HS病院薬剤部発行
薬剤ニ ュ ー ス |
1995年
3月15日号 NO.172 |
内服抗癌剤の適応について
〜癌患者への情報提供を考える〜
昨年7月の医薬品副作用情報No.127(厚生省薬務局)において、「癌化学療法の現状と副作用対策」〜抗癌剤の適正使用について〜が掲載され薬剤ニュースNo.158でも紹介しました。その後、「抗癌剤の副作用が分かる本」や3月3日NHKのテレビ報道で癌療法が取り上げられるなど、マスコミでも抗癌剤の副作用に対する関心が高まってきています。 抗癌剤の分類 1、直接細胞毒によるもの〜副作用多い 2、BRM(免疫力を増強する)〜副作用少ない 3、性ホルモン剤 |
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厚生省薬務局安全課の解説によりますと、抗癌剤の承認審査は他の医薬品と異なり、いわゆる臨床第U相試験(注1)までのデータで行われ、検証レベルの試験は市販後において行われる状況となっています。このため、@有効性の評価は、腫瘍の縮小効果によりなされたものであり、化学療法による延命効果は確認されていない。
A有効性の評価は単独で行われることが多いが、一方医療の場では単剤による治療はほとんどまれである。併用療法の有効性安全性の評価は市販後の調査を持って得られるものである、としています。
また、固形癌については外科的な治療が適応である場合、その現状から奏功率の低い化学療法剤の適応を選択することは倫理的にも問題が残る (原文のまま) としています。
抗癌剤の適応を考える場合には、患者の疾病の状 態況やPS(注2)はいうまでもなく、化学療法の限界や副作用の状況を把握することが、必要とされています。
3月3日放送のNHKでは、癌の免疫療法を取りあげ、補中益気湯や十全大補湯でリンパ球の活性化を計る療法を紹介しており、その中で化学療法は無効とも取れる発現がありました。また昨年出版された「抗癌剤の副作用が分かる本」がマスコミでも話題となっています。
造血器腫瘍や小児癌では化学療法による治療成績がよく完治例も少なくありません。しかし、術後の補助化学療法は、有効であるとする評価が確認されていない場合が多く、標準的化学療法の確立は現在でも大きな課題となっています。
抗癌剤服用中の患者さんか副作用についての質問が増加することが考えられるため、薬剤部でも検討中ですが、厚生省の新たな見解を待って逐次各医師と対応を協議していくつもりです。
注1)臨床第U相試験:フェーズ2:少数の患者での用法・用量の設定。
(フェ-ズ1:健康人のよる安全性等の検討、フェ-ズ3:多数の患者での治験)
(注2)PS:perfomance staus:患者の社会的地位などによる、仕事に対するやる気や病気と戦う気力
ps:performance status
一般全身状態
程度
0:社会活動ができ、制限を受けることなく発病前と同等にふるまえる。
1:肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や坐業はできる。
2:歩行や身の回りのことはできるが、軽労働はできない。日中50%以上起居できる。
3:身の回りのある程度のことはできるが、日中50%以上就床している。
4:歩行や身の回りのある程度のこともできず、終日就床を必要とする。
酵素の量で抗癌剤の効果予測
出典:治療
2000.9
腫瘍組織では、正常組織に比べ多くの酵素の発現が亢進しています。抗癌剤の抗腫瘍効果との関連性で最もよく研究されてきたのは、核酸代謝関連酵素です。
なかでもTP:thymidine
pyoshorylase,TS:thymidylate synthase,DPH:dhydropyrimidine
dehydrogenaseの3者はFU系抗癌剤の効果予測との関連で多くの関心を集め、活発に研究が行なわれています。これらの酵素発現はいわゆる抗腫瘍効果、奏効を予測できる点で重要です。
TPの生物学的機能はかなり多彩です、核酸代謝、細胞誘走能と血管新生、アポトーシス抑制などに関わりを持っています。TPは核酸代謝のサルベージサイクルでの主要な酵素で、thymidineの代謝物2-deoxy-D-riboseは内皮細胞やマスト細胞の誘走を刺激、血管新生を誘導します。
2-deoxy-D-riboseは低酸素で誘導される腫瘍細胞のアポトーシスを抑制します。腫瘍だけでなく炎症にも深く関与し、正常子宮周期では性ホルモン依存性にその発現が調節されています。種々のサイトカイン、低酸素、低pH、低糖、ホルモンなどによりその発現は誘導されます。
