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1996年1月15日号  191

サイコオンコロジー

  精神神経免疫学の進歩

   

 どのような病気であれ、患者さんの心理や社会的管理を十分に考慮しながら診療することは大切なことです。とりわけ、癌の診療では特に心理的な配慮が必要になります。このような癌患者の心理的な側面を取り入れた臨床や研究は、サイコオンコロジーと呼ばれ、注目されるようになってきました。
 サイコオンコロジーとは、サイコ(心理、精神)+オンコロジー(腫瘍学)のことで、具体的には、「癌患者やその家族の情緒的な反応」を扱う領域であると定義されています。

{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 VOL.32 NO.1 1996

東海大学医学部精神科 保坂隆

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 わが国では、「癌患者の心理的社会的側面」というと、”ターミナルケア”や”ホスピス”などが話題にされることが多いのですが、それ以外にも癌の発生と関連する性格やストレス、情緒状態と癌の進行速度との関連、看病している家族のメンタルケアなどにもサイコオンコロジーの重要なテーマになっています。

 癌患者の3〜4割はうつ病や不安、恐怖、抑うつを伴う適応障害という精神疾患を合併しています。そして癌末期になると約7割の患者が精神疾患を合併するようになるといわれています。このことからも癌の診療では精神面からのアプローチが不可欠であることが分かります。

 例えば、乳癌の手術後に病気に対してファイティングスピリットを示した患者は、予後が最も良く、逆に抑うつ的、絶望的になる患者では生存期間が最も短いということです。

 さらに、癌になりやすい性格傾向として、
「C型性格」というものも指摘されています。(薬剤ニュースNo.138参照) 

 米国で、精神療法(注1)を行った結果、1年間精神療法受けた群と受けなかった群を比較したところ、平均生存期間が2倍に延長したことが示されています。
 この研究は、肺や肝臓などに転移した乳癌患者の例ですが、遠隔転移があるその他の患者の場合でも、決してあきらめたりせず、病気に立ち向かって積極的な態度が大事で、それが結果的には、予後にまで影響を与えていくことが明らかになったわけです。

 その他の研究(注2)でも、情緒状態に明らかな改善がみられた場合には、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性という指標からみた免疫機能も向上し、6年間経過した時点で、再発率並びに死亡率で対照群と明らかな差が生じたことも報告されています。

 これまで恐怖の対象でしか無かった、癌という病気をこれからはサイコオンコロジーいう面も含めて真正面から取り組んでいかなければならないでしょう。

(注1:集団精神療法)
 それぞれが悩んでいること、困っていることを自由に話し「自分ではこうしている」とか「こうやったらうまくいった」という体験談を話したりする。

(注2:構造化された介入)決められたテーマ、例えば癌と免疫の関係、ソーシャルサポートの大切さ、病気に対する対処様式と癌の進行との関係などの説明を受けたり、リラクセーションの方法を学んだりする。

関連項目 NK細胞


新春特別随想   ・・もっと心にメモリーを・・

 

 昨年(1995年)の11月についに98ノートを買ってしまった
 例のウインドウズ95が出る直前だったので、随分安かった。で、ウインドウズ95のソフトを買ってきてインストール(注1)しようとしたのだが、そうは簡単にはいかなかった。
 
 私の買ったマシンのスペック(注3)は、33MHで、ハードディスク(注2)が250MB、そしてメモリーが1.6Mしか搭載されていなかったのだ。これでは、とてもウインドウズが快適に動作する環境(注3)ではない。(パソコン雑誌をみると、みんなこんな風にかいてあるので、わざとまねをしてみました。)

注1:インストール〜ソフトを、パソコンのハードディスクに入れて使える状態にすること。
注2:ハードディスク〜パソコンの中にある記憶装置、最近では、800メガから1ギガバイトが普通(1メガがフロッピー約1枚分)
2000年追記:今は10ギガだ!
注3:環境、スペック〜私にも良く分からないのですが、スペックは、そのパソコンの性能、環境とは、その性能を引き出すために必要なメモリーとかCPU(後述)ことらしい。  
注4:ハングアップ〜突然パソコンが動かなくなること。よくあることである。

 パソコンの動きが遅いとか、良くハングアップ(注4)するので、パソコンに詳しい人に尋ねたところ、「君のパソコンの環境が悪いからだよ」と言われ、自分のパソコンを日当りの良い窓際に移動させた人がいるらしい。

 パソコンの性能は、CPUのMH(メガヘルツ:処理速度、もちろん早いほど良い。)によって決まるのですが、メモリーもそれに劣らないくらい重要となっています。

 メモリーとは、そのパソコンが仕事をする時に必要な場所で、事務職でいえば机の広さと思ってもらえばよいでしょう。あまりにも狭いと優秀な事務員でも作業能率が落ちます。
 
 ウインドウズ95の場合、最低で8メガ、推奨で16メガのメモリーを必要とするのです。つまり、どんな頭の良い人でもゆとりを持っていないとちゃんとした仕事はできないということだと私は理解しました。
 
