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1996年10月15日号 186

ニコチン依存と禁煙指導

ニコチン置換療法とは?

NRT:nicotin replacement therapy

 

 世界保険機構(WHO)はすでに1975年、先進工業国では、喫煙を抑制することはどのような予防医学よりも延命効果がある、健康状態の改善に役立つとしています。

 欧米では、喫煙をアルコール依存症や麻薬常習と同様に、たばこ依存症という疾患とみなしています。
 喫煙の依存性は社会的、心理的依存と薬理的依存の2つのタイプに分けられていますが、両タイプの相互作用は微妙であり、複雑にからみあっています。
 たばこ依存を薬理的に促進する物質はニコチンで、約10秒でニコチンが脳に到達し、A10神経(快楽中枢)賦活により、多幸感を引き起こし、繰り返されることでニコチン依存が形成されます。

   {参考文献}大阪府薬雑誌  No.10 1995

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’ 喫煙者を対象としたいくつかの研究では、多くの人は血液中のニコチン濃度が比較的均等に保てるように喫煙速度を調節する傾向があります。喫煙習慣を打ち破るために非常に多くの心理的手段が試みられました。大抵の場合これらは長期間を必要とし、費用も多額となっています。

 いままで、禁煙は主として社会的、心理的依存の解消に注目が集まり、薬理的依存は重視されていませんでした。

 最近、チューインガム製剤であるニコレットを用いることにより、薬理的依存についても治療が可能になってきました。ニコレットはニコチン摂取量を漸現しながら離脱症状の発現を抑えつつ最終的に離脱させるニコチン置換法です。

◎ニコレットは当院では扱っていません。

*ニコチン依存症診断基準 (米国精神医学DMSー3R)

   少なくとも1ヵ月のたばこ継続経験があり、

 1.長期禁煙や節煙が不可能
 2.喫煙中止時に退薬症候が発現
 3.たばこ使用による身体疾患の存在下でもその使用を続けること。

  以上のうち少なくとも1つを満たすこと。


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2001年追加記事

 ニコチンガムが禁煙補助剤として有効なのは、に喫煙が薬物依存としての特徴をもっていることにあります。ニコチンガムによる治療は、この薬物依存症の治療法のなかの置換療法に相当します。

 置換療法とは、依存している薬物を類似の薬理作用をもつ薬物へ管理下で置き換え、その後置き換えた薬物を徐々に減らし、最終的には中止していく方法です。置換療法の先輩格として、モルヒネ型依存症に対するメサドン、アルコール依存症し対するベンゾジアゼピン系薬物などがあります。同様の観点からニコチン依存に対してニコチンガムが開発されました。

NRT最近の知見

 ニコチン依存症の愁訴は「やめようと思ってもやめられない」ことにあり、これは薬物依存に共通する現象です。「自分なりに禁煙を試みて長期的な成功をおさめているのは約7%に過ぎませんが、きちんと治療すれば15〜30%に増加する」といわています。これは主として米国での現況です。我が国では喫煙にかかわる社会環境的側面をはじめとしていろいろな違いがあります。米国では抗うつ薬であるbupropionやニコチン製剤としてのガム、パッチのほか吸入や鼻粘膜スプレー製剤まで認可され、ガムとパッチはすでにOTC薬となっています。

 出典:日本薬剤師会雑誌 2001.6

関連項目:禁煙ガム:ニコレット  / 禁煙補助薬「ニコチネルTTS」


ニコチン含有パッチ製剤   注:2001年の記事です。2006年保険適応となっています。

 自由診療に当たりますので、価格(検査、処方箋発行料金など)は文字通り自由ですが、基本的には保健診療に準ずる価格となるはずです。

 禁煙補助薬「ニコチネルTTS」のご使用に際して

―注意事項―

「ニコチネルTTS」は禁煙の目的でニコチンを経皮吸収させるために開発されたニコチン含有パッチ(貼付)製剤です(禁煙補助剤)。
この製品は要指示薬品ではありますが薬価には収載されず、保険適用外となっています。 これまでにも同様の目的で「ニコレット」(ニコチンガム)が発売されていますが、これも同様の取扱で保険適用外となっています。
「ニコチネルTTS」は院内では保有せず、全て院外処方での対応となっています。

