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CAST

Cardiac Arrhythmia Suppression Traial

 心筋梗塞慢性期に心室性期外収縮が多発する場合、その予後は悪いことが知られていました。80年代後半Ic群に分類される非常に強い抗不整脈薬が開発されました。その中でフレカイニド、エンカイニド、モリシジンが心筋梗塞後の心室性期外収縮を有意に抑えることがパイロット試験によって確認されました。

 そこで、これらの薬剤により心室性期外収縮を抑えれば心筋梗塞の予後を改善できるであろうと予測し、89年CAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Traial)が行われました。

<結果>

 服用期間中、心室性期外収縮は抑制され、新たな狭心症、心筋梗塞、心不全は特に増加しませんでした。

 心室細動の前段階に相当する持続型心室頻拍や失神も特に多く出現しませんでした。
しかし10ヶ月を経た時点で突然死率が、実薬群が4.5%、プラセボ群が1.2%と実薬群の死亡率が高いことが明らかになり、試験は中止されました。

<解釈>

 陳旧性心筋梗塞の電気生理学的基質は時間とともに変化し、抗不整脈薬による修飾を受けます。そこに一過性の虚血あるいは自律神経の変化が加わり心室細動を引き起こす基盤に変化した可能性はあります。

 Ic群薬はNaチャンネル遮断作用をにより異常な心筋の興奮性や伝導性を抑制し、その効果を発揮しますが、伝導の抑制は新たなリエントリーを引き起こす可能性があります。つまりIc群薬は心臓の電気生理学的基質に作用し、期外収縮を抑制するという抗不整脈作用を発揮すると同時に、心室細動を引き起こすという催不整脈作用を起こす可能性を持っています。

<意義>

 CAST以後、抗不整脈薬の催不整脈作用が改めて注目されるようになりました。催不整脈作用とは、抗不整脈薬が新たに不整脈を誘発したり、既存の不整脈を増悪させることを意味します。

 これはIc群薬だけでなく全ての抗不整脈に起こり得ます。そこでCAST以後不整脈治療方法および、抗不整脈薬の選択方法が改めて問い直される形となりました。



COX−2    クリック→こちらにも関連記事があります。COX2(癌治療での) COX  

 シクロオキシゲナーゼ;COXは、アラキドン酸からのプロスタグランジン(PG)生合成の律速酵素として知られています。

 1991年に2種類のアイソザイムの存在がmRNAのレベルで明らかにされ、従来から知られていた酵素はCOX−1、新たに発見されたサブタイプはCOX−2と呼ばれています。

 COX−1はconstiutive;本質的なenzymeとして、ほとんどの細胞で常時発現しており、生体の安定性を維持する「housekeeping」としての役割を果たしていると考えられています。
 一方、COX−2はinducibl;誘発する enzymeとして、単球、繊維芽細胞、滑膜細胞などの炎症に関わる細胞で発現し、炎症性サイトカインなどによって誘導されます。

 このように、この2種類のアイソザイムは、酵素としての調節機能と出現様式において大きな差が認められます。

 アラキドン酸代謝の中で生成されたPGは、生体の安定性の維持に関与しており、例えば胃では胃粘膜保護作用並びに胃血流量の維持作用、腎臓では糸球体濾過量の維持、腎血流量の維持並びにNa+,Cl−の再吸収抑制に関与しています。

 従来のNSAIDsは、COX−1とCOX−2の両方を阻害するため炎症巣のPGだけでなく、胃粘膜や腎でのPG(特にPGE2)産生を抑制し胃腸障害や腎障害などの副作用を発現します。そこで、副作用の軽減化を目的に炎症に深く関与していると考えられるCOX−2を選択的に阻害するNSAIDsの開発が進められています。

 現在、臨床で使用されているNSAIDsの中では、エトドラグが最もCOX−2選択性が高いとされており、消化器系や腎臓関連の副作用の軽減化が臨床的に実証されつつあります。

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2001年10月1日号 No.323

COX2について

シリーズ:アスピリン(6)

{参考文献} OHPニュース 2001.5

 アラキドン酸代謝経路で、膜のリン脂質からホスホリパーゼA2を介して遊離されたアラキドン酸を、PG-G2やPG-H2を介して、トロンボキサンやPG-E2をはじめとするアラキドン酸代謝物に転換するときに、一番中心的に働く酵素がCOXです。COX1、COX2ともに、この酵素としての作用に関しては全く同じです。

 COX1はだいたいどこの細胞でも一定量作られ、常に存在している酵素で生体防御的に働いていると考えられています。しかしCOX2は普段、細胞には存在せず、何かの刺激が加わったとき、特にIL−1やTNF−αなどのサイトカインが加わった時に急に大量に発現します。

 つまり、炎症部位ではサイトカインをはじめとする炎症に関わる各種の刺激があるため、当然COX2が多く発現しています。そこで、COX1への影響がほとんどあるいは全くないCOX選択的あるいは特異的阻害剤は、胃粘膜・腎臓・血小板で産生されるPGの生理的保護機能を障害しないと考えられています。

 また、COX1,COX2の構造上の違いはチャンネルの広さと活性部位を構成するアミノ酸に違いがあります。COX1の活性部位ではアミノ酸の523の位置にイソロイシン残基があり、これに対しCOX2活性部位の同じ位置にはバリン残基があります。

 イソロイシンにはバリンより1個余分にメチル基が存在するため、COX1のチャンネルはCOX2のチャンネルより狭くなっています。この構造的な差が、NSAIDsによるCOX選択性の差を生み出す一因と思われています。

 COX2のみを100%選択阻害する薬剤は開発されておらず、いわゆるCOX2阻害剤という明確な基準はありません。COX1/COX2比である程度分類されていますが、その比率が測定法の違いにより異なり細かい分類は不可能というのが現実です。

 COX2阻害剤はこれまでの臨床成績により従来のNSAIDsと同程度の鎮痛・消炎効果が認められ、消化管障害は少なくなっています。しかし、添付文書の副作用欄からは、依然として消化器障害の項は削除されていません。COX2阻害剤は、理論的には腎障害も低下させる筈ですが、やはり十分な注意が必要とされています。

 COX1、COX2阻害ですべてのNSAIDsの効果及び副作用についての機序は説明されていず、COX3の存在も想定されています。

2003年追記:COX-3

 2002年末、COX3新発見の報告が米国国立科学院解放Proc.Natl.Acad.Sci.USA.99に掲載されました。

 この報告では、脳内で痛みに関与するシクロオキシゲナーゼ3(COX3)の存在が明らかにされ、アセトアミノフェンがこのCOX3を特異的に阻害することで鎮痛効果を発現し、これまで不明の点が多かったアセトアミノフェンの作用機序が明確になりました。


