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タバコ(喫煙)と薬物

1990年11月1日号 No.75

     タバコの喫煙は、循環器系、消化器系、および中枢神経系の機能に影響を及ぼすと言われています。
これらの作用は主にタバコの煙の構成成分であるニコチンによるところが多く、喫煙は、ある種の治療薬物の体内動態、その治療効果にも影響を与えるとされています。

 実際、臨床上よく使用されている薬物のうち、テオフィリン、リドカイン、フェノチアジン系、ベンゾジアゼピン系、三環系抗うつ剤、ヘパリン等はタバコ喫煙により影響を受けることが指摘されています。

     {参考文献}医薬ジャーナル 1990.10

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・テオフィリン〜肝での代謝が促進。喫煙はテオフィリンの半減期を短くし、血中濃度を減少させます。
喫煙者では、一定の血中濃度を維持させるには、非喫煙者よりも多くの用量が必要とされます。

・向精神薬  〜一般に代謝は亢進されます。

クロルプロマジン:喫煙者では、傾眠の発現が低下、また、低血圧の発現頻度も低下
ジアゼパム:傾眠の出現率は低下、それは1日の喫煙量に比例

・鎮痛剤(ペンタジン)〜代謝亢進。喫煙者の方が多くの用量を必要とします。

・抗不整脈薬(キシロカイン)〜代謝は活性化されます。また、喫煙により肝血流量の現象を来たし、経口的に与薬された場合、生物学的利用率は抑制されます。

・抗糖尿病(インスリン)〜喫煙する糖尿病患者では、インスリンの要求量は、非喫煙者よりも多いといわれています。また、末梢血管の収縮により、インスリンの皮下注の吸収を低下させるともいわれています。

*喫煙の薬物血中動態に対する影響はニコチンによるものもあれば、それ以外の成分によるものもあります。また、個々に記載されていない他の多くの薬物でも喫煙に影響されるものが存在します。

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2000年追記

 一般に、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて薬を分解する代謝酵素などが活発になっていますので、常習的に喫煙すると、場合によっては血液中の薬の濃度が低下し、作用が弱くなってしまうことがあります。

 例えば、テオフィリンの場合、タバコを吸う人は1.5〜2倍の量を服用しないと同じ効果が得られないといわれています。また、インデラルは、タバコを吸う人は2.7倍も薬の分解が活発になっており、その分薬の効果も弱くなるといわれています。

 逆に言うと、急にタバコを止めると、薬の分解が抑えられ効果が強くなりすぎて思わぬ副作用が出るということも有り得ます・

タバコの影響を受ける可能性意のある薬剤

インデラル、テオフィリン、モルヒネ、インスリン、ベンゾジアゼピン系、イミプラミン、ピンドロール、ペンタジン、H2遮断剤、クロルプロマジン


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タバコによる薬物代謝酵素の誘導


2001年8月1日号 No.319   関連項目
タバコ(喫煙)と薬物

 薬剤とタバコの相互作用で最も問題となるのは、タバコによる薬物代謝酵素の誘導です。これは、タバコの煙に含まれるベンツピレン、ベンツフツオレン等の多環式芳香族炭化水素によるとされるもので誘導される酵素としては、チトクロームC(CYP)P450のサブタイプ1A2がよく知られています。

 この酵素は、テオフィリン、カフェイン、インデラル、三環系抗うつ剤等多くの薬剤の代謝に関与するため、喫煙者ではこれらの薬剤の代謝が亢進されクリアランスの増大、薬剤の血中濃度の低下、効果の減弱が引き起こされることがあります。

 タバコによる薬物代謝酵素の誘導は、実際の薬物療法にも影響を与え、臨床上の注意が必要となる場合があることが知られています。

 例えば、CYP1A2を主な代謝酵素とするテオフィリンでは、喫煙によりクリアランスが増加し、1.5〜2倍の用量が必要となること等が報告されています。逆に、禁煙した場合には、クリアランスが低下し、喫煙時と同じ用量では、血中濃度が上昇し、中毒症状を発現する危険性があり減量が必要となります。

