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[シリーズHLAを考える]


1994年5月1日〜1994年9月15日に連載したものです。
 
HLAを考える1 :<プロローグ>日本人はユダヤ人

HLAを考える2 :「血液型」

HLAを考える3 :「体質と病気」〜漢方の場合

HLAを考える4 :「HLA」と病気の関係

HLAを考える5 :「遺伝子にも住所があるのだ」

HLAを考える6 :「血の記憶」

HLAを考える7 :「アトピー:みんな社会が悪いんや(完結編)」

HLAを考える8 :「HLAの明日」

HLAを考える9 :「個の医学」

HLAを考える10 :エピローグ「日本人とユダヤ人」

このシリーズを書いてから、もう数年経ちました。このシリーズの目的は、「個の医学と現代医療」>の関係を考えるというテーマ(患者一人一人にあった医療を行うということ。)を追求したものです。

 最近、HLA以外でもこのテーマを持ったものが出てきましたので、下記を参考にして下さい。

SNP  *代謝多型(1) 、(2)



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シリーズHLAを考える@

「日本人はユダヤ人??」

日本人は不思議な民族です。民族的には、お隣の中国、朝鮮と最も似ている筈なのに、下記の点で両民族とは異なっているのです。

(1)1〜10までの数えかたがふた通りある。

(2)ひらかなとカタカナの二通りの文字がある。

( 3)日本を神国とか神州とか思っている人がいる。

(4)神社・鳥居は、日本独自のものである。

(5)東南西北(トンナンシャ−ペ−)とは言わず、東西南北(とうざいなんぼく)と言う。〜東南よりも東西方向を重視する。相撲でも「トザイ、トーザイと言っている。

 

  以上の謎は、かつて日本人はユダヤ人であったと仮定するとすべて解明できるのです。

 (1)いち、にい、さん、しいというのは、中国語のイ−,リャン、サン、ス−と本来は同じ音ですが、ひ、ふ、み、よはなんと古代ヘブライ語でしかも意味があるのです。(女神を呼び出す言葉で、ひとつふたつの「つ」は出てこいという掛け声です。)

 (2)ひらかなは漢字をくずしたものですが、カタカナと同じ文字が、イスラエルで発見されています。

 (3)ユダヤ教は、キリスト教やイスラム教の元となっている宗教です。ちなみにヘブライ語で「ヤ」というのは「神」という意味で、日本語で八重、八幡(やわた)、やおよろず、八坂など「や」が付く言葉で神社に関係しているものが多くあります。

 なお、ヤサカとはヘブライ語で神への信仰、そしてヤマト(YAUMATO)とは、神の民の意味です。

 (4) トリイとはヘブライ語で門を表すTARAAがなまったものと思われ、神社と鳥居はダビデ王の宮殿に似ています。

 (5)日本人は東西を重視するくせがあるのです。そして常に東(日の昇る方向)を目指しています。

 西は、古語で”いにし”と発音します。”いにしえ”とは、過去と言う意味で、つまり日本人は過去に西から東(ひんがし=日向かし)に移動して来たと考えられるのです。

 日本人=ユダヤ人説は、明治時代に日本に来た英国人によって提唱され、今でも日本とイスラエルの学者(物好き)によって、研究され続けています。

 かってユダヤには十二の部族がいましたが、エジプトに、奴隷としてつれていかれ、十戒で有名なモ−ゼによって開放されました。その際、イスラエルに帰ったのは二部族だけで、あとの十部族は、神に約束された地であるカナンを目指して、東に向かいました。

 常に日に向かって進んでいたため部族のリ−ダ−はヒコ(日子=彦)、ヒメ(日女=姫)と呼ばれ、海を渡りついに行き着いた所をヒムカ(日向)と呼びました。そして神武の時、さらに東遷し、ついに大和にやってきたのです。神武は、やまと言葉ではカム、ヤマト、イワレ、ヒコ、スメラ、ミコトと(創設  神の民   ヘブライの -- サマリヤの  神の世界)呼ばれていました。(  ) 内はヘブライ語での訳

