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β3受容体と肥満

1992年2月15日号 No.102

   交感神経の受容体には、αとβの受容体が存在していますそして更にβ受容体は2つの
サブタイプ、β1とβ2に細分されていました。ところが最近、第3のβ受容体サブタイ
プとしてβ3受容体が単離され、その組織分布、生理学的意義と疾患などによるダイナミ
ックな変化が注目されています。

 中でも注目されているのが、脂肪代謝と糖代謝との関係です。
β3作用薬は、肥満、糖尿病等の代謝異常の治療に有効と思われ、また寒冷ストレスに対
する順応を容易にさせます。

 β3受容対の機能は、未だ十分解明されたとはいえませんが、肥満者へのβ3作用薬の
使用経験によると、食事療法と併用した症例では非常に有効であったという興味深い報告
もありました。

 また、β3作用薬は、従来のβ作用薬に耐性が生じた症例でも有効と思われています。
一方、β3遮断薬は、心拍数を減じ心収縮力を抑えるので、心機能亢進症の治療薬として
期待されます。

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 β1とβ2受容対の密度は、組織によって異なります。例えば心臓の固有筋にはβ1が多
く、ペースメーカーにはβ1の他、β2も密に存在します。その他、気管支と血管には
β2が優位です。従って、β2をを介して気管支を拡張する喘息治療薬では、心筋のβ2
を介して心き亢進などの副作用を引き起こします。

 β3受容対は、脂肪組織、消化管、肝臓や骨格筋に存在する他、アドレナリン作動性神経
のシナプス後膜にもその存在が予想されています。

 β3受容対は、アドレナリンよりノルアドレナリンに対し強い親和性を示すことから、
刺激伝達物質の受容対とも考えられます。

{参考文献}薬局 1992.1
      日本薬剤師会雑誌 1991.12

関連項目 レプチンと肥満  BMI


<<1999年追記>>

医薬ジャーナル 1998.9

 脂肪組織には、エネルギーを貯蔵する白色脂肪組織と熱産生を行う褐色脂肪組織が存在する。脂肪組織にはβ3受容体(β3−AR:β3アドレナリン受容体)が存在しており、β3−ARが作用すると、脂肪分解や熱産生を起こす。

β3−ARのTrg64Argのミスセンス変異は、日本人では3人に1人の高頻度で存在する。この変異は肥満、糖尿病発症、糖尿病合併症に進展に関連している。そのためβ3−ARを選択的に刺激するβ3−ARアゴニストは、肥満や糖尿病、糖尿病発症の優れた治療薬になる可能性がある。

肥満は、エネルギー摂取と消費のアンバランスを特徴とするエネルギー代謝異常であり、その結果、中性脂肪の酸化よりむしろ貯蔵が増加した状態である。エネルギー摂取は食欲と後天的な食習慣に依存するが、熱産生が低く、いわゆる「太りやすい体質のヒトが存在するのも事実である。

1995年に、肥満と糖尿病を効率に発症するピマインディアンで、β3−AR遺伝子のミスセンス変異(Trg64Arg)が発見された。この遺伝子は、肥満、インスリン抵抗性、熱産生機構の異常と関連しており、さらに糖尿病早期発症、糖尿病性腎症や網膜症の進展との関連性も報告され注目を集めている。

β3−ARミスセンス変異と糖尿病

 フィンランド人での検討では、この変異は、インスリン分泌増加、拡張期血圧の上昇と関連するとされ、インスリン抵抗性が認められた。日本人でも、この変異をホモに持つものは、正常型を持つものに比しBMIが高く、経口ブドウ糖負荷試験での血清インスリン値は、有意高く、内臓脂肪量/皮下脂肪量、収縮期高血圧、空腹時高血糖、高インスリン血症、高トリグリセライド血症、低HDL(高比重リポ蛋白)血症などと相関し、内臓脂肪型肥満発症の遺伝因子の1つであるとされている。

 β3−ARのミスセンス変異が、肥満やインスリン抵抗性を起こす機序に関しては、β3−ARは主に内臓脂肪に分泌しているため、β3−ARの機能障害が内臓脂肪型肥満を引き起こし、さらにはインスリン抵抗性を引き起こすと考えられる。

