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抗癌剤の耐性

1989年4月15日号 NO.41

 

 癌の化学療法は近年著しい進歩を遂げています。しかしまだ完成の域にはほど遠く、解決されるべき多くの問題を抱えています。その中でも抗癌剤耐性は重大な問題です。

 治療初期に奏功した抗癌剤が長期治療中に効かなくなったり、再発・再燃時にはいかなる抗癌剤にも無効になっている場合があります。

 その理由としては宿主側(患者側)の因子よりも、癌細胞側の変化すなわち細胞レベルでの耐性獲得が重要と考えられています。さらに胃癌や大腸癌などは現有の抗癌剤には反応しにくく、抗癌剤には自然耐性であると考えられています。

    {参考文献}医薬ジャーナル 1989.4

 

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<耐性機構>

 多剤耐性となった細胞では薬剤の細胞内での蓄積が感受性細胞に比べて低くなっています
〜多剤耐性細胞では一般的に知られている能動輸送とは逆の方向のエネルギー依存性の薬
剤排泄機構(active efflux)が存在し活性化していると考えられます。

P-glycoprotein(P糖蛋白):現在多剤耐性機構の最も中心的役割を持つと考えられてい
る物質。実際に多くの患者の癌組織で発現が高くなっていることが発表されています。

多剤耐性遺伝子(MDRI):色々な方法で多剤耐性をになっている遺伝子を単離した
結果、MDRI遺伝子産物がP-glycoproteinそのものであることが証明されています。

多剤耐性の克服

1.新しい作用機作を持ち多剤耐性細胞にも有効な抗癌剤の開発

  一部試験管内では有効性が確認された薬品が開発中

2.他の薬剤との併用

active efflux(薬剤排出機構)を阻害する物質を併用

 現在、カルシウム拮抗剤がactive effluxを阻害し耐性を克服することが知られ臨床でも
有効との報告がありますが、カルシウム拮抗剤に起因する血圧降下などの問題がありま
す。

3.P糖蛋白に対するモノクロール抗体に抗癌剤を付け、いわゆるミサイル療法の開発

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コラーゲンゲルドロップ法
CD−DST
Collagen gel droplet embedded culture drug sensitivity test

 癌化学寮法を行う際に、治療前にその腫瘍に対する感受性を知ることは、奏効率の向上を目指す上で重要です。

 最近考案されたのが、細胞をコラーゲンゲル包埋培養法と画像解析定量法を組み合わせた抗癌剤感受性試験です。この培養法は、従来の単層培養法や軟寒天培養法に比べて非常に高いヒト初代癌細胞の培養成功率を維持し、かつ、画像解析定量法を導入することにより、癌細胞に対する抗腫瘍効果だけを正確に測定できるという画期的なものです。しかし、この方法では臨床材料が微量である場合に施行できないなどの問題がありました。

 そこで新しく開発されたのがこのコラーゲンゲルドロップ法です。

 この方法は、初代培養にコラーゲンゲルドロップ培養法を用い、無血清培養法と画像解析定量法を組み合わせ、微量の臨床検体でも腫瘍細胞だけの抗癌剤感受性を正確に判定することを目指した新しい抗癌剤感受性試験です。

        出典:医薬ジャーナル 1999.4

  関連項目:酵素の量で抗癌剤の効果予測


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P糖蛋白質に対するシクロスポリンの作用

〜薬剤抵抗性の克服〜

2004年8月1日号 No.388

 薬剤抵抗性は、疾患活動性が高い症例での治療不応性(難治性)と、長期間の薬剤使用による薬剤耐性(二次無効)に大別されます。

 薬剤長期連用や細胞の活性化刺激等により多剤耐性遺伝子の産物である
P糖蛋白が細胞膜状に発現し、薬剤を細胞外へ能動輸送し、細胞内薬剤濃度を低下させます。

 シクロスポリン等の薬剤は、P糖蛋白質拮抗作用を持ち、薬剤抵抗性を克服させます。
リンパ球上のP糖蛋白質発現の評価、薬剤抵抗性の臨床指標としてシクロスポリン等による治療抵抗性解除の適応を明確にし、テーラーメード医療の実践を可能にします。

