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糖尿病と感染

s63年4月15日号 No.20

   糖尿病と感染の関係は、極めて密接で感染が糖尿病の発症成因として、また逆に糖尿病が
感染症の増悪因子としても位置づけられています。しかしどのような機序で感染が糖尿病
を発症するかについては、未だに不明な点が多く、糖尿病の多様性が明らかになるにつれ
て、その成因も複雑に種々因子が関連していることが分かってきました。

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 インスリン依存型糖尿病は通常急激に発症し、その発症前にウイルス感染症を思わせる感
染症状があり、ウイルス抗体価の上昇が見られ“insulitis”と呼ばれるリンパ球の浸潤
を伴った壊死変成、B細胞の減少等の病理組織像が認められることが多いなどから、イン
スリン依存型糖尿病は遺伝性素因よりもウイルス感染と自己免疫がその発症機序に関連し
ているものと思われます。

 膵臓ランゲルハンス島に親和性を有するウイルスとして、次の10種類以上が報告されて
おり、いずれも膵臓ランゲルハンス島にInsulitisを惹起し、病変の程度によってインス
リンの分泌障害を来すものと考えられます。

ムンプスV、コクサキーV、麻疹V、Epsten Barr、サイトメガロV、インフルエンザV
Venezuelan,Equine encephalitis,Encephalomycardits等

糖尿病の分類(WHO 1985)

1.インスリン依存型:IDDM
2.インスリン非依存型:NIDDM
3.栄養不良による糖尿病
4.特定の疾患や症候群に伴う糖尿病
  a,膵臓疾患
  b,内分泌疾患
  c,薬物、化学物質によるもの
  d,インスリンまたはインスリン受容体異常
  e,ある種の遺伝性疾患
  f,その他

{参考文献}薬局 1998.2


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劇症1型糖尿病

2003年7月1日号  No.363

 1型糖尿病は、比較的急速に膵β細胞のほとんどが破壊され、インスリンの絶対的不足に陥って発症します。最近1型の中でも更に急激に発症・進行し、1日でも治療開始が遅れれば生命を失いかねない激烈なタイプが存在することが明らかになりました。

 劇症糖尿病は急性発症する1型糖尿病の約20%を占め、それほど稀な疾患ではありません。発症年齢は1歳から80歳まで分布していますが、小児発症例はそれほど多くありません。平均発症年齢は約40歳で、男性でやや高く、女性では妊娠中(特に後期)に発症する例が少なくありません。

 本症の最大の特徴は、その激烈な発症様式で、口渇、多飲多尿、全身倦怠感など、高血糖による症状が発現してから平均4日でケトアシドーシスに陥り、生命の危険にさらされます。

 前駆症状として感冒症状、心窩部痛は多く、その段階で来院した患者が感冒ないし急性胃炎として処置され、翌日に死亡した例もあります。来院時に尿検査を実施すれば容易に診断がつく疾患です。

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 自己免疫性1型糖尿病患者の膵組織では、通常、インスリン分泌細胞であるβ細胞は著明に減少しているものの、多くの場合残存しているのに対し、劇症1型糖尿病では例外なくほぼ完全に消失してしまっています。また、自己免疫性ではCD8+T細胞主体の膵島炎が認められるのに対し、劇症型では、認められません。

 さらに劇症型では、膵外分泌腺領域にT細胞を中心とするリンパ球浸潤が認められます。

 病因として、ウイルス感染、自己免疫の2つが考えられていますが、今後の研究の進展を待たなくてはなりません。

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劇症1型糖尿病の主な特徴

1.超急性にケトアシドーシスを伴って発症する。
2.発症時、著明な高血糖を認めるにも関わらずHbA1c値は正常又は軽度上昇に留まる。
3.発症時、既にインスリンは枯渇している。
4.発症時、血中膵外分泌酵素の上昇を認める。
5.膵島関連抗体が陰性
6.膵島炎を認めない。
7.膵外分泌腺にTリンパ球主体の単核球浸潤を認める。

 発見時の血糖値は約800mg/dlと高く、また、ケトーシスだけでなくケトアシドーシスに陥っている例がほとんどです。血糖値があまりに短時日のうちに進行するため、HbA1c値は発症時の著しい高血糖とは不釣り合いに低く、正常範囲内にとどまるか、上昇していてもほとんどの場合8%以下(平均6.4%)です。

