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アレルギーマーチ

2001年1月15日号 No.306

 

 アレルギーマーチとは、小児のアレルギー疾患の特徴としてよくみられるもので、アレルギーの中心症状が(年齢によって)いろいろ変化することです。


 小児アトピー性疾患の特徴として、乳児期にまずアトピー性皮膚炎が発症し、ついで幼児期に気管支喘息やアレルギー性鼻炎・結膜炎が出現するといういわゆるアレルギーマーチと呼ばれる現象が多く見られます。

 乳児期発症のアトピー性皮膚炎の予後は一般に良好で、遅くとも数年以内に90%以上が軽快〜治癒しますが、患者の30〜40%は幼児期に気管支喘息を発症します。

 また、原因アレルゲンにも特徴があります。
 乳児期のアトピー性皮膚炎では、卵を中心とした食物抗原の関与度高く、食物抗原特異IgE抗体陽性率は80%以上に及びます。幼児期以降になると食物アレルギーの関与は次第に減少し、代わってダニを中心とする吸入性抗原の関与度が高くなります。

 学童期の80%以上の患者は、ダニがアトピー性疾患の原因アレルゲンとなっています。
 アトピー性皮膚炎乳児でのその後の気管支喘息の発症は、食物アレルギーに引き続いてダニアレルギーを獲得した患者にも多く見られます。スギ花粉アレルギーで代表される花粉症も、幼児期以降次第に増加します。

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<小児アトピー性疾患患者に見られるアレルギーマーチ>

1)疾患のマーチ

 乳児期のアトピー性皮膚炎→幼児期以降の気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎

2)原因アレルゲンのマーチ

 乳児期の卵を主体とした食物抗原→幼児期からダニを中心とした吸入性抗原

<アレルギーマーチの進行の阻止>

 アトピー性皮膚炎の乳児に抗アレルギー剤を用いることにより、その後の気管支喘息の発症をある程度予防できると報告されています。しかしこの研究では、観察期間が必ずしも十分に長くなく、抗アレルギー剤により喘息の発症が回避されたのか、それとも単に喘息症状が抑えられているだけなのかはいまだ不明です。

 食物アレルギーからダニアレルギーへの移行の阻止に関しては、食物アレルギーが発症した早期に原因抗原を同定し、それを除去することでダニアレルギーの獲得及び気管支喘息の発症をかなり予防できます。このことは、卵アレルギーによるアトピー性皮膚炎患者で報告されています。

 しかし、原因食物が多岐に及ぶ場合には、その除去は困難で、積極的に食物アレルギーに対する免疫寛容を誘導することにより、食物アレルギーの早期治癒を図り、ダニアレルギーも獲得を予防する治療法の開発が望まれます。

 小児の食物アレルギーで最も頻度の高い卵アレルギーでは、その主要アレルゲンであるオボアルブミンやオボムコイドの分子内共有結合を還元することにより、低アレルゲン化できることが報告されています。

 これらの低アレルゲン化卵(現時点では入手不可)が、卵アレルギー患者でも食べられるという利点を持つだけでなく、積極的に免疫寛容を誘導して卵アレルギーの早期治療に有用であるかどうか、今後明らかにされる必要があります。

 アトピー性疾患は、もしそれを発症しやすい素因が乳児期に明らかになれば、素因を有する小児に早期から適切な指導や予防的治療を行うことで発症予防が可能になると期待できます。

{参考文献}医薬ジャーナル 2000.12

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<<追加記事>>

食物アレルギーの血液検査の問題点

出典:治療 2001.7  帝京大学医学部小児科 教授 伊藤繁

 アトピー性皮膚炎の成立には、様々な機序が考えられます。古典的ないわゆる即時型のアレルギー反応が引き合いに出されますが、最近は種々のサイトカインの関与も唱えられています。

 何がきっかけでアトピーせい皮膚炎の炎症反応が始まるかについても、様々の環境要因が考えられます。

 今、社会問題ともなっているのは、特に乳幼児のアトピー性皮膚炎の原因を食物に求める傾向です。

 乳幼児にアトピー性皮膚炎の症状が見られて医療機関を訪れると、血液検査により卵白や牛乳などの食物抗原に対する特異的IgE抗体の有無をみる検査を受けるように勧められれるというのが近年の風潮となっています。

 血液検査により、卵白や牛乳などに対するIgE抗体が陽性になることはよくあることで、その食物がアトピーの原因であると診断されるのが一般的です。

 調査によると、アトピー群、健常児群ともかなりの率で反応が陽性になることが分かりました。
その中で、卵白はアトピー群の方が健常児群より有意に陽性の出現頻度が高く見られましたが、その他の食物については、両者の間に有意の差は見られませんでした。いくつかの食品では、むしろ、健常児群の方がアトピー群より陽性の頻度が高くなっていました。

 この結果から、アトピーのない乳幼児でも敢えて血液検査をすれば、かなりの頻度で、食物抗原に対するIgE抗体がみられることが分かりました。したがって、このような血液検査の結果のみで、アトピー性皮膚炎の原因を特定の食物のせいにすることは正しいとは言えません。

