メインページへ

1998年11月15日号 257

TPNとtranslocation

  BTL(bacterial translocation)  単にBTと呼ぶ場合も有ります。  関連項目 GFO

   腸管内には一般に100種類、100兆個以上に及ぶ多量の細菌が存在しますが、正常な腸管粘膜はこれらの細菌が体内に侵入するのを阻むバリアー機能を備えています。しかし、特殊な状態では、このバリアー機能が破綻し、腸内の細菌が全身へ侵入することがあり、この現象がBTL(bacterial translocation)と呼ばれています。


 感染源が同定できない敗血症状態を説明するのに腸管を細菌の供給源とするtranslocationの仮説は非常に魅力的であり、今日まで盛んに研究が行われています。

 translocationが起こることは、すでに19世紀から認識されていましたが、この概念が広く注目されるようになったのは、感染源不明の敗血症・sepsisや、多臓器障害の原因として、常に多数の細菌が存在する腸管が着目されたことによります。そして、重症患者の栄養管理の主役を担ってきたTPN(完全静脈栄養法)の主要な弊害としてこのtranslocationが論じられるようになってきました。


 TPNがtranslocationを促進する機序は、腸管粘膜の形態的・機能的な変化に起因する腸管の物理的、免疫学的バリアー機能障害のためであると考えられています。TPNを行うと、小腸で粘膜、筋層を含めたいわゆるgut massの減少が認められ、絨毛の短縮、細小化、酵素活性の低下が認められ、さらに腸管の免疫学的なバリアー機能の中核をなすと考えられている腸管由来のリンパ組織の細胞数の減少や、分泌型IgAの減少も見られます。ヒトではこの変化は比較的軽微で、2〜3週間のTPNを実施してはじめて起こるといわれています。

 このような変化は、食物が腸管内を通過しないという与薬経路の違いが主な原因であると考えられますが、TPNには腸管粘膜の重要なエネルギー基質であるグルタミンが含まれていないなど与薬される栄養素に帰結する問題も、一方では指摘されています。実際、TPNに含まれていないグルタミンを輸液に加えると熱傷動物のtranslocationが抑制されます。

 主に外傷患者を対象とした臨床試験で、早朝から経腸栄養を施行すると経静脈栄養を施行した患者に比べ、その後の肺炎や腹腔内膿腫などの感染性合併症が有意に抑制されるなどの報告があり、TPNではtranslocationが促進されたために、感染が増加したのではないかとのtranslocationの仮説を支持する結果も得られています。

 細菌が処理される過程では、宿主由来のサイトカインなどの種々のメディエータが産生され、これがさまざまな生態反応を惹起させることも明らかになってきました。したがって、近年、sepsisの概念から細菌感染の有無にとらわれないSIRS(systemic inflammatory response syndrome)という概念が提唱されtranslocationの概念も、腸管壁を通過して全身へ移行した細菌による感染の成立という古典的な概念にとどまらず、この過程が引き金となって起こるメディエーター産生、あるいは好中球の活性化などという新しい概念に立脚して、さらに研究を進める時期にきています。

 腸管は消化吸収臓器であるだけでなく、代謝臓器であり、また生体内での最大級の免疫臓器でもあります。腸管をサイトカイン、あるいは活性化された好中球などの供給臓器として認識していくことで、動物臓器と臨床データのギャップを埋める合理的な解釈が可能となっていくのではないかと考えられます。

{参考文献}JJSHP  1998.10

 臨床的にsepsisと考えられる症例で、感染源が同定できないことは、重症患者管理で経験することであり、この頻度は、いわゆる敗血症の患者の20〜30%以上もあると報告されています。

 これまで、translocationは広範囲な熱傷、出血性ショック、エンドトキシン血症、急性膵炎などの重篤な病態下で起こることが多くの動物実験で確認され、elemental dietやTPNなどによっても促進され
ることが示されています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<寝たきりの障害>〜医療の現場で寝たきり患者は作られている。 関連項目 GFO


医療とはチューブ(カテーテル)の数を減らすこと。!

