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ADLに影響を及ぼす薬剤

1999年7月1日号 271

  高齢者での薬物療法上の課題

   薬剤によって引き起こされる副作用が、ADL(注)に影響を及ぼす場合があります。

(注)ADL Activities of Daily Living 「日常生活行動」

 また、痴呆患者の25%が薬剤性痴呆であり、薬剤の整理で痴呆が改善されたとの報告もあり、ADLの低下している患者に関しては、状態と服用薬剤を確認し、薬剤関与の可能性をとりあえず検討してみる必要があります。

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高齢者に多い症状と、原因薬剤

1.身の回りの動作(食事、衣服の脱着、整容入浴、トイレ、移動、コミュニケーションなど

2.日常生活関連動作(手段的ADL〜洗濯、掃除調理、服薬、公共機関の利用など)

錯乱状態

催眠薬、精神安定剤、抗うつ剤、抗精神病薬、抗コリン薬(中枢作動性)、NSAIDs、レボドパ、パーロデル、糖尿病治療薬(血糖降下剤)、副腎皮質ステロイド、ジギタリス性強心配糖体、抗痙攣薬、タガメット

うつ

アルドメット、レセルピン、β遮断剤、精神安定剤、レボドパ、副腎皮質ステロイド

転倒

催眠薬、精神安定剤、抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、テグレトール、フェニトイン フェノバルビタール、ニトログリセリン、起立性低血圧を惹起しうる薬物

起立性低血圧

すべての降圧薬、利尿薬、抗狭心症薬、β遮断剤、睡眠薬、精神安定剤、抗うつ薬、抗精神病薬 抗ヒスタミン薬、レボドパ、パーロデル

便秘

コデイン(リンコデ)、麻薬性鎮痛薬、利尿薬、抗コリン薬、リスモダンR、ワソラン、アダラート、抗精神病薬、抗うつ薬

尿失禁

利尿薬、催眠薬、精神安定薬、抗精神病薬、プラゾシン、ラベタロール、β遮断剤、リチウム(多尿による)

パーキンソン病

抗精神病薬、アルドメット、レセルピン、プリンペラン、抗めまい薬

 

パーキンソン病と薬剤性パーキソニズムの鑑別

       パ:パーキンソン病      薬:薬剤性パーキソニズム

原因薬剤    パ: なし(悪化の原因にはなる)  薬: あり

病気の進行   パ:非常に緩徐           薬:比較的速い

初発症状    パ:振戦が多い           薬:歩行・運動障害が多い

振戦の性質   パ:静止時に目立ち規則的      薬:姿勢、動作で誘発・増強

筋固縮     パ:歯車様             薬:鉛管様または歯車様

運動障害    パ:無動、寡動、小歩、突進、すくみ   薬:動作の遅さと少なさが目立つ

症状の左右差  パ:初期には偏側性           薬:通常は両側性

   {参考文献}薬事 1999.6


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ロコモティブ・シンドローム
 locomotive syndrome

 骨、関節、筋肉、神経等のロコモティブオーガン(運動器)の加齢により、日常の活動に支障をきたし要介護等になってしまう危険性の高い状態のこと。

 ロコモティブ・シンドロームの主な原因疾患としては、骨粗鬆症、下肢の変形性関節症。関節炎、脊椎の変形・変性等による神経障害が3大要因と言われています。また、要介護状態の原因として、運動器障害が脳血管系疾患に次いで多いといわれており、日本整形外科学会では、運動器の健康を自己点検できるテスト法や予防法の開発・検証を行い、高齢者のみならず国民に対し、運動器医療の促進を行っています。

   出典:ENF 2009.1.25 Vol.18

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運動器症候群:ロコモ:locomotive syndorome

ロコモは2007年に日本整形外科学会で提唱された概念です。

定義:運動器の障害によって要介護状態や要介護になるリスクの高い状態

<特徴>
1.階段を上るのに手すりが必要
2.支えなしに椅子から立ち上がれない。
3.15分ほど続けて歩けない。
4.転倒への不安が大きい。
5.最近1年間に転んだことがある。
6.片足立ちで靴下が履けない。
7.横断歩道を青信号で渡りきれない。
8.家の中でつまずいたり滑ったりする。


