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やさしい薬理学:自律神経編

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数字をクリックしてください。

(1)

: 図解自律神経

(2)

: 二重拮抗支配1

(3)

: 二重拮抗支配2

(4)

: α作用とβ作用

(5)

: α作用

(6)

: β作用

(7)

:アセチルコリン(副交感神経)

(8)

:α2刺激剤

(9)

:ハイアットリージェンシーホテルの思いで〜レセプター

 


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自律神経〜二重拮抗支配   

1991年2月15日号 NO.81に掲載


人間の体は交感神経と副交感神経によって支配(コントロール)されています。
これを二重拮抗支配と呼んでいます。二重とは2つの神経があるということです。
拮抗とは、互いに反するということで、交感神経と副交感神経は、全く逆の作用を示します。アクセルとブレーキを思ってもらえば良いでしょう。

 交感神経は昼の神経、さらにはエネルギーを消費する神経で一番極端な例を挙げますと、人が喧嘩をしている時の状態を思い浮かべていただければ、よく理解できます。

 即ち、目は大きく開かれ、心臓の鼓動は高まり、息づかいは荒く、血圧は上昇し、気管支は拡張します。

 副交感神経は、その逆で夜の神経と言われ、エネルギー(血糖値、脂肪等)は蓄積する方向に働きます。即ち、消化機能(消化管の分泌、蠕動等)を促進させます。

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1991年3月15日号 No.83に掲載

交感神経と副交感神経については前回で簡単に触れましたが、役の場合それぞれ刺激剤と遮断剤(ブロッカー)があるので、少々複雑になってきます。

これを図で示してみますと、下記のようになります。

                拮抗
交感神経  刺激剤←―――――――――――→遮断剤(ブロッカー)
        ↑               ↑
        |拮抗             |拮抗
        ↓               ↓
副交感神経 刺激剤←―――――――――――→遮断剤(抗コリン剤)
     (コリン、コリンエステラーゼ阻害剤)


 瞳孔(黒目)の例で考えてみますと、交感神経刺激剤では散瞳(黒目が大きくなる)、ブロッカーでは、縮瞳(黒目が小さくなる)、抗コリン剤(アトロピン等)では散瞳となります。その他、心臓や平滑筋(内臓の筋肉)の収縮に関することなどがすべてこの関係で成り立っています。

 この理屈で言うと、交感神経の刺激剤と抗コリン剤、交感神経の遮断剤と副交感神経の刺激剤は、見かけ上はよく似た作用を示すのです。

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交感神経を与党とすれば、副交感神経は野党と言えます。
与党にも主流と反主流があり、野党にも右派と左派があります。(執筆当時は、まだ社会党があったんです。)

 交感神経を与党主流派になぞらえるなら、副交感神経の野党左派にあたります。
「反対の反対」は「賛成」で、時として与党の主流と野党の左派が同じことを言っている場合があります。

 ですから交感神経刺激剤と副交感神経遮断剤(抗コリン剤)は一見同じような作用を示します。同じ理屈で副交感神経刺激剤と交感神経の遮断剤(βブロッカー等)は見かけの作用は同じようです。

 人の体は二大政党によってコントロールされています。日本の政治もうまくやって欲しいものですね。

1993年7月15日号 No.133に掲載

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α作用とβ作用

1991年5月1日号 No.86

交感神経作動薬

 交感神経が刺激されると、ヒトは興奮した状態(極端な例では喧嘩をしている時の状態)になることは既に述べました。心臓はドキドキと早くなり、息づかいは荒く、目は大きく見開かれ、血圧も高くなります。

 この作用は、アドレナリン(エピネフリン)またはノルアドレナリンによって引き起こされます。そしてその作用はα作用とβ作用に分けて考えられています。

 α作用〜血管収縮―――――→血圧上昇、局所での止血作用

 β作用−−β1作用〜心臓の活性化
      β2作用〜気管支の拡張

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1991年5月15日号 No.87

「α作用」

 交感神経のα受容体(レセプター)が興奮すると人体では次のようなことが起こります。

 血管〜収縮、瞳孔〜散大、皮膚〜立毛

 このうち、臨床的に最も多く応用されるのが血管の収縮です。血管が収縮することで血圧は上昇します。また局所で血管が収縮すれば止血作用になります。

 薬品としては、ボスミン、ノルアド注などがあります。

 また、キシロカインEのEというのはエピネフリン(アドレンリン)のことで、これも血管を収縮させて、キシロカイン(局所麻酔剤)をその場所にとどめておく目的(作用時間を延長さす)で添加されています。

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 「β作用」

1991年6月15日号 No.89

 β受容体(レセプター)が刺激されると人体では次のようなことが起こります。

 心臓の収縮力増加、心拍数増加、気管支拡張、肝臓で糖の分解

 β受容体を刺激する薬

 イソプロテレノール〜気管支拡張:気管支喘息
 塩酸ドパミン〜ショック治療剤、ドブタミン〜強心剤(急性心不全)
 塩酸リトドリン〜切迫流早産治療剤

 

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アセチルコリン

1993年2月15日号  No.124に掲載したものです。

 アセチルコリン(以下ACh)は生理的に極めて重要な物質です。
というのもAChは、交感神経の節前線維、副交感神経の節後線維、自律神経、それに運動神経の伝達物質としての役割を果たしているからです。

 薬理学でよく見かける「抗コリン作用」というのは、副交感神経末端に対する作用だけを指しています。本当は抗ムスカリン作用というのが正しいのです。なぜなら抗コリン作用というなら交感神経の節前線維や運動神経をも遮断することになるからです。(ムスカリンというのは毒キノコの成分名です。)

