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老人(高齢者)での薬物相互作用

1990年2月15日号 No.60

   一般に高齢患者の場合、動脈硬化症、高血圧症、糖尿病などの多臓器疾患を合併することが多く、各種疾患に対する薬剤がそのつど処方され、いわゆる多剤併用療法が行われやすくなっています。

 相互作用の有害反応と多剤併用薬数は対応関係が成立することが知られています。老人の薬物療法で繁用される併用薬剤から特に留意すべき相互作用を紹介します。

 「参考文献」日本薬剤師会雑誌 1990.2

*ワーファリン錠とタガメット

 ワーファリンを服用している患者にタガメットを追加すると、1〜2週間にわたって、低プロトロンビン血症が徐々に増強されタガメットを中止しても、与薬前のプロトロンビン活性を回復するのに約1週間も要することが報告されています。

*ジゴキシンとワソラン

 ワソランはジゴキシンの腎排泄を抑え血中濃度は2倍になります。また共に房室伝導を抑制するので高度の除脈に注意が必要です。

*副腎皮質ホルモン剤とアスピリン

 併用によりサリチル酸の排泄が増加、ステロイド剤の減量や中止により、サリチル酸中毒が起こる可能性があります。

*メネシットとピロミジン〜効果減弱、パーキンソン病悪化

*フェノチアジン系薬剤と制酸剤
 水酸化アルミニウムとコントミンなど併用は治療効果を減少させます。

<老人に相互作用の起こしやすい薬物>

 アルコール(飲酒)、蛋白同化ステロイド、ワーファリン、三環系抗うつ剤、バルビツール酸系薬、

 コレスチラミン、フルイトラン、サロベール、リンコシン、インデラル、テトラサイクリン、メソトレキセート


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アトピーと感染の関係

2001年5月15日号 314

 アトピー性皮膚炎の患者は細菌やウイルスに感染しやすい一方で、麻疹や水痘、単純ヘルペスウイルス感染症のカポシ水痘様発疹症などに罹ると、その湿疹が改善あるいは治癒することが観察されています。

 このことは、これらの感染症で感染防御に伴う免疫応答Th1の誘導によって、Th2優位のアトピー性皮膚炎の制御が可能であることを示唆しています。

 動物実験で、Th2型優位の炎症反応の存在が感染初期から表皮でのウイルスの増殖の促進を誘導するようであり、特異的免疫反応の抑制状態の関与は少ないことを示唆する結果が得られています。

 潜在感染巣から放出されるスーパー抗原、細菌由来の毒素、菌体成分、代謝産物などは免疫系を介してあるいは直接アトピー性皮膚炎の病像に影響を与えていることが推察されています。

 アトピー性皮膚炎では、いくつかのウイルス性皮膚疾患が重症化、あるいは頻発することがよく知られています。その背景としてアトピー性皮膚炎でのTh2型優位の炎症反応の存在、皮膚バリアー機能の低下などがウイルスに対する易感染性を招くと考えられています。

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・Th1細胞とTh2細胞は相互に抑制し、両者は一定のバランスを保っています。

・Th1細胞は細胞性免疫を亢進し、逆にTh2細胞は液性免疫を亢進します。

・Th1細胞優位では、結核、リステリアなど防御に細胞性免疫の関与する感染症に抵抗性であり、Th2細胞優位では易感染性となります。また、細胞性免疫の関与する臓器特異的自己免疫疾患の発症にはTh1細胞優位が、また、液性免疫の関与が大きい全身性自己免疫疾患やIgEの関与する気管支喘息などにはTh2細胞優位が関与するとされています。

関連項目:Th1/Th2バランス

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(追加記事)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Hygiene hypothesis
(衛生  仮説 )

 従来、感染症とアレルギー疾患は全く異なる疾患であると思われてきましたが、近年、その発症に重要な役割を果たしているヘルパーT細胞(以下Th)には、サイトカイン産生パターンにより2つのタイプがあり、それぞれが感染症(Th1)とアレルギー(Th2)に関与していると考えられるようになりました。

 さらに、これらの細胞群は、お互いにその成立や活性化を制御し合うことから、両者の間に何らかの関連性があると考えられるようになりました。

 ツベルクリン陽性者は陰性者に比べて、アレルギー疾患罹患率が低く、Th2サイトカインの産生低下とTh1サイトカインの産生亢進が認められ、さらにツベルクリン反応陰性から陽性に転じることで、アレルギー性疾患罹患率は低下することが見出されています。

 感染とアレルギー疾患の発症は、あるバランスの上に規定されているらしく、このことから、近年、環境がより衛生的になったことでアレルギー疾患が増加してきたというHygiene hypothesisが支持されてきています。

 出典:ファルマシア 2003.1

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アトピー難治化要因としての潜在性感染

 アトピー性皮膚炎患者の皮膚病変部からは高率高密度に黄色ブドウ球菌が検出されますが、その存在が感染か定着かを見極めることが重要です。定着であっても10の6乗から7乗/cm2の場合は、アトピー性皮膚炎の増悪、遷延化に関与していると考えられます。

 またアトピー性皮膚炎患者では、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌による原発性感染症(伝染性膿痂疹など)の合併も少なくありません。細菌感染症の合併を考慮したアトピー性皮膚炎の治療では、常に細菌培養を行うとともに、適切な抗菌薬の選択が大切です。 

