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1996年7月15日号 203   

出血性大腸菌とVero毒素

O157:H7 報告(第2回)

  O157:H7の感染経路は北米では牛肉やひき肉料理による経口感染が多いとされています。
 ウシで3.7%、ブタで1.5%にO157:H7が検出され、これらの肉の精製過程での混入が考えられています。
 
 わが国では、1990年に浦和の幼稚園で発生した症例が、井戸水を介しての感染であったことが判明しています。  

 出血性大腸炎は、Vero毒素産生大腸菌の産生する毒素によって発生します。(抗生物質起因性大腸炎にも出血性大腸炎という名称の疾患が存在しますが、全く別の疾患です。)

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 Vero毒素産生大腸菌が体内に侵入した場合その種類により出血性大腸炎を起こす頻度は異なっています。また同一血清型の菌でも症状に個人差があり、出血性大腸炎を起こす例、下痢のみで終わる例、無症状な例と様々です。しかし一般にO157:H7以外では、下痢のみで終わることがほとんどです。出血性大腸菌の原因菌としては、他にO26、O111、O128などがあげられています。

 好発年齢は幼小児や老人で、これらの年齢層では重症化しやすく、潜伏期は平均3〜4日罹病期間は8日間前後です。代表的症状は血便と腹痛で、血便と腹痛で、血便はわずかに血液が混入する程度のものもありますが、典型的例ではほとんど血液のみの状態となり“all blood no stool”と表現される状態となります。

 腹痛は強く、abdominal crampと表現され、頻回の血便の出現とともに増悪する傾向にあります。

 嘔気、嘔吐をなどを伴うこともありますが、他の感染性腸炎と異なり、発熱はないかあっても軽度で、38℃以上の発熱を伴うことは稀です。

 出血性大腸炎やHUS(前号参照)を認め、O157:H7が検出されれば腸管出血性大腸菌感染症と診断されます。しかし明確な症状があり、本症が疑われているにもかかわらず、培養でO157:H7などの菌が陰性の場合には以下の点に注意する必要があります。
 
・ 菌は感染10日後には50%が消失
・ 感染1週間前後に発症するHUSでは、その発症時の菌検出率は高くない。
・ 抗生物質が使用されていれば、より低率

 つまり、O157:H7などで出血性大腸炎やHUSが起こっていても時期によっては、菌が検出されないことがあります。その場合には、抗O157:H7凝集抗体価上昇の有無が診断の助けとなる場合があります。

<広島県での治療指針より>

 今回分離された菌は、アンピシリン(ビクシリン)、ホスホマイシンに耐性の可能性があるため、乳幼児にはセフェム系、学童、成人にはニューキノロン系抗菌剤で治療を開始。
 無症状者かつ検便陰性者に対して予防与薬はしない。  
 食品の保存、運搬、調理に当たっては、衛生的に扱い、汚染が心配されるものについて は、十分に加熱を行う。

 手や調理器具を流水で十分に洗う。

 飲料水の衛生管理〜特に井戸水や受水槽に注意

 保菌者が入浴する際は、乳幼児との混浴を控える。

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◎静注用グロブリンのベロ毒素抗体

 静注用グロブリン製剤(ベニロン等)にもベロ毒素抗体(VT1,VT2)が含有されていますが、その濃度は様々で一定していません。

 国内健康成人での平均値は約32.5〜500ng/mlで、高い抗体価を含有する製剤は、O157による腸管出血性大腸炎感染時の重症化予防ないし治療剤として有用な可能性を示唆しています。(大量静注療法で有効であったとの報告もありますが、まだ確立された結論は得られていません。)

 また、臍帯血中の抗ベロ毒素抗体は、健康成人血清中よりはるかに高い値として検出されます。この抗体価は生後急激に低下しているものの、7〜8ヵ月まで維持されており、測定した年齢層の限りでは9ヵ月から2歳1ヵ月までの小児が最も低い値となっています。

           第67回日本感染症学会総会 96.4より


<<用語辞典>>

人食い菌
ビブリオ・ブルニフィカス


出典:朝日新聞朝刊 2000.7.25等

 ビブリオ・ブルニフィカスは、食中毒菌である腸炎ビブリオの1種

Vibrio vulnificus(V.v)  〜vulnificusとは「創傷に関わる」という意味

 健康な人では発病しませんが、肝硬変など重い肝臓病の人に感染すると、数時間から数日後に手足の激痛に始まり急激な壊死を起こします。

 死亡率は約70%、昨年(1999年)は少なくとも4人が死亡

 菌は海水に住み、水温が20度を超すと増殖します。近海の表面海水温が高い年は広範囲に患者が出る傾向があります。1978年以来約100例が報告されています。

 ビブリオ・ブルニフィカスは、原因(汚染された生の魚介類)と危険因子(肝臓病)がはっきりしているので対策はむしろとりやすいとされています。

 肝硬変などの重い肝臓病の人には主治医が「夏場は魚介類は生で食べないように」と食事指導すれば、感染を減らすことが出来るはずです。

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 感染経路は、経口型と創傷型がありますが、9割は経口感染で発症前2日以内に生の魚介類を食べた既往があります。死亡率は70%と高く、その半数以上が発症後3日以内に死亡しています。さらに1ヶ月目の死亡率も高くなっています。

