HS病院薬剤部発行     

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薬剤ニュース

  1994年

11月1日

NO.163

 

ニューキノロン系抗菌剤と横紋筋融解症

      ****医薬品副作用情報NO.128****             

                                         

 ニュ−キノロン系抗菌剤使用後に横紋筋融解症が発現したとする症例が5例、また強く疑われる症例が3例報告されています。報告のあった薬剤はメガロシン、トスキサシン、スパラ、シプロキサン等ほとんどのニュ−キノロン剤で報告されています。

 薬剤の与薬開始から発現までの期間は1〜6日と短く、症状が急激に発現しています。

 <これまでに横紋筋融解症が報告されている薬剤>

・高脂血症治療剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤)
       :メバロチン、リポバス、ベザト−ルSR

・その他ピトレシン(脳下垂後葉ホルモン剤)

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 横紋筋融解症は骨格筋の融解、壊死により筋細胞成分が血液中に流出するというもので、自覚症状として四肢の脱力、筋肉痛、着色尿などがあり、検査所見では、血中・尿中ミオグロビンの増加、CPK、GOT、GPT、LDH、アルドラ−ゼなどの筋原性酵素の急激な上昇が認められる。同時に急性腎不全等の重篤な 腎障害を併発することが多くなっています。

 すべてのニュ−キノロン系抗菌剤の与薬にあたっては横紋筋融解症が発現する可能性が注意する必要があります。具体的には横紋筋融解症と考えられる全身倦怠感、筋肉痛の発現やCPK等の上昇に注意し、異常 があればCPKアイソザイムを測定することや、必要に応じて与薬を中止するなど適切な処置をとることが必要です。

 1例では血中ミオグロビンが高値のまま回復せず死亡していますが、与薬前に既に脳動脈硬化症、間質性 肺炎、高血圧が存在し、服用後には消化器症状(下痢)が認められていました。

 既往の疾患と今回の薬剤の副作用との関連は不明ですが重篤な疾患が存在する場合には注意が必要です。

その他の症例(8例中7例)では薬剤の中止により、回復しています。

 報告された8例の年齢は16〜82歳で、性別は男性6例、女性2例でした。


<<医学用語辞典>>

SNL
センチネンタルリンパ節

日本病院薬剤師会雑誌 2003.2

SNLは、癌細胞がリンパに乗って最初に流入するリンパ節のことです。

数あるリンパ節の中で、最も癌転移を起こす可能性が高いリンパ節とされています。

このSNLを同定し、組織学的な癌転移の評価を行うことが、癌が転移していないリンパ節の不要な郭清を避けることにつながり、手術範囲の最適化と縮小にもつながります。

手術範囲の縮小は患者の手術後のQOL低下を防止すると共に、入院期間の短縮にもつながります。

現在、SNLの同定と評価は、乳癌の手術時に用いられていて、乳癌の外科手術の方向性を決定するための手段として注目されています。また、SNLの同定は悪性黒色腫や胃癌でもその有用性が示されてきています。

SNLを検出するための方法には、放射性医薬品を使用する核医学検出法や色素を用いた方法があります。


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 動脈硬化危険因子としての感染症

2003年8月15日号 No.366
 
 近年、動脈硬化は、白血球と血管内皮細胞の接着に始まり、これに血管平滑筋が加わり、これらの細胞が
サイトカインの働きを介して、相互に作用して形成される血管壁の慢性の炎症であると考えられるようになってきました。その炎症の原因として感染症があらためて注目されています。

 C.pneumoniaeやCMV(サイトメガロウイルス)などは血管の
マクロファージ、内皮細胞、平滑筋細胞に感染すると、接着分子の発現やIL-1、IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)、MCP-1などのサイトカインの産生、平滑筋細胞の増殖、アポトーシスの抑制、遊走促進、マクロファージの泡沫化などを惹起し、これらが動脈硬化促進の機序の1つとされていました。

 しかし、動脈硬化促進には、これらの血管壁に対する病原体の直接的作用だけでなく、感染に対する全身反応がより重要であるとの考え方も提言されています。

 すなわち、炎症局所だけでなく、他所で産生されるサイトカイン、
CRPなどの急性相蛋白、あるいは活性化した白血球などが内皮細胞の機能を障害することが重要と考えられるようになってきました。

 また、動脈硬化は自己免疫反応を介するとの説もあり、その抗原と考えられているものの1つに血管の細胞がストレスに反応して発現する熱ショック蛋白(HSP)が挙げられています。多くの病原体はHSPの相似蛋白を持ち、これが抗原となって抗体産生を誘導し、産生された抗体が共通抗原である血管のHSPを標的とするという仮説が提言されています。

 最新の研究によりますと多種の混合感染が動脈硬化に大きく関与するとされています。
すなわち、潜在感染として宿主の終生にわたるような感染であれば、個々の病原体の種類が問題なのではなく、感染による慢性炎症の程度が問題になると思われます。

