飲食物と医薬品の相互作用
1990年5月15日号 No.65
医薬品と飲食物の相互作用については、「納豆とワーファリン錠」が代表的で添付文書にもその旨記載されています。しかし、添付文書に記載されていないものでも、食事が医薬品と相互作用を引き起こすことは十分に考えられます。
{参考文献}日本薬剤師会雑誌 1990.4 |
<牛乳>
牛乳の飲用で吸収が低下する薬剤
ケフラール、鉄剤〜吸収率が著しく低下
テトラサイクリン系(ミノマイシン等)〜吸収率約65%抑制w)牛乳の飲用で吸収が増強
チガソン〜約20%増加
グリセオフルビン〜約3倍増加
その他、牛乳と薬物との関係では、牛乳のpHが6.4〜6.8とされることから、腸溶
錠の場合、牛乳中で剤皮が溶解する恐れがあります。
<イソニアジド>
イソニアジドにはモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用があり、チラミン、ドパミン、ノル
エピネフリン等のカテコールアミンを代表する内因性及び外因性アミンの上昇が起こりま
す。
チラミンはチーズ等に大量に含まれており、イソニアジドとの相互作用により、発汗、動悸、上腹部痛、頭痛、血圧上昇、悪心、嘔吐等の症状が発現する可能性があります。(チーズ効果参照)
{高蛋白食と薬剤}
インデラル〜高蛋白食摂取時、血中濃度のピークはほぼ2倍
サロベール錠〜薬物動態に摂取した蛋白質量による違いがあります。
栄養不良患者、蛋白制限患者では再吸収が亢進し、蓄積が予想されます。
テオフィリン〜高蛋白食により代謝が促進
半減期が35〜40%短くなります。
アルドメット錠、レボドパ〜吸収が阻害されて治療効果が減弱するとの報告があります。
~~~~~~~~~2006.12追加記事~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
食事と薬 (2)
空腹時に多量の水で飲むと、多く薬は薬効を最大限に発揮できるとされています。特に鎮痛剤や抗菌薬のエリスロマイシン、ペニシリン、アジスロマイシン、セファロスポリン、スルホンアミド系抗菌薬がこれに当てはまります。
胃酸で溶けないようにした錠剤以外は、薬物は胃内に滞留する時間が長すぎると胃酸により分解されてしまいます。
*紅茶に注意
紅茶に含まれるタンニンは、塩酸イミプラミン、塩酸マプロチリン、塩酸クロミプラミンなど多くの抗精神病薬と結合する性質があります。服用との間隔を3時間あける必要があります。
*テオフィリン
テオフィリンの血中濃度は炭水化物食で30%上昇する可能性があり、逆に高蛋白質食であれば、30%低下します。
剤型に関係なく、グリル調理で発生する多環性炭水化物や喫煙により、発生する多環性炭化水素や喫煙により、薬物代謝酵素が誘導され、テオフィリンの代謝が亢進する可能性があります。
*レボドパ
レボドパの吸収も蛋白質により阻害され、炭水化物で亢進されるため、食事との間隔を3時間あける必要があります。
*高脂肪食で薬効が高まる薬剤
(β遮断剤)塩酸プルプラノロール、メトプロロール、塩酸ラベタロール、ジアゼパム
*スピロノラクトン、ヒドロクロロチアジド、ロバスタチンが胃内に食物が停留している時間が延長すれば、それだけ吸収率が上昇するため、食後に服用するの良いとされてます。
*薬効は薬剤服用時に飲む水の量に影響を受け、例えばアスピリンでは、空腹時に500mgを250mlの水と服用すると、薬効が最大限かつ迅速に発揮されるが、25mlの水では薬効は明らかに減少し、食事中に服用した場合も50%以下に低下するとのことです。
出典:メディカル・トリビューン 2005.8.25 ドイツ;ハンブルグ Erika Finek薬剤師会長
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<<ワーファリン錠と食物の相互作用>>
納豆〜トロンボテスト値は明らかに上昇。禁忌
緑黄野菜〜納豆と同様にビタミンKが多量に含まれています。特にブロッコリーや花キャベツを多量に摂取した場合相互作用が発現した事例が報告されています。