 インスリン分泌能の指標であるCペプチド値は血清、尿ともにほぼ0に近く、β細胞破壊の程度がいかに強いかが伺われます。

 アミラーゼ(膵型)、リパーゼ、エラスターゼ1などの膵外分泌酵素の上昇がしばしば見られます。しかし、腹部エコーでは、急性膵炎で見られるような膵腫大などの形態変化は通常認められません。

* 病因として、ウイルス感染、自己免疫の2つが考えられていますが、今後の研究の進展を待たなくてはなりません。

 劇症1型糖尿病はその存在がようやく認識された段階です。

 糖尿病の専門医だけでなく医療関係者がこのようなタイプの糖尿病が存在することを認識しておく必要があります。

      出典:治療 2003.6

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2003年7月1日号  No.363

医学・薬学用語解説(ヘ)

         べンゾジアゼピン(BZ)1受容体からω受容体へはこちらです。


SU剤:スルホニル尿素剤の作用機序

主なSU剤

ジアベン、ラスチノン、ジメリン、デアメリンS、トリナーゼ、オイグルコン、ダオニール、グリミクロン

出典:PM 1997.1

 SU剤の血糖降下作用の特徴は、膵ランゲルハンス氏島にあるβ細胞を刺激しインスリンを分泌させることにあります。まず、ブドウ糖が糖輸送担体によりβ細胞に取り込まれた結果、ATPが産生されます。このATPがβ細胞膜にあるATP感受性Kチャンネルを閉鎖することにより細胞膜が脱分極し、電位依存性Caチャンネルが開き、Caが細胞内に流入することによってインスリン分泌が生じます。

 一方、SU剤はATP感受性Kチャンネルに連関します。最近その遺伝子構造が明らかとなったSU剤特異性受容体(SU受容体)に結合し、ATP感受性Kチャンネルを閉鎖し、以後はブドウ糖の場合と同様の経路をたどりインスリンを分泌させます。

 NIDDMではβ細胞内でのブドウ糖代謝の障害が存在すると考えられており、このためATPの産生が低下しATP感受性Kチャンネル十分に閉鎖されないことによりインスリン分泌が障害されます。ところがSU剤は、膵β細胞へのブドウ糖の取り込みや代謝に関係なくSU受容体に結合し、ATP感受性Kチャンネルを閉鎖し、β細胞よりインスリン分泌を促す(膵作用)ため、NIDDMの治療に有効です。

 また、最近SU剤の膵外作用も注目されてきていますが、その一つに肝臓での糖新生の抑制が考えられており、膵作用にこの膵外作用が相まって血糖を降下させると考えられます。

 厳格な食事療法および運動療法が十分に行われているにもかかわらず、空腹時血糖120mg/dl以上、HbA1c7%以上のNIDDM患者が適応となります。しかし、ブドウ
糖毒性という考えからは、なるべく軽症の間にできるだけ早く血糖を下げることによりβ細胞の機能を長期に維持してやることが重要で、コントロールがやや不良となっている例では、食事療法、運動療法が厳格に行えるまだSU剤の使用を控えるのはかえって良くないと思われます。

 一般に、比較的に作用が弱く作用時間も短いグリミクロンを半錠、朝1回から開始し、血糖の日内変動を参考にして、不十分であれば漸増します。

 同一薬剤でコントロールが得られない場合、より作用の強いダオニールに変更しますが、この場合も少量から開始し、漸増して使用します。しかし外来患者の場合は日内変動の実施は困難で、まず食事療法と運動療法を再指導し、空腹時血糖、食後血糖はHbA1cを参考に漸増して使用します。

 空腹時血糖120ml/dl、あるいは食後血糖170〜180mg/dl、HbA1c7%以下を目標値とします。

 服用時刻は理想的には食前30分がより有効であり望ましいのですが、飲み忘れしやすい人や服用後にきっちりと食事のとれない人、高齢者などには食直後の服用を指導します。グリミクロン2錠(80mg)、ダオニール2錠(5mg)以上に増量してもあまり効果の得られない場合は、インスリン療法やその他の薬剤との併用も考慮します。

 インスリン分泌の指標として24時間尿中C−ペプチドの排泄量が30μg/日以下、あるいは食後2時間の血中C−ペプチド値が3.2ng以下の場合、SU剤が無効であることが多いので、インスリン治療を考慮します。


