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気管支喘息    関連記事 気管支喘息の時間薬物治療気管支喘息の医療経済性の向上


1993年11月1日号

     気管支喘息の病態の研究はT型アレルギー反応から好酸球、気道炎症、T細胞、サイトカインネットワークへと広がりを見せ、それに伴い薬の開発も化学伝達物質遊離抑制剤や拮抗剤から、T細胞やサイトカインの特異的機能制御へと進んで来ています。

            {参考文献}ファルマシア 1993.10

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<気管支喘息の疾患としての特徴>

1)発作性呼吸困難、喘鳴を主徴とする気管支吸収反応
2)ヒスタミン、アセチルコリンなどの非特異的気管支平滑筋収縮物質の吸入に対する反応性亢進状態
3)肥満細胞、好酸球、リンパ球(Th2)などの気道粘膜への浸潤がみられる気道炎症
4)ハウスダストなどの抗原に対する特異的IgE抗体の産生亢進(アトピー素因)

<治療への展望>

*即時反応の抑制〜早期の段階では抗原吸入により肥満細胞から、化学伝達物質の遊離が起こることが原因:インタール、ザジテン、リザペンなど

*気道収縮の抑制〜トロンボキサン合成阻害剤であるドメナンは、TXA2の産生を抑制し、気道反応性を低下させる。TXA2はLDT4やLTC4の二次伝達物質であることが明らかになってきている。

*慢性化の抑制〜慢性化の原因は好酸球などが気道粘膜に浸潤し、気道炎症を惹起するからである。これらの細胞はTリンパ球やマクロファージなどから遊離されるサイトカインのネットワークにより制御されている。したがって、慢性下の治療はこのT細胞の活性化を抑制し、サイトカインの作用を阻止することである。

*ステロイド剤〜近年、Tリンパ球に対する種々のサイトカインの産生抑制が報告されている。

*免疫抑制剤〜重篤な副作用のため長期与薬には問題が残されている。T細胞の特異的機能を抑制する薬剤や、サイトカイン(IL-5)等を阻害するレセプター拮抗剤の開発が望まれる。

<気管支喘息の病態>

1.即時型喘息反応(IAR):抗原吸入後10〜20分をピークとする気道収縮反応

  肥満細胞の活性化:LTC4,LTD4,PAF,PGD2,TXA2

2.遅発型喘息(LAR):ピーク3〜12時間

  好酸球の気道粘膜への浸潤:LTB4,LTC3

3.後遅発型喘息反応(post-LAR):ピーク24時間以後

  好酸球から顆粒蛋白(MBP、EPO、ECP)が放出、気道上皮が障害剥離される。

  抗原の粘膜への浸透性増加、知覚神経を露出:サブスタンスP、ニューロキニンAなどのニューロペプチド

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*リリーバー:喘息発作治療薬

 短時間作用型β2刺激剤(吸入)、テオフィリン製剤(ネオフィリン)、ボスミン、ステロイド

*コントローラー:長期管理薬

 ステロイド、テオフィリン徐放剤剤、長時間作用型β2刺激剤、ホクナリンテープ
 抗アレルギー剤


喘息治療

出典:府薬雑誌 2000.2等

 喘息を理解するための2つの概念 気流制限/気流閉塞 & 気道炎症の意味を正しく理解することが必要です。

「喘息は気道の炎症性疾患である」といえます。

<気流制限とは>

 気流閉塞を理解するためには、換気機能を測る「スパイロメトリー」を理解する必要があります。
口から出入りする空気の量を計測するもので、この機器のフローセンサーに患者をつなぎますとその患者の換気運動は「フローボリューム曲線」を描く動点の運動として捉えられます。

 いっぱい空気をすって、その後からできるだけ早く、完全に息を吐き出すように努力したとき、フローボリューム平面上の動点は最大努力呼出フローボリューム曲線(MEFVC)を描きます。この曲線の底辺が努力性肺活量(FVC)であり、三角状の軌跡の頂点がピークフロー(PEF)です。

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ピークフロー(peak expiratory flow rate:PERFまたはPEF、PF)

 最大呼気流速度〜気管支が狭くなった状態を反映します。この測定に使用する簡便な器具をピークフロー・メーターと言い、十分息を吸い込んだ後、口にマウスピースをあて思い切り早く息を吹き出し、表示針を読みとります。この値が気管支を通ってきた空気の最大流量です。

ピークフロー値は、最大治療後の測定値をその患者の最良値(自己ベスト値)とし、%ピークフローが最良値の80%以上、日内変動が20%以内を良好としています。50%以下は危険ゾーンで吸入β2作動薬や、短期的な全身的ステロイドが必要となります。

