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プロトンポンプ阻害剤
PPI


 1991年8月1日号 No.92

   "no acid,no ulcer"という言葉が示すように、以前から消化性潰瘍の治療では、胃内酸度の調節を主眼として来ました。

 壁細胞での酸分泌刺激経路には、副交換神経、ヒスタミン、ガストリンの3つのルートがあります。H2受容体拮抗剤はこのうちヒスタミンルートを抑制するもので、その臨床成績は従来の潰瘍治療薬に比し革新的進歩をもたらしました。

 しかし近年、これらの3経路とは全く異なり、酸分泌の最終過程で抑制するプロトンポンプインヒビター(阻害剤)が開発され、その酸分泌抑制作用はH2受容体拮抗剤(H2ブロッカー)を上回り、その臨床効果に世界的な期待を持たれています。

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<メカニズム>

壁細胞を直接刺激する科学伝達物質の主たるものには、

1)胃粘膜神経末端より遊離されるアセチルコリン
2)血液を介して到達するガストリン
3)胃粘膜の分泌細胞から酸分泌細胞近傍の細胞外空間に遊離されるヒスタミンの3つに分けられます。

 この3つの化学伝達物質が各々のレセプターに結合すると、ヒスタミンはcAMP、アセチルコリンとガストリンはCa++がセカンド メッセンジャーとなり分泌側細胞膜に存在するH+、K+ATPase(プロトンポンプ)を稼働させ、壁細胞からH+が放出されHCL(塩酸)として胃内腔に分泌させます。

 プロトンポンプ阻害剤の作用部位は、分泌の最終過程にあるH+、K+ATPaseのみを阻害し、H2受容体拮抗剤よりも更に基礎および各刺激酸分泌を強力にしかも長時間抑制することによって、その臨床効果が得られます。

 しかし動物実験でECL(エンテロクロマフィン様細胞)増加が見られることがあり、長期使用した場合に若干の懸念があります。

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2003年追加記事

NAB
Nocturnal Gastric Acid Breakthrough

 
PPI服用中にもかかわらず、夜間に胃内pHが上昇せず、胃内が酸性のままである例

 PPI(プロトンポンプ・インヒビター)服用中の夜間に、以内pHが4未満になる時間が1時間以上連続して認められる現象のこと。

 従来、PPIは、胃酸分泌の最終過程であるプロトンポンプを長時間阻害することから、最も強力な胃酸分泌抑制剤と考えられてきました。しかし、PPI服用中の24時間以内pHモニタリングにより、NABが認められる例も多くあることが判明しました。この理由は不明です。

 日本では、PPIが昼夜を問わず有効との報告が多いのですが、欧米では健常者や胃食道逆流症でNABが多く報告されています。この違いは、ヘリコバクタピロリの感染率によるとされています。

 感染者では、PPI服用中にNABは認められず、非感染者ではNABが高頻度であるといいます。日本では、ピロリ菌の感染率が高いということのようです。

 胃食道逆流症の患者は、PPI服用中にNABを起こしやすく、また、NAB出現の夜間に胃食道逆流が起こりやすくなっています。PPI抵抗例でNABが多く、これらはPPIの増量や夜間服用でも効果は十分でなく、特に重症の胃食道逆流症ではNABを起こしやすいとされています。

 このようにPPIは、夜間胃酸分泌抑制作用が弱いことが明らかにされていますが、夜間の胃酸分泌は、ヒスタミンによる刺激が優位であることが分かっています。そこで、PPIに加えて就寝前にH2受容体拮抗薬を併用するとNABの発現を抑制できるとされています。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2003.2

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 NABは、PPI服用中のH・ピロリ陰性例で夜間空腹時に観察される現象です。したがってNABが問題となるのは、PPIによる治療が現在最も広く行われており、またH・ピロリ陰性例が多い
GERD例においてです。

 軽症のGERDでは、胃食道酸逆流は日中の食後時間帯に起こり、夜間に酸逆流が起こることはほとんどありません。すなわち軽症のGERDではNABを考慮する必要はあまりありません。しかし、NABのために夜間の胃食道酸逆流が持続し、PPI治療に抵抗するハイグレードGERD例が存在すると考えられています。