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 薬剤抵抗性は、様々な機序でもたらされますが、化学療法の分野では、薬剤排出ポンプとして機能する細胞膜分子P糖蛋白質が注目され、シクロスポリン、タクロリムス、ベラパミルなどの薬剤は、P糖蛋白質拮抗的阻害作用を持っています。

 一方、免疫難病である膠原病やリウマチ性疾患でも、ステロイド薬や免疫抑制剤などの薬剤長期連用を内科的治療法の主体としますが、しばしば薬剤抵抗性のために治療が難しくなる場合があります。

 癌の化学療法の分野では、P糖蛋白質と拮抗的に結合して抗癌剤抵抗性克服を目的とする薬剤が開発されてきました。

 シクロスポリンやタムロリムスは、細胞内でシクロフィリンと結合して、転写因子NF−AT(nuclear factor of activated T-cells;活性化T細胞核因子)の活性化と核内移行を阻害してIL-2、IL-4の遺伝子転写を阻害することでT細胞やB細胞の活性化を抑制する免疫抑制剤ですが、代表的なP糖蛋白質拮抗阻害薬でもあります。

 ベラパミルなどのカルシウムチャンネル阻害剤、キニジン、ジゴキシン、抗リウマチ薬などもこの作用を持っています。また、免疫抑制作用や腎毒性が無く、強力な耐性克服効果を持つ新たなシクロスポリン誘導体なども試験段階に入っています。

 シクロスポリンは、欧米のRA(リウマチ)治療指針でMTX効果不十分な活動性の高い症例で、推奨され、シクロスポリンとMTXの併用療法はそれぞれの単独療法よりも有効とされています。

 タクロリムスの場合でも、MTX抵抗性RA症例をタムロリムスにスイッチする場合に比し、タムロリムスを追加併用する方が約2倍の有効率を示しています。

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 患者リンパ球のP糖蛋白質の評価により、薬剤耐性(二次無効、エスケープ現象)や難治性(薬剤不応性)の識別が可能で、前者はシクロスポリンなどのP糖蛋白質拮抗剤による耐性解除、後者はシクロスポリンなどの強化療法による不応性解除によるテーラーメード医療の実践を可能とするものです。

1.細胞活性化によるP糖蛋白質の誘導
      ↓
   治療不応性(難治性)
      ↓
  Intensive therapyの必要性

2.長期薬物療法によるP糖蛋白質の誘導
      ↓
   薬物耐性(二次無効)
      ↓
  シクロスポリンなどによる薬物抵抗性克服

      {参考文献}医薬ジャーナル 2004.7


 医学・薬学用語解説(J)   Jカーブ現象の論点はこちらです。   


<追加記事>

ハーブで癌治療


   出典:ファルマシア 2001.7  昭和大学薬学部 藤井幹雄


 ハーブと抗癌剤を併用すると、乳癌の抗癌剤に対する感受性が高くなる報告があります。

 乳癌の化学療法には、タモキシフェンを中心とした抗エストロゲン剤が用いられていますが、これらの薬は主としてエストロゲン受容体陽性乳癌に有効といわれています。

 一方、エストロゲン受容体陰性乳癌には、主として抗癌剤が用いられますが、癌細胞によっては抗癌剤が効かなくるという“耐性”を示すことがあります。このような耐性を持つ乳癌の患者に抗癌剤を多量に用いると治療効果は上がらないばかりか、強い副作用が現れてしまいます。

 乳癌細胞にNF−κBという核蛋白質(NF;nuclear factor)の濃度が増加すると乳癌細胞の抗癌剤に対する感受性が低下されていることが報告されています。

 欧米で関節炎や片頭痛の予防に繁用されるハーブ;フィーバーフュー(夏白菊)の活性成分パルテノライドに強力で特異的なDNA結合阻害活性が認められ、乳癌細胞にタキソール注と併用したところ、タキソール単独の場合よりも3.5倍の効果がありました。

