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1999年2月15日号 262

レプチンとは

   肥満症での臨床的意義

     レプチンは脂肪細胞から分泌されるペプチドホルモンで、視床下部に存在するレプチン受容体に結合します。その結果摂食抑制とエネルギー代謝の亢進を来たし、糖脂質代謝に影響を及ぼすというフィードバックループを作り体重増加を抑制します。

 最近ヒトでも、レプチン遺伝子異常やレプチン受容体遺伝子異常による肥満の症例が報告され、レプチンの臨床的意義が注目されています。

    {参考文献}治療 1999 増刊号

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 レプチンは摂食抑制およびエネルギー消費亢進という生理作用を持ちますが、ヒトの一般の肥満者や後天性肥満モデル動物では脂肪組織でのレプチン遺伝子の発現およびレプチン血中濃度は、逆に亢進していることが多くみられます。そしてその血中濃度は、体脂肪量(%fat)およびBMI(body mass index)によく相関します。

 これらのことから一般の肥満ではレプチンの作用の低下、すなわちレプチン抵抗性の存在が考えられています。その原因として、肥満患者では血液-脳関門でのレプチンの移行が低下し血中濃度の増加に比べ髄液中のレプチン濃度が低いことが報告されています。

 さらにレプチン抵抗性の成因としてレプチン受容体および受容体以降の障害の存在も考えられています。

 血中レプチン濃度には明らかな男女差も存在し、女性で高値を示します。女性ホルモンの関与も考えられますが、閉経の有無では差が無いという報告もあり、皮下脂肪が多いことに起因すると考えられています。

 一方、ヒト肥満のうち5〜10%では、体重に比し相対的に低レプチン濃度を示します。これらの肥満者ではレプチン産生が低下した結果、摂食抑制を来たしにくく食欲が亢進して肥満になると考えられます。

 肥満になっていない時期の血中レプチン濃度の低値が、将来の肥満の程度に関係すると報告されています。

 肥満者では食事制限による体重低下はレプチン濃度の低下を来たします。低レプチン濃度が食事摂取の刺激になりうることからすると、食事療法の成功率が低い一因として低レプチン濃度になること自身も考えられます。

 レプチンがもし肥満の制御に重要な役割を果たしているとしても、現在までの遺伝子解析によればレプチンもしくはレプチン受容体の異常で肥満になる症例は少なく、一般の肥満は他の要因によるものが多いと考えられます。これは糖尿病の原因がインスリン分泌やインスリン受容体異常による糖尿病の割合は少ないのとよく似ています。

 レプチンの生理的意義が明らかになるにつれてインスリンが糖尿病の治療として使われているのと同様にレプチンが肥満の治療やその指標として使われるかもしれません。

 レプチン欠損症やレプチンの分泌低下によって引き起こされる肥満では、レプチンが著効すると同様にレプチンの補償療法が最適の治療となる可能性もあり、現在米国では治験(リコンビナントレプチン)が進行中です。今後さらにレプチンのアゴニストなどの開発を含め新しい肥満の治療法が開発されることが期待されています。

<肥満の分類>

1)脂肪細胞からのレプチン分泌低下
2)レプチン異常
3)レプチンの血液から血液-脳関門での移行が悪く視床下部のレプチン受容体への到達が悪い
4)受容体異常
5)受容体移行のシグナル伝達機構に異常
6)レプチン分泌作用機構には異状が無いが他の肥満制御機構
  (他の肥満関連遺伝子)に異状がある

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<2003年追加>

インスリンとレプチンによる食欲抑制作用


 インスリンは末梢臓器に作用し、血中グルコース濃度を制御するホルモンですが、中枢に作用し食欲を抑制することも古くから知られています。

 食後の血糖上昇に伴い、膵臓から分泌されるインスリンが血糖を正常値に回復すると同時に脳内に移行し、満腹感を与えるという流れは、生体を維持するメカニズムとして容易に理解できます。

 また最近話題となっているレプチンは成熟脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食後に血中濃度が上昇して脳内に移行し満腹感を与えます。

 インスリンとレプチンが互いに影響し合って摂食抑制作用を発現していることが推測されます。しかし、脳内にインスリンとグルコースを持続注入することにより起きる摂食低下を、レプチン受容体遺伝子に変異のある肥満ラットと正常対照ラットで比較したところ、摂食低下に差がなかったことから、インスリン作用発現には必ずしもレプチンシグナルを必要としません。また、ラットを用いた実験で、性差によるインスリンとレプチンの摂食抑制作用の差異も報告されています。