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 MEFVCとボリューム軸で囲まれる領域面積が1秒量FEV1に対応しています。この領域面積が換気運動を自由にできる領域の大きさを反映しています。したがって、1秒量が換気の善し悪しの程度を評価する指標です。この1秒量が標準値の80%以下になった状態を気流閉塞と呼びます。

 喘息患者の重症度は主に気流閉塞の程度で決められます。気流閉塞の程度によって治療に使う薬の種類や量が違ってきます。したがって、気流閉塞の程度の評価は必須です。これを家庭で簡便に測って評価する器具がピークフローメーターです。

 PEF値は1日の中でも変動があり1日複数回(朝、夕決まった時間)測定する必要があります。

<気道過敏性の亢進>

 喘息の病態の重要な要素として「気道過敏性の亢進」が挙げられます。
気道の過敏性の亢進はあるけれども発作の起こっていない状態の患者の気道粘膜を調べてみると、発赤や浮腫などの炎症状態にあることが分かってきました。

 これは『喘息患者の気道は慢性的な炎症状態にあり、非常に気道過敏性が亢進した状態にある。また、浮腫や炎症細胞の浸潤により気管支の内腔が狭くなっている。その状況下で気管支平滑筋の攣縮が起こることにより気流閉塞が起こり、重篤な発作がおこる』"と理解すべきです。

 言い換えると気流閉塞は気道の炎症の程度と気管支平滑筋の攣縮の度合いという2つの要素により規定されており、この2つの要素を適切に治療することが必要です。

 気管支平滑筋の攣縮を抑えるサルブタモールのような吸入β刺激剤と炎症を抑えるステロイド剤が治療の中心となるべきことはすぐに理解できます。しかし、気道の閉塞が強い場合は吸入β刺激剤によっても反応せず、ステロイド剤の長期服用で、炎症をある程度抑えた後、やっと吸入β刺激剤が反応することが分かって来ました。

 ステロイド剤を使わないで、β刺激剤だけに頼ると却って喘息の死亡率が高まると言う事実が明らかになりました。このことから、現在では、喘息の治療は気道の炎症を抑えることが最も重要であると広く認識されるに至っています。


吸入療法

 現在、吸入療法に用いられるエアロゾル発生装置には3つの種類があります。これらはいずれの装置も下起動に効率よく薬剤が到達するように工夫されていますが、使用可能な薬剤、臨床適応、吸入手技などに違いがあります。

 ネブライザーは動力源を用いてエアロゾルを発生させる装置であり、加圧型のジェトネブライザーと超音波ネブライザーに分類され、医療施設のみならず一部の家庭でも使用されています。一般に、ネブライザーは吸気との同調が不要であるので、乳幼児や高齢者、さらには自発呼吸のない人工呼吸器管理下の患者にも有用ですが、動力源が必要、携帯できないなどの短所があります。また一部の薬剤では超音波ネブライザーにより変質分離を起こすことがあるので注意が必要です。

 加圧式定量噴霧吸入器(Pressurised metered dose inhaler:MDI)は携帯可能ですばやく使用できることから、気管支喘息発作の寛解や急性増悪予防の目的などで用いられます。吸入ステロイド薬が気管支喘息治療の、そして吸入抗コリン薬が慢性閉塞性肺疾患治療の各々一つの柱にとなっている今日では、MDIは最も重要な装置といえるでしょう。しかしMDI単独では吸気との同調など吸入手技の習熟が必要であり、口腔内への薬剤の沈着が多く副作用を生じやすい等の欠点を有します。

 MDIから放出されたエアロゾルの約80%が口腔内に沈着し、下気道に達するのはわずか9%弱であるとされています。これらの欠点はスペーサーと呼ばれる吸入補助具を用いることで解決は可能ですが、スペーサーのなかにはその用量が大きく携帯に不便なものもあります。

 もうひとつの重要な問題点としてフロンガスを用いていることです。1992年のモントリオール会議でその全廃が決定されました。しかし全体の使用量の1%にも満たない医療用フロンガスの使用を禁止したことで発作が起きた時に、命を落とす喘息患者が増えるのではないかと危惧するむきもあります。

 古くて新しい問題として、吸入用交感神経刺激薬:β2刺激剤と喘息死があります。
1960年代のイギリスでは吸入β2刺激剤の販売量の増加に伴い喘息死が増加していたことから喘息死の原因がβ2刺激剤の使用過多にあるのではないかとする報告が為されていました。

 わが国でも最近小児にフェロテロールと喘息死の因果関係が問題となり、厚生省も医薬品副作用情報として公示しました。

 吸入β2刺激剤の過剰使用、過度の依存、不適切な使用が気管支喘息において不幸な転帰を招くことは否めない事実ですが、β2刺激剤は強力な気管支拡張作用を持ち、気管支喘息の急性増悪期には非常に有効な治療法であることには変わりありません。

