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感染症新法について

1999年6月15日号 270  

   伝染病予防法は制定以来100年を経ており、近年の感染症を取り巻く状況の大きな変化に対応するため伝染病予防法、性病予防法、エイズ予防法を廃止、統合して「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」“感染症新法”が平成11年4月より施行されています。

 この法律は、感染症予防での国際標準的な考え方に基づいたものとなっており、その特徴は、予防を重視する事前対応型行政に転換し、感染症に罹患した患者の人権についても配慮したものになっています。

 具体的には、感染症類型を再整備し、感染力や重篤性によって1〜4類に分類し、未知の感染症に対しては「新感染症」という分類を設けて対応することになります

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 1〜3類の感染症には、患者の行動制限によって感染の広がりを防止する疾患が含まれ、3類の感染者は職業的に伝染させる恐れのある業務への従事が制限されます。

 4類の感染症には感染者の行動制限が不可能なものや、不必要なものなどが含まれ、蔓延防止処置に重点がおかれます。この4類には、C型肝炎のような通常の生活では感染を起こすことのないものやMRSAのように市中ではみられない感染症も含まれています。

 感染者の入院については、旧来の伝染病予防では、入院勧告・入院命令を受けた患者は、自分の意思に関係なく入院しなければなりませんでしたしかし、新法では、専門家による“感染症の審査に関する協議会”などで入院の必要性を検討される機会を得ることができます。

 医療体制についても、特定感染症指定医療機関や都道府県知事の指定する第1種、第2種感染症指定医療機関を類型化し、適切で良質な医療を提供する体制が整備されます。また行政のサーベイランスなどを広く関係者へ情報公開していくことになっています。

1類感染症〜エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱;原則として入院、消毒等の対物措置;第1種感染症指定医療機関

2類感染症〜急逝灰白髄炎、コレラ、腸チフス、細菌性赤痢、ジフテリア、パラチフス

;状況に応じて入院、消毒等の対物措置;第2種感染症指定医療機関(当院)

3類感染症〜腸管出血性大腸菌感染症;特定業務への就業制限、消毒等の対物措置;一般の医療機関

4類感染症〜インフルエンザ、ウイルス性肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻疹、マラリア、MRSA感染症、その他;発生状況の収集、分析と結果の公開、提供;一般の医療機関

新感染症;厚生大臣が知事に個別に技術指導・助言を行う;1類感染症に準じる。;特定感染症指定医療機関;1〜3類感染症以外で緊急の対応の必要が生じた感染症についても、「指定感染症」として、政令で指定し、1年限りで1〜3類の感染症に準じた対応を行う。4類感染症は省令により追加

『感染症予防の基本的な方向』

1.事前対応型行政の構築

2.従来の集団防衛に重点を置いた考えから、国民個人個人での予防及び感染症の患者に対する良質かつ適切な 医療の提供

3.人権への配慮

4.健康危機管理の観点に立った迅速かつ的確な対応

5.感染症対策での国際協力

6.予防接種

7.その他:国、公共団体、国民、医師等の果たすべき役割


だまされないための知恵(2の法則、3の法則)

バイアス(6)

 従来の統計データというものが、いかに信頼できないかということについて今まで述べてきた訳なのですが、では、どのようにすれば、だまされないのでしょうか。

 2の法則というのがあって、これは、経験から生まれた法則なのですが、「発表された数字から2を引いたり、2を足したりしてみなさい。」というものです。

 ある学校で自殺者が3人出たとします。このとき2を引くと1です。1であるならたまたまと考えられ、とりたてて騒ぐ必要はありません。

 また、ある都市で自殺者が2倍に増えたとします。%で表すと100%アップになり、新聞記事になります。しかし生データで見てみると、昨年の自殺者は3人で、今年は6人でした。ここでも2の法則を適応すると、6人を4人としますから、自殺者が3人から4人になっただけで、1人くらい増えても記事にはなりません。

 また、3の法則というのもあります。これも2の法則と同様、経験から生まれた法則です。これは、薬の副作用の発現する確率と関係している法則です。

  「副作用の出た症例が0なら安全か?」

 薬を飲んで副作用は発現した100例中0なら、副作用の現れる確率は0なのでしょうか?

 この場合、100例中0なら、最大で3/100=3%の割合でその副作用が起こる可能性があるとされています。これが「3の法則」です。

 n症例に試して発現症例が0例であるとき、発現率の95%信頼区間の上限は3/nであるということです。

 症例数が30例以上であるときには、良い近似であることが知られている。発現例が無ければ発現率は0%というのではなく、高めに見積もれば3/nある。

 割合(%)のデータが示されているときには、分母がいくらかに注意する必要があります。我々医療関係者では、多くの場合、症例数が分母に当たります。症例数が3〜5程度では、信頼区間は限りなくゼロに近づきます。つまりそのデータは信頼できないのです。


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ズーノーシス(動物由来感染症)