 COX1の疼痛への関与も示唆されており、抗炎症・鎮痛目的では単にCOX2のみを阻害するだけでよいのか、また、COX1を阻害する必要が全くないのかは、まだ明確ではありません。ただ、COX2阻害薬の開発経過と今後のPG系の研究の進歩により、新しいNSAIDsが消炎鎮痛剤の枠を越えて、大腸癌やアルツハイマー病などの各疾患の治療・予防薬としての可能性が開けてきたことは確かなことと考えられます。

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北里大学名誉教授 鹿取信 H9.3.24

「多彩な標的を持つ選択的COX−2阻害剤」

 COX−2阻害剤が急性炎症のみでなく慢性関節リウマチ、生殖系(流産防止、生理痛の鎮痛)、大腸癌の増殖抑制などさまざまな疾患に効果を示します。

 従来のNSAIDsが抗炎症作用とともに腎障害を起こすのに対し、COX−2特異的阻害剤は抗炎症作用が優位に発現し、COX−1阻害による副作用軽減が期待されています。

 COX−2が急性滲出性炎症反応のみでなく、増殖性炎症反応(肉芽形成、創傷治癒)、子宮内膜の増殖期、骨吸収、生殖系(排卵、分娩)、大腸癌などに関与しています。一方、肉芽形成、胃潰瘍での肉芽増殖にもCOX−2が関与していることから、予想される副作用として創傷治癒の遅延、胃潰瘍の悪化があります。

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COX2阻害剤が炎症を悪化させる

        出典:ファルマシア 2000.2

 これまでは、生体のホメオスタシス維持に働くCOX1由来プロスタグランジン類(PGs)の生成阻害に基づく副作用を回避することを期待してCOX2選択的阻害剤の使用が望まれてきました。

 しかし、炎症の場でのPGsが、その種類と量により起炎症作用と抗炎症作用という2つの側面を持つことから、病因、経過、時期により複雑な病態を示す炎症性疾患に対して画一的にCOX2選択的阻害剤を用いることは疑問が残ります。

 例えば、慢性関節リウマチで、多形核白血球の浸潤に特徴づけられる急性炎症期にCOX2選択的阻害剤を用いることは副作用軽減のメリットも含め有用であると思われますが、病変部でCOX2が炎症のコントロールに関与しているとすれば、急性期、寛解期を通しての特徴的なCOX2選択的阻害剤は疾患の治癒に悪影響を及ぼすことになります。

 潰瘍治癒過程の肉芽組織形成期にCOX2が誘導されること、これとは別に、胃の線維芽細胞でPGsが肝細胞増殖因子(HGF)の発現を誘導することが分かっており、抗潰瘍作用や組織再形成でのHGF の関与も含め、損傷治癒過程でのCOX2由来PGsの重要性が示唆されています。

           クリック→こちらにも関連記事があります。COX2(癌治療での) COX  


DNAワクチン

出典:治療 増刊号 1999

 DNAワクチンでは、抗原蛋白をコードするプラスミドDNAをそのまま筋肉や皮膚に注射することにより、注射局所の細胞に抗原蛋白を発現させて免疫を誘導しますが、DNAワクチンで誘導される免疫はTh1タイプであることが示されました。

 この発見により、DNAワクチンでアレルゲン特異的Th1細胞を誘導することによりTh2細胞と拮抗させ、アレルギー反応を抑制できないか検討されるようになりました。

 Th2細胞が産生するIL4はB細胞に作用してIgE抗体の産生を促進し、IL5は好酸球の分化・増殖を誘導することにより、アレルゲン特異的Th2細胞がアレルギー性炎症の病態の中心にあると考えられるようになりました。

 Th1細胞とTh2細胞はお互いに抑制的に作用しますが、減感作療法が有効な症例では、アレルゲン特異的Th2細胞が産生するIL4,IL5が減少し、IFNγの産生が増加することが示されています。この結果は、減感作療法でTh2細胞に拮抗するTh1細胞が誘導され、アレルギーが改善することを示唆しています。

 プラスミドDNAは細菌由来の環状DNAですが、真核細胞発現用プロモーターを持ったプラスミドを生食に溶解し、筋肉に注射するのみでプラスミドDNAが細胞内に取りこまれて蛋白が発現することが報告されました。その後、プラスミドDNA注射で発現した蛋白に対して液性および細胞性免疫が誘導されることが証明されました。

 さらにインフルエンザ核蛋白cDNAを組み込んだプラスミドDNAをマウスに筋注することにより、細胞障害性T細胞(CTL)が誘導されてインフルエンザの発症が阻止されることが報告され、この免疫法はDNAワクチンと総称されるようになりました。

 生体に入ったプラスミドDNAは局所の細胞に取り込まれ、宿主細胞の染色体に組み込まれることなくエピソームとして安定に存在し、長期間蛋白を発現します。その結果、発現蛋白に対する免疫学的記憶を伴う免疫応答が長期間持続することが報告されています。

 現在、癌やHIV感染症など致死性の高い疾患でDNAワクチンの臨床試験が行われていますが、安全性が確認されれば、アレルギー疾患に対する抗原特異的免疫療法の1つとして有望と考えられます。


PON1

paraoxonase

“善玉”コレステロール;HDLがある条件下で血管の炎症反応を促進する“悪玉”に変身します。

 昨年開催された米国心臓協会年次集会で、マウスを用いて抗酸化酵素paraoxonase(PON1)を欠損させたHDLがLDLに対する酸化抑制能を失活し、白血球集積の原因になる免疫性炎症反応を惹起することが報告され、同酵素がHDLの“善玉”あるいは“悪玉”状態を見分ける有用な指標となる可能性を示しました。

 PON1はHDLに含まれるエステラーゼで、LDL酸化作用を抑制することが知られています。糖尿病患者ではPON1遺伝子を欠損した多形性が冠動脈疾患のリスクの増大に関与することが分かっています。

 血管内のプラーク形成は、酸化LDLの沈着およびLDLリン脂質の酸化により始まりますが、同時にこの状態は炎症反応を刺激し白血球酸性を亢進します。その結果コレステロールやカルシウムなどが血管内皮に集積し血管を狭窄させ動脈硬化をもたらします。

 通常HDLはPON1のような抗酸化酵素を有し、LDL中の酸化脂質を分解し血管での炎症反応を防止または抑制します。しかし術後の拒絶反応急性期などではHDLがPON1活性を失い、本来の抗炎症作用から炎症促進作用へと変貌させてしまうことが考えられます。