 DNA結合阻害剤は、そのメカニズムとしてNF−κBのDNA結合サイトにあるシステイン残基と共有結合し、NF−κBとDNAの結合を阻害すると考えられています。パルテノライドもNF−κBのDNAサイトに共有結合すると考えられています。

 乳癌以外の細胞でも抗癌剤に対する感受性の低下にNF−κBの関与が見出されれば、乳癌と同様に化学療法剤とハーブの併用が癌細胞の化学療法剤に対する感受性を高めると考えられます。

 将来、ハーブを併用した化学療法で癌治療が可能になれば、薬物の多量与薬を回避でき、苦痛や経済的な負担を軽減できると思われます。

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NF−κB        関連記事 NF−κBと気管支喘息もご覧下さい。

NF;nuclear factor

 NF−κBは炎症性サイトカインや接着分子などの遺伝子発現を活性化する代表的な転写因子です。

 酪酸がインビトロで腸上皮細胞株のNF−κB活性を抑制することから、GBFの抗大腸炎効果の少なくとも一部はNF−κB活性の抑制に基づくことが示唆されています。

 蛋白の生成に先行するmRNAの転写には転写因子の活性化が必要です。NF−κBは元来免疫グロブリンのκ鎖遺伝子のエンハンサーに結合する転写因子として発見されました。

 現在では、種々のサイトカインやICAM-1(細胞接着分子の1つ)や
iNOSの遺伝子発現調整にも関与することが明らかになっています。

 NF−κBは刺激のない時には不活化因子(I−κB)と結合した状態で細胞質内に存在します。種々の刺激によりI−κBがリン酸化を受けた後分解されると、遊離したNF−κBは核内に移行し標的遺伝子のプロモータ、エンハンサー領域にあるNF−κBレスポンスエレメントに結合しその転写を誘導します。


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花粉症アレルゲン

1989年5月1日号 No.42

 花粉症は植物の花粉が原因となって惹起される?型アレルギー疾患です。花粉の飛散するシーズンに一致して上気道、特に鼻炎症状や目の結膜炎を主体とする臨床症状が出現し、時には喘息症状を生じさせることもあります。

 アレルギー反応を生じる原因物質はアレルゲンと呼ばれており、花粉粒子そのものがアレルゲンになるのではなく、この粒子に含まれている一般に可溶性の蛋白質や糖質がアレルゲンになります。

 最近、これらのアレルゲンが次々に精製されてきていますが、今までに国際的に統一された命名法が存在しなかったために混乱が生じてきています。このため国際免疫学会では高度に精製されたアレルゲンに対し新しい統一命名法が提唱されています。

<花粉症の新しい名称>

 最初の3文字はイタリック体で抗原が由来する属を示します。次の文字は種の第1文字となります。スペースを置いてローマ数字を記します。この数字は一般に抗原物質が歴史的に同定された順に従ってつけられますが、主要なアレルゲンはNo.1とします。異なった種に由来する抗原で類似した構造を持つ物質は同じ番号にします。

(例)

木本植物(tree) :新しい名称:古い名称
日本杉      :Cry i I :HIa
ハンノキ     :Aln i I :AI4
雑草本植物
ブタ草      :Amb aII :Ag K

 1950年以前の日本には花粉症患者は存在しないといわれています。従って花粉症の発症には様々な生活環境の変化が大きな要因にになっていると考えられます。

 現在、花粉症の治療は対症療法が中心ですが、アトピーの解明等の免疫学の進歩が待たれます。

{参考文献} 薬局 1989.4


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花粉症の初期療法の意義とその実際

2010年1月15日号 No.513

 スギ花粉の飛散開始前あるいはその直後から抗アレルギー剤を服用することで症状の発現時期を遅らせ、本格飛散期の症状を軽減させる初期療法は、高い有効性が認められていることから、かなり普及してきています。