β3アゴニストがインスリン分泌を促進させる機序
β3アゴニストは膵全体の血流には影響を与えないが、ランゲルハンス島のmicrocirculationを数倍も促進させることにより、インスリン分泌を促進させる。このことは、β3−AR遺伝子変異の存在はmicrocirculationの減少につながる可能性を考えさせる。

糖尿病性腎症や網膜症の発症や増悪には、微細血管病変がその一因と考えられている。

 肥満に起因する糖尿病、高血圧などの生活習慣病が急増しており、抗肥満薬の開発が期待されている。
β3−ARアゴニストは、白色脂肪の分解、褐色脂肪組織でのエネルギー消費作用を通じて安全に抗肥満、抗糖尿病作用をもたらす画期的な薬になるのではないかと大きな期待が寄せられている。


 β3アドレナリン受容体は褐色細胞での熱産生に重要であり、その変異は肥満を来すことが知られています。フィンランド人やぴまインディアンで、Tryp64Arg変異とNIDDMの早期発症との関わりが指摘されましたが、日本人のNIDDMではその主たる原因ではなく、内臓肥満とインスリン抵抗性に関与しているとする報告が多い。

 β3受容体を介する肥満抑制効果については、そのノックアウトマウスで体脂肪率の増加が認められています。一方、β3アドレナリン作用は非共役蛋白(UCP)を介すると言われていますが、最近、このUCPのノックアウトマウス及び、アドレナリンとノルアドレナリンを産生できないドパミンβヒドロキシラーゼのノックアウトマウスでは、両者とも熱産生に異常はあるが、おそらくはUCP2の代償性の過剰発現により、肥満はきたさないことが報告されました。


肥満感受性遺伝子

出典:薬局 2000.1 増刊号

 1994年にクローニングされたマウスの肥満遺伝子(ob遺伝子)は脂肪細胞から分泌されている中枢神経系に作用し、摂食抑制とエネルギー消費を促進するレプチンをコードしています。

 マウスではこのob遺伝子異常により肥満を生じますが、ヒトでも1997年に生後早期より極度の肥満であった患者で初めてヒト肥満遺伝子(7番染色体)の異常が見つかり、ヒトでも肥満遺伝子が肥満の原因となることが明らかになりました。

また、β3受容体遺伝子多型(Trp64Arg)が肥満と関連するとの報告があります。
β3受容体遺伝子は脂肪細胞にあり、脂肪分解やエネルギーの消費を促すとされています。他にTNF−α遺伝子多型などとの関連も報告されています。


MODY

遺伝子と糖尿病(3)

{参考文献}臨床と薬物治療 2000.8

 MODY:maturity onset diabetes of the youngの略

  1.25歳未満に発症し、
  2.少なくとも3世代にわたる家族歴があり、
  3.同胞の約半数が発症する、

 の3点を満たす常染色体性優性遺伝の若年発症インスリン非依存性糖尿病のこと。

 1991年、MODYの表現型を示す大家族を用いて連鎖解析(前号参照)を行い、まずMODYの責任遺伝子第20番染色体上のアデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子近傍に存在することを見いだし、MODY1と名付けました。また、グルコキナーゼ遺伝子もMODYの責任遺伝子である可能性があり、ヨーロッパでMODY家系の半数にこの遺伝子の変異を認めたため、MODY2と名付けられました。

 さらに、一部のMODY家系では、その発症が第12番染色体上のマイクロ・サテライト(付随体)マーカーD12S76との間に強い連鎖を示すことが報告されました。このD12S76近傍の約60個の遺伝子を検索した結果、そのうちのHNF−1α(hepatocyte nuclear facter 1α)遺伝子がMODY発症の間に関連があることが見いだされ、MODY3とされました。

 この報告により、それまで手詰まり状態であった MODY1の同定に手がかりを与えることになり、ADA近傍の約250遺伝子の中にHNF−4αが存在することが判明しました。そしてHNF−4αがMODY1であることが明らかになりました。

 その後、当初インスリン遺伝子の転写酵素としてクローニングされたinsulin promoter facter:IPE−1がMODY4として、HNF−1αと構造の類似した転写因子であるHNF−1αと構造の類似した転写因子であるHNF−1βがMODY5として報告されました。