 欧米では、食物アレルギーの診断は、実際に食べさせて、臨床症状の観察を行う方法が、最も信頼の置ける方法として確立しています。

 この方法で検査を行うと血液検査の結果とは大きく食い違います。血液検査で陽性とされた食物を食べさせても、何も症状の現れない場合が多く見受けられます。

 従って、血液検査の結果だけで、短絡的にある食物がアレルギーの原因になっていると診断してしまうと、いわば過剰診断に陥る可能性があります。このことが、保育園や幼稚園などの給食の現場での混乱として社会問題化しているのです。

 除去食療法が指示されても、必ずしも代替え食品が的確に示されないため、成長障害、栄養失調になる乳幼児もいます。その中には、必ずしも除去食療法が必要でなかった場合もあります。

 経口摂食試験でアレルギー症状の出る乳幼児では、症状が軽く、重篤な反応が見られなければ、通常の摂食を制限する必要はなく、対症療法で十分対処できます。(アナフィラキシー反応など、臨床的に危険を伴う恐れがある場合は、摂食制限することはやむを得ません。)

 食事により症状の出る場合も、おおむね2歳の誕生日を過ぎた頃になると、症状がおさまる場合が多いので、適当な間隔で摂食試験を繰り返し行うことが必要です。


遺伝子と糖尿病(4)

Common Type2糖尿病遺伝子


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ライム病

1989年9月1日号 No.50

薬剤Q&A:この頃に朝日のニュースステーションで放送ありました。

 1975年にニューヨークの北コネチカット州のオールド・ライム地区記録されたのが病名の由来となっています。

 リウマチ性関節炎に良く似ていますが、原因は全く異なります。
これは鹿につくダニを通してBorrelia Burgofeiというスピロヘータに感染することによって、全身組織の炎症を起こします。

 放置しておくと重症になり、早期にペニシリン(アモキシシリン等)を使えば軽快します。

 重症者や慢性患者は、繰り返してのペニシリン、エリスロマイシン、セファロスポリン等による治療が必要となります。

 症状は、ダニに噛まれた後が丸く赤く14cmくらいの大きさに張れ、最初は頭痛や発熱リンパ腺の腫張、筋肉、関節痛があり、しばらくすると一時軽快します。

 しかし、4日から3週間後、紅斑が現れ、50%の患者に関節炎ができます。その大部分は二関節以下です。この第2期の長さは幅があり、1週間から6ヵ月くらいです。

 その他、20%位の患者では神経系統の合併症、7%に心臓合併症(房室ブロック)が起きたりします。

 診断はELISA検査による抗体反応で確診できます。


<<用語辞典>>

 

p1

パルス療法

間歇大量療法のこと

 ある期間を置いて、間欠的に薬剤を使用する療法

 制癌剤、免疫抑制剤などのパルス療法など、

 全身性エリテマトーデスの腎症に対するメチルプレドニゾロンの大量衝撃療法〜1,000mgを3日間,点滴〜タンパク尿減少が速やかに得られるが,通常のステロイド療法と長期的に比較した場合の優劣には結論が得られていません。

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ステロイドパルス療法のメカニズム

  出典:薬局 2000.3

 ステロイドによる抗炎症作用、免疫抑制作用はアラキドン酸カスケードの抑制によるケミカルメディエーターの産生抑制、炎症性サイトカインの合成・分泌の抑制、好中球やマクロファージなどの細胞遊走の抑制などにより発揮されると考えられています。

 ステロイドパルス療法の効果も、これらの小夜に基づくものであると予測されていますが、超大量使用による経口ステロイド治療とのメカニズムの違いはまだ明らかになっていません。

 最近になって、ステロイド作用発現のきっかけとなるステロイドレセプターとの結合率による違いや、レセプターのアップレギュレーションなどが考えられています。

 経口ステロイド治療(プレドニン錠20mg)では、80〜90%のレセプターが飽和するのに対し、ステロイドパルス療法ではこの100倍近い濃度になるためレセプターを100%近く飽和させることになります。したがって、この10%程度のレセプター飽和度の違いが、免疫グロブリン産生がほぼ停止するT細胞のアポトーシスが促進されるなどのステロイドパルス療法の効果に関与している可能性があると考えられています。しかしその理論的根拠は不明で、至適用量の検討を含めて今後の研究が待たれます。


ODT(閉鎖密封療法)

Occlusive Dressing Therapy

ODT療法
occlusive dressing technique
同義語:密封包帯法,閉鎖包帯法closed dressing method

塗布した薬剤を病巣皮膚に深達させるために、薬剤塗布部位の上を薄いプラスチックフィルム(サランラップ)等で覆い、接着テープで2〜3日間固定する方法。

単純塗布では十分な効果の見られない皮膚疾患の治療法

薬剤の経皮吸収の増大により全身への影響や密封による内部の発汗による不快感、汗疹、毛嚢炎などの局所的な副作用や細菌、特に真菌による感染症を起こすことがあります。

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コルチコステロイドを外用後,その上にポリエチレンのラップをかぶせ,薬剤の浸透を高めさせる治療法

