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薬剤ニュース  HS病院薬剤部発行

シスプラチンの聴力障害

昭和63年6月15日号  NO.24

 シスプラチンは、1965年に、まず抗菌剤として発見され、その後、抗腫瘍効果もあることが確認されました。
睾丸腫瘍、卵巣癌に有効性を示し、最近では頭頸部癌、非小細胞肺癌についても効果が認められています。

 副作用としては、腎機能障害、胃腸障害、骨髄機能抑制が良く知られていますが、耳科学的には聴器毒性も問題になってきています。

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 このシスプラチンによる聴力障害は、アミノグリコシド系抗生物質に極めて類似しており、聴器毒性の病変は内耳の加齢性退行変化が加速して生じたものと言われています。すなわち、老人西南町での蝸牛病変と同じものです。

 いったん難聴が発生してしまうとその回復は極めて困難なため、定期的な(2週間毎)聴力検査を行い、耳鳴り、耳閉塞感などの初期症状を見落とさないことが大切です。

 異常を発見した場合には、治療効果と副作用による障害とを勘案してシスプラチンを継続するか、中止するかを考察する必要があります。

 初期の障害は可逆的であることが多いので、シスプラチンを中止し、ステロイドやビタミンB剤、代謝賦活剤などの大量点滴療法や、また、ホスホマイシンが腎尿細管上皮のライソゾーム膜を安定化するため腎機能を障害を軽減し二次的に聴力障害を軽減するとの報告もあります。

{参考文献} 医薬ジャーナル 1988.6


<医学辞典>

抗核抗体
抗dsDNA抗体
抗カルジオリピン抗体

抗核抗体とは、有核細胞の核成分に対する自己抗体の総称で、膠原病をはじめとする多くの自己免疫疾患の患者血清で検出されます。

抗DNA抗体は代表的な抗核抗体のひとつで、DNAを抗原としたときに反応する抗体の総称です。

日本鎖(ds)DNA、日本鎖および一本鎖(ds/ss)DNA、さらに一本鎖(ss)DNAに対する抗体に大別されます。

このうち抗dsDNA抗体は、膠原病のスクリーニング検査等に用いられますが全身エリテマトーデス(SLE)の活動性、特にループス腎炎の活動性に抗体価が連動するため、SLEの診断に有用とされています。

抗カルジオリピン抗体代表的な抗リン脂質抗体で、その存在が反復性の流産・子宮内胎児死亡、全身の動・静脈血栓症、あるいは血小板減少症などと密接に関連しています。

カルジオリピンあh、梅毒の血清反応の抗原として用いられ、したがって抗カルジオリピン抗体を酸性する疾患では、梅毒でなくても、陽性(偽陽性)となることがあります。
 

SLE

SLE:systemic lupus erythematosus

全身性エリテマトーデス

発熱、紅斑、筋肉痛、リンパ節腫脹等

関節痛、レイノー現象、抗核抗体、LE細胞、リウマトイド因子陽性

SLEの分類基準:月刊薬事 1998.3月臨時増刊号「重大な副作用とそのモニタリング」

<1982年改定アメリカ・リウマチ学会によるSLEの分類基準>

1.蝶形紅斑:頬骨隆起性の紅斑
2.円板状皮疹:癒着性角質性鱗屑および毛嚢角栓を伴う隆起性の紅斑
3.光線過敏症:日光暴露による皮疹
4.口腔潰瘍:通常痛みを伴わない口腔あるいは鼻咽頭の潰瘍
5.関節炎:2カ所以上の末梢関節の骨破壊を伴わない関節炎
6.漿膜炎:胸膜炎、心膜炎
7.腎障害:持続性蛋白尿、細胞性円柱
8.神経障害:痙攣発作、精神病
9.血液異常:溶血性貧血、白血球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症
10.免疫異常、LE細胞陽性、抗DNA抗体陽性、抗Sm抗体陽性、梅毒反応偽陽性
11.抗核抗体陽性:蛍光抗体間接法もしくはそれに準ずる方法による。

添付文書に重大な副作用としてSLEの記載があるもの(当院採用分)

アレビアチン、テグレトール、ノバミン、ヒダントール、ボルタレン、メレリル、白色コントミン散、コントミン注、アセタノール、アプレゾリン、アミサリン、アルドメット、チウラジール(PTU)、メルカゾール、メタルカプターゼ、メタライト、イソニアジド、キャンフェロンA、スミフェロン、サラゾピリン錠、ミノマイシン、アザルフィジンEN