シックデイ
Sick day

 通常、インスリン製剤などを用いている糖尿病患者が、風邪などの急性の感染症や消化器障害によって、急激に代謝異常をきたし血糖コントロールが乱れ、通常とは違う体調不良の状態。

 自己管理の重要性、医師によっては、患者の判断を認めないで、すぐに医療機関へ連絡するよう指示している場合もあり、診療側との意思統一を行っておく必要があります。

「糖尿病で他の病気になった時」

 ほとんどの場合で、インスリンの必要量が増えてきます。このような時に、インスリンを打たなかったり、量が少なすぎると、ケトアシドーシスという状態になることがあります。

このような状態にならないために、次のことを守ってください。

・できる限り食事しておく(おかゆ、麺類、果実など)〜エネルギー、糖分を補給する。
・水分は少なくとも1L以上取る。
・尿等、尿ケトン体、自己血糖測定を行なう。
・インスリンを極端に減らしたり、中止しないようにする。

 体調を崩した場合や食事を十分に取れない場合(嘔吐、下痢、腹痛、食欲が無い時など)は、血糖値は変動しやすくなります。

 普段と同じ量の薬を使用していても低血糖を起こすこともあるので早めに主治医に症状や状態を説明し、指示を受けるようにしてください。

<シックデイのチェック項目>

体重の変化、体温、呼吸数、尿の量、食事や水分の摂取、尿糖、尿ケトン体、血糖値

<すぐに受診が必要な場合>

・発熱が続くとき。
・頭痛、腹痛、吐き気、下痢。
・食欲が無く、ほとんど食事が取れない。
・体重の減少が著しい、。
・高血糖ケトン尿が続く。

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 シックデイの病態は、大部分は血糖上昇に働き、高血糖と脱水はその補正がなされない限り、1型糖尿病では糖尿病ケトアシドーシス、2型では非ケトン性高浸透圧性高血糖昏睡の引き金となります。さらに高血糖の持続は末梢血多核白血球機能を低下させ、感染症を惹起あるいは増悪させるので注意が必要です。

 一方、食欲不振や下痢のため、カロリー摂取不測の状態ともなり、通常の薬剤用量では低血糖を起こすシックデイの病態もあり、考慮を要するポイントとなります。

  出典:薬局 2008.3 等   


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SU剤の二次無効

SPIDDMとは

2000年10月15日号 301

 二次無効〜SU剤でコントロールが得られていても、ある期間を経ると効果がなくなってくる場合があり、これをsecondary failureと呼びます。しかし一見、二次無効のように思われても、実際は食事療法、運動療法の乱れによる偽性二次無効であることが多く注意が必要です。

 二次無効の発症機構はまだ十分に解明されていませんが、大量のATP感受性Kチャンネルが絶えず興奮状態になることからβ細胞が疲弊してくるのではないかと想像されています。実際、SU剤の二次無効例でインスリンを少量で使用しているとβ細胞のインスリン分泌能が回復し、再びSU剤治療に戻せることがよくあります。

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{参考文献}OHPニュース 2000.9
       ファルマメディカ 1997.1

 SU剤の効果が当初有効であったにもかかわらず、長期の連用により減弱または消失することがあります。これがSU剤の2次無効であり、目安としてはグリベンクラミド10mg/dayを用いても空腹時血糖値が140mg/dl以上、食後200mg/dl以上、HbA1cが7.0〜7.5%以上が持続し、薬が効かない状態を指します。その累積発現率は年間1.4〜5.6%で、グリベンクラミドでは、5年間で40%にもなります。

2次無効の原因

1.SU剤の作用機序に特異的な原因
・膵β細胞の疲弊、破壊
・薬剤の無:desensitization

2.U型糖尿病(NIDDM)の悪化原因と共通
・食事療法の不徹底、・ストレス、経口薬の吸収不全
・インスリン抵抗性の増大(運動不足、肥満、感染症)
・不適切な薬剤与薬量、・コンプライアンスの低下

3.SPIDDM:slowly progressive IDDM

SPIDDMとは

 多くはNIDDM様で中年以降に発症し、最初は食事、運動療法、経口薬でコントロールできますが、緩徐(数年以内に)にインスリン依存性となります。また抗GAD(グルタミン酸脱炭素酵素:下記参照)抗体、ICA(下記参照)等が陽性で自己免疫機序の関与が疑われます。