 太秦(うずまさ)の地にはヤスライ(ヘブライ?)井戸なるものがあり、ダビデの紋章である星が描かれています。藤原氏はかつて中臣といい、さらに古代には天のコヤネであり、神主のようなことをやっていましたが、コヤネ(KAHANE)は祭司のことです。まだまだ類例は有りますが、きりがないのでこれくらいにします。

 日本人がユダヤから日本にやってきたというのは夢物語のようですが、ひょっとすると本当かもしれません。以上は、従来からの説に加えて、筆者独自の理論をまじえて考察したものです。無論、机上の理論にしかすぎません。

 しかし、この説を証明する方法があるのです。それがHLAです。次号からしばらくHLAについて考えてみたいと思っています。

 


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シリーズHLAを考える <第1回>

   〜血液型〜

 一頃、血液型による性格診断なるものが流行りました。あれは、なんら科学的根拠の無いものだということは、いまさら言うまでもないでしょう。それでもあえて言わせてもらうなら、ABO式の場合、血液型は2種類しかないということです。つまり、AとBとしか無いのです。

 O型は、オーと呼ぶから誤解の元で本当はゼロ型と呼ぶべきものなのです。ですからABO式の場合、A,B,AB,Oと4つあるのは、AとBの2種類の組合せだからです。

 さてこれからが本題ですが、当然のことながら白血球にも血液型があります

それがHLA(Human Lukocyte Antigen)です。

 白血球の場合は、その遺伝子座からA、B、C、D(その他にDP、DQ、

DR)があり、さらにそれぞれの抗原が下図(略)のように存在します。

 染色体は2本が対になっているわけですから、1人の人ではそれぞれの遺伝子座に2つの遺伝子を持つことになります。HLA−Aについては約20の中から2つ、たとえばA2とA9を、Bについては約50の中からB12とB35を持つというぐあいです。

 このHLAは臓器移植の時に、組織適合性を調べるのに利用されていることは、すでにご存じだと思います。1個人は8個の抗原を持っているわけですから、赤血球とはくらべものにならないくらい複雑になっています。臓器移植で、ドナ−(提供者)とレシピエント(被移植者)の組織が適合する確立は8!=約4万分の1といわれています。

 HLAの型が合わないと、拒絶反応が起こるのですが、この移植拒絶反応に関係する細胞表面の抗原のことを組織適合抗原といいます。その中で特に重要なものを主要組織適合抗原と呼んでいます。これらの抗原は遺伝的に定まるもので、染色体の一部に存在するいくつかの遺伝子が関係しています。そしてその遺伝子群を主要組織適合遺伝子複合体(MHC:major histocompatibility complex)といいます

 ですから人間では、この主要組織適合抗原は、HLA抗原であるわけです。HLAは白血球の血液型ということからはずれて、今や医療では、重要な意味を持つようになってきているのです。

 ところで赤血球の場合、A型の人はB型に対する抗体を、B型の人はA型に対する抗体を、O型の人は、A型とB型双方に対する抗体を必ず持っています。これを規則抗体といいます。

 血液の中には白血球や血小板が存在し、それらは独自の同種抗原をもっており、HLA抗原も存在します。それらの存在によって抗原抗体反応がおき発熱・悪寒・ショック症状がでることがあります。それらをさけるため、なるべく赤血球だけにした血液を輸血することが望ましいのです。

 血液型にはABO式以外にも赤血球型であと、11種、血清型で16種酵素型で12種、そして 白血球(HLA)で4種、更にそれぞれの、サブタイプが存在するので、任意2名の血液型がすべて一致する確立は943億分の1となります。

 ですから世界中探してもあなたと全く同じ血液型の人はいないのです。


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体質と病気(漢方入門)

 実は私が、HLAのことを知ったのは、漢方薬の勉強会でのことなのです。(十年以上前のことです)

