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NSTとは

2002年9月1日号 No.344

   Nutrition Support Team:栄養サポートチーム

 栄養管理はすべての疾患治療に共通する最も基本的な医療で、適切な栄養管理がなされずにはいかなる治療法もその効力を失い、逆に不確実な栄養療法は大きなリスクとなります。

 栄養療法を確実に浸透させ、基本的医療を急速に病院内に確立させるためのチーム医療がNSTです。

 NSTは、1970年米国のシカゴで誕生し、その後全米に広がり、さらに他の欧米諸国へと急速に伝播していきました。現在,欧米では半数以上の総合病院にNSTが存在します。しかし、我が国では、わずか20数施設にNSTの設立が確認されているにすぎません。

 {参考文献} 薬事 2002.8等

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 適切な栄養管理は、1.感染対策、2.リスクマネジメント、3.クリニカルパス、4.在宅医療、5.褥瘡ケア、6.病院経営、7.地域医療など施設内外活動でもその基本となるべきもので、いずれの分野・企画においてもNSTの活発な働きが要求されます。
 
 欧米のNSTはいずれも4〜7名のメンバーで構成される専属チームで、各職種が専門的な立場から栄養療法を実施しています。しかし、現在の日本の医療状況ではこのような専属チームを新規に設立することは困難と思われます。

 わが国独自のNSTのかたちとしてPPM:持ち寄りパーティー方式;Potluck Party Methodが考案されています。

 PPMとは、「あたかも1皿ずつの料理を持ち寄ってパーティーを行うように、少しずつだが各部署から人・知恵・力をもちよってNSTなどのチーム医療を運営する新しいシステムのことです。

 NSTは疾患や治療法、また診療科や病棟を包括的に捉え、また横のつながりを強化できる数少ないチーム医療で、クリニカルパスでは対応できない症例に対しても疾患に関わらずその効果を遺憾なく発揮できるツールと考えられます。

<NSTプロジェクト>

 日本静脈経腸栄養学会では、栄養療法士認定制度、TNT(Total Nutrition Therapy) プロジェクトに次ぐ第三の企画としてこのNSTプロジェクトを発足しました。このNST プロジェクトは,全国の医療従事者にNSTの有用性や重要性を啓発するとともに、より多くの医療施設にNSTを学会支援のもと設立・運営することを目的としています。また、このNST プロジェクト活動の成績をもとに、NST稼動による診療報酬点数加算を厚生労働省へ申請することを企画しています。


* 栄養療法に携わるものとして習得すべき8つの基本事項

1.医療人としての自覚
2.和(チームワーク)の尊重
3.ふれあい医療(愛のある医療)
4.栄養アセスメントの基本的手技と評価 (BMI、三頭筋部皮下脂肪厚、上腕筋囲など)
5.基本的栄養管理法(経静脈・経腸・経口)の習得
6.基本的栄養管理プランの作成能力(必要カロリーの設定など)
7.危機管理・回避能力(接遇を含む)
8.病院経営・医療経済観念

 これらの基本的事項に加えて各職種が持つ専門的な知識と技術を栄養療法に取り入れ、より詳細でかつ安全性の高い栄養治療を展開することが望まれています。  


医学・薬学用語解説(コ)      コーラと薬物はこちらです。


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NSTチーム発足

2005年7月15日号 No.410


 近年、医療ニーズが多岐にわたり、チーム医療の取り組みが必要となっています。

 日本でもNST(栄養サポートチーム)を開設する動きが広まっており、院内感染率の低下、在院日数の短縮、病院食の改善などがその実績として報告されています。

 当病院でもNSTが発足し、まだ準備中の段階ですが、嚥下困難な患者さんへの対策などで動きつつあります。

<NSTの目的>

1.適切な栄養管理法の選択
2.適切かつ質の高い栄養管理の提供
3.栄養障害の早期発見と栄養療法の早期開始
4.栄養療法による合併症の予防
5.疾患罹患率・死亡率の減少
6.病院スタッフのレベルアップ
7.医療安全管理の確立とリスク回避
8.栄養素材・脂質の適正使用による経費削減
9.在院日数の短縮と入院費の節減
10.在宅治療症例の再入院や重症化の抑制