 最近は、経口第2世代の抗ヒスタミン剤以外にも、ロイコトリエン受容体拮抗剤(抗LTs)やTh2サイトカイン阻害薬なども使用されており、患者のニーズに合わせた薬剤選択が必要です。
 

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 初期療法は、スギ花粉症独特の治療法として20年以上前に提唱されました。アレルギー性鼻炎に対し、多くの作用点を持つ薬剤が市販されており、通常はこれらの薬剤を病型や症状に合わせて用いることで十分な効果が得られます。しかし、大量飛散時には飛散シーズン中にこれらの対症療法を行っても、症状軽減が困難なことがあります。

 その対策として、飛散開始初期あるいはそれに先立って服用する初期療法が推奨されています。初期療法は、単に薬剤の効果発現が遅いために行われるのではなく、鼻過敏性の形成を阻止することによって飛散開始日以後や大量飛散日の症状を抑制するための治療法です。

 初期療法の開始時期については第2世代抗ヒスタミン剤は効果発現が数時間程度と早いことから、飛散開始日あるいは予測日にから間に合うことになります。しかし、飛散開始予測日は必ずしも正確ではなく、患者の病態や症状に応じて開始時期を決定することが必要と思われます。

 薬物療法では、初期療法に続いて、症状が強くなってから治療を開始する導入療法、よくなった症状を維持する維持療法が行われます。

 初期療法の有効性については、多くの報告があり、くしゃみ、鼻汁、鼻閉の3主徴をスコアして調査する方式で行ったところ、初期療法は花粉の飛散量に関係なく、有効であることと、そして、軽症の段階から開始するとよいことが明らかになっています。

 第2世代抗ヒスタミン剤は全般的に改善度に優れ、眠気などの副作用が少なくなってきています。しかし、治療効果、眠気の出現頻度や程度は個々の患者で大きく異なります。例えば、眠気を薬剤効果とみなしていたり、鎮静作用が強い薬剤でも全く眠気を訴えない方もおられます。また、花粉症患者は鼻閉のため十分な睡眠をとることが出来ず、薬剤の副作用ではなく、むしろ夜間の睡眠不足のために日中に眠気を訴えることも少なくありません。

 抗LTs薬は、鼻閉に対しては効果が優れていますが、即効性はありません。したがって、初期療法として抗LTs薬を用い、その後の導入療法や維持療法に他の薬剤を追加併用するもの有効です。ただし、薬価が高くなるため、コストパフォーマンスを考慮し、十分な説明を行う必要があります。

 噴霧吸入ステロイド剤は迅速に強い効果が得られますが、患者は鼻過敏性が亢進しているため、鼻局所への使用により鼻症状が誘発されることがあります。また、鼻閉が強いと鼻腔に十分量を噴霧できないことから、外出前や帰宅後あるいは就寝前に使用するように説明する必要があります。

 初期療法では、こうした薬剤の特徴を踏まえ、患者の年齢やライフスタイルを考慮した治療薬を選択し、十分な説明をする必要があります。さらに、その後の治療効果を確認しながら、最もその患者に適切な治療薬とその使い方を見出す努力も求められています。

    {参考文献}メディカルトリビューン 2009.12.24
 

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花粉症の薬物治療(当院採用薬のみ記載)

<内服薬>
・ケミカルメディエーター遊離抑制薬  インタール、リザベン
・第2世代抗ヒスタミン剤   アレロック錠、アレジオン錠   エバステルOD錠、クラリチン錠
   ザジテン、ジルテック錠等
・トロンボキサンA2受容体拮抗剤 バイナス錠
・ロイコトリエン受容体拮抗剤(抗LTs)   オノンCp
・Th2サイトカイン阻害薬   アイピーディー