付記:メモリーって1メガが5千円くらいする。16メガのメモリーなんて買えないよ〜。

2000年追記:今は、64メガを使っていますが、そろそろ128メガにしなくては、、、、

2002年追記:今は、メモリも1ギガの時代なんですね、、、


 

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2002年1月15日号  329

プライマリケアでのサイコオンコロジー

   {参考文献}治療 2001.12  国立癌センター研究所支所精神腫瘍学研究部

サイコオンコロジーには、

1.「あらゆる病期において、癌が患者・家族・医療従事者の心に及ぼす影響」を明らかにするという心理・社会学的側面

2.感情状態が、癌の進行や死亡に関連すると想定される免疫・内分泌系に及ぼす影響というpsychobiology(精神生物学)の側面があります。

 癌に罹患することは、非常に大きなライフイベントであり、死に対する恐怖、身体的苦痛、社会的な孤立、やり残した仕事、その他の多くの課題に対処していかなければならず、ほとんどの患者は、癌とともに歩む人生の中で精神的な動揺を多かれ少なかれ経験しています。

 不幸にして癌が再発し、患者を死から救うことが出来なくなった場合でも、死を前にして見捨てられるのではないかという不安やうつ状態になる患者を救うことは十分可能です。

 これまでの知見から、癌患者の約半数に何らかの精神症状が認められ、中でも頻度の高いのは、抑うつとせん妄です。

<抑うつの治療>

 治療は精神療法と薬物療法に大別されますが、とりわけ精神療法は不可欠で、医療者の支持的態度が必須です。実際の介入としては教育的介入、支持的精神療法が主に用いられます。

 教育的介入の目標は、正しい医学的な知識を与えることにより、不確実な知識や知識の欠如に起因して生じている不安感や絶望感を改善することにあります。

 十分に理解されていない情報を明確にしながら、患者の誤った思いこみを訂正し、患者の置かれている状況について保証を与えることは患者の抱いている不安など無用な精神症状を軽減する上で助けとなります。


 支持的精神療法は、患者の無意識な葛藤や人格の問題には入り込まず、その人なりの方法で困難を乗り越えていけるように現実的に患者の心理を支えていく治療技法です。例えば、抑うつ状態にある患者に、心の負担について話すことは決して恥ずかしいことではない事を伝え(感情表出の促進)、患者の声に静かに耳を傾け(傾聴)、批判・解釈することなく有るがままを受け止めてあげます(受容)。その上で医療従事者は患者の言葉に対して肯定的に接し(支持)、適切な情報を提供し、現実的な範囲内で保証を与えます。

 また、自己評価を高め、闘病意欲を支えるために面接を通して、ライフレビューを行うことが助けになると思われます。

<薬物療法>

 薬物療法は、一般的なうつ病治療と同様、抗うつ剤が主として用いられますが、癌患者は比較的高齢で様々な身体的脆弱性を有していることが多いため、薬剤の使用にあたっては特別な配慮を必要とします。

 三環系抗うつ剤は、少量から開始し、副作用を見ながら数日から週単位で漸増していきます。副作用として頻度の高い抗コリン作用が好ましくない場合は、SSRI、また四環系抗うつ剤などの使用を考慮します。

 進行性癌患者では、経口出来ない人もいるため、薬剤の選択には配慮が必要です。

 抗うつ剤の効果発現には2〜4週間を要しますが、副作用が先行して出現することが多いため、患者に十分説明した上で用います。特に早期の改善が望まれる場合には、精神刺激剤であるメチルフェニデート(リタリン)も有用とされています。

<せん妄(譫妄)>

 意識障害1種で、軽度から中等度の意識混濁に精神運動興奮、錯覚や幻覚・などの認知・知覚障害を伴う特殊な意識障害。せん妄は癌の進行に伴い頻度が高くなり、終末期では30〜80%に達します。

 癌患者でのせん妄の原因は、脳転移などによる直接的なものと、代謝性脳症、電解質異常、薬剤の副作用などによる間接的なものがあります。

 せん妄の典型的例では落ち着きのなさ、不安、睡眠障害、いらいらなどの前駆症状がみられ、注意の転動性低下、覚醒度の変化、精神運動活動性の変化、睡眠覚醒リズムの障害、情動不安定、知覚の変化、支離滅裂な会話、失見当識、記銘力低下などの症状が比較的急性に出現し、短期間の内にこれらの症状が変動します。

 せん妄の治療は想定された原因の治療が原則です。しかし癌患者では全身状態が悪く、原因が多要因であることが多いため、対症療法が取られることが多く、薬物療法としてはハロペリドールが第一選択薬として推奨されています。

