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SNPとは(代謝多型3)

   オーダーメイドの医療を目指して!

(正しくはテーラーメード医療)

 オーダーメイド、テイラーメードと両方の言葉が使用されていますが、オーダーメイドは和製英語で海外では通用しません。正しくはテーラーメードを使用すべきです。(東京薬科大学 岡希太郎)

2000年2月1日号 284

 SNP:single nucleotide polymorphism

   人間を始め生物の遺伝子情報は、DNAに記録されています。DNAは4種類の塩基で構成されますが、遺伝子情報を担う部分の塩基配列は個人、種族間で微妙に異なります。

 多くの場合、塩基のうち1つだけが欠けたり他のものと置き換わることにより個体差、種族差が生じるためこれをSNP(一塩基変異多型)と訳されます。人間のDNAを構成する30億塩基のうち、SNPは数百塩基に1箇所の割合で存在すると推測されており、これらが個人の体質を決定づけると考えられています。

 SNPを研究することにより病気にかかりやすい体質をつきとめたり、個人の体質に合わせたよりよい治療法や薬剤の選択(テーラーメード医療)、医薬品の開発が可能になるものと考えられ、厚生省を始めとする省庁もSNPの解明に本腰を入れ始めています。

  {参考文献}  大阪府薬雑誌 1999.11 現代医療 2000.1

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 ある疾患に対して薬剤を与薬した場合、患者の応答性には、著効を示すもの(good responder)、有効性の低いもの(poor responder)、全く効果を示さないもの(non responder)と大きな違いがあります。

 これは、症状が同一で同じ疾患名であっても、その背景となっている病気を起こしている経路が異なっている(あるいは、薬剤の代謝速度が大きく異なっている)からです。たとえば、QT延長症候群と呼ばれている病気では、心電図検査でQT時間が延長していることがその特徴であることからこのような診断名がついていますが、不整脈による反復する失神発作が主症状です。

 この患者には、βブロッカーが使用されていますが、数10%の患者に対してはほとんど無効であり、不整脈が回復しないことによって引き起こされる突然死を防げません。これまで、この応答性を見極める手立てはありませんでしたが、遺伝子研究の進歩によって、同じ心電図上の異常所見であっても病気を引き起こす遺伝子の差が、薬剤応答性を規定していることが明らかにされました。

 したがって、今後はQT延長症候群に対しては、原因遺伝子のSNPなど遺伝子多型を参考にしながら、βブロッカー単独の治療、あるいはβブロッカー+抗不整脈剤(もしくはペースメーカー)による治療などの選択をすることにより、突然死という不幸を防ぐことができると考えられます。

<SNPと副作用>

 薬は諸刃の剣であり、効く薬であればある程、その代謝系に異常を持っている患者に対して重篤な副作用を引き起こしてしまうことは当然考えられます。過剰でなくとも、ときには思わぬ致死的な副作用に遭遇することもあります。

 麻酔薬による副作用である悪性過高熱は、遺伝子研究の結果、ライアノジンレセプター遺伝子の異常がその原因であることが明らかにされスクリーニングが可能となっています。

 また、抗癌剤は、不活性化(不活化)に関わる酵素の遺伝子多型によって、個人個人でこれらの酵素の活性やその産生量に大きな違いの生ずることが報告されています。

 それぞれの患者に適したオーダーメイド医療を目指して、「必要な患者に、必要な薬剤を」だけでなく、「必要な量を」といった考え方が重要であり、これらはSNPを柱とするゲノム研究的アプローチ法を応用することによって実現可能であると思われます。

 将来的(10〜20年後に)には、さまざまな医療上重要な遺伝子多型(SNP)情報を個人個人がICカードなどに保持し、医療機関で、それらの情報に基づいて個人別の適切な(オーダーメイドの)医療を受けることができるようなシステムが出来上がるようになるものと推測されます。

 21世紀の遺伝子研究はSNPsが中心になるといわれています。
SNPsはその数が非常に多いことから、全ゲノムを通して均等に配置されているようなSNPsを用いた詳細なSNPs地図は、各個人の遺伝子的背景を個別化するのに最適であると考えられ、臨床情報と比較解析するアソシエーションスタディーにより、「体質」やさらにはレスポンダー、ノンレスポンダーといったdrug responding SNPs(DRSNPs)が同定できると期待されています。

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DNAチップ

   出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.3

 DNAチップはマイクロアレイとも呼ばれ、小さな基板上に数百〜万のDNAの断片を埋め込んだものです。

 人の細胞から遺伝子(DNAまたはRNA)を取り出し、それをバラバラにしてDNAチップの上に置くと、チップに固定化されているDNA断片と同じ遺伝子があれば結合し、なければ結合しません。

 DNAチップのどの位置に遺伝子が結合したかを調べることによって、その人の遺伝子の種類(DNAの塩基配列)や遺伝子発現のレベルを知ることが可能となります。

 DNAチップの応用性は多様で、オーダーメイド医療や新薬の開発に有用な技術です。

 例えば、癌遺伝子を張り付けたチップに提供者の遺伝子が結合すれば、その人は癌になりやすい遺伝子を持っている事が分かります。また同様の方法で、薬が効きやすい体質かどうかを調べることもできます。

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ゲノム

genome

出典:臨床と薬物治療 2001.7等

 ヒトの体はおよそ60兆個という多くの細胞(体細胞)からできていますが、その細胞1個1個には核の中にヒトのほとんどすべての遺伝情報をになうDNA(デオキシリボ核酸)があります。