 その根拠としてCRPの値と内皮細胞機能障害や動脈硬化の程度が強く相関することが示されています。また、C.pneumoniaeだけを標的とした抗生物質治療が必ずしも有効ではないこともこの説を支持しています。

<抗生物質による動脈硬化の治療>

 小規模な試験では、ジスロマックが心筋梗塞や狭心症の再発を50%以上減少させ、ルリッドが末梢動脈硬化の進展を予防するとの結果が得られていますが、より大規模な試験
(C.pneumoniaeを標的とした)ではジスロマックでの心筋梗塞の再発予防効果は認められていません。

<動脈硬化との関係が疑われている病原体>

 C.pneumoniae、サイトメガロウイルス、ヘリコバクタピロリ、コクサッキーB
 単純ヘルペスウイルス(HSV)、HIV、A型肝炎ウイルス(HAV)、麻疹ウイルス                                         など

      {参考文献}循環plus 2003.7 (メディカルトリビューン)

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Golagovの仮説

 「動脈硬化が少し進んでも、あまり血管系には変化はないが、更に進んでその限界を超えると管腔狭窄が起こる。」という仮説。

 最近、血管超音波でこの仮説が正しいことが示されています。


医学・薬学用語解説(み)

                水中毒はこちらです。


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動脈硬化とCRP

2006年6月15日号 No.431
 

 動脈硬化が血管の炎症に基づくものであることが判明して、急性相(反応性)蛋白が動脈硬化症の優れた指標として注目を集めています。 なかでも、国際標準品が存在し、物質として安定しており、値に人種差がなく、非常に感度が高いC反応性蛋白(CRP)がその代表として用いられています。

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動脈硬化の病態

 虚血性心疾患の発症機序として、従来は血管内膜肥厚による徐々に進行する冠血管の狭窄が考えられていました。しかし、脂肪線条と呼ばれる初期の軽度動脈硬化基礎病変しか持たない患者であっても心筋梗塞を引き起こすことから、発症病理の理解が異なってきました。

 何らかの機序による冠動脈血管の炎症が引き金となって動脈硬化プラークに亀裂を生じて血栓を形成し、そのために起こる急激な冠血流の減少によって急性冠症候群(ACS:acute coronary syndrome)を発症することが明らかになってきました。

 動脈硬化の血管病変を病理学的に観察すると、動脈硬化巣にTリンパ球、好中球。単球などの炎症細胞が浸潤し、壊死巣が存在するなど炎症像を呈しています。そこではインターロイキン(IL1β、IL6)、腫瘍壊死因子(TNF)αなどの炎症性サイトカインの産生増大が認められ、マクロファージの活性化が観察できます。

 血管炎症トリガー(引き金)としては、急激な血流速の変化による血管壁応力(shear stress)のような機械的刺激、アンジオテンシンIIやカテコールアミンなどの脈管作動性物質の作用、クラミジア・ニューモニエ、サイトメガロウイルスなどの寄生と感染の波及などが想定されています。

 原因のいかんを問わず、バリアとしての血管内皮細胞障害は酸化ストレスに無防備となり、内皮下に浸潤した脂質の酸化変性を生じます。これがマクロファージの活性化を招き、そのスカベンジャー受容体を介した脂質の取り込みによる泡沫化、血管平滑筋の収縮型から分泌型への形質転換を来して内膜へ遊走し、種々の液性因子の放出による血管壁のリモデリングが加速されます。

 このような炎症の波及の結果、急速に血管壁の破壊が生じ、血栓が急激に生じると考えられるようになりました。

 従来はこのようにして起こる急性心筋梗塞や脳卒中を予知し、予防する手段はありませんでしたが、前述のCRPの有用性がクローズアップされてきました。

高感度CRP

 動脈硬化巣で産生された炎症性サイトカインが肝臓に到達すると急性反応性蛋白を産生します。グラム陰性細菌感染症と比べると、CRPの産生量はわずかです。従って、従来から頻用されている免疫比濁法などでは感度が不十分ですが、最近では種々の高感度測定法が開発され、実用化されています。

 CRPの生理的役割の詳細は不明ですが、組織学的研究ではCRPが動脈硬化病変部位に集積し、一部は泡沫細胞に取り込まれていることなどから、炎症により壊死した細胞のマーカーとして組織を標識し、マクロファージの標的としている可能性が考えられています(オプソニン効果)。

高感度CRP値を下げる治療法

*スタチン系薬剤〜心筋梗塞の予防に有効

 スタチン系薬剤は脂質低下作用とは別に、血管炎を改善する作用が示唆されています。

 肺クラミジア感染などの慢性寄生細菌感染症では、血管内皮下の脂質プールをターゲットにして感染単球が入り込むものと考えられるので、スタチン系薬剤で脂質プールが減少すれば炎症の火種を持ちこまないため炎症像が改善することも考えられます。このことを支持するように抗生物質も高感度CRP値を減少させます。

*アスピリン〜同様のCRP低下作用があります

*ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)も高感度CRP値を減少

クリニカルプラクティス 2006.4


<NST関連用語解説> 栄養プランニングはこちらです。

 

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