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1998年3月1日号 240

偽薬剤アレルギーとは

   薬物過敏症という言葉は、1960年代にそれまで薬剤アレルギーで包括されていた薬物反応の中に症状は似ているが、アレルギー機序に基づかないかあるいはその根拠が不十分な反応も含まれていたことから提唱された日本独自の医学用語であり、薬剤アレルギーと偽薬剤アレルギーを包含しています。

 偽薬剤アレルギーは、薬剤によりアレルギー様症状を発現するが、免疫反応に基づかない反応を指し、擬アレルギー性薬剤反応、薬剤不耐性などを含みます。

 薬物過敏症を臨床的に検討する上で、偽薬剤アレルギーの存在を理解し念頭に入れておくことは極めて重要と思われます。

{参考文献} 月刊薬事 1998.2

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 擬アレルギー性薬剤反応はT型アレルギー反応様の初期症状を示し、免疫反応以外の機序で発生する薬物反応を指し、薬剤不耐性は生体側の素質素因に基づく有害反応ですが、薬剤の薬理作用による中毒反応を指します。

 また類似用語で特異体質性薬剤反応という分類もありますが、これは薬剤の薬理作用やアレルギー反応から想定できない有害反応を指し、生体側の先天的な代謝異常に基づく場合に多く用いられます。しかしこれらの分類は明快な境界線があるわけではなく、たとえばヨード造影剤によるショック症状は擬アレルギー性薬剤反応にも特異体質性薬剤反応にも分類されたり、プリマキン過敏症は薬剤不耐性にも分類されたことがあり、一つの有害反応が二つの分類にまたがることが少なくありません。

 偽薬剤アレルギーは、臨床上では薬剤と因果関係のない場合、たとえばリウマチ肺などの基礎疾患に基づくものや粟粒結核など感染症によるもので、薬剤アレルギーを広義に解釈すると、まず薬剤非起因性と薬剤起因性に分類し、擬アレルギー性薬剤反応や特異体質性薬剤反応は包括的に偽薬剤アレルギーとして分類する方が臨床上有意義であると考えられています。

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●ショック、発熱および皮膚症状の偽薬剤アレルギー

副作用症状 原因薬剤〜機序

・ショック症状 ヨード造影剤〜ヒスタミン遊離、補体活性
アミド型局所麻酔剤〜大脳皮質抑制
アメリゾール、ポリミキシンB〜ヒスタミン遊離
降圧剤〜血圧降下
・発熱 急性催眠剤〜中枢神経系刺激
インターフェロン製剤〜体温中枢刺激
ハロタン、サクシン〜骨格筋の筋小胞体異常
・顔面紅潮 血管拡張性降圧剤〜微小血管拡張
・顔面蒼白 ペンタジン、エフェドリン、エピネフリン〜血管収縮
・血管浮腫 ACE阻害剤〜ブラジキニン代謝阻害
・蕁麻疹 モルヒネ、コデイン、ポリミキシンB〜ヒスタミン遊離
NSAIDs〜アラキドン酸代謝系変調
・紫斑 ヘパリン、ワーファリン、サリチル酸〜抗凝固
・光線過敏症 キノロン系抗菌剤〜活性酸素産生


[偽薬剤アレルギー]

A.薬剤非起因性
1.基礎疾患
2.感染症
3.その他

B.薬剤起因性
1.擬アレルギー性薬剤反応
2.薬剤不耐性
3.特異体質性薬剤反応


抗腫瘍剤の時間薬理学
シリーズ癌治療を考えるB

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<用語辞典>

INR
international normalized ratio

国際標準化プロトロンビン比

プロトロンビン時間(PT)

プロトロンビン時間(PT)〜検体に組織トロンボプラスチンとCaを加えてフィブリンが析出するまでの凝固時間を測定したもので、外因系の凝固因子プロトロンビンII、VII、X、Vの濃度を反映しています。

ワーファリンやヘパリンなどによって延長します。

INRとは、検体血漿のPTを正常血漿のPTで割った値(プロトロンビン比:PR)を組織トロンボプラスチン試薬の感度を国際標準品の感度と比較した値(ISI)で補正した値(PR ISI)です。

INRが高くなれば、出血の危険性は高くなります。

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 測定に用いる組織トロンボプラスチン試薬や測定機器の違いによって、絶対的な基準値の設定は困難です。そこで、どのような試薬や機器を用いても結果を比較できるように、標準化する目的でINRが提唱されました。

 INRはPR:prothrombin ratio:プロトロンビン比:標準正常血漿と検体とのPT(プロトロンビン時間の比をISI:international sensitivity index:国際感度指数(測定キットの組織トロンボプラスチン試薬と国際標準品のPRを比較した指数)で補正することによって求めることができます。

 試薬に添付されている換算表やグラフを用いて、PRからINRを求めることができます。

 INRの正常値は1.0で、PTが延長するにつれて値が大きくなります。

 ワーファリン治療では、INRを2〜3に維持することが多い。

   INR=検体のPT/標準正常血漿のPT

     出典:医薬ジャーナル 2004.4 等


プラダー・ウィリー症候群
Prader‐Willi syndrome

 筋緊張低下、知能障害、肥満および性機能不全で特徴づけられる症候群

 新生児期から乳児早期には筋緊張低下が著しく、哺乳力がおち、しばしばチューブ栄養が行われます。外界からの刺激に対する反応も弱く、深部反射も低下します。

 2〜3歳頃になると、多食性の肥満が目立ってきて、多食は100%に出現します。肥満は体幹、四肢の体幹近位部で著明ですが、手足など遠位部では相対的に小さい。

 食物のことが頭から離れず、また、脅迫的な思考、たとえば対称性、正確性に対するこだわりがあります。その他、整頓好き、順序付け携行、貯蔵壁などが見られます。

 低身長もみられるようになり、精神運動発達は遅れぎみ、年齢とともにうつ病、不安神経症の頻度が高くなります。行動面の幼稚さも目立ち、人なつっこいが、感情の自己抑制に欠けます。男児の場合、小陰茎や停留精巣(睾丸)があり、外性器の異常が小さいときから判断できます、女児の場合は思春期までわからないことが多く、陰毛の低形成、初潮をみないなどによって気づかれます。

 父親の15番染色体q11-q13の部分の欠失により生じます

* ジェノトロピン(ソマトロピン)では禁忌

 高度な肥満、呼吸器障害又は睡眠時無呼吸の既往、呼吸器感染の要因をもつプラダーウィリー症候群の小児患者において、本剤使用に伴う死亡例が報告されている。また、これら要因をもつ男性患者ではさらに危険性が高まる可能性がある。従って、プラダーウィリー症候群の患者のうち、高度な肥満又は重篤な呼吸器障害のある患者には使用しないこと。また、プラダーウィリー症候群における低身長の患者に使用する場合、以下の点に注意すること。
 使用に際し、上気道閉塞がないことを確認すること。本剤使用中に上気道閉塞の徴候(いびきの発現又は増加等も含む)を示した場合は、本剤の使用を中止すること。
睡眠時無呼吸の有無を確認し、睡眠時無呼吸が疑われる場合は観察を十分に行うこと。
患者が効果的な体重管理を行っていることを確認すること。
呼吸器感染の徴候の有無を十分に観察し、感染症に対する適切な処置を行うこと。
    

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