漢方では、体質を重視していて、いわゆる「証」によって処方を決定しています。

陰陽虚実とかいう“ものさし”で患者さんの体質を見ていくのですが、その勉強会ではHLAをマ−カ−としてを用いていました。その時の説明を再現してみます。

『HLA抗原分布は免疫学的固体差(体質)を評価する一つのマ−カ−(指標)である。2年以上の観察によって柴朴湯および補中益気湯を使用した喘息患者122名のHLA−B5の分布を比較した。柴朴湯や補中益気湯の非良好反応群は良好反応群よりHLA−B5の分布頻度が高いことが明らかになった。これは、漢方方剤に対する反応を免疫学的に検討した点で興味深い。

日本漢方の「証」を判断するための患者の特性は

の両面が含まれている。これらを客観的に評価するために、HLAの抗原を調べることは意義がある。』正直言ってこのとき、私はカルチャ−ショックを受けたのです。現代医学は漢方薬よりも遅れているのではないかとさえ思いました。

 漢方の場合、病名にかかわらず患者のそのときの状態(証)により処方を決定しています。つまり同じ人で同じ疾患であっても、毎日患者さんのに状態は異なるはずなのです。したがって、同じ人で同じ病気であっても、そのつどで処方が異なる場合があります。(もちろん同じ場合もあります。)   

 現代医学の場合、同じ病気であるなら、違う人(年令・性別・体質が異る人)でも、同じような処方になってしまいます。これは、保険制度があるからで、病名が決まってしまうとそれにあった薬を使用しないと保険が、カットされていまうからです。

 現代医学では、体質のこと、またHLAのことをどのように考えているのでしょうか。次回は、ではその辺りを探ってみたいと思います。



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〜HLAと病気の関係〜

 HLAと病気の関係で知られているのは、B27と強直性脊髄炎、B5とベ−チェット病等が有名です。少し古いのですが、手元の資料でみてみますと下記のような例があげられています。

 疾患名    HLA抗原    相対危険率(注)

強直性脊髄炎  B27     87、4%

乾癬性関節炎  B27     37、0%

若年性関節炎  B27      4、5%

リウマチ性関節炎  Dw4      4、2%

        DR4      3、0%

IDDM    DR3      3、3%

(インスリン依存性糖尿病)  DR4      6、4%

急性前ブドウ膜炎  B27      10、4%

乾   癬   Bw57     3、0%

        Cw6      4、8%

ヘルペス性皮膚炎  Dw3     15、4%

ベ-チェット病    B5(Bw51) 6、3%

尋常性天疱瘡  DR4     14、4%

慢性活動性肝炎 B8       3、0%

        DR3      2、2%

重症筋無力症  B8       2、7%

        DR3      2、7%

特発性膜性腎炎 B8       2、3%

        DR3      5、6%

亜急性甲状腺炎 B35     13、7%

(10年以上前の資料ですので、参考としてご覧下さい)

{病気がHLAと関連する理由}

@   連鎖不平衡:ある病気の患者群について血液型を調べたとき、ある特定の血液型の遺伝子が正常の集団よりも有意に高い頻度でみられた場合をいう。このことは、とりもなおさず、ある血液型遺伝子と主要病因遺伝子が染色体上でかなり近い位置に存在していることを示してます。

連鎖不平衡

異なった遺伝子座にある対立遺伝子の間で、その組み合わせがランダムになっていない状態。つまり連鎖が見られる状態のことで、集団内のハロタイプ(同一染色体上の対立遺伝子の組み合わせ)分布に関する概念

集団内のハロタイプ頻度が、各対立遺伝子の頻度の積で表されるとき(独立であるとき)を連鎖平衡といい、これからずれを生じる場合を連鎖不平衡といいます。

このずれの値(連鎖不平衡係数)は、連鎖不平衡の尺度として用いられます。
連鎖不平衡を利用して、疾患関連遺伝子の同定などが行われています。

Aある組織適合抗原を持っている固体は、特定の抗原に対して非常によく反応し、別の組織適合抗原を持っている場合には、その抗原に対してあまり反応しないという現象が知られています。たとえば特定の微生物に対する免疫学的な防御機能に欠陥が生じるということがあり、その微生物の感染が重くなります。