その他、アトピー難治化の要因

 アトピー性皮膚炎難治例では、シャンプー・石鹸類が最も頻度の高い皮膚症状悪化因子で、これらは患者の生活習慣と密着しているため、皮膚症状悪化の原因として浮かび上がることが難しく、アトピー性皮膚炎の難治化の要因として作用している可能性があります。また、長期にわたって皮膚症状が持続していた症例の中では、慢性扁桃炎歯根尖病巣の併発が高頻度にみられ、皮膚症状の難治化の要因として重要な位置を占めていることが考えられます。

{参考文献}SCOPE 1998.4     
      医薬ジャーナル 2001.3


なぜアトピーが子供に多く起こるのか

ステロイドを考える(6)

 このシリーズは、新潟大学医学部医動物学の安保徹教授が「治療」に1999年から2000年にかけてに連載されておられたものを再構成したものです。

 このシリーズは新潟大学医学部医動物学の安保徹教授の説を元に構成したものなのですが、すでにお気づきかと思いますが、阿部先生は常に自律神経を中心に理論を展開されておられます。今回も副交感神経興奮→リンパ球増多という観点からアトピーを考えてみましょう。

 新生児は、出生時の肺呼吸開始の酸素ストレスによって交感神経緊張状態になり、交感神経支配下にある顆粒球が激しく増加します。これは出生後数日でおさまり、その後子供時代に特有なリンパ球優位のパターンに入ります。

 自律神経はエネルギー系と連動していて、エネルギーを蓄積、あるいは生体が酸素を奪われる還元状態に入ることで副交感神経が刺激されます。つまり、副交感神経優位の体調となり、成長エネルギーを吸収できる体調といえます。このような体調は15〜20歳くらいまで続きますが、食糧事情や生活パターンの改善によってこの年齢が上昇する傾向があります。

 日本では戦後の貧しい時代から、今日の豊かな時代への間に、この年齢が大幅に上昇しています。アトピー性皮膚炎や気管支喘息などの子供のアレルギー疾患が今の日本で増え続けているのは、このリンパ球優位の体調が拡大し続けていることが基本にあります。

 子供時代は、リンパ球優位で普通なのですが、この体調が片寄って過剰状態になるとアレルギー疾患を引き起こします。(排気ガス、運動不足・肥満、過保護、有機溶液の吸入などはリンパ球増多を引き起こします。)

 リンパ球が過剰になってもすぐにアレルギー疾患になるわけではありません。リンパ球が過剰となって、色々の抗原と反応して免疫複合体(immune complex)が形成されても、血流や分泌現象が保たれている場合は発症に至りません。免疫複合体が、組織局所に停留しないからです。そもそも副交感神経は血流促進や分泌反応と連動しています。

 ストレスによる血流障害(免疫複合体の停留)、抗原の存在(ホコリの多い家、動物の毛など)などの誘因のよって、血流障害や分泌抑制が起こった時にアレルギー弛緩が発症します。身体的ストレスや心の悩みが直接の誘因となることもあります。抗原が多すぎる事も発症の原因となりますが頻度は、それほど多くありません。

 アトピー性皮膚炎は、免疫複合体や落屑を分泌によって体外に出そうとする反応で、ある意味では生体が治癒しようとしている反射なのです。従って、直接この炎症を抑える治療はすべて逆効果となります。

 アトピー性皮膚炎の治療指針は、まずストレスや抗原を避けることです。その次に副交感神経優位の体質を改善することです。具体的には、乾布摩擦(まさつ)、野外での運動、甘いものをとらないなどです。

 「ステロイドを使用した場合、人に備わった自然治癒力が損なわれ、これが青年期に入ってもアトピー性皮膚炎が治らずに難治化している理由ともなっている」と言うのが、安保先生の持論です。

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アトピー咳嗽

新しい疾患概念〜金沢大学大学院細胞移植学・呼吸器内科 藤村政樹助教授が1986年に提唱。2003年にThoraxに新規疾患概念として掲載され国際的に認知


咳喘息とアトピー咳嗽

咳喘息の最も根本的な定義は、β2刺激剤などの気管支拡張剤が有効な病態です。

病理学的所見

 誘発喀痰、正検気管支粘膜と気管支肺胞洗浄液に好酸球が喘息と同程度に出現
 中枢気道から末梢気道全体の好酸球性気管支細気管支炎で、気管支喘息とまったく同じ。
 気道過敏症が軽度亢進、気管支平滑筋トーヌスが軽度亢進、咳感受性は正常。
 咳喘息の咳嗽は気管支平滑筋の軽度収縮がトリガーとなって発症すると考えられる。
 数年の内に、約30%の患者が典型的な喘息に移行するため、喘息の前段階と考えられる。

※ アトピー咳嗽

 何かしらのアトピー素因ないし、誘発喀痰中に好酸球が見られ、気管支拡張剤がまったく無効な咳嗽を呈し、ヒスタミン(H1)拮抗薬とステロイドが有効

 病理的所見、誘発喀痰と生検気管支粘膜に好酸球が出現するが、気管支肺胞洗浄液には好酸球が見られない。

 生理学的所見〜咳感受性が亢進、気道過敏性は正常

<アトピー咳嗽の治療>

 軽症:アゼプチン錠 4錠分2

 中等症:アゼプチン錠+フルタイドディスカス+ムコダイン錠

 重症:中等症+プレドニン錠4錠を分1朝(1〜3週間)

*アトピー性咳嗽では喘息への移行は認められないので、咳嗽が軽快すれば治療薬の原料中止が可能。再燃すれば同じ治療の繰り返しで対応。

 出典:日本薬剤師会雑誌 2005.2

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