<点鼻薬>
・抗ヒスタミン薬〜  リボスチン点鼻液
・ステロイド剤    リノコートパウダースプレー鼻用
・血管収縮薬 〜ナシビン

<点眼薬>
・抗ヒスタミン〜リボスチン点眼液
・ケミカルメディエーター遊離抑制薬   〜リザベン点眼
・ステロイド剤〜フルメトロン点眼液


花粉症治療薬剤の選択法(注:この記事は2000年以前のものです)

 日本には花粉症の治療薬が多数ありますが、服用してからの効果発現日数も副作用も薬剤によりまちまちであり、処方や調剤にあたる医師や薬剤師は各薬剤のそうした特徴を十分把握して薬剤の選択と使い方を心掛けるべきです。

 抗アレルギ−剤のなかでは第二世代抗ヒスタミン剤が有効で副作用も少なく(発現率は6〜7%)安全ですが、一般に抗アレルギ−剤は使用を中止すると症状がまた発現するケ−スもあります。

 日本の患者の85%はこれらの薬剤を適切に使用すれば苦痛なく生活を送れますが、中等度及び重篤な花粉症には減感作療法の効果が高いことが報告されています。

 抗アレルギ−剤でも効果発現日数は、第一世代の抗ヒスタミン剤は10分から20分、局所ステロイド剤は1〜2日、全身ステロイド剤は2〜3日、鼻用抗ヒスタミン剤で約2週間とかなりバラツキがあります。

 第一世代抗ヒスタミン剤:ポララミン錠、ペリアクチン等

副作用=眠気、全身倦怠感、口渇などがあるうえ、喘息、排尿障害、 緑内障、自動車運転者に禁忌。

 第二世代抗ヒスタミン剤:ニポラジン錠、

 抗アレルギー剤:アイピーディ、アゼプチン錠、アレギサール錠、アレジオン錠
インタール、エバステル錠、オノン、ケタス、ザジテン、ジルテック錠、ドメナン錠ブロニカ錠、、レミカット、ロメット

トリルダン錠、ヒスマナール錠の副作用=循環器:QT延長、心室性不整脈(torsades de pointesを含む)、

リザベンの副作用=膀胱炎様症状

 減感作療法:MS-アンチゲン40注、診断用アレルゲンハウスダストアレルゲン治療エキス
副作用=かゆみ、希に蕁麻疹、喘息、ショックなどが知られています。

<留意点>

 糖尿病の人が禁忌であるはずの全身ステロイド剤をもっていることもあるといいます。
また、よいとされる第二世代の抗アレルギ−剤も効果発現までに2週間を要します。

 患者さんは症状が悪化してから薬剤を服用しがちですが、この第二世代の抗アレルギ−剤の場合は花粉飛散の二週間前から服用しシ−ズン中服用を継続するよう指導する必要があります。

 なお、減感作療法は臨床的に治癒の可能性のある花粉症治療法ですが、日本では改良型エキスもまもなく承認される見込みですが、米国のエキスがより効果が高いといわれ、現在厚生省の研究班でその効果を調査中です。


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花粉症と喘息

         =====One airaway,one diseaseとは======

2006年3月1日号 No.424

 これまで日本では花粉による喘息は無いと考えられていました。しかし杉花粉が喘息を起こすこちが知られるようになるにつれ日本でも花粉と喘息の関係が注目されてきています。

 鼻炎と喘息は互いに独立した疾患であると考えられてきました。しかし鼻炎でも喘息と同様にロイコトリエンが重要なメディエーターであることが知られるようになり、互いに類似した病態であることが分かってきています。

 上気道と下気道のアレルギー性炎症の治験が増えるにつれ、これら2つの疾患は1つの気道(one airaway)に起こる1つの疾患(one disease)と考えることが合理的と思われるようになってきました。

 鼻炎と喘息の関連についてはいくつかの考えがあります。1つは上気道の炎症が下気道の病気を惹起するという考え方で、もう1つは両者に共通した病態があり一方が他方の原因ではないという考えです。
One airaway,one diseaseは校舎の考え方です。