ウイルスのように複雑な抗原を持たない場合、EBウイルスを排除できない家系が実際に見つかっています。

 

(注) 相対危険率

特定のHLA抗原を持っている人が、持っていない人と比べて、その疾患に罹る可能性の増加率

相対危険率=(患者で抗原を持つ人)×(対象者で抗原なし)/(患者で抗原のない人)×(対象者で抗原あり)



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  第4回  〜遺伝子にも住所があるのだ〜

1994年7月1日掲載

 ついに買ってしまったのである。いやあ地図ってこんなにもすばらしいものだったのですねえ。

 去年のクリスマスプレゼントに子供に買ってやったファミコンの話なのです。実はそれから半年以上たっても1面もクリ−ア−できなくてついにマリオマップを買ってしまったのです。

 それから私は(子供ではなく私が、必死になってやっているのでした。) 数日で、4面まで行ってしまったのです。マリオマップには1UPキノコとか無敵マリオになるアイテムがどこに隠されているのかが全部書いてあるのですいすい前に進むことができるのです。 

 医学の世界でも、これと似たようなことが起こっています。遺伝子工学的手法の進歩によって、遺伝子が乗っている染色体上の場所、いいかえるとその住まいの番地までもをはっきりと確かめられるようになってきました。そしてHLAの遺伝子を目安にすれば、まだ住まいが全くわかっていない色々な遺伝性疾患の発病に主要な役割を果たしている遺伝子の居場所をつきとめることができるようになるということです。

 HLAには、A,C,B,D(DR,DQ,DP)があり、これが1本の染色体上に、この順序で並んでいます。これをHLAハロタイプといいます。

 HLAのA,B,CはクラスT抗原と呼ばれており、T細胞(Tc)が異種細胞の細胞表面抗原を認識する時、クラスT抗原と一緒に認識することが必須となっています。したがってクラスT抗原はほとんどすべての細胞の膜表面上に存在しています。

 ところがHLAのDP,DQ,DRはD領域に属しクラスU抗原と呼ばれています。このHLA−D領域の抗原は、B細胞、マクロファ−ジ、活性化T細胞や血管の内皮細胞などに限局されています。 

 HLA−Dは、免疫応答を支配し、自己免疫疾患との関係が、取り沙汰されています。

 慢性関節リウマチとHLA−DR4との関係は以前より知られていましたが最近の資料によりますとHLAーDRBI遺伝子の04/04が関節の破壊性病変

 04/01 が臓器病変と関連することがわかりました。この04/04、とか04/01とかも番地と理解すれば良いでしょう。(??誰か教えて)

 ところで、マリオマップを買った書店で、どこかで見たような中年の男性がやはり、他のファミコンの攻略本を物色していました。後で、考えたら下の階のご主人でした。同じ住所に住んでいる者は、同じような行動をする、これはHLAと病因遺伝子の関係と同じだなと納得した次第です。


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  第5回   〜血の記憶〜

 エンヤラヤ−、、、祇園祭りがやってきました。この祇園祭りを見たあるユダヤ人は、この祭りこそ日本人がユダヤからやってきた証拠だと思ったそうです。

 ギオンとはシオン(イスラエルの別名)のことではないのか、また八坂(ヤサカ=古代ヘブライ語で神への信仰)神社の紋の中心に描かれている十字に組み合わされた巻き物は、ユダヤのト−ラではないのか。(ト-ラとは、ユダヤの立法書、「トラの巻き」という言葉はこのト-ラに由来するとか、、、?)   槍鉾、舟鉾などの山ぼこ巡行は、ユダヤから日本までの移動の過程を表している。7月15日は、あのノアの大洪水の終わった日である。疫病祈願は、ソロモン王が初めて神殿を作ったときに行なわれた行事である。などなど、、、またエンヤラヤ−、ヤットコセ−(伊勢音頭)といった意味不明の囃し言葉も古代ヘブライ語だといいいます。岩手県のナギヤドヤラなどは特にそういった意味で有名です。(出エジプト記の神を讃える歌であるそうです。)そして決定的なことに、京都すなわち平安京をヘブライ語に訳するエルサレム(平安なる都)に成ってしまうのです、、、、、、、