2003年2月1日号 No.354

 動物由来感染症は、人畜共通感染症(ズーノーシス)ともいわれ、これまでに考えられていた以上に存在することが明らかになっています。

 エボラ出血熱、狂牛病(BSE)等世界を震撼させた感染症がズーノーシスで、他にもオウム病、Q熱、パスツレラ症などに関しても新知見が判明し始めてきています。

 1999年に「
感染症法」が施行され、その中で「動物由来感染症対策」が大項目として位置づけられました。その中で、検疫の充実、各疾患の発生件数の把握等の実際的な改善と機動性が盛り込まれています。

 また、新たな問題点として、ズーノーシスのボーダーレス化が挙げられています。BSEのようなDNAもRNAも持たない225程度のアミノ酸が原因物質であるような従来の感染症の概念では推し量れないようなものまで、その範疇に入ってきている上に、エボラ出血熱のように、本来ローカルな感染症が人口増加、食糧不足等の社会環境の変化によって大規模化しています。

<ペットによる注意すべきズーノーシス>

* Q熱(イヌ、ネコ:リケッチャ科)

 急性では不明熱、インフルエンザ様症状、気管支炎、肺炎、肝炎、髄膜炎。慢性では肝炎、心内膜炎等の病状を示します。慢性疲労症候群のように不定愁訴があり、うつ病、自律神経失調症などと診断されることもあり、潜在的に多数の患者が多科にわたって存在すると思われます。

 急性ではミノサイクリン、ドキシサイクリン。慢性では、テトラサイクリン系とリファンピシンを併用しますが効果はあまり期待できません。

* オウム病

 オウム、インコが保菌しているオウム病クラミジアによりインフルエンザ様症状を示します。

軽症では、クラリスロマシン、中〜重症ではミノサイクリンを点滴静注します。

* パスツレラ症

 ペットによる掻き傷、咬み傷、接触による皮膚の化膿、気道感染、髄膜炎等潜在的に多くの症例が存在します。

 本感染症は主にヒトを除く哺乳動物の口腔内に常在するグラム陰性短桿菌であるパスツレラ属菌により起こり、呼吸器感染(50%以上)、咬・掻傷感染症(約30%)、敗血症、食中毒様症状等多彩な病態を示す感染症です。

 呼吸器感染では、気管支拡張症、陳旧性結核などの基礎疾患のある患者からの分離例が多く、繰り返し感染もあります。

 咬・掻傷後約30分から2,3時間で激痛を認め、蜂窩織炎となり著明に腫脹します。糖尿病のある患者でこの傾向が著しく注意が必要です。

 40歳代からの患者の増加、高齢化、ペット飼育の増加傾向などにより、今後とも本感染症は増加すると考えられています。


<治療>  治療は、トシル酸スルタミシリン(ユナシン)を基本とします。高齢者、基礎疾患のある患者ではユナシンS注の早期に用いることが重要とされています。

<予防>

 ペットと過度に接触しない。寝室には入れない。ネコで100%、イヌでも約75%と身近な動物に菌保有率がきわめて高く、死亡例もあることから、もっと注目すべき

その他代表的な動物由来感染症

狂犬病(野生動物)、
ネコひっかき病ネコ、イヌ)、サルモネラ症(ミドリガメ、イヌ、ネコ)、ライム病;ボレリア症(シカ、野ネズミ)、トキソプラズマ症(ネコ、ブタ)、エキノコックス症(キタキツネ)、レプトスピラ症(イヌ、ネズミ)

{参考文献}臨床と薬物治療 2003.1 2003年2月15日号


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スポーツと白癬症

2004年4月1日号 No.380

 わが国での足疾患の実態を探る目的でJFW:Japan Foot Week研究会が組織され、1999年と2000年の5月第3週に皮膚科外来疾患での足疾患に関する無作為の調査が行われました。その結果、高齢者、男性、高コレステロール血症、靴を長時間履く、ゴルフ、同居者家族に真菌症あり、などが足、爪白癬のリスク要因であることがわかりました。

 また、コンタクトスポーツ(格闘技等)の選手に数年前から見られるようになったTrichophyton tonsuransによる頭部白癬、体部白癬が全国に蔓延しています。

 白癬と患者が行っているスポーツの関連を調べた結果、ゴルフと正の相関関係が認められました。一般にゴルファーは雨をいとわずプレーするので、湿った靴を長時間履くことになります。しかも、プレーの後の入浴で足拭きマットから白癬症を拾い、そのまま靴下・靴を履き、菌を付着したまま帰宅します。その為、他のスポーツより足白癬に罹患しやすいと思われます。

* Trichophyton tonsurans

 現在、米国や英国などでは、頭部白癬の原因菌として、Trichophyton tonsuransが最も分離頻度が高く、特に米国では都市部の黒人やヒスパニック系の子供に数多く認められています。

 これまで日本では、Trichophyton tonsuransはほとんど見られませんでしたが、3年ほど前からこの菌による頭部白癬や体部白癬が、東北地方や北陸地方などの柔道部で散発的に集団発生し、さらに2002年から2003年にかけて、日本全国の高校や大学の柔道部での発症が数多く報告されるようになりました。