 第3脳室に注入したインスリンの摂食抑制作用はオスでは強く持続的でしたが、メスでの作用は弱く、オスとメスとでは差があることが分かりました。

 一方、レプチンの摂食抑制作用はオスに比べてメスで持続したことから、オスではインスリンによる摂食抑制が強く、メスではレプチンによる摂食抑制が強く働くことが考えられます。

 このことが、そのままヒトにあてはまるかどうかは明らかではありませんが、それがインスリンとレプチンに起因するなら興味深いことです。

 出典:ファルマシア 2003.11


口呼吸病の治療

口呼吸は万病の元 (8)

 このシリーズは東京大学医学部口腔外科 講師 西原克成先生が「治療」1997.12〜1998.9に連載されていた文章を参考に再構成したものです。

  口呼吸病の治療は、いたって簡単です。要するに口で呼吸しないで鼻で息を吸うという普通の状態に戻せば良いのです。

 西原克成先生は、下記のような方法を挙げられています。

・鼻孔拡大装置
・睡眠姿勢の改善〜枕なしで上向き
・睡眠中は口唇を逆ハの字にテープを貼る。
・睡眠時間8〜9時間に
・摂食時の咀嚼習癖の矯正
・片噛みの矯正〜ガム療法:左右均等に30〜50回咀嚼するよう指導
・細胞レベルの呼吸を賦活化する目的で横隔膜呼吸を励行
・咽頭部の感染に対してイソジン含嗽
・抗生物質、漢方薬(補中益気湯)

 また、小児喘息もおしゃぶりで治るとのことです。

  生活していく上で注意すべき事項としては、

1)栄養に偏りがない上に栄養不足や過剰とならず、
  よく咀嚼して食べ、

2)おのずからなる腹式横隔膜による鼻呼吸と、意思に
  よる胸式の呼吸の違いを知り、正常な空気を正しく
  鼻を通して横隔膜で呼吸し、

3)寒すぎず暑すぎず、適正な湿度と1気圧の元で、
  1日に子供で9〜12時間の睡眠をとり、

4)体の筋肉をまんべんなく動かし、

5)個人が生活する上でゆとりある空間のもとでの生活

上記を守れば、健やかさが長期に維持できます。

 生体力学的には左右差のないように体を使い、左右のねじれを除く筋肉運動を穏やかに行って細胞呼吸を活性化することが肝要です。


薬局の窓(3)

注射室では、血液の管理も行っています。

血液は、専用の冷蔵庫で保管することが義務付けられていますので、薬剤部の注射室には、0〜4℃用のものと‐20℃(新鮮凍結血漿:FFP)用のものとの2つの冷蔵庫があります。

それぞれ時間毎に温度を記録するようになっています。


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2001年8月15日号 No.320

摂食促進物質グレリンとは

グレリン
ghreline

 グレリンは28アミノ酸よりなり、3位のセリンが炭素数8個の脂肪酸、オクタン酸によってエステル化された今まで報告の無いタイプのペプチドホルモンです。


 グレリンは、1999年に胃から発見された新たな成長ホルモン分泌促進ペプタイドです。

 英語の“grow”がインド・ヨーロッパ基語で“ghre”であることから、命名されました。この名前には、成長ホルモン(GH)を放出する(release)という意味も含まれています。

 グレリンには成長ホルモンの分泌作用に加え、摂食亢進と胃酸分泌の亢進作用があります。

 ヒトのグレリンは、胃に最も多く、腸や膵臓でも産生されます。グレリン産生細胞は、分泌顆粒を多く含み、膵臓の内分泌細胞の一種でグルカゴンを産生するA細胞に類似していることからA-like細胞(またはX細胞)と呼ばれていた細胞そのものです。

 この細胞は1960年代から存在が知られていましたが、顆粒の内容物は不明でした。グレリン細胞は、胃でヒスタミンを産生するECL細胞に次いで2番目に多い内分泌細胞です。

 ラットのグレリンを脳室内に投与すると著しく摂食量が増えます。この摂食亢進は成長ホルモンを介した作用ではなく、内因子摂食亢進物質として機能しています。

 グレリンは摂食抑制作用を持つ
レプチンに拮抗し、グレリンによりレプチンの摂食抑制効果は減弱します。

 グレリンは消化管から血中に分泌されます。空腹によりグレリン分泌は刺激され、摂食や経口ブドウ糖負荷で抑制されます。胃のグレリン産生は、絶食とインスリンや
レプチンにより促進されます。