 このようにHDLの作用が理解されるようになれば、炎症反応亢進期でのPON1活性低下防止のための、またはPON1活性亢進のための治療法が模索される段階に来たのでないかと考えられます。

 研究が継続されればHDLの抗酸化酵素活性を高め、動脈硬化耐性を強化するような治療法が見つかるかもしれません。こうした研究により、術後炎症反応亢進期のPON1活性低下が防止され、“悪玉”への変身も防止できるかもしれません。

出典:Medical Tribune 1998 2 26 (スズケントピックス H10.4.8)


SERM(サーム)
                 出典:治療 増刊号 1999.1

SERM:Selective Estrogen Modulator
選択的エストロゲン受容体モジュレーター

 両側卵巣摘除や閉経による骨粗鬆症に対して
エストロゲン補充療法が有効であることが確認されています。また、血清脂質代謝改善作用や抗動脈効果作用などが知られており、閉経後じ女性に対して有用と考えられています。

 しかしエストロゲン補充療法での問題点として、子宮出血、乳房痛、体重増加、子宮内膜癌、乳癌のリスクの増加などが指摘されており、このことが本治療の妨げとなっています。

 エストロゲン受容体と相互作用を示す非ステロイド分子の一群は選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)と呼ばれており、その特性を利用して組織特異的にエストロゲン作用を発揮する化合物の臨床応用が進められています。

 最近、エストロゲン受容体(ER)の新しいサブタイプであるERβがクローニングされ、SERMの組織特異的なエストロゲン作用でのERβの役割が注目されています。

 エストロゲンおよびSERMの生物学的作用は、生殖組織あるいはその関連細胞株に対する増殖促進効果およびエストロゲンによる増殖促進作用に対する拮抗作用として検出されています。

 理想的なエストロゲン補充療法は、子宮や乳腺に対するエストロゲンの好ましくない作用を示すことなく、骨や心臓血管系などの標的組織に対して有益な作用を持つことが必要です。さらに、予防的に長期にわたり使用されることから、高い治療係数あるいは安全域を有することも重要です。

 SERMは臓器特異的にアゴニスト作用あるいはアンタゴニスト作用を有しています。第1世代のSERMであるタモキシフェンは骨組織に対してアゴニスト作用を示すとともに乳腺組織に対してアンタゴニスト作用を示すものの、子宮に対して部分的なアゴニスト作用を有しています。

 第2世代のSERMであるラロキシフェンは骨組織およびコレステロール代謝に対してアゴニスト作用を示すとともに乳腺組織及び子宮に対してアンタゴニスト作用を有しており、理想的なエストロゲンプロファイルに合致しています。

 ラロキシフェンの主な臨床応用として閉経後女性の骨粗鬆症および動脈硬化症が考えられます。(動脈硬化症に対する成績はまだ見られず動物実験の範囲にとどまっています。)

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出典:臨床と薬物治療 2000.10

選択的女性ホルモン受容体モジュレーター
selective estrogen receptir modulator

代表的な化合物:タモキシフェンとraloxifen hydrochloride

 近年、エストロゲン受容体に機能や分類についての多くの知見が得られるにつれ、エストロゲンの多様な生物効果の発現に関しては実にさまざまな因子が関与していることが明らかとなりました。

 エストロゲンの作用メカニズムの中でも最も注目されているのは、エストロゲン受容体の構造内に存在する2つの転写促進部分です。

 1つはN側のドメイン(A/Bドメイン)に存在し、AF-1とよばれます。2つ目は、エストロゲンが結合する部分にSERMはこの部分にエストロゲンと競合的に結合します。

 エストロゲンの複雑な作用の一部は実はこのAF-1とAF-2の化合物の要求性に関わっていることが明らかになりました。すなわち乳癌細胞ではエストロゲン作用の発現にAF-1とAF-2がともに必要であり、タモキシフェンのように、AF-2の作用をブロックしてしまう化合物はこの細胞ではエストロゲンの拮抗薬として働きます。

 一方、その作用にAF-1しか要求しない細胞もあり、その場合、タモキシフェンはエストロゲン作動薬として働きます。したがって、タモキシフェンはAF-1作動薬であり、AF-2拮抗薬であることになります。

 raloxifenに関してはまだ不明の点が残されています。
タモキシフェンもraloxifenもともに骨では作動薬として働き、骨密度は増加します。しかし子宮膜に対してタモキシフェンが作動薬として働くのに対し、raloxifenが拮抗薬として働きます。

 SERMの作用はいまだに十分に解明されたとは言えません。

 raloxifenは骨粗鬆症の骨密度を3%程度増加させ、骨折の発生を有意に抑制されることが確認されています。

 raloxifenは子宮に対して拮抗薬として働くので、子宮内膜肥厚や癌の発生は全く見られなかったとの報告があります。一方血管系に対しては静脈血栓の発生リスクを3倍に増加させ、hot flushは2倍に増加しました。要約するraloxifenはエストロゲン製剤の持つ発癌の危険性がなく、骨に対しては良好な治療効果を持つが、更年期障害に対しては増悪因子となり、血栓傾向を助長するかもしれません。


アジュバント効果

出典:月刊薬事 1997 11

アジュバント
adjuvant:免疫増進薬

 アジュバントは元来助ける,振動するという意味ですが,免疫学で用いられ,抗原と混合または組み合わせることで抗体産生の増大,免疫応答の増強を起こす物質の総称です。

 アレルギー性副作用で最も注意を要するのはβラクタム系です。なぜβラクタム系がアレルギー原性が高いのか? 現在のところ薬剤側と生体側の二つの要因が考えられます。

 薬剤側の要因では、βラクタム系薬剤は蛋白と共有結合しやすいため、生体の高分子物質と結合し完全抗体を形成しやすいと考えられます。ベンジルペニシリンがベンジルペニシロイル-蛋白を形成することは古くから報告されています。

 生体側要因では、抗菌剤アレルギー一般にいえることですが、感染菌、あるいはその死菌体がアジュバント作用を有している可能性が考えられます。

 小柴胡湯による間質性肺炎がインターフェロン製剤の併用により発現頻度が高まる事例は、インターフェロン製剤のアジュバント効果を強く示唆します。さらに、漢方製剤もアジュバント効果を有する可能性があります。

 βラクタム系薬剤の肺炎の潜伏期間(薬剤服用から過敏症状発現までの期間)が10日前後であるのに対し、漢方薬による肺炎の潜伏期間は平均4ヶ月で、長いものは1年を超えるものもあります。