ロコチェク(ロコモーションチェック)
※一つでも該当すれば、ロコモの心配あり
・家のややおもい仕事が困難である。
(掃除機の使用、布団の上げ下ろし)
・家の中でつまずいたり滑ったりする。
・15分くらい続けて歩けない。
・横断歩道を青信号で渡りきれない。
・階段を上がるのに手すりが必要である。
・片足立ちで靴下がはけない。
・2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。
(1リットルの牛乳パック2個程度)


 よく似たものとして「マーズ:運動器不安定症」がありますが、こちらの方は健康保険で運動器リハビリテーションの適応となる対象疾患名を意味します。一方ロコモは広く包括的な概念です。

 リスクが顕在化して診断基準を満たす状態になるとロコモではなく運動器不安定症と呼ばれます。

内科にはメタボがあり、整形外科にはロコモがあります。両者の合併が知られ、腰や膝の変形性関節症があると、メタボの診断基準を満たすオッズ比が3倍以上になるといいます。

運動器疾患が寝たきりや他疾患を引き起こし、健康寿命を下降させます。

骨や関節、靭帯、筋肉などの運動器には、適正な範囲で運動によるメカニカルストレスがかかり、刺激されねばなりません。この点から見ると、メタボもロコモも細胞の「廃用症候群」に包括されるといえます。

    出典:治療 2009.4

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*ロコモとマーズ

ロコモ:ロコモティブシンドローム(Locomotive Syndrome)運動器症候群

 主に高齢者で、運動器の障害によって「ねたきり」や「要介護」の状態になっていたり、そうなる危険性が高まった状態で、主として歩行機能が低下した状態をいいます。疾患としては、筋肉ではサルコペニア(筋肉量の減少:下記参照)、椎間板や軟骨の障害は変形性腰椎症や変形性膝関節症、骨では骨粗鬆症などが該当します。ロコモは「メタボ」や「認知症」と並び、「健康寿命の短縮」、「ねたきりや要介護状態」の3大要因の一つで、まさしく国民病であるといわれています。
マーズ:マーズMADS(Musculoskeletal Ambulation Disability Symptom Complex)運動器不安定症

 高齢者による、下肢の筋力や立位のバランスの低下によって、歩行・移動能力が落ち、転倒・骨折するリスクの高い状態をいいます。
2006年4月に3学会(日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科学会)が「運動器不安定症」を「高齢化などにより、バランス能力および移動・歩行能力が低下し、その結果、閉じこもり・転倒のリスクが高まった状態」と定義して診断基準を提案し、2006年4月より「運動器不安定症」と病名が保険診療として承認されました。

<ロコモの原因>

 運動器の障害には、「運動器自体の疾患」と「加齢による運動器機能不全」があります。
1)運動器自体の疾患(筋骨格運動器系)
加齢に伴う、運動器疾患。たとえば、変形性関節症、骨粗鬆症に伴う円背・易骨折性、関節リウマチに伴う痛み・筋力低下・麻痺・骨折、などで、これらによってバランス能力と体力・移動能力などの低下をきたします。
2)加齢による運動器機能不全 
 筋力低下、持久力の低下、反応時間の延長、運動速度の低下、など加齢により身体機能の低下をきたします。

<ロコモとマーズの関係>

 ロコモは歩行機能の低下した状態、マーズは転倒のリスクの高い状態です。ロコモは、いわゆる予備軍から要介護・寝たきりの状態まで含みますが、このうち、重症の人は、転倒・骨折するリスクのより高い状態であるマーズであることが大半です。
マーズはロコモに含まれる、より転倒リスクの高い進んだ状態です。したがって、マーズはロコモのなかの一部の人が該当することになり、これがさらに進むと要介護・寝たきりの状態に達することになります。