 禁煙によるテオフィリンクリアランスの変化については、今までの喫煙量等の影響もあり一概には決められませんが、禁煙7日以内にクリアランスが約35%低下し、テオフィリンの減量が必要となることが報告されており、禁煙前から用量を見直し、患者の症状や血中濃度のモニターを行って注意深く対応することが必要とされています。

 このほか、タバコにより誘導される酵素としては、UPDグルクロニルトランスフェラーゼが報告されており、これはメキシチール、アセトアミノフェン等のグルクロン酸抱合に関与することが知られています。いずれも薬剤のクリアランスの増大、効果の低下に注意が必要とされ、効果低下時には、与薬量の増量が勧められています。

 また、この様な影響は、大衆薬でも問題となる可能性があります。抗ヒスタミン剤による眠気を緩和するためにカフェインが配合されている市販薬を、喫煙者が服用するとカフェインの代謝が亢進しているため眠気が強く現れることも考えられます。

<タバコと薬剤の相互作用>

 インスリンとの相互作用では、ニコチンの自律神経節刺激作用による交感神経の興奮、副腎髄質への刺激によるエピネフリンの遊離から、末梢血管が収縮し、インスリンの皮下からの吸収が減少することが報告されています。

 ヘビースモーカーの1型糖尿病では、インスリン使用量が15〜30%増加するとされ、交感神経興奮による血糖値上昇作用とともに、血糖コントロールを難しくしていることが指摘されています。その他、ニコチンによる交感神経興奮作用は、インデラル等のβ遮断剤の作用に拮抗することとなり、治療効果を減弱させることも知られています。

 また、喫煙によりビタミンCの血中濃度の低下が報告されていますが、これには喫煙による酸化ストレスのため、ビタミンCの消費量が増大することが関与しているとされています。

 さらに、作用機序は不明ですが、経口避妊薬では喫煙により心筋梗塞等の心血管系のリスクが増大することから、35歳以上、1日15本以上の喫煙者は禁忌とされています。

 このようにタバコと薬剤との相互作用には、さまざまな問題があり、薬物療法への影響も単純ではありません。例えば、薬物代謝酵素誘導は、薬剤の用量を増大させる要因となりますが、これによって、胃粘膜障害等の副作用の増加、代謝排泄臓器である肝臓、腎臓に対する負荷の増大、薬剤費の増加等の新たな問題も引き起こされることになります。

 タバコの影響は、喫煙者本人に留まらず、受動喫煙により周囲の人間に対しても波及し、相互作用への対応をより困難にしている可能性もあります。

{参考文献} 日本薬剤師会雑誌 2001.7


2001年8月1日号 No.319


    シリーズ:アスピリン(2)スーパーアスピリンは 
こちらです。


追加記事

胃潰瘍とタバコ

 タバコは、肺癌、狭心症、心筋梗塞などを引き起こすリスクファクタ−であることはよく知られていますが、胃潰瘍へのタバコの弊害はあまり知られていません。喫煙者は非喫煙者に比べ、喫煙による相対危険度は十二指腸潰瘍で約2倍、胃潰湯ではそれよりやや高いとされています。また、喫煙者の消化性潰瘍は治癒に時間がかかり、時に多量の抗潰瘍薬が必要になる、再発しやすく再発までの期間が短くなるといわれています。

*喫煙による上部消化管機能の影響

<胃酸、ペプシン分泌>

 動物実験では、ニコチンの胃壁細胞への作用は、低濃度では酸分泌亢進・高濃度では 抑制するという結果がありますが、生体内観察では、胃酸・ペプシン分泌共に増加・減少・不変とまちまちであり、一貫した成績は得られていません。

<胃・十二指腸運動>

 喫煙により十二指腸から胃への逆流がおこるという報告が多くあります。これは幽門輪の機能障害による逆流と考えられています。胆汁酸や膵臓の蛋白分解酵素が逆流することで、胃粘膜損傷が生じ、潰瘍の発生などがおこると考えられています。