<NSTの役割>

1.栄養管理が必要か否かの判定→栄養評価
2.適切な栄養管理がなされているかをチェック
3.最もふさわしい栄養管理法の指導・提言
4.合併症の予防・早期発見・治療
5.栄養管理上の疑問点(コンサルテーション)に答える。
6.新しい知識・技術の紹介・啓蒙
7.栄養療法の評価・効果判定

{参考文献} 医薬ジャーナル 2004.12 等

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<当院のNSTチーム構成>

 内科医師  2名、外科医師  1名、歯科口腔外科 1名、栄養管理科 1名
 看護局 7名 薬剤部 1名

実際の業務

※ 脱点滴の試み

 IVH(TPN)から経口、経腸栄養への切り替えことによるメリット

 ・院内感染防止 40%低下
 ・腸を使うことによる患者さんの免疫の活性化
 ・床ずれ(褥瘡)の減少 15%→3%
 ・口から食べることにより、患者さんに楽しみができ、寝たきりが治るケースの報告

※ お茶ゼリー

 お茶にとろみをつけゼリー状にすることにより水分が気管支に入ってしまうことを予防

※ グルタミン添加

 MOF:多臓器不全は、低栄養、高齢、術後など免疫能の低下した場合にしばしば見られます。感染が引き金になることが多いのですが、感染源が無くても敗血症になることがあり、その原因は腸管内の細菌が血中に入るためと考えられています。

 この現象をBT:bacterial translocationといい、細菌、毒素に対する腸管のバリアが破綻して起こると考えられています。

 TPNが長期になると腸粘膜は萎縮し、腸管免疫に重要な分泌型IgAやリンパ組織が減少します一方、腸管のエネルギー源はグルタミンですが、術後などの侵襲下では消費が増加し不足します。

 TPNの中にはグルタミンは含まれていないのでTPNは術後、感染などの病態ではBTのハイリスク因子となります。

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<NST関連用語> 2006年3月1日号 N0.424

SGA:subjective global assessment

 SGAは栄養アセスメント(評価)の方法の1つです。栄養アセスメントの方法には、大きく分けて2種類あります。

1)従来から行われている客観的な数値を指標とし
 て用いる方法(OGA:objective global assessment)

  身体計測値、栄養状態
  生化学的検査値(尿、血液、免疫能)

2)SGA:主観的包括的アセスメント

 実際に患者を観察することによって(目で見て)評価しようとするもの。
 SGAはアセスメントの主体は、評価する人間が実際に患者を診た主観にあるのが原則で、いたずらに多くの検査をする必要は無いと考えられて成立した評価方法です。

 基本的にアセスメントに使用する項目は、病歴と身体計測値だけです。

この評価方法の利点は、

1.ある程度熟練した医療関係者(NSTのメンバーなど)であれば複雑な検査を必要とせず問診と簡単な身体計測で評価ができます。
2.評価をするまでの所要時間が短い。
3.評価に必要な医療経費が低い。

 SGAは入院時あるいは初めて診るときのアセスメントに適しています。急性期のように栄養状態の変動をとらえるアセスメントではなく、そのとき(受診時)の身体状況の面から評価することが目的です。

 そのため細かいデータの蓄積はほとんど意味が無く、重要なことは
1.栄養に関して治療を必要とするかどうかの決定
2.急性の栄養障害か慢性の栄養不良かを判断することです。

〜〜〜〜2006.3.15  No.425〜〜〜SGA(2)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 SGAは、栄養状態を示す多角的指標で臨床での問診と身体検査で構成されています。この場合、特殊な装置や技術は必要ありません。臨床スタッフが上手に質問し、正確な回答が得られたなら、質の高いアセスメントデータが入手できます。