*鼻炎と喘息は共通した病態

 One airaway,one diseaseの基本的な病態は上気道、下気道へ達する抗原が共通したものにせよ異なるものにせよアレルゲンがそこへ達しアレルギー性炎症を惹起した結果と考えることができます。

 花粉喘息の症状が花粉症の症状ほど目立たないのは下気道へ達する抗原が少ないことが主な理由と推測できます。

*花粉と喘息

 アレルゲンはその大きさが数μmと小さければ効率に下気道へ吸入されます。花粉は一般に数十μmと大きく灰へ吸入される量が少なく喘息症状も起こりにくくなっています。

 ブタクサ感作喘息では花粉粒自体を吸入してもほとんどの例で喘息は起こらないことが証明されています。これまでに知られている花粉喘息にはホソムギ、カンバ花粉があります。スギ花粉では花粉表面の微粒子成分の吸入が原因と考えられています。

*スギ花粉症と喘息

 スギ花粉が大量に飛散した1995年にスギ喘息が報告され、スギも喘息を起こしうることが証明されました。その喘息症状は3月に始まり花粉飛散が終わった後、5月、6月まで持続します。

 花粉飛散が終わっても症状が持続するのは、喘息反応によって獲得された気道過敏性が残存すること、室内塵中のスギ花粉アレルゲン活性は4月以降も存在することから説明が可能です。

 スギ花粉はその表面にオービクルと呼ばれる微粒子に覆われています。このオービクルは容易に花粉粒から剥がれ、スギ花粉は花粉粒の内外でその抗原性が異なります。外部の微粒子成分の抗原量はスギ花粉の変動にほぼ一致しており、この微粒子成分はスギ抗原と同じ生物学的活性を持っていることも明かにされています。

*スギ花粉症と下気道症状

 スギに感作されている喘息患者では花粉飛散期に喘息症状が明かに悪化することはまれにしかありません。その理由は2つ考えられ、第1に微粒子成分の飛散量は少なくそのため喘息が誘発される程度が軽いこと、第2にすでに喘息の治療がなされているために症状がマスクされていることによります。

{参考文献}治療 2006.2 国立病院機構相模原病院アレルギー・呼吸器科 医長 前田 裕二


<NST関連用語解説> 

      SGA:subjective global assessment(1)はこちらです。


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秋の花粉症

2011年9月15日号 No.552

 日本では、春のスギ、ヒノキ科花粉によるスギ花粉症が有名で、花粉症と言えばスギ花粉症を意味するほどです。しかし実際は、春以外の季節にも様々な花粉による花粉症が報告されています。

 花粉症は、花粉が原因となるアレルギー性鼻炎とアレルギー性結膜炎を主病態とする疾患です。

花粉飛散期に発症するため季節性アレルギー性鼻炎と同義語として使われることもあります。

 原因となる花粉は季節によって異なり、2月から4月は、木本(樹木)花粉(tree season)が多く日本では、スギ、ヒノキ科花粉によるスギ花粉症と北海道のシラカバ花粉症が有名です。

 しかしその他にもスギ、ヒノキ科花粉の飛散終了後の5月から7月のイネ科花粉を中心とした草本花粉による花粉症(grass season)と8月から11月の秋の花粉症があります。

 秋の花粉症の代表的な植物は、欧米ではキク科のブタクサですが、日本では欧米ほどブタクサは多くありません。日本では、空きにもイネ科の花粉が原因となることが特徴で、その他、ヨモギなどのキク科の植物やカナムグラ、九州ではカラムシが原因となることが知られています。

 また、11月、12月の暖かい日には少量ではあるがスギ花粉が飛散するため、特に過敏な人ではスギ花粉症を発症することがあります。主な秋の花粉の飛散時期は8月〜11月が中心となります。

