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脳・脊髄膜炎と抗生物質

昭和63年12月15日号 No.35

   脳・脊髄膜炎の治療では、通常抗生物質や化学療法剤などが使用されます。
これらの薬物療法で問題となるのは、薬剤が病巣に達する前に、血液-髄液関門(Blood-CSF barrier)が存在するために薬剤の髄液移行が制限され、有効濃度に達しない場合があるという点です。

 ただし、脳・脊髄膜炎のように炎症が存在する場合には、血液-髄液関門が破壊されているため、抗菌剤は髄液へ移行するといわれています。その程度は抗菌剤の種類によって異なり、1.脂溶性が高い、2.イオン化しにくい、3.蛋白結合率が低い、4.分子構造が単純で分資料が小さい。ほど移行しやすいとされています。

     {参考文献}医薬ジャーナル 1988.12

 ホスミシン(FOM),クラフォラン(CTX)などが髄液への移行性は良好

 炎症の程度によっても移行は異なり、また、各薬剤の最小発育阻止濃度(MIC)との関連もあって、たとえ移行の良いとされる抗生物質でも、すべてが有効髄液濃度に達するとは限らず、髄液内の抗生剤濃度を有効濃度域にコントロールするために、直接薬剤を髄腔内や脳室内に注入する方法が試みられています。

 髄腔内注入では、通常の静注に比べて起因菌のMIC以上の濃度の維持が期待できますが、静注では見られない重篤な副作用(意識障害、脳幹障害、呼吸・循環障害等)の報告がなされており、その使用は最小限に留めておく必要があります。

<髄腔内注入が必要とされるケース>

1.MICが高い起因菌による感染症〜静注でそのMICを越える髄液濃度が得られない場合

2.アミノグリコシド系抗生物質〜髄液への移行が悪く、静注による副作用が強く大量使用できない場合

*いずれの場合も副作用が問題であるため、どうしても必要な場合に限って医師の責任のもとに行う必要があります。


<<用語辞典>>

ギラン・バレー症候群
Guillain‐Barre´ syndrome
同義語:感染性多発神経炎infective(infectious)polyneuritis
急性炎症性多発ニューロパシー acute inflammatory polyneuropathy

 急性上気道感染症や下痢を伴う胃腸炎感染後、1〜3週の経過で発症する多発性末梢神経炎症疾患で、四肢、特に下肢の脱力で発症し、急速に進行して通常4週以内にプラトーに達する症候群。1916年guillain、barreとstrohlにより髄液の蛋白細胞解離が新たな診断指標となるとして記載されて以来、guillain-barre症候群としてよく知られています。しかし、最近ではその臨床像、電気生理学的、病理学的検討から総称して急性炎症性脱髄性多発神経炎(acute inflammatory demyelinating polytradiculoneuropathy;AIDP)と呼ばれることが多い。

 先行感染の主要な病原体Campylobacter jejuniのリポ多糖がGM1ガングリオシド様構造を有することが明らかになり、先行感染の病原体が自己抗体(抗ガングリオシド抗体)として神経を障害する「交叉抗原説」が有力。ウシ脳ガングリオシド注射後に多数のguillain-barre syndrome患者が発生した事実や、in vitroでの抗ガングリオシド抗体による神経傷害作用も、その仮説を強く指示しています。

 自然に回復する予後良好な疾患と教科書には認識されていますが、実際には回復に長期間を要したり死亡したりする例も少なくなく、約20%の患者が後遺症に悩んでいる事実を重視しなければなりません。したがって、生命予後の改善、罹病期間の短縮、後遺症の軽減を目的として積極的に治療します。


 前駆症状として感冒様症状、あるいは下痢、腹痛などの腹部症状があり、その後1〜2週間ぐらいして急性に神経症状が発現し、1ヵ月以内に症状が完成し、以後しばらくプラトーの状態が続き、その後3ヵ月〜1年で徐々に回復し、多くは単相性の経過をたどります。神経症状の中心は、弛緩性の運動麻痺で、深部腱反射は早期より消失します。顔面神経麻痺、嚥下障害、構音障害、深部感覚障害、自律神経症状(不整脈、洞性頻脈、血圧の変動、発汗異常)を伴う場合があります。

 臨床型として、急性脱髄型と急性軸索型があり、急性脱髄型は比較的予後は良好です。急性軸索型は、グラム陰性桿菌(Campylobacter jejuni、 Penner 19型)感染が前駆することが多く、血清中に抗ガングリオシド抗体(GM1、 GD1a)が出現し、症状は重症で回復が遷延することが多い。