ニコチネルTTSご使用に際しての注意事項
1) 自由診療での取り扱い
・ 原則として診療録(カルテ)や処方箋は保険診療分とは別に作成して下さい。
ニコチネルTTSは薬価基準に収載されない保険適用外医薬品です。従ってこの医薬品を処方するには保険診療との混合診療を避けるために必要な措置となります。

2) (自由)処方箋の発行
・ ニコチネルTTSの使用には処方箋が必要です
 ニコチネルTTSは要指示薬品です。従ってこれを交付するには指示箋あるいは処方箋の発行が必要とな

・ 含有量別に3種類の製品があります:30mg、20mg、10mg/1枚
・ 指導が重要
 貼付すれば自然に禁煙ができる製剤ではありません。禁煙への指導と「ニコチネルTTS」使用方法の指導が重要です。
・ 標準使用スケジュール

禁煙開始から4週間「ニコチネルTTS30mg」1日1枚を貼付
その後2週間「ニコチネルTTS20mg」1日1枚を貼付
その後2週間「ニコチネルTTS10mg」1日1枚を貼付
・貼付場所は「上腕部」、「腹部」、「腰背部」です

・ 自由診療となれば価格は自由に付けられるのですが標準的には次のようになりま
す。(薬局によって若干の違いはあると思われます)
ニコチネルTTS30mg:1枚430円
ニコチネルTTS20mg:1枚400円
ニコチネルTTS10mg:1枚380円
* 標準使用スケジュールに当てはめて計算すると約22,960円となります。


禁煙ガム

ニコレット(94年7月薬価基準収載、発売、保険適用外)


◇効能・効果◇

 循環器、呼吸器、消化器疾患などを基礎疾患に持ち、医師により禁煙が必要とされた喫煙者が医師の指導の下に行う禁煙の補助

◇用法および用量◇

 禁煙欲求が生じた時、本剤1回1個をゆっくりと間をおきながら約30分間咀嚼する。
通常、1日6〜12個の投与より始めて1日の総投与量を次第に減らし、1日1〜2個となった段階で終了する。

 初期使用量は喫煙の状況により適宜増減するが、1日30個を限度とする。使用中は2〜4週ごと又はそれ以下の間隔で禁煙の進行状況を検討し、本剤の継続の必要性を判断しながら、通常3ヵ月をめどに投与を行うが、6ヵ月を超えて使用しないこと。

◇組成・性状◇

●組成
 本剤は1個中ニコチン2.0mgを含有するガム

ニコチンガムの噛み方


1、1回の使用量は必ず1個。
2、ごゆっくりかみ始め、味がわかるまで、あるいは口の中が少しヒリヒリしたら(通常15回くらいかむ)直ちにかむのをやめる。
3、ガムを頬と歯ぐきの間にしばらく置いておく。
4、ガムの味あついはヒリヒリするのを感じなくなったら(約1分後)、再びゆっくりかみ始める。
5、2〜4を約30分くりかえした後ガムをすてる
   このガムは決して飲み込まないこと。

*ニコチンは含むけれど、有害なタールは含まないので、すこしずつ減量して、いつの日か… というのを目指すようです。もちろん、治療中は禁煙!
*一度に1個では多いという方やまずい、という方はお気に入りの市販のガムと半分ずつ合わせてかむとよいとか。

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コーラやコーヒーを飲んだ後に、ニコチンガムを噛むと十分な効果が得られないという報告があります。