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全身性エリテマトーデス

systemic lupus erythematosus(SLE)
generalisierter Lupus Erythematodes
lupus e´rythe´mateux disse´mine´

 多臓器障害性の全身性炎症性疾患で、慢性に経過します。多彩な自己抗体,中でも抗核抗体が高頻度にみられます。

 原因は不明ですが、発症には遺伝的背景が関与しているものと思われます。

 臨床症状は多彩で、発熱,顔面蝶形紅斑,紅斑様発疹,多関節痛(炎),漿膜炎,貧血,血小板減少,腎症状,神経症状,心症状がみられます。

 女性とくに思春期および青年期の女性に多くみられ、男性の約10倍

 抗核抗体のなかで、最初に記載されたものはLE細胞現象を起こす抗体です。破壊された白血球より放出された核タンパク(DNA‐histone)が抗体であるIgGと反応します。その複合体が生き残っている白血球に貪食されます。

 LE細胞現象はin vitroにおける反応で補体も関与します。間接蛍光抗体法で抗核抗体を検索すると、均質型,辺縁型,斑紋型,核小体型に分かれ,それぞれ対応抗原が異なります。間接蛍光抗体法以外に沈降反応や,受身赤血球凝集反応でも抗核抗体が検出されます。

 抗Sm抗体は検出頻度は20%以下ですが、特異性の高い抗体です。血清補体価は、疾患活動性の高いときに著明に低下している。SLEは急激に発症し、短期間に死亡する疾患と考えられていましたが、診断・治療の進歩によって今日ではそのような症例はあまりみられなくなっています。多くの場合は、再燃と寛解をくり返し慢性に経過します。

 関節炎,漿膜炎,レイノー現象が主体である症例では、腎臓,中枢神経など主要臓器が障害され,生命予後が悪いとされています。その他二次感染で死亡することもあります。治療は,ステロイド,免疫抑制剤が用いられますが、腎透析,血漿透析が有効なものもあります。

 ある種の薬剤,例えばヒダントイン、プロカインアミドなどを長期服用していると、SLE症状がでたり、抗核抗体、とくにヒストンに対する抗体が出現します。薬を中止すると、大部分の症例では臨床症状,抗核抗体ともに消失します。これを薬剤性ループス様症候群drug‐induced lupus syndromeと呼びます。

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エリテマトーデス
lupus erythematosus(LE)
紅斑性狼瘡

lupus erythematosus(紅斑性狼瘡)の慣用的名称

lupusはラテン語でオオカミ(狼)を意味し、顔面に生じた侵食性紅斑性潰瘍をさします。(狼瘡)

 lupus e´rythe´mateauxというラテン語由来のフランス語から出発し、英米系ではlupus erythematosus、ドイツ語系ではLupus erythematodesが使用されるようになり、わが国では慣用語のみは後者に由来する名称を用いるようになっています。

 一般的には,全身諸臓器を侵す全身性エリテマトーデス(SLE)と,皮膚に限局する〔慢性〕円板状エリテマトーデス(円板状エリテマトーデス;DLE)に大別します。また,両者の中間型として亜急性皮膚エリテマトーデス(SCLE),および特殊型として深在性エリテマトーデスなどが分類されます。

 いずれも自己免疫機序が発症の基盤に考えられていますが不明の点も多く、現在、上記分類は種々の立場から名づけられた診断名が同列に扱われているという大きな矛盾があるため、統一的に診断名と皮疹名を考える提案がなされています。


ループス腎炎

lupus nephritis(LN)

 全身性エリテマトーデスに合併する糸球体腎炎で免疫複合体型腎炎の典型とみなされています。

 WHO分類では、 1)正常糸球体, 2)メサンギウム増殖性変化, 3)巣状分節状糸球体腎炎, 4)びまん性増殖性糸球体腎炎, 5)びまん性膜性糸球体腎炎, 6)末期硬化性糸球体腎炎の6型に分類され,これに巣状壊死,ヘマトキシリン体,半月体形成,ワイヤー・ループ病変,微小血栓などの活動性病変の有無を併記して病変を記載します。


lu・pusとは、おおかみ(狼)こと。「おおかみのような」

〔病〕狼瘡(ろうそう):皮膚結核の一種.
《L-》狼(おおかみ)座(the Wolf).

