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1998年5月1日号 244

QTディスパージョンとは

   心電図は古くからある簡便で有用な心機能検査です心電図には、PQ間隔、QRS間隔、QRS波の大きさ等いろいろな指標があります。その中の一つにQT間隔があります。

 このQT間隔は各種心疾患や自律神経異常を来す疾患で解析され、QT間隔が延長すると不整脈等の合併症が多いことが明らかとなり、日常診療上有用な指標として活用されてきました。


{参考文献}JJSHP 1998.4

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 通常の検査で記録されるのはいわゆる標準12誘導心電図です。一般に各種心電図指標を計測する場合に、よく選ばれるのはその中のU誘導やV2誘導です。

 しかし、12の誘導がありますから、それぞれの心電図指標は各誘導毎に12個の計測値が得られます。最近この12個の誘導でQT間隔をすべて計測してみると必ずしも同じ数値ではなく、かなりばらついていること、そして各種心疾患ではそのばらつきの程度が正常人に比較して増大していることが分かってきました。

 1988年に、このばらつきの程度を表すのに、QTディスパージョン(QT間隔のばらつき)という言葉が使用されるようになりました。

 標準12誘導心電図から12個のQT間隔を計測して、一番大きいQT間隔(最大QT間隔)から一番小さいQT間隔(最小QT間隔)を差し引いた数値をQTディスパージョンと定義しました。

 QTディスパージョンは、当初不整脈との関連が注目されていました。しかし、この指標が心疾患の予後や合併症とも関連があることが報告されるようになって、多くの研究者が興味の的になってきました。加えて、心疾患のみならず糖尿病でも病態の進行と共にQTディスパージョンが増大していることが分かってきました。


*不整脈治療剤とQTディスパージョン

 QTディスパージョンの増大は不整脈発生の基質となり、そこでのリエントリー、撃発活動等の不整脈発生を促進する可能性があります。そのため抗不整脈薬による治療中は、QTディスパージョンを計測して増大傾向を認めれば、催不整脈作用が出ていないか、そして減量あるいは中止の必要はないか考える方がよいと思います。

 心電図QT間隔と自律神経系、そして心拍数は互いに密接な関連を持っています。不整脈や突然死は日常折々の交感神経系と副交感神経系のバランスの障害と大変関連が深いと考えられており、心電図QTディスパージョンの増大はその自律神経系の障害を反映しているとも考えられます。

*糖尿病

 糖尿病は虚血性心臓病の危険因子としてよく知られていますが自律神経障害、QT間隔の延長を起こすことでも知られています。最終的に心臓病で亡くなった患者では、QTディスパージョンが自律神経障害だけを示す群や正常群より有意に増大していました。さらに心臓病で亡くなった患者で、死亡前の2回の心電図を比較した結果、1回目より、2回目の死亡直前にQTディスパージョンがさらに増大していました。

 このように糖尿病患者の心臓合併症の指標としてもQTディスパージョンが有効と思われます。


QTディスパージョン計測の意義

1.不整脈の基質を検出するのに有用
2.抗不整脈薬の薬効評価、催不整脈作用の予測に有用
3.基礎疾患の経過観察予後、及びその合併症としての不整脈の出現の予測に有用
4.疫学的調査にQT間隔と併用して調査精度の向上の可能性



PBSCT(自己末梢血幹細胞移植)
シリーズ癌治療を考えるF

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プロバイオティクスとは

2003年4月15日号 No.358

 プロバイオティクス  Probiotics ←→  プレバイオティクス Prebiotics

 Probioticsの語源はギリシャ語で“for life”を意味します。「ある微生物が産生する、他の微生物の増殖を刺激する物質」との意味で使用され始めました。

 現在では、プロバイオティクスとは、抗生物質(antibiotics)に対比される概念で、宿主の腸内細菌叢のバランスを改善することにより、宿主に有益な影響をもたらす生きた微生物を含む食物製剤を指します。プロバイオティクスの働きによる腸内細菌叢の安定化や改善が、宿主(人間)の健康維持に重要な役割を担うと考えられています。

<プロバイオティクスの条件>

・ヒトの体内に常在する菌であること
・胃酸や胆汁酸に対して抵抗性があること。
・食品や製剤の状態で生菌として保存が可能であること
・副作用が無く、安全性が確認されていること。