 この方法で広範囲の情報を入手でき、患者さんの健康全般に対する各種パラメータ(臨床検査結果、身体検査結果)の影響についても検討しなければなりません。

 患者さんの精神状態(感情の起伏)により、問診を行うことが困難な場合もあります。臨床スタッフは、質問を繰り返したり、問い直したりする必要があります。また、患者さんの状態を近くで観察している者から情報提供を受けることも重要です。

<栄養評価>
 ・体重の変化
 ・食物摂取の変化
 ・消化器症状
 ・機能性/エネルギーレベル
 ・疾患御活性レベルと影響

<プラス>
 ・身体検査
  
<欠点>
1.患者にじかに接しなければならない。(問診、面接の時間が必要)
2.主観的な評価であるので複数の関係者でチェックする方が望ましい。

<病歴(患者の記録)>
 体重変化、食物摂取状況の変化、消化器症状、ADLの状態、疾患と栄養必要との関係

<身体計測値>
 皮下脂肪の損失状態、筋肉の損失状態、浮腫(くるぶし、仙骨部)、腹水

<主観的包括評価> A〜Cの3段階で評価

 A:栄養状態良好
 B:中等度あるいは潜在的に栄養不良
 C:重度の栄養障害

 初期アセスメントにはSGAだけで十分ですが、身体計測値に加えて、血清総蛋白値、血清アルブミン値、白血球数、血糖値、血清電解質など基本的な血液生化学的検査で補強しておくと安心です


〜〜〜〜2006.2.17  No.423〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

PPM:Potluck Party Method

 各部署から人、知恵、力を少しずつ持ち寄ってNST(栄養サポートチーム)を運営するシステムのことをPPMといいます。これは日本独自のNSTシステムで兼業兼務方式ともいいます。

 欧米ではNSTは専属の職員がいますが、日本では経費の問題からほとんどの病院でこの方式でとられています。

 落語の長屋の花見のように、花見に参加する者が一品づつ酒の肴とか酒を持ち寄って宴会(パーティー)を方法に従ったやり方です。

 これと同じように、NSTの専属メンバーは置かずに病院の各部署からメンバー1〜2名を選び、選ばれたメンバーは酒や肴のかわりに知恵と知識を持ち寄って一般業務を行いながらNSTを兼任します。

 日常業務を行いながら、栄養状態が不良と思われる症例や栄養管理に問題があると考えられる症例、また病院全体で取り組むべき栄養管理上の問題点などを抽出していきます。

PPM-I:直接院内の各部署・病棟からメンバーを選出(500床前後の病院に推奨)
PPM-II:全職員がメンバーとなリ、メンバーから部門別に実稼動するスタッフを選出
   (250床前後の病院に推奨)
PPM-III:活動の中心となる部門(専任コア)を設定し、他の部署・病棟からメンバーを
    選出、各病棟にサテライトチームを設置 1000床前後の大規模病院に推奨)

 当病院では内科医師  2名、外科医師  1名、歯科口腔外科 1名、栄養管理科 1名
看護師 7名 薬剤部 1名でNSTを運営しています。


<NST関連用語解説> ナイトロジェンデス

 

 LBM:lean body massという用語あります。このうちLeanとは“ぜい肉がなく引き締まって”“やせた”“脂肪のない”という意味で栄養分のない状態を表しています。そして栄養管理をおろそかにすると、このLBMが減少して、最後にはNitrogen Death(ナイトロジェンデス:窒素死)という事態に至ってしまいます。

 健常時の体の総蛋白をを100%とすると、70%にまで減少すると窒素死といわれる病態に陥り、生命を維持することが難しくなってきます。

    LBM 100%→ 70% 
    (健常時) (ナイトロジェン デス)