 カテ熱と称されていた病態で、実際は脆弱になった腸管壁バリアーより直接病原体が血中へ侵入するBTL(bacterial translocation:上記)という機序により敗血症を引き起こしていることも報告されています。

院内フォアグラ症候群

    寝たきり→運動不足→中性脂肪過剰による脂肪肝

院内鉱山病症候群

 IVH内に混合されていたエレメンミックなどの微量元素中、マンガン含有量2001年まで過剰で、特に小児外科領域で臨床的に医原性パーキンソン症候群の報告があり、大脳基底核に沈着したマンガンによるT1highのMRI所見が認められています。

 この医原性パーキンソン症候群により寝たきり状態に拍車がかかる。

                 出典:治療 2003.5    


<<免疫学の誤り>>
口呼吸は万病の元 3

 HLAについては、かつてシリーズ記事を組んでいたので(N0.151〜160)、筆者としては少しは分かったつもりになっていたのですが、西原先生の説にショックを受けてしまいました。

 HLAとは、体内に入った異物(自分でないもの非自己)を排除するためのシステムだと理解していたのですが、そうでもないようなのです。例えば、寄生虫は明らかに非自己ですが、HLAでは排除されません。回虫やサナダムシなどは非自己ではなく自己だという申し合わせが自己非自己の免疫学(旧来の免疫学)ではなされているのです。

 また、サメなどでは、主要組織適合抗原を持っていませんし、
免疫寛容などという言葉でごまかしている部分もあります。旧来の免疫学の最大の弱点は、すべて目的論で論じている点にあります。

 免疫系も主要組織適合抗原も自己非自己を区別するためのシステムではなかったのです。主要組織適合抗原すなわちHLAは血液型物質と同様に白血球の膜の表面に存在する蛋白質で、細胞レベルの消化システムと西原先生は言い切っておられます。

 脊椎動物のうち陸に住み、重力の作用を受けたものだけが造血巣が脾臓から骨髄腔へ移動し、同時に主要組織適合抗原の遺伝子が発現したのです。

 口呼吸により、白血球が無害の咽頭部常在菌をかかえると白血球の核酸の性質が若干変化するとともに、その結果として白血球の膜表面の構造がわずかに変化します。 この状態で白血球のHLAの機能が障害され、その結果機能を終えた血球や腫瘍細胞、異種蛋白質に対する細胞レベルの消化が不調となり、不消化な老廃物が痒疹を生じたり、腫瘍細胞が生き残ったりする結果、免疫病が発症します。

 主要組織適合抗原をもたない生物は沢山います。その中のある種のものは全く無症状で我々の体の中に共存できますが、あるものは役立つこともあり、あるものは害をもたらします。

 我々は、今まで考えていたよりも多くのウイルスや細菌と共存しています。抗体を産生して、一度感染したら二度とかからない「いわゆる免疫」の概念の出来た病原体は、確かにいますが、かなり数が限られています。

(続く)→ 
口呼吸は万病の元(シリーズ)


追加記事

免疫寛容

出典:治療 1997.11


胸腺内での自己反応性T細胞

 我々の体内を監視しウイルス感染細胞や体内に発生した癌細胞、さらには非自己由来の細胞を特異的に識別排除するキラーT細胞や抗体の産生を調節するヘルパーT細胞などのT細胞群は、胸腺という臓器内での成長過程で自己成分との反応性を失うものと想定されています。

 こうした自己反応性の喪失、すなわち「免疫寛容」を誘導するメカニズムとしてこれまで想定されてきたものの第一が、胸腺での自己成分に反応T細胞クローンの消去です。

 一般に成熟したαβ型レセプターを有するT細胞は、その表面にCD8あるいはCD4というMHC分子と結合する分子を有し、前者はTMHC分子のα3ドメインに、また後者はクラスUMHC分子のβ2ドメインに接着しMHC分子内のペプチド情報をキャッチします。