 通常のアレルギー反応では考えにくい潜伏期間が漢方薬のアジュバント効果を指示しています。

 小柴胡湯には肺線維芽細胞のIL-6やIL-8の酸性を増強します。作用が有り、構成生薬の中の柴胡と半夏とIFNのSansei作用を有することが報告されています。




エーリキア症

 感染すると高熱や免疫力の低下を引き起こす人獣共通感染症「エーリキア症」の新しい型の病原体が東京、愛知、徳島などで確認されました。

 エーリキア症はペットや家畜などのダニから人に感染します。世界中で15の型が見つかり、うち4つの型で人への感染が確認されています。

 38度以上の高熱、免疫力の低下、筋肉痛、頭痛などの症状が出ます。

 米国で86年に初めて発見され、死亡率は2〜3%と報告されました。

 感染しても、早期に抗生物質を服用すれば完治できるという。

出典:朝日新聞 1998、2月14日 朝刊


シェーグレン症候群とHCV

出典:日本内科学会雑誌 1998.10

・慢性C型肝炎患者では、高率にシェーグレン症候群類似の唾液腺炎が認められます。
・トランスジェニックマウスのデータから、HCVとシェーグレン症候群類似の唾液腺炎との関連が明確にされました。
・HCVのエンベロープ蛋白がこの唾液腺炎の発症に関与している事が示唆されました。
・一方、古典的なシェーグレン症候群患者ではHCV陽性者は少ない。

 慢性C型肝炎では、高頻度に唾液腺炎が認められますが、一般にその臨床像は、古典的なシェーグレン症候群とは少し異なっています。シェーグレン症候群は種々の病因からなる症候群ですが、シェーグレン症候群の一部でシェーグレン症候群が原因になっているといえます。

シェーグレン症候群

 乾燥性角結膜炎、慢性唾液腺炎を主徴とする原因不明の自己免疫疾患と考えられている。

涙腺、唾液腺の分泌機能が侵される事により、眼球(ドライアイ)、口腔(ドライマウス)の乾燥症を呈するのが特徴

病因としては、遺伝子的素因、免疫異常、ウイルス、未知の環境要因などが複雑に関与していると推定されているが、その実態は不明。

 ウイルスに関しても、T細胞白血病ウイルス(HTLV−T)やEB(Epstein-Barr)ウイルスとの関連が取りざたされていますが、明確な関連性は示されていなません。

病理組織学的には、涙腺、唾液腺の導管周囲のリンパ球浸潤と線房の破壊、消失が特徴です。

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シェーグレン症候群と抗セントロメア抗体

 シェーグレン症候群は、抗SSA抗体、抗SSB抗体等の多彩な自己抗体の出現を特徴とする自己免疫疾患です。

 一亜群である抗セントロメア抗体陽性の一次性シェーグレン症候群は、白血球減少や高IgG(免疫グロブリンG)血症の合併頻度が低い点や、レイノー現象を高率に認める点で、抗SSA抗体陽性の一次性シェーグレン症候群とは異なる臨床像を呈します。しかし、唾液腺の炎症性破壊の程度は、抗SSA抗体陽性の一次性シェーグレン症候群と同様の症例も多く、早期に診断して乾燥症状を的確に把握し治療することがクオリティーオブライフの向上につながります。

 以前より、シェーグレン症候群と関係の深い臓器非特異的自己抗体として、抗SSA抗体、抗SSBが知られていました。コレラの抗体は、病因論的意義は明らかではありませんが、疾患標的抗体として重要で、特に抗SSB抗体は、シェーグレン症候群に特異性が高い抗体として臨床で広く用いられています。

 抗セントロメア抗体(ACA)、限局性強皮症の疾患標的抗体として認識されており、強皮症以外では、抗核抗体が陽性でレイノー現象のみを認める患者でも陽性となることが知られていました。

<抗セントロメア抗体単独陽性の一次性シェーグレン症候群の特徴>

・抗SSA抗体陽性群よりも平均年齢が10歳以上高齢で、レイノー現象の合併頻度が50%と高く、高IgG血症の合併はまれで、白血球減少の頻度が低い。

・唾液腺破壊は高度で、細胞浸潤も強く、アザン染色では抗SSA抗体陽性群に比べれば、軽度の線維化を認める。

・抗SSA抗体とACAの両者が陽性の症例では、抗IgG血症を合併し、白血球減少を認めることが多く、レイノー現象の合併頻度が高い。

   出典:医薬ジャーナル 2005.6 金沢大学医学部付属病院リウマチ・膠原病内科

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ドライアイ
Dry eye

乾燥眼

治療 2002.3

 ドライアイは、涙液の異常に基づく眼表面の(ocular surface)の乾燥から起こる眼疾患の総称です。
 
 現在、ドライアイの定義、診断基準の世界的な統一は成されていませんが、日本では「涙液(層)の質的または量的な異常により引き起こされた角結膜上皮障害」とされています。

 自覚症状としては、多愁訴、不定愁訴の傾向が強くみられています。
高齢者のドライアイでは、いくつかの機能低下の状態が重なって起こっているため病態も複雑です。

 診断には、シルマー試験や生体染色検査などの眼科的検査が必要です。

 治療としては、人工涙液やヒアルロン酸点眼による涙液の補充と眼鏡のサイドパネル(モイスチャーエイド)や涙点プラグによる涙液の維持があります。


無駄口薬理学薬学用語辞典

ドライマウス

2007年7月15日号 No.456

 ドライマウスは、唾液の分泌量が減少し口の中が乾いた状態になることで、「口腔乾燥症」とも呼ばれています。一般的な症状は、唾液分泌低下による、乾燥感や舌痛など口腔内の様々な不快症状です。
男性よりも女性に多く見られます。

 ドライマウスは、歯周病やう歯(虫歯)の原因にもならさらにシェーグレン症候群のような膠原病が隠れていることもあり、原因追求を確実に行う必要があります。

 ドライマウスという言葉が登場したのは、ドライマウス用品が海外から輸入されメディアなどを通じて紹介されるようになった2002年頃からです。

 眼科の目の乾燥「ドライアイ」に比べその注目度はまだまだ低いのですが、今後もっとこの言葉は一般に普及させていく努力も必要と思われます。

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<ドライマウスの自己チェック>

1)口の中が渇く。
2)舌がひび割れてヒリヒリ痛い。
3)口の中がねばねばする。
4)食べ物が飲み込みにくい。
5)話しづらいことがある。
6)味が分からない。
7)口臭が気になる。