 経口感染型は創感染型より明らかに予後が悪く、7〜9月に集中して発症し西日本に多く見られます。

 夏に肝硬変の中高年男性が生の魚介類を摂取後または海水に接触後、発熱と下肢の疼痛、蜂窩織炎様症状を訴え血圧低下があれば本症を疑います。

<治療>

 初期に48時間はEmpiric therapy。ミノサイクリン、テトラサイクリン系、第3世代セフェム系、カルバペネム系、ニューキノロン系などが有効です。

 壊死が急速に拡大する場合はデブリードマンを出来る限る早期に行います。

 γグロブリン製剤、肝庇護療法、DICの治療、エンドトキシンショックによるMOF(多臓器不全)に対してはエンドトキシン吸着法、腎不全に対しては、血液透析を行います。

 救命率は、抗菌剤の開始時期が早いほど、発症から壊死組織の除去までの期間が短いほど白血球数が多いほど高いとされています、

 治療上重要なポイントは、診断が買う亭後は治療薬による劇症肝炎やMOFの併発を防ぎ慢性期での死亡を避けるためにすべての薬剤の種類と量の選択を慎重に行うことです。

 出典:治療 2002.3


2003年4月15日号 No.358

猫ひっかき病    関連記事 ズーノーシス

CSD:cat scratch disease

バルトネラ・ヘンセラ

出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.5等

 猫ひっかき病は、猫に引っかかれたり、咬まれた傷が原因で、その部位の所属のリンパ節の腫脹や発熱を主徴とする感染症です。

 最近、HIV感染者の細菌性血管腫や肝臓紫斑病の原因菌と判明したグラム陰性桿菌のバルトネラ・ヘンセラBartonella henselaeが本感染症の病原菌であることが特定されました。

 この菌は猫の赤血球内に感染しますが、猫自身は不顕性で症状は出現しません。国内でも猫の約15%がこの菌の抗体陽性で猫の血液からの菌分離率は約9%という報告があり、猫蚤(ノミ)が感染を媒介します。

 通常は保菌した猫の口腔や爪に常在する本菌が、傷からヒト体内に侵入しますが、猫との単なる接触や猫ノミに刺さされることによっても発症します。

 本症の発生は、猫ノミの繁殖する夏を経て、秋になり子猫が増えるに伴って増加すると考えられています。

<症状>

 症状は受傷後1〜3週間で発現します。約半数は菌の侵入部位が虫さされに似た症状となり、一部は化膿しますが、数日〜数週間で治癒します。

 リンパ節腫は一側性で、痛みを伴い数周〜数ヶ月間持続します。多くは発熱、悪寒、倦怠感、食欲不振、頭痛等を伴いますが自然治癒します。

 希に合併症として脳症、パリノー症候群(結膜炎と耳周囲リンパ節腫)、肉芽腫性肝炎、血小板減少性紫斑病、視神経炎、網脈絡膜炎があります。

<治療>

 感染症が遷延化している場合や、中等症以上では、抗菌薬;バクタ、RFP、ゲンタマイシン、ミノマイシン、シプロキサン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン等が有効とされています。

<臨床診断>

1)動物(通常ネコまたはイヌ)との接触の既往、掻傷または初期に皮膚または眼の病変を有する。
2)ネコひっかき病皮膚反応陽性。
3)他の原因のリンパ節腫瘍が否定される。
4)生検リンパ節の特徴的病理学的所見(初期:リンパ様濾胞と胚中心の肥大,中期:リンパ節構造の変形,被膜の破裂,結節様巣まれに多核巨細胞,末期:柵状配列した上皮様細胞)などが重要


 予後は良好で腫脹リンパ節は4〜6週で退縮します。

<備考>

 国内での猫ひっかき病の報告件数は、欧米に比べて 極めて少ないのは、日本では人畜共通感染症(Zoon-s:ズーノーシス)に関する知識が薄く、本症を診断できないことが多いためと思われます。

 猫との接触歴やそれが無くとも不明熱、反復性発熱、リンパ節腫脹の原因に本症を疑う必要があります。

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