メインページへ

1997年5月1日号 221

気管支喘息の医療経済性の向上

ステロイド薬の再評価

 

 医療費の増大が大きな社会問題になっています。また治療の方法によっても、入院期間、薬剤使用量などに大きな差が出てきており、疾患別の治療指針の確立が急務とされています。
 気管支喘息は、治療あるいは管理が難しい疾患であるため医療費が高騰しがちです。重症の気管支喘息の治療に高濃度吸入ステロイドを用いると、入院日数を80%減少できるなどの報告がなされています
 日本に限らず、多くの国々で喘息を始めとする慢性疾患や治療の難しい疾患の医療費が大きな負担となっています。

{参考文献} ファルマシア 1997.4 亀井淳三;星薬科大学講師

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’ 気管支喘息は、発作の発現頻度や強度が増加するに従い医療費負担は増える傾向にあります。当然のことながら管理が向上すれば、医療費の負担は減少してきます。

 欧米での研究によると、気管支喘息の医療費に占める直接費(診療報酬、薬剤あるいは治療用具費、入院費など)と間接費(療養のための休業による損失、看護のための休業による損失など)の割合はほぼ1:1となっています。そして直接費のうち薬剤費が占める割合は約37%であるとされています。
 いくつかある気管支喘息に関する国際指針に従って、喘息治療を行えば入院患者や救急患者が大幅に減少します。この治療方針は、薬剤費と一般開業医への診療報酬(外来治療費)が増加する反面、入院費あるいは入院によってもたらされる休業による損失は大幅に減少します。

 欧米と比べて日本の入院費が1桁違うほど安いという事情を差し引いても、1日の入院費用で、吸入ステロイド薬による3年間分の治療費が賄えるという事実があります。

 欧米では経費がかかる入院を減らし、外来診療に切り替えるためにはいかにすべきかが問題となっています。

 京都大学胸部疾患研究所では、欧米と日本では喘息治療の違い、特に吸入ステロイド薬の普及率に著しい違いがあると言及しています。すなわち日本でのステロイド吸入薬の販売額は最も販売額が高い英国の数%程度にしかすぎません。

 ステロイド吸入薬などを用いる国際治療指針に従った治療を行えば入院患者及び救急患者が約80%減少し、この節減された医療費を医療の質の向上に振り向けられるとしています。

 いかにして医療費の無駄をなくし、より適切な医療費配分を行い、医療経済性に立脚した治療方針を重視していくべきと思われます。

 
*ステロイド吸入薬が日本で普 及しなかった理由

 ステロイドの副作用に対する漫然とした恐怖感がある。
 吸入量が少なく、連日使用が 強調されなかったために有効 域に達しなかった。


<追加記事>

気管支喘息の時間薬物治療

JJSHP 2000.12

 気管支喘息は気道の慢性炎症が主因ですが、その他の気道収縮に関する因子が重なり合って夜間に症状が出現しやすくなっています。

 夜間喘息患者では、浸潤細胞数に日内変動があり、午前4時に末梢肺胞組織の方に好酸球、マクロファージが有意に多数浸潤していて、中枢側気道組織との差は大きく、末梢肺胞組織での炎症細胞浸潤が気道炎症に大きく関わっているとされています。このことからも末梢気道・肺胞組織の慢性気道炎症が夜間喘息の病態形成に重要な意味を持つことが分かります。

他の主な要因は、内分泌系、副交感神経系、気道過敏性、体温等ですが、それらの多くは日内変動し、変動内に生体リズムととして概日リズム(サーカディアンリズム)を持つものが少なくありません。

気管支喘息の時間薬物治療の薬物治療

1)β2刺激剤

 内服を夜間に重点を置く方法として、徐放性ツロブテロールを朝8時に1日量の1/3、夜8時に2/3を服用する方法が有効であったとの報告があります。

 ホクナリンテープは、最高血中濃度到達時間は約9〜12時間に設計されています。夜間入浴後、18〜20時間前後に貼付すれば喘息患者の症状の出やすい時刻帯に効果が期待できます。

2)テオフィリン

 従来は、喘息の治療にRTC(Round the Clock)療法が広く用いられてきました。これは、1日の血中テオフィリン濃度を一定にするように服用させる手段ですが、多くの気管支喘息の症例は夜間に呼吸機能が低下し症状が増悪します。従って、夜間にテオフィリン濃度を高めたほうがより有用であると報告されています。

 夜間に血中テオフィリン濃度を上昇させるため、分割比率を朝1/3、夕2/3に分けて服用させる方法が欧米ではよく用いられています。1日1回夕のみに服用する方法は、成人に用いられている時間治療の方法です。血中テオフィリン濃度導入の際には、測定が必要です。