 コルチコステロイドのクリームまたは軟膏を,病変皮膚によく擦り込み,その上に,大きめのポリエチレン・ラップをのせ,その周辺を絆創膏で留める.8時間ないし12時間,そのまま放置する.はじめから,ラップ内に薬剤が塗布されている便利な剤形がある。皮膚の慢性炎症に用いられ,ビダール苔癬,アトピー性皮膚炎,乾癬,扁平苔癬などが対象となる。感染症には用いられない。

 本療法は1960年代に流行したが,最近はコルチコステロイド外用剤の力価が高くなるにつれ,それらを用いて本方法を行うと,皮膚萎縮,毛細血管拡張などの副作用が問題となってきている。皮疹改善後,単純塗擦などの方法に変更するなどの,注意深い観察と工夫が必要である。


GI療法

 劇症肝炎や肝硬変でグルカゴンとインスリンを同時に用いる療法。

 50〜90%を越す高い死亡率を示す劇症肝炎は急性肝炎の重症型であり、大量の肝細胞が短期間に壊死に陥ることによります。この劇症肝炎の治療として肝細胞の再生促進を期待して試みられているのがインスリン・グルカゴン療法(GI療法)です。

 膵より分泌される両ホルモンはいずれも生理的には肝細胞増殖因子としての性質を有し、実験的に両ホルモンの併用は劇症肝炎の治療として有効であることが認められています。

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GIK療法

心臓外科で心筋保護の目的で行われるグルコース、インスリン、カリウムを同時に用いる療法

 

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PUVA療法
psoralen‐ultraviolet A therapy

プーバ療法
同義語:ソラレン長波長紫外線治療

 ソラレン誘導体psoralensを内服または外用した後、長波長紫外線ultraviolet Aを照射する治療法

光化学療法photochemotherapyの一種

 フロクマリン化合物中のソラレン誘導体のうち、8‐メトキシソラレン(8‐methoxypsoralen, 8‐MOP),メソキサレンmethoxsalen,4, 5, 8‐トリメトキシソラレン(trimethoxypsoralen;TMP)が薬剤として用いられ、内服錠剤、外用ローション、外用クリームなどの剤形となっています。

 照射する長波長紫外線は,通常,ブラックライトと呼ばれるランプで、320〜400nmの波長域の光線を用います。本療法により、細胞DNA内にソラレンが結合し,細胞増殖を抑制します。

<適応症>

尋常性白斑、乾癬、掌蹠(せき)膿疱症、菌状息肉腫(症)

その他:アトピー性皮膚炎,日光じんま疹,多形日光疹,円形脱毛症,色素性じんま疹,扁平苔癬などに効果があるとの報告があります

 副作用として,長波長紫外線の過剰照射による日焼け
 長期間連続して施行する際には、白内障、皮膚悪性腫瘍が発生するおそれ

 白内障の副作用を避けるため,治療中はサングラスをかける。皮膚悪性腫瘍の発生を予防するため、皮疹の改善をみたら、休止するなどの工夫が加えられています。

<併用注意>
メトキサレン、サンディミュンとの併用で皮膚癌の発生の危険性

PUVA療法:皮膚癌発現のリスクを高める危険性がある〜併用する場合は定期的に皮膚癌又は前ガン病変の有無を観察すること。


p2

Phagocyte delivery
ファゴサイト・デリバリー

出典:JJSHP 2000.9

 薬物自体が備えている食細胞を利用したドラック・デリバイー・システム

 生体の感染防御に重要な役割を持つ好中球やマクロファージなどは、phagocyte(食細胞)と呼ばれます。
生体に最近が侵入すると組織や血中のマクロファージ、好中球の遊走が起こり、これらが感染部位の細菌を貪食して殺菌します。

 一方、抗菌薬で食細胞へ移行が良好なものは、食細胞により感染部位に運ばれ、食菌時に放出されることで、食細胞の作用に協力して細菌の処理能力を増強させると考えられます。

 マクロライド系の抗生物質は、食細胞への移行が比較的良好とされていますが、最近、日本でも承認されたマクロライド系のアジスロマイシンは、同系の薬物に比較して、食細胞にきわめて高濃度に移行する性質を持っています。そのため食細胞により感染部位に集中的に輸送され、感染部位の有効濃度も長時間にわたり維持されるので3日間の内服で十分効果があるとされています。

 アジスロマイシンのこのような特性を薬物自体が備えている食細胞を利用したドラック・デリバイー・システムと見なすなら、これがphagocyte deliveryという概念です。

 アジスロマイシンのヒト多型白血球への移行性の違いを既存のマクロライド薬と比較検討したところ、アジスロマイシンの細胞外濃度に対する細胞内濃度比は40.0で、エリスロマイシン6.5、クラリスロマイシン12.6に比べて高値でした。