<プロバイオティクスの働き>

 腸内細菌叢の改善、腸内腐敗産物の産生低下、便性の改善などの整腸作用に加え、最近では菌種によって、各種病原菌に対する感染防御作用、血圧降下作用、血清コレステロール低下作用、アレルギー軽減作用、抗腫瘍効果、免疫賦活作用などが報告され、医療分野でも抗生物質に代わる重要な予防医学の製剤として注目されています。

<プロバイオティクスの応用が期待される症例>

 乳糖不耐症、抗生物質による下痢、ICU患者、感染性腸炎(小児ロタウイルス腸炎にラクトバシリウムGGが有効)、炎症性腸炎(Lactobacillusによる発症抑制)、アレルギー性疾患(Lactobacillus GGによるアトピー性湿疹の発症予防)、新生児・未熟児(NICU)管理下では腸管細菌叢の生着に異常が起こる可能性があります。超低出生体重児にBiofidobacteriumu breveを用い、体重増加良好

*プレバイオティクス Prebiotics

 プレバイオティクスはヒト消化管で消化・吸収されず大腸に到達して、腸内細菌叢を修飾することによって宿主に有用な作用を及ぼす物質のこと。

 各種オリゴ糖、糖アルコール、食物、繊維水解物などがこれに相当し、特にオリゴ糖はビフィズス菌の基質になります。

*シンバイオティクス  Synbiotics

 プロバイオティクスとプレバイオティクスを含むものをシンバイオティクスといいます。
*ヨーグルト

 最近、プロバイオティクスを配合したヨーグルトの開発が世界的に行われています。乳酸菌の多様な作用が、整腸作用の他にも報告され、マスコミで話題となることもあります。しかし現状では、乳酸菌の保健機能としてそれらを表示することは認められておらず、新たな機能性を立証するためには、保健効用の指標や臨床試験法の確率も必要であると指摘されています。

 {参考文献} 医薬ニュース 2003 No.6 東邦薬品KK 共創未来グループ

プロバイオティクス として用いられる生菌

 乳酸菌群、特に食品にはLactobacillus acdophilus、L.gasseri,L.johnsonii、L.casei,L.rhamnosus、L.reuteri などの乳酸桿菌がよく使用されています。

 ほかに酵母やClostridum,Bacillus subtilisなどがプロバイオティクスとして研究対象となっています。

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医学・薬学用語解説(ネ)    猫ひっかき病はこちらです。

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プロバイオティクス 関連記事

GBF
Germinated barley foodstuff            関連項目 
食物繊維と薬物の相互作用

 出典:ファルマシア 2001.7

 発芽した大麦のアロイロン層と胚芽を主な分画とする食物繊維とグルタミンの多い蛋白質の複合体で、2000年7月から潰瘍性大腸炎患者用の病者用食品として、厚生労働省より表示許可を受けて発売している製品です。

 GBFは軽症から中等症の活動性の潰瘍性大腸炎に対して単独または基準薬剤と併用して使用し得る、安全で有用な食品素材であることが明らかにされています。

 GBFによる腸炎の改善作用は腸内細菌による腸内の酪酸濃度の関連していることが証明されています。

 GBFの大腸炎の対する効果は主に腸内細菌叢の改善作用を介した酪酸産生とその水分膨潤によると考えられます。

 GBFは大腸全域にわたって酪酸を安定的に供給することが可能で、罹患範囲を問わず安定した効果が期待できます。直腸型から全結腸型までいずれの病型にも有用例を認めています。

 GBFは従来のステロイドやアミノサリチル酸製剤などの治療薬と異なり明らかな副作用は認められないため、寛解維持療法を含めた長期服用でも有効性を示すと期待されています。

潰瘍性大腸炎と腸内環境改善作用

 大腸は他の臓器と異なり、数10億以上の腸内細菌と常に接していることから、近年ではこの腸内細菌の影響及び大腸粘膜のいわゆる粘膜防御能が潰瘍性大腸炎の発症及び治療戦略に大きな影響をを与えています。