<ロコモの自己点検(ロコチェック)と自己対策(ロコトレ)>

 ロコモの予防には早期発見が重要であるため、まず自分で気づくことが大切であるとの観点から、日本整形外科学会は2009年に、自分で点検できるロコモの自己点検法(ロコモーションチェック:ロコチェック)を発表しました。項目の一つでも該当すればロコモの疑いありとして、専門医による診察を受けることが推奨されています。診断は、運動器障害があるか、歩行障害があるかの2面から行い、歩行障害の程度によって重症度を判定します。
日本整形外科学会では、ロコチェックとともにロコモ対策の基本は運動器局所の治療と歩行機能全体の維持改善の2つであるという観点から転倒予防、骨折予防などのために行う自己対策法(ロコモーショントレーニング:ロコトレ)を発表しました。


   {参考文献}大阪府薬雑誌 Vol.62 No.2(2011)

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サルコペニア(骨格筋減少症、筋肉減少症)の定義
  狭義:加齢に伴う筋肉量の低下
  広義:すべての原因による筋肉量と筋力の低下

 筋肉量のピークは20歳代後半〜30歳頃で、以降は加齢に伴い筋肉量は低下していきます。80歳になると、ピーク時の5〜7割程度の筋肉量になる。

 広義のサルコペニアでは、原因を(1)原発性である加齢によるもの、二次性である(2)活動(ベッド上安静などによる廃用性筋萎縮)、(3)疾患(侵襲、悪液質、神経筋疾患など)、(4)栄養(飢餓)の4つに分類できます。


 サルコペニアへの対応は、原因によって異なります、原発性サルコペニアの場合、筋力トレーニングが最も有効です。活動に関連したサルコペニアの場合、不要な安静や禁食を避けて、指趾体幹や嚥下の筋肉量を低下させないことが最も重要です。

 疾患に関連したサルコペニアの場合、原疾患の治療が最も重要です。同時に飢餓予防の栄養管理と低負荷の運動療法を行います。原疾患が改善したら、機能改善目的のリハビリテーションと栄養管理を行います。悪液質の場合、n3脂肪酸(エイコサペンタエン酸)の内服を検討します。

 栄養に関連したサルコペニアの場合、適切な栄養管理が必要です。高齢者の体重を1kg増やすには8,800〜22,300kcalが必要で、若年者と比較して栄養改善に時間がかかります。
            出典:薬事 2011.4


ランダム化について

バイアス(7) 参考文献 JJSHP 1999.6  医薬品ジャーナル1999.2 11; 11;

 ランダムというのは「でたらめ」ということです。でたらめにするというのは、簡単そうで案外難しいことです。例えば、でたらめに1から10までの数字をならべるという作業をすると、何回かやるうちにその人独自のくせがでます。また、さっきやったのと同じだと頭の中で修正したりします。

人間の頭でやるかぎり完全にでたらめということは無理なのかもしれません。これらがバイアスにつながります。

「ランダム化比較試験:RCT」とは、被験者をランダム割付を用いて医学的介入を行う群と、比較対照群に分け評価を行う臨床試験です。この方法が医学的介入が最も適正に評価される方法です。

ランダム割付は被験者を試験のそれぞれの群に割り付ける際に、乱数表やコンピュータで発生させたランダムな順序を用います。このようにして、治験(臨床試験)を行う際にバイアスを排除していくのが、EBM、つまり最新の科学的根拠に基づく医療です。

 バイアスは「思いこみ」とも訳すことができます。知らず知らずのうちに「この患者はああだから、こうだから」と余計なことを考えたりします。それが統計データを狂わせます。

 ここで誤解が生じるのですが、これは臨床試験の方法であり、もう一つの科学である個別医療とは矛盾する側面をEBMは持っていることを見逃してはなりません。

「目の前にいる一人の患者にとって最も良い方法は何か? ああだ、こうだ、、」と考えることが個別医療です。それが、患者さんにとって望ましい姿です。

 今までの治験では、ランダム化する際に生年月日や、カルテ番号などをもとに人間が割り付けしていたようです。作為なく複数群に分けたというだけでは、本当のランダム割付とはいえません。人間がやることと機械(コンピュータ)がやるべきことを きっちり割り振るということがこれからの医療にとって重要なポイントとなると筆者は思います。