 MODY遺伝子のいずれもが、膵β細胞の転写制御機構に組み込まれていることが明らかとなり、また互いにグルコキナーゼ、インスリンをはじめとする遺伝子の膵β細胞での発現調節に参画していることも明らかとなってきました。

 このように、未知の糖尿病遺伝子(MODY1〜5など)が次々と同定され、さらに転写因子の異常により糖尿病が発症しうるという重要な事実が明らかとなりました。

 ただし、日本人MODY家系での検討では、これらMODY1〜5で同定されている変異をすべて合わせても25〜30%程度とされており、日本でメジャーなMODY遺伝子の検索が必要とされています。


Common Type2糖尿病遺伝子

カルパイン10

遺伝子と糖尿病(4)

{参考文献}臨床と薬物治療 2000.8

 候補遺伝子解析パラメトリック連鎖解析を用いていくつかの2型糖尿病遺伝子が同定されましたが、これら単一遺伝子により発症する2型糖尿病は、それら全部を合わせても2型糖尿病の1〜3%程度に認められるに過ぎず、あるいはMODYという特殊な発現型を示す2型糖尿病のサブグループの責任遺伝子が明らかになったに留まったともいえます。

 これらの遺伝子異常によって引き起こされる糖尿病、
MODYも含めて、それぞれ特徴的な発現型や臨床症状を呈することから、最近ではより一般的な2型糖尿病を表す上で"Common Type2糖尿病"という表現が用いられるようになってきています。

 Common Type2糖尿病の厳密な定義は明確ではありませんが、一般に多因子遺伝子:polygenic inheritanceを示し、疾患が遺伝的に不均一:heterogenousで、発症進展に環境因子の強い影響を受けるなどの特徴を有する疾患群」としてとらえることが妥当であると思われます。
NIDDM1,IDDM1(HLA)、IDDM2(インスリン)をはじめとしてIDDM15までの15種類の疾患感受性マーカーの報告がなされています。一般に連鎖解析を用いる場合、疾患感受性マーカーを同定できるまでにすでに多大な労力を要求される上に、さらにその近傍にある責任遺伝子をクローニングするまでには膨大な時間と労力が必要とされます。

 しかし、この連鎖解析の手法が糖尿病発症遺伝子の同定で現実に力を発揮することが確認され、Common Type2糖尿病の原因の多くが遺伝子レベルで説明される日が近づいてきています。

近年、ノン・パラメトリック連鎖解析法(罹患同胞対法)によってCommon Type2糖尿病遺伝子の1つが同定されました。

 これは米国内の白人で、糖尿病発症率、死亡率が最も高いことで知られるテキサス州スターカウンティ系米国人の同胞対330組を用いてゲノムワイド(全ゲノム)スクリーニングを施行し、疾患感受性遺伝子が第2番染色体長腕上のD2S125付近に存在することが報告され、NIDDM1と命名されました。

 その後の報告により、この遺伝子はカルパイン10と呼ばれる蛋白分解酵素の1種をコードしており、その遺伝子上にはG/A多型が高頻度に認められ、Gアリルが糖尿病感受性、Aアリルが糖尿病抵抗性であることが解明されました。(関連項目:
カルパインとアルツハイマー病

 さらに第15番染色体上のNIDDM3と呼ばれていた遺伝子にも同様の多型があり、この両遺伝子が糖尿病感受性である場合に、過食、運動不足などの後天的因子が加わると糖尿病を発症することも明らかにされています。ただし日本人罹患同胞対での解析ではNIDDM1との連鎖は否定的とのことです。

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倹約遺伝子

遺伝子と糖尿病(5)  関連項目 Thrifty phenotype仮説

 糖尿病の成因が遺伝子レベルで解析されてきた結果、最近では糖尿病をはじめとするいわゆる生活習慣病に関して、その原因の多くが倹約遺伝子(thrify gene)という概念で定義される遺伝子の異常に基づくものであることが理解されるようになってきました。