 腸内環境を改善して、潰瘍性大腸炎の治療に結びつけようという考え方が広く受け入れられ始めています。大きくは管腔内の腸内細菌叢を改善していくというものと大腸粘膜の防御作用強化していくという2つに分けられます。

 他に酪酸や短鎖脂肪酸を注腸して大腸粘膜の栄養源として作用させる目的で、一部臨床応用が開始されていますが、独特な臭気の問題や適応可能範囲が下部大腸に限定されることから、治療法としては確立していません。

 腸内細菌叢を改善することで、潰瘍性大腸炎を治療していこうという考え方は更に3つに分けられます。

1.プロバイオティクス    
こちらにも関連記事があります。

 有用菌(例えばビフィズス菌や乳酸菌、一部の酪酸菌など)を服用して、大腸まで到達させて腸内細菌叢に占める有用菌の割合を強制的に上昇させて、腸内細菌叢を改善しようとする考え方です。

問題点として、服用した菌は宿主(患者)との相性などの問題からそのほとんどが腸管を通過して速やかに排泄されてしまい、定着率が非常に低いこと、exogeniousなど特定の菌が過剰に腸管に存在することなどがあります。

2.プレバイオティクス〜GBF
 宿主(患者)が自ら持っている有用菌へ栄養分を供給し、結果として腸内細菌叢を改善するというもの。この代表として、食物繊維などが有効とされています。

 患者が予め持っている細菌に作用し有用菌を増加させることから、効果が確認できるまで比較的長期間連続して食物繊維などを服用することが必要になりますが、GBF以外でも欧米ではオオバコ種皮の繊維などに潰瘍性大腸炎の臨床症状の緩和傾向が認められたという報告もあります。

 従来、わが国では潰瘍性大腸炎患者には、腸管の安静を図るために食物繊維の服用を出来るだけ避けるように栄養指導が成されてきました。確かに食物繊維の作用は自らの難消化性により発揮されるため、場合によっては消化管に負担をかけることにもなりません。
今後は、食物繊維の種類やその物性などを慎重に検討していく必要があります。

 プレバイオティクスであるGBFがプロバイオティクスである酪酸菌により増強されたことから、両者の併用が大腸炎の症状改善にかなり有効である可能性が示唆されています。

3.バンコマイシンやメトロニダゾールなど特定の抗生物質で、clostridum difficileなどの大腸炎の増悪因子とされる腸内細菌を減少させるという方法も臨床応用されていますが、耐性や効果がはっきりしないなどの問題もあり主流とはなっていません。

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GFO

G:グルタミン(9g)
F:ファイバー(15g)
O:オリゴ糖(7.5g)

 経口あるいは経腸栄養管理を行う場合、下痢は重要な問題の1つです。

 院内感染対策が重要な問題となっている現在、安易な抗生物質の使用はさらに耐性菌発生の原因となリ慎重な対策が要求されています

 院内感染症の1つであるクロストリジウム・ディフィリシル感染に対してGFO療法が非常に有効であることが証明されています。

※グルタミン添加の意義(腸管免疫とグルタミン)

 
MOF:multiple organ faiureは、低栄養、高齢、術後など免疫能の低下した場合にしばしば見られます。
感染が引き金になることが多いのですが、感染源が無くても敗血症になることがあり、その原因に腸管内の細菌が血中に入るためと考えられています。

 この現象を
BT:bacterial translocationといい、細菌、毒素に対する腸管のバリアが破綻して起こると考えられています。

 TPNが長期になると腸粘膜は萎縮し、腸管免疫に重要な分泌型IgAやリンパ組織が減少します。一方、腸管のエネルギー源はグルタミンですが、術後などの侵襲下では消費が増加し不足します。

 TPNの中にはグルタミンは含まれていないので、TPNは術後、感染などの病態ではBTのハイリスク因子となります。

 


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2002年6月1日号 No.338

食物繊維の生理作用        関連項目 食物繊維と薬物の相互作用

  
 食物繊維とは、ヒトの消化酵素で分解されない食品中の難消化性物質と定義され、可溶性と不溶性とに分類され、腸管内でそれぞれ異なった生理作用を示します。

主な作用は

1.コレステロールの低下作用
2.食後血糖の上昇抑制作用
3.食物の消化管通過時間の短縮及び遅延
4.保水性ないし「かさ」の向上  
  
  などです。1と2の作用は、可溶性食物繊維の方が優れています。

1.の作用は、特に可溶性食物繊維により、食物中の一部の脂肪と小腸内に排出された胆汁酸を吸着して糞便とともに体外へ排出し、結果として血中コレステロール値を降下させます。