 LBMが減少すると  ・筋肉量の減少(骨格筋、心筋、平滑筋)
・内臓蛋白の減少(アルブミンなど)
・免疫能の障害  (リンパ球、多核白血球、抗体、急性相蛋白)
・創傷治癒障害  ・臓器障害(腸管、肝、心)
・生体機能の障害
     ↓
     死
 

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LOM:likekifood of malntrition
入院時に栄養障害は明確でなく、治療中に栄養障害を併発する可能性


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身体計測

 NSTでは、身体計測として体重や上腕周囲長(AC)、上腕三頭筋部皮下脂肪厚(TSF)、上腕筋周囲長(AMC)を測定します。

 特に体重は、栄養治療の効果判定として最も信頼性の高い計測値です。

 上腕の測定で評価可能なACやTSFは、寝たきり症例の身体測定値として有効です。しかしTSFは最大5mmの測定者間誤差があり、両者とも信頼性にやや問題があり、動的アセスメントとして使用する場合には同一者による測定を心がけるなどの注意が必要です。

TSF:上腕三頭筋部皮下脂肪 〜皮下脂肪の損失状況を把握するために測定
AC:上腕周囲
AMC:上腕筋囲〜ACからTSFの要素を排除して、より正確な筋蛋白量を評価するために用いられる指標
   AMC(cm)=AC(cm)−π×TSF(mm)/10     〜筋肉の損失状況


〜〜必要エネルギー量を知るには〜〜2006年4月1日号 No.426〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 必要エネルギー量の決定方法としてHarris-Benedictの式から求めた基礎エネルギー代謝量(BEE)に活動係数と障害係数(ストレスファクター)を乗じて算出することが一般的です。

 しかし、状況の変化に応じて設定を修正することも時には必要です。安静状態から歩行状態になれば活動係数は上昇し、障害係数も開腹。開胸手術などの侵襲状態はいつまでも続きません。逆に病状が悪化すれば障害係数も上昇します。

 実際には一度算出されたエネルギー量を開始値として、栄養アセスメントによる効果判定の中で必要に応じて増減します。

BEE:基礎代謝熱量    BEEは、平均値として1日あたり約25kcal/kg体重とされています。

REE:安静時エネルギー消費量


1日必要カロリー量=BEE×活動係数×ストレスファクター

Harris-Benedictの式

 男性 66+(13.7×体重Kg)+(5×身長cm)−(6.8×年齢)

 女性 665+(9.6×体重Kg)+(1.7×身長cm)−(4.7×年齢)

  活動係数=1.0〜1.8 
  (Activity Factor)
  ストレスファクター=1.0〜2.0
  (Stress Factor)

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<NST関連用語解説> 栄養プランニング

 各種栄養指標を解析することにより、栄養障害の原因が明瞭になったら、その改善に有用な栄養管理法を選びます。

 栄養管理には、経静脈栄養(PN)、経腸栄養(EN)、経口の3つがありますが、重要なことは、できる限り経口・経腸で行い、不必要な経静脈栄養、特にカテーテル敗血症などの重篤な合併症を来す可能性のある中心静脈栄養(TPN)を避けることです。

 経静脈栄養が必要な症例は、消化管の使用が困難化、望ましくない病態に限られます。さらに経静脈栄養が必要とされる期間が比較的短く2週間未満の場合は、抹消静脈栄養(PPN)が選択され、2週間以上の長期の経静脈栄養が必要と思われる症例だけがTPNの対象となります。

 経腸栄養は、消化管機能が維持されている場合には推奨されています。消化管が使用されないことによる腸粘膜の萎縮、それに起因するバクテリアトランスロケーションや蛋白代謝。腸管免疫能の低下を防止するためにも極めて有用です。

 経鼻胃管は留置が簡便ですが、患者さんの不快感、粘膜潰瘍、胃液の逆流などの問題があり、あくまでも短期にとどめることが肝要です。6週間以上の経腸栄養が必要と思われる症例には、積極的にPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)を施行すべきです。

