔って、抗ウイルス物質としてIFNを捕らえて、使用し始めました。自ら作り出す「ホルモン」にも似たIFNを外から与える効果は一応成功しつつあります。

 しかしこの考え方は根本的に疑問です。それは化学療法や抗生物質のターゲットが病原菌であるのに対し、IFNは自らの細胞がターゲットであるからです。

 免疫の場合の受動的な血清療法も、能動的なワクチン療法も、ターゲットは病原体であって自らの細胞ではありません。IFN系はこの点も特異的免疫療法とは異なっています。

 ヒトのIFNそのものは本来ヒトか猿にしか効かないので、マウスやラットで実験することはできず、最初からヒトでの治験を必要とします。各種のIFNは、その効果を疾病を持つ患者で行うことになりました。そこに重大な見落としが生じているのは、化学療法などのように大量投与すればするほど効くに違いないという研究者の焦りがあって、ヒトの免疫系や生体内の正常なバランスや神経系の微妙な反応をほとんど無視して治験が行われたことです。そのために多くの副作用が発見され用量の問題がやっと論じられようとしています。

(原則としては同じ種のIFNは同じ種にのみ有効と考えられていますが、この原則にはずれた効果も確認されています。しかし小さいとは言えIFNは蛋白または糖蛋白ですから、種が異なるものの間で使用し続けると抗体ができて効力が減退するものと思われます。)

 そして、IFNの種類や亜型の多いこと、特にα型は28個もあることに生物学的な意味があるものと推測されます。

 α、β、(ω)、γは常に生体内ではバランスを取りながら産生され働き、各生体細胞とのバランス、つまりネットワークを保ちながら存在していますので、そのうちの1タイプ(亜型等)を外部から大量投与することは生体内バランスと免疫系のネットワークを破壊することにつながるかもしれません。

 α型に多くのサブタイプがあることは、それなりに1つ1つに意味があるからで、生物は進化してこのサブタイプを今も持ち続けていることを無視してはなりません。生物は過去何億年の進化の過程で不要なものを「速やかに捨ててきた」からです。



<<イフナック療法>>

IFNANK療法

IFN actvatet NK細胞

 インターフェロン(IFN)で活性化したNK細胞による治療と予防法

 体外循環4Lの患者血液から約50億個の白血球を連続的にバッグに集め、そこに1バック(約250mL)に天然型α型IFN10万単位を投入し、2〜3時間以内に患者に返す療法

 バッグの中にはマクロファージ、NK細胞、T・Bリンパ球が混在し、まずNK細胞から順次すべての白血球を活性化させます。

 この方法の有利な点は、攻撃する側のNK細胞やリンパ球に武器を持たせ、癌細胞やウイルス感染細胞を丸腰にすることができるからです。IFNを全身投与するとターゲットの癌細胞等も自己を回復しNK細胞等の攻撃に抵抗することができるからです。

 まず50億個もの白血球を活性化して直ちに返す方法はこれ以外になく、副作用は全く出現しないだけでなく、この方法でベータ・エンドルフィンが産生されるため患者の気分が爽快になり、延命にもつながります。


<IFN産生能>

 ウイルス感染や発癌時、すなわち「いざ」というときにどれだけのIFNが各人で産生されるかを予め測定する方法。

 IFNを必要以上の量で使用すると、患者は副作用以外にIFN産生量とNK活性の低下するようになります。

 少なくとも少量で12ヶ月以上使用すれば副作用なく癌や肝炎に有効性が高いと最近報告されています。

出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.8
 ルイ・パスツール医学研究センター理事長 岸田網太郎


PEG−IFN
ペグインターフェロン

 インターフェロン(IFN)にポリエチレングリコール(PEG)を結合させたものが、PEG−IFN;peginterferonです。PEGを結合させることで血中消失半減期を延長させる。週1回の投与で有効血中濃度が維持できるようになりました。

PEG:Polyethien Glycol ペグとは合成高分子ポリエチレングリコールの略で、不揮発性、無臭で、免疫原性や毒性等の悪影響を及ぼさないという性質を持っています。ペグ化は、蛋白質にペグ分子を結合(修飾)させて体内動態変化させる、DDSの手法の1つです。

 水性溶媒注でPEGを高度に水和するとPEG鎖の可動性が向上するため蛋白の周りを極めて早く動き回ることが可能となり、血液中の蛋白分解酵素の接近を妨げる「排除体積」という空間が形成されます。