薬剤によってSLE症状(上記)が発現し、その薬剤の中止によって症状の改善を見るものを薬剤性ループス様症候群といいいます。

Dペニシラミン、ヒドララジン、プロカインアミド、クロルプロマジンなどが代表的で、その他にもキニジン、フェニトインなどの抗痙攣剤、アセブトロールをはじめとするβ遮断剤、スルフォンアミドの骨格を持つスルファサラジンやスルフォニルウレア、インターフェロンなどの生物学的製剤など、種々の薬剤が抗核抗体を陽性化し、薬剤性ループスを誘発する可能性があるとされています。

一般に、薬剤性ループスの特徴として、自然発症SLEの発症が女性に多いのと比べて、性差がなく、発症年齢も高い傾向にあることが知られている。

また、腎障害、中枢神経障害などの頻度は低く、血清補体値は正常であると言われています。DペニシラミンによるSLEでは、低補体値が認められ、約35%もの症例に腎障害が見られるため、自然発症SLEと同様に重篤な症例に至る可能性があり、注意が必要です。


ファンコニー症候群

出典:添付文書の用語と解説(薬事時報社)

腎性糖尿、蛋白尿、低リン血症を伴ったくる病を主徴とする症候群

近位尿細管の再吸収障害をはじめとする広汎な腎尿細管機能障害のため、蛋白尿(低分子量)、腎性糖尿、汎アミノ酸尿、低リン血症、HCO3-尿症、尿細管性アシドーシス(RTA)が引き起こされ、くる病や骨軟化症などの骨変化が進行します。

1次性には幼年型と成人型があります。2次性の原因には、ネフローゼ、多発性骨髄腫、アミロイドーシスなどの疾病や変性、テトラサイクリン、6−MPなどの薬剤、水銀、カドミニウムなどの重金属中毒などがあります。

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近位尿細管障害

デパケン、バレリン、イホマイド注の重大な副作用
(シスプラチン?)


原因〜遺伝(ガラクトース、フルクトース、シスチン血症、糖原症タイプ1)
2次的原因〜重篤な金属中毒、ゲンタマイシン、セファロチン、テトラサイクリンの与薬歴、高副甲状腺ホルモン血症

腎尿細管転送障害症
renal tubular transport defect

 尿細管の異常により単一または複数の物質の尿細管での転送が障害される状態で多くは先天性です。(腎尿細管機能異常)

 原因として尿細管上皮細胞膜の構造異常,特定物質の能動移送に関与する担送タンパクの異常や転送に要するエネルギーの供給機構の障害などが考えらます。

 単一物質としてはグルコース(腎性糖尿)、リン(低リン血性くる病)、重炭酸イオン(近位尿細管性アシドーシス)、水素イオン(遠位尿細管性アシドーシス)、2種類以上の物質としては,二塩基性アミノ酸(シスチン尿症,リジン尿症)、イミノグリシン(イミノグリシン尿症)、二炭酸基性アミノ酸(二炭酸基性アミノ酸尿症),中性アミノ酸(Hartnup病)などがあり、糖,リン,水素イオン,アミノ酸など多種物質の転送障害の認められる場合をファンコニー症候群Fanconi syndromeといいます。

 同一物質の転送障害が尿細管のほかに腸管でも認められる場合があります(リジン尿症,Hartnup病など)


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過眠症とその治療

2008年10月15日号 No.485

 2005年に公表された睡眠障害国際分類(ICSD-2)によると睡眠障害は8つに分類されます。その1つが中枢性過眠症です。

 ナルコレプシーはこの中枢性過眠症の1つで、主として「カタプレキシーを伴うナルコレプシー」「カタプレキシーを伴わないナルコレプシー」「医学的原因によるナルコレプシー」があります。

睡眠障害の分類

1.不眠症,
2.睡眠呼吸異常症, 3.中枢性過眠症, 4.概日リズム異常症
5.睡眠随伴症, 6.睡眠関連運動異常症, 7.他に分類できない単独の症状,暫定的正常バリアント
8.その他の睡眠関連疾患

    {参考文献}大阪府薬雑誌 2008.10

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 ナルコレプシーは、一般に居眠り病と呼ばれ、「過眠症」の中の代表的な病気です。

・日中の過度の眠気
・カタプレキシー(情動脱力発作)
・入眠時幻覚
・睡眠時麻痺(金縛り)
     の4つをナルコレプシーの4大症状といいます。このうち、入眠時幻覚と睡眠麻痺はナルコレプシーに特有の症状というわけではなく、普通の人でも起こりうる症状です。