アルコール〜飲酒により作用が増強する。また慢性アルコール中毒の患者には慎重与薬として添付文書に記載されています。
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チーズ効果
出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.5
チーズ効果とは、チーズに含まれているチラミンによって起こる昇圧作用のことです。チラミンは交感神経末端でノルエピネフリンと置換することにより、ノルエピネフリンを放出し血管収縮を惹起します。
この言葉は、1960年代にMAO阻害薬を服用している患者で、チラミン含有量の高い食物を摂取後に異常に血圧が上がったことから始まっています。
MAOには、A型とB型があり、A型は小腸壁に多く分布しチラミン等のモノアミン(MAO)を代謝し、B型は脳内に多く分布しドパミン等のモノアミンを代謝します。
通常はチラミンを多く含む食品を摂取しても小腸壁のMAO-Aにより代謝されるので問題はありません。しかし、非選択的MAO阻害薬、チラミン類との併用により高濃度のチラミンが血中に入り、異常昇圧を引き起こします。
塩酸セレギリン(商品名:エフピー;抗パーキンソン病剤)は選択的MAO-B阻害薬で、高用量でないとチーズ効果の問題はありませんが、非選択的MAO阻害剤では、チラミン含有量の高い食品の過剰摂取に注意が必要となります。
<バナナとの薬物相互作用>
バナナにはモノアミンが含まれ、バナナとMAO阻害作用を持つ薬剤との相互作用の報告が数件有ります。
バナナに含まれるDOPA、5ヒドロキシトリプトファンなどのモノアミンの不活性化が薬剤によって阻害され、体内でノルアドレナリンやセロトニンの蓄積が起こり、血圧上昇、頭痛などの症状が発現すると考えられています。
現在添付文書に具体的に記載している薬剤は、エフピー錠(塩酸セレギリン)のみです。
薬剤と食物との相互作用
昭和62年12月15日号 No.13
内服する薬剤と食物は、時として大きく影響しあうことがあります。
例えば、「納豆」とワーファリンがその代表的なものです。
納豆菌は、人の腸管内でビタミンKを合成する能力を持っています。一方、ワーファリンはビタミンK依存性血液凝固因子(プロトロンビン等)の生合成を抑制して抗凝血作用を現す薬剤です。したがってこの組合せは、相反しワーファリンを服用している心筋拘束症や、脳血栓症などの患者は納豆を避けた方が良いとされています。
<ワーファリンの添付文書より>
「次の食物の摂取により本剤の作用が減弱することがある。〜納豆」
<その他の例>
報告として、カルシウム拮抗剤のニフェジピン(アダラート)は、空腹時に服用したとき血中濃度が最大となり、低脂肪食を摂取した場合に低い値を示した例があります。
その考察とて、低脂肪食の場合、ニフェジピンの吸収の速度は遅いが、吸収の割合そのものには変化が無い可能性もあり、このことから、ニフェジピン特有の副作用であるa顔面紅潮や頭痛などを減らす目的で、食物を摂取してから服用した方が良い場合があります。
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昭和62年12月15日号 No.13 血液凝固因子はこちらです。
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<追加記事>
炭焼きビーフ 薬の解毒促進から薬理効果がダウン
炭焼きした食品あるいはスモーク処理した食物には多環芳香族炭化水素が含まれていて、また食物によってその種類も相違することが知られています。この多環芳香族炭化水素が薬物代謝に影響することが明らかになっています。
炭焼きした食物、特に牛肉(ビーフ)の摂取が、薬物の体内動態に影響を及ぼすことが報告されています。炭焼きビーフを数日間続けて食べた場合、薬物代謝能が強く誘導されます。例えば、フェナセチンのバイオアバイラビリティが大きく低下したとの報告があります。
最近の研究では、炭焼きビーフはCYP1Aを誘導しますが、CYP3A4とP糖蛋白質は誘導しません。
CYP1Aにより代謝される薬物として、