 この時点では過度の食事、運動療法は低血糖を招く恐れがあるので、患者の状態を良く把握する必要があります。

 NIDDMの患者の中で特に抗GAD抗体陽性、ICA陽性の者は将来インスリンが必要になる可能性が高いので、合併症を防ぐという意味で早期インスリン治療する研究がなされています。

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ICA
islet cell antibody
膵島細胞抗体

または膵ランゲルハンス島細胞抗体:islet cell cytoplasmic antibody

GAD

 ICAは膵島細胞islet cellの細胞質と反応する自己抗体です。ヒト膵切片を用いた蛍光抗体法で測定されます。ICAの対応抗原はいまだ不明な点もありますが、グルタミン酸脱炭素酵素(GAD)もその一つと考えられています。

 ICA測定の意義は,IDDM(インスリン依存性糖尿病)かNIDDM(インスリン非依存性糖尿病)かの鑑別が困難な糖尿病例で測定し、陽性であったならばIDDMと診断できるところにあります。

 急性発症IDDMの場合、発症直後ではほぼ全例にICAが検出されますが、経過とともに陽性率は低下し、10年以上経過した例では約10%の陽性率しかありません。

 IDDM患者の第1度近親者においてもICAは検出されることがあり、この際には,将来的に糖尿病が発症することが予想できます。NIDDMの臨床型をとる症例の中にも5〜10%の頻度でICAが検出されます。

 ICAが持続陽性を示す際には、インスリン分泌能が数年間の経過で徐々に低下し、最終的にはインスリン依存状態となることも予想できます。なお,このような例をslowly progressive IDDM(SPIDDM)と呼びます。

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SPIDDM
緩徐進行1型糖尿病

〔臨床的特徴〕

1)自己抗体:膵島抗体(ICA)は低抗体価、抗GAD抗体は急性発症1型糖尿病に比しむしろ高抗体価の傾向
2)発症初期には一見2型糖尿病のような臨床像(インスリン非依存状態)
3)経過とともに徐々に膵β細胞機能が低下
4)最終的には内因性インスリン分泌が廃絶したインスリン依存状態に陥る。ただし、完全な廃絶ではなく、高感度のCペプチド測定系でのみ検出可能な程度の微小残存膵β細胞機能が認められる場合が多い。
5)発症年齢が30〜50歳と急性発症1型糖尿病に比べ高齢の傾向にある。
6)膵β細胞機能の低下は男性のほうが女性より速やか。

〔膵組織所見〕

1)膵β細胞がわずかながら残存する。
2)膵外分泌組織の著明な萎縮
3)膵管に慢性膵炎様の変化(主膵管の拡張、不整など)
4)膵島炎はきわめてまれ
5)ときに膵外分泌腺周囲に細胞障害性Tリンパ球の浸潤を認める。

    出典:薬局2008.4等

関連項目 インスリン抵抗性改善剤


GLP−1                  関連項目 インクレチン もご覧下さい。
Glucagon-like peptide

グルカゴン類似蛋白-1
グルカゴン様ペプチド

 GLP−1は生体内に存在する最も強力なインスリン分泌増強物質として、糖代謝に関与する消化管ホルモンです。小腸から分泌され、インスリン分泌促進作用やグルカゴン分泌抑制作用、胃酸分泌抑制作用などを持ち、それらによって血糖上昇抑制を起こします。

 GLP−1の作用は多岐で、糖尿病ではGLP−1のブドウ糖応答性インスリン分泌作用の増強効果は血糖値の高さに依存性で、血糖値が低い場合は作用しないため、低血糖を起こしにくいとされています。さらにグルカゴン分泌の抑制、中枢神経に作用し食欲をなくさせます。β細胞の分化増殖を促進することなどから、2型糖尿病治療に適した特性を持っています。

 GLP−1アナログではSU剤にみられる低血糖や膵細胞の疲弊が回避できる可能性があり、新しいカテゴリーの糖尿病治療薬として開発が進んでいます。

 GLP−1の血糖降下は、SU剤と異なり血糖依存性です。インスリン合成を増加させ、また転写因子を介して新たな膵β細胞も増員させます。

 胃酸分泌抑制は栄養吸収を抑えることになり、インスリンやグルカゴンの分泌を介さなくても血糖上昇を抑制します。中枢神経にも作用して満腹感を増し、食物の摂取を抑える作用も認められています。