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*消化管使用可能

 できるだけ食事で → ハーフ食、ゼリー
            などの工夫
 経腸栄養 6週未満 → 経鼻経管
      6週以上 → PEG

*消化管使用不能

 経静脈栄養 2週未満 → PPN
       2週以上 → TPN  

     {参考文献} 薬事 2005.8 等

<栄養プランニングの実際>

 症例個々に適した栄養成分をまず、1.水分量、2.電解質、3.必要カロリー、4.蛋白量、5.脂肪量、6.糖質量、7.ビタミン・微量元素の順に決定し、これに最も適した経腸栄養剤や輸液を選択します。

1.水分・電解質量

1日必要量=尿+不感蒸泄+糞便中水分量−代謝水≒35mL/kg 体重

 一般には1日尿量と不感蒸泄の和が1日水分必要量となり約35mL/kg 体重となります。
また、電解質は体外への体液の排出が無ければ、1日維持量(Na:100mEq、K:60〜80mEq、Cl:100mEq /日)となります。ただし、胃液等の消化液や創部、熱傷などで浸出液があれば、基本的には排液分をリンゲル液で補うことが必要です。

2.必要カロリー(kcal/日) 上記(Harris-Benedictの式)参照

 肝硬変を中心とする肝疾患患者や集中治療を要する患者等では、エネルギー消費量は亢進していますので、正確に間接熱量計により測定することが必要です。

3.蛋白量

 必要カロリーを決定したら、まず1日蛋白必要量を設定します。
1日蛋白必要量はkg体重×ストレスファクターです。

 一般に経静脈栄養の場合、蛋白はアミノ酸として計算され病態に応じたアミノ酸が選択されます。

 分岐鎖アミノ酸(BACC)はストレス下でも効率の良いエネルギー源となり、また蛋白崩壊の抑制や蛋白合成能の促進等、他のアミノ酸にない特質を持っており、肝障害や敗血症発生時に好んで用いられています。

 グルタミンは血中濃度が最も高くなり、侵襲時には免疫担当細胞や腸粘膜での要求性が高く、蛋白代謝では重要なアミノ酸です。しかし、静注では安定性の問題から市販されていません。このため特に侵襲時には、可能であれば経腸時にグルタミンの含有されたGFO等を用いるのが望ましいと思われます。

4.脂肪量

 1日脂肪量は、総カロリーの20〜50%とされています。一般的には0.5〜1.0g/kg体重が必要で、およそ20〜50gの脂肪が必要です。

 脂肪製剤は9.1kcal/gと効率的にエネルギーが摂取できるだけでなく、炭酸ガスの産生量はブドウ糖の約70%と少なく、慢性肺疾患により呼吸機能の低下している症例や肺癌、転移性肺癌等の終末期医療の現場でも重要視されています。

5.糖質量

 1日糖質量は、総必要カロリーからアミノ酸と脂肪によるカロリーを引いたものです。

6、微量栄養素

 高齢者や術前に十分な食事摂取が困難であった症例では、ビタミンや微量元素が欠乏している症例が多く見られます。微量栄養素の欠乏は創傷治癒を遅延させるだけでなく、ときに著しい代謝障害を来すこともあるため注意を要します。このような症例には、術前術後に十分量の微量栄養素を用いることで創傷治癒の促進や褥瘡発生の予防が可能です。

◎栄養状態の再評価

 栄養評価に基づいた栄養管理を実施する際には、栄養管理中に定期的な栄養状態の再評価が必要です。栄養管理を行いながら各栄養評価の経時的変化を重視して、栄養管理法の軌道修正(再プランニング)を行っていきます。