カフェイン、アナフラニール、トフラニール、メキシチール、ルジオミール、ナイキサン、シプロキサン、プロノン、インデラル、アナペイン、ワーファリンなどが知られていますが、現時点で炭焼きビーフの影響に関する報告は出ていません。
実際には、炭焼きビーフを4〜7日間連続して大量に食べたりしない限り、大きな問題になることはないと思われます。しかし、1回の炭焼きビーフの摂取によって薬物動態がどの程度影響を受けるかは現在のところ不明ですので、一応注意しておく必要はあります。
出典:医薬ジャーナル 2003.4
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<手巻き寿司でINRが低下した症例>
ワーファリン錠でINRを2.5〜3.5の治療域に保たれていたのが、1.2に低下。
尋ねてみると、手巻き寿司を食べたとの事。
海苔(のり)には意外と多くビタミンKが含まれています。納豆と同じように、ワーファリン錠服用中は海苔を大量に食べることはひかえてもらいましょう。
出典:薬局 2006.7
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H2ブロッカーとビタミン
H2受容体拮抗薬(ブロッカー)やプロトンポンプ阻害剤(PPI)は、胃酸分泌を抑制するため、食物中で蛋白質に結合しているビタミンB12(シアノコバラミン)の遊離を低下させ、結果的にその消化管吸収を低下させる可能性があります。
特にこれらの薬を長期間継続して服用している患者では、ビタミンB12欠乏が発現する可能性が高くなります。
これらの薬剤を4年間以上服用している患者では、ビタミンB12レベルをモニターすべきと考えられます。
出典:医薬ジャーナル 2004.5
食事と薬物効果
朝食を抜いた場合の影響
2000年12月1日号 No.304
食事を抜いた場合、生理的および物理的条件として胃内pH、薬物溶解性、消化液や胆汁分泌の量、消化管運動性、吸収部位特異性、消化管透過性、肝臓の初回通過効果などが通常と異なってきます。
初回通過効果の著しい薬は、空腹時の方が、その効果を大きく受け、血中薬物濃度は低下します。
{参考文献}臨床と薬物治療 2000.9
最近、朝食を抜く人が増えていますが、これは薬を服用している人にとっては要注意です。例えば、糖尿病薬では朝食を抜いた場合、低血糖症状が現れる危険性が高くなるため、服用してはならないとされています。
糖尿病以外の薬でも、水溶性薬剤は水と服用することで吸収が高まり、脂溶性薬剤は胆汁の分泌が増えないために吸収が低下します。また、薬の胃排出時間は早くなり、小腸上部までの到達時間も短縮され薬の吸収量は減る傾向にあります。
このように食事を抜くことによって薬物動態が変わり、薬効も影響を受けることになります。食事を抜いた場合の影響を考慮して薬剤を大きく分類すると、次の2つが考えられます。
1.空腹時に服用すると薬物の効果が減弱するもの(当院採用分のみ記載)
吸収低下:スパラ錠、メイアクト錠、バナン錠、テノーミン錠、エパデール、
イトリゾール、インフリー、アルダクトンA錠、セルベックス、メバロチン錠
エパデール、イトリゾール、インフリーなどはいずれも脂溶性の高い薬ですが、これらの薬は胆汁の分泌されない空腹時にはほとんど吸収されず、薬効を発揮しないことが報告されています。朝食を抜くことにより、きわめて大きな影響を受ける薬です。
初回通過効果による血中濃度低下:アスピリン、イソメニール、セロケン、ペンタジン(ソセゴン)
2.空腹時に服用すると副作用の増大するもの
吸収増加:サワシリン、クラビット、シプロキサン、ケフラール、
セフゾン、ルリッド錠、タナトリル、テオドール、デタントールR
悪心、嘔吐:コスパノン、パーロデル、メリスロン、ペルマックス
胃腸障害:フェロミア錠、アンコチル、アスピリン、ボルタレン・SR等のNSAIDs全般
発赤・紅潮:ペリシッド
朝食が取れない場合は、牛乳を飲むと牛乳がバリアとなってNSAIDsが直接粘膜に作用せず、副作用が防げます。だだし、牛乳で影響を受ける薬もあります。