 これはコーラやコーヒーは酸性であるためと考えられています。

 ニコチンは塩基性物質で、口腔内が酸性下であるとニコチンはイオン型になり、吸収性の高い分子型のニコチンの濃度が低下し、全体として吸収量が低下するためと考えられています。一般的にイオン型は分子型に比べて膜を透過しにくいと考えられます。

 従って、これらを飲んだ後は時間をあけてから使用する必要があります。どれだけ時間をあければよいかは不明ですが、水などで口をすすげば、短時間で良いと思われます。

 ニコチンガムの噛み方〜普通のガムのようにクチュクチュ噛まないこと

 噛むと唾液がたくさん出てニコチンと混じり合って口や胃を荒らします。またニコチンが薄くなります。

 ゆっくりと時間をかけて15回噛み、1分間歯茎と頬の間に入れてまた噛みます。これを30分間繰り返します。

    出典:薬局 2002.6


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2005年7月1日号 No.409

リセット禁煙とは

新しい禁煙手段:認知の歪みをリセット


 リセット禁煙とは、質問することで、気づきの連鎖反応をおこさせ、心理的依存(吸いたい気持ちを)解消させます。

 質問は体系化されていて、簡単な手引きを学習することにより、禁煙支援を開始できます。また喫煙者自身が、手引きを読むことで禁煙できる場合も少なくありません。

 リセット禁煙では、タバコの効用に焦点を当てています。つまりタバコに何らかの効用があると認めたい心理をリセットすることにより、禁煙は容易と成ります。リセットの中心はニコチン依存のメカニズムと実態を深く考えさせることにあります。

* 体系化された質問

1)あなたは、自分の意思でタバコを吸っているのか。

 YES→毎日タバコを吸おうと決めた覚えがあるのか。→タバコに吸されているのが現実

2)習慣とタバコとの違い

 無ければ夜中にでもわざわざ買いに行くというのは習慣か?

3)なぜ、今までの禁煙はうまく行かなかったのか?

 吸いたい気持ちをそのままにして禁煙しようとするのは、船底の穴(認知の歪み)をそのままにして、漏れてくる水(吸いたい気持ち)をかい出しているようなものです。

4)なぜ吸いたい気持ちが湧いてくるのか?

 喫煙者はニコチンの慢性的影響で脳波のα波が減少しており、喫煙によりニコチンが供給されるとα波は瞬時に回復し、ホッとする感覚をおぼえる。ニコチンが切れるにつれα波は徐々に減少しそれに伴い、吸いたい気持ちが湧いてきます。

 喫煙の快楽=離脱症状の緩和に過ぎない。

5)食後や、酒席でなぜ吸いたくなるか?

 子供の頃と違い喫煙者はどんな好物を腹いっぱい食べても、それだけでは100%満足できない。←α波が足りない。

 喫煙して初めて、至福の満足感を味わうことができる。このシメの効果があったことが思い出として記憶されるため、禁煙しても食後に吸いたくなります。

 禁煙後α波が回復すると食事だけで満足できるようになります。

6)頭では分かっていても、禁煙したくない理由

 喫煙者は、普段からα波が足りず、食事・仕事・酒席などあらゆる場面で幸せを感じにくくなっている。タバコは唯一ホッとさせてくれます。

 禁煙するとそれが無くなることを恐れています。しかし実際は、禁煙しαが回復すると様々な場面で幸せを感じやすくなります。

7)リセット禁煙は禁断症状が軽い。

 身体的禁断症状は、α波の回復とともに約3日間で消失すりため、リセットにより心理的依存が解消されるため、過去の禁煙法のように心理的依存と戦いつづける必要がなくなります。

*喫煙者には、喫煙を止めることにより多くの潜在能力を発揮できる可能性があります。禁煙後あらゆる面で改善された人生をイメージしてもらいモチベーッションを高めます。

*禁煙するきっかけを与え、再度禁煙してしまわないように繰り返しの復習も必要です。

 ニコチンの心理的依存は(認知の歪み)は単に1つや2つの気づきで解消されるほど単純なものではありません。

 リセットを成功させるポイントは実際に質問を投げかけて考えさせることです。

{参考文献}治療 2005.6  リセット禁煙研究会代表 磯村 毅


医薬トピックス(9)

タバコでストレスが解消するというのはウソ!!