 臨床的にNABが問題となる病態は、消化性潰瘍ではなく、
H・ピロリ陰性でかつ夜間に逆流が起こりやすいグレードCやDの逆流性食道炎やBarret上皮例で、GERD患者の中ではあまり多く見られません。

 夜間に胃内pHが低下するのは、生理的に夜間の胃酸分泌が高いことや、夜間には胃内に中和能を有する食物が存在しないことに起因していると思われます。

 PPIとH2ブロッカーの併用で効果があったとの報告があります。

  出典:CRG 2003 No.4 Vol.8 (株式会社ティ・エム・ジャパン)等

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カルチノイド腫瘍

 癌に似た腫瘍ですがほとんど浸潤・転移しません。大部分が消化管、肺、気管支に発生します。
生理活性物質であるヒスタミン、セロトニン、カテコールアミン、プロスタグランジン、カリクレイン
ACTHを産生し、顔面・胸部潮紅、喘息様発作、下痢、心弁膜症などのカルチノイド症候群を引き起こします。

 動物実験では
PPI長期使用により高ガストリン血症とそれに続く胃粘膜のカルチノイド腫瘍が報告されています。


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過敏症性腸症候群
IBS:irritable bowel syndrome

2007年6月15日号 No.454

 IBS(過敏症性腸症候群)は大腸を中心とした消化管運動機能異状による疾患で、腹痛、腹部膨満感などの腹部不定愁訴、下痢、便秘などの便通異状を主訴とします。

 IBSの病因としては、ストレスや不規則な食事などの様々な因子が関与していると考えられていることから、治療は症状の改善を目的とした生活指導と薬物療法が中心となっています。特に便通異状を改善することは、IBS患者ではQOLの向上につながり、極めて有意と考えられており、その目的の薬剤が用いられ ています。

 一般に過敏症腸症候群(IBS)の治療では消化管運動機能の調整、内臓知覚へのアプローチが行われ、場合によっては心理社会的側面に対して抗不安剤や抗うつ剤による治療が行われます。便秘や下痢に対する対症療法として、緩下剤や止痢剤、乳酸菌製剤等が用いられます。

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IBS(過敏性腸症候群)

Pstinfectious IBS
 細菌性胃腸炎後にIBSを発病することが良く知られています。
サルモネラ腸炎後の患者はIBSの発症の危険が8倍にもなるとの報告もあります。しかし、元々IBSを持つ患者では細菌性胃腸炎後に医療機関を受診する確率が高いことが考えられ、IBSの病態も過剰にクローズアップされている可能性も否定できません。

Bacterial overgrowth
 腸管運動障害の結果として、小腸内での細菌増殖が起こり、その結果として過剰ガスが産生されることが考えられます。

<IBSの診断基準(RomeV)>
*腹痛あるいは腹部不快感が
 ・最近3ヶ月の中の1ヶ月につき少なくとも3日以上を占め、
 ・下記の2項目以上の特徴を示す。
(1)排便によって改善する。
(2)排便頻度の変化で始まる。
(3)便形状(外観)の変化で始まる。
 少なくとも診断の6ヶ月以上前に症状が発現し、最近3ヶ月間は基準を満たす必要がある。
※ 腹部不快感とは、腹痛とはいえない不愉快な感覚を指す。
 病態生理研究や臨床研究では、腹痛あるいは胃部不快感が1週間につき少なくとも2日以上を占める者が対象として望ましい。

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*取り越し苦労はIBSになりやすい。

 英国の研究によりますと、心配性の人や追い詰められている人は、感染性胃腸炎の後にIBSになりやすとのことです。

<性格や行動様式で症状が悪化>

 620例の調査でIBS患者は、そうでない人と比べてストレスと不安のレベル、心身症症状を呈する割合が有意に高く、また休憩を強制されるまで作業を続ける「追い詰められ易い」性格の人が多いという結果が出ました。

 IBS患者にうつ病の傾向は認められませんでしたが、疾患に対して悲観的な見方をする傾向が認められました。
先進国では、成人の50〜15%がIBSであると報告されていますが、正確な原因は不明です。

認知と行動、情動のパターンも症状の長期化に一役買っていると思われ、認知行動療法が効果的かもしれないとのことです。

    出典:メディカル・トリビューン 2007.5.10 Copyright 2007 DoctorsGuide.com

 