 草本の花粉の抗原性はスギやヒノキよりも強いため、同じ量の花粉が体内に入れば秋の花粉症の方がスギ花粉症より症状が強くなります。しかし幸いなことに、秋の花粉症の原因となる植物の総飛散花粉数は、年や地域によって差があるものの概ね500個/cm2以下と、スギやヒノキに比べると飛散花粉数が少ないため、症状もそれほど強くありません。しかもこれらの草本の分布には、年や地域に偏りがあり、例えばブタクサやイネ科草本は市街地では少なく、郊外の住宅地や河川敷などに多く分布する傾向があります。

 イネ科やブタクサの花粉の飛散距離は100m以下で100Km以上も飛散するスギ花粉に比べると飛散距離は非常に短くなっています。これは花粉が重いことや草本の背丈が樹木に比べて低いことが影響しています。

 したがって、生活環境内のこれらの草本の植生を調べ、花粉発生源から距離を保つことで、症状を抑えることも可能です。逆に遠足やハイキングなどで河川敷に行った際に、何人もの人が花粉症を発症したという報告もあります。

<症状>

 スギ花粉症の症状は、クシャミ、鼻水(水様性鼻汁)、鼻づまり(鼻閉)などの鼻症状とと眼の痒み、流涙、充血などのアレルギー性結膜炎による眼症状が主症状です。 秋の花粉症の眼症状も基本的に同じです。しかし秋の花粉症の眼症状はスギ花粉症に比べて軽く
逆にスギ花粉症では少ない喘息などの下気道症状をブタクサ花粉症では発症することがあります。

 秋にこれらの症状を認めた場合には、花粉症を疑い検査を進めるべきです。しかし、ハウスダストによる通年性アレルギー性鼻炎でも春と秋は症状が増悪することが多く、喘息でも同様の傾向があるため診断は簡単ではありません。

 また秋の花粉症では症状が強くないことも多く急性上気道炎(風邪)との鑑別も必要です。

 風邪ではクシャミ、鼻水、鼻づまりのほかに、咽頭痛や発熱を伴うことが多く、また、風邪の初期(カタル期)には鼻水であっても、その後は粘性あるいは粘膿性に変わっていきます。一方、花粉症の場合には合併症がない限り鼻水のままです。

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  <花粉症の薬物治療>

 花粉症に対する治療は「鼻アレルギー診断ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2009年度版」に基本的な指針が示されています。

 使用する薬剤は抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬(抗LTs薬)、抗プロスタグランジンD2、トロンボキサンA2薬(抗PGD2・TXA2薬)などがあり、症状の強さと病型(くしゃみ・鼻汁型、鼻閉型、完全型)で使用する薬剤が異なる為、症例ごとに適切な治療薬を選択し、使用する優先順位を決めます。

 花粉症治療の特徴の一つである「初期治療」は「花粉飛散開始前または症状が少しでも現れた時点で内服を開始する治療法」で、本格発症を抑える効果があります。秋の花粉症では飛散開始時期の予測が困難な為発症直後からの服用となることが多く、また、1種類の花粉の飛散期間が2週間程度と短いことから、服薬を開始して最大効果が得られるまでの期間が短い薬剤が適しています。そのため、秋の花粉症の治療、特に初期治療や軽症例の治療では抗ヒスタミン薬が多く使用されます。  

<重症度に応じた花粉症に対する治療法>

*初期療法 1.第2世代抗ヒスタミン薬、2.遊離抑制薬 3.Th1サイトカイン阻害薬 4.抗LTs薬 5.抗PGD2・TXA2薬
 1〜5のいずれか1つ

*軽症 1.第2世代抗ヒスタミン薬   2.鼻噴霧用ステロイド薬
 1と点眼薬で治療を開始し、必要に応じて、2を追加

    中等症
・クシャミ・鼻漏型:第2世代抗ヒスタミン薬+鼻閉用ステロイド剤
・鼻閉又は鼻閉を主とする充全型  抗LTs薬+鼻閉用ステロイド薬+第2世代抗ヒスタミン薬

    重症・最重症

・クシャミ・鼻漏型:鼻閉用ステロイド剤+第2世代抗ヒスタミン薬
・鼻閉又は鼻閉を主とする充全型:鼻閉用ステロイド薬抗LTs薬+第2世代抗ヒスタミン薬

 必要に応じて点鼻用血管収縮薬を治療開始時の7〜10日間に限って用いる。
鼻閉が特に強い症例では経口ステロイド薬を4〜7日間処方で治療開始することもある。
点眼用抗ヒスタミン剤、遊離抑制剤またはステロイド、鼻閉型で鼻腔形態異常を伴う症例では手術         