<ドライマウスの原因>

1.加齢、2.ストレス、3.更年期、
4.代謝系の異常(糖尿病、甲状腺疾患)、
5.放射線治療の副作用、6.薬の副作用
7.シェーグレン症候群

<ドライマウスを引き起こす可能性のある薬剤>

・抗うつ剤:アナフラニール、トフラニール
     :デプロメール
・抗不安剤:ソラナックス、ジアゼパム
     :アタラックス
・向精神薬:セレネース、リーマス
・抗パーキンソン剤:メネシット、ドパストン
・降圧剤 :アーチスト、カタプレス
・抗ヒスタミン剤:ポララミン、レスタミン
・抗コリン剤:アトロピン、スコポラミン
・抗痙攣剤:テグレトール
・鎮痛剤 :ナイキサン
・気管支拡張剤:アトロベント、プロタノールS
・睡眠剤 :トリアゾラム
・麻薬鎮痛剤:モルヒネ


<ドライマウスの薬物療法>

・エボザック、サリグレン(院外処方薬)
  :シェーグレン症候群患者の口腔乾燥症状の
  改善
・パロチン錠(唾液腺ホルモン)
・ムコソルバン錠(去痰剤 )
・漢方薬:麦門冬湯、
    :白虎加人参湯(当院未採用)
・含嗽剤:アズノールうがい液
    :ファンギゾンシロップ
・軟膏 :ケナログ、ステロイド製剤
・サリベート:人口唾液スプレー

<ドライマウスに対するケア>

1)毎食よく噛んで食べ、唾液の分泌を促す。
2)ゆっくり入浴するなどリラックスタイムを
  持つ。
3)口呼吸や喫煙は口の渇きを悪化させるので
  やめる。
4)歯垢や歯石がつきやすいので歯科の定期健診
  を受ける。
5)保湿ケア製品:保湿ジェル、低刺激洗口液
        :低刺激歯磨き剤等

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※ 高齢化社会が一段と深まるに連れ、ドライマウス患者は益々増加しています。特に老人のドライマウスは誤嚥性肺炎に直結することが多く、日常からの口腔管理は必須です。


{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2007.6


 <医学トピックス> 薬効の男女差 はこちらです。


ステロイドによる緑内障

 房水の正常な流出が障害されることによるとされているが明確な機序は不明

 ステロイド緑内障の眼圧上昇は、ステロイドが細胞のライソゾーム膜を安定させて、ムコ多糖類の分解酵素であるヒアルロン酸の遊離が妨げられたことで、ムコ多糖類が増加することにより引き起こされるとする説もあります。

 ステロイドの眼圧上昇作用は、その抗炎症作用と密接な関係があり、抗炎症作用の高いものほど、眼圧上昇作用も強いとされており、ベタメタゾンやデキサメタゾンはフルオロメトロンやテトラヒドロトリアムシノロンに比較して眼圧上昇作用が強いとされています。

<危険因子>
原発開放隅角緑内障患者、糖尿病患者、高度近視患者、境界値の眼圧(22mmHg前後)を有する患者、隅角発育障害、緑内障の家族歴のある患者では生じやすい。

 このような危険因子を持つ患者では、ステロイドの使用をできるかぎりひかえる必要があります。

<予防と対策>
 ステロイド緑内障が疑われる場合は、出来るだけ早期に減量するか、中止します。
上昇した眼圧はステロイドの中止、あるいは減量により正常に戻った例がほとんどですが、視野の異常は元に戻らないため早期発見が重要となります。

 眼圧の正常化に要する期間は、眼圧のレベル、ステロイドの服用期間などで異なりますが、ほとんどの症例では1ヶ月以内に回復しています。

 中止減量でも眼圧が正常化しない場合には、β遮断剤、ジピベフリン、ピロカルピン、エピネフリンなどの点眼で経過を観察、効果不十分時には炭酸脱水素酵素阻害剤などをとうよすることで眼圧を正常化する必要があります。

 減量も不可能で視野の変化が増悪する場合には減圧手術の必要があります。

 ステロイド緑内障を予防するには、ステロイドの必要最小量を必要最少期間使用し、3週間以上に至る場合には、点眼などの場合、開始3週間の間に2回程度、内服の場合には1回程度、それ以降には週1回程度の定期的な眼圧測定、視野の検査、房水流出率、隅角検査が必要になります。



ニューキノロン系とアミノG系の併用

腎毒性

出典:ファルマシア 1998.4

 ニューキノロン系とアミノG系の併用でアミノG系の腎毒性軽減

 腎毒性軽減の機序として、アミノG系の腎皮質内蓄積濃度が低下、アミノG系によりもたらされる尿細管壊死などの細胞障害を著明に抑制していることが強く示唆されました。

 なぜ、腎皮質内への蓄積を抑制しているかは不明。ニューキノロンとアミノG系が同一結合部位で競合しているとか、アミノG系の尿細管再吸収での相互作用が生じていることなどが推察されています。


ビタミンCの取り過ぎに注意

出典:ファルマシア1999.4

 イン ビトロでVCは酸素との反応により活性酸素の一つであるスーパーオキシドアニオンを生成するという相反する反応が確認されており、抗酸化作用と酸化促進という両面性のあるVCの挙動については、未だに不明な点が多い。

 VCを大量摂取した場合には抗酸化剤としての働きに加え、酸化剤前駆物質にもなり、抗酸化剤と相反する作用を示す可能性が報告されています。

 VCがビタミンとしての機能を発現するための必要摂取量である60mg/dを超えて、大量に服用された場合には、抗酸化剤として働くだけでなく、酸化剤前駆物質にもなり、現在市販されているVC製剤の大量摂取の効果については疑問視されています。


リボザイム医薬

出典:医薬ジャーナル  1996.10

リボザイム:「RNAを切るRNA」〜ribozyme;ribonucleic acid enzyme

 リボザイム医薬は、
アンチセンス核酸医薬と異なり、標的核酸に結合するだけでなく、その核酸の切断反応に伴う機能性医薬分子です。

 リボザイムを含めたアンチセンス医薬は、RNAを標的とするため、これまでに特効薬の無かったウイルス病に対する特異性の高い治療薬としての期待が高く、HIVを筆頭にCMV、ヘルペスウイルス、パピローマウイルスなどに対する抗ウイルス剤が研究開発されています。ウイルス以外では癌(癌遺伝子発現の抑制など)、炎症(接着分子発現の抑制)、血管再狭窄(細胞周期関連遺伝子発現制御による血管平滑筋増殖抑制)などに対して、アンチセンス医薬が実用化されようとしています。