 Trichophyton tonsuransは、レスリングや柔道などのコンタクトスポーツの試合を通じて、海外からもたらされたもののようです。これらのスポーツで強い選手は国内外での国際試合に出場する機会も多く、国内拡散の介在者になっている可能性が指摘されています。

 小学生の柔道愛好者だけでなく、家庭内でもTrichophyton tonsurans感染が確認されていて、近い将来、本菌が頭部白癬症の原因菌のトップになるものと予想されています。

 Trichophyton tonsuransによる頭部白癬は、毛が根元で切れ、残った毛が黒い点(ブラックドット)に見えます。しかし、本菌による頭部白癬は症状に乏しく、よく地肌を調べてもブラックドットが1〜2個程度のこともよくあります。

 そのため、専門医でもTrichophyton tonsurans感染症を念頭に置いていないと、皮疹を見落とすことがあります。また、症状がなくても、櫛やヘアブラシで髪の毛をとかしてから培養すると、本菌のコロニーが観察されることもあります。

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* Arthroderma Benhamiae

 1980年以前には、日本にはないとされていたArthroderma Benhamiaeが、最近ペットのウサギやモルモット、ハリネズミの針毛から分離されており、すでに国内に拡散していると考えられています。

 これらの皮膚糸状菌はペットを介して人に寄生し、生毛部白癬や頭部白癬を生じさせます。

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* 足白癬と糖尿病は無関係

 基礎疾患では、高コレステロール血症と足・爪白癬での正の相関関係が認められましたが、従来から信じられていた糖尿病との相関関係は、爪白癬では見られるものの、足白癬単独では認められませんでした。

   {参考文献} 臨床と薬物治療 2004.2


医学・薬学用語解説(B) Breakthrough painはこちらです。


<<医学・薬学用語解説>>

偏性細胞内寄生菌


 生きた細胞の中でだけ増殖できる細菌

 リケッチア、好酸菌、チフス菌、リステリアなど。結核菌もヒトの細胞内で増殖する偏性細胞内寄生菌です。

 通常、ウイルスよりも大きくのですが、一般細菌より小さく細胞内に寄生しているため細胞内への透過性の高い脂溶性のテトラサイクリン、マクロライド、クロラムフェニコール、リファンピシンが有効です。

 水溶性のβラクラム系やアミノグリコシド系は無効です。

  出典:薬事 2003.3


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寄生虫症の現状

 2004年11月1日号 No.394

 急速にグローバル化が進んだ現在、海外渡航者、来日外国人、輸入食品などによって国内に搬入される輸入寄生虫症の増加が大きな問題となってきており、ときに死亡例も発生しています。

 しかし、寄生虫症の診断は難しく、また、薬価基準に収載されている駆虫薬も限られています。

○ 主な駆虫剤

*コンバントリン錠(パモ酸ピランテル) 蟯虫、回虫、鉤虫、東洋毛様線虫

*スパトニン錠(クエン酸ジエチルカルバマジン)   フィラリア

*ビルトリシド錠(プラジカンテル)

 肝吸虫症、肺吸虫症、横川吸虫症 (住吸虫症:外国では承認)

*メベンダゾール 鞭虫症

*ストロメクトール錠 イベルメクチン

 管糞線虫症

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 抗寄生虫剤は抗菌剤、抗ウイルス剤と異なる面を持っており、基本的な抗寄生虫剤の副作用は一般に抗菌剤よりも強いとされています。

 抗寄生虫剤以外の薬を使用する場合としては、虫体の死滅、抗原の放出によるアレルギー症状を抑えるために抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、有鉤嚢虫症で抗寄生虫剤を使うときに生じる頭蓋内圧亢進を抑えるためのステロイド剤、腸管寄生条虫症でのガストログラフィン駆虫法などがあります。

 非薬物療法としては病変部(腫瘤)の摘出、凍結療法、虫体を細い棒に巻きつけて引き出す方法などがあります。

○ 険適応外の主な駆虫薬

・原虫症

 アメーバ赤痢:フラジール(メトロニダゾール)
 ランブル鞭毛虫  〃  アフリカトリパノーマ症 ベナンバックス
 トキソプラズマ ファンシダール錠

・吸虫症(住血吸虫症、肝吸虫症、横川吸虫症、肺吸虫症) ビルトリシド錠

・条虫症 有鉤条虫症 ガストログラフィン
     無鉤条虫症 ビルトリシド錠

・線虫症
 回虫症、鉤虫症 フラジール錠
 常在糸状虫   フラジール錠
 オンコセルカ症 ストロメクトール錠

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※ 日本寄生虫学会のホームページ
  http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/welcome-2.html

※抗マラリア薬などの希少薬品 (オーファンドラッグ)の入手方法
 http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/didai/orphan/index.html

  {参考文献} 治療 2004.10

<寄生虫感染の原因となるもの>

 食品、飲料水、経皮感染、性行為、昆虫(蚊)、ダニ、ペット(イヌ、ネコ、トリ)
 輸入感染症


医学・薬学用語解説(P)  Patient's Eyesはこちらです。

 

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