TP高発現腫瘍がTP低発現腫瘍に比べ予後不良であることは種々の癌種で証明されています。胃癌では、TP高発現種瘍で肝転移の頻度が高く、浸潤性膀胱癌では正常膀胱粘膜、表在性膀胱癌に比し、それぞれ数十倍、数百倍TPが亢進しています。乳癌での検討でも間質細胞でTP発現が強力な予後因子になっています。
インターフェロンαによる5Fuの感受性増強はTPを介するものです。さらに、サイトカインカクテルによる5'-deoxy-fuluoruuridineの感受性の増強はTP依存性であることも明らかにされています。
TP遺伝子導入KB細胞では、テガフール、5'-deoxy-fuluoruuridineに対する感受性が数十倍高まります。TP導入細胞と非導入細胞の混合試験ではFu剤によるbystander(傍観者)効果も証明されました。
臨床的には、まず再発乳癌患者でTP発現と5'-deoxy-fuluoruuridineの効果との間に有意の正の相関が確かめられました。さらに乳癌、胃癌の術後補助療法での5'-deoxy-fuluoruuridineを含む治療効果とTP発現との有意な相関が見出されました。一方、原発乳癌の検討ではCMF(シクロフォスファミド、5Fu、メトトレキセート)療法の効果はTP陽性例で得られやすいことが報告されています。
にんにくの癌に対する作用
出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.2
アメリカと中国が共同で行った疫学調査(1990年)では、ニンニクを年間1.5kg食べている人は、ほとんど食べない人に比べて、胃癌の発生率が半分に抑えられていました。
ニンニクの有効量を計算すると、1日約5g(ニンニク1かけ)に相当します。
ニンニクは刺激が強いので、食べ過ぎは禁物です。特に空腹時に多量摂取するのは胃を痛めるので注意が必要です。
生なら1かけ、加熱したものなら2〜3かけを目安とします。(子供や高血圧の人は、この半分)
ニンニクの匂いを消すには、いっしょに果物、野菜、牛乳、ヨーグルト、コーヒーをとると良いとされています。
牛乳、チーズ、肉などの蛋白質の多い食品でもにおいは消えます。
田七ニンジン
出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.5
中国雲南省南部と広西省の高度2000メートル級の高地で生息するウコギ科の植物。
朝鮮人参とは効果は全く異なっていますが味は似ています。
サポニンの含有量は、朝鮮人参では全体の0.03〜3%、田七ニンジンでは7〜12%
<薬効>
慢性肝炎
心臓病〜田七ケトン:冠動脈の血流増加、狭心痛・不整脈に伴う不安感・不快感を解消
止血作用、血液循環改善作用、コレステロール低減作用、鎮痛作用
脳梗塞後遺症として、降圧に伴う手足の冷え、しびれ、脳神経系の不定愁訴の改善
リウマチ、冷え性、高血圧、糖尿病
<有効成分>
サポニン、有機ゲルマニウム、亜鉛、セレンなど
有機ゲルマニウム:免疫力増強、肝炎ウイルス低下〜体内のインターフェロンを誘発
抗ウイルス作用、抗癌作用
癌の分類
出典:薬剤師が知っておきたい臨床知識(薬業時報社)
<病期分類>
病期:stage、進行度
* TNM分類
UICC:Union
Internationale Contre
Cancer:国際対癌連合)が採用している病期分類
T:原発腫瘍の浸潤と大きさ
N:リンパ節転移の数と範囲
M:遠隔転移の有無
それぞれの因子が陰性の場合0。陽性の場合、その程度によって番号を付記。これらを総合的に判定し、4段階に分類。
* 癌取り扱い規約による分類(日本)
ほとんどTNM分類に則っているが、日本の実状に合わせて修飾されたり、さらに補足された諸因子が介入して異なった決め方のものもあります。
胃癌、大腸菌等では取り扱い規約により、日本独自の分類となっています。
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癌化学療法(薬物治療)の効果
◎ 治癒可能な癌
小児悪性腫瘍:急性白血病、ウイルムス腫瘍、ユーイング腫瘍、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫
ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(Aggressive)の一部、睾丸腫瘍、絨毛上皮癌、成人急性白血病
○ 生命延長を伴う効果が期待できる癌
神経芽細胞腫(小児)、非ホジキンリンパ腫(Aggressive)の一部、肺小細胞癌、卵巣癌、乳癌
骨肉腫、非ホジキンリンパ腫(Non-Aggressive)の一部
△ 一時的効果が認められる癌
非ホジキンリンパ腫(Non-Aggressive)の一部、慢性白血病、多発性骨髄腫、頭頸部癌、前立腺癌
子宮体癌・子宮頸癌
▲ 一時的な効果が時々認められる癌
胃癌、大腸癌、肺非小細胞癌、軟部組織肉腫、膀胱癌
× 効果を期待するのが困難な癌
悪性黒色腫、膵臓癌、食道癌、胃臓癌
* すべての悪性腫瘍に当てはまるわけではありませんが、多くの場合、併用化学療法は単独療法よりも増強効果、延命効果のあることが示されています。急性白血病、ホジキン病、乳癌、肺小細胞癌、睾丸腫瘍などでは、いくつかの薬剤を順番に使用するより、同時併用する方が効果的であることが明らかにされています。
腫瘍縮小効果
奏効度の表現 腫瘍の縮小・増大率
著効 Complete Response(CR)
100%縮小(消失)が4週間持続
有効 Partial Response(PR) 99〜50%縮小が4週間持続
Minor
Response(MR) 49〜25%縮小
不変 No Change(NC) 49%縮小〜0%〜25%増大が4週間持続
進行 Progressive Disease(PD) 26%増大〜
抗癌剤療法での口内炎の治療
ムコスタ錠咳嗽
出典:医薬ジャーナル 2001.5
癌化学療法もしくは放射線療法による副作用の1つとして口内炎が報告されています。口内炎は軽症・重症にかかわらず、患者に対し多大な苦痛をもたらし、摂食障害はもとより、睡眠障害を引き起こす場合もあり、患者のQOL(quality
of
life)を著しく低下させる原因となっています。
癌化学療法による口内炎の発生機序は明確ではなく、抗悪性腫瘍剤などにより生じた活性酸素による一次性(primary)の口内炎と、抗悪性腫瘍剤投与による免疫能低下(白血球の減少)が原因となり、細菌・真菌などに感染することによる二次性(secondary)の口内炎に大別されるます。しかし、実際は、これらが複雑に絡み合っているものと考えられています。
現在までに、口内炎の予防及び治療または疼痛緩和には、氷片を用いたoral
cryotherapy、線維素溶解酵素含有アイスボール、アズレンスルホン酸ナトリウム、サリチル酸含嗽液などを用いた対症療法が行われています。また、フルオロウラシル(5-FU)などの化学療法剤により引き起こされる口内炎は、活性酸素の存在より発症するといわれており、メシル酸カモスタット含嗽液、アロプリノール(APN)含嗽液など、活性酸素発生抑制作用(ラジカルスカベンジャーとしての作用)を有する薬物を含有する含嗽液が汎用され、成果を上げています。しかし、APNは5-FUなどフルオロウラシル系薬剤の作用を減弱する事が報告されており、その使用に制限が生じています。
山梨医科大学医学部付属病院薬剤部では、胃潰瘍、急性・慢性胃潰瘍治療剤であるレバミピド(ムコスタ錠、REB)が活性酸素の発生抑制作用を有し、また経口投与でベーチェット病に必発する口内炎やアフタ性の口内炎に対する有効性が報告されていることに着目し、癌化学療法及び放射線療法時の口内炎に対する新たな予防及び治療薬としての可能性を検討し、口内炎発症予防効果を示唆する結果が報告されています。
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クライオセラピー
冷却療法
抗癌剤による、口内炎を防ぐ方法のひとつ。
癌化学療法時、抗癌剤開始5分前から30分間程度氷片を口に含み、口腔内を冷やす方法
口腔内を氷片で冷却することにより、口腔内血管を収縮させ、抗癌剤が、口腔内粘膜に到達しにくくする。
口腔内を冷却することで末梢血幹を収縮させ、抗癌剤が粘膜細胞に達する量を減少させます。
フルオロウラシルなどの急速静注では、血中濃度が急に上昇し粘膜細胞にも取り込まれやすくなるため、血中濃度が急に上昇し粘膜細胞に取り込まれやすくなるため、血中濃度が高くなる時期に口腔内を冷却し口内炎の重篤化を防ぎます。しかし持続静注では、予防効果は期待できないと考えられています。
ファルマシア 2010.10
等