 これに対し未熟な胸腺内のT細胞は、その表面にCD4およびCD8の2種の異なるMHC結合分子を有し、胸腺内の細胞上に表出しているMHC分子からの情報を受け取ります。この場合MHC分子からの情報をキャッチできないTCRを有した細胞群、あるいは自己抗原の情報により活性化してしまった細胞群は胸腺内で消去され、詳細なメカニズムは不明ですが自己抗原以外の抗原情報をMHC分子とともにキャッチし得るT細胞のみが、選択的に成熟型のCD4あるいはCD8分子のみを表出した成熟型T細胞として末梢血へ放出されるものと想定されています。

 おそらくこのクローン消去が、生体構成成分の破壊を防ぎ自己の統御を維持し「免疫寛容」状態を維持するための主たる機序と考えられますが、この他にもその固体にとって好ましくない免疫応答の抑制に関与するものとして「サプレッサーT細胞」の存在が推測されています。

 B7などのco-stimulation分子からの刺激が入力されない場合に誘発される「アナジー(アネルギー):anergy」と呼ばれる現象、すなわち、特定の抗原に対するT細胞の反応性を選択的にかつ一過性に失わせてしまう回復可能な現象もこの「免疫寛容」の誘導・維持に関わり、自己の成分に対する異常な応答性の制御に一役かっているものと推測されます。

 以上のように体内を監視し異物の特異的排除にあたるT細胞は、その発達段階において胸腺内で通常の自己抗原分子に対する寛容状態を獲得するとともに、末梢血中に放たれた後も、抑制性T細胞やアナジーを介して自己成分に対する応答性が生じないように巧妙に制御されています。

 それにもかかわらず、自己成分に対する種々の抗体が産生され、自己細胞・組織の破壊を伴う多彩な自己免疫疾患が誘発されます。こうした原因として近年注目を集めているのが、分子擬態;molecular mimicryという概念です。

 T細胞はウイルスなど異物分子を直接認識することはできず、その異物のペプチド断片が細胞上のMHC分子とともに提示された状態のみに応答します。

 通常このペプチド断片は10個程度のアミノ酸から構成されたものであることも判明していますが、もしウイルスなどの微生物由来のペプチド構造が生体構成成分のアミノ酸配列に酷似していた場合、微生物を制御するために活性化したT細胞が子の自己の成分を提示した自己細胞を破壊する可能性に着目したのが、分子擬態の概念です。

 微生物の侵入などに際し多くの体細胞が破壊され、その産物が体内から排除される場合などを想定してみると、異物と自己成分との構造類似性が存在した場合、自己反応性T細胞の出現のみならず、自己の構成要素に交差反応性を示す自己抗体が産生されることは容易に起こり得るものと推察されます。

 種々のウイルス感染に伴い「風邪」様の症状が誘発されることを考えた場合、自己免疫疾患が「風邪」様症状を引き金として発症するというこれまでの分子擬態の概念を反映しているのかも知れません。

 事実、リウマチ様関節炎:RA患者の髄膜液中には、EBウイルス由来の糖蛋白あるいは大腸菌由来の熱ショック蛋白内部に存在する構造を特異的に認識するヘルパーT細胞が存在し、このT細胞は自己の滑膜細胞に対し交差障害性を示すことが分かってきました。またインスリン依存性のT型糖尿病:IDDMをコクサッキーウイルスやインフルエンザウイルス由来の蛋白に応答するヘルパーT細胞が誘発することなどが判明しています。

 すなわち、微生物を排除するために活性化された免疫システムが、自己細胞に対し交差障害性を発した結果、自己組織の持続的破壊を伴う自己免疫を誘発することが明らかとなってきました。

 こうした自己免疫疾患は、主としてTh1型のヘルパーT細胞およびCD8CTLによる細胞性免疫応答に起因するものと、Th2型のヘルパーT細胞およびB細胞を介した自己抗体産生による体液性免疫に起因するものとに大別されます。

 前者の代表的な疾患としては、上述したRA,IDDMの他に多発性硬化症:MSや強直性脊椎炎などが知られており、特にMSの実験モデルとしての実験的自己免疫性脊髄炎:EAEの研究は、多くの自己免疫疾患解明に有益な情報を提供しています。