 ストレス解消を大義名分にタバコをやめないという人は大勢います。しかし、タバコは「ストレス解消」どころか、精神毒性の強い依存性薬物である「ニコチン」を含有している「ストレスの元」なのです。

 喫煙者が感じているストレスの本体は、医学的には、ニコチン離脱によって引き起こされる不快な症状です。それは喫煙を続ける限り、喫煙者の健康を阻害し、ニコチンが切れるたびに余計なストレスを生みます。

 喫煙行動に伴う健康障害や社会的不利益、喫煙できない自分への自己効力感の低下や自己嫌悪をなどが加わり、二重三重のストレスを生じる悪循環となっています。

 喫煙者が喫煙をできなかったときに感じるイライラの本体(ニコチンの離脱症状)を日常生活のストレスと勘違いしているのです。

 喫煙によって、ニコチンが肺から吸収され、脳へ作用すると15秒以内という即効性で不快な症状が消失します。そこに、喫煙によってストレスが解消したと勘違いする仕組みがあります。

 かつてのタバコの広告もこうした仕組みを利用し、喫煙者の勘違いの促進をしていました。

 ニコチンの離脱症状:緊張、集中困難、不安怒り、フラストレーション、易刺激性、運動減少 傾眠・逆説的睡眠障害、筋緊張の増加、心拍数・血圧の低下

        {参考文献}治療 2005.6 薗(石川)はじめ 薗はじめクリニック

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氷で禁煙

 タバコを吸うと、脳内で情報の伝達を行っている情報伝達物質のひとつアセチルコリンが働きにくくなり、その代わりをニコチンが行うことで、頭がシャッキリします。

 しかし、禁煙を始めるとニコチンがなくなるため、ニコチンを求めるようになります。そこで氷を口の中に入れることによって、脳内を刺激し、アセチルコリンを分泌させて、頭を再びシャッキリさせれば、タバコを吸いたい気持ちを抑えることができます。

出典:クリニカルプラクティス 2006.9(広島大学医学部)


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喫煙は病気である。

===喫煙病の薬物治療===

2006年7月1日号 No.432

 禁煙ガイドライン(下記)では、喫煙が「喫煙病」(依存症+喫煙関連患)という全身疾患であり、能動喫煙者は「禁煙治療を必要とする患者」であるとする認識を基本としています。

  禁煙ガイドライン

日本呼吸器学会、日本循環器学会、日本肺癌学会などの禁煙関連9学会が合同の研究班を組織し2年前から「禁煙ガイドライン」の策定に取り組み、平成17年12月に発表されました。


 喫煙習慣の本質はニコチン依存症であり、本人の意思だけで長期間禁煙できる人はごくわずかであることが明らかになっています。

 喫煙習慣にはニコチン依存が深く関連しているため、喫煙習慣から脱却するためには、治療としてのニコチン代替療法が有効で、禁忌でない限り使用が推奨されています。

 わが国で現在禁煙治療薬として使用できるのはニコチン代替療法剤のニコチンガム(当院未採用)とニコチンパッチ(院外処方薬)だけです。

 禁煙時に出現するニコチン離脱症状に対して、ニコチンを薬剤の形で補給し、離脱症状を緩和しながらまず心理・行動的依存(習慣)から抜け出し、その後ニコチン補給量を調節しながら、ニコチン依存から離脱させます。

 <ニコチンパッチ>

 ニコチンを皮膚から持続的に吸収させることによってニコチン離脱症状を緩和し、喫煙欲求を抑制します。ニコチネルTTSには10,20,30と3種類あり、それぞれ17.5mg、35mg、52.5mgのニコチンを含有していて、それぞれの24時間貼付時に含有量の40〜47%が放出されます。