2.の作用は、食物繊維の粘性により、食物の胃からの排出時間を遅延させることによって、腸からの栄養素の吸収を遅らせるためと考えられています。さらに小腸粘膜表面に存在するunstirred water layer(混ざらない水の層)が食物繊維が存在するときには厚くなり、拡散が阻害されて食品成分の消化吸収に影響するとされています。

3.の食物の消化管通過時間は、食物を摂取してからその未消化残渣が糞便へ排泄されるまでの時間で表されます。その作用は、食物繊維の種類や給源などによって物理化学的性質が著しく異なり、どの様な食物繊維が効果的であるかについては統一した見解はありません。

4.の作用は以下の機序が考えられています。

 1つは、未消化の食物繊維により、大量の水分が保持されることによって、腸内容物として糞便量が増加します。またもう1つは、繊維による腸内細菌叢の変化及び細菌数増加も糞便量の増加に大きな影響を与えるというものです。中でも食物繊維が腸内細菌叢によって発酵を受け酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸が産生されます。

 この主な作用は、a.消化管粘膜の血流改善作用、b.上皮細胞の増殖促進作用、c.消化管(特に回腸)の蠕動運動亢進作用など種々の作用を有しています。

4.は食物繊維が一定の水分を保持して水分平衡に達すると、水分子は食物繊維の表面に吸着したり、食物繊維の間隙に侵入したりして容積を増大する、など食物繊維には多くの作用がありますが、その生理効果は、主に消化管に対する影響を介したもので、その物理・化学的性質と密接に関連しています。

*経腸栄養剤による長期栄養管理では、半消化態栄養剤が一般に汎用されています。しかし、半消化態栄養剤には、それ自身に残渣が少ないため、小腸粘膜の萎縮や腸管透過性の亢進によるbacterial translocationによる感染や小腸粘膜の萎縮から水分摂取が不十分となり、下痢や軟便を来す例もまれではありません。そのため臨床現場では、一般的に経腸栄養剤使用時の下痢対策については投与速度・濃度・温度の調節などの使用法によるものや薬物療法が行われていますが、食物繊維を添加すると消化機構を正常化し、下痢の発症防止に有用であるとの報告があります。

     関連項目 
食物繊維と薬物の相互作用

<経腸栄養療法時の下痢>

 日常でよく遭遇する経腸栄養療法時の下痢は、臨床的には、固まらない水溶性の便で(含水分率が75〜80%以上)、回数も経腸栄養剤使用前に比べ明らかに増加(6回以上)し、水部員量として1,000ml/日以上になることで診断されています。

対策
1.患者個々の病態生理に合わせた経腸栄養剤の選択が不可欠です。 脂質や糖質の成分組織の違いから起こる下痢もあるため、成分を知っておくことも必要となります。

2.高浸透圧の経腸栄養剤の使用による場合、使用初期に等張の栄養剤の使用や高張液を希釈して等張にする配慮が必要です。開始時の速度は60mL/hrずつ増量していくことが下痢の予防になります。

下痢が続くようなら、経腸栄養剤を一時休止し、半日から1日程度間隔をあけて等量液で50mL/hr以下の速度で再開します。

3.経腸栄養剤の細菌汚染による下痢の場合、調剤上の衛生管理を徹底させ、細菌汚染の機会を最小限にするように考慮し、各注入用のバッグの再利用を増加させることを慎むべきです。

 経腸栄養剤と消化管粘膜と下痢の関係

 経腸栄養剤は、5大栄養素がバランス良く含まれていますが、通常食に比較して非生理的であるため、腸管粘膜の形態的・機能的低下が起き、それによって下痢あるいは便秘を起こします。

 食物繊維摂取による小腸粘膜細胞の増殖促進には、消化管ホルモンの他、短鎖脂肪酸の関与が示唆されています。

               {参考文献}医薬ジャーナル 2002.5 p188


<医学・薬学用語辞典>

 エクソンは こちらです。

 

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