果たして、本当に日本人はユダヤから来たのか、結論はもう少し待っていただくとして、今回は何故HLAが、人種と関係しているのかを解説してみたいと思います。

 血液型遺伝子を用いた人類学的な解析にあたっては、ハ-ディ・ワインバ-グの平衡ということとが基本にあります。

 それは、「無選択結婚の行なわれている集団では集団内の遺伝子は毎世代変わらず永く平衡が保たれる」ということです。このことは、一つの大きな集団(国民)の中では血液型の遺伝子頻度は一定の平衡状態が保たれていて、他の大きな集団(他国人)との混血などが無い限りは遺伝子頻度は変わらないということです。

 分かりやすい例でいいますと、日本にはATLウイルスのキャリアが九州から北海道までの各地に住んでいますが、中国にはこのATLウイルスのキャリアはほとんど見られず、朝鮮に少しと旧満州やシベリア、さらに北モンゴルに見られています。このATLウイルスキャリアは縄文後期に日本に住み着いた人々であると考えられています。

 ある人種(民族)が新しい環境に移住してそこに適応していくためには、様々な要因の中でもとりわけ感染症に対して抵抗性を持つような免疫学的な機構が整っていることが必須です。また東南アジアの人々は極めて高い頻度でGmafb1-b3という遺伝子(注)を持っています。この遺伝子はマラリアへの抵抗性と深い関わりを持っており、黄色人種はこのGm型遺伝子で分類可能であるとする説もあります。

 HLAの場合、更に、各民族での抗原特異性を有していることがわかっています。日本人では、HLAのDR2,4,DRw9が高頻度でみられ、DR3,7,10はまれです。またA1,3,B8は日本人では存在しません。Aw34,36,42,43はBlack Antigenと呼ばれ黒人にのみ存在するHLAです。

(注)Gm型〜血液型の一つで、IgG抗体1、2、3の中のアロタイプ=>同じ種類の中で見られ、遺伝的に決定される抗原の違い。


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   第6回 「アトピ−」   みんな社会がわるいんや  完結編

                                   

 アトピ−(atopy)とは、a=無+topy=場所「分類上場所が無い、奇妙な」という意味で、同じ原因物質に暴露されても、病気になる人とならない人がおり、また、いきなりアレルギ−症状が現われることなどが、普通の抗原抗体反応と異なることから命名されたものです。

 アトピ−、花粉症につきましては、いままでこのコ−ナ−で考察を重ねており、共にIgEが関与しており、寄生虫との関連等が考えられることを示唆してきました。即ち、IgEなる抗体は、寄生虫用の抗体であり多量の分泌物により、寄生虫をやっつ ける為のものだったのです。(薬剤ニュ-NO.140)  

 寄生虫が居なくなったのは、ほんのここ十数年のことなのです。それまで何万年もの間、IgEを作り続けていたものを、そんなに急にやめられるはずはなく、現代人にとってIgE抗体は、単なる厄介ものでしかなくなってしまったのです。

 アトピ−を含むアレルギ−性疾患では、IgEの生産過剰とともに、サプレッサ−T細胞が減少していることが明らかにされています。実は、このことは重要な意味を持つのです。  

 サプレッサ−T細胞につきましても、以前、「シビリアンコントロ−ルと免疫」と題し、最後の海軍大将井上成美にこじつけて書いた事があります。(薬剤ニュ-スNO.142)繰り返しますと、T細胞は海軍のエリ−トとも呼ぶべきもので、B細胞(連合艦隊)に司令をあたえる働きをしています。なかでもCD8の階級章をもつT細胞は、超エリ−トでキラ−Tと呼ばれます。