 血漿中濃度は、貼付7〜24時間後に最高濃度に達し、ニコチネルTTS30の血漿濃度推移は、1時間後と1本喫煙した時の喫煙直前濃度推移と同様と報告されています。

 ニコチネル使用量の設定は標準的使用量に加え、喫煙欲求の程度に応じ多少増減し、使用開始後の喫煙要求の程度によって減量していきます。

 通常,最初の4週間は30から貼付し,次の2週間は20を貼付し,最後の2週間は10を貼付します。 なお,最初の4週間に減量の必要が生じた場合には,ニコチネルTTS20を貼付する。 本剤は10週間を超えて継続投与しないこと。とされています。

 <ニコチン代替療法施工中の注意事項>

 喫煙とニコチン代替療法の併用は一時的に喫煙本数を減らすものの、ニコチン過剰摂取となることもあり危険です。また、喫煙でニコチンが効率よく吸収されるために、ニコチン代替療法剤の効果が減弱します。

 ニコチン代替療法剤使用中に生じる喫煙欲求には行動療法で対処しますが、ニコチン過剰症状に注意しつつ使用量を増量して対処する場合もあります。

 妊娠中の使用は日本では禁忌とされていますが、欧米では妊娠中に喫煙を継続することの危険性の観点から、十分な説明と同意のもと妊婦にも使用される場合があります。

 また心筋梗塞や脳梗塞などニコチンでリスクが増大する疾患に罹患した直後は使用に注意が必要です。

 <ニコチンパッチの副作用>

 1.接触性皮膚炎 2・頭痛や倦怠感 3.不眠などがあります。

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 喫煙は疾病の原因の中で防ぐことができる最大のものであり、禁煙は最も確実に大量の重篤な疾病を劇的に減らすことのできる方法であることを認識し、タバコを吸わない社会習慣の定着を目標としなくてはなりません。

  {参考文献}薬局 2006.4
 

<ニコチネルTTSが薬価収載されました。>

単位薬価
        ニコチネルTTS 30  401.80
        ニコチネルTTS 20  374.30
        ニコチネルTTS 10  355.80

 ニコチネルTTSの保険適用は、ニコチン依存症管理料に伴って処方された場合に限り算定できることとされています。
 当院では施設基準(施設内禁煙)に適合していないため、自由診療となります。  

 *ニコチン依存症管理料とは

  従来、禁煙そのものは疾患治療ではないとの観点から保険診療が認められていませんでしたが、ある特定の患者においては生活習慣病の発症予防もしくは原疾患の治療のために、ニコチン依存症の管理が必要であるとの見解が示され、2006年4月1日実施の健康保険法改正に伴い、ニコチン依存症管理料が新設されました。



<NST関連用語解説> 栄養プランニングはこちらです。


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ニコチン依存症は麻薬より怖い!!
 

  〜〜〜喫煙すること自体が病気です。〜〜〜

2006年12月1日号 No.442

 タバコは、アルコールや覚醒剤などのほかの薬物に比べ、急性のニコチンの薬理効果や離脱症状(禁断症状)が顕著でなく、社会に対する害は少ないなどの理由で、依存性薬物として認識されてきませんでした。

 しかし、近年の研究の結果、ニコチンは精神依存性だけでなく、身体依存性を持つことが明らかになり、喫煙習慣はニコチン依存症としてとらえられるようになりました。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 ニコチン依存についてまとめた英国王立内科学会の報告書によりますと、タバコの使用を中止することの困難性はヘロインやコカイン、アルコールと同等で、自力で禁煙した場合、約3分の2の喫煙者が禁煙3日以内に再開しています。