 一方後者の自己抗体としては、全身性紅斑性狼瘡:SLEでの抗核抗体(抗DNA抗体)をはじめ、特発性心筋炎でに抗ミオシン抗体、尋常性天疱瘡での抗desmoglein3抗体などが知られているが、特に細胞表面のレセプターに対するものが様々な病態を誘発することが分かってきました。

 特にTSHRに対する自己抗体と誘発される疾患との関係は詳細に検討されており、TSHRに結合し甲状腺ホルモンの大量分泌を促す甲状腺機能亢進症(Graves' diswase)の原因とされるThyroid-stimulating antibodies(TSAs)、逆にレセプターブロッカーとして作用しTSHの結合を阻止し甲状腺機能低下(粘液水腫)を誘発するTSH-binding inhibitory immunoglobulin(TBU)、更にはTSHRに結合し甲状腺の発育を促すgrowth factorの分泌を促進し単純性甲状腺腫を引き起こすGrowth antibodiesなどの存在が知られています。

 なお甲状腺機能低下症を誘発する自己免疫疾患として有名な「橋本病」は、TSHRではなく甲状腺を構成するヨード結合蛋白であるThyloglobulinに対するT細胞による細胞性免疫応答が症候に強く関与することが分かってきました。

 以上のように自己免疫疾患は、自己抗体自体が成因として強く作用する場合と、分子擬態などを介して自己成分との反応性を獲得したT細胞が中心となった組織破壊型を呈する場合とに大別されます。特に後者の組織破壊型T細胞としてはTh1型のものが多く、次に示すようにこの細胞を無症状の固体に移入することによって類似の自己免疫疾患を誘発できることが、動物実験などで確認されています。

 EAEは、ミエリン塩基性蛋白(MBP)内に含まれるエピトープを特異的に認識するCD4Th1型のヘルパーT細胞によって誘発され、このヘルパーT細胞を無症状の同系マウスに投与したところ、多発性硬化症(MS)に酷似した神経症状と脱髄を示す組織所見が得られたとのことでした。

 この際、このヘルパーT細胞を疾患から回復したマウスより採取し、無症状のマウスに移入した場合にも類似の症候が観察されたことから、回復マウス内には発症を回避するシステムが確立された可能性が推測されました。

 こうした知見に基づき、MS患者より得たMBP特異的CD4Th1型のヘルパーT細胞を試験管の中で増殖させ、これをワクチン抗原の如く考え放射線照射後に患者の胎内に戻したところ、病状の進行が止まり患者の体内からこのヘルパーT細胞の制御能を有するCD8T細胞が誘導されたことが報告されています。

 同様に疾病の誘発に関わる自己抗体を失活させたものを用いうることによって、その抗体の作用ならびに産生を制御することができるかも知れません。


メインページへ

自然免疫
Toll-like Receptor;TLR


 哺乳動物の免疫系は、自然免疫と獲得免疫に分けられます。
感染初期に食細胞や補体系が、感染微生物を認識して速やかに排除する応答は自然免疫と呼ばれます。

 感染後期に、抗原特異的なリンパ球がクローナルな増殖を経て、病原体を排除する応答は獲得免疫と呼ばれます。

 自然免疫では病原体等の異物の認識特異性が比較的甘くて様々な病原体び対して同じ応答による排除が行われるのに対して、獲得免疫では異物の認識特異性が高いので特定の病原体の排除が行われて、さらに感染の繰り返しによる記憶が認められます。

 自然免疫をレディーメイド(既製服)、獲得免疫をオーダーメイド(サイズを合わせた仕立て服)と例えられることもあります。また自然免疫と獲得免疫は相互に影響し合って生体防御を担っています。

 自然免疫のの役割は、病原体の侵入を感知して特異性は低いが速やかな応答により感染源を排除することと、獲得免疫応答を誘導することです。

 Toll-like Receptor;TLR病原体の認識に関わる受容体で、自然免疫の活性化と獲得免疫の誘導を行います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 TLRはショウジョウバエTollの哺乳動物ホモログ(同族体)として同定されました。TollホモログであるTLR活性化するとサイトカイン分泌や共刺激因子の発現誘導するので、存在が推定されたパターン認識受容体であると考えられました。