 最近、テオフィリンに慢性気道炎症に対する抗炎症作用が報告され、改めて注目されています。

3)ステロイド

 副腎皮質ホルモン在の服用時刻による効果の違いが報告されています。プレドニン錠40mgを15時に服用した場合、最もPEF:ピークフローが増大したとされています。

 中等症喘息で、BDP:ベクロメタゾン ヂ プロピオネート(アルデシン、ナイスピー、サルコート等)の1日1回(17時あるいは22時)吸入でも良好に管理できたとの報告があります。積極的な時間治療とは違いますが、BDPは少なくとも1日4回にする必要は無くコンプライアンス向上につながると思われます。


<<用語辞典>

D LCO

diffusing capacity of the lung for carbon monoxide

一酸化炭素拡散能

 肺胞内酸素と、肺毛細血管内のヘモグロビンとの間でO2とCO2が交換されます。この交換過程は物理的な拡散により行われ、肺胞と肺毛細血管との間のガス交換が障害されると、呼吸不全状態となります。実際の測定では、COはCO2よりヘモグロビンと結合力が強いため、拡散能力をD LCOとして現します。

 測定法としては、一般的に1回呼吸法が用いられ、正常値は15〜40ml/min/Torrです。
予測値との比(%)で現されることも多く、D LCOが75%以下の時は異常とみなされます。

 臨床的には肺線維症、慢性肺気腫、肺水腫などでD LCOの低下をみます。

torr
トル
〔イタリアの物理学者トリチェリの名にちなむ〕圧力の単位。標準大気圧が760トルと定義される。すなわち1トルは水銀柱1ミリメートルの圧力に等しい。記号Torr

出典:薬剤師が知っておきたい臨床知識(薬事時報社)等


呼吸リズムの異常

チェーン・ストーク呼吸     チェーン・ストークス呼吸の機序もご覧ください。
Cheyne-Stokes

 無呼吸の後、CO2が蓄積されてくると呼吸中枢が刺激されて過換気に向い、血中CO2が低下してくると再び無呼吸になる呼吸形式。

 脳出血、脳腫瘍、睡眠薬や麻酔の中毒などで見られます。

ビオー呼吸
Biot

 促拍呼吸と無呼吸が10〜30秒の間隔で交互に現れ、呼吸の周期、深さ、頻度が極めて不均等な呼吸形式

 脳障害時に見られます。

クスマウル呼吸
Kussnaul

 1回換気量が極めて増大し、呼吸量は減少するもので、糖尿病のケトーシスが生じ、pHが低下した状態(アシドーシス)の時に発生します、呼吸は不整ではありませんが、発作性に深く遅くなります。


添付文書を甘く見るな(2)こちらに移動しました。

シリーズ情報を考える(2)


HOT
在宅酸素療法

出典:治療 2001.11

 在宅酸素療法(HOT)の対象疾患は、1.高度慢性呼吸不全、2.肺高血圧症およびチアノーゼ型先天性疾患です。

 慢性呼吸不全例のうち、対照となる患者は、在宅酸素療法導入時に動脈血酸素分圧55Torr以下および動脈血酸素分圧60Torr以下で、睡眠時または運動時に著しい低酸素血症を来すものであって、医師が在宅酸素療法を必要であると認めたもの(2000年4月改訂)です。なお、運動時とは日常生活に必要な労作時の事と解釈されています。

 HOT導入の前提として、酸素吸入以外に有効と考えられる治療が積極的に行われており、少なくとも1ヶ月以上の観察期間を経て安定期であることが必要です。

 HOTにより、生存期間の延長とQOLの向上が認められます。夜間睡眠時間のみの酸素吸入と24時間の酸素吸入を比較すると、24時間の酸素吸入の方が生存期間が延長します。夜間睡眠中のみの酸素吸入でも全く吸入しない場合と比較すれば生存時間の延長が認められています。

 また肺循環動態の改善、入院回数の減少、運動耐容能の改善、呼吸困難の軽減、精神神経機能の改善などの報告もあります。

 患者の自覚症状でも、呼吸困難の軽減、食欲の増進、体重の増加、不眠の改善、頭痛の消失、喘息発作の軽減、動悸の消失などが認められます。


OPAT
Outpatient Parenteral Antimicrobial Therapy

外来通院静注療法

 小児呼吸器感染症での抗菌薬の使用法の1つ。
 米国では、セフトリアキソン(ロセフィン)が最もよく使用されています。これは抗菌スペクトルの広さもさることながら、長い半減期で、1日1回で有効であるためと思われます。

メインページへ