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  HS病院薬剤部発行     

薬剤ニュース 

  1995年

7月15日号

NO.180

 

アンチセンスDNAとは                     

**抗ウイルス剤として有望視***

 蛋白を合成するmRNAの塩基配列をセンス配列と呼びます。この配列に対して相補的な塩基配列がアンチセンスです。

正常の細胞内では、DNA→mRNA→蛋白質という流れで遺伝子情報(*注1)が伝達されています。アンチセンス法とは簡単に言えば、この遺伝子情報の流れを合成したDNAで遮断する方法です。mRNAの塩基配列がわかっていると、アンチセンスDNAの合成が可能です。

 《抗ウイルス剤の開発法》

1)抗ウイルス剤の開発には種々の天然物、化合物から抗ウイルス効果を有する物質をスクリーニングにより見つけだす経験的方法
2)ウイルスの増殖に必須の酵素などに特異的に結合する化合物を理論的に合成する方法

 抗生物質と異なり有効な抗ウイルス剤は少ない。

 (*注1)DNA→mRNA→蛋白質という流れ

 この流れのことをセントラル・ドグマと呼びます。central dogma

 DNAに含まれる遺伝情報が自らを鋳型として複製と転写を行い、転写産物であるRNAがリボソーム上で蛋白質に翻訳される、いわゆる遺伝情報の流れに関する分子生物学の基本原理のこと。

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 近年、遺伝子操作が確立し遺伝子の機能がわかってくるにつれ、病気の原因が遺伝子にあることがわかってきました。薬剤も遺伝子に作用するようなものへと変遷を遂げつつあります。

 薬剤のバイオアベイラビリティ−(生物学的利用能)を最大限に活かすために、DDS(ドラッグ・デリバリ-・-システム)が誕生しました。これまでのDDSは、放出 制御が中心でしたが、これからはタ−ゲッティングが最も期待されています。(*注2)

第1次オ−ダ−タ−ゲッティング

臓器レベル

 第2次オ−ダ−タ−ゲッティング 

組織レベル

 第3次オ−ダ−タ−ゲッティング 

細胞レベル

 アンチセンスDNAはタ−ゲッティング部位が細胞内の構成成分の遺伝子であることから第4次オ−ダ−タ−ゲッティングのDDSと呼んでもよいと思われます。

 (*注2)薬物を目的とする場所に効率よく送達すること。

[抗ウイルス剤としてのアンチセンスDNA]

 ウイルスDNAは宿主の細胞内で核膜孔を通過して核内へ移行します。核内へ移行したDNAは環状DNAとなって転写が開始します。アンチセンスDNAはウイルスの遺伝子をタ−ゲットとしていて、塩基配列がわかれば理論的にタ−ゲットを絞ることができ、新しい抗ウイルス剤として注目されています。

 アンチセンスDNAはある程度安定性の高い修飾体が合成されており、コストの面でも医薬品として対応できる可能性が出てきました。現在開発中のものはサイトメガロウイルスによる網膜脈絡炎に対して、治療効果が認められており、第3相試験に進んでいます。

 HIVに対する臨床治験も始まっておりまだ問題点はあるものの抗ウイルス剤としてのアンチセンスDNAが、臨床の場に登場するのもそう遠くないと思われます。

     

{参考文献}JJSHP 7・8 1995

付記:アンチセンス治療
治療 増刊号 1999.1

DNA→mRNA→蛋白質いう遺伝子情報の流れを合成したDNAで遮断する方法。mRNAの塩基配列が分かっていると、アンチセンスDNAの合成が可能

遺伝子治療とアンチセンス治療は概念的に異なる。アンチセンス治療は化学合成した核酸分子による薬物治療法の1つである。

アンチセンス法とは、ある遺伝子から転写されたmRNAを相補的なDNA分子を化学的に合成し、細胞に投与して2重鎖を形成させ、その発現を塩基配列特異的に抑制しようとする遺伝子発現制御法の1つである。

アンチセンス療法は免疫学的機序や殺細胞効果による遺伝子治療と異なり、癌の原因遺伝子あるいは癌関連遺伝子自体を標的にしている点でより原因療法に近いと考えられる。


<<医学用語辞典>>

双極性障害(躁鬱病)

 うつ病と躁状態が出現する病気で、ほとんどが再発性です。

 過去又は現在での躁病エピソードの存在を特徴とする双極性I型障害と、軽躁病と大うつ病の存在を特徴とする双極性II型障害に分けられます。

 躁病エピソードとは患者の気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的、または易怒的ないつもとは異なった期間として定義されます。

 生涯有病率は約1.5%で、死亡率は健常人人に比べ2〜3倍高いといわれています。

 約10〜20%の患者は自殺し、患者の3分の1は少なくとも1度の自殺を企画しています。

 再発や自殺に及ぶ危険性が高いため、生涯に渡る予防を目的とした薬物療法が必要になります。

 

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