 TLRは、動物種により数は異なりますが、およそ10数種程度のファミリーを形成しており、その後、それぞれがリポポリサッカライドのリピドA部位をはじめとする様々なPAMP認識(下記参照)することが明らかにされ、パターン認識受容体には細胞膜に存在すTLRのほかに、細胞質に存在するものも知られています。

*自然免疫とパターン認識、TLRの発見

 多細胞生物の生体防御能のうち、リンパ球(T細胞とB細胞)の増殖を必要としない応答は自然免疫と呼ばれます。哺乳動物をはじめとする脊椎動物では獲得免疫が発達していますが、昆虫などの無脊椎動物や植物では生体防御は自然免疫だけで担われています。

 自然免疫はその誘導に抗原特異的なリンパ球のクローナルな増殖を必要としないので、感染に速やかに応答できる利点があります。病原体が哺乳動物に感染すると、まずマクロファージや好中球などの食細胞による貪食・殺菌や、補体系蛋白らに抗菌ペプチドによる病原体への攻撃が起こります。さらに病原体を認識して活性化されたマクロファージが分泌する炎症性サイトカインは、血管内皮活性化や好中球の感染局所への誘導を行うことにより病原体の排除を促進します。これらの応答は自然免疫に分類されます。
 

~~~~~シリーズ:TLR(1)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 またマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞ではT細胞刺激に必要な共刺激因子(B7.1やB7.2など)の発現が感染刺激により誘導されます。そしてこれら共刺激因子を発現した抗原提示細胞がナイーブCD4+T細胞(抗原刺激を受けていないヘルパーT細胞)に抗原提示を行う結果、抗原特異的CD4+T細胞がクローナルな増殖を開始します。さらに、抗原提示細胞が分泌するサイトカインはヘルパーT細胞の分化の方向性に影響を与えます。

 このように共刺激因子とサイトカインの働きによりT細胞を刺激して獲得免疫の活性化を誘導することも自然免疫の重要な役割です。

 マクロファージや樹状細胞などの自然免疫系細胞は自己と非自己を見分ける能力があり、非自己を認識すると上記のような一連の活性化が起こり炎症応答と獲得免疫の活性化が誘導されます。

 これらの細胞が何を非自己と認識するのか、そしてどのように非自己が細胞に認識されるかが重要です。

 グラム陰性菌の外膜表層を構成するリポポリサッカライドの膜アンカー部位であるリピドA、細菌細胞壁を構成するペプチドグリカンのムラミルジペプチド構造あるいはウイルスに特徴的に存在する二本鎖RNAなどには、自然免疫系細胞を刺激する作用があります。
したがって、哺乳動物には存在しないが病原体には、比較的共通して存在している分子パターンが、自然免疫経細胞に非自己と認識されていると考えられています。

 このような病原体に共通して存在している分子構造はPAMP(pathogen associated molecular pattern)と呼ばれます。そして自然免疫の非自己認識はパターン認識と呼ばれており、認識を司る受容体はパターン認識受容体と呼ばれます。パターン認識は幅広い生物種で認められる現象で、パターン認識受容体は進化の過程で保存されていると考えられます。


   出典:ファルマシア 2010.1


メインページへ

メタボリック症候群とTLR

2010年2月15日号 No.515

 Toll-like Receptor;TLRは自然免疫において重要な役割を果たす受容体ファミリーでTLRをが病原体成分を認識することにより 炎症性サイトカインの遺伝子発現を誘発して獲得免疫が活性化されます。(前号参照

 近年、TLRファミリーのうちTLR4は感染防御だけでなく、遊離脂肪酸、特に脂肪酸の内在性リガンドとして、肥満や動脈硬化において認められる炎症性変化に関与することが示唆されています。

 最近、肥満の脂肪組織ではマクロファージの浸潤が増加することが報告され、脂肪細胞とマクロファージの相互作用が注目されています。

 肥満の脂肪組織に浸潤したマクロファージは、肥大化して壊死に陥った脂肪細胞の周囲に集積し、それらを貪食して多核化することが指摘されており、脂肪組織に浸潤したマクロファージは脂肪細胞と相互作用することにより、脂肪細胞あるいは脂肪組織そのものの機能的変化をもたらすと考えられています。

 脂肪細胞から脂肪分解によって放出される遊離脂肪酸(特に飽和脂肪酸)は、TLR4を介してマクロファージにおける炎症性変化を増大し、これによりマクロファージにおけるTNFαの産生が増加して脂肪細胞における炎症性変化と脂肪分解を促進します。

 脂肪細胞から産生された物質(MCP-1:ヒト単球走化活性因子)は、さらにマクロファージの遊走を誘導し、炎症性変化を増悪する「悪循環」を形成すると考えられます。

 また、肥満の脂肪細胞だけでなく動脈硬化においても、TLR4の病態生理的意義が注目されています。

 例えば、急性冠状動脈症候群や冠状動脈硬化症の末梢単球やプラーク中の血管内皮細胞や血管外膜線維芽細胞でTLR4の発現が増加することやTLR4の塩基多型が動脈硬化の発症リスクに逆相関することが報告されています。

 TLR4の活性化はMMP2、-9やカテプシンといった動脈硬化に関与する蛋白質分解酵素の発現を亢進させることが知られています。

 LPSは炎症性サイトカインケモカインの発現を誘導することによりプラーク形成を促進しますが、TLR4欠損マウスでは、プラークの形成が認められないことが報告されています。

 肥満の脂肪組織に由来する飽和脂肪酸は、TLR4の内在性リガンドとして動脈硬化の発症を直接促進する可能性があります。

 TLR4は脂肪細胞の肥大化やマクロファージの浸潤に代表される脂肪組織の炎症性変化に焦点を当てた新しい創薬のターゲットとして期待されています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

MMP:マトリックス分解酵素は、細胞外マトリックスを分解する酵素の総称で、生理学的及び病理的な組織破壊に重要な役割を果たしています。

カテプシン:リソゾーム酵素の一種
    細胞外から取り込んだ蛋白質や細胞内の蛋白質を分解していることが知られています。

LPS:lipoporisaccharide
 グラム陰性桿菌で細胞壁表層にある脂質と多糖の複合体