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閉じこもり症候群(高齢者の)

出典:治療 2001.9

 高齢者は脳血管障害や骨折など様々な障害によってADLが低下しますが、身体的障害だけでなく心理的あるいは社会的障害も加わって、活動範囲が自宅に限られている状態を「閉じこもり」と呼びます。

 閉じこもりは高齢者のおよそ10%にみられますので、廃用症候群(下記)から寝たきりへと至りやすい状態です。

<定義>

 明確な定義は定まっていませんが、一般には「1日のほとんどを家の中あるいはその周辺で過ごし、日常の生活行動範囲がきわめて縮小した状態」を指します。

 また、生活行動の活動性が低い生活像のうち移動能力が低い場合を「閉じこめられ」、高い場合を(狭義の)「閉じこもり」と呼ぶ場合もあります。

 欧米では、閉じこもりに相応する言葉として“housebound”、または“homebound”がありますが、その定義についてはまだ一定していません。

廃用症候群

 不活動状態により生じる二次的障害による全般的な機能低下
閉じこもりから高齢者の活動性が低下すると身体機能の衰えも加速し、廃用症候群が生じやすくなります。そして老いや障害を一層自覚することになり、日常生活での活動性がさらに減少して閉じこもりを助長するという悪循環が寝たきりにつながってしまいます。
 


BPSD
behavioral and psychological symptoms of dementia
行為      精神的な   徴候,症状  痴呆


 痴呆症の精神症状・異常行動は随伴症状として中核症状である認知障害と従来切り離して考えられてきましたが、近年国際老年精神医学会が中心となって、BPSDという概念が提唱されました。

 BPSDは必ずしも認知障害に付随して起こる二次的障害ではないとの理解に基づく概念です。

MCI
mild cognitive impairment
   認知   を害する,そこなう

 痴呆と正常の中間状態として近年提唱されている概念
 明らかな記憶障害が認められますが、記憶以外の高次脳機能を保たれ、かつ日常生活にも問題が見られない状態。最近では、痴呆の前段階としてとらえる傾向にあります。

1.主に周囲の者により気づかれる記憶障害の訴え。
自覚的な記憶障害の訴えがあり、家族によってそれが確認される。(記憶に関して障害のあることを示す訴えがある。但し情報提供者に確認することが望ましい。)
2.客観的な記憶障害の証拠があること。
3.一般的な認知機能は正常範囲であること。
運転や家計などの日常生活能力は保たれている。
4.日常生活には問題がないこと。
記憶以外の全般的な認知機能は正常
5.痴呆の診断基準にあてはまらないこと。

6.年齢に比し記憶力が低下している。

      関連記事 認知症についての最近の知見もごらんください。

              出典:Medicament News 2003.5.15 等


PEM
protein energy malnutrition
蛋白質・エネルギー低栄養状態

出典:治療 2001.9

 ケアの対照者となる高齢者の最大の栄養問題は、PEMです。

 PEMは、生体で蛋白質とエネルギーが不足した状態で、その具体的なリスク要因としては、口腔・嚥下、視覚、味覚、消化・吸収、身体活動、食事自立などの機能低下、習慣的な治療食摂取、癌、感染症、甲状腺機能亢進(低下)症、慢性の呼吸器疾患、吸収不全、糖尿病性腎症、エネルギー消費量が亢進する腫瘍や褥瘡などの疾患、鬱(うつ)、痴呆などの精神的問題も挙げられています。

 さらにケア現場での高齢者では、1)一律に栄養所要量を基準に算出された給食が、必ずしも個々の必要量を満たしていない。2)消化・吸収機能の低下による利用効率が考慮されていない。3)医薬品との関連が考慮されていないなどが原因と考えられています。

<嚥下障害とPEM>

 嚥下障害に陥ると、食事摂取障害やPEMに陥り易くなり、しかも免疫機能の低下により感染症のリスクが増大し、呼吸筋の低下した患者では肺炎の発症リスクが更に高くなります。またPEMが長引くと、筋肉や神経機能の低下から嚥下障害を悪化させることも推測されます。


 

 

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