血液検査:アルブミン値

 NSTで測定する血液検査としてはアルブミンやRTP(注下記)が指標としてあげられます。血清アルブミン値は一般的に測定される項目でもあり、栄養治療の効果判定にも使うことが出来ます。ただし、体内プールが大きくかつ血中半減期が約20日と長いため反応が鈍いこと、栄養状態以外の要素が値に大きな影響を与えることなどから、純粋な栄養評価という面では大きな問題点もあると指摘されています。

 炎症反応があると、アルブミンの合成は抑制されるとともに分解が促進され、さらに血管内にプールされているアルブミンの喪失を惹起するため、栄養状態とは関係無く低値を示してしまいます。

 入院時に感染症などで強い炎症状態にある場合はたとえ効果的な治療がなされていたとしても炎症が治まるまでは血清アルブミン値はなかなか改善しません。

 アルブミンは肝臓で合成されるため、肝硬変などではその合成能の低下から血清アルブミン値は低値を示し、栄養療法の効果判定には適しません

 ネフローゼ症候群などの腎疾患でも尿中へのアルブミン喪失により、栄養状態とは関係無く低アルブミン血症を呈するため注意が必要です。

 熱傷や外傷などでもアルブミンがかなり喪失されます。他にも輸液をすれば低値を示します。
特に脳血管障害などで寝たきりの症例では入院時は脱水状態にあり、見た目のアルブミン値は実際よりも高値となっている場合があります。

 輸液や静脈栄養、経腸栄養による水分の補給により濃縮されていた血液が希釈され、徐々にアルブミン値は下がっていきます。

<血清アルブミン値>

 3.5g/dL以上は正常
 3.0〜3.5g/dLは軽度栄養障害
 2.5〜3.0g/dLは中等度  〃
 2.5g/dL以下は高度栄養障害

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RTP:rapid turnover protein

RTPにはプレアルブミン、トランスフェリン、レチノール結合蛋白があります。

 アルブミンと違い血中半減期が短いことから動的栄養アセスメントに適しており、栄養治療の効果判定に有用です。

 しかしアルブミンと同様に炎症反応や肝臓の合成能の影響を受けることと、術後症例やTPN症例などの一部の症例以外では保険適用が無く、今のところ一般的ではありません。
 
            {参考文献}薬事 2005.9


<NST関連用語解説>

ハーフ食

  食欲に低下した患者は盛り付けの多い一般食を目にすると「食べ切れない」と敬遠しますが、はーふ食であれば、「これくらいなら食べられる」と食が進みます。

ただしハーフ食ではビタミン、ミネラルが不足するのでサプリメントで補います。

呼吸器疾患患者の輸液は呼吸商の少ないもの(イントラファットなど)やアルカリ化剤として酢酸安トリウムを利用しているものを選択。

 


2005.7.1  医薬トピックス(10)炭焼きビーフで薬効ダウンはこちらです。


<医学事典>

IVIG療法

γグロブリン大量静注療法

γグロブリンは、第2次世界大戦中にヒト血漿蛋白の分画中に発見されました。
γグロブリンをBurton無γグロブリン血症患者に筋注したところ、これらの患者の重症感染症発症率が激減したことがγグロブリン製剤の臨床応用への幕開けでした。

IVIG療法が試みられている主な自己免疫生疾患・慢性炎症性疾患

リウマチ性疾患
 若年性関節リウマチ、血管炎症候群、慢性疲労症候群、
 抗リン脂質症候群における再発性流産
 特発性炎症性筋疾患(皮膚筋炎、多発性筋炎、封入体性筋炎)

神経疾患
 多発性硬化症、重症筋無力症、Guillain-Barre症候群、Lambert-Eaton筋無力症候群
 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

血液疾患
 特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、

その他の疾患
 川崎病、難治性喘息、炎症性腸疾患

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<適応>

IVIG療法は、非常に高価な治療法で、原則的には他剤ではコントロール不能な症例や副作用のために十分量を使用できない症例に限定して用いるべきです。

 最も有効性を期待できる疾患が皮膚筋炎です。関節リウマチ(若年性を含む)については最近開発されたTNF阻害性が極めて高く、本療法の適応はほとんど無いと考えられます。
 ステロイド抵抗性の多発性筋炎、皮膚筋炎に対するIVIG療法にはフェーズ3試験が進行中で、保険的応拡大が望まれています。