<生活指導>


 過敏症腸症候群には、心理社会的要因と腸管運動機能異常、内臓知覚過敏が関係し、それに影響を与える要因として腸管内環境があります。従ってその治療も単一局面に対するアプローチだけではなく、多面的に行う必要があります。

IBSの病体については研究は進んでいるものの、その原因は不明です。しかし、慢性の経過を取るものの生命予後は良好、かつ経過中に器質的疾患が明らかになることはまれです。

乳製品の摂取はトライアルとして短期間控えてみます。下痢症状とカフェインの過剰摂取についても患者に聴取します。

腹満感を訴える患者には、豆類、たまねぎ、にんじん、バナナなどの過剰摂取があれば控えてみると有効かもしれません。

食物繊維は水分を保持し、結果として便がゲル状になり、通過を容易にし、また便の量を増やすことなどから、有用と考えられています。
*腹満感は増悪するかもしれません。(ファイバー サプリメントも同様)


薬物療法:抗コリン薬、消化管運動機能改善薬、コロネル、抗うつ剤、抗不安剤、セロトニン受容体アンタゴニスト、代替医療とてペパーミントオイル

   出典:日本薬剤師会雑誌 2007.5


*ポリカルボフィルCa  2000年7月3日薬価収載 商品名 コロネル

 酸性状況下ではほとんど膨潤せず、中性状況下で強い吸水能力を示す特徴を有する非溶解性の高分子樹脂。

 便秘の場合には小腸及び大腸での水吸収に逆らって便中の水分を保持して排便を促します。下痢の場合には腸管内の過剰な水分を吸収してゲル化することにより、腸間内移動時間を延長させて改善効果を示します。

 *腹満感は増悪するかもしれません。(ファイバー サプリメントも同様)

出典:医薬ジャーナル 1998.12

<<追記>>

 出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.4

 
 ポリカルボフィルによる治療はその基盤にある腸内環境を調整することにあります。

 一方、多くの薬剤の治験成績のメタ解析では、プラセボで47%の症例で症状改善がみられることが報告されています。この効果はプラセボ効果またはドクター効果、説明効果と思われます。

 逆にポリカルボフィルCaを使用しても患者に対する十分なケアの姿勢が医療者になければ効果は十分に上がらない可能性があります。

 病態を上位から調整する心理社会的局面へのアプローチが50%近い効果をもたらし、腸管内環境調整がそれに付加的な効果をもたらすと理解すべきです。

 ポリカルボフィルCaの臨床試験では便性状の改善だけでなく、様々な腹部症状の改善が認められています。その理由として、腸管内環境調整が便通・消化管運動機能に対して2時的な効果を発現し、便通に関わる不快症状の軽減が心理的側面にも多少の影響を与えるものと推測されます。

 ポリカルボフィルのIBS治療での位置づけは、腸管内腔環境調整による便通の調整が主な作用で、その波及効果として他の側面にも好影響を及ぼし得るものと考えられます。治療に際しては患者への説明によるプラセボ効果が本来の効果を大きく増幅して可能性があるため、IBSの治療ではポリカルボフィルは極めて有用性の高い位置を占めると思われますが、心理的な側面も理解した上で臨床に供するべきと思われます。

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下痢便秘交代症
交代性便通異常症alternate stool abnormality

 過敏性腸症候群:irritable bowel syndrome(IBS)、すなわち不定の腹部症状を伴う便通異常があり、その原因となる器質的病変が腸管および他臓器に存在しない腸の機能異常の一病型で、下痢と便秘が交代して起こるもの。

 この型のうち,便秘と下痢が比較的規則正しく交代しているものは約半数で、これらでは2〜5日の便秘の後に下痢が起こっているものが多い。

 診断には器質的疾患の除外が重要で,腸機能異常が大腸機能検査などで証明できれば診断が確定的になります。

 治療として精神療法、心理療法、食事療法などが薬物療法とともに重要です。


クローン病
クローン(氏)病

出典:添付文書の用語と解説 1995 薬事時報社

クローンが限局性腸炎として報告(1932年)しましたが、その後疾患概念が変化し、口から肛門まで消化管のどの部位にも発生する非特異性肉芽腫性炎症として、潰瘍性大腸炎とともに原因不明の特発性炎症性腸疾患の代表的疾患とされています。