<牛乳で影響を受ける薬>
吸収低下:フェロミア、インクレミン、ミノマイシン
吸収増大:チガソン〜牛乳で服用すると、水と比較して吸収が260%増加
:エリスロマイシン、グリセオフルビン
逆に、パーロデル錠、ペルマックス錠等では、急激な吸収上昇を牛乳などで抑えて服用することがあります。
その他、牛乳と薬物との関係では、牛乳のpHが6.4〜6.8とされることから、腸溶錠の場合、牛乳中で剤皮が溶解する恐れがあります。
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コーラと薬物
イトリゾール(イトラコナゾール)やケトコナゾールは、通常、水にほとんど溶解しない薬剤です。
酸性の胃内で可溶性の塩酸塩に変換されます。従って、胃酸分泌が低下している患者、胃内pHを上昇させる薬剤を服用している患者では、溶解が低下して吸収が低下することになります。
コーラ(pH2.5)のようなpHを低下させる飲み物によって吸収は改善し、血中濃度の上昇が期待できます。
コカコーラ・クラシックやペプシコーラのみがpH2.5で、他のダイエットコーラはそれ以上にpHは高く(3.2)なっています。7UPはpH3.3
出典:薬局 2001.12 関連項目 ニコチンガムとコーラ
<テグレトール錠とコーラ>
テグレトール錠をコーラで服用した場合、水で服用したときよりもCmax(最高血中濃度)とAUC(血中濃度面積)は28%大きかったとの報告があります。コーラはテグレトール錠の吸収率と量を増加させるとみられています。
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2005年8月15日号 No.412 医薬品トピックス(12)
コーラは体に悪いか?
コーラの栄養上の問題とされているのは、
1.砂糖を多量に含む
35g/350ml、これは140kcalに相当
20〜30g/日までなら問題無いとされていますが、実際に日本人が摂取しているのはほとんど加工食品からで平均57.7g/日にも達しています。又、糖質をとりすぎる時の留意点はビタミンB1不足になりやすいので注意が必要です。
2.リンの摂り過ぎによるCa代謝への影響
リンを摂り過ぎるとCa吸収を阻害してCa欠乏を起こします。リンの1日摂取量が2000mgを超えると危険と言われています。コーラ1本中にリンは50mg含有ですので、成長期の小児にとって骨の発育を抑制する危険がないとは言えませんが、あくまで過度の摂取が問題で少量でも毒性を持つといった心配はほとん
どありません。むしろリンを多く含む加工食品中心の食生活が問題です。
3.カフェインが含まれている
コカコーラに含まれるカフェイン量は、46mg/335ml。
0.5〜1gの多量のカフェインをとるにはかなりの本数飲む必要があります。
4.酸性飲料で体液が酸性になる。又、コーラに錆びた金属を入れると錆びが落ちるので怖い気がする。
体液は酸性飲料を摂った事で酸性になることはありません。又、金属がきれいになるのは、食酢などの酸性溶液でも言える事です。
結局「栄養学的に見れば欠点のある嗜好品ですが、コーラを飲まなければすべての問題が解決されるわけではなく、すべての食品は薬にも毒にもなる。」というのが結論です。
出典:日本医事新報(日付不明) 等
2005年追記
コーラが結石形成に関与することが分かりました。
コーラほどではありませんが、他の清涼飲料水でも同様です。ただし、腎結石についてはコーラだけが危険因子になるといわれています。
コーラを毎日1日4.5L飲んだ症例(ドイツ):尿中のNa、Ca,PO4、CL値が上昇、クエン酸値は極めて低値で、pHは異常値。コーラを控えると1週間以内に数値は改善 (出典:Medical Tribune 2005.6.23)
遺伝子と糖尿病(2)
{参考文献}臨床と薬物治療 2000.8
従来2型糖尿病の成因を遺伝子レベルで研究する手法としては、大別して2種類のアプローチが取られてきました。候補遺伝子はアプローチと連鎖解析を用いる方法です。
1.候補遺伝子解析