 これは、現代において致死的遺伝子型が生存している理由は、ダーウィンの進化論に基づく自然淘汰のステップで、その遺伝型がかつては生存にとって有利な点を持っていたためであろうとする説です。

 糖尿病の場合、例えば骨格筋のインスリン抵抗性は人類の進化の過程で一旦は有利に働き、自然淘汰の過程で生き残ってきたものと推定されます。食糧不足の状況下では倹約遺伝子を獲得することによって、摂取したエネルギーをより有効に体脂肪として蓄積し、飢餓に対する抵抗性を持つことが可能であったです。

 それが飽食の時代を迎えた現代では、倹約遺伝子が生体にとって不利に働き、インスリン抵抗性、肥満、体脂肪蓄積などを招きやすく、糖尿病をもたらしやすい遺伝子として作用することになります。

 
カルパイン10β3受容体PPARγ遺伝子に認められる多型も同様に倹約遺伝子という概念に一致するものと考えられています。

 日本人は食料摂取に困難な氷河期を生き延びた子孫、すなわち「まとめ食い」のDNAを持ち合わせていると言われ、少量の糖分を効率良く吸収することが出来るのです。

 ストレスが強くかかったり、疲労・過労時には体が何らかの危機感を感じとるせいか、甘いものを多量に欲しくなります。ですから、ストレスの多い宝飾の現代では、特に糖分の固まりである米食を主食とする日本人と糖尿病の縁は切れません。

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*関連項目:PPARγとチアゾリジン誘導体

{参考文献}臨床と薬物治療 2000.8  


インクレチン
incretin
 

 炭水化物や脂肪の摂取で消化管より分泌され、膵臓β細胞のインスリン分泌を促進させる消化管ホルモンの総称

  今まで、経口でのブドウ糖摂取は同量を静注した場合より血糖値の上昇が少ないことが知られていました。この現象は、消化管内に取り込んだあるいは消化管内で生成されるブドウ糖がインスリン分泌を促進するためと考えられ、消化管に由来したインスリン分泌を促進するホルモン様物質の存在が想定されていました。

 インクレチンとは、インスリン分泌刺激物質のことで、現在、十二指腸と小腸上部から分泌されるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプタイド(GIP)と小腸下部から分泌されるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つが知られています。

 どちらも膵臓のβ細胞に働いてインスリン分泌を促す点は同じですが、GIPは脂肪細胞に作用して脂肪の取り込みを促進し、肥満を誘発する作用があり、GLP-1には消化管運動抑制、食欲低下、膵β細胞増殖作用などがあります。また受容体の分布も異なっています。

 GIPとGLP-1のどちらも食後血中に増加し、インスリン分泌を促進します。その効果はGLP-1のほうが強力で、2型糖尿病患者では、GLP-1に対するβ細胞の反応性は保たれていますが、GIPに対しては反応が不良です。

 インクレチンは糖尿病治療への応用が期待されており、現在製剤化のための研究が進められています。

 インクレチン製剤はアジア人の糖尿病に適しているとされています。アジア人はあまり太らなくても糖尿病なります。農耕民族は遺伝的に膵β細胞の数が少なく、インスリン分泌も白人の半分くらいしかありません。ですから、一旦インスリン分泌が低下すると簡単に糖尿病になってしまうのです。

 また白人の肥満者ではGIPの血中濃度が非常に高く、肥満を誘発する物質であろうと推測されています。


   出典:糖尿病エブリデイ 2004 SEP Vol.2 三和化学研究所 等

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DPP-4〜ジペプチジルペプチダーゼ4

 ※インスリン分泌を促進するインクレチンホルモンを分解する酵素

 DPP-4を阻害しインクレチンの分解を防ぐことによって、血糖コントロールを保てるとの考えから、現在多くの製薬企業がDPP−4阻害薬の開発を試みています。

インクレチンは食物摂取によって消化管から分泌され、膵β細胞を刺激してインスリン分泌を促進するホルモンです。従来より、ブドウ糖を静注した場合より経口摂取した場合のほうが血糖値の上昇が低くなることが明らかになっており、消化管由来でインスリン分泌促進する物質があるのではないかと考えられていました。