~~~~~シリーズ:TLR(2)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 

TLRとアレルゲン

 アレルギーの原因の1つは本来無害で感染とは関係のないハウスダスト、花粉、食品成分などのアレルゲンに対してIgEが大量産生されることです。

 ダニはハウスダストアレルゲンの1つですが、ダニの主要アレルゲン蛋白質はグループ1とグループ2に分けられます。

 グループ1アレルゲンはプロテアーゼ活性を有しています。したがって、組織バリアを破壊しやすいことがこれらの蛋白質のアレルゲンになりやすいと考えられています。

グループ2アレルゲンであるDer p2とDer f2は、TLR4の細胞外領域と会合してリガンド認識に関わるMD-2と1次構造が類似しています。この類似性からグループ2アレルゲンはTLR4活性化に関わる何らかの生物活性を有している可能性が考えられましたが、Der p2がMD-2と同様にリポポリサッカライドと結合してTLR4を刺激する生物活性があることが示されました。

TLRを活性化する作用があれば、1種のアジュバント作用を持つことになるので、これらのダニアレルゲンに対して抗体ができやすく、つまりアレルゲンとなりやすい理由が説明できます。

一般にアレルゲンの多くは、Der p2と同様にアレルゲンと結合した脂質がTLRを介して自然免疫系を活性化してしまうことが、アレルギーに対する抗体産生を起こしやすくする一因である可能性が考えられます。