2型糖尿病については、糖代謝に関与するあらゆる遺伝子、すなわちインスリン分泌機構、インスリン作用機構さらにはこれらを修飾する分子をコードする遺伝子などのすべてが糖尿病発症に関与する“候補遺伝子”となりうるため、数多くの遺伝子について遺伝子変異・多型のスクリーニング、ケースコントロールスタディによる相関解析が行われました。
このようなアプローチによって、1990年代前半には単一遺伝子により発症する2型糖尿病の原因遺伝子としていくつかの分子の役割が明らかになりました。具体的には、インスリン、インスリン受容体、グルコキナーゼ、ミトコンドリア遺伝子があげられます。
2.連鎖解析
一方、“候補遺伝子解析”とは対照的に、純粋に遺伝学的な理論的手法により、同一家系内での糖尿病発症と染色体上の遺伝子マーカーとの連鎖解析に基づいて機能の未知な遺伝子を疾患感受性遺伝子として追跡する手法、すなわち連鎖解析を用いる方法でも糖尿病遺伝子へのアプローチが続けられてきました。
連鎖解析によりたどり着いた疾患責任遺伝子の素性はそもそも未知であることが多く、当該遺伝子のクローニングが先行して行われ、その後その遺伝子の機能を解析するという順になります。さらに、連鎖解析を用いて未知の遺伝子を解析する方法は、単一遺伝子による疾患に用いられるパラメトリック法と、多因子疾患に用いられるノン・パラメトリック法の2種類に大別されます。
パラメトリック法を用いる場合は、単一遺伝子の異常による糖尿病が想定されており、この場合比較的均一で特徴的な表現型を示す2型糖尿病のサブグループと大家系が必要となります。
遺伝学的背景を明らかにする上では、連鎖解析を用いる方法の中でもノン・パラメトリックな方法、とくに罹患同胞対(affected
sib pair analysis)が有効であると考えられました。これは同胞(兄弟姉妹)発症家系家族を多数集めて、患者同胞が共有している対立遺伝子を見出す手法です。これはすべての染色体上の座位についてシステマティックに検討する方法(ゲノムワイド解析)で、遺伝形式の明らかでない疾患にも用いることが可能です。原因遺伝子の数を考慮する必要がなく、患者の大家系を必要としない等の利点があります。
これらの研究により、連鎖解析の手法が十分に生かされた未知の糖尿病遺伝子(MODY1〜5など)が次々と同定され、さらに転写因子の異常により糖尿病が発症しうるという重要な事実が明らかとなりました。
(次号に続く)
ワーファリン錠について改めて考える。
2006年7月15日号 433
ワーファリン錠は心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓などの血栓症を防ぐことのできる非常に効果的な薬です。
しかし、ワーファリン錠は適正用量の個体間変動が大きく、薬物間相互作用、食事や体調の変化、薬物投与、サプリメントの摂取などによる影響を受けやすく、その管理が極めて重要です。
<ワーファリンのモニタリング>
ワーファリン錠には優れたモニタリングの指標があります。凝固機能検査値として使用されていたトロンボテスト(TT)やプロトロンビン時間(PT)に代わって、施設間ごとのバラツキが小さく信頼度が高いとされるPT−INR(国際標準比INR)が主流になりつつあります。
国際的にはPT−INRが3.0を超えると出血リスクが増加し、2.0未満だと血栓塞栓性合併症の頻度が急増するとされています。
僧帽弁では大動脈弁に比べて血流量が少ないため、僧帽弁置換では大動脈弁置換よりも約2倍、塞栓発症率が高く、INRを2.5〜3.5の高めにコントロールします。また十分な抗凝固療法にもかかわらず塞栓症が再発しやすい症例でも、INRを2.5〜3.5の高めにコントロールします。
「脳卒中治療ガイドライン」では通常はINR2.0〜3.0とし、高齢者の心房細動のみ1.6〜2.6と低めにコントロールすることが推奨されています。
<INR変動要因>
病態の変化、食事の変化、他の薬物(処方薬、OTC薬、サプリメント)の併用、運動量、体調の変化などがINRに影響します。 さらにハーブ茶、多量の飲酒、旅行、環境、健康状態も食事摂取量の変化を介してINRに影響します。
*いつ飲むか?