 コリン作動薬は、術後の腸管麻痺とか、緑内障の治療に使われています。
ピロカルピン(PL点)やフィソスチグミン(ワゴスチグミン)などがそれですが、このうちフィソスチグミンはコリンエステラーゼ阻害剤と呼ばれるものです。
AChを分解する酵素を阻害することはイコールAChの作用増強となります。

 抗コリン剤(抗ムスカリン剤)の代表は、アトロピンですが、作用が強いので薬品としてはロートエキス、ブスコパン、コリオパン、パドリンなどが使われています。

 かつては分泌抑制作用があるので消化性潰瘍には欠かせない薬でしたが、今では胃酸分泌抑制作用の強力なH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤の陰に隠れてしまいました。

<ムスカリン作用>
コリン作動性神経  
  1.交感神経節前線維
  2.副交感神経節前線維
  3.副交感神経節後線維 ムスカリンはここの伝達機能しか持たない。
  4.運動神経

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α2刺激剤

1993年1月15日(No.122)に掲載〜やさしい薬理学シリーズ

 世の中には訳の分からないことが多いものですが、私はこのα2刺激剤のことが全く理解できませんでした。アドレナリンには、αとβのレセプターがあってそれぞれ1と2のサブタイプが存在する(他にももっと有るはずであるが)。それは分かります。そしてαは血管の収縮に関連していますから、αのレセプターを刺激すると血管は収縮して血圧は上がります。よく分かります。

 しかしα2−レセプターを刺激すると血圧は下がると言うのです。どうして同じαのレセプターなのに逆になるのでしょうか???
 α2刺激剤の添付文書を呼んで見ますとこうです。「脳における血管中枢での後シナプス受容体(α2受容体)を刺激して降圧作用を示すと同時に前シナプスα受容体(α2受容体)をも刺激してノルアドレナリンの遊離を抑制する作用も有する。」なんだか分かるような、分からないような説明です。前シナプスって何じゃろか(普通、レセプターはシナプスの後と私は理解していました。)

 私はずいぶん考えたのですが、明確には理解できませんでした。でも最近になってやっと分かったのです。変なことを考えたから分からなかったのだと言うことが!!!「同じαなのに?」と考えたことがいけなかったのです。つまりα2レセプターとはそういう働きをするレセプターなのです。それだけのことで、なにも難しいことではなかったのです。

 さっきの添付文書を読み直してみると、あることに気がつきました。α2受容体は、安全弁みたいなものなのです。アドレナリンが出過ぎたら、それをα2受容体が感知してそれ以上アドレナリンが出ないようにするのです。前シナプスの意味はシナプスの前、すなわちアドレナリンを出す側ということだったのです。そこからでないと、アドレナリンの分泌を抑制できないのです。

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1992年3月15日号(No.104)に掲載

ハイアットリージェンシーホテルの思いで

 私事ですが、その昔、私も人並みに結婚することができて、人並みにハワイなぞへ新婚旅行に出かけました。そのときハイアットリージェンシーという有名なホテルに宿泊しました。私たちの部屋は15階でしたので、部屋へ行くのにエレベーターに乗ります。

 そのエレベーターでのことです。太った外国人(本当は私たちのほうが外国人なのですが)と一緒になったので、「何階ですか?」と私は尋ねました。エレベーターのボタンを押してあげようと思ったのです。

 しかし,その外国人は「親切にありがとう。でも私はリージェンシークラブだからこれでいいんだ。」といって持っていたキーを見せてそれを押しボタンの上の方に着いていた鍵穴に差し込みました。

 リージェンシークラブとはもっとお金を出せば止まれる部屋のことで、フロア全体がすべてその人の部屋になっているのです。ですからキーを持っていない人はその階には行けないのです。

 前置きが長くなってしまいましたが、そのとき初めて私はレセプターの概念が理解できたような気がしたのです。薬がその作用を発揮するためには、体内で特定のレセプターに結合しなくてはなりません。薬が鍵(キー)でレセプターが鍵穴にあたることは講義でもならいました。

 ヒスタミンはH1とH2の2つのレセプターを持っています。普通、抗ヒスタミン作用というときにはH1の作用のをさします。H2は胃酸を分泌するレセプターです。このように全く異なる作用をヒスタミンは持っているのです。ヒスタミンをビルに例えてみましょう。H1を1階、H2を2階と考えることができます。各階に行くのにはリージェンシークラブのように特別のキーが必要です。

 拮抗薬(アンタゴニスト)とは、この鍵穴をふさいでしまうニセのキーということができます。本物のキーを持った人が、エレベーターに乗った時に、既にニセのキーが差し込んであれば、いくらがんばっても自分の部屋に行くことはできません。ヒスタミンでは一階で、くしゃみや鼻水などのアレルギー作用、2階では胃酸の分泌促進作用をもたらします。ですから1階の鍵穴をふさぐ薬が、抗ヒスタミン剤、2階への鍵穴をふさぐものがH2ブロッカーです。

 アドレナリンの場合は、デパートのようなもので、いくつものフロアがあります。αとかβとか呼ばれているのがそれです。ピンとこない人はαを地上、βを地下と考えてください。地下1階がβ1で、地下2階がβ2です。

 最近の研究では、αやβは1と2だけではなくもっと沢山あることが分かって来ています。薬として各フロアに行くのには、ハイアットリージェンシーホテルのように、専用のキーが必要です。(アドレナリン自身はマスターキーでどこのフロアにも行けます。)

関連項目:レセプターシリーズも見てください。

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