 身体依存の証拠となる耐性に強さにおいて、タバコはアルコールやヘロインと同等で、コカインより強く、また離脱症状の強さはアルコールやヘロインよりも弱いものの、コカインより強いと結論づけられています。

 喫煙習慣には強力な依存的薬物であるニコチンが主役を演じていますが、環境因子も関係し、遺伝的因子の存在も疑われています。

 疫学調査では約75%の喫煙者がニコチン依存症の条件を満たし、精神障害がある喫煙者ではさらに頻度が高くなっています。

 依存の程度を評価するには、ファガストローム・ニコチン依存度テスト(FTND:下記)が広く使われています。10点満点中6点以上は依存の程度が高いと判定されますが、第1問の「起床してから何分で最初のタバコを吸いますか」という質問が最も重要とされています。

 FTNDの合計点数 0〜2点  依存度低い
         3〜6点  依存度普通
         7〜10点 依存度高い


ファガストローム・ニコチン依存度テスト(FTND)
                               
1)朝、目が覚めてから何分くらいでタバコを吸いますか
                
                  得点

      5分以内         3
      6〜30分        2
      30〜60分       1
      1時間以降        0

2)禁煙の場所でタバコを我慢するのが難しいですか?

      はい           1
      いいえ          0

3)あなたは1日の中でどの時間帯のタバコをやめるのに最も未練が残りますか?

    朝起きたときの1本      1
    それ以外           0

4)1日に何本吸いますか?

     31本以上         3
     21〜30本        2
     11〜20本        1
     10本以下         0

5)目覚めて2〜3時間と、その後の時間帯とどちらが頻繁にタバコをすいますか?

     目覚めて2〜3時間     1
     その後の時間帯       0

6)病気でほとんど寝ている時でも、タバコを吸いますか

     はい            1
     いいえ           0

==========================

 低タールタバコは意味なし!

  喫煙者はタバコに含有されるタール、ニコチンの量に関係なく、自分の体に必要な量のニコチンを摂取しています。

 ですから軽い(マイルド)なタバコに変えても「自己調節」があるため、健康上のメリットはありません。

 

 {参考文献}薬事 2006.10
 




<医学トピックス>  ビールの放射線保護作用はこちらです。


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禁煙:嗜好から病気へ

     〜〜〜ニコチン依存症から全身病へ〜〜〜


2008年11月1日号 No.486


 喫煙者の大部分の人は、喫煙は趣味・嗜好と考え、病気とは思っていません。喫煙者が長期的に禁煙に自力で成功することは一般的に困難です。
 喫煙者がタバコを止められない理由は、依存症のためですが、この依存症は、心理的依存症とニコチン依存症です。

 これまで喫煙が危険であることが認識されなかった理由は、平均寿命が50年前までは50歳前後であったことと関連しています。すなわち喫煙障害は、人類の寿命が延びたために生じた近代的慢性病ということになります。

 そして、覚醒剤や麻薬の常習者、アルコール中毒者には、人格崩壊や幻覚・妄想が生じ、日常生活ができなくなります。その点喫煙は、日常生活に大きな支障を来たしません。

 逆に喫煙するとニコチン欠乏によるイライラから回復するため、充足感があり、気分がよくなって、心が休まる趣味・嗜好と錯覚してしまうのです。

 さらに喫煙で急性障害を起こしやすい人は喫煙者にはならず、急性障害を起こしにくい人が喫煙者になります。従って、喫煙者は非喫煙者の授動喫煙による急性障害を理解できません。

 このように喫煙は、人類の寿命が50歳程度であった過去、何百年にわたって害が少ないと思われてきた風習であったため、現在もなお喫煙者も非喫煙者もその危険性を感じていない病気なのです。

 そのため喫煙者が禁煙運動を不当な嫌がらせと思うのも理解できないことはありません。しかし人類の寿命が高度に延びた現在では、喫煙は重大な人類に対する危険行為となったのです。