 リボザイムの応用は、アンチセンスに若干の後れをとっているものの、既にHIVや多剤耐性遺伝子、癌遺伝子などをターゲットとした臨床試験の計画があり、リボザイム医薬もアンチセンス医薬を追うような形で続々と登場し、実現化されていくと思われています。


 リボザイムを医薬品として使用する場合、薬剤として直接体内へ導入する手法と、遺伝子治療として導入遺伝子に目的のRNAを産生する情報を組み込むことにより、作用点にリボザイムを出現させる手法が考えられます。アンチセンス核酸の場合、前者をアンチセンスDNA法、後者をアンチセンスRNA法と呼ぶ場合もありますが、いずれも遺伝情報の流れを阻害するものであり、広い意味の遺伝子治療の一領域です。

 リボザイムを治療に用いる場合の問題点は、アンチセンス核酸を用いる場合とほぼ同じです。



抗てんかん剤の催奇形性

 現在のところ、抗てんかん剤の催奇形性の機序については推測の域を出ていませんが、いくつか考えられています。

 1つは中間代謝物によるもので、芳香族抗てんかん剤(フェニトイン:PHTなど)の中間代謝物(arene oxide)は、反応性が強く組織と共有結合し、細胞に損害を与えます。

 バルプロ酸Na(VPA)ではその代謝物4-en-VPAが催奇形性を有することが報告されています。

 2つ目はフリーラジカルによるもので、すべての抗てんかん剤はプロスタグランジン合成の間、電子のドナーとなり、フリーラジカルになりますが、このフリーラジカルはリポ蛋白や核酸と結合し、組織障害をもたらします。

 3つ目は葉酸欠乏によるもので、奇形児を生んだ母親は正常児を生んだ母親より葉酸の濃度が低いことが分かってきています。抗てんかん剤は、葉酸の代謝を阻害すると考えられています。

<対策>
 妊娠前の食事には十分な量の葉酸が含まれていることが必要です。

 妊娠前に、できれば葉酸の濃度を測定し、低値であれば1〜2mg/日の葉酸補充を考慮します。

 催奇形成の高いTMD(トリメタジオン)、MPB(メホバルビタール)は使用しないこと。

 VPAまたはCBZに暴露された児では神経管欠損の危険があるため、超音波検査、もし必要なら羊水のα-fetoprotein(AFP)も測定し、出生前診断を行います。これらの検査を妊娠16〜18週に行うことで90〜95%診断が可能です。

 他の抗てんかん剤では心奇形、顔面裂などの奇形の可能性がありますので、超音波検査が必要となります。

 妊娠中、抗てんかん剤は必要最小限の服用量で、可能ならば単剤で治療します。

 PRM,CBZ400mg、VPA1000mg(血中濃度70μg/ml以下)、PHT200mg/日以下

 VPAの副作用は、血中濃度が非常に高い時に起こるので1日1回服用は薦められず、徐放剤の服用が望ましい。



抗腫瘍性プロスタグランジン

出典:ファルマシア 1998 2

 AおよびJタイプの抗腫瘍性プロスタグランジン(PG)はシクロペンテノン型構造を持ち、他のタイプのPGが細胞膜上レセプターと結合するのに対し、細胞核内に移行し作用します。

 抗腫瘍性プロスタグランジンは濃度依存的増殖抑制効果を示すが、IC50値付近ではG1停止を起こすという従来の制癌薬にはない特徴を有します。

 近年多くの癌遺伝子や癌抑制遺伝子の作用点がG1期にあることが示され、細胞の増殖・癌化においてG1期が重要なチェックポイントであることが認識されてきました。これに伴い、抗腫瘍性プロスタグランジンのG1停止効果が遺伝子レベルで解明され始めました。




新鮮でないマグロの刺身とイソニアジドの併用

 新鮮でないマグロの刺身などに含まれるヒスタミンの分解はイソニアジドにより阻害され、ヒスタミンが体内に残存します。さらにヒスタミンは体内吸収されヒスタミン中毒(顔面発赤、紅潮、頭痛、蕁麻疹などの症状)を惹起しますので、イソニアジドの服用時にはマグロの摂食に注意する必要があります。
 


糖尿病性有痛性神経障害に対するメキシチールの効果

PDN;Painful diabetic neuropathy

有痛性糖尿病性神経障害


 出典:オピオイド〜適正使用と最近の進歩(ミクス社)

 糖尿病性神経障害は糖代謝異常の随伴症状といわれるほど早期に認められ、全身に多彩な症状をもたらします。

 糖尿病性神経障害による、allodynia、穿刺痛(lancinating pain)、電撃痛のようなshooting pain、灼熱痛(burning pain)などは四肢末端に左右対称性に起こり、夜間増悪することを特徴とします。

 軽症例ならば血糖コントロールのみで速やかに改善しますが、激しい例では寝具や衣服の接触にも非常な不快感を伴う疼痛があり、さらに寝付こうとすると電撃痛にみまわれることなど症状が執拗に続くことから、不眠、食欲不振、ひいては反応性うつ病に陥ることも少なくありません。

 治療は血糖コントロールと対症療法の二面作戦で行います。

 薬物療法として、向精神経ビタミン剤、NSAIDs、アルドース還元酵素阻害剤などが用いられますが、これらの対症療法効果は十分ではありません。

 メキシチールはNaチャンネルブロッカーでリドカイン同様、脱分極時に神経細胞内へNaの流入を抑制することから、糖尿病性神経障害に有効であるとされています。常用量で鎮痛作用を有し、また副作用は胃腸障害以外はきわめて低頻度です。このようなことから糖尿病性有痛性神経障害の対症療法薬として有効性が期待されています。

 糖尿病性有痛性神経障害の成因

 インスリン作用不足に端を発する高血糖の持続が
グリケーション(糖結合とそれに伴うフリーラジカルの生成、ポリオール代謝経路の亢進、血小板凝集素の増加内皮細胞での抗凝集素産生の低下などから末梢の虚血性変化を起こすことなどが成因と考えられています。

 糖結合したポリペプチドや蛋白は元の性質とは全く異なった化合物になるところに問題異があります。細小血管症の進展に、糖結合したコラーゲンやアポ蛋白が蓄積し、基底膜の肥厚や障害に関与しています。特にコラーゲンの糖結合から生じた多くのフリーラジカルが直接内皮を障害します。