<粘膜血流>

 ラットによる実験では、タバコ1本1日1回喫煙5分後に、胃壁深部の微細動脈から粘膜側の毛細血管まで内腔径が約26%収縮することが観察されています。また、ヒトでの色素静注法で血流による色素の胃粘膜への分泌をみると、喫煙による色素の胃内腔へのクリアランスは非喫煙時の58%から38%へと減少しています。

<プロスタグランジン,PG>

 PGは粘膜防御機構を総括的に調整する役割を果たす生理活性物質と考えられています。喫煙により胃粘膜内のPGは即座に減少することが明らかになっています。しかし、動物実験でニコチンの直接作用により胃粘膜内のPG低下がみられないことから、これはニコチンの間接的作用か、タバコに含有される他の成分によるものと考えられます。

 喫煙は主に胃粘膜血流の減少など防御因子を微弱させ、消化性潰瘍の発生、治療の遷延化、易再発などの弊害をもたらすと考えられます。一般的に、胃潰瘍患者の胃内酸度は健康人と比べ同等かやや低酸なのに対し、十二指腸潰瘍患者では高酸です。したがって、胃潰瘍は十二指腸潰瘍に比べ、胃酸等の攻撃因子増強よりも防御因子微弱により生じていることがうかがわれます。よって、胃潰瘍の多い日本人では、十二指腸潰瘍の多い欧米人に比べ、タバコがリスクファクタ−になると思われます。

        出典:からだの科学       
               183,30,199                      
         勝田保健衛生大学 中澤三郎先生より

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タバコの煙が病気を起こすメカニズム

    〜喫煙関連疾患の生物学的行動学的根拠〜

2011年3月1日号 No.539


 タバコの煙への曝露にそれ以下なら害がないというレベルはありません。たまにタバコを吸うだけであろうと、受動喫煙であろうと、いかなるタバコの煙への曝露も有害です。大量のタバコを長年吸わなくとも、喫煙関連疾患を発病し、タバコ煙曝露によって心臓発作や喘息発作が起きる危険があります。

 受動喫煙のようなタバコの煙を少ししか吸い込まない状況でも、動脈の壁が急激に固く細くなり、炎症が起きて、心臓発作や脳卒中が起きやすくなります。

 紙巻きタバコの煙には7千種類以上の化学物質や化合物が含まれて、明らかな有害物質は数百種類発癌物質は70種類以上含まれています。タバコの煙それ自体がヒトに対する発ガン物質であると認定されています。

 タバコの煙に含まれる化学物質は、卵管が正常に働くことを妨害するため、子宮外妊娠、流産、低体重出生などの妊娠関連障害を増やします。

 タバコの煙に含まれる化学物質は精子のDNAを傷つけるため、男性不妊を増やし、胎児の発育に悪い影響を与えます。

* タバコの煙にさらされるとすぐに影響が出ます。

 タバコの煙に含まれる化学物質は呼吸のたびに肺の中に入り込み、有害物質は血液に入り込んで体中に運ばれます。
 タバコの煙に含まれる有害物質や化学物質はDNAを傷つけ、癌を起こしやすくします。毎年、癌による死亡の3分の1近くが喫煙で引き起こされています。米国では肺癌の約85%は喫煙が原因です。

 タバコの煙を吸い込むとすぐに全身の血管がダメージを受け、血液が固まりやすくなります。このダメージによって心臓発作や脳卒中そして突然死も起きやすくなります。

 タバコの煙に含まれる化学物質は繊細な構造を持つ肺や気管支に不可逆的な損傷を与えて換気機能を損ない、肺気腫や慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発病させます。

* 紙巻きタバコは、止められなくなるように作られているます。

 タバコは以前よりも心を惹きつけるデザインと高い依存性をもたらす成分組成となっています。昔と比べて現在の紙巻きタバコは、ニコチンがより速く肺から心臓や脳に到達するように作られています。