 治療としては、血漿交換(免疫吸着)療法(プラスマフェレーシス)、高ガンマグロブリン大量静注法などが行われています。

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 日本では10〜20歳代の男性に多い様です。ウイルス感染症(感冒)、ワクチン接種、外科手術後あるいは悪性腫瘍に伴って起こる場合があります。

診断

 左右対称の運動麻痺が両下肢から始まり、次第に上肢に及び四肢麻痺に至ることが多いようです。感覚障害はないか、あっても軽微です。症状は4週間以内にピークに達した後、2〜4週後に回復し始めることが多いようです。回復は概ね良好ですが病初期より運動麻痺が高度なもの、呼吸管理を要するほどの呼吸筋麻痺をきたしたもの、回復期までの期間の長かったものは永続的な運動障害を残すことがあります。また、頻脈、不整脈、高血圧、膀胱直腸障害などの自律神経障害も見られ時に重篤な自律神経障害が死亡原因となりうるので注意が必要です。

CT、MRI画像では、異常を見いだせません。


■診断のポイント
(1)四肢、特に下肢末端の左右対称性脱力
(2)深部腱反射の消失、低下
(3)しびれの訴えはあるが、通常感覚症状はない
(4)時に脳神経麻痺、中でも両側性顔面神経麻痺を伴う
(5)尿失禁はない

■移送の判断基準
 時に数時間の経過で下肢麻痺が急激に四肢麻痺、呼吸筋麻痺に進行するLandry型上
行性麻痺が見られることがあり、本症を診て呼吸不全の兆候があれば、直ちに人工呼
吸器を備えICUのある医療機関に移送するのがよい。

■症候の診かた
1)前駆症状・事象
 非特異的ウイルス疾患が2/3にみられ、サイトメガロウイルス、EBウイルス、さら
に最近では病原体Campylobacter jejuni感染後に本症が発症することが知られてい
る。

2)発症様式
 下肢脱力が数時間で急激に上行し四肢・呼吸麻痺をきたすことがある。

3)神経症状
 急激に進行するが4週以上は続かず、プラトーに達した後2〜4週で回復が始ま
る。
[1]運動麻痺
 下肢末端に強い左右対称性弛緩性四肢麻痺で、約半数に両側顔面麻痺、5%以下で
外眼筋麻痺を認める
[2]感覚障害
 自覚症状としてはあるが他覚的にはみられないか、あっても軽度である。
[3]腱反射
 上下肢で低下・消失している。
[4]自立神経症状
 通常括約筋は障害されず、尿失禁はない。頻脈、不整脈、起立性低血圧がみられる
ことがある。

■検査とその所見の見方
1)髄液
 発症1週以降あるいは経時的検査で蛋白上昇がみられ細胞増多は10/mm^3以下に止
まる(蛋白細胞解離)。髄液のIgGの上昇がみられる。

2)臨床神経生理検査
 2本以上の運動神経で伝達速度が遅延(正常の80%以下)か1本あるいはそれ以
上で伝導ブロックあるいは時間的分散がある。また2本かそれ以上の神経で末梢潜時
が延長するかF波消失あるいは潜時の延長がある。知覚神経伝導速度は正確である。

3)血清検査
 ウイルス抗体価(サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)をペア血清で検索、抗
ガングリオシド抗体、特にGM1抗体の測定を行う。

■確定診断のポイント
 本症の診断基準
1)四肢の一肢以上の進行性対称性筋脱力で発症後2週で約半数は極期となり、大多
数は4週までに進行が停止する。
2)腱反射の消失あるいは低下
3)脳神経のうち、顔面神経麻痺は約50%にみられ、しばしば両側性、他に外転神
経、迷走神経なども傷害される
4)知覚障害はあってもわずかであり、尿便失禁はない
5)自律神経症状として、頻脈、不整脈、起立性低血圧、高血圧、血管運動性症状な
どがみられる。
6)回復は通常進行停止後、2〜4週で始まる。

■鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
 急性に発症し、電気生理学的に同様な所見を呈す脱髄性ニューロパチーに次の疾患
があり、鑑別を要する。
1)急性間欠性ポルフィリン症
2)ジフテリアニューロパチー
3)鉛中毒による橈骨神経麻痺
4)糖尿病性ニューロパチー