 「喫煙は病気、喫煙者は患者」という正確なキャンペーンが必要なのです。

 現在、禁煙の保険治療の病名はニコチン依存症で、ニコチン依存症が、喫煙障害の前面に出ています。しかしニコチン依存症自体は、人格崩壊を起こさないという意味では、それ自体が危険であるわけではありません。

 問題は、ニコチン依存症のためタバコを吸い続け、脳・心・血管疾患の循環器領域、肺癌・COPDの呼吸器領域、食道癌・潰瘍等の消化器疾患領域、咽頭癌の耳鼻咽喉科領域、口腔癌・歯周病等の歯科領域、さらに小児科、産婦人科、麻酔科、皮膚科、眼科等全身に疾患が発生することです。

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 授動喫煙防止法(平成15年)

 学校、体育館、劇場、観覧場、集会場、展示会、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理するものは、これらを利用するものについて、授動喫煙を防止するために必要な処置を講ずるよう努めなければならない。

※この法律は、特に飲食店で守られていないのでみんなで守るように主張すべきである。

 授動喫煙とは:室内又はこれに順ずる環境において、他人のタバコの煙を吸わされること。

   {参考文献}医薬ジャーナル 2008.10


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禁煙治療の現状と課題

  〜〜最も危険な生活習慣は喫煙〜〜

2009年7月1日号 No.501

 「禁煙がなぜ必要か」という質問に明確に答えられる医療従事者は少なく、むしろ医療従事者自身が喫煙している場合も決して少なくありません。

 医療従事者でも禁煙が出来ない理由として、知識の欠如とニコチン依存症が主たる原因と考えられます。

{参考文献}Medicament News 2009.4.15

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 現在、日本男性の喫煙率は約40%ですが男性医師でも喫煙率は15%で(米国では3%、英国2%)に比べ喫煙率が極めて高いと報告されています。また看護師の喫煙率は約20%で一般女性の喫煙率13%をはるかに凌いでいます。

 特に患者指導を行う立場にある者としては大変問題で、授動喫煙を含め喫煙が多くの疾患を引き起こすことに議論の余地はありません。

* ニコチン代替(置換)療法:NRT(上のほうにも記事があります)

 NRT:nicotine replacement therapyにはガムやパッチの他に、海外では点鼻や舌下などがあります。いずれもニコチンを体内に入れることにより吸いたい気持ちを緩和しますが、この製剤の差が薬の効果面だけでなく、依存性形成にも深く関与しています。

 「喫煙」という形で吸収されたニコチンは酸素と同様に肺から体循環(左心系)に直接流入するため、数秒で脳に到達します。ニコチンの半減期は1〜2時間と短く、このような急峻な濃度上昇と下降を反復する薬剤は依存性を形成しやすいことが分かっています。

 ガムや点鼻、舌下錠、粘膜下の毛細血管から静脈に吸収され、一度肺循環を経てから体循環に流入するため、喫煙に比べると時間はかかりますが、静注と同様の速効性が期待できます。

 一方、パッチ(貼付剤)は角質で覆われた皮膚を通し吸収するため速効性は期待できませんが、持続的に貼付することにより、ニコチンの血中濃度を一定に保つことができます。
 ガムはパッチより喫煙に似た血中濃度推移をとるため、効果的ですが、依存性からの離脱が困難な場合があります。

<ニコチン ガムとパッチの比較>

   ニコチンガム                                 ニコチンパッチ


 速効性(+) 持続性(-)                          速効性(-) 持続性(+)  
  口寂しさを補える                                  1日1回ですむ 
  仕事中は噛みにくい                               他人に気づかれない
  時に嘔気・頭痛あり                               皮膚のかぶれ、不眠
 歯が悪いと使えない                               皮膚が弱いと使えない
 時に依存性を生じる                               依存性は生じにくい
 酸性では吸収が悪い                               安定して吸収される
(酒・炭酸・コーヒーは避ける)                     保険診療も可能(※注下記)
                                                 