 ニコチンは紙巻きタバコの強力な依存性を作り出し持続させるカギとなる化合物であすが、それ以外の添加物と製品デザインもまたさらに人を惹きつけ依存させる働きを持っています。

 タバコ製品が備えているこれらの強力な依存形成要素は、脳細胞の多種類のニコチン受容体に作用します。

 ニコチン依存症では、心理的、生物学的、遺伝的な因子も一定の役割を果たしています。

 子供や若者は、ニコチンに影響を受けやすく、大人よりも簡単にニコチン依存症になりやすく、毎日1000人のティーンエージャーが常習喫煙者になっているのはこのためです。

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 喫煙関連疾患による障害と死亡を防ぐ唯一の確実な方策は、決して喫煙しないこと、喫煙しているなら一刻も早く禁煙することです。何歳で禁煙してもそれに応じて健康は改善しますが、早ければ早いほど効果が大きいとされています。

 禁煙するとタバコで痛められていた体が回復するチャンスが与えられます。

 禁煙すると、心臓発作の危険性は1年以内に 急速に低下し、脳卒中の危険性は、2〜5年後に非喫煙者のレベルまで低下します。口腔癌、喉頭癌、食道癌、膀胱癌のリスクは、5年で半減します。肺癌で死ぬリスクは10年で半減します。

 禁煙が成功するまで何回も禁煙チャレンジが必要であることが多く、ニコチン代替製剤あるいは非ニコチン性剤による禁煙治療によって、よりたやすく禁煙に成功する可能性があります。

{参考文献}大阪府薬雑誌 Vol.62 2011 No.2


         ロコモとマーズはこちらです。


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COPDと気管支喘息の病態の相違

2002年10月1日号 No.346


     {参考文献}治療 2002.9

COPDとは
chronic obstructive lung disease

 完全に可逆的(注:下記)でない気流制限を特徴とする疾患で、この気流制限は通常進行性であり有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症反応に関係しています。

 気管支喘息は、多くの細胞とその関連因子が関与する慢性の気道炎症で、その慢性炎症は気道の過敏性を増強し、発作性の喘鳴、呼吸困難、咳を引き起こし、特に夜間や早朝に多い。これらの症状は自然に、または治療によりしばしば可逆的である気流制限によります。

* 両疾患はともに慢性の気道炎症がその病態の主体です。

 臨床上での最も大きな違いは、気流閉塞がCOPDでは非可逆的で、気管支喘息では可逆的という点です。実際の症状としてCOPDは「徐々に進行する呼吸困難」、気管支喘息は「発作性呼吸困難」という違いで表現されます。

(*注)
 
可逆的とは、気流閉塞(呼吸困難)が自然にまたは治療によりほぼ完全に改善することで、これは問診で簡単に判定できます。客観的にはピークフローメーターを用いることで分かります。(20%以上の変動があるときに可逆的であるとします。気管支喘息患者ではピークフローが早朝に低下することが多い。)

 肺気腫を有するCOPDでは、肺胞破壊に伴う異常が気管支喘息との大きな相違点です。これは、呼吸機能検査での排気量分画、拡散能検査で検出可能です。肺気腫では全排気量と残気量の増加、拡散能の低下が生じます。また高分解能CTでのLAA(low attenuation area)も非常に感度が高く気腫病変の検出に有用です。気管支喘息だけではこれらの異常は決して認められません。ただし、気道病変優位型(肺胞破壊がほとんど認められない)のCOPDではこれらの指標で異常が認められないことも多く、異常が認められないからといって、COPDを否定できません。その他に、喫煙歴、発症年齢、アレルギー歴、家族歴などが診断の参考となります。

 治療に使われる気管支拡張薬については、COPDでは抗コリン薬、気管支喘息ではβ刺激剤が第一選択薬となります。COPDで抗コリン薬が有効な理由としては、COPDではあらかじめ気道狭窄が存在するため、通常問題とならない少量の内因性アセチルコリンによって有意な気道の閉塞性障害が起こっていると考えられるからです。