 血糖が低下すると作用が弱まるので、臨床的には低血糖の危険性が少ないという利点からNIDDMの治療での有用性が示唆されています。IDDMの治療については、インスリンとの併用による低血糖の発現の有無が、今後さらに検討を要します。

    出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.2       関連項目 インクレチン もご覧下さい。

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GLP1は、インスリン分泌促進作用に加えて、膵β細胞の増殖や保護、食欲抑制などの作用を持っています。
2型糖尿病では、GLP1の分泌が低下していて、補充することによって病態が改善します。

GLP1は、血糖上昇時にだけインスリンの分泌を促進するため、低血糖になる危険がありません。またSU剤などとは異なる経路で作用するので、SU剤無効例にも効果が期待されています。

GLP1は、血中でDPP-IV(dipepitidyl peptidase-IV)による分解を受けることが最大の問題点ですが、その対策がさなれた薬品が開発され有効な成績をあげています。今後、GLP-1シグナル調節という、新たな機構による糖尿病治療の発展が期待されています。

      出典:医薬品ジャーナル2006.7

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GLP-1受容体作動薬

〜〜インクレチンの作用を理解した上での使用を〜〜

2011年6月15日号 No.546

 インクレチン(GLP-1とGIP)は食後の血糖上昇を抑制し、血糖をより一定に保つことから、新しい糖尿病治療薬として登場し、インクレチンの分解酵素であるDDP-4を阻害して内因性のGLP-1活性とGLP-1受容体作動薬が開発され、効果が期待されています。

{参考文献}Medical Tribune 2011.5.26

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 2型糖尿病ではインクレチン作用は減弱していますが、インクレチン反応は必ずしも低下していません。GLP1分泌L細胞数は糖尿病発症後、経時的に増加する傾向が認められており、2型糖尿病では、L細胞は量的にも機能的にも減少、減弱していないと考えられています。

 インクレチン作用減弱の原因の1つとしてβ細胞でのGLP1とGIP受容体発現の低下が指摘されています。

 最近、GLP1の膵内作用として、インクレチン作用のほか、β細胞のアポトーシス抑制、β細胞の増殖促進および分化・新生誘導が認められています。(人では実証されていません。)

 GLP1の膵外の重要な作用として、GLP1が消化管や門脈、肝臓の粘膜上皮下に張り巡らされている自律神経終末の受容体を刺激します。その結果、節神経節細胞が刺激され、消化管からの情報が延髄孤束核を経由して視床下部に伝達され中枢作用として満腹感の増強や摂食抑制、胃排泄運動抑制、また作用事態は強くありませんがインスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制作用を示すことも知られています。

 GLP1受容体作動薬やDPP4阻害薬は海外で実臨床4年以上の実績があり、糖尿病治療薬としての存在を否定するような副作用や問題点は認められていません。しかし、GLP1シグナルを利用したインクレチン関連薬は、GLP1末梢作用と自律神経系を介する中枢作用により、多面的に2型糖尿病の血糖コントロールを改善しますが、ヒトではいまだ不明な点もたくさんあります。

 DPP4により分解された不活化GLP1が心筋収縮機能を高めたり、肝グルコース産生を抑制するとの報告もあり、DPP4だけを阻害して活性型GLP1だけを高めることに疑問を感じる研究者もいます。

 海外で実施された研究によりますと、エキセナミド(バイエッタ皮下注)は、動物由来の整理活性物質であるため抗体が産生され、これが血糖の不安定さにつながる可能性があるとのことです。

 エキセナミド使用後52週までのHbA1c低下度に抗体の有無による差はありませんでしたが、かなり高い抗体価を示す症例もあり、長期的な観察が必要と思われます。また国内でインスリンからビクトーザ皮下注に切り替えた場合、糖尿病ケトアシドーシスを発症し死亡に至った報告例もあることから、インスリン療法から安易に切り替えるべきではないとの意見もあります。

<まとめ>

 GLP1受容体作動薬は、急性膵炎との関連や抗体産生など課題は多くありますが、良好な血糖改善効果に加え、体重減少効果や腎機能低下患者での用量調節不要などの利点があり、何よりβ細胞機能を改善する意義は小さくありません。

 インクレチン関連薬はβ細胞機能残存段階からの使用が重要で、今後、リスクを認識しながら使用法を検証していく必要があります。


<用語辞典>

率(Rate)と割合(Proportion)