   出典:薬事 2009.4


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DPP-4阻害剤とインスリンの併用

2012年7月1日号 No.570

 DPP4阻害剤は血糖依存的な内因性インスリン分泌の促進とグルカゴン分泌抑制作用を介して血糖コントロールを改善します。

 最初に発売されたジャヌビア、ネシーナはSU剤、TZD(チアゾリジン:アクトス錠)、αGL剤との併用が認められています。さらにジャヌビアとインスリン製剤との併用が認められるようになりました。

        {参考文献}治療 2012.4

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 基礎インスリンとして24時間にわたり穏やかな作用を示す持効型インスリンの登場により2003年以来BOT:basal supported oral therapyが開始されています。

 これは経口血糖降下剤(OHA、とくにSU剤)だけではコントロール不十分な例に持効型インスリンを追加することにより朝食前空腹時血糖値を下げ、そして食後の血糖値も含めた全体の血糖値を改善させようというものです。

 1日1回でインスリン治療を始められるため、インスリンに対する医師・患者の抵抗感が大幅に軽減されます。

 DPP4阻害薬は、SU剤と同様にインスリン分泌促進系の薬剤であるので、BOTに間違いないのですが、SU剤は主として基礎インスリンをDPP4阻害薬は血糖濃度依存性の追加インスリンの分泌を促進するので、その作用機所は異なります。

 臨床では、SU剤とインスリンを用いても、まだコントロール不良の例にDPP4阻害薬の上乗せが開始されています。

 DPP4阻害薬は食後高血糖を低下させますので、インスリン(一般には持効型)にDDP4阻害薬を上乗せすることにより、理論上はインスリン量や注射回数を減らせ、さらにはインスリン減量による低血糖を回避できる期待もありますが、空腹時血糖や経口血糖降下剤(OHA)多剤服用例では検討を要します。

 一方、DPP4阻害薬にインスリン製剤を上乗せすることで、空腹時血糖値の改善による追加分泌のさらなる増加が予測され、食後血糖値もより安定する可能性があります。

 種々の経口血糖降下剤を単剤、あるいは併用しても目標とする空腹時血糖値に至らない場合には、インスリン療法が開始されることになります(BOT)。

 持効型インスリンを徐々に増量し、空腹時血糖値110mg/dL程度にすると門脈内の追加インスリン分泌が回復し、さらにDPP4阻害薬やSU剤によるインスリン分泌が増幅するので、肝臓での糖処理能が高まり食後血糖値も改善することが知られています。

<ビクトーザとバイエッタの比較>

・ビクトーザ 1日1回 朝または夕(空打は毎回目盛りで行う)

 全く薬を使っていないかSU剤を使用している患者では使用できますが、ビグアナイド系(メトグリコ錠)やチアゾリジン系薬(アクトス錠)との併用はできません。(もし使っていれば、中止)

・バイエッタ 1日2回 朝夕食前60分以内(空打は初回のみ)

 食事・運動療法のみでコントロール不十分の患者には用いることはできず、SU、ビグアナイド、チアゾリジンでコントロール不十分の患者に付加して使用できる。

 ただし、SU+ビグアナイド+チアゾリジンの3者併用は適応外。

・ビクトーザは効果はやや弱いが、第一選択
・バイエッタはSU剤でコントロール不良時の付加薬

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  <インクレチン関連薬による低血糖>

 DPP−4阻害薬やGIP−1受容体刺激薬による低血糖の可能性は0.1%未満と非常にまれではあるのですが報告されているようです。 またBMJ誌電子版に報告されたメタ分析でもDPP−4阻害薬の単独投与による低血糖は0.09%と報告されており機序は不明ではあるのですが念頭においておくべき副作用の一つであると考えられます。

 低血糖を起こしやすい場合として、SU薬を使用している患者さんへの併用が大半を占めており、この中でも特に注意が必要な症例の場合はSU薬を減量した上で併用していくことが推奨されます。

*SU薬併用例で特に低血糖の注意が必要な場合

1)65歳以上の高齢者
2)Crが1.0mg/dl以上の軽度な腎機能低下の方
3)上記の二つが併存している方

<インクレチン関連薬>

DPP−4阻害薬

シタグリプチン(商品名:ジャヌビア)
ビルクリプチン(商品名:エクア)
アログリプチン(商品名:ネシーナ)