病変は区域性で全層性におよぶ炎症で、縦走潰瘍、狭窄、瘻孔形成などの特徴を有し、小腸型、小腸大腸型に分類されます。

治療は、内科的治療が主流となりますが、長期経過では多くは手術療法が必要となります。

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TNF−αとクローン病

 クローン病は、腹痛、下痢、下血、全身倦怠感、発熱、肛門病変を主訴とし、再燃と寛解を繰り返す原因不明の炎症性腸疾患です。

 口から肛門に至るまで消化管のあらゆる部位に病変を来し得ますが、典型的には小腸または大腸に非連続性の縦走潰瘍を認め、また、痔瘻や肛門周辺膿瘍等の肛門病変を伴います。

 潰瘍は粘膜にとどまらず筋層から漿膜までの全層性の炎症を呈するために、穿孔・瘻孔あるいは膿瘍を合併するほか、潰瘍治癒による狭窄で腸閉塞を来すこともあります。

 日本では最近10〜20台の若年の発症が増加傾向にあり、食生活の欧米化が原因と推定されています。

 近年、免疫学的・分子学的研究により、クローン病での腸管免疫反応は様々な免疫学的異常を呈することが分かってきました。その解明に伴い、抗TNF-α抗体に代表されるような有効な治療薬も開発されるようになりました。

 クローン病の原因は不明な点も多いものの、Th1優位の免疫異常が主体であるとされています。Th1を司るサイトカインとしては、IL12,IL18,IFNγ、TFNαが代表的です。

クローン病の病変局所では、これらの炎症性サイトカインが高濃度で存在し、炎症の発生や増悪の中心的役割を果たし、毛細血管での接着因子の発現を高め、白血球の遊走を促進します。これら白血球は種々の炎症性メディエーターや活性酸素を産生して組織侵害を引き起こします。

クローン病では、TNFαが重要なファクターで、これらを標的とした知慮法が開発されています。

TNFα抗体 インフリキシマブ(レミケード)の作用機序

 まず血中のフリーで存在するTNFαに結合・中和してTNFαの作用を抑えます。さらにこの抗TNFα抗体はマクロファージや活性化T細胞の膜上にあるTNFαにも結合し、補体の結合や抗体依存性細胞障害(ADCC:antibody dependent cell-mediated cytotoxicity)および補体依存性細胞障害活性(CDCC:complement-dependent cell-mediated cytotoxicity)が誘導され、これらのTNFα産生細胞を融解することにより、さらに強力な抗炎症作用示すと考えられています。

   出典:日本病院薬剤師会雑誌 2003.6


アカラシア
achalasia

同義語:食道無弛緩症esophageal achalasia

出典:南山堂、医学大事典 1998年版


 食道下端1〜4cm辺りの狭窄(機能的開大欠如)とその口側食道の異常拡大をきたす食道運動障害疾患、原因は不明。

 固有筋層内のアウエルバッハ神経叢の神経節細胞の減少、または消失がみられるので、これらの異常のために蠕動の伝達とそれに続く食道下端部開大が連動しないものと考えられます。

 主症状は嚥下障害で、食道内に食物の停滞・逆流がみられたり,胸骨後部痛もみられます。発症は環境の変化や精神的ストレスを契機に比較的急激にみられます。経過は慢性に経過することが多く、症状は軽快、増悪をくり返します。特に感情の乱れの強い時に増悪しやすいとされています。

 検査はX線造影、内視鏡検査、食道内圧検査、メコリール試験などが行われます。
X線造影では、食道下端がスムーズな対称性の狭窄を呈し、その口側の食道が拡大しています。

 食道の拡大幅は3〜4cmくらいのものが多いが、著しい場合には6〜10cmに達する場合もあります。食道下端が開かないために造影剤は食道内に停留し、健常者では数秒間で胃内へ流れ込むはずの造影剤が,食道から胃へすべて流入するのに1時間くらいかかることもあります。

 内視鏡では食道炎がみられ,癌との鑑別を要します。食道下端は閉じたままのことが多い.食道内圧検査では下部食道内圧は継続的に高値を示し、口側食道は拡張しているにもかかわらず陽圧を呈します。

 治療は、
    
・ 心身医学的治療
・ 薬物:ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニフェジピン
・ 生活指導.バルーンによる下部食道拡張術
・ 重症例には手術適応も考える.

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