また、膠原病の治療中には自己免疫性血小板減少性紫斑病に類似した病態による血小板減少がしばしば認められ、このような症例にはステロイド剤、免疫抑制剤の効果が不十分な場合には、IVIG療法を試みる価値があります。

<副作用>

IVIG療法の副作用はほとんど軽度で、重篤な副作用として、アナフィラキシー反応と血栓塞栓症が挙げられます、

アナフィラキシー反応は、IgA欠損症の症例で抗IgA抗体陽性の場合に起こり得ます。

血栓塞栓症は、γグロブリンによる血液の粘度の増加により起こり、脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓などの報告があります。

中〜軽度の副作用として、頭痛(特に片頭痛)・無菌性髄膜炎・腎尿細管壊死・皮膚反応・悪寒・筋肉痛・胸部不快感・倦怠感・発熱・嘔気などが知られています。

    出典:日本病院薬剤師会雑誌 2003.2

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川崎病は猩紅熱症候群?!

γグロブリンの大量使用には多くの問題がある!

 出典:臨床と薬物治療 1997.5  黒岩 翠(岐阜県加茂医師会会長)


 次々と現れ、消えていった川崎病の原因諸説の中で溶連菌は、現在新たな注目を浴びています。

 従来、「川崎病と診断したら抗生物質を中止して、ステロイドも使わずにアスピリンを用いる」とされていました。今ではそれがγグロブリンに変わってきています。

 しかし、原因を溶連菌を考えるなら、「直ちに抗生物質とステロイドの併用を始めることが必要で、主要症状がゆっくりと出そろって行く不全型では、2〜3日間抗生物質を使用して、解熱がみられず、苺舌を確認したらステロイド剤の併用を行う」方法が有効と考えられるとのことです。

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γグロブリンの大量使用(後遺症の予防)の問題

 何故有効なのが分からない。使用してもすべてに効果があるわけではない。
医療費が高く保険上制約がある。


<<医学・薬学用語解説>>

脊髄小脳変性症
spinocerebellar degeneration(SCD)

出典:ファルマシア 2001.1等

 SCDは、運動失調、特に歩行障害が前景に現れ、緩徐に進行する神経変成疾患で、これまでの薬物療法TRHを注射する方法が唯一の治療法でした。

 TRHは、主作用の中枢作用に比べ約1,000倍強力な甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌作用がある上、血液中や脳内で不安定であるなどの難点がありました。

 セレジスト錠(タルチレリン水和物)は、TSH分泌作用が著明に軽減され、経口で強力かつ持続性の中枢作用を有します。TRS受容体に結合後、アセチルコリンおよびモノアミン神経系を活性化(遊離促進)させ、神経栄養因子様作用も関与して運動失調を改善させるという機序が考えられています。

 脊髄小脳変性症(SCD)は1954年にそれまでの小脳性運動失調症や遺伝性運動失調症などをSCDの名のもとにまとめたもので、現在に至るまで臨床病型に合致しない症例が出現し混乱に陥っていました。SCDは疾患群の総称であり、単なる概念にすぎず疾患単位(病名)ではありません。

 運動失調、体幹運動失調、協調運動障害、小脳性言語障害、錐体路障害、眼振や不髄意運動を主要な神経徴候とします。

 主要病変部位による分類では、 1)小脳型(小脳皮質に病変を有するHolmes型など)、 2)脊髄小脳型(Menzel型オリーブ・橋・小脳萎縮症など)、 3)脊髄型(Friedreich運動失調症,遺伝性痙性失調症hereditary spastic ataxiaなど)に分けられています。

 

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