GLP−1受容体作動薬

リラグルチド(商品名:ビクトーザ)
エキセナチド(商品名:バイエッタ)
ジャヌビア、エクア、ネシーアはSU薬との併用が認められており、注意事項はほぼ共通であると考えることができます。

 これらと作用の異なるビクトーザやバイエッタのような医薬品でも同様のことが考えられるのですが、バイエッタに関してはSU薬との併用が必須で、軽度から中等度の腎機能障害でも低血糖の発現頻度が高いため、いっそうの注意が必要です。

 DPP-4阻害剤とインスリン分泌の促進

・経口血糖降下剤はビクトーザ
・SU+ビグアナイドはバイエッタ

 バイエッタはSU,ビグアナイド、チアゾリジンの併用例で付加する薬剤として承認されていますので、比較的病歴が長く、インスリン抵抗性のコントロール不良患者で使用されます。

 食後の血糖低下作用はビクトーザより強いが、1日2回注射、食前がネックとなります。

 5μgのビクトーザと同程度ですが、10μ製剤では、効果は比較的強くなります。また海外と同じ容量であるため、副作用は比較的多いとされています。

  {参考文献}治療 2012.4


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ポピュレーション戦略とは

肥満対策の新しい考え方

2004年12月15日号 No.397

 ポピュレーション戦略とは、リスクの高い個人を直接ターゲットにするやり方に対して、集団全体にかぶるリスクを低いほうへ誘導するやり方を言います。

 疾病(もしくは死亡)の罹患はリスクが高いほど頻度が高いが、集団全体における患者の絶対数はむしろハイリスク・グループを除いた中程度のリスク以下のグループから発見されます。これは中程度リスク以下のグループにおける有病率が高くないが人口が圧倒的に多いためです。

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 例えば,500 人が安全教育によってシートベルトを一生装着するようになっても交通事故死亡が1例しか減少しないといわれています。

 しかし,日本人口の 95 %がシートベルトすれば 22 万8千人の死亡を減少させることができます。逆に残りの5%の人口がシートベルトをしないと仮定し,そしてこのグループの死亡率を300 人に1人とした場合、死亡数は2万人です。

 シートベルトをしない人には運転免許を発行しないあるいはなんらかの方法で乗車をさせないとしても2万人の死亡を減少させるだけす。しかし,このグループに属する個人個人の死亡率は劇的に減るのです。(林謙治論文より引用=公衆衛生研究)

 2000年より、「21世紀における国民健康作り運動(健康日本21)」がスタートし、公衆衛生施策として肥満の問題が大きく取り上げられるようになりました。

 その中で「今までのように,スクリーニングをやってあるリスクの高い人だけ治療しましょうというのは、土石流対策からいったら下流の所を処理するだけといえます。いま目の前にいる個人の患者のリスクだけを見る見方だけでは,予防医学の面でより多くの患者を救うことはできない。」といった考え方が示されています。

 ポピュレーション戦略は、イギリスのジェフリー・ローズが提唱した概念で、その中での大切な論点は、ある人が太るのは“本人の自己責任”なのか、あるいは社会環境全体にも一定の責任があるのかという点です。

 WHOは、最近、「食生活・身体活動と健康に間する世界戦略」を全世界に示しました。その中で注目したい事項は、「子供の健康的な食物選択を支援する家庭や学校の環境」、「エネルギー密度の高い食品やファーストフードについての過剰な広告戦略」といった個人の行動を越えた“環境要因”を2番目のエビデンスレベルに挙げていることです。

<体重増加・肥満促進する要因>

1.確実
 ・座りがちな生活。
 ・エネルギー密度が高く、微量栄養素の少ない食品の多量摂取

2.可能性大
 ・エネルギー密度の高い食品やファーストフードについての過剰な広告戦略。
 ・清涼飲料水(ペットボトル)の多量摂取

3.可能性あり
 ・外食の割合
 ・極端なダイエットとリバウンド

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2004.12 等


医学・薬学用語解説(S)

SERM:選択的エストロゲン受容体モジュレーターはこちらです。

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