 抗精神病薬に共通の副作用である錐体外路症状が出現する危険がありますが、注射剤(静注)ではその頻度が減少します。

 また、家族や慣れ親しんだ医療スタッフとの接触を頻回にしたり、家庭で使い慣れたカレンダーや時計を病室に置いたり、テレビ。ラジオを通して外界との接触を保つなどの環境調整も有用です。更に可能なら、個室とし夜間も40〜60ワットの灯りをともすことにより覚醒を減少させ、室温を21〜24度に保つことが望ましい。


マクロのエビデンスとミクロのエビデンス

 プラセボはオズの魔法使いなのか(4)

 この文章は、医薬ジャーナル編集長の沼田 稔氏の文章を参考に一部書き換えたものです。

{参考文献}医薬ジャーナル 2001.8

 プラセボは有効なのかとの問いに対して、その答えはNOでもありYESでもあります。その理由は、疾患と患者によって結果が異なるというミクロの事実があるからに他なりません。医学医療でのエビデンスにもマクロとしてのエビデンスとミクロとしてのエビデンスがあり、またそこにミスマッチもあるわけで、そのところのきめ細やかな分析が必要になります。

 例えば経済学の分野ではマクロ経済学での統計数値と実際のミクロ経済の分野での実態とのミスマッチということがあります。

 これを失業率でいえば、たとえ国全体として高い失業率が示されているような場合でも、実際の企業現場では、職種により、あるいは地域によって、人が足りなかったり、余ったりというアンバランスが生じることがあります。

 心理療法的効果ということについては、それが有効であるかどうかは、疾患と患者の状態によって異なるということを、発想のベースに置く必要があります。即ち、心理療法については、それが有効な疾患や患者も存在し、また無効でしかない疾患や患者も存在するということです。

 プラセボ効果は疾患によって異なりますし、当の患者の持って生まれた気質やそれぞれの医療観、また人生観によっても異なってくるのは当然です。

 プラセボとは、薬理学的なもの(偽の錠剤)だけではなく、理学的手技や操作、また会話など心理学的な行為までも含めたものをさしています。

 化粧品は、高いものほどよく売れるそうですが、これも高い金を払ったのだから、より綺麗になれる筈だという心理が働いているからです。(高い薬ほど良く効くと信じている人もいますが、、、)

 オズの魔法使いとは、人々が魔法使いであると信じていたいからそうであっただけで、カーテンの向こう側でのその実体は、何の変哲もない一人の男に過ぎず、それはいわばプラセボの如き存在でしかありませんでした。

 それでもオズの魔法使いは、ブリキ人間に心を与え、かかしには頭脳を、弱虫のライオンには勇気を与えました。ではオズはドロシーに何を与えることが出来たのでしょうか?  実はそれは「希望」だったのです。


NK細胞

 NK細胞は突然変異に基づく癌細胞を毎日つぶし、ウイルス感染細胞を殺しています。このNK細胞は年を取ると弱り、発癌率上昇の一因になっています、NK細胞の活性は朝9時頃から上昇し、夜10時になると低下します。

NK細胞〜癌細胞を殺すリンパ球

 NK細胞が最も多いのは癌患者、健康な人でも、ストレスが加わるとNK細胞は激しく数が増加します。

 癌患者が安心や笑いのあるリラックスした生活をするとNK細胞の活性が上昇し、癌が自然退縮を始めます。

<NKT細胞:胸腺外分化T細胞>

 リンパ球はマクロファージから進化していますが、最初に進化したのはNK細胞です。その後、T細胞レセプターを使用する胸腺外分化T細胞が生まれ、最後に進化レベルの高い胸腺由来T細胞が生じています。

 対応する抗原と出会うまで休止状態でいて、抗原が来てからクローンを拡大し特異性を高めることができるようになったのです。

 T細胞は外来抗原向けの認識系を構成しています。逆にNK細胞やNKT細胞は自己反応性を持ち異常自己細胞を速やかに処理するのに適しています。

 NK細胞とNKT細胞は担癌患者で増加していますが、癌以外では自己免疫疾患、妊娠中毒症、NSAIDsの長期使用、過労、精神的ストレスで増加します。これらすべてに共通する体調は交感神経緊張状態です。つまりこの状態はあまり好ましいとは言えない一面を持っています。

 担癌患者ではNK細胞の活性の発揮が必要です。それには「夢と希望」が必要となります。

 出典:治療 1999.1  新潟大学医学部医動物学 教授 安保徹

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NKT細胞療法

新しい免疫細胞療法

出典:医薬ジャーナル 2001.8 p55

 アルファガラクトシルセラミドという糖脂質が抗原として働き、特異的にNKT細胞を活性化でき、しかも強力な抗腫瘍効果があることから、臨床応用の準備が進められています。

 アルファガラクトシルセラミドは種族に1つしかないCD1dによって抗原提示を受けることから、万人に使用できるNKT細胞活性化薬剤として期待されています。

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