 率と割合は、しばしば混同されています。違いは、「分母」です。

 率〜分子集団は、分母集団に含まれず、普通、時間の要素が必須となります。

 割合〜分子が分母の一部となります。例えば乳児死亡率といった場合、死亡した乳児/全乳児のことです。

   厳密には、乳児死亡割合をみていることになります。

 致死率と死亡率といった用語は、分母が何なのかを理解して使わなければ大きな勘違いをしてしまいます。致死率は、ある疾患に罹患した人のうち死亡した人の割合を示し、死亡率は全体の人口の中でどれくらいの割合のひとがその疾患で死亡しているかを割合で示したものです。

 例えば狂犬病を例に取ると、日本では年間数人が海外で動物に噛まれ、帰国後発症し、100%死亡しています。つまり、死亡率は限りなく低いのですが、致死率は100%ということになります。

 医療施設での実地疫学では、患者それぞれではなく、集団としてとらえたときの事象を頻度(罹患率と有病率などを数量化し、病気の流行状態を表します。

 そのためには、「何を見ているのか」を明確にするべく、用語が正確にされなければ、間違った解析による間違った対策を引き起こす原因になります。

{参考文献} 薬事 2011.5


ブリッジング試験

グローバリゼーション(最終回)  2000年10月15日号 301

{参考文献} JJSHP 2000.3等

 ブリッジング試験とは、ある国で新薬の承認申請をする場合、その薬品が、すでに外国で臨床試験がなされており、そのデータが承認申請資料として、自国の住民集団(民族)に適用することが可能か否かを確認するために実施する臨床試験のことです。

 新薬の承認申請時に必要な全てのデータを臨床データパッケージといいますが、国際的に自国を含むいかなる国のデータでも、全て新薬を承認する国の規制当局が、データの特性と質について、自国の規制用件を見たしていると判断すれば、それは完全な臨床データパッケージとみなされます。しかし、その中の外国臨床データについては、自国の民族に外挿可能かどうかを検証しなければなりません。

 1998年に
ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)で、外国臨床試験データ受け入れの際の民族的要求に関するICH-E5というガイドラインが合意に達しました。ブリッジング試験は完全な臨床データパッケージとともに、この中に規定されており、この2つがICH-E5ガイドラインの骨子となっています。これには、臨床試験の国際的な重複を最小限にして、患者へ有用な新薬を速やかに提供するという意図があります。

 日本でのブリッジング試験は、医薬品機構の治験指導部が相談に対応しています。例えば、外国の第3相試験データを日本人に適用するためには、日本の第2相後期の用量反応試験データが必要となり、そのためには、人種や民族的な差異を外国の臨床試験データと比較可能なデザインの第2相後期試験を組む必要があります。

 バイアグラや、毛生え薬のリアップがあんなにも早く承認されたのは、このブリッジング試験が適用されたためですが、やはりこの制度の問題点は人種により代謝酵素などが異なり、薬の効き方も異なることです。

 
EBMもあれほど騒がれながら、日本でなかなか定着しないのも、エビデンスのある文献が皆外国のものだからです。外国のデータをそのまま信用してよいか、はたまたいけないのか、そのためのエビデンスを得るための検証が必要とされています。日本の医療現場ではエビデンスの根拠はあいまいで客観性・普遍性に乏しく、個人の限られた経験・直観や権威がいまだに幅をきかせています。その教育は貧で、日本には信頼できるエビデンスがほとんどありません。日本がグローバルになるにはまだまだのようです。


<<緊急安全性情報>>

◎ アクトス錠(インスリン非依存型糖尿病治療剤)

 心不全の発現

 使用中の心不全の発現は治験段階では認められていなかったが、循環血漿量の増加によると考えられる浮腫の発現が認められたことから、承認時に使用上の注意に重大な副作用として「浮腫」を記載するとともに、慎重投与の項に「重篤な心疾患のある患者」を記載するなどの注意喚起、情報提供を行ってきた。

 国内において市販後これまでに、本剤と因果関係の否定できない心不全の発現が5例(死亡例なし)報告されていることから、今般、「緊急安全性情報」を配布し、服薬中の急激な水分貯留による心不全について注意喚起を図ることとした。