 ナルコレプシーの重要な重要な症状の1つがカタプレキシーです。

 カタプレキシーは、興奮して喜怒哀楽の情が高まった時、特に大笑いしたり得意になったりといったプラスの感情が強く働いた時に起こります。

 こうした陽性の感情が強く働いたとたんに、全身あるいは膝、腰、あご、まぶたなど体の姿勢を保つ骨格筋の緊張が突然抜けてしまう現象です。

 発作時の症状は、瞼がさがって目を開けていられなくなったり、ほほや顎がゆるんだり、ろれつが回らなくなるなど周囲の人に気づかれない程度の軽度のものから、首の力がガクッとぬけて頭が前に垂れ下がったり、膝がガクガクする程度のもの、さらにが体がグラッと沈み込んだり崩れるように地面に倒れてしまい、救急車を呼ばれてしまう重度のものまで様々です。

 しかし、こうした発作の持続時間は普通1〜2秒という瞬間的な場合が多く、長くても数分程度で、時間が過ぎると自然に回復します。
 ナルコプシーの疫学調査によりますと、日本人では約600人に1人の割合でナルコレプシー患者であるといわれています。しかし、その数字に基づくと、日本には潜在的に約20万人の患者がいることになります。

 しかし、ナルコレプシーの診断がついて薬物治療を行っている患者は一部に過ぎません。ナルコレプシーの疾患としての認知度が低く、そのため患者さんが通常は病院へ行かないことも理由のひとつ考えられます。

 ナルコレプシーは時や場所に関係なく、日中に眠気と居眠りを繰り返してしまうのが基本的な症状で、この症状だけでは患者自身も病気だといいう認識がありません。また、周囲の人も病気と気づかないことから単純に怠け者として扱われることが多く、ナルコレプシーという疾患に対する認識不足により、患者は生活上、職業上、不利益を被ることが多いようです。

<治療>

 ナルコレプシーの治療は、行動療法、薬物療法、生活環境の改善の3つの要素を組み合わせて行われます。

・行動療法〜毎日ほぼ同じ時間に寝起きする。規則正しい睡眠覚醒の習慣心掛ける
・生活環境の改善〜家族、友人、同僚の病気への理解を得る。
・薬物療法〜モダニフィル、リタリン、ペモリン(いずれも当院未採用)
  情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、 アナフラニール、トフラニールなど三環系抗うつ剤が有効とされています。夜間の熟眠障害にはドラールなども用いられます。


ナルコレプシー
narcolepsy

睡眠発作
同義語:ジェリーノ症候群Ge´lineau's syndrome,居眠り病Einschlafsucht,眠りの発作Hypnolepsie

 てんかんとは関係なく、睡眠調節障害を主徴とする疾患
症状としては、昼間に耐え難い眠気に襲われ、情動を契機に全身の筋脱力発作など特異なものがあり、また、入眠時幻覚や睡眠中の脱力発作(睡眠麻痺)なども起こり、夜間の睡眠障害も存在します、

 脳波上覚醒中にも睡眠波(α波)が、出現することが知られています。

 治療としては、昼間に精神刺激剤を使用し、夜間に抗精神病薬、睡眠薬を使用するとされています。

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 睡眠障害の一つで、短時間の過剰な眠気(睡眠発作sleep attack)あるいは驚き、笑いなどの情動に伴って起こる姿勢筋緊張の突然の低下(情動脱力発作cataplexy)を生じ、日中反復する居眠りがほとんど毎日少なくとも3ヵ月以上にわたりみられるものをナルコレプシーといいます。

 また睡眠麻痺sleep paralysis、入眠時幻覚hypnagogic hallucinationなどを伴います。

 睡眠発作は典型的には疲労しやすい場面で10〜20分眠り、さわやかに目覚めますが、また2〜3時間たつと再び眠気を催すというパターンを繰り返します。情動脱力発作の場合は強い情動による両側性の筋緊張の喪失が通常2,3秒〜数分くらいですみやかに回復します。その際,意識は清明に保たれ、記憶障害、呼吸の異常を伴いません。

 睡眠ポリグラフ所見では、日中、終夜とも睡眠潜時が10分以下に短縮し、睡眠開始後早期に(終夜ポリグラフでは20分くらいで)入眠時レム期(SOREM)がみられるのが特徴です。入眠時レム期は入眠時幻覚,睡眠麻痺との関連があるといわれています。

 治療としてはメイチルファニデート(リタリン)、塩酸メタンフェタミン(ヒロポン)、ペモリン(ベタナミン)、三環系抗うつ薬が一般に用いられています。

 病因は不詳ですが、第6番染色体短腕にある遺伝子により決定されるヒト組織適合抗原(HLA)のうちDR 2陽性と相関が高いとされています。


      不眠症はこちらです。


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