 吸入ステロイドについては、抗炎症薬という点から両者に有効であると想像されますが、その効果は大きく異なります。気管支喘息での好酸球性炎症はステロイド薬によって大幅に抑制されます。一方、ステロイドはCOPDでの好酸球炎症には作用を及ぼさず、炎症性メディエーターまたは
プロテアーゼの減少も生じません。

 実際の臨床では、鑑別が困難な例、合併例が存在し診断に苦慮する場合があります。

 日本呼吸器学会ガイドラインではCOPDと気管支喘息の関係について、「気管支喘息は好酸球性気道炎症に伴う可逆的な気流閉塞を示す疾患でCOPDを含めないが、慢性化し持続的気流閉塞を示す症例ではCOPDと鑑別が困難な場合がある」としています。

 気管支喘息で、長期経口ステロイドを必要としかつコントロールが不良な重症例で、持続性の呼吸困難を来たし、気管支拡張薬に対する可逆性がほとんど認められない症例が存在します。これは気道のリモデリングにより気道の反応性が減弱したことによると考えられています。

 高齢発症の気管支喘息でかつ喫煙者でこのような経過をとる患者は、COPDとの鑑別が困難なことがあります。

 COPDと気管支喘息の違いは、気道の慢性炎症で前者が好中球、後者が好酸球が主体で、気流閉塞では不可逆的か可逆的かがポイントとなります。

 COPD患者の気腔内には好酸球とマクロファージが増加し、気道壁や肺胞壁にはマクロファージとTリンパ球の浸潤がみられます。気道壁のTリンパ球サブセットはCD8陽性細胞が有意です。

 気管支喘息患者では気腔内に好酸球が増加し、気道壁には好酸球、CD4陽性Tリンパ球(Th2型優位)マクロファージの浸潤がみられます。

 喀痰中の好酸球を調べることにより、好酸球性気道炎症の有無を簡単に調べることが出来ます。

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2002年10月1日号 No.346

 医学・薬学用語辞典(シ) 瀉血療法はこちらです。

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2005年8月15日号 No.412

  COPDについての最近の話題

*COPD                        *気管支喘息
  動くと息苦しくなる   就寝時などでも発作が起きる。
  進行性の疾患で、呼吸機能はもとに戻らない。   発作が治まれば呼吸機能は正常に戻る。


<病態によるCOPDの分類>

A型(肺気腫型);痩せ型、息切れが強く顔面紅潮し、フーフーいう

B型(慢性気管支型);咳・痰多く顔色は青く浮腫状の青ぶくれ型

 日本人の大部分は、Aの肺気腫型

 実際の診断には、スパイロメーターで1秒量(FEV 1.0)と努力性肺活量(FVC)を測定し1秒率を出したものを使います。(ピークフローメーターは太い気管支を反映し、肺の奥の疾患は分かりにくいので指標に使えません。)

 1秒量は気道閉塞の最も重要な指標となります。短時間作動型β刺激剤を吸入30分後の検査で1秒量率が70%に満たないときをCOPDと考えます。

 重症度判定には%1秒率(1秒量を年齢身長性別などで予測される1秒率で割った値)を用います。

 胸部X線や動脈血ガス分析の値は、重症になるまでほとんど正常ですが、スパイログラムは、軽症時から異常を示すので早期診断に重要な検査法として注目されています。

 従来、COPDの予後決定因子は気道閉塞とされていましたが、2004年にBODE indexが重要と海外で報告されました。

※ BODE index

 ・B :Body mass index: 体格指数(痩せ気味 or 肥満)
     体重÷身長÷身長 正常は18.5〜25未満
 ・O :airflow Obstruction:気流閉塞(気流制限)
     %-秒量(%FEV1) 正常は80%以上
 ・D :Dyspnea :息苦しさ
     修正MRC(medical research council)分類
 ・E :Exercise capacity:運動能力(耐容能)
     6分間歩行試験(6MD)