 このDNAのは一つながりではなく、23本の染色体(1〜22番の常染色体とXまたはYの性染色体)に分配されています。このような染色体の基本セットをゲノムと言い遺伝学ではnで表します。ヒトではn=23です。

 ヒトゲノムはDNAを構成する4種類の塩基の数にしておよそ30億個の長さがありますが、この文字列をすべて正確に読みとることがヒトゲノム計画の目標です。

* 塩基対の法則

 DNAは右巻きの2重らせん構造で、この構造は1953年にワトソンとクリックによって発見されました。この時二人はもう一つ重要なことを見出しました。

 それはDNAの4種類の塩基、アデニン、チミン、グアニン、シトシンのうちアデニンはチミンと、グアニンはシトシンとそれぞれペア(塩基対)を作り、正常なDNAではこれ以外の塩基対の組み合わせ
は無いと言うことです。

 これは非常に重要な概念で、2重鎖DNAの片方の鎖の塩基配列が決まれば、この法則に従ってもう片方の鎖の塩基配列は自動的に決まり、これでDNAの複製の仕組みが簡単に説明できます。

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ミスマッチ塩基対


 DNAは、G,CとA,Tの互いに相補的な水素結合を持つ核酸塩基が水素結合した塩基対から形成されています。これらG−C,A−T塩基対をWatson-Crick塩基対と呼びます。

 これらG−C,A−T以外にも核酸塩基の組み合わせはG−G,G−A,G−T,A−A,A−C,C−T,C−C,T−Tの8種類可能です。これら8種類の塩基対をミスマッチ塩基対と呼びます。

 ミスマッチ塩基対はWatson-Crick塩基対に比べると、熱力学的な安定性が低下しミスマッチ塩基対を含む二重鎖は、完全に相補的なDNA二重鎖と比べて低い温度で二重鎖の解離が起こります。

 DNAマイクロアレイでは、アレイ上の標的DNAに対して完全に相補的なDNAだけが二重鎖を形成する温度条件を用いています。

 DNA注では複製エラーにより生じますが、修復酵素により除去されます。

 バルジ構造と同じようにRNAにはごく普通にみられる構造です。


バルジ構造

 バルジ構造とは、二重鎖核酸において相補鎖と水素結合対を形成できない塩基からなる構造のことです。

 DNAではバルジ構造はほとんど認められませんが、RNAの2次構造ではごく普通に見られ、しばしば蛋白との相互作用の中心となるなど重要な核酸構造です。

    出典:ファルマシア 2005.11


エビデンスとは

EBMに向けて(9)

この記事を書くのに下記の資料を参考にさせていただきました。

日本大学医学部公衆衛生学教室EBHC研究班

(http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/ebm/)

 EBMの“E”は今更言うまでもないのですがエビデンス:Evidence(証拠)ということです。ではいったい何を持ってエビデンスとすればよいのでしょうか?

 端的に言って、自分の経験や勘に頼らないがすべてevidenceとなります。よく「外的な根拠」と書かれていますが、これは自分が個人的に所有する知識や経験、勘ではなく、他人の意見(口答でも文献でも)を参考にするということです。最も簡単で身近なevidenceは指導医や先輩、同僚のアドバイスです。

 しかし、これには思い違いや思いこみ、憶測などの不確かな要素が入ってきます。教科書もevidenceになり得ますが、出版された時点で古い知識となっていたり、独断や推測が入っている場合もあり注意が必要です。

 最もよいのは文献などによる最新の情報です。ここで言う文献とは多くの人に読まれているようなimpact factorが高い学術誌に掲載されたもののみならず、学内紀要や報告書もなど含まれます。このようなものも含めて、できる限り多くの文献が考慮される必要があります。

 また、文献の種類にもいろいろあり、生理機構解明や病態追求などメカニズムを知るための実験研究や、疾病などの要因や環境、条件などを知るための疫学研究、それらの知識を基に治療や診断の有用性や効果など知るための臨床疫学研究が挙げられますが、EBMは臨床の現場での応用を検討するものであるために、より実用的な臨床疫学研究が最も重要視されます。

 臨床疫学研究の中では、疾病の条件を列記したようなcase series studyから疾病と正常を後ろ向き・横断的に検討する症例対照研究、実験的な介入を加える無作為化対照試験などがありますが、後者ほどevidenceとしての価値は高くなります。

 さらに、メタアナリシス:meta-analysisなどによりいくつかの症例対照研究や無作為化対照試験を統合する系統的研究はevidenceとして最も確かなものとして扱われます。

 EBMは簡単には、医療の評価方法と言えます。評価といっても、新しい治療法や診断法といったものを評価するというものではなく(この場合に用いられるのが臨床疫学です)、臨床実地の場面で既存の知見を用いて、意志決定のための事前評価を行うということです。

 つまり、自分の受け持ち患者にその治療や診断などの医療行為を行ってもよいものかどうかを評価するものです。その意味で、EBMをEvidence-Based Clinical Practiceとも言っています(厳密には多少の相違はありますが)。これはちょうど、何かの施設を建設する際に環境への影響を事前に調べる環境アセスメントと似ているといってもよいでしょう。

 また、EBMには自分が実際に行った医療行為に対して事後評価をすることも含まれるでしょう。これらの方法のルールと基準をどうするかがEBMのポイントだと考えられます。

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