 高血糖下では、ミオイノシトールの取り込みが競合阻害され、組織内ミオイノシトールが低下します。これによりホスホイノシチドが減少し、Na/K ATPase活性が低下すると、Na依存のアミノ酸の神経細胞への取り込みを障害し神経細胞内代謝に悪影響を及ぼします。ミオイノシトールの取り込みもNa依存であることから、悪循環におちいります。神経細胞の栄養障害は軸索流の低下につながるもので、軸索から栄養を受けているシュワン細胞の脱落、つまり脱髄の原因となります。またアルドース還元酵素が活性化すると、NADPHを消費することから一酸化窒素の低下を招き血管拡張を阻害し、阻血の原因になるとされています。

 一方、限局性の単一(性)神経障害は細動脈から毛細血管の閉塞が原因とされており、糖尿病患者に外眼筋麻痺や四肢の単一の運動神経麻痺が頻度として多い。しかし、糖尿病に特有とは言えない面があり、動脈硬化性変化との関連が大きい。

 一般論ですが、多発性神経障害の進展形成には急激な代謝上の変動による症状のみの時期があり、代謝異常の程度と持続期間を受けて多角的な機能異常期に入り、放置していると軸索変性や一部それに伴う筋性脱髄が不可逆的な変性期に陥ります。不可逆領域に陥ると、感覚は鈍麻し、自覚症状はむしろ少なくなる例があります。また血糖コントロール開始後に悪化する例もあり、成因論として説明できない部分が残されています。

 有痛性神経障害の成因には、高血糖の持続や神経組織の変性などが考えられるが、代謝異常やそれに伴う阻血により生じた組織損傷から生じる刺激の興奮が「痛みや」異常感覚として認知されるのであって、Naチャンネルを阻害する抗痙攣薬やリドカイン類似物質に対症療法的効果があることからも説明がつきます。

 治療開始後、阻血後の再灌流により酸素供給が回復すると、末梢の無髄小径線維群の再生、阻血中に蓄積した還元型物質が酸化されフリーラジカルの増加が刺激の元になる可能性もあります。

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PPN:治療後神経障害;Post-treatment painful neuropathy


PPN

長期間高血糖状態にさらされた患者を急激に血糖コントロールした数週間から数ヶ月後、下肢などに激痛が現れることがあります。これをPPN:治療後神経障害;Post-treatment painful neuropathyと呼びます。

 古くは、インスリン神経炎と呼ばれ、不眠、食欲不振、うつ状態など患者のQOLを著しく多く、加えて、治療を開始したことによって激痛が生じるため、医師・患者間の信頼が損なわれ、後の糖尿病治療に悪影響を及ぼしかねません。

<発症機序>

 PPNの発症機序には諸説がありますが、現在のところ有力な説と考えられているのは、「インスリンにより神経栄養血管の動静脈シャント(動静脈吻合)が開き、神経組織内での低酸素症から、神経障害が生じる」という説です。

<治療>

 第一選択薬:メキシチールまたはテグレトール錠、無効なときは、第2選択薬として抗うつ薬かフルフェナジン、またはそれらの併用

出典:大阪府薬雑誌 2001.8


メキシチール適応症追加 2000年7月 糖尿病性神経障害に伴う自覚症状(自発痛、しびれ感)の改善

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メキシチールとオピオイド受容体

 メキシチールはリドカインの誘導体です。リドカインの静注により、有痛性糖尿病性神経障害の疼痛を改善することが報告されており、その鎮痛作用と、βエンドルフィンの遊離量の増加が関連していることが示唆されています。

 βエンドルフィンは脳内でオピオイドε受容体に作用することにより脊髄でのメチオニンエンケファリンの遊離を促進し、オピオイドσ受容体を介した抗侵害効果を示すことが報告されています。

 このことから、メキシチールがリドカイン同様にβエンドルフィン/メチオニンエンケファリン/σ受容体を介した抗侵害効果を示すことが考えらます。

 メキシチールは、脊髄の知覚神経一時求進路のシナプス前よりのサブスタンスPの遊離抑制および一時求心路後でのサブスタンスPおよびソマトスタチンを介した侵害刺激の伝達を抑制することが認められました。したがって、メキシチールの抗侵害刺激作用に脊髄内において少なくともこれら2つの機序が含まれることが示唆されています。

 またメキシチールは血漿中のβエンドルフィン量を増加させることが明らかとなりました。したがってメキシチールはβエンドルフィン/メチオニンエンケファリン/オピオイドσ受容体の内因性オピオイド神経系を介した抗侵害機構の活性化により抗侵害作用を現すものと考えられます。

 またメキシチールは腹腔内与薬30分後に血中濃度のピークを示すことが報告されています。しかし抗侵害刺激効果のピークは与薬後60〜90分にかけてであり、この両者のピークのに達するまでの時間に差が認められました。この時間のずれは、メキシチールが侵害刺激受容経路をσ受容体を介して直接抑制するのではなく、βエンドルフィン/メチオニンエンケファリン/オピオイドσ受容体の内因性オピオイド神経系を介した下行性の抗侵害機構を活性化することにより抗侵害効果を示すことを裏付けていると思われます。

 以上のことにより、メキシチールは主に、脊髄におけるサブスタンスPやソマトスタチンなどを介した痛覚伝達を抑制することにより、有痛性糖尿病性神経障害の疼痛に対して改善効果を示し、その作用機序に、脊髄でのそれらの神経伝達の直接的な抑制作用と脳内における内因性オピオイド神経系が関与する下行性抑制経路の活性化が関与しているものと思われます。




利尿剤

 近位尿細管では炭酸脱水素酵素を介してNaHCO3の再吸収が行われます。〜アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)

 近位尿細管では受動的NaClの再吸収が行われ、水・Na+利尿を起こします。〜D-マンニトール、イソバイド(浸透圧利尿薬)

 ヘンレ係蹄下行脚〜髄質の浸透圧勾配で水が再吸収。
 ヘンレ係蹄上行脚〜太い部分でCl−が能動的に再吸収。ループ利尿剤はこれを抑制受動的にNa+の再吸収抑制。

遠位尿細管近位部〜サイアザイド系NaClの再吸収を抑制。
遠位尿細管遠位部〜アルドステロン、NaとK+、H+の交換を行う。アルダクトンA

集合管〜抗利尿ホルモン(ADH)の主な作用部位で、水の再吸収も行います。

*ループ利尿剤:ネフロンのヘンレの係蹄(ループ)で、Na+ K+ 2Cl-共有輸送系を阻害し、利尿作用を発現

 用量増加に比例して利尿効果が強力に現れることから、high-ceiling利尿薬とも呼ばれます。
作用発現までの時間も短く、その最大利尿効果発現時には、糸球体でろ過されたNa+の20〜30%が尿中に排泄されます。