 重症心不全や胃癌で
カヘキシアの強い症例では血漿グレリン濃度が低下しており、食思低下の原因の1つと考えられています。

 グレリン受容体は全身臓器に発現していて、骨形成や強心作用、糖代謝などにも機能しています。
グレリンの発見により、胃が成長ホルモンの分泌や摂食亢進に重要な役割を担っていることが明らかとなりました。

<肥満とグレリン>

 グレリンは摂食亢進作用を示す初めての消化管ペプチドで、脂肪組織から分泌されるレプチンに拮抗して作動しています。これまで肥満はセルフコントロールの欠如が原因と考えられてきましたが、最近の摂食調節ホルモンの研究により、肥満は多くの生化学的因子による食欲とエネルギー代謝調節機構が複雑に絡み合った病態であると認識されるようになっています。

 グレリンは脳と消化管で産生され、かつ両者を機能的に連繋してエネルギー代謝を調節しています。
肥満や食思不振症などの病態との関連解析、
カヘキシアや重症心不全に対する治療薬としてのグレリンの臨床研究も既に始まっており、グレリンの持つ幅広い生理作用の解明や臨床応用が急速に進展しつつあります。

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 ラットにグレリンを静注すると、用量依存性に胃酸分泌と胃運動を亢進します。この作用はアトロピンと迷走神経切除により阻止されますが、H2ブロッカーでは影響を受けないことから、グレリンは迷走神経を介する作用です。

 グレリンは延髄の迷走神経背側運動核を活性化して、胃機能に作用していると思われます。摂食と消化管機能は深く関連していて、グレリンは中枢と末梢を介し,エネルギー同化作用に機能しています。

       {参考文献}治療 2001.7

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グレリンは強力な成長ホルモン(GH)分泌活性のほか、摂食促進や心機能改善作用を持っています。

グレリンは、胃に存在する細胞から血液中に分泌されます。食事の前後で多少の変動はありますが、ほぼ一定の量が常時血液中に分泌されています。

GHの分泌は高齢になるに従って低下し、それに伴って筋肉や骨の量等が低下します。グレリンの投与によってGHの分泌を促進することで、これらの機能低下を改善できるのではないかと期待されています。

 また、心不全モデルラットにグレリンを投与すると、薄かった心臓の壁が厚くなり、左室の拡張も改善、拍出量も増加しました。この結果に基づき、グレリンの心機能改善作用を期待した臨床研究が既に開始されています。

 さらに、肥満や拒食症の病態との関連解析や拒食症の治療薬としての臨床研究も予定されています。

 出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.6


<用語辞典>

カヘキシー
カヘキシア
cachexia, cachexie
同義語:悪液質

 慢性疾患または情動障害の経過中に起こる主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態で、全身衰弱、
羸痩(るいそう)、眼瞼・下腿浮腫、貧血による特有の黄白色を帯びた皮膚蒼白、皮膚の色素沈着などを呈します。

 癌性悪液質、下垂体性悪液質(シモンズ症候群)、甲状腺性悪液質などがよく知られています。たとえば癌性悪液質の場合、癌は宿主を無視して増殖するため生体中の一切の栄養素を奪い取り(癌による栄養奪取)、これに合わせて癌の増殖転移による各種臓器の破壊、機械的圧迫などが生じたり、癌組織から特殊な毒作用を有する物質(トキソホルモン)が遊離して生体に悪影響を及ぼす等により宿主を死に至らしめます。この過程における全身の不良な状態を癌性悪液質と言います。

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<NST用語集>

Pulmonary cachexia
呼吸器悪液質

 COPDの栄養障害の主な原因として、REE(安静時エネルギー消費量)の増大に反映される代謝亢進が想定されています。

 REEの増大は、閉塞性障害や肺過膨張による換気効率の低下がもたらす呼吸筋酸素消費量の増大によると考えられます。増大したエネルギー消費量に見合うエネルギー供給が無ければ、エネルギーインバランスによる栄養障害に陥ります。

 COPDの重症化に伴い、食事摂取量が減少し、インバランスが助長されますが、この場合、脂肪組織の利用とともに筋蛋白の分解によるアミノ酸とエネルギーの供給が惹起されます。これらによる筋量の減少やエネルギー供給低下に伴う呼吸筋力の低下、換気障害がさらなるREEの増大要因となる悪循環を形成します。これがPulmonary cachexia(呼吸器悪液質)という病態です。

 また、炎症サイトカインであるTNF-α、sTNF-αレセプター等の過剰産生、蛋白合成増殖因子の減少も栄養障害の増悪因子となり、Pulmonary cachexiaという病態を修飾しています。

 出典:薬事 2006.3


2001年8月15日号 No.320

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 シリーズ:アスピリン(3)

 

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