 このキラ−Tと同じCD8を持ちながら、B細胞に抗体の作るのを抑制さす命令をだすものがあり、これがサプレッサ−T細胞です。このサプレッサ−T細胞が少なくなるということは、いつまでも抗体を作り続けるということで、いわば、戦争状態が継続することにほかならないのです。 (そう言えば昔のガキ大将もサプレッサ-T細胞でした。ケンカを始めるのも止めるのも、タイミングを心得ていたものです。)

 アトピ−体質の人が先天的に、サプレッサ−T細胞が少ないのは、ある種のHLA−DQの欠落に関与している可能性があるというのです。[注]

 アトピ−等で、ステロイド剤の使いすぎから悪化をまねくことが多々ありましたが、これもステロイド剤が、免疫全般つまりサプレッサ−T細胞をも抑制しているからであると考えられるのです。

[注] 最近、HLAとは別のアトピ-遺伝子も発見されたそうです。第11染色体上にあり、主として母親経由で子供にアトピ-素因を伝えることが分かっています。      

      {参考文献}免疫の意味論 多田富雄著

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   第7回   HLAの明日

 

 このシリ−ズもそろそろ終わりに近づいてきました。しかし、まだまだHLAの研究は続いているのです。これからHLAの研究が進んでいくとどのようなことが解明されるのか紹介してみましょう。

(1)老化の機序の解明

正常健康高齢者は、HLA抗原のheterogenety(不均質度) が高いことが分かっています。このことは、内外因子に対してその宿主の応答遺伝子がhomo(均質)よりもhetero(不均質)の状態のほうが抵抗性が強いことと関連があります。つまり色々なHLAのタイプを 持っていたほうが、様々な病原菌に対しての抵抗性を持つと考えれば理解できます。この事実はこれからの医学、更には環境医学の方面に大きな示唆を与えています。

(2)発癌機序の解明にも関与

癌細胞上にもHLA抗原が存在します。またウイルス感染の発癌には、ウイルスとその宿主細胞とのHLArestriction(拘束・制限)が必要とされています。

(3)成分輸血時のクロスマッチ

 HLAのマッチングにより、GVHD等の輸血時の副作用が防げます。

(4)法医学への応用

 HLAは個人の標識と言ってよく、ABO式よりも正確で、法廷での証拠には決定的です。また親子鑑定でも100%正確に断定できます。

(5)妊娠

不妊、避妊対策へのアプロ−チになります。夫婦間のHLA抗原が不一致の場合、習慣性流産が多いとの報告もあります。

 妊娠現象(卵子内に精子が入ること)により、その母体に精子HLA抗原に対する抗体が産生されます。HLA抗原の検索とHLA抗体を考慮することにより、受精を人工的免疫学的操作で制御することが可能であると考えられています。


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  第8回(最終回?) 

 〜個の医学〜

 相変わらず暑い日が続いて、相変わらずビ−ルがうまいシ−ズンが続いています。でも世の中には、全くアルコ−ルがダメな人がいます。筆者の知人にも、体は大きいのにビールをコップ一杯も飲めない男がいました。 

 アルコ−ルも一種の薬物といえます。体内で薬と同じように吸収、分布、代謝、排泄されます。だとすれば、薬の場合でも同じ量を飲んだとして一人一人、効き目が違うということが、ひょっとしてあるのではないでしょうか。

 もちろん薬は、様々の臨床試験を経ていますから 大多数の人には、問題はありません。でもごく少数の人では、特定の薬が全く無効であったり、効果が出すぎたりする場合があるのです。

 体質とは、素質が後天的なもの(環境等)によって Modify(修飾)されたことで、素質とは遺伝による生まれ付きのものをいいます。即ち、素質は変化しませんが、体質は変化することがあります。漢方薬が体質改善薬と呼ばれるのはこの為です。

 BRMもDMARDsもこういった体質の変化をねらった薬物です。MはModify(修飾)のMです。

BRM=Biological Respons Modifier  

DMARDs=Disease Modifying Antirheumatic Drugs  

 現代医学はマスメディアであるといえます。つまり、現代医学はそれぞれの病気に対する処置方であって個々の病人に対するきめ細かなケアが十分とは言えない状況なのです。これは、以前にも述べましたように医療保険制度とも関係してきます。