ワーファリン錠は半減期が長いため、1日1回でよいのですが、服用3〜8時間後のINRは不正確であるため、午前中に受診した外来患者のINRは信用できかねます。もし正確なINR値を得たいのであれば、夕食後に服用するようにしておきます。そうしておけば、もし用量を変更した場合でもその日の夕から変更可能です。
*緑色野菜は禁止すべきか?
緑色野菜には豊富なビタミンKが含まれていますが、一度に大量摂取するのではなく、一定量をコンスタントに食べているのなら問題はありません。
納豆、クロレラは含量が一定していないため、摂取を禁止すべきとされています。
総合ビタミン剤にビタミンKが含まれていても毎日忘れずに一定量を飲んでいるのなら禁止する必要はありません。
*術前は4日前に中止
脳梗塞・脳塞栓の既往、致死性の肺塞栓症、僧帽弁置換症例ではワーファリン錠中止後、ヘパリンを使用する必要があります。
朝手術であれば、夕よりワーファリン錠を再開してもかまいません。
手術48時間前にビタミンK1(内服or皮下)を使用する方法もあります。
{参考文献}薬局 2006.6
ワーファリン錠服用中の患者さんへのチェック
1.食事 2.運動量 3.薬(他院、OTC薬、サプリメント)に変化はありませんか?
4.ワーファリン錠の飲み忘れはありませんか?
5.青あざや出血はありませんか?
<NST関連用語解説> PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術はこちらです。
ワーファリン抵抗性
ワーファリン錠を服用してもINRが上昇しない患者さんがいます。このようにワーファリン錠に対する治療効果の反応が鈍い状態は、ワーファリン抵抗性と呼ばれていて、以下のような要因が考えられています。
・薬物動態の不良
吸収不良〜コレスチラミン、様々な吸収性疾患
代謝亢進〜フェノバルビタール、テグレトール錠、エタノール、グリセオフルビン
RFP
排泄亢進〜フェノバルビタール、RFP
体内分布の異常〜アスピリンの蛋白結合率への影響など
・薬力学の異常
ビタミンK過剰摂取〜納豆、クロレラ、青汁など
血液凝固因子量の増加〜蛋白同化ステロイド
遺伝的ワーファリン耐性〜ビタミンKエポキシドリダクターゼ(VKOR)の変異型(VKORC1)
入院中にコントロール良好な患者が、退院後にコントロール不良となる場合は、コンプライアンス不良、ビタミンK過剰摂取、あるいは薬物相互作用が考えられます。
先天的・遺伝的ワーファリン抵抗性の患者は、極めて少なく(1964〜1995年まで9例のみ)、臨床では、ワーファリン錠1日9mg異常要する患者で上記の原因が除外された場合に先天的・遺伝的な要因を疑います。
このような患者への加療方法は確立していませんので、ワーファリン錠の増量、ワーファリン錠作用増強剤としてのアスピリンなどの併用、ヘパリン静注/皮下、および低分子ヘパリンのエノキサパリン皮下注での対応が行われています。
出典:薬局 2008.10