    出典:ファルマシア 2010.1


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

シリーズ:TLR(3) 病原体のTLR認識回避

 TLRの活性化は宿主免疫の活性化を誘導します。したがって、病原体にとっては宿主TLRの認識を回避できれば様々な免疫応答を低下させることができるので、感染の成立が容易になります。

 細菌のリポポリサッカライドのリビドA部位はTLR-4MD-2複合体に認識されるので免疫を活性化する作用がありますが、例外的に一部の細菌は活性化能のないリポポリサッカライドを持っています

 歯周病の病原菌の1つであるPorphyromonaus gingivalisや胃潰瘍の原因菌であるピロリ菌は持続感染を特徴とします。そしてどちらも極めて活性の弱いリポポリサッカライドを持っています。そのために宿主の免疫監視から逃れられることが持続感染を可能にしていると推測されています。

 大腸菌をはじめとする腸内細菌のリピドAはアシル基が6本が基本形ですが、P.gingivalisとピロリ菌のリピドAはアシル基が3〜4本です。リピドAのアシル基数が低活性の原因と考えられます。

 これらの細菌は、進化の過程でリピドAの6本のアシル基のうち2〜3本を削る酵素を獲得したことでリピドAの活性を低下させる能力を得たと想像されます。

 生育環境に応答してリピドA部位の構造を変化させる仕組みは、サルモネラをはじめ多くの細菌で知られています。

 ペスト菌は培養温度によってリピドAのアシル基数を変化させます。この温度による構造変化はペスト菌がノミを媒介して動物に感染する生活環と関連していると考えられています。ペスト菌はノミに感染している状態(27℃)では、アシル基6本のリピドAですが、動物(37℃)に感染するとアシル基は4本に減り、TLR刺激活性が低下します。

  出典:ファルマシア 2010.1
 


橋本病


 橋本病は、発見当初から比べるとその概念も著しく変化してきており、最近では血中の抗甲状腺マイクロゾーム抗体が陽性の場合は広義の橋本病と診断されます。

 病態が進行すると甲状腺機能低下症が発生しますが、明らかに機能低下症を示すのは橋本病全体の10%程度に過ぎず、多くは機能正常状態です。また甲状腺機能低下症が一過性がある症例が多く見られることや、橋本病でも一過性の甲状腺中毒症を示す症例があることが分かってきました。

 橋本病は自己免疫疾患で、自己免疫そのものが根治的に治療する方法はありません。従って治療目標は、2次的に発生する甲状腺機能異常の是正ででて甲状腺腫大が著明な場合はその縮小を血中TSH*の抑制により行うことです。

*TSH:甲状腺刺激ホルモン

 橋本病は従来形態学的な診断が中心であったため、古典的な橋本病(硬いびまん性の甲状腺腫大があるもの)だけを指していました。しかしその原因である甲状腺自己免疫現象が証明されれば、甲状腺腫大は必ずしも存在する必要はなく、広義では甲状腺腫大のないものも橋本病に含められます。

 血中の抗甲状腺マイクロゾーム抗体(MCHA)が陽性の場合は、潜在性自己免疫性甲状腺炎と言われています。従って広義の橋本病は、これらの潜在性自己免疫性甲状腺炎と古典的橋本病と狭義の慢性(自己免疫性)甲状腺炎に分けられます。組織障害をかなり進行すると、萎縮性甲状腺炎になります。

 症状としては、嗜眠、言語緩徐、記憶障害、皮膚乾燥、皮膚冷感、寒がり、毛髪脱落、眼瞼浮腫、顔面浮腫、舌肥大、かすれ声、体重増加、食欲低下、便秘、徐脈などがみられます。

<薬物療法>

 永続的甲状腺低下症の場合は、チラーヂンS錠の補充療法を少量より始め、漸増し維持療法まで持っていきます。

 一過性甲状腺機能低下症の場合は、終生にわたる代償療法は必要ありません。軽症例では自然経過を観察するだけで良いのですが、一過性でも血中甲状腺ホルモンがかなり低く、機能低下の症状を伴っている例では、速効性のチロナミン錠が有効です。