 (※注)保険診療も可能〜(注)ニコチンパッチは2006年から保険適応になりましたが、認定施設の申請には敷地内禁煙や 呼気中CO測定器購入が必要です。

<行動パターン変更法>

 薬物療法だけでは禁煙は成功しません。認識を変え行動を変えることが重要です。

・禁煙の店で食事する。食後は早めに席を立つ。・通勤の道順を変え、タバコ自販機の前を避ける・タバコ、ライター、灰皿は全て処分する・喫煙者が多い居酒屋やパチンコ屋などは避ける・頻回に歯を磨く・吸いたくなったらお茶などをのむ。深呼吸する・掃除や体操、細かい作業をする、音楽を聴く

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< タバコと薬の相互作用>

 タバコの煙は多種多様な化学物質を含み人体に多大な影響を与えています。禁煙することは、健康への第一歩なのですが、これら化学物質がなくなることで一次的に身体状況は変化します。

 タバコの煙の中にはグルクロン酸トランスフェラーゼやCYP1A2等の薬物代謝酵素を誘導する作用があります。

 一般に、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて薬を分解する代謝酵素などが活発になっていますので、常習的に喫煙すると、場合によっては血液中の薬の濃度が低下し、作用が弱くなってしまうことがあります。

 逆に言うと、急にタバコを止めると、薬の分解が抑えられ効果が強くなりすぎて思わぬ副作用が出るということも有り得ます。

<喫煙で血中濃度が下がる薬剤>

・コントミン散・注 ・セレネース錠
・三環系抗うつ剤  ・SSRI
・ベンゾジアゼピン系薬剤

・ワソラン錠・注 ・キシロカイン
・メキシチール  ・ワーファリン錠
・ヘパリン    ・ジゴシン
・ニトロール   ・アイトロール錠
・NSAID   ・カフェイン
・ペンタジン注  ・プレドニン
・モルヒネ    ・コデイン
・テオフィリン  ・チラージン
・デパケンR錠  等

 {参考文献}Medicament News 2009.4.15 等


<最新用語解説>

ロハス:LOHAS

Lifestyles of Health and Sustainability

 米国で提唱されている概念で、健康と環境、持続可能な社会生活を心掛ける生活スタイル。すなわち環境や健康への意識が高い人々によるライフスタイルやその市場を指します。

 つまり地球環境のために節約するだけではなく、環境と共存しながら健康的で無理のない生活を追及することを目的としたものです。


1.環境に配慮した家やインテリア、日用品、清掃用品、雑貨など環境を配慮したライフスタイルの実現
2. エネルギーの再生・代替や省エネ商品の開発、都市緑地化計画など持続可能な経済の実現
3.予防医学・代替医療を心がけ、薬に頼らない代替ヘルスケア
4.ヘルシーな食品やナチュラルなパーソナルケア製品を使用する健康的なライフスタイル
5.異文化との接触、ヨガや習い事、友人関係への時間などの自己啓発のための投資

 代替ヘルスケアは、整体や鍼灸などの治療、自然療法、予防医療、心理カウンセリングなどを利用して病気を予防することです。これは医療費を抑制する効果があり、心と体に優しい代替医療で 自然治癒力、免疫力を上昇させることで病気にならない最高の健康を維持させます。

 健康的なライフスタイルでは、自然にまつわる有機食品やサプリメント、天然ケア商品を扱い、環境に優しく、自立した自分の体を養います。

 有機食品には、有機農産物、有機畜産物、これらの素材を使用して作られた有機加工食品があります。

 「有機」のことを米国ではオーガニック、ヨーロッパでは、ビオ(BIO)と呼びます。このようなものにはお金がかかりますが、病気になった時の費用、QOLを考えれば結果的には安くなるかもしれません。

{参考文献} 日本病院薬剤師会雑誌 2008.9
 

 

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