 この排除体積の形成で、蛋白分解酵素による分解が減少し、ペグインターフェロンの特徴となるt1/2の大きな役割を果たしています。

 またPEGは非免疫抗原性という特徴を持つため免疫防御システムから検知されにくくなり、抗原性も低下すると考えられています。

 海外では、PEG−IFNα2aとa2bの2製剤がC型慢性肝炎治療薬として承認されています。現在のIFNは、連日あるいは週に数回の投与を要しますが、PEG−IFNは週に1回で血中濃度も高く長く維持されるため、効果も従来のものよりも優れています。しかし、投与終了後のC型肝炎ウイルス(HCV)の再出現率は高いとされています。

 各種の酵素などの蛋白質を治療薬とする場合、特に注射によるアレルギー反応や中和抗体産生による効力低下等の問題があります。そこでこのような蛋白質を医薬品とする際に、免疫原性や毒性のないPEGで蛋白質を化学的修飾するpegylationにより、蛋白質の効力を損なうことなく抗原性を低減し、分子量を増やすことで体内半減期を延長させるなど、薬効の増強を研究した中から創製されたものです。

 最近、国内でも抗ウイルス薬のリバンビンが承認されました。IFNはリバンビンとの併用でHCVの持続陰性化率を高めます。再発例でも両者の併用が有効です。現段階では最も効果の高いIFN療法は、PEG−IFNとリバンビンの併用とされ、国内で臨床試験も始められています。

  2005年追記:リバンビンとの併用が認められました。


 日本に多く、IFNの効きにくいHCVのgenotype Ibに対する効果が期待されています。


  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.5 & 2004.6

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コンセンサスインターフェロン

 出典:医薬ジャーナル 2002.8


 コンセンサスインターフェロンは、コンセンサスシークエンス理論に基づいて新たに開発されたインターフェロン(IFN)で、従来の1型(タイプ1)IFNと比較してタイプ1−IFNレセプターとの結合、親和性が高い特徴を持っています。

 開発段階で行われた臨床試験では、HCV遺伝子型1b型で高ウイルス血症を示す症例で、従来のIFNと比較して明らかに治療効果が良いとされ、コンセンサスインターフェロンは難治例に対する新たな治療法として期待されています。

  コンセンサスインターフェロンは、米国アムジェン社によって開発され、正式名称はIFNアルファコン1(γIFNαCon1)、商品名はアドバフェロンですが、本製剤のアミノ酸設計方法(コンセンサスシークエンス理論)から、一般的にはコンセンサスIFNと呼ばれています。

 IFNαには13種類のサブタイプが存在し、それぞれIFNレセプターの親和性、抗ウイルス活性が異なることが知られていました。従来から存在する遺伝子組み換え型IFN製剤は、13種類のサブタイプの中からIFN-α2a、IFN-α2bをそれぞれ1つ選択して遺伝子工学的に産生したものです。

 IFNアルファコン1は、13種類のIFN-αサブタイプのそれぞれのアミノ酸配列について、各位置で出現頻度の高いアミノ酸を選択すれば、より有用性の高いIFN製剤を開発できるかもしれないという仮説のもとにアミノ酸配列をデザインし、遺伝子組み換え大腸菌発現系を用いて産生しています。

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<各種インターフェロンのまとめ>

○ コンセンサスIFN(アドバフェロン)

 高用量を投与できる。
 治療終了時のウイルス陰性率が高い。
 ゲノタイプ1b、高ウイルス量のSVR率16.7%(24週間投与)

    (注:、ゲノタイプ1b:日本人に多いHCV、SRV率 HCV陰性化率)

 短所〜高度な血小板・白血球減少

○ ペグIFN  ペグ→毒性軽減、薬物動態を改善
 PEG(ペガシス)

  1週間に1回の注射
  ゲノタイプ1b、高ウイルス量のSVR率15.5%(48週間投与)

  短所〜高度な血小板・白血球減少(血液学的検査を頻回に行う必要がある)

○IFN/リバビリン併用療法

  ゲノタイプ1b、高ウイルス量のSVR率18.0%(24週間投与)

  将来は、コンセンサスやペグとも併用可能

○ 従来のIFN

  ゲノタイプ1b、高ウイルス量のSVR率 約40%(2年以上)
  ゲノタイプ2a、低ウイルス量のSVR率 約85%(24週間投与)

  副作用が比較的少ない
  長期間の治療が必要

      出典: 月刊薬事 2004.8 等

 

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