{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2010.9      


<医学用語辞典>

DLST

drug lympocyte stimulation test

薬剤リンパ球刺激試験


 薬剤によって起きる遅延型アレルギー delayed allergyを検査するin vitro試験

 DLSTとは、薬剤によるリンパ球刺激試験の事で細胞性免疫検査の一種です。 

 患者の感作リンパ球に抗原(起因薬物)とアイソトープ標識核酸前駆物質を加えて培養し、リンパ球の幼若化現象に伴って起こる核酸合成の亢進を測定します。

 薬剤性肝障害の多くには遅延型アレルギーが関与すると考えられており、その起因薬物の確定法としてDLSTは有用とされています。

 1薬剤で最低500万個のリンパ球が必要です。血液と同時に依頼薬剤を提出します。
*原則として坐薬、皮内反応注射薬は検査できません。



矢追インパクト療法
YIT:Yaoi Impact Charging Theory


アレルギーの減感作療法の1種

 「生体が適度な刺激を、適度な間隔で、繰り返し受けることで、自然に自らの自然治癒力や免疫力を高め、生命力溢れる健全な心身を造り維持できること。」

 「使用する抗原は極超微量の方が安全で、むしろ優れた効果を出せる。アレルギー疾患ばかりでなく、日常的な数多くの難治性の疾患にも著効を示し得る。」

 そして最近、これらの一見バラバラと思われるYITの多彩な効果が、ステロイドホルモンの一種であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の効果にほぼ一致することが突き止められています。

        出典:治療 2001.5
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減感作療法


 花粉症などはアレルゲンに対するアレルギー性炎症です。この原因となるアレルゲンを体内に反復して入れることにより、アレルゲンの特異的過反応を抑制するのが減感作療法(免疫療法)です。

 薬剤ではアレルゲン暴露後の体内で一部の反応部位に効果があり薬剤を中止すると症状が戻るのと違って、減感作療法はアレルゲン暴露によって症状発現を防ぐことができる有力な治療法です。

 現在一般に施行されている花粉症、アレルギー性鼻炎に対する減感作療法は、小児、成人ともに治療用アレルゲンの漸増皮下注射療法です。

 維持量の決定は、通常皮膚発赤が50mm以上、膨疹20mm以上(および偽足のでた)の濃度とします。しかし全身症状(喘息、蕁麻疹)の誘発症状や皮膚の硬結、かゆみなどの局所症状の程度によっても維持濃度を決定します。

 口腔粘膜を利用する舌下療法が欧州で行われているそうです。皮下注より効果が少ないとの報告もあります。

<副作用>
 副作用にアナフィラキシーショック(200万回に1回)、喘息誘発など重篤なものがあるため、本療法施行前に患者本人ならびに小児の場合には保護者に同意を得る必要があります。

 ※バイアルが新しくなった場合には注意が必要です。

<作用機序>→不明な点が多い
1.注射アレルゲンに対するIgE抗体の産生抑制
2.遮断抗体の産生亢進
3.局所粘膜型肥満細胞の減少
4.Th1,Th2バランスの変化による放出サイトカインの変化

<減感作療法の問題点>
・治療用のアレルゲンエキスの種類が少ない:スギ、ホウレン草、ブタクサ、アカマツ
・アナフィラキシー・喘息誘発などの副作用
・長期間治療継続が必要:3年以上で効果、できれば5年

        出典:治療 2006.2

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