■なかなか診断のつかないとき試みること
 鑑別診断について検索し除外診断をした後、診断のつかない時には、経時的に髄
液、血清検査を繰り返すことが必要である。

■予後の判定
 電気生理的に脱髄に基づく伝導ブロック、時間的分散ではない軸索変性を示唆する
M波振幅低下が初期からみられ、針筋電図で特徴的神経原性変化がみられれば、
Feasbyらの軸索型の本症亜型が考えられ、予後は悪い。

■治療のワンポイントメモ
 現在有効性の確立された治療法は血漿交換療法のみである。しかし本邦で行われる
二重濾過血漿交換法、免役吸着法は実際には二重盲検でその有効性が確立されていな
い。一般に発症後7日以内に血漿交換が開始された症例で効果がよくみられる。副腎
皮質ステロイド、パルス療法もその有効性は二重盲検で確立されていない。免疫グロ
ブリン大量静注療法も効果のあることがある。

■さらに知っておくと役立つこと
 本症の発症メカニズムを理解する上で、最近になり判明してきた抗ガングリオシド
抗体(抗GM1抗体)の存在がある。先行感染として急性腸炎を呈す病原体
Campylobacter jejuniが知られるようになり、この病原体をもつリポ多糖体がGM1ガ
ングリオシド様構造(GM1ガングリオシドーシス)をもつため、神経繊維の構造成分
とその抗原性を共通にするため。病原体交叉抗原に対する抗体が神経繊維を障害する
と考えられる。

■治療方針

1。治療の原則
 複数の対照試験により有効性が確立されているものは、単純血漿交換法だけであ
る。二重濾過血漿交換療法、免疫吸着療法の有効性は対照試験による立証がなされて
おらず、いずれも第一選択ではない。
 ステロイドはパルス療法も含めて有効性は否定されており、使用してはいけない。
 オランダにおける対照試験で免疫グロブリン大量静注療法の有効性が示されたが、
他のグループの追認を待っている段階であり、現時点では有効性は確立していない。
 入院時軽症であっても、急速に進行して呼吸不全に陥る激症例や、回復が遷延した
り、機能障害を残したりする患者も少なくないので、漫然と経過を観察するの厳に慎
み、入院後速やかに単純血漿交換療法を開始する。

2。単純血漿交換療法

 60〜100mL/分程度の安定した血液流量を得るために、ダブルルーメンカテーテル
を大腿静脈に穿刺する。ダブルルーメンカテーテルは、脱血、返血を同時に行うこと
ができ、長期間の留置が可能である。抗凝固剤として、血漿交換開始時にはヘパリン
2000〜3000単位を用い、持続注入量としては20〜40単位/kg/時間を用い
る。血漿分離膜としてプラズマフロ−OP−05などを用いて、1回につき50mL
/kgの血漿を処理し、同量の5%アルブミン溶液を補充する。(新鮮凍結血漿は決し
て用いてはいけない。) 隔日で計7回施行するのが標準的である。
 軸索型guillain-barre syndrome患者で経過が遷延することが予想される場合、
(月7回まで保険適応が認められているので)治療が2ヶ月にまたがれば、計14回
施行できる。あるいは、血漿交換7回施行後に免疫グロブリン大量静注療法を追加す
る。

3。二重濾過血漿交換法

 血漿分離膜で分離した血漿を孔径のさらに小さな血漿濾過膜に通して、アルブミン
などの低分子量成分はできるだけ体内に戻し、免疫グロブリンをより選択的に除去し
ようとする方法である。原理は理想的だが、実際にはアルブミンを相当量失い、IgE
も十分量除去できない。
 二重濾過血漿交換法を行う際には、IgE抗ガングリオシド抗体を除くために、アル
ブミンの損失は増えても、カスケードフローAC−1730などのIgEをより多く除去
できる血漿濾過膜を選択する。結局は、単純血漿交換法に近づくことになる。血漿処
理量、回数は単純血漿交換法に倣って行う。

4。免疫吸着法
 血漿分離膜で分離した血漿をさらにトリプトファンカラムに通すことにより、IgE
クラスの抗ガングリオシド抗体を高率に除去できる。患者によっては高力価のIgMク
ラスの抗ガングリオシド抗体を有し、トリプトファンカラムによるIgM抗ガングリオ
シド抗体の吸着能力は高くないので血漿交換療法の方が望ましいが、アルブミン溶液
の補充を必要としない利点がある。血漿処理量、回数は単純血漿交換療法に倣って行
う。抗ガングリオシド抗体の吸着能力が劣るフェニルアラニンカラムを使用してはい
けない。
 一方、guillain-barre syndromeの亜型Fisher症候群やBickerstaff型脳幹脳炎で
は、ほとんどの患者でIgG抗GQ1bガングリオシド抗体が上昇するので、トリプトファ
ンカラムによる免疫吸着療法のよい適応である。