    出典:OHPニュース 2005.7


2005年8月15日号 No.412

   医薬トピックス(12)[コーラは体に悪いか?] はこちらです。


慢性閉塞性肺疾患での気道過敏性と致死率

COPD
chronic obstructive lung disease

出典:ファルマシア 2001.6

 気道過敏がCOPDによる死亡率の増加に関与
 重篤な気道過敏を有する喫煙者では死亡率は顕著


 最近の研究では、気道過敏と心血管性疾患や肺癌による死亡との間に関連は見いだされませんでしたが、気道過敏とCOPDによる死亡率との間には有意な関連がありました。

 気道過敏が重篤であればあるほどCOPDによる致死率は高く、重篤な気道過敏(ヒスタミンによる気道反応の閾値1g/1以下)の患者での致死率は46%でした。

 気道過敏性の増加に伴うCOPDによる死亡率の増加傾向は、喫煙率のない群でも認められました。しかし、すべての疾患あるいはCOPD以外の疾患による死亡率と気道過敏性の間には関連が認められませんでした。加齢や喫煙はすべての疾患による死亡率や特定の疾患、特に肺癌やCOPDによる死亡率を増加させました。さらに肺機能の指標である1秒量が80%未満という因子は、すべての疾患による死亡率、心血管系の疾患による死亡率及びCOPDによる死亡率と関連性がありました。重篤な気道過敏性を有する群では、喫煙者の方が死亡率の増加する傾向は顕著でした。

 喘息患者のほとんどが気道過敏であることが報告されていますが、31%の気道過敏の患者では、喘息症状が全く見られないことも明らかにされています。さらに、気道過敏はCOPDによる致死率の増加に関係していますが、喘息の発作歴は関係がないことも判明しています。

 気道過敏は、気道上皮、炎症性細胞、ケミカルメディエーター、及び自律神経系の刺激に対する複合的な反応で、同様なレベルの反応が違った病態生理学的反応から生じ得ます。例えば、喘息の若者ではその反応は炎症によるものかもしれませんし、高齢者の喘息患者では亢進した迷走神経の緊張によるものかもしれません。そのため、COPDに対する個別の予防や早期治療を確立するためには、気道過敏症のメカニズムがより詳細に解明される必要があります。


COPDとpulmonary cachexia

Pulmonary cachexia 

pulmonary :肺   
カヘキシー :悪液質:癌などの慢性病による不健康状態.

 COPD患者で、体重減少が多い原因は一元的ではありませんが、代謝亢進が最も重要と考えられます。

 呼吸筋の筋蛋白量の減少は呼吸筋不全を惹起し。呼吸筋不全はさらに換気効率の低下を引き起こします。これは、エネルギー代謝面から見れば、呼吸筋でのエネルギー消費量がエネルギー供給を上回っている病態と考えられます。

 COPD患者の安静時エネルギー消費量は薬1.2〜1.4倍に亢進していて、そのため蛋白・エネルギー栄養障害を引き起こし、アミノ酸インバランスと相互して、呼吸筋を含む筋蛋白量の減少を来たすこととなります。それが呼吸筋不全をさらに助長する悪循環を形成しています。

 このような病態をpulmonary cachexiaと呼ぶことが提唱されており、その対策となる栄養治療が重要視されています。

     出典:臨床と薬物治療 2003.7


Hugh-Jones分類

慢性肺疾患の重症度

 息切れの程度は、患者の訴えを主体とした段階的指標により表現されることが多く、主として呼吸器疾患症例を対象に用いられるHugh‐Jonesの分類、あるいは心疾患を対象とするNYHA(New York Heart Association)分類などが広く用いられています。


1.同年齢の健康者と同様の労作ができ、歩行、階段昇降も健康者なみにできる。

2.同年齢の健康者と同様に歩行できるが、坂道・階段は健康者なみにはできない。

3.平地でも健康者なみに歩けないが、自分のペースなら1マイル(1.6km)以上歩ける。

4.休み休みでなければ50m以上歩けない、

5.会話・着替えにも息切れがする。息切れのため外出できない。


医薬ジャーナル 2003.10 等

 

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