 使用上の注意を改訂するとともに、「緊急安全性情報」を配布し、医療機関等に対して、服薬中の急激な水分貯留による心不全の発現に関し、以下の注意事項を速やかに伝達する。 循環血漿量の増加によると考えられる浮腫が短期間に発現し、また心不全が増悪あるいは発症することがあるので、下記の点に留意すること。

 心不全の患者及び心不全の既往歴のある患者には使用しないこと。服薬は観察を十分に行い、浮腫、急激な体重増加、心不全症状等がみられた場合には中止し、ループ利尿剤(フロセミド等)の与薬等適切な処置を行うこと。服用中の浮腫、急激な体重増加、症状の変化に注意し、異常がみられた場合には直ちに本剤の服用を中止し、受診するよう患者を指導すること。



  <用語辞典>

DOTS(ドッツ)
directly observed treatment short course chemotherapy
DOT:directly observed treatment

直視下服薬:監視のもと、薬を患者に服用させること。

 米国では治療意欲のないホームレス結核患者の治療脱落を許してきたため、多剤耐性菌を作り出してしまいました。更にこのことが感染源となってHIV患者の院内集団完感染事件を起こしたとされています。こうした事件が、大都市でDOT(直視下服薬)を積極的に導入される契機になりました。

 日本でも結核治療薬などのこの方法が必要とされるケースが増えてきています。


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糖尿病とうつ病の関連性

2006年4月15日号 No.427



 糖尿病になってしまった場合、バランスのとれた食事や適度な運動、そして適切な治療を受けることが重要です。

 しかし、こうした体に対するケアに加えて“心”に対するケアが同時に必要です。実際、うつ病などの「心の病と糖尿病」の関連性についての研究報告がこの10年で数多くなされてきました。

 その結果、糖尿病患者のうつ病にかかるオッズ比は対照と比べて2倍とされています。 糖尿病とうつ病を併発する危険因子は、若年者独身、低い教育レベル、BMI≧30、喫煙者、女性、糖尿病以外の並存疾患を有する、HbA1c高値、インスリン治療中などです。

 他にも、糖尿病患者のうつ症状が身体活動の低下、社会的支援の少なさ、食生活の乱れや治療コンプライアンスの低さなどの心理社会的影響に強く関連することが報告されています。

 また、一方でもともと抑うつ傾向のある人は将来糖尿病に罹患しやすいという報告もあります。

日本人男性を対象とした9年間の追跡調査でも、うつ的兆候の高い群はそうでない群に比べて糖尿病発症率が2.3倍高く、うつ的兆候が将来の糖尿病発症と関係していると結論しています。

 実際、いくつかの治療的介入研究から、糖尿病とうつ病の関連性にかかわる病態メカニズムが徐々に明かになってきました。

 ある研究では、体内のクロムの減少がうつ病とインスリン感受性低下、それに続く糖尿病の発症の双方に関わることが示唆されています。

 また、従来からCHR(コルチコトロピン放出刺激ホルモン)がその異化作用やレプチンを介した相互作用により、食欲や体重の調節に関わっていることが知られています。

 レプチンは脂肪細胞から分泌され摂食を調節するホルモンとして知られていますが、大うつ患者ではその分泌機能が調節不全になることが報告されています。

 さらに、視床下部→下垂体→副腎軸(HPA axis)と脂肪細胞との関連について研究が数多くなされ、コルチゾールは脂肪細胞からのレプチン分泌を促進する作用があり、一方でレプチンには視床下部からのCRH分泌を抑制する作用があることが分かってきました。

 加齢によりコルチゾール分泌が亢進することで糖尿病やうつ病(他にアルツハイマー病、高血圧メタボリック症候群など)の発症リスクが上がります。また大うつ病患者ではストレスによりコルチゾール分泌が亢進していて、耐糖能障害を引き起こすともいわれています。

 糖尿病とうつ病をどちらが先に発症したかを調べたところ、糖尿病を発症した後にうつ病に罹るパターンが7割を占め、抑うつ傾向またはうつ病を発症した後に糖尿病罹るパターンは3割でした。このことから“体のケアと心のケア”を包括的に提供する体制が必要になってくると思われます。

{参考文献} 治療 2006.3 
(東京医科歯科大学大学院医学 総合研究科製作化学分野 有馬秀晃先生の文章を基に書いたものです。)


2006年4月15日号 No.427
                

   <NST関連用語解説> 身体計測はこちらです。