 近年発表された気管支喘息の診断と治療のためのガイドラインでも、β2刺激剤の治療薬としての位置は確立されています。しかいあまりにも喘息発作が重症化しき同閉塞が進行すると、薬剤が効果的に吸入されず十分な気管支拡張効果が得られなくなりますし、気道平滑筋の痙攣以外にも気道炎症を伴う粘膜浮腫なども伴ってくるので、β2刺激剤のみの治療では十分な効果が得られなくなります。

 この様な状態でも吸入β2刺激剤に依存し続け、ガイドラインで言うところの治療ステップアップを適切に行わないことが、喘息治療で不幸な転帰を招く一因となります。大事なことは吸入を中心としたステロイド薬と組み合わせた治療により、発作を起こさないか、起こしても吸入β2刺激剤の頓用で速やかに軽快し、その状態が長く持続するような状態に症状をコントロールすることです。

 吸入β2刺激剤を使用しても効果が一時的で短時間の間に度々の吸入を必要とする状態では、ガイドラインに添って治療のステップアップが必要となります。

粉末吸入器 dry powder inhaler:DPI

 DPIはこれまでもインタールカプセルの吸入に用いられていましたがフロンガス全廃に向けての世界的趨勢の中でMDIに替わるものとして開発が進んでおり、今後日本でもβ2刺激剤とステロイド薬の販売が予定されています。
(2000年にフルタイド発売)

 DPIは患者自身の吸気努力により薬剤を吸い込むためMDIと異なり、薬剤噴霧との同調が不必要であるという利点や、用量ディスクを調節することで1回の吸入薬剤量を増減できるものもあるため、頻回の吸入を必要としないなどの利点も有します。しかし一方で、薬剤エアロゾルの発生が吸気量に依存するために3歳以下の小児や自発呼吸不能な患者には使用不可能であるという欠点を有します。

出典:JJSHP 1997.12


VIP:血管作動性腸管ペプチド
vasoactive intestional peputides

NANC
非アドレナリン非コリン(NANC)作動性神経


出典:臨床と薬物治療 2000.6 p547

 近年ヒトをはじめとする多くの哺乳動物で、非アドレナリン非コリン(NANC)作動性神経の存在が確認されました。

 NANC神経には興奮性と抑制性の2種類があり、それぞれe-NANC神経、i-NANC神経と呼ばれます。ヒトの気道平滑筋に直接分布している神経は抑制性NANCと考えられており、この神経の伝達物質はVIP、一酸化窒素(NO)が考えられています。

 VIPを外因性に与えると気道狭窄が寛解します。抑制性NANC神経は抗原抗体反応による気道狭窄に対して抑制的に作用しますが、一度に強い抗原抗体反応が起こると、抑制的NANC神経は機能低下を起こします。なぜなら、NOは炎症による活性酸素により減弱し、VIPは肥満細胞から遊離したトリプテースにより分解されるからです。喘息患者では、気道にVIPの存在が認められないことから、この神経の機能不全が喘息の一因である可能性もあります。


運動誘発性喘息
EIA:excercised-induced asthma


 運動によって誘発される気管支喘息は、古くより知られています。運動は、気道を収縮させる非薬理学的、非免疫学的刺激で、EIAは75〜80%喘息患者で見られると言われています。

<EIAの臨床的な特徴>

1.気道狭窄は運動負荷2〜10分後に最も強く、30〜60分後には軽快します。
2.まれに3〜9時間後に遅発型喘息を来すことがあります。
3.EIA後1〜3時間以内の運動負荷では、気道収縮が起こりにくくなる不応期が患者の40〜50%にみられます。
4.気道収縮の程度は負荷の時間と強さに比例し、吸入気の温度、湿度にに比例し乾燥冷気が気道収縮を起こしやすいとされています。
5.短時間作用型β2刺激剤、抗アレルギー剤(インタール等)、ロイコトリエン受容体拮抗薬などに、EIAを抑制する効果があります。その他、抗コリン剤、抗ヒスタミンなどにも抑制効果が認められます。

* EIAの病態にはまだ不明な点が多く、運動に伴う換気増大によって気道収縮が起こることは明らかで、気道の水分喪失と熱喪失が引き金になっていると考えられます。

   出典:臨床と薬物治療 2003.10

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eNO
呼気中一酸化炭素濃度

運動誘発性喘息(EIA) 診断にはeNO濃度測定が有効


EIAの診断基準

1)自覚症状や喘鳴聴取に加え、運動後の呼吸機能低下がみられるケース
2)自覚症状はあるが呼吸機能に低下がない場合でも、eNOが高値を示し気道過敏性検査(AHR)で亢進が認められればEIAとする。


咳喘息(CVA)とアトピー咳喘息(AC)

症状が似ているが、CVAのeNO濃度が有意に高い


   出典:メディカル・トリビューン 2009.2.5


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