 医療のス−パ−マ−ケット化とでも言ったら良いのでしょうか、大量の病人を短い時間で診療しなくてはならない現実では、マニュアルを作り、それにしたがって対処していくことも必要にならざるを得ないのです。いやむしろそうすべきなのでしょう。

 以下は、東海大学移植学教室の辻公美教授の文章からの引用です。これをもってこのシリ−ズの総まとめに代えせていただきたいと思います。

 「現代医学はこの複雑な社会機構の上に立っているので、ややもすると個体の医学(それぞれの個人差に立脚した医療を行なうという意味)を忘れがちである。医師の”さじかげん”はこの点では”個体の医学”に裏付けされるものであるが、過去においては名医の経験に基づいて患者の対処が行なわれた。

 これを、科学的根拠に基づき患者の生体防御能をHLAを通じて把握し、それに応じて対応していこうというものである。   

 HLA検索を行なうことにより、個体の医学にマッチした医療が施行されることを望むものである」

この記事は、1994年9月1日号に掲載したものです。


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   エピロ−グ  〜日本人とユダヤ人〜

 イザヤペンダサンなるユダヤ人著が書いた「日本人とユダヤ人」が、ベストセラ−に成ったのはもうずいぶん昔のことです。実はこのイザヤペンダサンは、この本を出版した会社の社長山本七平氏その人であったことが、後年暴露されてしまいました。  

 この本のユニ−クな点は、日本人とユダヤ人がいかに異なった民族であるかを対比し、それによる日本人論になっていたことだったのです。

 この本は英訳されアメリカでも評判になったのですが、ユダヤ人たちはたちまちにこの本の筆者が日本人であることを見抜いてしまいました。なぜならこの本に書かれているユダヤ人は、旧約聖書の中のユダヤ人であって、現代のユダヤ人とはかけ離れていたからです。

 現代ユダヤ人が他国の民族、特に日本人と異なっている点がもしあるとすれば、それはハルマゲドンコンプレックスつまり人類の終わりのがを来るのを信じている事でしょう。誤解の無いように言いますと彼らはその時が来るのを待ち望んでいるのです。その時には、神の最後審判が行なわれ、神を信じる者は生者、死者を問わずに天に推挙され、再び神と伴に「至福千年期:ミレニアム」を迎えるからです。

 こんな事を考えている日本人は、一部の宗教に入っている人以外存在しません。多分、日本列島が住み良すぎて忘れてしまったのでしょう。その証拠に日本人は神社に詣でながら、神道とは何かを全く理解していません。その教義についても同様なのです。

 日本もユダヤ人も遥か昔には、今と違っていました。しかも過去において両者には共通点も有ったことも確かなようです。

 日本人は本当にユダヤからきたのかを解明すべく資料を集めていて、日本人とユダヤ人は血液型からみて全く無関係というデ−タも入手したのですが、その後すぐに、現在のユダヤ人には、アシュケナ−ジとスファラディと呼ばれる2つの種族があることを知ったのです。そして現在のユダヤ人の90%以上をしめるアシュケナ−ジ系ユダヤ人は、AD740年頃(日本の奈良時代)にイスラム教から改宗したカザ−ル王国(トルコの一部)の末裔だということなのです。

 ですから、現在のユダヤ人のほとんどが、旧約聖書に登場するノア、アブラハム、ヤコブ、モ-セ達とは血のつながりがなく、したがって現在に日本にやってきただろうユダヤ人とも関係が全くないということなのです。それならスファラディといわれている本当の(むやみにそういうことを言うと反ユダヤのレッテルを貼られるそうです)のHLAを調べれば良いのですが、もうどうでもよくなってきました。夢は夢のままにしておくのが良いでしょう。

 人類がアダムとイブ(イザナギ、イザナミでもいいです)から生まれたのなら、言えることは、ただ一つ。「人類は一家、皆兄弟」なのですから。


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