5。免疫グロブリン大量静注療法
 発熱、出血傾向、血圧不安定、血管確保不能などの理由により血漿交換が出来ない
場合に施行する。

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Q: 「Guillain-Barre症候群の治療法で、血漿交換は有効ではあるが、アルブ
ミン製剤の補充などを必要とし、アれは副作用があるため現在では免疫吸着法が
用いられている. 」( 朝倉p1949 右) とあるのですが、『 year note』には血漿交
換だけで、この方法は載っていません. 最近は使われていないのでしょうか?ま
た、ひょっとしてもう現在の主流は、免疫グロブリン静注療法なのでしょうか。

A: 現在は免疫吸着法の方が血漿交換より広く行われています。

予想される予後
・目然治癒
 リハビリなどで2〜~3ケ月で元に戻るのが大多数(一般に予後良好)
 どんどん悪くなり、ある時期が来たら、ふっと良くなる。など
・呼吸麻卑
 呼吸筋麻卑、球麻卑を呈した場合

(今日の診断指針第4版&治療指針1997版より)



カウザルキア
カウザルギー

CRPS
Complex Regional Pain Syndorome

 幻肢痛とも言い、外傷などで肢や手指を切断した場合、もしくは末梢神経を断裂してしまいもはや肢の感覚が脱失している状態にもかかわらず、あたかも手指が実在し、同部に異常なしびれや焼け付くような痛みを感じる病態。難治性で、大脳皮質電気刺激などが有効な場合があります。

セネストパチー(体感症)

 奇妙な異常体感を主徴とする病態で、cenesthopathieと呼ばれます。慢性幻触症・皮膚寄生虫妄想などと記載されることもあります。

 分裂病などの部分症状とする見解もありますが、長期にわたり妄想など他の症状が出現せず経過する症例もあることから、独立した疾患概念とする考えがあります。単純なしびれと表現される感覚よりも、表現しがたいような異常な感覚を主徴をすることが多い。  

   出典:治療 2001.6

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 カウザルギーとはギリシャ語で「灼けつくような痛み」

 従来、外傷など、明らかな基質的損傷を伴う慢性神経因性疼痛をカウザルギーと呼んでいましたが、1994年に国際疼痛学会で概念が生理・再定義され、現在ではCRPS typeIIとしています。

 CRPS typeII →カウザルギー

 CRPS typeI →従来、反射性交感神経異栄養症と呼ばれていた疾患
          RSD:reflex sympathetic nerve dystropy

<CRPSの定義>

1.外傷などの侵害刺激やギブス固定などの動かさない時期があったこと(CRPS typeI)、また四肢の比較的大きな神経の損傷があったこと(CRPS typeII)。
2.原因となる刺激から判断して不釣り合いなほど強い持続痛、アロディニアあるいは疼痛過敏現象があること。
3.病気のいずれかの時期で疼痛部位に浮腫、皮膚血流の変化、あるいは発汗の異常のいずれかがあること。
4.もし上記の症状が他の理由で説明できる場合には、CRPSとはいわない。

 2〜4は必須

<治療>

神経ブロック療法、電気刺激療法、温冷交換浴、レーザー療法

※ 薬物療法

 抗うつ薬〜三環系のトリプタノール錠が第一選択。うつ病に処方するよりも低用量で短期間に効果が発現します。(10mg/日から開始、症状に応じて数日感覚で増量)

 他の三環系、四環系、SNRIは使うが、SNRIは一般的に使わない。(基本的にはノルアドレナリンの再吸収阻害作用を持つ薬剤が有効)

電撃的な痛みには、テグレトール錠が有効、メキシチールが有効な場合もあり、最近ではNMDA受容体の拮抗薬であるケタラールの少量与薬が有効との報告もあります。→ケタミン療法

慢性化した強いアロディニアを呈する症例は非常に治療抵抗性が強く、精神的変調や元来の性格素因により、ハルシオン錠、アモバン錠などの超短時間型の入眠導入剤への依存性が多く認められます。そのような症例では過量に処方しないことが大切です。

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治療 2003.7