 病歴でヨード過剰摂取が確認できれば、海藻類等のヨード含有物の制限食を試み、機能回復を調べる必要があります。

 破壊性甲状腺中毒症は、常に一過性なので、軽症例では経過観察のみで良い。
甲状腺中毒症状が強いときはβ遮断剤を用います。
甲状腺機能低下症も、多くの場合は一過性ですので、症状が強い場合だけホルモン補充療法を行います。

 出産後甲状腺機能異常の多くは軽症で一過性ですが、育児の負担と重なる可能性があります。病態をはっきりと説明しておくことで、本人の安心と家族の協力が得られ、対照的な薬物療法を行わずにすむことも期待できます。

出典:医薬ジャーナル 1998.3 p84 
    大阪大学医学部臨床検査学 日高 洋、矢頃 綾、網野信行                                     より抜粋


2003年6月1日号 No.361

パテルギー
pathergia, pathergy

Ro¨ssle(1933)が提唱した概念

 アレルギー概念より上位の概念として提唱された言葉で「変化した反応能力により惹起されたすべての病的現象を総括的に表現する」と定義されます。

 アレルギー類似の種々の現象が次々と発見され、それらがさまざまの名称で呼ばれ、アレルギー概念が混乱しつつあったことから、本来のアレルギー(特異的パテルギー)とそれ以外の現象をはっきり区別すべきことを強調した。


ヒペルエルギー
hyperergy
過敏性反応,増力症

 同一の抗原が再度生体内に侵入した際、初回の侵入に際してあらわれた反応とは質的に異なった異常に強い反応があらわれることがあり、この現象を生体の反応力から表現した言葉

 パテルギー概念の下に位置づけられました。これにはアナフィラキシー、アルチュス現象、血清病、感染アレルギーなど現在一般に使用されている意味でのアレルギー反応全体を含みますが、Ro¨ssleはこのほかにいわゆる特異体質をも含めています。

 ヒペルエルギー性炎という言葉は、アレルギー性炎とほぼ同義です。

ヒポエルギー
hypoergy
減力症

 ある抗原により感作された生体に対して同一の抗原が作用した際、正常の反応よりも弱い反応を示す現象を生体の側からいいあらわした言葉

 Ro¨ssle(1933)が提唱したパテルギー概念のうちの特異的パテルギーの下に位置しています。
さらに全く反応がない場合をアネルギーと呼んでいます。具体的には,アナフィラキシーおよびアレルギー疾患における減感作療法による反応低下が例となります。

 悪性腫瘍などの重篤疾患での免疫不全状態も含み、免疫抑制薬、ALS(抗リンパ球血清)、ALG(抗リンパ球のαグロブリン)などによる免疫機能の一般的な低下もこれに含めることがあります。

 現代的解釈では、抗原感作によって抑制T細胞が誘導され、その抗原に対する特異的免疫抑制が起こる現象に当たると考えられます。

アネルギー
anergy
同義語:無感作

 細胞性免疫機能の低下により遅延型過敏反応(IV型アレルギー反応)が欠如、あるいは低下した状態。

 既感作の抗原に対する皮膚反応が失われた場合と,新たな抗原(例えばDNCBのような)による感作が成立しない場合をさします。

 アネルギーを引き起こす疾患としては,原発性(先天性)免疫不全症候群で細胞性免疫不全を伴う疾患、ホジキン病やリンパ球性白血病のようなリンパ系増殖性疾患、サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患、粟粒結核、結節性らい(癩)、麻疹、エイズなどの各種感染症、SLE(全身性エリテマトーデス)をはじめとする自己免疫性疾患などの免疫に関連した疾患があげられます。その他、代謝性疾患、高齢者、癌患者でもアネルギーを伴う場合があります。

 * 特定の抗原に対するT細胞の反応性を選択的にかつ一過性に失わせてしまう回復可能な現象。

 「免疫寛容」の誘導・維持に関わり、自己の成分に対する異常な応答性の制御に一役かっているものと推測されます。

{参考文献}  南山堂医学大辞典CD−ROM プロメディカ  第18版(1998)

メインページへ