ラシックス(フロセミド)が代表、他にブメタニド、エタクリン酸など

 ループ利尿剤は増量効果が著明で漸増して効果が期待されます。抵抗性が出てきた時には、増量ばかりでなく、時にはサイアザイド系利尿剤を併用すると思わぬ効を奏することがあります。但し、安閑として大量、長期無分別に使用する愚は避けましょう。

出典:JJSHP 1997.1

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FENa
fraction excretion rate of sodium
ナトリウム排泄率

 糸球体でろ過されたNaが尿中に排泄される割合(%)

 Naの再吸収が尿細管で行われることから、FENaが2%以上であることは利尿薬使用、尿細管障害でみられ、FENa1%以下への低下は脱水症、腎循環血漿量減少、腎前性腎不全でみられます。


動脈硬化症と酸化ストレス

2001年11月15日号 No.326

 生活の中で生じる生理的なストレスには、温度の変化、アルコール、飢餓状態、栄養欠乏など様々なものがあります。その中でも、酸素、金属イオン、放射線などによる生体への傷害作用は古くから研究されてきました。

 これらは、しばしば生体成分の酸化変性を引き起こすことが知られています。酸化変性とそれに伴う細胞機能障害は、しばしば活性酸素の発生と脂質の過酸化反応を介して進行し、総称的に酸化ストレスと呼ばれています。

 酸化ストレスは、動脈硬化、炎症局所、虚血状態の組織、紫外線を浴びた皮膚など、様々な病理的状態に関わることが明らかにされてきました。

 動脈硬化は血管内皮細胞の障害により開始され、障害部位での血小板の凝集と吸着、血管平滑筋細胞の内膜への遊走・増殖、凝集した血小板への貪食細胞の遊走、平滑筋細胞や貪食細胞よりの泡沫細胞の生成などに基づく粥状動脈硬化巣の形成、さらに、コラーゲンの変性着などによる硬化に至り、動脈硬化巣が完成する病変と考えられています。

 これらの現象はインビトロの系で活性酸素種を用いて誘導することが可能であり、酸化ストレスを脂質の過酸化と関連させて言えば、酸化ストレスは動脈硬化の開始からその進展、さらには、その完成に至る全過程で主因となっていると言えます。

 酸化ストレスとしては、酸素分子の部分還元に由来する活性酸素種、直接または鉄イオンなどの存在下で不飽和脂肪酸と反応し、脂肪酸の
ラジカルなどを産生するある種の活性酸素種、SH基と反応性のある親電子化合物、鉄などの重金属イオン、その他、医薬品・農薬や環境科学上から有害物質とされているものがあります。

 主として酸素分子の部分還元に由来する活性酸素種は、酸素分子そのものであり、酸化ストレスの基本となるものです。活性酸素種のあるものは、直接または鉄イオンなどの存在下で不飽和脂肪酸と反応し、脂肪酸のラジカルなどを産生します。これらも酸化物質であり、酸化ストレスとなります。

 酸化LDLはマクロファージの泡沫化を促すだけでなく、血管内皮細胞に対する様々な作用を示すことも明らかになり、動脈硬化発症の一因と注目されています。

 動脈硬化病巣、特に初期の病変部では、脂質を細胞質に大量に蓄積し泡沫細胞化したマクロファージが多数現れることが大きな特徴です。

 LDL(低密度リポ蛋白)ではなく、酸化修飾されたLDLがその原因であることが明らかにされています。マクロファージには複数の
スカベンジャー受容体があり、この受容体を介して酸化LDLを取り込んで泡沫細胞が生じることが確かめられています。

 健常者では、血漿中の酸化LDL濃度と酸化LDLに対する自己抗体濃度が逆相関関係にあることが明らかにされており、このことは一端生じた酸化LDLも自己抗体の上昇によって消去されるような免疫システムが作用し、酸化LDLの過剰な蓄積を防ぐような生体防御機構が備わっている可能性が示唆されています。

 動脈硬化症は、多様な基礎疾患の影響下で徐々に進行します。酸化ストレスは、その中でも重要な要因であるものの、体内の酸化ストレスをどうしたら抑制できるのか、また消去できても他の要因もある中で効果的に発症を抑制できるのか、臨床応用への課題はまだまだ残されているのが現状です。

{参考文献}  ファルマシア  2001.9  医薬ジャーナル 1997.10 等


プラセボはオズの魔法使いなのか 2001.11.15 No.326

{参考文献}医薬ジャーナル 2001.8
この文章は、沼田 稔(医薬ジャーナル編集長)氏の記事を参考に、書き直したものです。

 2001.5.24 朝日新聞(夕刊)にこんな記事が出ていました。

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「ただの砂糖でも薬と信じて飲ませれば3人に1人は病状が改善する」

 長い間広く信じられてきたプラセボ(偽薬)効果だが、実際には認められなかったと、デンマークのコペンハーゲン大などの研究グループが米医学誌に報告した。

 これまでに発表された114種類の臨床試験データ(患者数計約7500人)を分析した結果で、グループは「新薬の効果を調べる臨床試験をのぞいて、偽薬の使用を正当化することはできない」と結論づけた。

 また、偽薬効果が信じられるようになったきっかけが、1955年に米ボストンの1人の医師が発表した1本の論文だったことも突き止めた。偽薬と本当の薬の治療効果を比べた約10の研究をひっくるめて「偽薬でも35%に効果があった」としていた根拠は薄弱だった。

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 プラセボは、臨床上ある程度意味があるものと信じていた筆者は、この記事には考えさせられました。

 強大な竜巻に巻き込まれたドロシーは、大魔法使いオズが支配する世界に吹き飛ばされました。そこで出会った、臆病なライオン、ブリキの案山子(かかし)たちとふるさとに帰るべく、幾多の困難を乗り越えてようやくオズに会うことが出来きました。

 オズは、臆病なライオンに勇気を、ブリキには知恵を与えました。しかし、最後に分かったのですが、オズは魔法の力を持っていなかったのです。
 ライオンはワッペンの心臓、ブリキは綿で出来た脳味噌に満足しましたが、オズの力ではドロシーは、ふるさとへ帰ることが出来ません。

 結局、ライオンは元々勇気を、そしてブリキの案山子は知恵を最初から持っていたのです。オズの魔法は、プラセボ効果でしかなかったのです。

 確かに、病気でないのに病気と思いこんでいる人にはプラセボば良く効きます。果たしてプラセボとは、それだけのものなのでしょうか?

    次号に続く

    関連項目:プラセボ(無駄口薬理学)

 


無駄口薬理学薬学用語辞典やさしい薬理学毒舌薬理学もご覧下さい。